Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
時は一旦遡り、
アイクとイオンがモーガンに打ち勝った……その夜のことである。
2人はモーガンを倒してから、その後ユキと合流し……すぐに休息を取れる場所へ向かった。その際、追ってきた兵士は全員ユキが再起不能にした。
その際……ほんのわずかな間だけ、昏倒させられている兵士達と、瓦礫の下のモーガンをのぞいて、アイク達が戦った広場が完全な無人になる時間帯があった。
そのわずかな時間の間に……すたっ、と2人の人物が、広場に舞い降りた。
ちょうど月が隠れているところであるため、2人とも……暗くて姿はよく見えない。
そのうちの1人が、瓦礫の山に向かって片手をかざすと……瓦礫がふわりと浮き上がり……どいていった。あっという間に、その下敷きになっていたモーガンが現れる。
「あららら……ひでーなこりゃ。全身骨折だし……狼牙棒(エモノ)壊れてるし……」
「それでも……息はあります。身体強化魔術のおかげかと」
「ったく……さすが『鋼鉄』、大したもんだ。ほら、さっさと起きろー」
ぺしぺし、と頬を軽くたたかれ……うめき声を上げながら、モーガンは瞼を開けた。
そして、焦点がようやくあってきたころ……示し合わせたかのようなタイミングで、雲がどき……広場に月光がさした。
「お、お前達……!」
眼前の2人の存在をようやく認識し、モーガンの双眸がカッと見開かれる。
1人は……モーガンにその日、分隊の全滅を報告した、隠密部隊の女だ。
暗くてわかりづらいが……明るい藍色のロングヘアに、無駄な装飾の一切ない隠密式のスーツが印象的だ。黒色の、体にぴったりと張り付くようなデザインで……それに軽くマントを羽織っただけ。肌の露出はないが、どことなく扇情的にも見える。
そしてもう1人は……長身に赤色の短髪が特徴的な男だ。
念動力のような力で瓦礫を持ち上げているこの男……他の2人は知る由もないが、サイミールで女を買って抱き、アイク達の情報を聞いていた……あの男だったりする。
まるで普段着のような軽装に、髪の色と同じ赤いコートを着ているだけの服装。長袖長ズボンとはいえ、戦場だったこの瓦礫の山に立っているのは……少々不似合いだ。
軽い感じの笑みを浮かべる男に、女が語りかけた。
「リュー様、モーガン様、じき……ここにも人が来ます。お話は後になさいまして、早々に退却すべきかと」
「……ふん……動けたらな」
「ご心配なく、手伝わせていただきます」
そう言って、女はモーガンを担ぎ上げ、肩にかけ……瓦礫の山の外まで運んだ。見た目に似合わず、腕力はあるらしい。
それを確認して、男……リューと呼ばれていた彼は、瓦礫を元に戻す。大きな音を立てないようにして、だ。
「……時に、隠密部隊の女……お前はともかく、こいつがなぜここにいる?」
「偶然だそうです。サボタージュの最中に通りがかったと」
「んなこと気にしてる時でもねえだろ。失敗したならしたなりに、きっちり本国に戻って後処理しねーとな」
そう言って、男は女からモーガンの身柄を受け取った。
「任務失敗の罰を与えに来た……というわけではないのか?」
「ったく……相変わらず頭までかてーなお前は……大怪我人は治ることだけ考えてろバカ。連れて帰ってやっから、寝てていいぞ」
「…………ふん……」
その次の句を待たず……大怪我人1人を含む3人は、町の制圧を開始した騎士団が来る前に……闇にまぎれて町を後にしていたのだった。
☆
それから数日後のある日。
場所は……フローネの村。その村長宅。
そこで……テイロスから戻ったアイク達は、つかの間の休息を味わっていた。
そして、今回の旅で新たに仲間に加わった、彼女はというと……
「よぉーっし、出来たぁ!」
「うわぁっ、すっげー! もう出来ちまったよ!」
「しかも仕上がりがこんなに丁寧だなんて……すごいわね!」
「あっはっは、もっとほめろー少年少女」
とまあ、家の裏で、その超一流……といってもいい技術を、日曜大工の分野でも遺憾なく発揮しているセラであった。
その傍らにいる、カナの弟妹達は……目を輝かせてその手際に見入っていた。
何せ、先程まで材木だったものが……ものの十数分で、セラの手によって立派なことこの上ない椅子に変貌を遂げたのだ。専門店で、それなりの高値で売っていても不自然でないほど、作りこみも丁寧で立派な椅子に。
パフがバイト先で余った材木をもらってきたことと、ミリスの家にある椅子の1つが壊れてしまっていたこと、たったこれだけのささいな理由から、セラの『んじゃ作るか』の一言に始まり……今に至る。
テイロスでのイオンの見立てどおり、セラのこういった分野に関する腕前は見事の一言に尽きた。
ギオが太鼓判をおしていた鍛冶技術に始まり、彫金や細工物、大工仕事や陶芸にいたるまで、セラの器用さは尋常ではなかった。さまざまな商談を経験し、名工と呼ばれる人物の作品を幾度も目にしてきたオッドやイーラすらも……絶句していたほどだ。
仕事が速く、しかも丁寧で品質もいい……言葉にするのは簡単なれど、才能を持つものでも実行するのは難しいそれを、セラは呼吸するかのようにやってのけるのだ。
ためしに武器も作ってもらったが……オッドいわく、褒め言葉が見つからないらしい。武器商人ルートに持ち込んだら、一般市民の月収ほどの値がつきそうだとのことだ。
そんな手腕を毎日遺憾なく発揮しているセラは、一仕事終えた…………とは椅子を1つこしらえたくらいでは言えないので、残りの材木も使って日用雑貨を散々こしらえた後、イーラの書斎を訪れていた。
そこには、
「しっかし……またえらいの拾ってきたわね、イオン君……」
「拾ってきたって……ものじゃないんですから……」
と、イオンはイーラに返す。
そのイーラは、セラが作ったティーカップを手にしみじみと眺めながら、書斎のデスクでため息を漏らしていた。色々な角度でじっくりと見て、
「これだけの良作を、簡単にこしらえちゃうんだものね……天才ってレベルじゃないわよ、もう。コレ一個でも、売ったら……末端価格で120ドルはかたいわね」
「褒めてくれるのは嬉しいけどよ、売るなよな? それ一応、あたしからイオンへのプレゼントなんだから」
口を尖らせつつ、セラはそう言う。
イオンの向かい側のソファに座っているセラは、イオンが『純系』だと知った後も、特に気にしたりなどすることなく、普通に接していた。もともとこびへつらうような態度が苦手らしいのだが、イオンとしてもその方がやりやすいので助かっている。
これほどの腕を持ちながら、今まで大きな家のお抱え職人などにならなかったのも……おそらく、このあたりの性格が関係しているのだろう。
「万能メイドのカナちゃんといい、凄腕職人のセラちゃんといい、なんか面倒なことに巻き込まれたと思ったら、その後必ず凄まじくハイスペックな女の子連れて帰ってくるわね、アイク君もイオン君も。そういう星の下に生まれてるのかしら?」
どんな星の下ですか、と突っ込むイオンを無視したイーラに、今度はセラが、
「ところで……話って何すか? そのためにあたしを呼んだんだろ?」
敬語の使い方が滅茶苦茶な言い方(というか使えていると言いがたい)にイオンが少し嘆息していると、
がちゃり
「お姉ちゃん、来たよ?」
「おじゃましまーす」
「ういーす」
「失礼いたします」
書斎のドアが開き……ユキとアイク、それにミリスとカナが入ってきた。
「あ、そろったわね、ちょうどいいわ」
「『そろった』? イオン、セラ、お前らもイーラさんに呼び出されたのか?」
「ええ、まあ……イーラさん、今日はその……どういった用件で僕らを?」
と、聞くと……イーラは質問に答えるためだろうか、何かの書類を手に、イオンらがすわるソファのほうに歩いてきた。
カナによってお茶が全員に行きわたったタイミングで、
「さて……と、それじゃ本題に入りたいんだけど……あ、その前に、セラちゃんに確認取らないとね」
「? あたしに?」
注がれるなりお茶を一気飲みしたセラが聞き返す。
「うん。ぶっちゃけさー……セラちゃんって、イオン君かアイク君のハーレムに入る気とか、あるのかしら?」
「え!?」
と、反応したのはイオンだ。
無理もない。イオンにしてみれば、セラは嫌いではないとはいえ、純粋に優れた技術者としてフローネに誘ったつもりである。下心などなかった。
ましてや、テイロスで一度肌を重ねている関係であり……不可抗力だったとはいえ、ここでそういう話題に持っていかれるのはあまり好ましくなかった。
セラに嫌悪感を抱かれても仕方ないか、とイオンは思う。
が……そのセラはというと、
「あー……それ、あたしも考えてたんだよな」
「「「?」」」
と、さして重くもない口調で話す。
イーラとセラ以外の全員……イオンを含めて……がきょとんとする中、遠慮なく口を開いたのはイーラである。
「ふぅん……それってつまり、アイク君かイオン君……どっちかに好感を抱ける……ってことよね?」
「ま、そうなるかな。ちなみにイオンの方に」
そう言ってセラ、イオンの方をちらり。
「危ないとこ助けてもらったし……何ていうか、偉いのに気取ったりしてないとことか、すごく……安心するって言うか、さ。一緒にいるのが楽しい感じがするんだ」
「ふぅん……しっかり毒牙にかかっちゃってるわけね」
「はは、そーかもな……んで、それが何か?」
聞かれると、イーラは『待ってました』とでも言わんばかりの笑みで、手に持っていた書類を机の上に広げる。
一同が見てみると……それは、ここにいるメンバーでは、セラ以外の全員が目にした事のある書類だった。
そこには……『ミストレス登録用書類』と書かれている。
「これって、ミリスさんと私が書いたあれと同じですけど……」
「そ。今日は……返答いかんで、セラちゃんとユキちゃんにも、コレ書いてもらいたくってね」
「「え?」」
名前があげられた2人の声がそろう。そしてイーラ、説明続行。
「前に話したと思うけど、女性を『ミストレス』にするには……その所属地方を統括する領主様……まあ、エラ様の承認が要るのよ。その手続きに必要な書類なんだけど、そろそろ……全員分出したいのよね。ってことで、ユキちゃんも、たった今意志を確認させてもらったセラちゃんも、これ書いてほしいの」
「あ、やっぱり……私もどっちかのハーレムに入るんですか?」
と、ユキ。
アイクとイオン、両方の恋人であるユキは、どちらハーレムに所属するのかなど、どうでもいいことだった(どうせどっちともヤるから)ために、こういった問題を考えた経験が希薄だった。それにそもそも、ユキにしてみれば考える必要性を感じない。
しかしイーラは、
「そうしてもらえると嬉しいわ。強制するようなものじゃないんだけど……そろそろ、アルビオンから呼び出しがかかりそうな頃合だから」
と、イーラの口から飛び出した言葉に、全員の意識が向いた。
つまり、イーラが言うことには、
「何度も言うんだけれど……『純系』のアイク君たちには、きちんとハーレムを作ってもらいたいの。けど、2人とも……ハーレムのメンバーは、まだ1人ずつでしょ? アイク君はカナちゃん、イオン君はミリス……これじゃ、ハーレムとは言えないわ」
確かにそうだ。
構成メンバーがたった1人など……恋人やセックスフレンドとかわらない。まして、アイクやイオンの『ハーレム』は元よりそういう方向性なのだ。
その条件で、対外的に『これはハーレムですよ』と強調するには……人数が必要だ。
「だから、せめてもう1人ずつくらいはほしいのよね……」
「それで、あたしに?」
と、セラ。
「そういうこと。どう、セラちゃん?」
「あぁ、そういうことなら、いいぜ?」
「そっか、よかった! じゃ、ここに名前と……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
と、あまりにもスムーズに話が進みすぎているところに逆に違和感を覚えたイオンが、割り込んだ。
「いや、ちょ……セラさん、わかってるんですか? その……そんな軽い調子で、ハーレム入りとか何とかを決めちゃって、その……」
するとセラはははっと笑って、
「なーに言ってんだよ、イオン。別にあたしは、そんな軽い判断で決めたわけじゃねーよ。っていうか……前々から考えてたことだしさ」
「え?」
意外そうにするイオン。アイク達も同様だ。セラの発言の内容が気になってだろう、視線を集中させて耳を傾けている。
その心中を察してか、セラは彼に向きなおって説明に入る。
「あたしは別に、金と地位がほしくてハーレムに入るわけじゃねーさ。ていうかそもそも……あの時既に、イオンのこと好きかなー、とか、ちょっと思ってたし」
「『あの時』ってーと……地価牢か?」
と、アイク。その脳裏には、自分が突入した際、肩や下半身裸、肩や全裸でぐったりとしていたイオンとセラの姿……という光景が思い出されていた。
「あぁ。もともとあたし、王国騎士団のやつの恋人だっただろ? けど、土壇場であっさり見捨てられて、帝国の野郎共に捕まって輪姦(まわ)されて……ま、恋愛なんてこんなもんか、って正直あきらめてたんだよ」
「そこに現れた白馬の王子様が、イオン君だったわけ?」
「ははっ、どっちかって言うと……『白濁』の王子様だった気がするけどな」
セラの口から容赦なく飛び出す卑猥な単語に、しかし否定できないイオンの顔が紅潮する。
しかし、セラの心にあったのは……決してからかいの気持ちなどではない。言語的に適切とも、モラルを心得ているとも言えないだろうが……彼女の口を突いて出るのは、イオンに対して感じられる、素直な心根だ。
「けどまあ……それは抜きにしてもよ……あたし一回失敗してるから、余計にわかるんだよな。イオンがその……ほんとに誠実で、頼れる奴だ……ってことがさ」
「あ、それは私も保証します! イオンさんはすごくいい人ですから!」
「私もー!」
続く形で言うのは、イオンのミストレス1号たるミリスと、8年来の恋人であるユキ。
「だろ? それに、フローネに来ないか、ってイオンがさそってくれた時……すげー嬉しかった。思えばあたし……その頃から、こういう気持ちがどこかにあったのかも」
そこで一旦切ると、セラは正面からイオンの目を見て、
「たったそれだけだけどあたし……イオンになら、自分を預けてもいいかも、って思ったんだ。今度こそ、自分を大切にしてくれそうな人に出会えた……って。だからイオン、もしお前さえよかったら……ミストレスにしてほしい」
真摯な気持ちで言うセラの言葉に、イオンは一瞬言葉をなくす。
イオンの感覚から考えれば……ハーレムに入る、という決断を下すにおいては、あまりに単純な理由だし、考える時間も短かったように思えた。
……しかし、セラは決して……軽はずみの選択で決めたわけではない、ということも伝わった。
たったそれだけの理由でも信頼できる人物だ、とセラが自分を見てくれている。その事実を認識して……イオンがやはり嬉しくなってしまったのは、言うまでもないだろう。
ならば迷う必要もない。そもそも、アイクとイオンのハーレムに入る条件は……セラは既に満たしているといっていいからだ。
ハーレムに入りたい理由が、お金や権力のためではなく……単に『好きだから』。
イオンは一息ついてから、
「想夜家家訓その12、『抱いた女は忘れるな』……」
「え?」
「いえ、何でも。よろしくお願いします、セラさん!」
「ああ、こっちこそたのむぜ、イオン!」
少し顔を赤くして、満面の笑みを浮かべるセラに、イオン笑いを返した。
その様子を……少し複雑な様子で見ているミリスに気がついたイーラは、そっと近寄って耳打ちする。
「ふふっ……ライバルが増えちゃったわね、負けるんじゃないわよ我が妹!」
「えっ!? あ、う……うん!」
驚きつつも、その返事が気合十分だったことに満足し、イーラはうなずいた。
(さってと……これで、純系兄弟アイク&イオン、ようやく本格始動……ってとこかしらね……!)
4人の美少女に囲まれて笑みを浮かべる2人の少年を見ながら、イーラは自分のことのように嬉しくなって、ふふっと笑った。