Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
アイク達の、モーガンとの戦いの決着から1時間。
場所は……帝国軍がいなくなった、テイロスの町の役所だ。
王国騎士団によって取り戻されたそこの仮眠室で、アイクとイオンは眠っていた。
あの後、何があったかというと、
トップを失った帝国軍はすぐに崩壊し、生き残った者たちがまとまってすたこらさっさと撤退した。テイロスも、その周辺の町村も放棄して、だ。
その際、何人かの兵士達が、モーガンとの戦闘で満身創痍のアイクとイオンを不意打ちしようとしたが、かけつけていたユキに全員返り討ちにされた。
それらいくつかの騒ぎを経て……アイクとイオンの長い一夜はようやく終わったのである。
避難民の世話などの後始末をギオらに任せ、2人は仮眠室に入って眠りについた。
その横では、ミリスとカナがしっかり見張り兼世話のためについていた。
☆
その翌朝、
場所は食堂。
がつがつ……がぶりゅ……ごくごく……ぱりぱり……むしゃむしゃ……
「「「…………………………」」」
警護のための兵士達や、お礼を言うためにやってきたテイロスの正式な代表たちが唖然としている前で……アイクは、テーブルに並べられた料理を掻きこんでいた。
某グルメ漫画のごときスピードで消えていく料理の数々は……ほとんどが、
「アイク様ぁーっ! ポテトサラダとコンソメスープとサイコロステーキ、お待たせしましたー!」
「おー待ってました! 悪りーねカナ!」
「いいえ! アイク様のためなら、何百皿だって料理しますっ!」
とまあ、給仕の少女達と一緒に料理を運んできたカナが、満面の笑みを浮かべる。
そう、カナが作ったものだった。
卓越した炊事スキルでもって、アイクのエネルギー回復のために必要な食事を作り、彼の胃袋を満足させている。テイロスに勤めの給仕たちの手も、少し借りていたが。
しかも気が利くもので、がっついて手っ取り速く食べられるような、そしてそれでいて栄養バランスも完璧な献立になっている。
ちなみに、アイクは既に12人分もの量の食事を完食しているが、食材については、ユキがどさくさまぎれに帝国軍の食料庫を奪取していたので、避難民への救援物資を差し引いても、まだまだいくらでもある。問題ない。
箸でサイコロステーキを3つ一気に口に放り込みながら、アイクは会いに来た者たちに向き直った。皆、そのスマートな体のどこにこの量の食事が入るのか……と、唖然。
「あー、すんませんね、戦うと腹が減って……対談なら後に……」
「い、いえ、このままで結構です。お話しても?」
「まあ、食べながらでもいいなら(ごっくん)……イオンは起こしますか?」
と、アイク。
イオンはまだ寝ている。『睡眠』がエネルギー回復の条件のイオンは、アイクの予測だと……あと2時間は起きない。
「いえ、お疲れでしょう。アイク様とユキ様と……ミリス様がいらっしゃれば、それで」
「わ、私ですか!?」
自分の名前が出てきたことに(しかも『様』付きで)驚くミリスだが、一応彼女は、アイク達が籍を置くフローネの代表。十分VIPだ。
おどおどとしつつも、ミリスは席(食卓)につく。すぐさまそこに、カナの指示を受けた給仕がお茶を出した。手際よし。
それを確認し……食事の音に負けないような音量を保ちつつ、ギオが口を開いた。
「さて、このたびは本当に……感謝に言葉もございません。私どもがふがいないばかりに招いてしまったこの最悪の事態を、お3方の手でいともたやすく……」
「それ昨日も聞きましたけど」
ユキ、遠慮皆無である。
「……失礼しました。ではお食事中でもありますので、最低限必要な事項の説明に入らせていただきます」
そう言ってギオは、書類を手に話し始めた。
帝国軍の撤退、制圧されていた町村の救援の完了、町の再興のめどが立ったことまで……どれも、吉報といって差し支えないものばかり。
ちなみに、戦いで崩れた建物などは……非常線を張って、近づくことを禁止しているらしい。賢明な判断だ。何かの拍子に瓦礫が崩れないとも限らない。
説明がやたら長ったらしかったが(これでも縮めたらしい)、育ちが育ちのアイクにとってはあまり苦痛ではないし、ミリスは一言一句聞き漏らさずにまじめに聞いていた。
彼女の場合、イオンがまだ起きていないがゆえに、しっかり聞いて後で伝えなければ……という責任感もある。メモを取る紙(だいたいA4サイズ)も、既に6枚目。
その話が終わるころには……アイクも食事を終えていた。
食べたその量、実に20人前(しかも全部大盛り)。給仕をしていたカナに対しても、ご苦労様……と言う他ないだろう。
だがまあ、昨日消費した分のエネルギーを考えれば、妥当な量なのだが。
そして、そのタイミングに合わせたかのように、
「あ……おはようございます、皆さん」
「お、イオン」
食堂の扉を開けて……イオンが入ってきた。寝起きらしいが、きっちりとブレザーは着てきている。
イオンは腕時計を見て、さらにアイクの目の前に積み上げられている大量の皿を見て、相当に長く眠っていたようだ、ということに気づく。
自分も食卓につくが、まだ食事はいい、とつたえ、ギオに向き直った。
「ええと、説明でしたら……」
「あとでミリスさんに伺いましょう。がんばってくれたようですので」
と、ミリスの手元の山のようなメモを見つつ、イオン。
ミリスはそれに気づき、顔を赤くして、しかし少し嬉しそうにした。
イオンはギオに向き直り、
「ギオさん。僕らは……傷が癒え次第、フローネに帰ろうと思いますが」
「さ、左様ですか……私共としては、此度のあなた方の大手柄、ぜひとも王都まで来ていただいた上で、中枢の方々の元にご報告申し上げたいのですが……」
と、ギオ。
それはそうだろう。今となっては王国中で話題になっている……純度10の純系……その2人が……帝国最強の16人の1角を倒し、その襲撃を退けたのだ。
王国騎士団にも不可能だったその所業……ただ感謝して終われるようなものではない。本来なら、そういった賓客扱いでの謝儀があってしかるべきだが、
「その必要はないでしょう。どの道、僕らは近いうちに、王都アルビオンに召喚を受けるでしょうし……積もる話はその時にしたほうが、効率もいい。それに……フローネに戻ってやるべきことが、僕らにはまだあります」
「は、はぁ……では、我々は王都に帰還の後、そう報告させていただきます」
そう言って、ギオは一礼。
と、その時、
『ちょ、ま、待たんか! 今この奥では、純系のお2人がだな……』
『だーかーらー、その2人の知り合いだって言ってるだろあたしは! 急いでるんだからさっさと通せ三下!』
『何を言……な、なんだこのバカ力は!?』
「「「…………!?」」」
何やら、部屋の外が騒がしい。不思議に思い、全員の視線が扉に集中する。
すると、
「おいイオン、お客さんだな?」
「はぃ?」
と、アイクのセリフにイオンが聞き返した瞬間、
ばたぁん!
「うぃーっす! お邪魔しまーす!」
「!? せ……セラさん!?」
扉を蹴り開けて、その向こうから……遠慮皆無で入ってくるセラが姿を現した。
アイクのセリフは、これを察したからのものか……とイオンが悟ると同時に、そのセラの腰の辺りにしがみついている護衛兵達にも目が行く。
どうやら止めようとしていたらしいが……予想外にセラの力が強かったとみた。
「おー、イオンに、その兄貴の……アイクだよな? いやー昨日はサンキュな! おかげで助かったわ」
「お、女! 純系様にそのような口の聞き方を……」
「うるせーなー……だから知り合いだっつってんだろ?」
そう面倒くさそうに言うセラは……コルセットのようなぴったりとした服に、オーバーオールの作業着風ズボンという、動き安そうな動きづらそうな、特徴的なスタイル。
髪は洗ったようだが、ブラシなどを使った様子はなく、相変わらずのぼさぼさ。
おまけに……腰に、ハンマーや折りたたみのノコギリ、釘入れ袋ややっとこなどを下げたベルトをつけている。手には、鉄板で補強までされた頑丈そうな革製の手袋だ。
そのスタイルに、技術者だ、と名乗っていたのをイオンは思い出す。どうやら本当だったらしい。つまりあれは……彼女の標準装備だということになる。
まとわりついている兵士たちを(腕力で)振り払うと、セラはイオンたちのテーブルにかけてきて……
と、そこに到達する前に、何かに気づいたかのように止まった。
すると次の瞬間、
「せ……セラさん!」
テーブルを囲っていた騎士団員の1人が……セラの名前を叫んで彼女に駆け寄った。
それを見てイオンは、セラが『騎士団に恋人がいる』といっていたのを思い出し……今の彼がその恋人なのだ……と気がついた。
セラの話では、取り残されて逃げられた……とのことだったが、どうやらセラを心配していたようだ。安堵の表情と共に、警護の場を離れてまで恋人に駆け寄る。
「よかった……無事だったんだね! 心配してたよ」
と、硬直しているセラに声をかけるその兵士。
「すまない、助けられなくて……でも、もう大丈夫だ、今度は僕が君の事を……」
と、そんなセリフと共に兵士がセラの肩の手に乗せた瞬間、
「さわんな」
バキィッ!!
「ブゴォッ!?」
「「「!?」」」
衆人環視の前で……セラの鉄拳がその兵士を殴り飛ばした。
壁にたたきつけられ、わけがわからない様子でセラを見返してくる彼の元に、見た目一発機嫌が悪そうなセラが歩み寄る。
「なにカッコつけてんだ今さらよぉ……あん時あたしをおとりにして帝国軍から自分だけさっさと逃げといて……。ヤバくて助けられそうにないから見捨てる……っていうんならまだしも、わざとあたしをエサに使うってお前どういうことだこら!」
「ちょ……ちょっと待ってくれセラさん! 誤解だ! 僕は君の事を本当に……」
「何が誤解だ。お前あの時『セラ! 君はここに隠れていてくれ! 僕がその間に敵をひきつけるから!』なんてわざとらしいセリフ大声で! んなこと帝国兵に聞かれたらあたし捕まるに決まってんだろ!」
もっともだ。彼の真意がどうだったのかは測れないが、そんなセリフを聞かれたら当然……帝国兵は隠れている捕虜を探すに決まっている。
「おまけに自分は『引き付ける』なんて言っといてさっさと逃げるし。お前がホントはどういうつもりだ ったのかなんかもうわかんねーけど、仮にそんなつもりなかったとしても、そんなこともわかんねー奴と付き合いたくねーよ! ってことで、サヨナラ」
「そ、そんな……待ってくれセラさん! 君のことが本当に僕は好……」
「黙れ」
ごすっ!
「がはっ!」
まだあきらめきれずに愛を語ろうとした兵士の脳天に、セラの鉄拳が直撃。屈強なはずの兵士は、彼女のその一撃であえなく意識を放棄した。
その彼が、呆れ半分、同情半分の同僚達によって運び出されるのを見つつ、ふぅ、とため息をついたセラは、ギオに向き直る。
「そんなわけで、あたしはここで離脱します。コレ以降は顔合わせるのもアレなんで……今日限りで、騎士団の専属技術者としての契約も解約させてもらえますか?」
「! ……そうか……なら、無理に引き止めることはできないな……君が作ってくれる武器は、都でもそうそう手に入らない一級品だったのだが……」
どうやら、セラは王国騎士団のギオの部隊と、武器に関しての受注・修繕を引き受ける契約を結んでいたらしい。彼氏のコネか、それとも元々だったのか……はわからないが。
その騎士団と、これ以上一緒にいる気がなくなったために、そして騎士団員の元カレと顔を合わせるのが嫌であるために、契約ごと取り消して自分は去る……というわけだ。
と、ギオはふとたずねた。
「しかし、君はこの後どうするつもりだい?」
「そーですね……」
そう言って、セラはあごを抱えた。
実のところ、セラにこれからの具体的なビジョンはなかった。いつまでもこの町にいても得るものはないし、いる目的がそもそもない。宿代がかかるだけだ。
しかし、どこか他に行くにしても……それなりに装備と資金が要る。
訓練された兵士でもない者が、山道を徒歩で歩いていくのは無謀というものだ。馬車か何かに乗らないと、時間もかかるし道にも迷いやすい。
それに、山中には山賊や人攫いなどの邪な輩が出る危険もある。護衛は必要だ。
他にも、防寒具や食料……それらの確保も必要。
それらには総じて、結構な額の金が要る。仮に、馬車をチャーターし、護衛を雇い、食料も買い込むとなると……山を越えて人里に出るまで、大体……
「1000ドルか2000ドル……じゃ、まだ足りねーかな……」
「しかも、この混乱具合ですから……ここから近いうちに出発しようなんていう商隊なんて、当分ありませんよ? 同じ理由で、護衛も多分……」
「それまでは宿で待機か……日雇いで何か仕事見つけるにしても、割に合わないし……金たまらねーな……。なあ連隊長さん、ここまでの分のあたしへの謝礼金とかないか?」
「もちろん払いたいが……いかんせん我々も懐に余裕がない。おそらく、後々……王都に戻ってから届ける形をとらざるを得ないな」
と、ギオ。無理のようだ。
となると、どうやら……セラがこの町を出るには、王国騎士団についていく以外に手段がなさそうだが……そもそもセラは、それが嫌で解約を申し出たのだ。ギオたちは、契約の延長と引き換えで、喜んで受け入れてくれるだろうが……セラは納得しない。
「……ちぇっ、しょーがねーな……娼館でも探すか。このくらいの町なら、1つ2つあるだろ」
「え、ちょ、娼婦をやるつもりなんですか!?」
と、爆弾発言にミリスが驚いて聞き返す。
「んーまあ、気乗りはしねーけど……そうでもしないと金たまらねーしさ。ま、何日かやってりゃ、旅費
くらいはたまるだろうし……あとはまあ、どうにかなるさ」
あくまでも軽口だが、内容はとんでもない。
確かにいい気はしないが……セラはあまり気にしていない。セックスの経験もあるし、レイプだってされたことがある。金と引き換えに体を売りつけるのも、我慢できないほどつらいわけではない……と考えていた。酒で忘れられる程度だ、と。
何か言いたそうにしていたが……ミリスも、他の者も……自分達がどうこうできる立場でもない以上、何も言えない。仮にも異世界、安全な旅にはそのくらいの金が要る。
「んじゃまあ、そういうことだから。あ、よかったらあんたら、あたしがどこに勤めてるかさがして来てみれば? サービスはできないけど」
と、言ってセラが部屋を後にしようとしたその時、
「じゃあ……よければ、僕らと一緒に来ませんか?」
「「「え!?」」」
と、イオンの声に……セラを含めた全員が聞き返した。
意外そうな表情で振り返るエラに、イオンは今しがた運ばれてきた紅茶をすすりながら、目で『どうでしょうか?』と聞き返している。
しばらく唖然とした後、
「えっと、イオン……それはその……送ってってくれるって意味?」
「あ、いえ、そうではなく……僕らのホーム……フローネに一緒に来てはどうか、と。特に……どこに行くかというのも、決まっていないようですし」
「ま……マジで?」
渡りに船、という言葉でも、正直この場面での都合のよさを言い表すには至らない。
馬車も、イオンたちが元々乗ってきたものがあるし……護衛も、イオンたちの強さをもってすれば申し分ない。食料に関しても、簡単に調達できる。イオンからの誘いは……全ての問題点を一度に解決できる。
何より……純系であるイオン直々の誘い、というのが……セラには印象が強い。
事情があったとはいえ……仮にも一度、肌を重ねているのだ。もしかしたら……などという浮ついた考えも、女の性ゆえか、心をよぎる。
「でもお前、何でいきなりそんなこと言い出したんだよ?」
と、コレはアイク。
イオンはそれに……何を考えたか、ギオの腰にさしてある剣を借りて、
「ほら、この剣……すごくいいつくりでしょう? 聞けばコレ、セラさんが作った物だっていうし……細工なんかもすごくきれいです。鍛冶や彫金に、確かな腕をもってるなあ、と思いまして。ギオさんも絶賛してましたし……それほどの方に来ていただけたら、フローネもますますよくなるんじゃないでしょうか」
(ああ、そういうことね……)
納得しつつも……少しだけ残念そうなセラ。
横目に、少し顔を赤くしてイオンの目を見つつ、その返答を考えるが……その胸中に、特に断る理由は見つからない。
何より……
「………………(ちらっ)」
「………………?」 ← イオン
目の前のこの少年は……つい最近知り合ったばかりにもかかわらず、とても頼もしく、とても仲良くなれそうに見えた。
この先、どんなことになるのだろうか、と、セラは……興味を持った。
(まあでも……面白そうだ!)
そして、にやりと笑い、
「よし……その誘い乗ったぜ! イオン!」
親指を『ぐっ』と立てて、元気よく返事を返した。
「この鍛冶・彫金・絡繰(からくり)技師、セラ=デゼルダム! あんたに連いて行って……あんたのためにこの槌を振るおうじゃねーかっ!」
堂々と、正面からそう宣言した。
アイク達のもとに……また1人、仲間が加わった瞬間だった。