Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「まずは旅の御仁、此度の非礼、深くわびさせていただく。すまなかった!」
言いながら、男は頭を下げてくる。先程……集団の先頭に立って、アイク達に語りかけていたあの男だ。今は馬から降り、アイク達と同じ地面に立っている。
その横には……アイク達に襲い掛かってきた男達を率いていた男もいる。こちらも、横の男に習って頭を下げていた。
どちらも服装は同じ……鉄か、それに値するのであろう強度の金属の鎧に……左胸には、ミリスいわくところの『王国騎士団』のエンブレム。そして同じエンブレムの入った剣。
聞けば彼らは……正真正銘、本物の王国騎士団なのだという。
しかし、そうすると彼らの頭の中には、超弩級の疑問が残るのだが……
「ええと、でも……どうしてその、王国騎士団の方が……あんなことを?」
そう言うカナの脳裏には……先程、武器を構えて『食料をよこせ』と荷馬車を襲ってきた彼らの姿が思い出されていた。どう考えても……正規の軍隊が、しかも自国内でやることではない。
それを口にすると、その上司と思しき男の顔が、少し悔しそうにゆがむ。
どうやらあまり話したくない事情があるようだが……アイク達は襲撃されかかっているのである、追及をやめるという選択肢はない。
それを悟ったのか、男は折れて、
「……わかった、ご説明しよう。長くなるゆえ、場所を変えても?」
「構いません」
と、返事はイオン。
「この先に町がありますよね? 僕らが夜までに行こうと思っていた目的地なのですが……そこで、というわけには?」
すると、肯定的な返事を返してくれると思っていた男は、一瞬何か言いよどんで、
「……構わないが……期待しているような光景はないぞ?」
「「「は?」」」
イオンたちのその聞き返しに、男は『ついてきてくれ』とだけ言い、再び馬にまたがって……彼らがきた道を戻り始めた。
何か不自然な違和感を抱きつつも、アイク達は馬車に乗り……未だにビビッている御者をどうにか説得してその一団についていった。
そして……
☆
そして、町についてみると……
「おいおい……何だこりゃ……!?」
アイクが発したその言葉以外……誰も何も言わない。
というか……絶句していた。目の前に広がる光景に。
何せ……そこは最早、町と呼べるようなものでもなかったのだ。
そこにあったのは……無残にも破壊されつくした町並み。家々は破壊され、道は荒れ放題。あちこちで煙が上がっているのは……火は見えないが、火災の跡だろうか。
どう見てもこれは、戦闘の……もしくは、何者かの襲撃を受けた跡だ。それも、山賊や盗賊といったような、半端な規模ではない。
何も言えないアイク達に、先頭に立つ男は……小さく声をかけた。
「説明する。こちらに、我々が使っているキャンプがある。ついてこられよ」
そしてついていった先は……おそらく、町の中心部の広場と思しき場所だった。
そこに……いくつものテントが並べられ、同じ鎧を、もしくは服を着ている男達がせわしなく行き交っている。
その中心部あたりまで来ると、男は馬を止め、そこから下りた。
アイク達も、馬車から降りる。ミリスとカナは……安全確認が済んだ後で。
男はアイク達を先導し、近くにあった焚き火のそばに連れて行って座らせた。
ちなみに、襲ってきた男達は……この男の指示で別の場所に連れて行かれたようだ。
座ったところで……アイクは焚き火に照らされている男の顔を見た。
短めのブロンドの髪に、精悍な、しかしがっしりした印象も見られる顔。年齢はおそらく……30を少し過ぎたあたりか。
すると、何かに気づいたか、思い出したようにカナが、
「あっ……! も、もしかして……ギオ=ビリジェート様……!?」
「? カナ、知ってるのか?」
アイクの問いに、カナは首を振ってうなずいた。
「は、はい。前に一度……サイミールで行われた式典にご出席なさっているところを拝見したことがあります。たしか、王国軍の部隊長を務めていらっしゃった方だと……」
「ふ……いつの間にか私も有名になったものだ。お嬢さん、まあ……その記憶は間違っていない。ただ……今はこの通り、王国騎士団の連隊長を任されている身だ」
「そ、そうでしたか……失礼しましたっ!」
ぺこりと頭を下げるカナに、男……ギオは、気にするな、とだけ言って座りなおした。
「さて……諸々の理由で椅子は用意できないが、君達も適当に座ってくれ。話そう」
☆
「これは……ごく最近に起こった、しかしとてつもなく大変な出来事なのだ」
そんな出だしで、ギオの話は、数日前にさかのぼって始まった。
この近くに……『テイロス』という港町がある。
アシルスと違い、漁業が盛んというわけではなく……サイミールやレインゲートのように、商業によって発達した港町。つまりそこは、貿易港というわけだ。
山のふもとのすぐ近くにある町のため……海と山の幸、その両方が入って来安いのだ。この町からでも、行こうと思えば1日とかからずにいける距離にある。
アーサランドにとって、欠くことのできない重要な都市のひとつ……といえる。
そのテイロスが先日……突如として外部の大国『ガーベル帝国』の軍に急襲された。
ガーベル帝国は、アーサランド王国の隣にある、規模でさらに上回る強大な軍事独裁国家である。前々からこの国とは因縁があり……今でこそ何もないが、昔は何度も戦火を交えてきたらしい。
その帝国に、宣戦布告もなく、いきなり攻め込まれ……混乱の中、瞬く間にテイロスは制圧されてしまった。
そしてそこを拠点に、帝国軍はこのあたり一帯の町・村を制圧にかかったというのだ。
つまり……この町も、それによって被害を受けたための、この惨状なのだ。
☆
「連絡を受け……たまたまこの近くで演習を行っていた我々がかけつけたが……その時には既に、付近の村々が3つも制圧されていた。村民達は何とか逃げ延びたものもいれば、殺されてしまったものもいる。次の標的だったこの町の防衛のため、我々はここに陣を敷いて戦ったが……」
「戦線は町の中にまで及び、撃退はできたものの……無事でもすまなかった、ってわけっすか」
「ああ……。あくまでも訓練だった故、人員も少なく……町を奪われないようにするだけで、我々には精一杯だった……」
つらそうに現実をかみ締めながら言うギオ。
周りを囲む他の隊員達も、同じような表情を浮かべている。悔しく思うその胸のうちは……同じなようだ。
「先程貴君らを襲った彼らは……その戦闘の際に遊撃部隊として動いてくれた者たちだ。戦いに貢献し、作戦そのものは成功したが……敵軍の反撃から逃げ延びる段階で山中で遭難し、我々の本隊に合流できぬまま食料が尽きたために……あのような凶行に出た」
「なるほど……あんたがたも、アレらはさっき見つけたばっかなのか」
「それでさっき、『正当行為』がなんとか……って言ってたんですね……」
国と民を守る自分たちの使命のために、多少の犠牲はやむをえない。食料を奪ってでも生き延びたかったわけだ。もっとも……不可能な相手を選んでしまったわけだが。
そして、これでようやく……彼らがかたくなに『正体』を明かしたがらなかったわけも判明した。王国騎士団が追いはぎまがいの行為をしたと知れれば、名に傷がつく。
本当に申し訳ない、と、ギオは部下の不祥事に再び頭を下げた。
「だが……そういうわけで、われらも多少なり追い詰められている状況なのだ。不謹慎な言い方かもしれないが……いつまた敵の襲撃があるかもわからない今、このようなことで軍を揺るがしたくはない。どうか1つ、私の顔を立てると思って……」
「それは、まあ……」
「ええ、もちろん、これ以上気にするようなことは」
「そうか……かたじけない」
ゆっくりとギオは顔を上げる。
アイク達が話をわかってくれたことにほっとしつつ……すぐさま次の話題に移る。見方によってはドライな性格に映るが……この場合、見た目を気にする事態でもないようだ。
「しかし、そういう理由で……今、この付近の山の中には、あちこちに帝国の兵士達が散らばっている。とても安全とはいえないのだ」
「僕らは数日前にこの山道を通っていったばかりなのですが、数日でここまで状況が変わるとは……」
イオンが驚きを隠せないように言う。
商談への『行き』は……何事もなく、普通に行けた。
しかし『帰り』は……超弩級の障害が立ちはだかっている。なんという差であろうか。
「気持ちは察する。しかし……そういうわけであるから、当分は……この山を通るルートは使えないと思ってくれ。帝国の兵士に見つかれば……命の保障はできない」
「……思ったんですけど……」
と、今度はユキが会話に割り込んできた。
「そのいきなりケンカ売ってきた『帝国』さん、宣戦布告もなしにそんなことして……問題にならないんですか?」
もっともな疑問だ。
奇襲という言い方で済ませてしまえばそれまでだが……国家間の戦争については、それはただ事では終わらない。
日本が太平洋戦争で行った真珠湾攻撃……通称『パールハーバー』がいい例だ。
奇襲で米軍に大打撃を与えたまではいいものの……そのことがあちこちから反感を買い、さらにはアメリカそのものの逆鱗に触れ、猛反撃にあい……結果、日本は敗戦した。
この場合も同様のはずだ。その『ガーベル帝国』がいかに強大であれ、このような手段で『アーサランド王国』に戦争を挑むことが認められていいものか。
すると、またしても悔しそうな顔になったギオは、
「それが……今回の襲撃は、襲撃部隊を率いる者の独断行動で、帝国中枢は一切コレを認識していないらしい」
「「「は!?」」」
予想外の答えに、全員まとまって聞き返す。
聞けば、相手国の兵士達が言っていたのは……こういうことらしい。
この襲撃の主犯格である、ガーベル軍の司令塔のある男は……ある日、任務上のミスで更迭されることになってしまったらしい。
しかし、どうにかして挽回を狙えないものかと考えた挙句、自国の利益になるようなことをすればいいと考え……版図拡大の足がかりとなるために、今回の襲撃を、まだ自分の支配下にある部隊を独断で動かして行われた、と。
結果、このことに関しては、ガーベル帝国側は一切認知していない……というらしい。
なんとも……信用しがたい、しかし追求もしづらいいいわけだ。
「トカゲの尻尾切りもいいとこだな……」
「ええ……それに、成功したら成功したで……敵国に利益がある」
「そういうことなのだ。ゆえに帝国はなんら対策をとろうともしない。緊急の手紙で帰ってきた返事は『早急な事実確認のうえ、しかるべき対処をとる』だった。もう……随分前に来た返事だが」
ため息混じりにギオが言う。
「おまけに、兵を率いてきたのはあの男……もはや、後が無いとすら言える」
「? 『あの男』? それって誰……きゃっ!?」
と、いきなり響いたカナの声に驚いて一同が振り向くと……カナの隣に、先程わかれたはずの……アイク達を襲ってきたほうの男が、カナに密着しそうなほどに近くに座り、その手をつかんでいた。
そのもう片方の手には……どうやら酒が入っていると思しきビンを持っている。完全に……悪酔いだ。
「そのことをお前らが知る必要はない……ひっく。それよりも女、こっちに来てお酌くらいしろ」
「やっ、こ、困ります……」
ぐいぐいと引っ張られる腕を、カナは振りほどこうとする。が、男は放そうとはせず、
「困るだと? お前……俺に誘ってもらいながら失礼だろうが! 俺は王国騎士団の連隊長補佐だぞ?」
酔った勢いか、はたまた地か、さらに悪質にからんでくる男に……カナは心底嫌そうにしていた。
と、それを見て黙っていないのが一人。
連隊長(上司)のギオが注意しようとするよりも早く立ち上がり、
「ほらほら、こっちに来ておごあっ!?」
どごぉっ!
「おいこらオッサン、俺の女に手ェ出してんじゃねえよ」
豪快に蹴りを浴びせて男をひっくり返らせ、その隙にカナを引っ張って抱き寄せる。
「あ……アイク様っ!」
カナは安心したように、そして今アイクが『俺の女』と言って自分を助けてくれたことに、少々興奮……もとい、テンションを上げながら、赤面しつつその胸に飛び込む。
ちょうどそのタイミングで、ひっくり返っていた迷惑男が起き上がると、見るからに機嫌の悪そうな目でアイクをにらみつけつつ、こっちはこっちで顔を赤くして、
「き、貴様ぁっ! わ、私が誰だかわかっているのか!? 荷馬車を襲ったことは謝るとは言ったが、いくらなんでも今のは無礼だぞ!!」
「あ? ただの助平オヤジだろ? もしくは酔っぱらい」
しかし、アイクは顔色ひとつ変えず、冷や汗1つかかずにそう言ってのける。
さらにその男が何か言おうとしたが……それよりも前に、連隊長のギオが会話にわりこんできた。
「待ってくれ、そこのメイドのお嬢さん。今……君は何と?」
「えっ?」
いきなり話を振られて困惑気味なカナ。
ギオ……どうやら、カナの口から出てきたある単語が気になるようだ。
と、今の会話から……そこに参戦していなかったイオンは、あることを思い出した。
わざとらしく『パン』と小気味いい音で手を打ち鳴らし、
「……ああ……そういえば、僕らの自己紹介がまだでしたね……いやいやお恥ずかしい、忘れていました。僕らは……」
この数秒後、場の空気が一変することとなる。
☆
「「申し訳ありませんでしたっ!!」」
その数秒後がこれだ。
アイクとイオンが、今王国各所で噂になっている『純度10の純系』であること、
そして今しがた連隊長補佐が手を出しかけたカナを含め、ここにいる女性全員が、まだ未認可ではあるものの、そのミストレスであるという事実を聞かされ(ユキは未定だが)……その場にいた騎士団員全員が平伏していた。
最後まで疑ってごねていたのが連隊長補佐だが、イオンが懐から『身分証明書類』を出すとおとなしくなった。商談に使うために、エラに前もってもらっておいたものだ。
その補佐は、先程まであった酔いが一気にさめたようで、滝のような冷や汗を流しながら必死に謝っていた。
無理もない。純度10の純系といえば……本来ならば、自分がお目にかかれるような存在ではないのだから。
今まで最高純度であった『純度9』でさえ、貴族以上、王族と同等の権力を持つ……とされてきたのだ。それよりもさらに上ともなれば、その2人が握る力の大きさなど想像もできない。
その者が乗る馬車を略奪目的で兵士を率いて襲撃したのみならず……そのミストレスに手を出しかけたとあれば……本来なら重罪も重罪。主となる『純系』の人格いかんでは、どんな罰を食らってもおかしくはない。
その点、彼は運がよかった……と言えるだろう。相手がこの2人で。
「まあ、わかってくれたんなら別にいいさ。忘れてくれていい。カナもそれでいいか?」
「あ、はい。その……以後、こういうことがないようにしていただければ……」
「は……ははぁ―っ! 慈悲深いご裁量、感謝に言葉もございません! 今後一切こういったことがないように徹底すると共に、今日をもって酒も一切断たせていただきます!」
反省の上に、思わぬオプションがついてきた。今後彼の健康に、すこぶるいい影響を与えてくれることだろう。
そして彼の上司、ギオも同様に……部下の非礼について深くわび、改めての挨拶としていた。
どうやらトラブル的な空気も収束しかけたのを見計らい、イオンが口を開く。
「ところで……先程言いかけていらっしゃった、この襲撃の首謀者である『あの男』についてお聞きしたいのですが……」
「は、もちろんです。あなた方の素性を教えていただきました今、隠す理由はどこにもございません。それにこうなった以上、あなた方の身の安全の確保も我々の仕事!」
と、ギオ。そして……懐から、何やら書類を取り出す。
報告書です、といってそれを広げると、並べてアイク達に見せつつ、その中の1枚をとる。
「これが、襲撃してきた帝国軍に関する報告です。これによれば……相手方の兵士の総数はおよそ2000!」
「「「2000!?」」」
「はっ。勅命なしに独断で動かせる限界数と言えるでしょう。ただ……これは襲撃当初に確認されたものです。戦闘で数は減ったはずなので……おそらく、今は1300弱かと」
それでも相当な人数だ。
以前、アイクとイオンが盗賊団の基地を丸ごと壊滅させた時があったが……その時で相手は数百人。今回はその数倍で……しかも『兵士』だ。1人1人の練度がおそらく違う。
2人とも、いくらなんでも全員相手にするのは無茶が過ぎるな、と感じていた。
そんな中、さらに重苦しい雰囲気の声音で、
「そして……その兵士達を束ねているのが、何とも厄介な相手で……」
「お、例の『あの男』?」
「ええ。その男は……ご存知かどうかわかりませんが……」
そこで一拍置いて、ギオは書類の一点を指差し、
「帝国軍大幹部『16師団長』の1角……第9師団師団長、モーガン=ドーラント。この男です。ああ……更迭されたということゆえ『元』第9師団長、と言うべきですが」