Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
激動の一夜から明けて……今は午前9:00。
場所は……アイク達の宿の食堂。
……ここで、先程目を覚ましたアイクは……遅めの朝食をとろうとしていた。
いや、目を覚ました……という表現方法は好ましくない。ユキと一緒に裸で寝ていたところを、イオンにたたき起こされた……と言ったほうがいいからだ。
まだ眠り足りなかったアイクはイオンに抗議したが、用事があるのは事実であるため……1時間後に始まる事情聴取と現場検証に向け、まずは食事をとりに来た。
ちなみにユキは……事情聴取その他の用事は全て午後以降に入っているので、二度寝しており……一応寝巻きに着替えた上で、今はベッドの中だ。無論、部屋の前には警護も立っている(確実にユキのほうが強いが)。
学ランの上着を脱いでYシャツ姿のアイクが食堂に入ると、ほとんど人はいなかったが……そこで何やら……メニューを手に悩んでいる少女に出くわした。
それは、まぎれもなく……
「お、カナ、もう具合大丈夫なのか?」
「え? ……わ、わっ! あ、アイクさん!? じゃなかった、アイク様っ!?」
と、アイクを見つけるなり、驚いてイスをひっくり返しそうになるカナだった。
アシルスから公的に支給されたものと思しき、清潔なシャツとズボンを着ている。アイクが知る服の種類の中では……ポロシャツが一番近いデザインだ。
「おいおい『様』はよせって。知らねー仲じゃねーんだから」
「け、けど、そんな、恐縮すぎて……そ、それよりも、あの、サイミールではすいませんでした! 『純系』の方とは知らず、あんな、私なんかの体でお金を……」
「よせこらお前、真っ昼間から規制かかりそうな発言は」
昼日中から猥談に等しい発言をしようとする彼女を制しつつ……アイクはよりによって彼女と同じテーブルに座る。ただでさえ緊張しているカナはさらにぎょっとしていたが、アイクは無視して自分もメニューを手に取り、ウェイトレスを呼ぶ。
「これとこれとこれと……あとこれと、これ。それとオレンジジュースを瓶で1つ。大急ぎで頼むわ」
「はい。えっと、そちらの方は……」
「え? わ、私はじゃあ……パン、とか?」
「…………はい?」
カナの言葉に、店員は意味がわからない、といった顔になる。アイクはそこで、カナが今までどういった境遇で生きてきたかを思い出したため……代わって適当に注文した。
☆
「お、おいしいです……コレっ! こんなご馳走、初めて食べました!」
「あ、そう……そりゃよかった」
脂のたっぷり乗った肉が挟まったサンドイッチをほおばって、感激で泣きそうになっているカナを見て、とりあえず元気そうだな、とアイクは安心していた。
カナがレストランで注文することに慣れていなかったため、アイクが変わりに注文したのは……サンドイッチとミックスジュース。それにデザートのタルトだ。
一方……アイクが注文したのは、肉料理を中心にしたスタミナのつきそうなメニュー数種類。さらにコンソメスープに、大盛りのサラダ、そして一升瓶の倍ほどの大きさのビンに入ったオレンジジュースだった。
そして余談だが……アイクは食事に、自前で持ってきた『箸』を使っている。
しかも、その食事の半分以上は……すでにアイクの腹におさまっている。
「アイクさんって……いっぱい食べるんですね……。お腹壊しませんか?」
「ん? ああ……なんか今日はすげー腹が減っててな」
確かに……普段のアイクの食事量は……普通と同程度だ。それが今朝は、凄まじく食欲がわいてきていた。
(そういや……いつだったか、ブボウと戦った日の夜も……スゲー腹減ったっけな。もしかして……女神サマの特殊能力使うと、腹が減るのか?)
3つ目の器を空にしながら、アイクはそんなことを思っていた。
確かに……アイクはここ最近、戦闘で力を使うたびに……食欲がわくのを感じていた。特に……ブボウとの決闘の後や、練習試合でユキと戦った後がそうだった。
そして今回……盗賊のアジトで大暴れして……朝、異様なほどに腹が減っていた。
最初のうちは、てっきり……主人公が食材という名のモンスターと戦って捕獲して食べる、某グルメバトルマンガのような現象かとも思った。
たしかに、『超中二病』でそれの設定を適用すれば……疲労などの回復速度は飛躍的に上がるだろうし、食欲の増進もうなずける(限定条件下の一時的なものだが)。無意識に、それを発動していたのか、とも思えていた。
……が、それとも何か……違う気がするのだ。どこが、と聞かれると定かではないのだが。
ひょっとして、能力そのものと何か関係があるのか……と考えつつも、アイクはとりあえず胃袋を満たす。
「! そういや……弟妹達は朝飯どうしたんだ? 確か……お前と一緒に、ここの大部屋で寝泊りしてるはずだろ?」
「あ、はい……みんなは、さっきお腹が減ったと言ってたので、『何でもいいので食べるものをもらえませんか?』って、ここの人に聞いたら……すっごくおいしいパンを人数分届けてもらえたんです。それでみんな済ませました!」
「……聞き方によっちゃ、なんか物乞いみたいなセリフだぞ、それ?」
もっとも……そういう生活を送ってきたカナであるから、本当にそのつもりかもしれないが。
「で、みんなにあげてたら、私だけ食べるの忘れちゃってここに……でも、こんな美味しい料理なら……みんなも一緒にここへ連れてきて食べればよかったな……」
「昼にまた食えばいいだろ。ルームサービスを頼んでもいいしな。必要なモンはほぼ何でもそろえるように……って俺から手配はしてあるはずだ」
「そうなんですか!? あ、アイクさんが!? す、すいません、何から何まで……」
そう言ってぺこり。相変わらず緊張した、アイクを過度に敬う態度のままだが……徐々に心の落ち着きは取り戻せているようだ。
懸念していたような心の傷もないようだし、まずアイクは一安心した。
その後……アイクは時間つぶしがてら、カナの話を聞いた。
アイクと分かれたそのすぐ後……バリゲ卿の手に落ちて奴隷にされたこと。
しかし売り物にならなかったため、弟妹達も含めて全員バリゲ卿の元にいたこと。
懲罰として地下牢に閉じ込められていたところを、アイク達に救われたこと。
「やれやれ……また大変な経歴歩んできたもんだな……」
「はぁ……でも、命があっただけよかったと思えば」
あくまでも弱音をはかないカナ。おそらく……自分が一番年上であるという責任感から……あの孤児院で培われたものだろう、と推測できた。
同時に……カナもアイクも、2人があの孤児院で顔を合わせたときの事を、
そして……その後、肌を重ねた時のことを……思い出した。
「……悪かったな。あの時あんなこと言っといて……今の今まで助けられなくて」
「そ、そんな……私なんか、あ、アイクさんが、そんな、言うことでは……」
「いや……いいんだよ。俺が……勝手に考えてることだから」
はぁ、とため息をつくアイク。
確かに……アイクが一方的に言ったことで、カナは意味も理解していなかったはずだ。
だが……あの後すぐにでも助けられていれば、今の今まで1ヶ月以上もつらい思いをさせなくて済んだのではないか……と、アイクは少し気を落としていた。
と、ここでアイクはふと気づいたように腕時計を見る。
そこには……事情聴取まで15分をきったことを示す表示がなされていた。
「やば、さっさと食っちまおっと」
「? あの……この後、何かご用事があるんですか?」
「ん、ああ……昨日の件でいろいろ後始末を……な」
「そうですか、お気をつけて……ってや、やだ……私ったら、えらそうなことを……」
(……しばらく直らねーな、この性分)
アイクは残りの料理を掻き込むと、オレンジジュースをラッパ飲みして流し込む。肉のひとかけら、ジュースの一滴も残さずにそれらをたいらげた。
「ごっそさん。うまかった……おーいウェイトレスさん、勘定……」
と、
「食事代とかはあとあと引き落としになるから大丈夫ですよ」
「あれ、イオン?」
イスから立ち上がったその背後に……ため息交じりでイオンが立っていた。
「何でここに……?」
「食事にしちゃ時間がかかってるなと思ってきてみたんですが……お話の最中でしたか」
イオンそう言うと、資料と思しき紙の束をアイクに渡す。目を落とすと……報告書、検案書……などなど、さまざまな種類の書類だった。聴取その他に必要なもののようだ。
そして、アイクの向かいの席に座る……ちょうどタルトを完食したところのカナに目を向け、
「あらためて……どうも始めまして。僕はイオン、この人の弟です。お話中申し訳ないのですが……仕事の予定が立て込んでおりまして……この人回収させていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、は、はい! ど、どうもご丁寧に……」
「あー、悪いな、カナ。何か話とかあったら……俺の部屋に後で来てくれていいから」
イオンに手招きされ、アイクはカナを残して食堂を後にした。
あとに残されたカナは……その後、自分で使った皿を自分で洗おうとして店員に慌てられたりしながら、
「アイクさん……やっぱり、いい人だな……。今まで会ってきた、ただ偉いだけで威張り散らしてるような人たちとは……全然違う……」
……2人もの『純系』と……特に、恩人であるアイクと、あんなにも親しげに言葉をかわした、という事実に困惑と感激とを覚えながら……弟妹達の待つ部屋へと戻った。
ところでそのころ、宿を出た所……正面玄関前で、
「ところで兄さん?」
「あ?」
「食堂にあった皿の山ですけど……兄さん、あれだけの料理全部食べたんですか?」
イオンの脳裏には……テーブルの上に無造作に積み重ねられた、使用済みと思しき皿の山が思い出されていた。仮に、あの全てにもともと料理が乗せられていたとすれば……優に数人の大人の腹を満たせる量だ。おまけに、オレンジジュースが大瓶だった。
「ん? ああ……腹、減ってたからな。思わず箸が進んだというか」
「いや、アレ食欲うんぬんで済ませられる量じゃありませんでしたよ? 明らかに胃袋の容積超えてるし……」
「そんなこと言われてもな……食えちまったもんはしょうがねーだろ」
ぽんぽん、と腹をたたいて言うアイク。
と、それよりも……アイクのほうこそ、気になった。
「……? お前は? お前は特に……異常に腹が減ったりとかしなかったのか?」
「いや、別に……」
(……どうなってんだ……? この食欲……女神の力と別に関係はないのか?)
胸に疑を抱きつつ、アイクはイオンと共に現場へ向かった。
☆
その数時間後のこと。
仕事を一通り終え、昼食も済ませ(今度は普通の量だった)、アイクは部屋に戻って二度寝しようとベッドに倒れこんでいた。
ちなみに今は……ユキは午後になって、聴取の時間になったため、部屋にはいない。
すると、まどろみ始めたころ……何やら扉の外が騒がしくなっていることに気づいた。
「……ん? この声は……」
「だめだだめだ! ここは『純系』のお方の部屋だぞ? お前のような、どこの馬の骨とも知れん小娘を通すわけにはいかん!」
「で、でも、いつでも来ていいって……そ、それに私、その人の知り合いなんですっ!」
「あーはいはい、いるんだよね~……そういうファンの子」
「ずうずうしい嘘を言っても無駄だ、さっさと帰れ!」
「そ、そんな……」
ガチャ
「おいおい、何の騒ぎだよ……って、やっぱりか」
「あっ、アイクさん!?」
「す、すいませんアイク様! すぐに追い払いますので……」
ドアを開けると……そこにはやはりというか、門番とひと悶着起こしているカナの姿。
どうやら……アイクに会いに来たところ、迷惑なファンの類と思われて門前払いを食らっていたと見える。
なるほど、とアイクは納得して、
「あー、いいよ。そいつホントに俺の知り合いだから」
「え!? し、しかし、その……」
「2度……言わせる気か?」
「し、失礼しました……っ!!」
あわてて場を空けた警備兵達の間を縫って、アイクはカナの手をつかみ……部屋の中に招き入れた。扉を閉めて鍵をかけ、リビングに案内する。
カナは緊張しながら……アイクについて部屋まで来て、ソファに座った。
「ふぅ……いや、来ていいとは言ったけど……まさかもう来るとはな」
「す、すいません……アイクさんたちがいつまでここにいるのか、わからなかったもので……」
「いや、別にいいけどさ……で? 何か用があってきたんだろ?」
それをたずねると……カナは少し恥ずかしそうな顔になった。
「お、お礼を……しなきゃと、思って……」
「お礼?」
「はい。私や、弟達や、妹達……みんなを助けてくれたお礼です。あのままじゃ……私たち、いつまであんな生活を送ることになっていたか……わかりませんから」
んなこといいのに……とは言ったが、とりあえず……心から安堵しているような、そして感謝しているように見えるカナの顔を見てアイクはとりあえずほっと一息。
言い返すよりも前に、どうやら徐々にではあるが、昨夜に見られたつらそうな様子から脱却できてきていることに気づき……胸をなでおろしていた。
それに、アイクは知らないが……カナにとっては、アイクは本当に何度頭を下げても足りないくらいの大恩人だ。カナは自分のことなど問題ではないが、弟妹達がきつい労働を強いられ、失敗のたびに体罰を受ける様子を見るのが……つらかった。明らかに限度を超えた労働で、しかも身分は違法な『奴隷』扱い。
しかし、もともと身寄りのない彼女達には、探し出して助けてくれるあてもなかった……そんな時に現れ、あれよあれよという間に全てを打ち払ったのが、アイクなのだ。
そのアイクを前に、カナはすっくとソファから立ち上がり……なぜか顔を赤くした。
と、アイクはそこで……1つ疑問が頭に浮かんだ。
カナは……もともと、財産になるようなものを何も持っていないはずだ。孤児院に余裕は全くなかったし、バリゲ卿から給金をもらっている様子もなかった。
それなら、どうやって『お礼』をするつもりなのか……
「わ、私その……お礼できるようなもの、何ももってなくて……だからその……わ、私の体でよかったら『却下だ』好きなように……ええっ!?」
0.2秒ですばやく突っぱねられ、カナはショックをあらわにする。
「な、なんで……や、やっぱり、私じゃ……お気に召しませんか?」
と、半泣きで今にも崩れ落ちそうな(ギャグ的な意味で)彼女の様子を見てアイクは、はぁ……とため息をついた。
そして、
「カナ、ちょっとそこに正座しろ」
「……はぃ?」
☆
「いいかお前、俺としてはこの世界の性倫理感の基準がいまいちまだわかんねーからそう偉そうなことは言えねーけど、いくらある程度オープンだからってそんな簡単に他人に詩文の体を許すような考え方は持つべきじゃなくてだな、いやそもそも売春なんて……」
と、カーペットの上に正座しているカナを相手に、同じくカーペット上に座っているアイクが頑固親父よろしくお説教している様子が繰り広げられていた。
(あ、アイクさん……けっこう理屈っぽい……とこ、ある……?)
そんなことはないし、アイクはむしろざっくばらんにやってイオンに怒られる側だ。
が……今回のように、簡単に自分を犠牲にして何かをしようとするような、アイクが嫌うやり方に関しては……アイクは珍しくイオン化する。
ため息をつきつつ、
「いいか? もうオメーはあんな下衆連中に振り回されることもないし、これから無理することもしなくてよくなったんだから……もっと気を楽にしろ。お礼とかそういうのも、俺がしたくてしたことなんだから別に考えなくていい」
「は、はぁ……」
カナはまだ未練が残るようだったが、それでも、アイクの言葉には確かな説得力があったし……自分に対する思いやりが感じられた。ゆえに、何か言い返す気にはならなかった。
が、それではカナの気がおさまらないのも確かだ。
「で、でもじゃあ何か、他の方法で……あれ?」
と、カナは……ここで、アイクの着ている服……学ランが、所々破けたり、汚れていることに気づいた。
言うまでもなく……それらは昨日の無双バトルによるものだ。あれだけ暴れたのだから、いくら頑丈な素材をつかったとはいえ、多少なり衣服に破損も残る。
ましてや、アイクは拳をうならせ剣を振るい、接近戦・肉弾戦を主体として戦っていたわけだから……なおさらと言える。返り血から何から、随分とくらっていた。
一応、帰ってからさっと水洗いしたのだが……やはり落ちきらなかった。裂傷もあちこちにあるし、フローネに帰ったら新調しよう、と、アイクは考えていたところだ。
その学ランに目をつけたカナは、
「あ、じゃあ……その、その服……破けたりしてますよね? それ、私に直させてください! そういうの得意ですから!」
「え?」
きょとんとするアイク。いきなりのことだ、代替案として提示したのだ……というのはわかるが、無理もない。
ましてや、学ランという名のこの服は……この世界に存在する服とはデザインが全く違うのだ。それを直すと言われても、正直ピンとこない。
しかし、どうせもうだめだと思っていた服である。アイクは少し考え、ダメでもともと……と、学ランの上着を渡した。
「ありがとうございます! じゃあ、その……コレ、借りますね!」
と、カナが手にしたのは……部屋に備え付けで置いてあったソーイングセット。カナはその箱の中から、縫い針と黒色の糸を取り出した。
正直なところ……頑丈な繊維で作られているあの服を、そのあたりの針と糸で裁縫しようというのが、 そもそも無茶に思える。下手をすれば怪我をしかねない。
やはりアイクが止めようかと思ったその時、アイクは妙なことに気づいた。
カナは……針を、1本だけでなく……セットに入っていた4本全ての針に黒い糸を通していたのだ。本来なら……1人でやるのに、必要ない数だ。
それをアイクが不思議に思ってみていると、カナはそれら4つを手のひらに乗せ、
そして次の瞬間……
カナが何かぶつぶつと呟いたかと思うと……その手のひらの上の針(糸通し済み)が全てふわりと浮き上がり……独りでに服を縫い始めた。
しかも……早い。現実世界にあった……ミシンと比べても遜色ない早さだ。
しかもしかも、同時にいくつもの箇所で、いくつもの針と糸が同時にやっている。
口をあけて唖然とするアイクの目の前で、凄まじい速さで学ランが修繕されていき……ものの数分という早さで、
「はい、終わりました!」
「マジ!?」
痕も残さず修繕された。
差し出された学ランを手に取り……アイクは改めて驚いた。顔を近づけて目を凝らしてみても……修繕の後は、微妙にわかるかわからないかだ。
素材が違うから強度は落ちただろうが……これなら、十分着れる。
「すごいなカナお前! お前こんな『術』使えたのか!?」
「あ、はい。その……以前、孤児院に来た洋裁店の人に教わった術なんですけど……これでよく、弟妹達の服とか直してたんです」
「へー……もとネタがあったとはいえ、我流でこれか……ん?」
と、アイクはここで1つ思った。
こんな特技があるなら……いくら裏路地の子供とはいえ、働き口くらいはいくらでも見つけられたのではないか……と。
そう思って聞いてみると、カナは、
「あ、はい、私もそう思って、以前に少し洋裁店で働かせてもらったことがあるんです。でも数日で、店長さんに泣きながら『もう来ないで』って言われて……何がいけなかったんでしょうか?」
(……お前が上手すぎて立つ瀬がなくなったんじゃねーのか……?)
アイクは声に出さずに、あきれながらも感心した。
そして、もしかしてと思ってカナに『他に使える術はないか?』と聞くと……
「あ、はい……一応、お料理やお洗濯、お掃除……いろいろありますよ? 全部が全部見様見真似で、出来栄えは似たり寄ったりですけど……満遍なく。あ、この服も……洗剤とお水とたらい貸していただければ……汚れもきれいにしますけど?」
で、やらせてみると……予想的中、学ランは新品同様になった。
そして、アイクは確信する。
(カナってもしかして、境遇に恵まれなかっただけで……性格もよくて才能もある……すげーハイスペックな子なんじゃねーか……?)
と、ここでアイクは、フローネでオッドが、雑務を請け負ってもらうための若い人材を何人か探していたことを思い出す。たしか……募集人数は10名弱。
……なんというか、お互いにとって凄まじく利のある提案がアイクの頭に浮かんだ。
そしてアイクは、片づけをしているカナに向き直り……
「あのさ、カナ、お前さえよければ……」
「? 何でしょうか?」
「……フローネに来ねーか? 俺と一緒に」
「…………………………えええぇえっ!!?」