Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「おいおいおい……ちょっとは賢い子だと思ったんだがなあ……おじさんの勘違いだったか?」
ぎゃはははは、という下品な笑い声の中で、困ったように山賊の頭がつぶやく。無論、今の藍句のセリフを聞いて、だ。
後ろには、不安そうに震えて困惑しているミリスがいた。
しかし今のセリフ、藍句は伊達や酔狂で言ったわけではない。
藍句はもともと様々な武術を習っていた。空手や柔道、剣道といったメジャーなものから……少林寺拳法やカポエラ、CQC(=戦場格闘技)まで多岐にわたる武術を修めているのだ。年齢の関係から段位こそ大したことは無いものの、その実力は達人級である。
加えてその身分(大企業の御曹司)から、昔からよからぬ輩に狙われることも多かった。
たいていはSPが相手をしていたが、学校など、その手が及ばない部分では、その拳足でもって自力で撃退していたのだ。喧嘩はわりと得意である。
なので、人数こそ不利ではあるものの、藍句には一応勝算も自信もあった。
(こいつら、腕力はありそうだけど……たたずまいからして、武術やってる感じじゃねーしな、うまくやれば何とかなるか……)
構えを解かない藍句に対し、どうやら付き合う気も失せたらしい頭は、藍句の近くの手下2人に『やれ』と顎で合図する。
その部下が、藍句の死角となる位置から棍棒を振り上げた瞬間、
「……そらっ!」
バキィ! ズドッ!
「ぐあ!?」
藍句はそれをかわし、振り向きざまに裏拳を叩き込む。
同時にその隣の男には、びっくりしている間に鼻の頭に拳を叩き込んだ。
「ぎゃあ!?」
倒れる男2人の手から、すばやく棍棒を奪い取り、両手に構える。
「よっし、武器ゲット……んでもって!」
ひ弱に見えた少年の突然の反撃に、山賊たちは戸惑っていた。
そのスキを見逃さず、藍句はさらにたたみかける。今倒した二人の後ろ……すぐ近くにいた連中の1人に棍棒で一発お見舞いし、さらに隣のもう1人には、顎にハイキックを入れる。2人とも脳震盪
を起こし、崩れ落ちた。
「これで4人……と」
そこまでやると、藍句はミリスの隣に戻った。正気に戻った山賊たちに、彼女を人質にされるのを防ぐためだ。
その懸念は当たった。今の数秒の間の出来事をようやく理解したらしい山賊たちの間に、一気にどよめきが走る。
「な……何だ今の!?」
「コイツ強いぞ!? 4人もやられちまった!」
(やっぱりこいつら戦闘訓練は受けてねーな……どこぞの農民上がりとか、か?)
人数が減り、藍句の顔にも幾分余裕が戻る。
一方で……ミリスは相変わらずパニックのままだ。どうやら……今の事態に頭がついていっていないようである。
「え? え?? あ、藍句さん!? あなた……」
「あーまあ、聞きたいことは後で聞くから、今は静かにしててな?」
藍句はそうきっぱり返し、棍棒を構えなおす。ミリスがまともに話せそうでもなかったためと……山賊たちのどよめきが怒号に変わりつつあったためである。
案の定、彼らは仲間がやられた衝撃から立ち直り……今度は敵意をむき出しにしていた。
「畜生、このガキ!」
「やっちまえ! 殺せ!」
多分その『殺せ』ホントにそういう意味なんだろうな……と考え、少々げんなりする藍句であるが、まあそういう経験は前にもあるのでどうにか冷静さは保てる。
残りは6人。一応全員棍棒という武器を持ってはいるが、それは藍句も同じだ。
護身術にたけ、今では中途半端なSPなら居ない方がマシと言えるほどに戦える藍句。彼にとって、6人という人数は、ヤンキーで考えれば、凶器を持っていてもどうにかなる人数だ。けがは多少す
るかもしれないが……負ける要素はない。
しかし、ここで予想外の事態が起きた。
「ふん、すこしはやるらしいな。だが……出て来い!」
「……っ!?」
そう山賊の頭が声を張ると、次の瞬間……茂みの中に隠れていたらしい、さらに多くの山賊たちが姿を見せたのだ。その数……およそ30人。
合計40人フラットの山賊たちが、藍句とミリスを取り囲む形となった。その全員が、先ほどの光景を目に、藍句に対して敵意をむき出しにしている。
「やっべ……」
「あ、あわわ……」
「おやおやボウズ、さっきまでの威勢はどうした?」
他の者達と比べれば幾分落ち着いている印象を受ける山賊の頭が意地悪く笑う。これで自分達に負けはなくなった、と確信しているからこその笑み。
そして実際それはまちがいではない。いくら藍句でも、この人数を相手に戦うのは無茶と言うものだ。
加えて……新たに出てきた連中の手には、ちらほらと刃物が見える。ナイフや……ファンタジーの世界でしか見ることがなさそうな、サーベルなどまでも。
いくらなんでも、棍棒で応戦しようというのは無理だ。場慣れしている藍句にはすぐにわかった。いや、誰でもそう思うだろうが。
「さぁ〜て……もう一度聞こうか小僧。大人しくしていれば……まあ、先に殴った奴らには多少殴られるかも知れんが……極力手荒なまねはしないぞ。どうする?」
「どうする、って……」
こういう場合、降参するのが上策だと藍句は知っている。営利目的の誘拐である限り、大人しくつかまれば手荒なまねなども最低限防げるし、脱出のチャンスもうかがえるのだ。
しかし、そうするにしても問題が2つある。1つはもちろん、自分がさっき反撃してしまったこと。そしてもう1つは……
ちら、と藍句がミリスの方を見ると、先ほどに輪をかけて震えているミリスの顔。パニックもさらに増していると見て間違いない。
このミリスが一緒では……山賊のアジトに連行された後、脱出の機会が来ても2人一緒に逃げるのはかなり難しいだろう。藍句1人の方が、はっきり言って動きやすい。
加えてミリスは女、さっきの会話から考えても、アジトに連れて行かれたらその時点で何をされるか……。
「あ……藍句さん……」
「さあ、どうする!?」
しかし再度の問いかけ。もう待ってくれる気もなさそうだ。ここでもたもたしていては、どの道連れて行かれる。かといって、藍句1人でどうにかなる状況でもない……。
藍句が苦渋の二者択一を迫られていたその時
「当然……却下で」
「「「え?」」」
突然の声。
その場にいた全員がきょとんとする。
と同時に……藍句たちを囲む山賊たちのうち、一番外の列にいた山賊の1人が声も無く崩れ落ちた。
「「「!?」」」
突然の出来事に全員が身構える。そして、倒れたその男の後ろから現れたのは……
「伊恩!?」
「伊恩さん!?」
「もぉ……またなんだか面倒なことに巻き込まれてるし……」
呆れたような表情で立っている弟・伊恩だった。
おそらく後ろから当て身か何かで気絶させたのだろう。予期せぬ3人目の敵の来訪に、山賊たちに動揺が走る。
「な、何だコイツ!? 何した!?」
「男のほうに似てるぞ……もしかして兄弟か何かか?」
そんな中、藍句は驚きと同時に、少しの安堵を覚えていた。
普通に考えれば……こんな状況の中に1人飛び込んできたところで、一緒につかまるだけだ。2人が3人に増えるだけ、40人相手にどうしようもない。
しかし……そこはこの切れ者の弟のこと。何か考えがあってのものだ、ということが藍句にはわかる。
「……おい、お前さん……誰だい?」
「さあ、誰でしょうね」
挑発的なセリフを返す伊恩。その態度に、頭が少々のいらつきを見せる。
「それよりもですね……山賊の皆さん、僕のことなどよりも、あなた方にお伝えしておきたいことがあるんですが」
「あ? 何だよ?」
と、不機嫌そうな顔で手下の1人が返す。
しかし……その顔は、次の瞬間伊恩が放ったセリフに貌を崩すこととなる。
「ええ。今、町の自警団が出した部隊がこちらに向かって来てましてね? もうすぐここに、100人ほどの部隊を引き連れて到着しますよ?」
「「「!!?」」」
目に見えて、盗賊たちの間に動揺が走る。当然だろう、伊恩のもたらした報告は、彼らにとってかなり都合が悪いものだ。
彼らの今回の作戦は、そういった警備部隊に対策の時間を外させる目的もあったのだ。作戦通りなら、彼らが山賊に目を光らせて山道の警備に入るのは(入るとすれば、だが)、夕暮れ時以降の予定だったのだ。
しかし……この目の前に現れた少年は、今正にそれが始まっているという。
本当なら聞き捨てならないことだ。頭はすぐに手下の1人に、偵察に出るよう言った。
「……お前の差し金か?」
「ええ。僕が滞在している所に今しがた『山道に夕方に山賊が出る』なんて情報が届きましてね? まあ、察しの悪い人なら引っかかるでしょうが……僕は騙されませんよ」
つまり、藍句たちが引っかかってしまったあの偽情報を、伊恩は看破したという事だ。そして、逆にその対抗策として、自警団にこのことを密告した……。
(ナイス、伊恩……)
弟の働きに、藍句も心の中で賞賛を送る。
「そうか……頭がいいな、少年」
「それはどうも」
「さて……そうなれば話は早い、お前たちをさっさと捕まえさせてもらおうか」
言うなり、部下達に武器を構えさせた。
ひっ、とミリスが息を呑む。
「おや、いいんですか逃げなくて? もうすぐ自警団の人たちが来ますが」
「君のその情報が嘘と言う可能性もあるだろ? それに、100人なんて大人数で来るなら、いくらなんでもすぐには来ないさ。どちらにしろ……ここで手早く君たち3人を捕まえるくらいの時間はある」
「あー……そういう考え方ね……」
まあ、こうなるかもしれないことも藍句には予想できていた。この作戦を考えたことから考えて……この頭、そのくらいの頭脳はありそうではあるし。
こうなると、伊恩と協力しつつ逃げるか、自警団の到着まで持ちこたえるか……の2択だろう。どちらも、かなり難しい気がするが……
しかし、ここで諦めてはどの道最初と変わらない。
藍句が覚悟を決めて、伊恩と並んで立とうとした瞬間、
「兄さん、ここは僕が。兄さんはミリスさんを守ってください」
「「「は?」」」
全員にとって予想外のセリフが伊恩の口から出た。
山賊含め全員がそうだが……一番驚いたのは藍句だ。何せ今、目の前の弟はこの人数を1人で相手をする、と言ったのだから。普通に考えれば、無謀かバカのどちらかでしかない。
ミリスに至っては……いや、あまり変わっていないが(パニック)。
「……仕方ないな……。お前ら! さっさと全員捕まえろ! 多少の怪我はさせてもかまわんが顔は傷つけるなよ、商品は見栄えが命だ!」
「「「へい!」」」
「ちょ、伊恩!? お前、どうすん……」
だよ、と言う前に、伊恩は藍句の口元を掌で押さえた。
そして、切れ者の弟とはあまりにかけ離れた予想外の対応に困惑する兄に、伊恩は小声で……静かにこう言った。
「……やっぱり兄さん、気付いてませんね?」
「は?」
「そうですか……なら、そこで見ててください、話すより、実演したほうが早いので」
それだけ言って、イオンは走ってくる山賊たちに向き直る。
そして次の瞬間、
「……ふっ!」
ドゴゴゴッ!!
「「「!?」」」
一瞬で接敵すると、一息に拳を閃かせ、一度に3人の山賊を吹き飛ばした。
続いて、その横から飛んできた棍棒を蹴飛ばしてかわし、さらに跳び蹴りで2人同時に仕留める。
そして着地の瞬間にも裏拳を放ち、さらに1人を倒した。
ここまでおよそ3秒間の出来事。どう見ても……人間技ではない。
「「「……!!?」」」
その場にいた全員に動揺が走る。一瞬にして6人もの仲間を沈められた山賊たちは完全に勢いを殺されていた。
「ちょ……伊恩!? 何だ今の!?」
驚いた藍句がたずねる。すると伊恩は、少し得意げに返してきた。
「……兄さん、あのとき、あの女神さまが言ってたセリフ、覚えてます?」
「へ? 女神って……」
「ロローラさんですよ。ほら、最後に言ってたでしょ? 『あなた方に力を授けましょう、その世界で生き残り、戦うための……』」
「えっと、その先たしか……『紙面の上の幻想を……現実にする力を……』だったっけ? もしかして、それが今のヤツなのか!? 意味よくわかんねーけど……」
「それも今見せますよ。いいですか……」
そして伊恩は、再び山賊たちに向き直る。
そして、
「契約執行! 魔力充填……『想夜伊恩!』!」
「は!?」
呟くと同時に、凄まじいスピードで前方に飛び出す。一瞬にして伊恩は数メートルの距離を跳び、向かってきた手下の1人に飛び膝蹴りを入れて吹き飛ばした。
そのまま体をひねって着地し、残る2人にそれそれアッパーと正拳突きをたたきこむ。2人とも小さく呻き声を上げた後、ピクリとも動かなくなった。
「な…」
「す…すごい……」
ミリスも、他の山賊も、その早業に口をあんぐりである。
しかしただ一人、藍句だけは別の理由で驚いていた。
「ちょ…お前……お前、それってあの…」
藍句の脳裏に、向こうの世界で読んだある漫画が思い出される。
詳しくは思い出せないが、そう……たしかそのマンガに、今、伊恩がつぶやいたのと同じ『呪文』が出てきたはずだ。
その考えを読みとったかのように、伊恩は藍句に返す。
「今……兄さんが考えている内容で間違いないですよ? ……マンガに出てきた『身体能力強化魔法』で」
呼吸を整えながら、得意げに伊恩が説明する。
やっぱりか、と納得すると同時に、藍句はやはり不自然な印象を受けた。
藍句の記憶の限り、その『呪文』はたしか、唱えた者の身体能力を強化し、人間離れした動きを可能にする技だったはずだ。しかし、それはあくまでマンガの中の能力だったはず。紙の上だけの空想の力が、現実の世界(と言っていいか正直微妙だが)で使えるわけがないのであって……。
(ん? 『紙の上』……!?)
と、ここで藍句はようやく気付いたようだ。女神の……あの言葉の意味を。
紙面の上……すなわち、文字通り紙の上。
そこにある『幻想』を『現実』にする……すなわち、そこにしか存在しない空想を、現実に使える……という意味であろう。
砕いて言えば、『紙の上のフィクションを、ノンフィクションで使えるようになる』……という意味だ。
それが示すところは、そして今の伊恩の行動から推察できるその結論は……
兄が気づいたというそれを悟り、伊恩は笑う。そして言った。
「そう、つまりあの『紙面の上の幻想(略)』って言葉の意味は……『アニメとか漫画とかの技や能力を、自在に使えるようになる能力』ってことだったんですよ!」
「は…はは……」
あまりに予想外の真実に、藍句はまたしても言葉を失った。理解するのに、やはり少々時間が要りそうだ。
その隙を察してか、
「くそぉ! あのメガネのガキ強ぇぞ! まずもう一人の方からやれ!!」
頭の怒号が飛び、一斉に手下たちが藍句に殺到する。
「あ……アイクさん!!」
後ろの方から、自分を心配するミリスの声が聞こえた。だが
「それならそうと……」
藍句はその声には目もくれず、
「早く言えよこのヤロー!!」
ギュルルッ、ドガガァッ!!
目にもとまらぬ速さで体を反転させて一撃目をかわし、大上段の飛び回し蹴りで一度に2人を吹き飛ばす。
……言わずもがな、伊恩と同じ技を使って。
今まで押されていたはずの藍句が見せた凄まじい動きに、またしても伊恩以外の全員の思考が止まる。
その間に藍句は目の前にいる男の足を払い、落ちてきた体の鳩尾に膝を打ちこむ。その男の体を別の男に突き飛ばして怯ませ、その隙に顎にハイキックを入れる。更にその脚をそのまま後ろに回して「後ろ回し蹴り」にし、真後ろにいた1人を仕留める。何とも容赦ない連撃で、藍句は数秒の間に4人を再起不能にした。
「「「ええええええええ!? こ……こいつもなのか!?」」」
得意げな顔を見せる藍句を前に、手下たちの顔がこわばる。さっきまでのこの子供は、動きこそいいものの、その気になれば簡単に倒してしまえると思える程度のものだった。しかし、今はそういった考えは微塵も出てこない。
藍句はと言うと、
(すげー……。スピードやパワーが上がっただけじゃねー……。相手の動きがさっきよりはっきり見えるようになってる……)
強化魔法により、身体能力のみならず、神経伝達までもが大幅にパワーアップしたことに驚き、それを半笑いという形で露骨に表情に表していた。
それを見たイオンは、
「全く、こういうことには適応早いんだから兄さんは……。ま、この場合は嬉しい誤算ですけど」
そう、悟ったようにつぶやいた。
この力の正体を悟り、知り、裏山で練習していた自分と違い、藍句は完全に今初めてこの力を使ったはずである。普通なら『何でこんなに上手く……』と疑問に思うところだが、伊恩にはさして不思議でもなかった。こういう兄だとわかっているからだ。
ゆえに伊恩は何も言わず、ミリスに下がっているように合図を出し、兄のもとへゆっくりと歩みを進める。藍句はそれに気付いて振りかえる。
「っはッ!! イオンこれ俺らマンガの主人公みたいじゃね!?」
「もうこの際その心構えで行きましょう、兄さん」
2人足並みをそろえて立ち、山賊たちを見据える。その目には、
もはや迷いも恐れもなかった。対し て、彼らの顔からは……数の利から来る余裕が完全に失せている。
頭の口調にもまた、今までの理性的な口調は無くなっていた。
「畜生ォ!! どこまでもバカにしやがって……やっちまえ!!」
その恐怖をごまかすかのような怒号とともに、手下たちが大挙して飛びかかってくる。
「「『契約執行!』!!」」
二人は声をそろえてそう口にし、先程と同じように二手に分かれた。しかし、今度は戦力の分散が目的ではない。
目にもとまらぬ速さで展開した二人は、手下たちの視線がこちらに向くより前にそれぞれとび蹴りで1人ずつ仕留めた。
次いで伊恩はいったん飛び退り、藍句はさらに相手に肉薄して肘を叩き込む。
「野郎!!」
一瞬で仲間を二人倒され、逆上した男が藍句に殴りかかる。さっきまでの藍句ならかわしただろう。
しかし、藍句はそれをたやすく受け止め、
「おらァ!!」
「ぐはあっ!!」
逆に相手の急所を蹴りあげて悶絶させる。
と、
「痛てっ!?」
ズキン、と藍句の頭に重い痛みが走った。一瞬怯んだ隙に飛んできた拳をどうにかかわし、藍句は伊恩のところへ飛びのいた。
「……痛〜……何だこれ? 頭痛いんだけど」
「ほら、マンガでも……使いすぎると反動で体にダメージ食らってたでしょ?」
「あ、それでか……」
不意に襲ってきた頭痛の正体を、伊恩が説明してくれた。先程、伊恩が攻撃を受けていないはずの頭を押さえていたのはそういうことのようだ。
藍句は不機嫌そうに頭をさすりながらぼやいた。
「ったく……変なとこで不便な能力だな……」
「そこはほら、やりすぎないように注意するしか……」
「だな。まあ、『使わない』って手もあるが……」
「え?」
と、藍句が何か思いついたように言った瞬間、
「全員でかかれ!!」
頭の雄たけびが響き、残りの手下たちが一丸となって襲ってきた。
それを見た藍句はにやりと笑って、一瞬で横に回り込んで正拳突きの構えをとる。
しかし、なぜだろう。ただの正拳突きではないような気がする。
もしかすると、今の『使わない』発言と何か関係があるのだろうか……と、伊恩が考えたその時、
藍句の右の拳が赤く光り……
「『ファルコンパンチ』!!」
ヒュオッ、ドゴオオォォン!!
繰り出された正拳突きは鳥を模した形の炎をまとい、数人をまとめて吹き飛ばした。
「うわっ!? ゲーム技!?」
伊恩もまた、今の技に驚いている。紙面の上と言いつつもゲームにまで対応してくれるとは、何とも親切な能力だ。
「ははは……思った通りだ。ゲームの技も使えるぜ!」
「なるほど……よし、なら僕も!」
対抗するかのようにイオンは気合を入れ、空中高く跳躍する。
すると、その体に黄色の火花が散り始めた。それは一瞬で伊恩のから全体覆うほどに増え、次の瞬間炸裂した。
「『10万ボルト』!!」
バリバリバリバリバリッ!!
強力な電撃となった光が手下たちに着弾する。手下たちは高圧電流のショックで声も出せずに崩れ落ちた。
30人以上いたはずの手下達が全滅して唖然とする頭に、挙句の果てに属性攻撃系の『術』まで使って見せた(少なくとも彼女にはそう見えた)2人に驚きを隠せず硬直するミリス。
「ぜ……全員やられちまった……っ!? ち……畜生!! メチャクチャだこいつら!!」
あわてて一目散に逃げ出す頭。
ポケモンの技かよ、と伊恩を茶化していた藍句がそれに気付き、伊恩に何事か囁く。伊恩は、やれやれ、といった風なそぶりを見せた。
そして、
「ひっ!?」
凄まじい速さで二人は山賊の頭の前に回り込む。
硬派な正義の味方などなら、『深追い無用』とでも言って見逃すのかもしれない。
しかし、2人はまだまだやんちゃ盛りの高校生。そんなマナーは知らない。
「じゃ、俺放出係な」
「了解。僕は調整ですね」
何事か言葉を交え、お互いの掌を向き合う形でかざす。すると、その間に青い光の球が形作られる。その内部では、凄まじいエネルギー……もとい、チャクラが渦巻いていた。
2秒程度で形になったそれを引っ提げて、2人は勢いよく突進する。そう、これは、また違うマンガで使われていた、球体にした超高密度のエネルギーをぶつける技。
あまりにも強大なエネルギーを扱うのが困難なため、エネルギーを放出する係と、それを球形に調整し保つ係とに分業して行うこともあるその技は……
「ちょ……ちょっと待っ……」
「うっせぇ!!」
「くらえ!!」
「「『螺旋丸』!!!」」
ズドオォン!!
掛け声とともに、光球を叩きつけた。
見た目よりも遥かに強力な破壊力を持った秘伝忍術の直撃を受け、頭は声も出せずに吹き飛ばされる。
木の枝をへし折りながら何メートルも吹き飛び、やがて木立の向こうに落ちて見えなくなった。
それを見た2人は、この圧倒的に不利だったはずの戦いでの勝利を確信した。
「はーっはっはっは!! おととい来やがれゲス野郎!!」
ノリノリで勝ち名乗りをあげる藍句と、すぐこれだよ、といった様子の伊恩。
森の中にたたずんでいる二人の勝者。その緊張感に欠けそうな、しかし頼もしい姿を見て……未だ腰を抜かしているミリスは、ほっと溜息をついた。