Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
オールによる案内は滞りなく進んだ。
確かにアシルスは広い町だったが……それでも、観光地などを省き、最短ルートで視察を行う分には、何とかなる広さと距離だったからだ。厚意を無碍にしたくはなかったものの、一応この旅路の目的はビジネス……アイク達もそれで納得することにしていた。
海沿いの道を歩き、漁場の説明や干物作りの現場尚を視察し、その日の旅程は終わった。
そして今、アイク達は宿にいる。
オールが手配してくれた……組合の会議所にほど近い、かなり上等の宿屋だった。
きっちり4人分部屋を取っていてくれたのだが、そのうちの1つに……イオンとミリスは一緒に入っていた。
その理由とは、もちろん、うら若き男女には仕方のないもので…………
…………と、いうわけではなく
「この分だと……明日の馬車もお断りしたほうがいいですかね?」
「い、いえ、そんな……私一人のために、村長さんたちのご厚意を……ふいにするわけ……には……」
「それにしたって……その状態のあなたのセリフじゃあ、何の説得力も……」
とまあ、依然として体調が最悪のミリスの看病のためだ。
数時間に及ぶ山道(砂利道)の揺れのダメージが、思っていたよりも深刻なようだ。馬車でも、普通の道で短時間なら……それほど酷く酔うこともないのだが……。
乗り物酔いの吐き気そのものは収まったのだが……その前段階、とでも言うべきか、気持ち悪さ自体はまだあるらしく……視察の間も、終始集中できていない雰囲気だった。
今日の視察を日暮れ前に切り上げたのも……これが一因だったりする。
結果として今ミリスは、部屋着に着替え、リラックス……できているかは正直答えかねるが、ベッドに横たわって養生している。その傍らに、不測の事態に備えてイオンがつきそっている形だ。
「面目ないです……商談で交渉するのは、私なのに……」
「まあまあ、誰にでも弱点って言うのはあるものですから」
「はあ……。でもじゃあ、イオンさんとかにも、弱点って……あるんですか?」
「え? そりゃありますよ」
「たとえば?」
うつろなままの目で問いかけてくるミリス。
それに対し、イオンはあごに手を当て……
「たとえば………………………………………………」
そのまましばらく……黙った。
その沈黙の時間は……さらにミリスを落胆させる格好の材料となるのだった。
(あうう……やっぱりイオンさん、完璧すぎ……)
すると不意に、
こんこん
部屋の扉がノックされた。
「! はい?」
「あ、すいません……イオンさんですね? ウルカです」
「『ウルカ』君……ですか?」
ミリスに手で合図して、イオンは扉のほうへ向かった。
ドアを開けるとそこには、1人の少年が立っていた。
同い年くらいで、短めに切られた濃い群青色の髪に、日焼けして色黒く焼けた肌が特徴的。スマートながらもしっかりと引き締まった筋肉がついた体で……身長もイオンと同じぐらいだ。
昼間の視察にも同行していた彼の名は、ウルカ・レイモンド。村長・オールの息子で、現在修行中の漁師だそうだ。
もっとも、才能があるらしく……修行中の若手の中でも急先鋒で、腕前はすでに免許皆伝級だと言われているらしいが。
ユキとも仲がよかったらしく、いい人だよ、とユキが先程、思い出話の中でうれしそうに話していたのをイオンは覚えていた。
そのウルカが、なぜこの宿の部屋まで来ているのかというと……
「親父から、乗り物酔いに効く薬をもらってきたんで……どうぞ」
「え? あ、これはどうも、ご丁寧に……」
ウルカがそう言って、1つの包みを差し出した。どうやら中に瓶か何かが入っているらしい形状のそれは、現在絶賛ダウン中のミリスへの配慮らしい。
「色んな種類のハーブを混ぜてある薬湯です。お湯に溶かすだけの簡単な奴なんで、よかったらどうぞ。コレを飲めば、明日にはよくなると思いますんで」
「ああ……これはすいません、ご丁寧に……」
「いえ、外からのお客さんには、よくあることですから」
ウルカの言うとおり、このアシルスの町は立地条件上、外部から来る人が、来て早々乗り物酔いでダウンすることがよくあるのだ。漁場が優秀な代わりに、そこがきつい。
陸から来れば山の砂利道で、海から来れば船の揺れで、どのアクセスルートを使っても……乗り物に弱い人間には過酷過ぎる場所にある。もっとも……馬車なり船なり、乗り物を使わないと来れないくらいの位置にあるのだが。
十分な漁獲高を誇っていながらも、アシルスがいまひとつ成長しきれない原因の一端がそこにあった。
「あ、あと……」
「はい?」
「その……コレは……ゲリックさんから」
そう言ってウルカは、もう1つ包みを取り出した。
ゲリック……たしか、この村の漁業組いの副組合長……昼間にもいた、あの男だ。
大柄で……身長180cmあるかないか。がっしりとした体つきで、目は細く、頭にバンダナを巻いていた。漁師の間では、ユニフォームのようなものなのだそうだ。
「ハーブティーです。海の近くでしか取れない銘柄で……よかったらどうぞ」
「あ、重ね重ねどうも……」
再び一礼して、丁寧に包みを受け取る。
なるほど、アシルスの村……漁業だけに一辺倒、というわけでもないようだ。
これは商談にも期待が持てるな、とイオンは頭の中で考えていた。
「じゃあ、俺はこれで」
「ええ。商談についての詳しいことは……また明日ということで」
「そうですね。じゃあ」
そういってウルカは部屋を後にした……と、思ったら一度振り向いて、
「あ、そういえばその……ユキさんはどこに?」
「ユキですか? 彼女なら……」
と、そこでイオンは一瞬考えて、
「……兄さんの部屋で一緒に飲んでたと思いますけど……ああ、行かない方がいいですよ? 兄さん、絡み酒ひどいから。僕やユキは慣れてますけど……」
「あ、そうすか……わかりました」
言うと、ウルカは退散していった。
それを見送ると、イオンは再び部屋に戻り、もらった薬湯の用意をし始めた。ゲリックからだというハーブティーは、とりあえずしまっておいて。
ペースト状の「もと」をお湯に溶かし、煎じ薬の要領で薬湯にしていく。ほどなくして……湯は何か、体によさそうな悪そうな色に変わった。……味は、悪そうだが。
(まあ……こんなもんですかね)
一応毒見をした後、若干気が引けるが……それをベッドに寝ているミリスのところに持っていくと、やはりというかミリスはしかめっ面を返した。
目が露骨に『飲みたくない』と言っていたが……イオンは『未来の治癒術師が薬にビビッてどうする』との殺し文句(イーラ直伝)で無理やり納得させ、口をつけさせた。
直後、
「苦い、ですけど……なんとか飲めそうです」
との返事。
ハーブを使っているだけあり……薬湯独特の苦味はだいぶ緩和されていたらしい。この世界の薬の味の基準を知らなかったイオンだが、ほっと一息。
「イオンさんの精液だと思えば……この苦味でも何とか……」
「…………微妙な納得のされ方ですね」
正直なところ、時々とんでもなく大胆なことを言う彼女の取り扱いに、イオンはやや困っていたりする。まあ、嬉しくもあるが。
すると、苦悶の表情で半分ほどをようやく飲み干したミリスが、
「そういえば……ここにも聞こえてきたんですけど……アイクさんが絡み酒ひどいって、どういうことですか? そんなことなかった……っていうか、アイクさんもイオンさんもユキさんも、お酒……強かったですよね?」
彼女の脳裏には、酒を飲んで陽気になりつつも……よって暴れたりなど絶対にしなかったアイクの姿が映っていた。先程イオンが言っていたことと……矛盾する。
その問いに、イオンは……
「ええ、アレはデマカセですよ。ウルカ君を兄さんの部屋に行かせないための」
「え? 何で……ですか?」
「どうやらユキに会いに来たみたいでしたけど……今頃あの2人……ほら……」
「……! あぁ……それで……」
☆
そのころ、アイクとユキの部屋
「ったく……せっかく歓迎会してくれるって言ってたんだからよ……っ! お前だけでも、飲んでくりゃいいのに……」
「ミリスちゃんがダウンしてる時に、3人ゃ……ぁっ、1人だけで飲んでも、楽しくないわよ! 後で……みんなで、商談成立のお祝いでいいから……っくぅっ!!」
ベッドの上で腰を振るアイクに、バックの体位で突き上げられながら……ユキは喘いでいた。
イオンが、ウルカをユキに会わせなかった理由……単純明快、ユキとアイクがお楽しみの真っ最中だったからだ。
一応、周りの迷惑にならないように……部屋を選んで2人は交わっている。この部屋は角部屋で……右隣には部屋はない。左隣は……アイク達が借りている4部屋の1つで、空き部屋だから誰もいない。この部屋からなら、ミリスにも、他の客にも聞こえない。
「しかし……ここんとこ、俺ら2人で……イオンのことハブってばっかだな……。あいつ、機嫌壊してねーといいけど……」
「アイクじゃないんだから大丈夫よ。それに、イオンはイオンで……ミリスちゃんとよろしくやってるみたいだし……っ!!」
「ったく、嫌な納得のされ方…………ん?」
と、アイクは不意に腰を止めて……窓の外に目を向けた。
窓と言っても、カーテンが閉められているが。
「ど、どうしたの、アイク……」
快感を急に止められ、不満そうなユキが聞き返した。全身が汗でしっとりと湿り、快感で息も切れてきている。
そんな状態で予告もなく止められたのだから、違和感を覚えて当然だ。
「……寸止め? アイクにそんな趣味あったっけ?」
「いやその……なんか、視線を感じたような……」
「え?」
予想外の返事に、ユキも若干戸惑った。
アイクの勘は鋭く、よく当たる。今回のそれも、なんら根拠がなくとも、それに類するものなのだろうが……。
かなり聞き捨てならない内容だが……この部屋に、覗けそうな隙間など見当たらない。
カーテンは閉まっているし、ドアも鍵がかかっている。壁に穴もない。それはそうだ。そもそも……その対策も考えてこの部屋を選んだのだから。
しばらく警戒して、気のせいか……と納得したユキの心に次に浮かんだのは、やはり、途中でピストンを止められたことに対しての不満。
膣に力をこめ、ぎゅっと収縮させてアイクに不意打ちをかける。
「…………んおっ!?」
「ほらぁ……わかったんなら腰振ってよ!」
「わ、わかった、わかったって……よいしょっと」
「ん……ふああっ!」
ずちゅっ、ずりゅ……ずこずりゅぬるぶじゅっ!!
埋め合わせとでも言いたげに激しく腰を振るアイクのピストンを、ユキは膣で感じていた。このところ、ほとんど毎晩だが、やはり根本的に好きなのだ、全く飽きない。
何より……愛するアイクのペニスなのだから。
「はぁん、んぅ、やっ……もっとぉっ!」
「そういえばよ……ユキ……。お前この世界に来てから……世渡りのために、誰か有力者に抱かれた、って言ってたな? それ……ここの人か?」
「んっ、はあ……ち、違う、わよ……! 抱かれたのは、レインゲートに行ってからの……お偉いさん! ここの人たちは、みんな親切で……」
しゃべりづらそうだが、どうにか会話が成立していた。
「そう、かっ? ここの連中……特にあのゲリックと、ウルカって奴……結構エロそうな目でお前とミリスのこと、見てたけど……」
「もうっ! 勘は結構だけど……そういうこと……言わないの……くぅう――っ!」
セックスに雑談を交えながら……2人の夜は更けていく。
……カーテンに、僅かな隙間ができていることに気づかないまま……。
その後、いつもの調子で数回ユキの膣内に射精したアイクは、ユキと一緒にそのまま寝て、翌日また寝坊寸前でイオンにたたき起こされる羽目になるのだった。
☆
それと同じころ、その宿の近くの酒場にて、
漁師と思しき男達が……飲めや歌えの大騒ぎで夜をすごしていた。
豪快な彼ららしく、大きな声で騒ぎながら、次々に酒瓶を空にしていく。
「おう! 酒が足りねーぞ!」
「つまみもだ! もっとチャキチャキもって来い!!」
「はいはーい、ただいまー!」
と、その酒場のドアが……1人の男の手によって開かれた。
ほとんどの客達は気づかないか気にせず、視線もよこさずに飲み続けていたが、幾人かの男達が入り口を見ると、
「おう、ウルカじゃねーか!」
「ういっす! 皆さん、おそろいで」
手に何かを抱えて立っている、先程までアイク達の宿にいた、オールの息子で漁師見習いのウルカだった。
その抱えている包みにつけられているパッケージから……男たちは瞬時にその中身を把握し、目の色を変える。
「おおーっ! おいみんな、組合長んとこから紅べにサザエが差し入れで入ったぞ!」
「「「うおおおおおぉぉ――――っ!!」」」
とたんに男達のテンションが最高潮に上がる。
紅べにサザエと言えば、このあたりでも最高級の海鮮の1つ。漁で手に入るとはいえ、値段上、漁師達にはなかなか手が届かない高級食材だ。
おそらく、フローネとの交流ルート締結の前祝いのようなものだろう。思いがけずもたらされたご馳走に、男達は殺到した。
その喧騒の隅で……1人の男がウルカを手招きしていた。
「!」
ウルカもそれに気づき……その男の……ゲリックの下へ行く。
隅の席に座っているゲリックは、ジョッキいっぱいのビールを飲みつつも、あまり酔ってはいない様子だ。
「ご苦労さん、ウルカ! あんだけの紅サザエ……重くて大変だっただろ?」
「いえ、鍛えてますから、あのくらいは」
「そうかい。その調子で……明日も頼むぜ。わかってるよな?」
「は、はい……」
一瞬、なぜか緊張気味な顔になりつつも……ウルカはうなずいた。それを確認し、ゲリックはにやりと笑う。
そしてゲリックは人知れず店から出た。金は前もって支払ってあるため、問題ない。
残された、依然として不安そうなウルカの耳に……こんな会話が飛び込んできた。
「そういや……ユキちゃん、帰ってきたんだってな!」
「おお、そうらしいな!」
漁師達の間にも……フローネの純度10の純系の来訪……そして、それにともなってのユキの再来の報は広がっているようだ。
ユキは美少女といっていいかわいさであるから、当然……職場がむさくるしい漁師達の間では人気があった。人当たりもよく、人見知りせず……自分達のような強面こわもてにも物怖じしない……と。
そんな、誰も彼もがユキをほめる話題の中……
「あぁ……一回、ヤってみたいよなぁ、あの子と」
「……っ!!」
そんな声が聞こえてきて……ウルカは体を強張らせていた。
そんなことには気づかず、そして話の内容の卑猥さを特に気にせず……漁師達は話し続ける。そのくらい……全員に同じ考えだったのだ。
むさくるしい職場に突如舞い降りた一輪の花……その可憐な少女に、娼婦と妻以外に女に縁のない男達の下半身がうずいてしまうのも無理はなかった。
「おいおい、まだ子供だろ、ユキちゃん」
「いや、でも結構……成長アレな感じじゃんか。おっぱいも大きいし」
「ああ……ありゃ将来有望だよな」
「っていうか……今日来たもう1人の女の子も、結構な綺麗どころだったぜ」
「マジかよ!? うわっ、見てえ! っていうか、ヤりてぇ!」
すると……その中の一人が、ウルカが来ていたことを思い出すと……彼にこんな声をかけた。
「そういやよぉ……ウルカってたしか……ユキちゃんのこと好きなんだよな?」
「…………っ!? な……何言ってんすか!?」
「おおっ、お前そうなのかよ!?」
「いいねえ、青春だねぇ。俺らみたいなエロ精神とはやっぱ違って見えるぜ」
口々にからかいの文句が飛んでくるが……実際にそうである以上、ウルカはうまく言い返すことができなかった。
数ヶ月前に突然現れた、あの少女。誰とでも物怖じせずに話し、屈託のない明るい笑顔を浮かべる少女……男社会に生きてきた漁師達には、とてもいい清涼剤だったことだろう。
しかし……ウルカの心に刻まれた印象は違った。
初めて出会って、話して、笑って……その日から……ウルカは、ユキのことを忘れられなくなってしまったのだ。それは……ウルカが今まで感じたことのないものだった。
軟弱な考え方が許されない漁師の仕事場でもいつも頭から離れないその思いを……恋心だと認識するのに、時間はかからなかった。
「おうおうウルカ……がんばれよ、俺達が言えた義理じゃねえけど」
「はははっ、今までエロい妄想散々してきたからな」
「ああ、俺なんか脳内で何度あの子と寝たか」
「うわ、気持ちワル」
と、話題が恋愛を絡ませてきても一向に猥談をとめない漁師達。
そんな卑猥な会話だが……ある男が一矢を投入するととたんに残念そうなムードになる。
「やめとけやめとけ、その2人……ユキちゃんともう1人の娘……噂だけど、ユキちゃんも含めて、今日来た『純系』の愛人らしいぜ?」
「「「ええぇえ~っ!? マジかよ!!」」」
落胆する漁師達。舌打ちする声も聞こえる。
「ちぇっ、狙ってたのに……結局お偉いさんに持ってかれるのか……」
「まあ、ユキちゃんはそいつらの幼馴染だって話だし……しかたないか」
「あーくそ、あきらめきれねえ!」
「あきらめろバカ。こんなこと話してるってその『純系』さんに聞かれたら、俺達ただじゃすまねえかもだぞ。ウルカも……残念だったな」
そんな会話が繰り広げられている隅で……
「…………愛人、か……」
ウルカは、誰にも聞こえなそうな小さい声で、ぽつりと……そして、悔しそうな顔でつぶやいていた。
その脳裏には……
……先ほど、窓からカーテンの隙間を使ってのぞいて見た……アイクとユキのセックスシーンが映し出されていた。
そう……アイクの勘は、当たっていたのだ。
そのウルカは、何か考えるところでもある様子で、テーブルにおいてある酒を自分も飲んでいた。