Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
ここはフローネ。その村長の邸宅。
つまりは……アイクらの滞在場所である。
つい先日、アシルスから帰還したアイク達は……しばしの休息を経て、ここフローネで……元通りの生活に戻っていた。
ただし……変化した点もいくつかある。
商業ルートの活性化や、外部からの来客の増加など、細かいものを挙げればいくつもあるが……そのうちで、最も代表的なそれはやはり、カナ達の仲間入りだろう。
行くあてもないということで、アイクの提案を受け……彼女は、弟妹たちと共にこのフローネに来た。そしてここで、オッドの厚意により、村長宅の使っていない離れを借りて皆ですむ事になったのだ。
子供達はまだ幼い者もいるが、半分以上は何かしらの雑用などならこなすことができる腕前を持っていた。なので、彼らのうちの幾人かは、通いで村に出て何らかの仕事をして生計を立てることにしている。 たとえば、アイクがサイミールでひと悶着あったパフなら、手先の器用さを利用して、細工物の組み立ての手伝いなど。
また、まだ幼い子供達に関しては、村の教会の善意で勉強を教えてもらえることになり、週何回か村へ出て教わっているようだ。
そしてカナは……そのオールラウンドかつハイスペックな家事の技術を変われて、また本人のたっての希望もあり、直接に村長宅でメイドをやることになった。
主に生活面で、そのよく気がきく心配りでもって、アイク達を手助けしている。また、イーラ達にしても、ちょうどメイドが1人辞めて人員の補充に困っていたところである上、1人で5人分近く働けるカナの登場は願ったりかなったりだったのだ。
そんな感じで変化したアイク達の生活。
そんなある日、アイク達は……イーラの書斎に集まっていた。
☆
「さて……と、まず……何だか大変なことになってたみたいね?」
とは、書斎のデスクに座っているイーラの弁。
イーラは手に、イオンがつい先日したためた『報告書』を持ち、それに目を通しながらため息をついた。
「特にユキちゃんと……カナちゃん。大変だったわね……いろいろあったみたいだけど、もう大丈夫なの?」
「ぜーんぜん! あんなの大変のうちに入りませんよ!」
「わ、私も、その……ああいうことには、ある程度慣れてますから」
と、ソファに座っているユキと、先程皆にお茶を淹れて持ってきたカナ。同じ事を言っているように聞こえるが……その発言が出てくる源泉は微妙に違う。
その2人であるが、ユキはいつも通りのセーラー服を、そしてカナの方は……この家のメイドに共通の、オ-ソドックスなメイド服を着ている。似合っている。
そしてそれを横から、ソファに腰掛けているアイク(学ラン)、イオン(ブレザー)、ミリス(部屋着のパーカー)が見ている……これが、大体の今の彼らの定番の服装だ。
ともかく、その様子を見て……一応安心したらしいイーラは、ひとまずそれは考えないことにして……別の書類……ではなく、新聞を手に取った。
そこには、アシルスで起こった汚職事件の真相(ウルカの関与以外)が、そして……その首謀者の一味がアイク達によってアジトごと粉砕されたという内容の記事が、1面トップででかでかと載っていた。
「あー……派手にやりすぎた……っすか?」
気まずそうにアイクが言うが、
「いや、そんなことないわ。相手は仮にも盗賊団、しかもやってることがあくどい……こういう結末を迎えたところで、別に問題にはならないわよ。事件ではあるけどね」
それより、とイーラは、その新聞と一緒に……何か書類のようなものを取り出し、アイク達にもよく見えるように置いた。
イオンがそこを見ると、それはまた新たな商談の提案書だった。何枚もある。
しかも……相手は、どれも(この世界では)有名な商業都市ばかり。
「え? お姉ちゃん……コレ全部、私たちが行くの?」
「ううん、そうじゃない。そこにある町の人たち……全員ここに尋ねてくるってさ」
普段なら、こんな山村に大都市の要人が来ることなどありえないことだが……ここにいるのは、そして交渉の相手になるのは純度10の純系、ご足労願うなど、あまりに恐れ多い……フェルガルドの人間なら誰でもこう考える。
それを聞いて、アイク達も納得する。アシルスの件は、まだ時期が早かったための例外と言っていいものなのだ。
「やれやれ……感無量、ってやつかしら? 一介の山村だったこのフローネも……有名になったもんだわ」
「当然ですよ……。アイク様やイオン様みたいなすごい人がいるんですから……」
と、カナは肯定で返す。
カナはユキ達の呼び方こそ『ユキさん』『ミリスさん』『イーラさん』だが、アイクとイオンの2人のことは『様』づけで呼ぶようになった。
これでも改善したほうである。以前は『ご主人様』だったのだから。メイドにそう呼ばれるのは別にアイクもイオンも慣れているのだが……後付でメイドになった存在であるがゆえに、何か堅苦しい感じは否めない。
しかも、差別はできないと言う理由で、アイクとイオンの2人とも『ご主人様』なので……聞き分けづらい。そういう理由で、名前で呼んでもらうことにしたのだ。
ちなみにアイクはその際『主人公2人ってこういうとこややこしくて大変だよな』などとこぼしていたとか。
するとイーラは、ふいにまじめな顔になって、
「でも……ここまで大きく騒ぐと……」
「? やはり何か問題が?」
何かを感じ取ったイオンがたずねる。
「いいえ、そうじゃないんだけど……ただ……」
「「「『ただ……』……?」」」
「うん……こうなると、そろそろ中枢の人たちも動き出すんじゃないか……って思って」
「? 『中枢』といいますと……アルビオンですか?」
と、カナ。聞きなれない地名が出てきたため、アイクとユキの視線が向けられた。
もっとも、聞いたことがないわけではないし……イオンはそれほど反応もしていない。その地名の意味するところを知っているからだ。
アルビオン……それは、フローネやサイミール、レインゲートにアシルス……それらが属する国家『アーサランド王国』の王都である。
現代日本で言うところの東京に値する、大きく、そして重要な都市だ。
裕福な者たちが住む高級住宅地に始まり、見たこともないような娯楽・嗜好品、地方ではお目にかかれないご馳走、きらびやかな服や装飾品を見ることができる町。
貴族や大商人などもそこに多く住み……この国の純系の1割以上がそこに居を構える。
何より……王都の名に偽りなし。そこには……このアーサランド王国を代々治める王族が、その宮殿に暮らしているのだ。
その都市の名が出てきたことに、きょとんとしている一堂。
訂正。イオン以外。
その彼らを見渡して……イーラは説明を始めた。
「純度10なんて……もはや文献上の存在でしかない人類の秘宝だもの。今までは純度9が最高だと思われてたわけだから……当然、このアーサランドでも君達が最高純度なわけ。そんなのが現れれば……」
「その王都『アルビオン』に、僕らが呼び出されると?」
「ええ、挨拶とかで、ね。おそらくだけど、謁見って形で……女王陛下御自らお出ましになるんじゃないかしら」
「「女王陛下!?」」
ミリスとカナが驚いて声を上げた。
2人とも、自分たちにはまるで雲の上である人物の名があがったことに驚愕気味だ。
女王陛下と言えば……このアーサランド王国の頂点。最高権力者だ。
その陛下が……これから、自分たちの前にいるこの2人の少年に接点を持つかもしれない、と……そしてその2人に自分たちが同じように接点を持っている、と……そう考えるだけで、2人の心臓は緊張で鼓動を早める。
そして、これにはさすがに……もともと上流階級のアイク達も、同様に多少なりとも緊張を感じてしまう。
「当然でしょ? 国宝以上の『純度10』だけでも驚きなのに、そこにさらに、今回話題になったこの戦闘力……おまけに2人とも若くて、バリバリ食べごろの美少年。これだけ揃ってれば、そりゃ話題にもなるわよ」
「最後の1つはともかく……まあ、正論っちゃ正論だな」
と、呆れつつアイク。
確かに……今回明らかになった彼らの実力を考慮に入れても、王都に召喚されるには十分な理由になるだろう。
つまり……自分たちが、この国を治めるトップである人物に会う日も、そう遠くはない……ということだ。その当然ながらも驚愕の事実に、改めて驚く一同。
するとここで、イーラは何やら張り切って……という表現を使っていいものかわからないが、本題に入るかのように表情を変えた。
「さて、今日君達をここに呼んだのはね、他でもない……そのアルビオンへの呼び出しに備えて、なるべく今のうちから『準備』を整えておくべきだと思ったからよ」
「準備……っていうと?」
と、ユキ。
「あ、お仕事の話なら私、外に出てますけど……」
「いいえカナちゃん、あなたもここで聞いて。超関係あるから」
「……えっ?」
その言葉に、イーラを除く全員がその意図を理解しかねる顔になる。
その『準備』が何なのかはわからないが……あくまでも一介のメイドであるカナをも巻き込むものなのか、と。世話係として、王都に同行する……とでもいうのだろうか?
視線が再び自分に戻るのを待って、イーラは、
「と、いうわけでなんだけど、今日こそ! 2人のハーレムの件について考えないとね」
「「「どういうわけで!!?」」」
一堂がずっこけそうになりながら聞き返す。
女王陛下などと言う超VIPの名前が出てきた子の場面で『ハーレム』。イーラの思考回路を理解しかねるし、ずっこけても仕方がないと全員が認識した。
だがしかし、当のイーラは真剣そのものだ。
「とりあえず聞いて。まず、あなた達が『純系のハーレム』について持ってる固定観念……っていうより間違った観念からどうにかしないといけないわね」
そこから、イーラは説明を始めた。
☆
前にも述べたとおり、
純系は一般に、好みの女性を何人も集めて『ハーレム』を作る。
それも……それにかかるほぼ全ての費用が、国なとの公共から出されるのだ。
その目的は、純系の『男』としての、『雄』としての能力を刺激し、性欲を高め……そしてそれによって、より長い間、より品質の高い元気な精液を採取できるようにするため。そのために、世間一般的にも純系には、妻子の有無を問わず『ハーレム』が絶対に必要である、と考えられている。見本になるか微妙だが、ブボウも持っていた。
ましてや、能力の高い純系ならなおさらだ。『雄』を刺激しなかったために精液の量が減ったり、性欲が減退してしまっては大変だからだ。
そして、ここからは初めての話。純系のハーレムの構成員……愛人達についてだ。
純系のハーレムを作る愛人達は、特別名称で『ミストレス』……と呼ばれる。
一般に言うただの浮気相手としての『愛人』との区別化を図るためだ。それほどまでに、ミストレスというのは特別な存在なのである。
まず、純系のミストレスに選ばれた場合、多くの場合、その純系の自宅に住み込むか、構えられている後宮に入ってそこに住むことになる。
そしてそこでの生活は、国家の補助の元、衣食住全てにおいて不自由なく、楽な生活を保障されるのだ。さらに毎月の小遣いと言えるような形で支給される、自由に使える相当な額の金が手元に入る。
さらに、通常はない『特権』もいくつも手に入るのだ。何が付与されるかは、オーナーである『純系』の純度による。純度によっては……一般市民はおろか、貴族でも一部しか使えないような超高級な、垂唾もののそれもその中にはある。
何より、国賓以上の存在である『純系』の寵愛を受けているという証になる『~のミストレス』という称号は、社会的にとてつもなく大きなステータスになる。一般庶民にとっては玉の輿であり、有力者達にとっては更なる高みへ登るための大きな足がかりだ。
……と、ここまでイーラは熱く語った。
☆
「つまりね、あなた達が考えてるような不埒なそれじゃなくて……きちんとした必要施設なのよ、純系のハーレムは。おわかり?」
「「「大変よくわかりました」」」
と、ここまで熱く語られたら理解するしかない面々の返事がそろう。
それを確認すると、どうやら熱くなったらのどが渇いたらしいイーラはお茶を一口のみ、そしてさらに続ける。
というより……ここからが、これからアイク達に言うことが本題のようだ。
「ミストレスの見つけ方、集め方に特に決まりはないわ。道端で偶然出会ったかわいい娘を誘ってもいいし、大々的に公募をかけてもOK。ともかく、自分のおちんちんがビンビン反応するような自分好みの女を集めればいいの」
「イーラさん、もうちょっと表現に気使いませんか?」
「何をどう言ったって意味は同じなんだから気にしないの」
イオンの意見は一蹴され、イーラの熱弁は続く。
「そして、『純系』として一人前であるためには……ハーレムとミストレスの存在は必要不可欠といっていい。だから……王都に召喚されたときに恥かかないためにも、2人には早々にミストレスを見つけて、ハーレムを作ってもらう必要があるのよ」
「「はぁ…………」」
さすがにこれには、にごった返事を返すしか見つからないアイク達。
そう言われたところで、いきなりそんな女性を見つけられるわけでもないし、公募という手段は使いたくない。これ以上そっちの方面で目立つのは、2人ともごめんだ。そうなると、さすがに明確な返事は返せない。
また、聞けば既に各方面から、自分に近しい女性を紹介し、彼女をミストレスにどうか、などといった内容の媚売りの手紙が届いているらしい。
イーラはここから選んではどうか、などと言ってきたが……2人にとってその提案は論外もいいところだ。愛も信条もなく、金と地位しか望まない者など、2人は愛人にしたいとも思えない。
しかしそうなると、愛人として囲えるような女性の心当たりなどあるか。
この問題に、2人とも眉間にしわを寄せて長考に入る。
と、ここで何やら……先程からイオンたちと話すその一方で、その反対側のソファをちらちらと見ていたイーラが……
「あーもう、じれったい!」
もう辛抱しかねる、と言った風な空気をまとって立ち上がった。
そして、何事かと注目するアイクらの目の前で、何を言うかと思えば……
「まずほらミリス! あんたさぁ……いい加減イオンくんのハーレムに入れてほしいってさっさと言っちゃいなさいよ!」
「「「え!?」」」
「jkんきうんヴぃlひl―――――ッ!?」
全員が驚いて注目する中、いきなりとんでもない話題を振られたミリスは硬直し、声にならない声で悲鳴を上げた。
「私がこのこと話し始めた頃からイオン君の方見出して、でもたーだチラチラ見てるばっかりで何も言わないで、もう見ててじれったいったらありゃしない。あんたがイオン君に抱かれてるのもあんたがイオン君を好きなのもあんたが実は青姦趣味の超ムッツリスケベなのももう皆知ってることなんだから、ムダに恥ずかしがってないでさっさと言うこと言っちゃいなさいっての! 全くもう……ホントにあんた私の妹!?」
「ちょっ―――――!? お……お姉……ちゃ……ん…………」
マシンガントークで自分の恥ずかしい部分を立て続けに言われ……ミリスは声を出すのもつらそうなくらいの赤面具合だ。目には涙。
しかも、
「いやあの、最後のひとつ、私知らなかったんですけど……」
「……俺もだ」
「私、全部知りませんでしたけど……」
と、ユキ&アイク&カナ。
知られてるなどとは大嘘。とんでもない暴露だったりする。
しかもイーラ無自覚。
その言葉は、『知られた』という辛辣な事実を如実にし……尋常ならざる羞恥心に追い詰められたミリスは、次のイーラの言葉を待たず、
「お姉ちゃんのバカァ――――――――ッ!!」
バタンッ! ドドドドドド……
勢いよくドアを開放して、部屋から走り去った。
あっけにとられて何も言えない彼らのもとに……イーラから次弾が投下された。
「次、カナちゃん」
「え゛っっ!!?」
ぎくっ、という効果音がつきそうなリアクションでカナが反応。
今のミリスに起きた悲劇を目の当たりにしているわけであるから、無理もない。
そして……イーラは期待を裏切らなかった。無論……悪い意味で。
「昨日、アイク君の枕に顔うずめてたでしょ? その前は洗濯物の服匂い嗅いでたし、その前は恋する乙女的な視線で稽古してるアイク君のこと見てたし、その前は……」
「ごめんなさぁ―――――――いっ!!」
バタンッ! ドドドドドド……
デジャヴのごとき要領で、今度はカナが部屋から姿を消した。
「……行っちゃったわね」
「ああ、超逃げてったな」
「すごい勢いでしたね」
それを唖然として見届けていたアイクとイオン、そしてユキ。
イーラによって思い日との面前で恥ずかしい話を暴露された2人は、もはや振り返らずにどこかへと走り去ってしまっていた。これではもう、ハーレムもミストレスもあったものではない。
その犯人であるイーラは、何を言うかと思えば……。
「よし。アイク君! イオン君! 追って! 今なら2人落とせるわよ!」
「「はぁ!!!?」」
そんな事を言い出した。
「大丈夫! お姉さんを信じて! 傷心の乙女は優しくされるとコロッといくから!」
「いや傷心させたのあんただろ!! てか多分トラウマ級だぞアレ!?」
「何ですかコロッといくとか!? ていうか何ですかこの変な計画!?」
そんな感じで、今正に目の前で起こっている信じられない駄計に2人は頭を悩ませ、
「はぁ…………」
ユキはその隣で、静かに呆れていた。