Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
とある日の午後。場所はイーラの書斎。
「はい、今日の分の書類です」
「はいお疲れさま! いや~……しかし早いわね、イオン君、事務処理……」
イオンによって提出された書類の束を受け取ったイーラは、それに不備が無いかどうか確認しながら感嘆する。
1日分のつもりで出した仕事だが、イオンにかかればこの程度、2時間ほどだ。
もっとも……希少種&賓客であるはずの『純系』に仕事を頼む、というのも、フェルガルド基準ではかなり常識はずれなのだが……そこはそれ、イーラは2人の性格を知っているので気にしない。それにそもそも……『ただ飯食らいは嫌だ』ということで、アイク達の方から言ってきたことなのであるし。
「さて……と。じゃあ、今日は……もう無いわね、頼める仕事も……」
「そうなんですか? ん~……手持ち無沙汰だな……」
「くすっ……変なの。わざわざ仕事をほしがるなんて……」
そう笑いつつも、現に今、イーラがイオンに回せる仕事は無い。
ちなみにアイクとユキは、オッドの馬車の護衛で町に出ているため、屋敷にはいない。
話し相手も特にいないか、と考えたイーラは……自身の仕事が一区切りしていたこともあり、休憩にしよう、とイオンに持ちかけた。
そしていつも通り、返事を待たずに奥からティーセットと茶菓子を持ってくるのだった。マイペース、ここに極まれり。
まあ、イオンも特に断る理由もないということで始まった茶の席で、イーラはふと、アイクとイオンに伝えようと思っていたことを思い出した。
「そういえばさ……イオン君、領主様から……あなた達あてに手紙が届いてたわよ?」
「? 領主様って……エラさんからですか?」
「うん。何でも……」
そこでなぜか、イーラはいたずらっぽい笑みを浮かべると、
「『ハーレムの話、少しは考えたか』……だってさ」
「う……」
忘れようとしていた単語が再び耳に届き、イオンは珍しく顔をしかめる。
現実世界基準ではかなり卑猥な、後ろ指差されそうな部類の単語にだが、口にしたイーラ自身に動揺の様子は見られない。
それもそのはず……フェルガルドでは、『純系』はハーレムを持って当たり前なのだ。
性刺激による男性ホルモンの放出量増加や、それによる筋肉やペニスにおける肉体的成長……などといった近代的な医学的見解にこそ乏しいものの、この異世界にも『男は女を意識すると男らしく育つ』とか、そういう類の見解は存在する。
それゆえに、存在意義が『精液を出す』というものである『純系』は、男として……雄としての機能を低下させるわけにはいかない。ゆえに、いつでもその助平心と性欲を満たし、むしろより高めることができるよう……ハーレムを持つのが普通なのだ。
「と、いうわけで、よ。まあフローネとしても……アイク君とイオン君には、きっちりハーレムを作ってもらったほうがいいことはいいのよね……」
「ん……そう言われましても……」
イオンとしては、いきなりそんなことを言われても、困る以外の選択肢が無い。
現実世界でも、身の回りにそんなものは無かったし……まあ、性に興味があったというのは本当だが、そんな、いつでも抱ける情欲の発散口をつくろうなどとは思わなかった。
そもそも……現実世界では、接待で先方が用意した娼婦を抱く程度だったし……自分から抱いていた女といえば……ユキくらいのものだ。そのユキは、兄と共通の恋人だが。
「まあ、イオン君はまじめだし、抵抗あるのもわかるけどさ……でも……」
「? 『でも』……?」
「ミリスは……私の妹は、きっちり抱いたんでしょ?」
「……っ!」
とたんに気まずそうな顔になるイオン。
それはそうだ。このフローネでも、サイミールでも……ミリスとは何度も肌を重ねた。それを指摘されては……返す言葉が無い。しかもサイミールでは……彼女の親友であるアリアをも抱いている。
そのことを、他でもないイーラ……彼女の姉に言われているのだ。……もっとも、そのイーラは別に気にしたようなそぶりは無いが。
「あははっ、顔赤っ。別にだからってどうこう無いわよ。本人達の問題だし……あの子も……けっこう嬉しそうにしてるしね」
言いつつ、イーラは紅茶を注ぎ足す。本当に何も、とがめるつもりは無いらしい。
と、今度は思いついたように、
「! そうだ、よかったら……ミリスをイオン君のハーレムに入れちゃえば?」
「は!!?」
今度こそ紅茶を吹き出しそうになったイオンだったが、ギリギリながら飲み下した後だったので事なきを得た。
それよりも今は、姉とは思えないとんでもない言動を言ってのけたこの女性。
「ちょ……何言ってるんですか!? み、ミリスさんを……」
「あははっ、顔赤いってば! もう……ホントに熱あるんじゃないわよね? ちょっとだけ心配になっちゃったわよ?」
「言ってる場合ですか! あ、あなたね……実の妹さんを『ハーレムに入れれば?』なんて……何とんでもないこと言ってるんです!?」
むせる一歩手前の、なかなかこんな様子は見られないイオン。イーラが少し心配になるのも、なかなかどうしてうなずける。
「まあ……確かに姉としては少し不謹慎な発言だったかしらね、ごめん。でも……」
「『でも』……?」
経験上、この人の『でも』の後にはろくな言葉が出てこないため、いささか緊張気味な雰囲気を保ったまま、紅茶は口に含まずにイオンがは待っていた。
が……
「ん~……やっぱいいや。これ、後は当人達で話し合うべき問題よね。うん、話終わり!」
「は!?」
結局そのまま、イーラはその先を聞かせてはくれず……休憩は終わった。
☆
まったくもう、などとつぶやきながら……イオンは小川に来ていた。
ミリスの家の近くを流れているこの川は、水浴びにはもってこいの場所なのだ。
風呂を沸かすのにも薪からやらなければならないこの世界では、汗をかいたからといって簡単に風呂に入れるわけではない。もっとも、都会のほうにはそういった関連の術を使える術師もいるようだが……このあたりにはいないとのことだ。
イオンは別に汗をかいたわけではないが、気分転換目的で、よくここに来る。
今も、下の肌着一枚で川の水をバシャバシャとかぶり、頭を冷やしている。
「しかし……ハーレム、か……」
ぽつり、と口を突いて出る、最近自分を悩ませている単語。
それが『純系』としての役割や勤めの類の1つであるならば、従うべきなのかも知れない。臨機応変……そう言ってしまえばそれまでだ。
が……アイクとイオンの考え方には、明らかに反するものがある。
ハーレムの存在は、古い時代からさまざまな意味を持つ。性欲の処理場所としてももちろんだが……自分の強大な力の顕示、人望の自慢など……上げればきりが無い。
妾めかけを多く囲うということは、それだけ……男にとって意味のあることなのだ。
が……尊敬の対象となるわけでもない。むしろその存在により……傲慢さや助平としての認識を強められるだけ……といっても過言ではない。
何より、性欲のはけ口とするためだけに女性を囲っておくなど、『純粋に嫌』だ。
と、ここでイオンは、どうしたものかと考えるうちに……かつて父親に言われた言葉を思い出していた。
まだ、2人が小さかったころ、父親が母親のほかに、愛人を抱えているということを子供ながらに知った時に聞かされた話……だったはずだ。
☆
『父さん、なんで愛人なんか持ってるんだよ! 父さんには母さんがいるだろ?』
『それって、浮気……ですよね? お母さんがかわいそうですよ!』
齢8歳……このころから、アイクとイオンの口調には性格が表れていた。
それを聞く1人の男……アイク達と同じ藍色の髪をオールバックにし、がっしりとした体つきの、アイク達の父親は……やれやれ、とでも言いいたげに、
『ああ、まあ……世間一般的にはそうだろうな。けど、母さんは別に気にしない、それでもいい……っていってるぞ?』
『……!? 何だよそれ!? 父さんと母さん、お面夫婦だったのか!?』
『兄さん、それを言うなら、仮面夫婦』
『バカ言うな、父さんと母さんは今でもラブラブだ』
そして、その父親が言うことには……
『いいかアイク、イオン、よく聞け? 一般に愛人をもつことがよく思われないのはな、その奥さんが……自分へ向けられる愛がなくなっちまう、と思うからだ。わかるか?』
『……それで?』
『だったら……同じように愛してやればいいんだ。別に、誰か一人の女性しか愛しちゃいけない……なんて決まりはないだろ? 1人に決められないことだってあるさ。だったら、偏りを作らずに……2人でも3人でも同じだけ、全力で愛を注いでやればいい』
『……お母さんは、それを?』
『ああ、それでいいって……っつーかそもそも、その俺の『愛人』だけどな、その彼女のことも、母さんは父さんと同じように大好きなんだ。だから、一緒に、同じように父さんに愛してもらえるんなら、もっと幸せ……って言ってくれてる。俺って罪な男?』
『……それで……いいものなんでしょうか?』
『いいかどうかは……場合によるさ。独占欲の強い女ってのもいるしな。けど……』
と、そこで父親は一拍置いて、
『お前らが将来、どういう道を進むかは知らねーが……もし仮に愛人ができるようなことがあっても、俺は一向にかまわねえ。だがそん時は、全員平等に、全力で愛してやれよ?』
『全員を……?』
『平等に……?』
『ああ。想夜家の家訓にもある……っと、お前らにはまだ教えてなかったっけか』
ま、いずれわかるさ、とだけ言い残して……その父親との会談は終わったのだった。
☆
「平等に、ね……」
(もしかしたら……今のコレがまさに、それに当てはまるのかな……?)
水を浴びながら、イオンがそんなことを考えていると、
「あ、イオンさん、ここにいたんですね」
「! ミリスさん?」
振り返ると、どうやらイオンを探してきたらしいミリスが岸に立っていた。
とっさに布か何かを探そうとしたイオンだが……すぐにやめた。
ミリスとは何度もセックスして、お互いの裸を見ている中だ。いまさら……パンツ姿で恥ずかしがるというか、遠慮するのもおかしいだろう。
ミリスも同じ考え方のようで、少し赤面しつつも、イオンがあらかじめ持ってきていたタオルを手に取り、すっと差し出した。礼を言って受け取ると、イオンは体を拭いた。
「お姉ちゃんがまた何か変なこと言ったみたいで……すいません、イオンさん」
「あ、いや、その……お気になさらず。いずれは直面する壁ですし」
「はぁ……」
言いつつも、ミリスはやや申し訳なさそうな顔だ。
そしてイオンの方はと言うと、やはり若干気まずい。さっきの話で、イーラの口から『ハーレムに入れれば?』などというとんでもない提案を聞かされているわけであるから。
もっとも……イーラがミリスに、『その発言』のことまで話したのかどうかはわからないが……当然、そんなことをここで話題にするわけにもいかない。
イオンが何か話題を探していると、ここでミリスのほうから……予想外の話題が飛んできた。
「その……でも、イオンさんって……ハーレム、作るんですよね?」
「…………はぁ、なんだか……そういうことになってるみたいですね」
よりによってこの話題か、とイオンはため息だ。
「なんだか、領主様は……公募をかけるみたいなことをおっしゃってましたけど、イオンさんたちは断ってましたね?」
「そりゃまあ……嫌ですからね。そんな不純な目的のために、女性を募るなんて……」
ハーレムとはそういうもの、と言われればそれまでだが、アイクとイオンはもとより『そういうのが嫌』なわけであるから、気にしない。
第一、そこに集まる女性など……腹の内は知れている。
イーラに聞いた話では、『純系』がハーレムを構える場合、それは公的に必要な施設だとされ、全面的に公的な支援がされるらしい。
全ての必要経費は公金によって負担され、さらにそこに入る女性たちは……その主である純系の庇護の元、契約が続いている限りはずっと楽に、贅沢に暮らせる。豪華な家に住み、衣食住全てに不自由なく、だ。
挙句、主の純系のレベルにもよるが……さまざまな特権を手に入れられるらしい。まさに玉の輿……というわけだ。
ましてやアイクとイオンは純度10。その特権もさぞかしよいものがつくのだろう。
それを考えれば、仮にエラの言うとおりに厳しく選抜を行ったとしても、何人もの綺麗どころがそろうのだろうが……同時に彼女らは、玉の輿目当ての連中であることは目に見えているのだ。
そんな筋の通っていない女達をそばにおいておきたくはないし、第一……性欲のはけ口にでも、抱く気にはならない、というのが率直なアイクとイオンの考えなのだ。
「はぁ……。でも、そうなると……どうやって探すんですか? どの道……ハーレムは作らなきゃいけないんですよね?」
「それは……まあ、おいおい……考えますよ」
(はぁ……それにしたって、ハーレムに入れるような女性なんて、探すのも……)
体を拭き終えたイオンは、タオルをミリスに返す。
そして、脱いでおいた服を着ようとすると、
「あの……イオンさん……」
なぜか遠慮がちな声音で、ミリスはイオンに尋ねる。
「何です、ミリスさん?」
「お姉ちゃんがちらっと言ってたんですけど……その……イオンさんのハーレム候補の中に……私って、入ってるんですか?」
「!!?」
(ちょっ……やっぱりだけど、何言ってんですかあの人はっ!?)
やっぱり言ってたのか、と予想はできたものの、あいにくインパクトと気まずさを殺すことはできない。
ミリスは、言ってから恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤だ。が、それでも、その聞きたい内容もまたミリス自身の本心のようで……上目遣いになりつつも、目を逸らすようなことはしなかった。
どう答えたものかと、イオンはそれなりにあせって考える。
「そ、その……ですね……。ミリスさんのことは決してそんな、ハーレムとか、不純な目で見てるわけじゃ……ないですよ? いや、まあ、魅力的だとは思いますけど……ミリスさんだって、そんな……嫌でしょ?」
セックスはしてるのに不純も何も言えたものだろうか、と自分で自分に突っ込みつつ、イオンは一応そう答えておいた。
するとそれを聞いたミリスは、
「えっ……? つまり、その……」
「?」
「イオンさん、もし……私がよければ、私をハーレムに入れたい、ってことですか?」
「そ、それはその……」
正直なところ、そういう欲望が全く無いわけではないが……イオンの脳内には、ハーレムを作る、という計画そのものの実感自体が無い。ゆえに、ミリスが魅力的だというのは本音も本音だが……いまいち、どう答えるべきかわからないのだ。
妙な誤解を与えないためにも、正直に心情の説明はしつつも、今のところは未定……とでも言っておくしかないのだった。
すると、
「あの……じゃあ……」
聞こえるかどうかギリギリと言ってもいい、微妙な声で言うと、
――――――トンッ
「え……?」
何の前触れも無く……ミリスは、まだ服を着ていないイオンの胸元に飛び込んできた。
そのまま……離れようとしない。
そして、
「その……ハーレムに入れるかどうかは……味見してから……決めてもらえませんか?」
「あ、味……見……?」
この状況、この言葉……それらが何を意味するのか……考える必要も無かった。