Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
そこには何もない。どこを見ても、視界には「黒い空間」だけがある。ただただ暗黒の世界が広がるのみである。
いや、暗黒という表現は少々違うだろう。周りは確かに黒いが、暗いわけではなく、はっきりと先が見えるからだ。ただ『黒い』だけの空間で、そこにいる人物や物などは、明かりもないのにはっきりと見える。
と言っても、何があるかというと、何やらカフェテラスのようなテーブルとイスだけ、あとは……周囲に何やら、白いドライアイスのような煙が立ち込めているだけだ。
そのイスに座り、一人の見目麗しい女性がその空間にいた。
その眼前には……2人の少年と1人の少女が、それぞれ学ラン、ブレザー、セーラー服を身にまとって、同じように椅子に座っていた。目を……ジト目にして。
「……もう慣れましたか?」
「「「おかげさまで」」」
以前にもあった、女神ロローラの呼び出しであった。
詳しく言うと、今回の場合は……起きているところで無理やり寝かせて意識をここに飛ばしたわけではなく、夜、全員が就寝したところでロローラが召集をかけたのである。
「んで、今度は何?」
3度目と言うこともあり、もはや驚かなくなってしまったアイクは、仮にも女神に対して何ら遠慮もなくそう問いかける。
しかしロローラはロローラで、それを気にした様子はなく、
「ええ、時期も時期ですし、今回は……あなた方に、あなた方の新たな能力について説明させていただこうと思い、呼び出させていただきました」
「「「え!?」」」
驚いたアイクとイオン、それにユキが聞き返す。
「あ……新たな能力って……この『超(スーパー)中二病』の他に!?」
「そうとも言えますが、そうでないとも言えます」
「いや、回りくどい言い回しは漫画の中だけにして簡潔に頼む。最初だって『超中二病(コレ)』の正体に気づくまでが大変だったんだから」
フローネに来た当初、山賊に囲まれ、そこにイオンが来てくれたことでようやくこのチート能力の存在を知ることができていたアイクは、率直にそう言う。
能力の正体がわからないままにヒントだけ与えられるのでは、ファンタジーの王道勇者っぽくはあっても実際には面倒極まりないのだから。
そのことはロローラもわかっているらしく、
「そうですね……では、説明しましょう。その力というのは……」
☆
フローネの村の中心部にある広場に、村の子供達が集まっていた。
その中心には……
「はい、もう治ったよ」
「わーい、ありがとうミリスおねーちゃん!」
「ふふっ、怪我しないように気をつけてね?」
「はーい!」
集まってきた子供達のうち、怪我をしている子を治しているミリスの姿があった。
時々村に来るミリスは、自身の練習もかねて、こうして村人達の怪我を『治癒術』で治療したりしているのだ。
特に小さい子はすぐに怪我を作るため、ミリスには村のほとんどの子供が世話になっていた。医者に行く手間も省け、お金もかからないのだから。
そのミリスは……最近、自分の力に、何か違和感を感じていた。
「ミリスおねーちゃん、僕のも治してー」
「え、あ、うん……」
言われるままに、ミリスは男の子の怪我を治す。
光が患部を包み、それが消えたときには……傷が跡形もなくなっていた。
「わー、治ったー!」
あとも残さず消えた傷があった場所を触りながら、男の子は元気にはしゃぐ。
そして、こんなことを口にした。
「それに、全然痛みも残ってないや。ミリスおねーちゃん、怪我治すのうまくなったんだね!」
「え、あ……そう、なのかな?」
「そうだよ! だって前までは、治してもらっても……しばらくちょっとだけあとが残ったり、ちょっとだけ痛かったりしたもん!」
そう……何を隠そう、今この少年が言ったこれこそが、ミリスが感じていた違和感の正体である。
最近、自分が使う治癒術が……徐々に強力なものになってきている。ミリスはそう感じていた。
無論、普段から勉強と練習を怠っていないから……という理由になるのだが、それにしても……最近のは、何か気になった。今までよりも、上達スピードが速い……
……というか、何か異質な力を感じるのだ。
まるで……何か別な力が働いて……それが手助けをしてくれているようだ、と。
(なんか……私の中で、私じゃない誰かの力があるみたい……?)
自分の中に、自分ではない何かがいる……考えてみれば気味の悪い想像なのだが、同時にミリスは……その力に、どこか頼もしい何かを感じてもいた。
(私の中に、何が……………………私の中………………?)
と、ふとミリスは……『自分の中』というフレーズから、イオンを思い出した。
同時に、最近忙しくてあんまりヤれてないなあ、とか思い始めた。
同時に、そういえば裏山にいい感じの小川をひとつ見つけたんだよなあ、なんてことまで考え始めた。
(……って何考えてるの私!? し、思春期の男の子じゃないんだから……そんな『膣内(なか)に入ってくる』なんてフレーズだけで……)
ちなみに『中にある』を『中にいる』に、『中にいる』を『中に入ってくる』に、『中(なか)に入ってくる』を『膣内(なか)に入ってくる』にまで脳内変換したのはミリス自身である。
「ミリスおねーちゃん? 顔赤いよ?」
「ふぇっ!? ご、ごめん……何でもないよ?」
ひそかに下腹部にあの感覚がフラッシュバックしていたミリスは、無邪気な男の子の声で急に現実に引き戻される。
最近、ミリスは自分のこういう部分(ムッツリ&軽い妄想癖)にひそかに危機感を覚えていたりする。イオンのミストレスになってからは……特に顕著だ。
と、その時、
ガラガラ……ガシャァアン!!
「「「!!?」」」
いきなりの轟音にミリスたちは、あわてて後ろを振り向いた。
音のしたほうを見ると……広場の向こうの通り、建設途中だった家がある。ミリスの記憶では……最近、着工したばかりの家だが……もうほとんどが出来上がっているように見えた。
が、問題は……その建設に使われていたと思しき足場が崩れ、もうもうと土煙が立ち込めていることだ。
「大変っ!」
あわててミリスは現場までかけていく。
そこについてみると……その崩落に巻き込まれたと思しき怪我人が数名いて、作業員達が協力して彼らを運び出していた。
と、その中の一人がミリスを発見し、
「あ、ミリスじゃん、ちょうどよかった!」
「え!? せ、セラさん!?」
なぜかそこにいたセラが駆け寄ってきた。
「な、何でここに?」
「ああいや、あたし一応大工仕事もできるからさ、この現場手伝ってたんだよ。ほら」
そう言ってセラが見せたのは……左腕についている、現場関係者の証明になる腕章。
やけに建つのが速いのはセラが関わっていたためか、とミリスは納得した。同時に、どれだけこの人は多芸なのだ、と驚いていた。
「……ってそんな場合じゃねーんだ。ミリス、お前『白魔術師』ってことは……治癒術使えるよな? こいつら治せるか?」
そう言ってセラが連れてきたのは……救護用のテント。
中には、さっきの事故で負傷した怪我人達が、苦しそうにうめいていた。
ミリスはそばに駆け寄ると、1人1人の怪我の具合を見る。打撲程度から、骨が折れている者まで……その症状は多種多様だ。
「どーだ、ミリス?」
「軽症ならなんとか治せますけど……それ以上の患者は、私には無理です。なるべく速くお医者様を呼んで、外科的な措置を……」
「父ちゃん! 父ちゃん!」
「「!」」
と、その声に2人が振り向くと……そこにいたのは、先程ミリスが治療した少年だった。
父親なのだろう、負傷して足を骨折した男に駆け寄り、必死に呼びかけている。目には……涙までも浮かべて。
「ミリスおねーちゃん! 父ちゃんの怪我も治して!」
「で、でも……ごめん、無理よ。ここまで怪我が酷いと……私の腕じゃ……」
「そんなぁ……」
再び父親の元で泣き始める子供を見て、ミリスは自分の無力さが恨めしくなった。
(私が……私が白魔術を勉強してるのは……こういう人を助けるためなのに……!)
実力不足は、どうしようもない事実だ。まだ勉強を始めて長くない自分では、そんな実力は到底ない……ミリスは理解していた。
ましてや骨折の治療など、『等級持ち』の魔術師でもできるのは一部だ。
しかし、それでも……どうしようもない悔しさを、ミリスはこらえ切れなかった。
そして……ミリスは考えて……やるだけやってみよう、と思った。
「み、ミリスちゃん……何を……?」
自分の傍ら、泣きじゃくる息子のそばにミリスがしゃがみこんだのを見た作業員が、苦しそうにそう尋ねた。
「や……やるだけやってみます。もしかしたら……痛み止めと、治癒力の増進くらいは……できるかも」
ミリスは、患部に手をかざして構える。
そして、集中し……自分の中の魔力の流れをコントロールする。同時に、頭の中に患者の治癒力が活性化するところをイメージ、次いで、傷が治るところをイメージ。
そして……気休めにはなるだろうか、と、ミリスはさっき抱いていた疑念を……少しだけ信じてみることにした。
(もし……私の中に、何か不思議な力があるのなら……力を貸して!)
そして、特大の悪あがきと思って、一気に手のひらから全身全霊で魔力を開放すると、
「…………へ?」
キュアアアァァアアアアッ!!
甲高い音と共に……強烈な光が手のひらから放たれた。
「な、何だこれ!!?」
「ま、まぶしいよミリスおねーちゃん!?」
隣で、セラと少年の驚く声が聞こえたが……一番驚いてるのは、ミリス自身だ。
今まで起こったこともない現象に困惑していると、徐々に光が弱くなってきて……
そして、それが消えたころには……
「…………うそ…………」
目の前にあった患者の男性の足が……きれいに治ってしまっていた。
その場にいた全員が唖然とする中で、
「す……すげえやミリスちゃん! 完全に折れてたのに……治っちまったよ!?」
「何ィ!? マジかよ!?」
「ああ、まだ少し痛いけど……これなら問題なく歩けるぜ!」
今まで紫色にうっ血していた、しかし今はその影も形もない患部をさすりながら、男は元気に立ち上がった。
すると、
「おねえちゃあぁあーんっ!!」
「わわっ!?」
と、隣にうずくまっていた少年がミリスに抱きついた。
「と、父ちゃんを、治してくれて……っ、あ、ありがとぉ……っ!!」
未だに泣きじゃくりながらそう言ってくる。
当事者でありながら、あまりのショックに感激も達成感も吹き飛んで、唖然としているミリスは……今起こった色々な出来事を把握するのに、しばらくの時間を要した。
(な、何……今の……!?)
☆
……その様子を、陰に隠れて見ている者がいた。
「事故があったって聞いて来てみたら……またえれぇもん見れたな」
「あれも……ロローラさんが言ってた、新しい力……なんでしょうか?」
「多分な」
近くまで来ていた……アイクとイオンである。
もっとも……別に隠れている必要もないのだが、そこは2人ともノリだった。
ところで、今2人が言った『新しい力』……無論、ミリスが今見せた力のことであり……そして、
アイク達が先日、夢で説明を受けた……それである。
ロローラの説明は……こうだった。
『あなた達には、もう1つの力が眠っています。それは……自分の本当に愛するものと、心も体も1つになれた時……その相手に、その者の持つ力を、最大限増幅させる力をあたえる……というものです』
……わかりやすく言うとすなわち、
○アイクやイオンとセックスした
○その相手と本当に心を通わせることができた
この2つの条件を満たしたものが……女神の加護とでも言うべき力によって、潜在能力以上の力を引き出せるようになる……というのだ。
なお、セックスと『心を通わせる』は、必ずしも同時に起こる必要はないらしい。
そして、今のミリスの力は……明らかにそれによるものだ。
イオンからすれば、ミリスとは随分前に心も体も1つになった自覚があるため……あれが起こるのが確認できたのが遅いぐらいだった。
もっとも……自分達も、その存在を認識したのは最近なのだが。
そしてアイクは、
「じゃ、ミリスの『第二次超(スーパー)中二病』も見れたことだし……俺らも復旧の手伝いに行くか、そろそろ」
「そうですね……って、何ですその名前?」
「んあ? ああ……女神さんも、この力に特に名前とかないって言ってたろ? だからさ、俺達の力から派生してミリス達に発言した力……ってことで、こう名づけた」
言ってみりゃ、二次災害みたいなもんだし、と。
(毎回思うんだけど、兄さんのこのネーミングセンスはどうなってるんだろう……?)
心の中で嘆息しつつ、イオンは兄について走っていった。