Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
フローネの森に、穏やかな陽射しが降り注ぐ。
比較的涼しい気候を持つフローネ地方では、この時期の森はかなり快適な環境で、仕事場としている木こりや山菜取りだけでなく、子供たちにとってもいい遊び場となっている。
その森の奥の方にある、いつもは鳥のさえずりの他には物音のないその空き地。
知る人ぞ知るその静かな空き地で、アイクとイオンの2人は今……『力』を使っての戦闘訓練の真っ最中だった。
山賊たちと一騒動あってから数日、アイクとイオンは、依然としてミリスの屋敷に置いてもらっている。イーラの好意により、行くあてが見つかるまではここにいるといい、と言われたのだ。生活面の不安はほぼ無くなったといっていいだろう。
テレビやパソコンがないことを除けば、特に不自由はない。情報なら新聞も回ってくるし(もっとも知識不足でほとんど理解できないのだが)、食事も寝る場所も確保されている。他の人たちとの揉め事もこれといってない。
ということで、2人はここ数日、情報収集に加えて、女神ロローラに与えられた『力』の修行に励んでいた。
もともと2人は、昔やっていた武術の朝練が日課の1つだったために、こういった2人での手合わせはあまり珍しくもなく、抵抗もない。むしろ自己の精進のために、2人とも積極的な姿勢を見せるほどだ。
ただ……今2人がやっているのは、女神の力……『フィクション技の使用可能』を使いこなして戦うための訓練であるがゆえに、普通の鍛練とは程遠い光景が展開されていた。
「うらぁっ!」
ザザァッ!
アイクは前に跳び、スライディングの要領の下段蹴りでイオンに飛びかかった。
イオンはそれを跳躍でかわし、空中でアイクに向き直る。その瞬間、イオンの足元に(空中だが)複雑な形の魔方陣が浮かび上がった。
「『アクアエッジ』!!」
言うと同時に、イオンの周囲の空間から水がにじみ出す。それらは集束し、握りこぶしほどの大きさの水の刃となって、アイクに襲いかかった。
「にゃろ」
それを見たアイクは、連続での側転とバック転で全ての水弾をかわした。身体強化を使っているとはいえ、常人の運動神経では考えられないアクロバティックな動きに、イオンも舌を巻く。
(全く、相変わらずすごい運動神経だな……。なら……)
「破道の31、『赤火砲』!!」
減速し回転が止まったタイミングを見計らって、イオンが今度は手のひらから、赤い炎の弾丸を放った。先ほどの水の魔法『アクアエッジ』とは、スピードが全く違う。
それを見たアイクが、げっ、と苦笑いを浮かべる
「こんにゃろ、詠唱も無しかよ……相変わらず器用だな!」
そう言いながら、近くにあった木の枝の1つをぼきんと折ると、下段に構えて思いっきり上に振った。
「『魔神剣』!!」
剣撃とともに生み出された衝撃波は、イオンの放った『赤火砲』に衝突し、炎を上げてはじけ飛んだ。その衝撃波を放った枝も、反動に耐え切れずだろうか、粉々に砕け散った。
自分の術が相殺されたのを見て、イオンは次の術を繰り出そうと身構える。
しかし、アイクもバカではない。今の一瞬のすきを利用し、大回りしてイオンの側方に接敵していた。
「え!?」
「近づけりゃこっちのもんだぜ!」
飛びかかりざまに、アイクが前方を縦に凪ぐ鋭い蹴りを放つ。イオンは上体を反らしてすんでの所でそれをかわす。しかし、完全にバランスが崩れた。
「もいっちょ!」
「く……『風盾(デフレクシオ)』!!」
空中で体重を乗せた追撃の蹴りを放ってきたアイクを、イオンは『魔法』で作り出した風のシールドで防ぐ。アイクの蹴りも十分な威力だったが、『風盾』の風圧にかなわずに押し戻され、イオンは歯噛みしながら飛びすさった。
「へえ、やるじゃねーかよ、イオン……」
「それはどうも。兄さんこそ、危なっかしくて気が抜けませんよ」
「はは、ありがとよ。……じゃ、こういうのはどうだ……?」
アイクはその顔に怪しい笑みを浮かべると……妙な構えを取った。
左足を出して右足を引き、両手を右側に引いて手のひらを向かい合わせ……
「え…ちょ……兄さん? 何を……!?」
「かぁ~~めェ~」
弟の言葉など耳に入らないかのように、アイクは両手にエネルギーを集中させていく。
「兄さんタイム!! だからちょっとそれは…」
「はァ~~めェ~~…………波ァ―――――ッ!!」
瞬間、両手を前に突き出し、一気に気を開放する。
そして、特大のエネルギー砲、ご存じ『かめはめ波』が発射……
……されなかった。
「……やっぱ出ねーな……」
「ですね。昨日に引き続き……」
不思議そうに、2人はそろって首をひねる。と、そこに、
「あ、あの~……終わりましたか?」
「「ん?」」
と、そんな声に反応して2人が顔を向けると……茂みの向こうから、ミリスが顔を出す所だった。どうやら少し前から、声をかけるタイミングを見計らっていたらしい。
「朝ごはんができましたから、呼んで来いって、お姉ちゃんが」
「お、マジで? サンキュ」
「わかりました、今行きます」
朗報を受けて、アイクとイオンは朝練を終了し、ミリスらの待つ朝食の席へ向かった。
☆
一昨日までの数日間、2人は今日と同様に『訓練』を続けていたのだが……それを進めるにつれ、どうも妙なことに気づかされた。
訓練中に調子に乗ったアイクが、今日のように『ドラゴンボール』の必殺技『かめはめ波』を出そうとしたときのこと。
ポージングも台詞も完璧。しかし、出なかった。何度やっても。
それだけではない。『エアロブラスト』『元気玉』……といった具合に、使えない技が多々出てきたのだ。『アクアエッジ』などの技は、問題なく使えるにもかかわらず。
「しっかし、何で使えねーんだろうな」
朝食の席。自分の皿のオートミールをかきこみながら、アイクがつぶやく。
「使えない技と使える技があんのかな?」
「……どうでしょう……同じマンガやゲームの他の技……『10万ボルト』や『アクアエッジ』なんかは問題なく使えてるんですけどね……」
「何か大変みたいですけど……無理しないでくださいね。体は大切ですから」
「ああ、わかってます、ご心配なく」
言いつつ、イオンはテーブル中央に置いてある鍋から、オートミールの2杯目をとる。
すると、その様子を横から見ていたイーラが口を開いた。
「ところでアイク君、イオン君、今日って暇?」
「? まあ、特に予定はありませんけど……何か?」
そう答えると、イーラはにやりと笑う。
その笑顔を見て、思わずアイクとイオンは身構えてしまう。
無理もない。2人とも、まだ数日も経っていないごくごく最近、逆レイプに近い形でこの女性に精液を絞りとられているのだから。
嫌な気分ではなかったとはいえ、いい気分であったとも言えないその体験。その事件から日数は経つものの、意図せずして顔も赤くなり、心もち距離ができる。
その様子を見て、心底愉快そうにイーラは笑う。
「あははははっ、大丈夫大丈夫、今回は違うって」
「『今回は』って、イーラさん、あんたね……」
「はぁ…………」
何か言いたそうなアイクに、安心したようなため息をつくイオン。どうやら、また問答無用で精液を抜かれるわけではないようだとわかって、2人に安堵感が戻る。
「まあ、そのことと何の関係もないか……って聞かれたらそうでもないんだけど……」
「? 何か言いました?」
「ううん、何も? 今日はね……ちょっと2人に、もっとよくこのフェルガルドのことを知ってもらわなきゃと思って、勉強会でも開こうかと思ったのよ」
「勉強会……ですか?」
つまり、自分たちの目的である『情報収集』の手伝いになると言うことだ。あの膨大な量の資料を読むだけの時間を短縮できると考えると、それは助かる話だ。何せ書庫の書物の量が多く、分担しても読破には何ヶ月かかるかわからないと悲観していたほどだ。話によれば、まだアイク達が知らないことを中心に解説してくれるとのことであるし。
そんなありがたい誘いを断るはずもなく、アイクとイオンは二つ返事で了承した。
☆
そして、その勉強会。
内容は、まず大まかにアイク達が知りたいことを聞いて、その質問に答える形式だった。
歴史や成り立ちなどの大まかな教養知識を享受してもらいつつ、ところどころに質問をはさんで勉強は続く。
そこはさすがに2人とも最高水準の学習能力を持っているだけあり、凄まじい学習速度で知識を吸収していった。その速度たるや、地元民(?)であるイーラやミリスが舌を巻くほどである。ほどなく2人は、フェルガルドの基礎知識を全て得るにいたった。
そして、勉強会開始から2時間ほどになろうとした頃、
イーラの勉強会は、佳境に突入する。
「さて……ここからは、2人に一番知っておいてほしい事柄を勉強します。ズバリ『純系』と『純度』についてです」
((『純系』と『純度』……?))
その単語に、アイクとイオンは聞き覚えがあった。
この世界に来たその日、ミリスとイーラの会話の中に、数々の卑猥な雰囲気を醸し出す単語とともにあらわされた単語だ(第2話参照)。
それに2人が気付いたことにイーラは勘づいたらしく、にやりと笑う。
「ふふふ……実はね、この『純度』のお勉強、この前……2人に精液を貰った理由とも関係してる……って言ったら、ビックリする?」
「「え!?」」
それはするだろう。
「あははっ、期待通りのリアクションありがとう♪」
「い……イーラさん……」
「お、お姉ちゃん……」
「ふふっ、じゃ、始めよっか。まず確認するけど、2人がいた世界には、『純系』はいなかったのよね? そこから話してあげる」
そう言うと、イーラは何やら本棚から一冊の本を出した。
表紙に書いてある文章の様子だと……医学書の類のように見える。イーラはそれを開き、アイクとイオンに見えるように開くと……笑顔はそのままに、声音を真面目なものにして話し始めた。
「よく聞いてね? 『純系』っていうのが何なのか……そして、その存在が、この『フェルガルド』にどれほど重要なものであるのか……」
この世界『フェルガルド』は、基本的に、少し昔の現実世界(以後、アイクとイオンの住んでいた世界のことをこう呼ぶ)とかなり似ている。
無論、『魔法』や『術士』が存在したり、機械類が発達していないなど、違いも多々ある。それらはまるで、さながらマンガやゲームの中の異史世界のように、だ。
が、その中でもとりわけて違うところがあった。
それはこの世界における、人々の『出産』や『子作り』……もっと生々しく言えば、『生殖活動』について……である。
フェルガルドの総人口は約13億人。年齢比、男女比にも特に現実世界と差は見られない。
問題は、世の中の男性のほとんどが、『不能種(ふのうしゅ)』と呼ばれる、生殖能力を持たない……つまり、女性との間に子供を作れない個体である、ということである。
現実世界の男性とは少し異なり、彼らは体内で作り出した精子による生殖能力が非常に低い。
全く妊娠の可能性が無いというわけではないし、男性のペニスが勃起しないわけではない。快感も覚えるし、射精もできる。ただ、精子そのものの生殖能力が極端に低いのだ。それも、ED等の病気というわけではなく、生まれた時から体質的に。
仮に女性と交わったとして、妊娠する確率はおよそ75万分の1、それも、精力ピーク時の20代を過ぎればどんどん確率的に低くなるため、実質不可能といって差し支えない。
そのため、一般的にこの世界の男女が子供を作りたいと考えた場合、『アンプル』と呼ばれる特殊な精力剤を使い、自らの精力を底上げする以外に方法がない。『アンプル』を使うことによってのみ、『不能種』の男性にも生殖能力が生まれるのだ。
もっとも……それでも、ほぼ0だった確率が数%に上がる程度のものなのだが。
そして『純系』とは、このフェルガルドにおいて、その体内で高い生殖能力を持った精子を作りことのできる唯一の男性種族である。つまり、彼らは現実世界と同じように、セックスという通常通りの方法で女性を妊娠させることができるのだ。
また、『純系』から生産されるその新鮮な精液は、精力剤『アンプル』を調合するための貴重な原材料となる。つまり、『不能種』の男性が子供を残すためにも、『純系』の存在は非常に重要なのだ。
しかしこの『純系』、現在、非常に数が少ない。
現存数わずか1万人足らずとも言われており、単純計算で、『純系』1人あたり6000人以上の『不能種』の男性の精力を世話していることになる。しかも、純系の中にもさらにランク分けがあり、本当に強力な精力をもつ『純系』はさらに少ないのだ。
ゆえに『純系』は、国や自治体にとっては存続を左右する鍵であり、1人の『純系』を巡って争奪戦が起こったり、裏の組織によって人身売買のターゲットにされたりすることも珍しくはない。正にこの世界の至宝とも呼ぶべき存在なのである。
「書物によれば、最盛期……今から何百年、何千年も前にはもっと多くの純系が世界にいたらしいんだけど……もうその面影はないわね。フローネ地方の全ての男性を調べてみても、『純系』は1人もいないもの」
「そうなんですか? 1人も? 確率論的におかしい気がしますけど……」
「確かよ。男性はみんな、5歳になるとすぐに『純系』かどうかを調べる検査を受けるの。その検査結果をみたけど、ゼロ」
肩をすくめてそうイーラは言う。あまり悲観はしていない様子だ。
「仮に見つかったとしても……その『純系』はすぐに大都市の支配者に賓客として家族ごと呼ばれて、出て行ってしまう。こんな地方には1人も残っちゃいないのよ」
「なるほど、それで……」
それならば納得もいく。確かにそんな貴重な存在ならば、大都市の領主や豪商などの富裕層は、どんなに金を払ってでも手元に招きたいはず。そうなれば……こういった地方は格差の餌食になるというわけだ。
「夫婦が子供を作りたければ、方法は実質的に1つ。『アンプル』を使い、ダンナの精液を妊娠可能なものに変えてエッチすること。それでも、ほぼ0%だった可能性がほんの数%になるだけのもの。加えて、生まれる子供は生物学的にみーんな『不能種』ってわけ」
そしてここまで言うとイーラは立ち上がり、また新たな本を本棚から取り出しながら、話を続けた。
「さて……ここからは私の予想なんだけどね? 実は私……」
そこで一拍置いて、
「君たち2人が……その『純系』じゃないか、と思ってるの」
「僕らが……ですか?」
「そう」
アイクとイオンは返答に窮していた。
いきなり、自分たちのことをそんな希少種族であるかのようないい方をされれば、それは戸惑う。自分達は確かに異世界の存在ではあるけれど、たまたま(多分)女神の目に留まって、死後拾われてこの世界に来ただけであり、いろいろな肩書きをとればただの人間なのだ。
しかし……そう思う反面、疑わしくもあった。なぜなら、今イーラが述べた『純系』の条件……それら全てに、自分たち2人はきっちり当てはまっているからだ。
厳密にいえば、自分たちのみならず、現実世界の男性はみんなそうだから、何か特別だというような感覚はない。しかし、事実としてはある。それゆえに戸惑うのだ。
「それにね? こんな言い伝えも残ってるのよ。ほら、コレ見て?」
「「?」」
イーラが開いた本―――どうやら、童話や言い伝えを記した記録書のようだ―――のページには、1つの伝承が記されていた(英語で)。2人には、それが読める。
内容は、ざっと……
『昔、ある村の娘が、生き倒れになっている1人の男性を助けた』
『男の体にはさしたる怪我もなく、すぐに元気になった』
『しかしその男は妙なことに、フェルガルドに関する知識を何一つ持っていなかった』
『その男は、『純系』だった』
『その男は、自分は、生きる男性が皆『純系』の国から来た……と話した』
「「!」」
「どう……? アイク君とイオン君に似てるでしょ? ちなみにこのお話……伝承の具合から、まんざらフィクションってわけでもないみたいよ?」
好奇心の籠った、イーラと、そしてミリスの視線が飛んできている。
しかし、アイクとイオンには、それすらもあまり気にはならなかった。自分たちの頭の中の疑念が、確信に変わりかけていたからだ。
「……どう思う、イオン?」
「ええ……可能性はあるかと。まあ、女神が選んだ『勇者』が、後にも先にも僕ら2人だけ……とは限りませんしね」
「身に覚えがあるみたいね?」
2人の表情の変化を読み取り、イーラは薄く笑みを浮かべる。
「やれやれ……こんな話、純系の人口低迷を悲観して作られたおとぎ話だとばかり思ってたんだけどね……まさかホントとは」
「それはわからないでしょう。それは本当に空想の産物で、僕らはたまたまそのケースに一致しただけ、という可能性もあります」
イオンが反論を述べる。確かに、その可能性も否定できない。だが…
「でも、少なくとも俺らは『不能種』とかいうのじゃねーよな……」
「ええ。それにそれを『純系』の基準とするなら僕らも、そして僕らが元々居た世界の人たちも…」
「『純系』…なんですか…?」
驚いたように聞くミリス。まだ信じられない様子だ。それはアイクらも同じだったが、事実である以上、彼らには頷くことしかできなかった。
無理もない。彼女たちにしてみれば、女性を妊娠させられる『純系』は、ごくごく限られた超希少種。それが、今2人も目の前にいるというのだから。
しかも、聞けば聞くほど出てくる、信じられない仮説の数々。そのパニック具合は、この世界に飛ばされた時の2人と近いものがあるだろう。
一連の流れが一応切れたことを確認すると、イーラは本を閉じた。
「まあ、今はそれだけ聞ければ十分だわ。ありがと2人とも。けどまあ……」
そこでいったん切って、
「君たちが『純系』なのかどうかは……もうじきわかると思うわ。村の方の研究機関に、君たちの精液のサンプルを渡したから……それを分析すれば、君たちが純系か否か、純度はどのくらいか……それがわかるわよ」
「ああ、俺らのアレは……そのために?」
「そういうこと。ま、ちょっとは自分の楽しみ……ってのもあったけどね」
ぱちっ、とウインクしてみせるイーラ。その仕草に、その『楽しみ』の部分を直接食らっているイオンは顔が赤くなる。
「あ、そーだ……その『純度』ってのは何なんすか?」
と、説明されなかったもう1つのワードを思い出して、イオンが尋ねる。それを話そうとしてだろうか、イーラが口を開きかけた時、
「イーラお嬢様、そろそろ商談のお時間が近付いておりますが?」
侍女のそんな声が、書庫の扉の向こうから響いてきた。
「あー……そうだった……今日もだった……」
「またなの? お姉ちゃん、ここんとこ忙しいね」
「あーまあ……『総会』近いしね」
うんざりしつつも、仕事であるがゆえにきっちりした態度で臨むのであろうイーラはぼそっと呟く。この家の代表であり、フローネの村に関する商談などを一手に引き受けるイーラであるがゆえに、用事よりも勉強会を優先するわけにはいかないのだ。
それを知っている……というか先ほど勉強中に聞かされているアイク達は、どうやら続きはまた明日になりそうだな……と直感した。
案の定というか、それは当たったようで、
「じゃあ……ごめんなんだけど2人とも、続きはまた今度でいい?」
「ええ。今日はありがとうございました」
「ためになったっス」
「そう、それはよかった。もし生活中にわからないことがあったりしたら……私が出られないうちは、ミリス、お願いね?」
「え? あ、うん……わかる範囲でなら……」
「よろしい」
妹の返事を確認し、イーラは扉の向こうへ消え……
…………る前に、もう一度顔を出して
「あ、そうそう、アイク君、イオン君。さっきの『純系』の話だけど……」
「はい?」
「……もし、君たちがホントに『純系』だったら……色々と状況も変わってくるかもしれないから……そこは考えておいてね?」
とだけ言い残して、今度こそ扉の向こうに消えた。
残された3人は、今の置き土産ともとれるセリフに違和感を覚えつつも、とりあえず本やらペンやらの片づけに入る。
やりながらアイクは、
「なあ、イーラさんが言ってた『状況が変わってくるかも』ってどういうことだと思う?」
そんなことを、誰にともなく聞いた。
それを聞いて、ミリスは顔を赤くするだけだったが、どうやら同様にそのことを考えていたらしいイオンは反応する。
「まあ……いわく所、『希少種中の希少種』ですからね……。そりゃ、色々と僕らに対しての目も変わるでしょう」
そんなことをつぶやいた。
アイクはなるほど、とだけ言って、それ以上は話すこともないと判断してか、黙々と片づけ作業を続けた。
この世界の思いもよらない現実を聞かされて、一体これからどういうことになるんだろうか、と、予想もできないことを懸命に予想しようとしながら……である。