※この作品はR-18です。

Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~   作:破戒僧

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第44話 イオンの推理

 その翌朝のこと

 シルスの町に残っているアイクとイオンは……事態の急変を重く受け止め、一堂で組合の集会所に会していた。

 部屋には、アイクとイオンのほかに……組合の構成員数名、警察組織の関係者数名、それに……オールと、その妻と思しき女性がいる。

「では……聴取内容を確認します。昨日夜、ここを出発した貨物輸送用の馬車が、襲撃によって襲われた……。被害は、納入するはずだった真珠……大小500個。それに……商隊の人間のうち2名……ゲリック・ゲートルード氏、ウルカ・レイモンド氏、そしてそこに乱入した、ユキ・マーキュリー氏の3名が行方不明……と」

「はい……。な、なんということだ……っ!」

「息子を……ウルカを助けてください、警備隊長!」

 オールは頭を抱え、その妻は警察組織の人間に涙ながらに懇願している。無理もない。たった1人の息子が……凶悪な事件に巻き込まれて姿を消したのだから。

 組合の他の人間も……同じようにうなったり、どうしたらいいんだ、などと悲痛な声を上げている。

 そしてそこに追い討ちをかけているのは……少々不謹慎だが、盗難にあった真珠の被害だろう。アシルス産の上質で、高く売れるそれは……今回の被害総額は、少なく見積もっても数百万ドル以上……日本円で数億円から十数億円……にのぼるといわれている。

 そんな状況の中……アイクとイオンは、静かに座って事態を見守っていた。

 が、静かに……といっても、アイクのほうは目に見えて機嫌が悪い。というか……まとっている空気が違う。言わずもがな……ユキのことが頭の中にあるからだ。

「…………っ…………!」

 アイクの口元からは、ぎりっ……と歯軋りをする音が聞こえる。

 その横にいるイオンも心中は同じだったが……頭の中で起こっていることが違った。

 今まで集まった証言や、現在のこの状況を頭の中で整理し……何か手がかりにつながることはないか、と……凄まじい速さで頭を回転させている。

 心中はアイク同様、沸騰寸前だ。しかしイオンはそれに蓋をして、考えることに集中している。それが……めぐりめぐって、ユキを救うことにつながる、と考えて。

(不自然な点が多すぎる……なんで盗賊は、それだけの真珠の輸送が一度に起こると、しかもそのルートとタイミングまで知ってたんだ……? 仮にそれが偶然だとしても……それだけの代物、売りさばくには相当苦労するはず……少なくとも、騒ぎがある程度収まるまではブラックマーケットにも出せない……だとしたら……)

 しばらく考えて……矛盾点をまとめたところで、イオンは、

「……兄さん、もう一度……現場に行ってみましょう」

「わかった。オールさん、ちょっとここ空けますんで」

「あ、お……お二人とも? い、今、現場は我々警備隊が捜査中で……」

「『純系』の使える特権の中に、捜査介入権がありましたね? 我々の身内が巻き込まれている事件ですので、該当基準を十分満たしています。それを行使します」

「あ、はい……」

 事前に勉強していた『純系の特権』を大義名分に、2人はその場を後にした。

 ……が……現場には行かず、隠れるようにして路地裏に行く。

 話を……誰にも聞かれないためだ。

「で、どうするんだイオン?」

「ええ……まあ、後で現場にも行くかもですが……まずはこの事件のおかしな点を解明しないといけない気がします」

 おかしな点? とのアイクの問いに、イオンは指を折りながら、

「まず……僕が『過去視サイコメトリー』で見たのは……ウルカ君とユキがつかまるところです。ゲリックさんは捕まってなかった……」

「? 見えないところで捕まったんじゃねーか?」

「それにしたって声も聞こえないのは変です。というかそもそも……ウルカ君の『記憶』だと、馬車襲撃時にすら、ゲリックさんの姿も声も確認されないんですよ」

「…………なんだと?」

 イオンはペンダントを通して、ウルカ達の馬車が襲われた場面を見た。ペンダントからは、襲われる商隊や、ウルカの心の緊張までもが伝わってきたが……その中に、今回失踪者の3人目として名前が挙がっているゲリックは、いなかったのだ。

 ただ一応……ゲリックの名前は、今回の移送に携わるメンバーとして登録されていた。そうなれば、同様に巻き込まれたと考えるのが普通だが……実際にその現場を『視た』イオンには、ゲリックの不在が逆に不自然だ。

 そうなると……ゲリックは、同じ日に、予定だった馬車の搭乗を蹴って、そして別件で失踪した、ということになるのだが……こんな偶然があるだろうか。

 そして、盗賊たちの用意の周到さ、キャラバン側の警備の薄さとあいまって……脳内に1つの仮説が立つ。アイクもまた……同時にそこに思い当たる。

「……まさか……あの野郎……?」

「ええ……おそらく、グルかと」

 そうなると……話は違ってくる。

 ゲリックが今回の首謀者だとすると……その目的はおそらく、盗賊に襲わせた真珠を売りさばいた金の、分け前だろう。相当な額が懐に入るはずだ。

 しかし、それはそれでイオンは疑問を持った。

「けど、それをさばけるのは、事態が沈静化してから……ん?」

 と、横を見ると……さっきまで隣にいたアイクが、姿を消していた。

 イオンは少し驚いたが……兄の性格から、行き先には見当がついたので、放っておくことにした。帰ってきたときには……おそらく、いい土産を用意してくれているはずだ。

 と、その時、

 なにやら組合所のほうが騒がしくなったのをイオンは聞きつけた。

「……? 誰だ……こんな朝早くから……」

 気になって、イオンは見つからないように注意しつつ、屋根の上にのぼる。そしてそこから、組合所前の広場の様子を伺った。

 そこには……なにやら、どこかの企業のものらしい馬車が止まっていた。

 今日、商談か何かをする予定の企業だろうか、とイオンは予想した。おそらく……この事態であるし、それも延期にならざるを得ないだろう、とも。

 ……が、

 その馬車に描かれている『企業名』を見た時……事態は変わった。

 それは……

「……? ええと……『盗難保障』……っ!? まさかこの事件……」

 瞬間、イオンの頭が冴えた。

 

 ここから数分、イオンは考える。

 すると、それがまとまったころ、

 

「ただいま」

「あ、お帰りなさい兄さん。早かったですね」

 ついさっき姿を消したばかりのアイクがもう戻ってきた。

 異常な早さだ。魔力を使った、自作の高速移動術でも使ったのだろうか? いくつか実験しているイオンには、かなりの高等技術だとわかるが……今のアイクならやりかねない。実力的にも、テンション的にも。

「ああ……まあな。ほら、持ってきた」

そう言ってアイクが差し出してきたのは……指輪だった。

「ゲリックとかいうおっさんの私物だ。そいつン家行って特権ひけらかせて、捜査してる連中からパクってきた」

「ご苦労様。さて……僕からも報告がありますよ。アレ見てください」

 イオンが指差した先には……企業の馬車。そのロゴを見たとたん……アイクの顔色が変わる。

 ただし……イオンとは別の理由で、だ。

「『バリゲ盗難保障』……あぁ!? バリゲ!?」

「? ……ご存知で?」

「ご存知も何も……いや、後で話す。んで、アレが何なんだ?」

「……短い話じゃないんで、宿に行きましょう」

 

   ☆

 

 宿に着いたあと、イオンはアイクと……呼び寄せたミリスも交えて、早速話し始めた。

 ミリスは、先にアイク達が立てた『ゲリック裏切り説』を言っておいた。そのせいだろう、少々ショック気味だ。

「最初僕らは、勘違いをしていました。この事件、ゲリックさんの動機は……最初、何だと思っていましたか?」

「盗品の真珠をさばいた金……の分け前だろ?」

「ええ、でも……それだけじゃなかったんです」

「は?」

「えっ……?」

 アイクの顔が『どういうことだ?』といったものになり……ミリスも、さっき聞かされた話に驚き続けているようだが……イオンの次の言葉を待っている。

 そのイオンは、ゆっくりと……言葉を選びながら、

「この事件のおかしなところは……確かに、ゲリックさんのところに入る利益は大きいものの……そこにいたるまでに時間がかかりすぎることです。確かに真珠は上質で、売れば金になりますが……この騒ぎが沈静化するまでは、いくらなんでも売れません。ブラックマーケットに流しても、足がついてしまう恐れがあるからです」

 そこで切って、

「そしてもう1つ。それより先に、真珠を失ったアシルスの被害額が大きすぎて……アシルスの経済が大変なことになりますよね?」

「それは、まあそうだが……」

「あっ……確かに、そこ考えると……ゲリックさんにはかえってマイナスになるんじゃ……?」

 そう、イオンの引っかかっていたのはそこだ。

 被害額が大きすぎて……放っておくと、ゲリックのみならず……アシルス全体にとって経済的に大打撃となる。

 無論、ゲリック自身もただではすまない。公的に……それこそ、汚したくない自身のプライベートに、何らかのダメージが残るはずだ。

「高飛びするつもりなんじゃねーか? 素性を隠して」

「それはないかと。あくまで『誘拐の被害者』として警察に認識されていることにも目的があるようですし……第一、素性を隠してなんて、コレ以降の生活は逃亡生活同然になってしまいます」

「じゃあ、なんでゲリックさんは……こんなハイリスクなことを?」

「そこで、表に止まってた……あの『バリゲ盗難保障』の出番です。さっき聞いたんですが、ゲリックさんは最近、法人名義であの会社に加入していたそうなんです」

 と、いうことは……と、アイクとミリスがその『盗難補償』の意味と、今回の事件をくっつけてかんがえて……はっとした。

「ひょっとしてコレ……『保険金詐欺』でもあるのか!?」

「ええ、これなら……被害額をそのまま公金で補填できますから。しかしそれだけじゃない……保険会社の動きが早すぎることを考えると……おそらくそこの重役、もしくはトップがゲリックさんとグルです」

「被害額の大きな盗難被害は、自治体から保障会社を通じた公金で……しかも手数料込みで入りますよね……。それだと……それがそのまま被害の補填になって、手数料は会社の着服金に……」

 そういうことだ……。

 つまりこの計画は……ゲリック、盗賊、そしてバリゲ卿……この3者が協力して、互いの利益のために行った、全くの狂言強盗だったわけだ。3者は不正な真珠の売り上げを、バリゲの会社はさらに手数料を手元に溜め込み、私服を肥やすことができる。

「それに……連中はさらにもう1つ、あくどいことを考えています」

「? まだ何かあるのか?」

 アイクが聞き返すと、イオンはおもむろにポケットから……1つの小箱を取り出した。

 中には……昨日、サンプルとしてもらいうけた……真珠が入っている。

「その真珠が……何か?」

「これ、よく見ないとわからないんですけど……粗悪品です。おそらく……今までに出荷基準に達していなかったものを、ゲリックさんが保管してたんでしょう」

「え!?」

 ミリスは耳を疑った。

 なぜ……アシルスの公共の倉庫に、粗悪品……正確には、商品としての基準に合格しなかった分の真珠が、保管されていたのか。

「それが何で公共の倉庫にあったんだよ? ばれたらまずいブツだろ?」

「おそらく、これは単にミスでしょう。間違ってあそこに運んでしまった……と考えるのが自然ですが……問題は、『間違って混同してしまうほどの量』の粗悪真珠がある、ということです」

「……もしかして……それを、今回の騒ぎに乗じて、一気にブラックマーケットに流して……?」

 ミリスがぞっとしたようにつぶやく。

 アシルスの真珠盗難被害……そのニュースが広がれば、ブラックマーケットに突然大量の真珠が流れ込んできても、その利用者達は『あの事件の盗品か!』と思い込み、われ先にそれを買っていく。上質なアシルス産真珠だと思い込み……粗悪品とも知らずに。

 つまり、ゲリックらはブラックマーケットすらもだまして金をせしめるつもりなのだ。

 しかし、その大量さゆえに……ミスが生じ、一部が誤って公のルートで流通してしまった。イオンがもらったサンプルや……2人は知らないが、ナズナが見た真珠も……それだ。

「とんでもねえ悪党だな……」

 嫌悪感むき出しでアイクがつぶやく。

 と、ふと……アイクは、自分が奪取してきた指輪のことを思い出す。念のため、イオンにその『記憶』を確認するように進めた。

 イオンもうなずき、その指輪を手に取る。

 そして、自身の仮説の決定的な裏づけのために……『視』た。

「『過去視サイコメトリー』……!」

 目の前に……予想していた通りの展開が広がる。

 

……と、その時、

 

「………………っ!?」

 

 イオンの目が……驚きに見開かれた。予想外のものが……見えたからだ。

 大方は……間違っていなかった。ゲリックの陰謀……大量の粗悪な真珠……盗賊や、バリゲ卿との密会……それらが見えた。

 しかしその中に……予想外のことが映っていた。

「お、おい……イオン?」

「イオンさん!? 何が……見えたんですか!?」

 2人の声が聞こえる中で、イオンは急いで頭の中を整理していた。

「そうか、そもそもユキの乱入は完全なイレギュラー……それならもともとはウルカ君は……そういう狙いもあったのか、あの男、どこまで悪なんだ……っ!」

 顔をしかめて言うイオンは、そして……ふと気になったかのように、

 

 

「けど……誰だ? あの……『カナ』って子……」

 

 

「カナだと!?」

 と、コレに反応したのは……アイクだ。

 忘れようもない。ショートの黒髪に、優しい性格の……健気な少女。

 無理もない。アイクは、サイミールであの少女と関係を持ってから……今までずっと、手を尽くして探していたのだから。

 その反応を見て、イオンも……兄が探していた女の子だと思い出した。

 その女の子は……奴隷の身分で(奴隷制度が本来存在しないため、そもそもが違法なのだが)、バリゲ卿とゲリックの管理下にあったのだ。

 そして、そのアイクが沸騰寸前になっているそばで……イオンは今『視』たもうひとつの事実を頭を浮かべていた。さほど大きな問題ではないが……コレは少々、アシルス側にショックが大きい。

「周到、と言うほかありませんね……まさか、こんな手まで打っていたとは……」

「ヤロォ……孤児院潰した上に、カナたちを助けるどころか……そんな目にあわせてやがったのか……!」

「と、とにかく……どうしましょうアイクさん、イオンさん!? は、早く対処……こ、このこと、警察に話して……」

「いえ、正攻法の捜査ではおそらく間に合いません。ここは……力技で行きます」

「…………え?」

 おおよそ、冷静なイオンにはあまり似合わないセリフだ。

 が……幻聴でもなんでもなく、イオンは実際にそれを口にしており……

 その目には……横にいるアイクと同じくらいの怒気が見て取れた。

 唖然とするミリスに、イオンは『ここにいてください』と言い残して、アイクと共に部屋を出た。しかも、窓から。

 そして、そこから屋根に上る。

 見ると……いつの間にか、かなり時間がたっていて、日が昇ってきていた。時刻は……午前10時前といったところだろうか。

「じゃ……行くか」

「ええ。バリゲ『卿』……爵位持ちが相手では、警察を動かしてもかわされるだけです。これ以上長引かせてもいいことはありませんので、ここは……」

 そこで一度切って、

 

 

「とっつかまえて締め上げて直接聞き出します」

「おうよ、わかりやすくていいぜ」

 

 

 直後、想夜兄弟は凄まじい勢いで地を蹴り、走り出した。

 

   ☆

 

 そのころ、盗賊のアジトでは、

「おら、入れ」

「あぅ……痛……っ!」

 どさっ

「……ん……?」

 昨日一晩で盗賊達の相手が一通り終わり、解放されてから体力回復のために寝ていたユキは……その物音で目を覚ました。

 床に……誰かが倒れるような音だ。

 誰か、新たにこの牢屋に入れられたのだろうか……と思って、状況に似合わずまだポジティブな精神を保っているユキが目を開ける。

 犯されたときの状態のままなので、ユキは全裸だが、部屋に備え付けられていた毛布をかぶっているため、寒くはない。

 首を動かして声の主を探すと、そこには……

 

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

 

 満身創痍の様子の、見知らぬ黒髪の美少女が……力なく倒れていた。

 

(…………誰?)

 

 この少女の名前が『カナ』というのだ……ということを、その数分後、ユキは知ることとなる。

 

 

 

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