Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
ここは、アーサランド王国ではなく……
そこよりはるかに東の地にある……『ガーベル帝国』。
その帝都『エイドロギア』の城である。
会議室と思しき、薄暗い一室に、十数人が一度に座れる大きさの円卓が置かれ……その周囲に、それを囲むようにして数人の人物が座っていた。
もっとも……用意されている席の数は16であり……それを考えると、明らかに来ているべき人数が来ていないとわかるが。
その『来ている』者の1人が、重々しく口を開いた。
「……これ以上待っていても、もう来そうにないな。開始時刻を既に14分過ぎている」
鮮やかな金髪が特徴の、まだ若い男だ。美男子といってもいい。
その言葉を受けて、その向かいに座っている別の男も言う。
「うむ……全く、半分も集まらんとは……最近の若い奴らは全くもってなっとらんな。同じ師団長として泣けてくるわい」
こちらは対照的に……齢80ほどに見える老人だった。フードをかぶっているため、顔は半分ほどしか見えないが。
さらにその別の席には……こちらは、血のように赤い瞳と禿頭が特徴的な男がいた。
身長が高く……両足を卓上にどかっと乗せて、さらに口にはタバコ。かなり態度が悪い。
「ったく、ホントだよなァじぃさん。その気持ち察するぜ?」
「誰がじいさんじゃ、若造。『エイブラハム様』と呼ばんか。もしくは『Mr.デルドーリ』と……」
「あーはいはいうるせェな前言撤回だ死ねクソジジイ。ったく……にしたってよぉ、召集した当人がいないのはナシだろ。リューの野郎いったいどこで油売ってんだ?」
「やつのことだ、大方女でも抱いているのだろう」
と、その隣の男が言った。
今の態度の悪い男よりも、さらに背が高く……立ち上がったら3mはありそうな巨漢だ。人間かどうかすら疑わしい、といっても誇張表現ではない。
たてがみのようにも見える茶髪をゆらしながら、
「最近はアーサランドにまで足を伸ばしていたと聞くからな、あの男の……」
「おいおいオーグ、俺ってば酷い言われようだな?」
「「「!」」」
と、部屋の扉が開き……さらに2人の男が入ってきた。
1人は……テイロスに現れ、瀕死の重傷を負ったモーガンの救助を行った、赤髪の男……リュー、と呼ばれていたあの男だ。
そして、その後ろからついてくるもう1人は……
「おー? モーガンじゃねーか、傷はもういいのかァ?」
「ああ、問題ない」
言いつつも、そのモーガンは体中に包帯を巻いていた。動けるようだが……完治にはまだかかる、と解釈してよさそうだ。
その2人が席に着くと、リューはざっと円卓を見渡した。
「さて、来てるのは……ベルーレッドにオーグ、エクターにデンド、それにエイブラハムの爺さまか。俺とモーガンを入れても7人……ははは、こりゃ出席率ひでえや」
「16師団長の半分に届かないとは……全く……辺境警備にでている2師団をさしひいても、これはあまりに悲惨というものだな」
と、エクターと呼ばれた金髪の青年が話す。
その横の、今まで黙っていたが……ブロンドのロン毛にハの字眉の優男が座っていた。リューが呼んだ名は、デンド。
「まあまあ、いいじゃないのよ。ポネロフもハームンも、きっと忙しいんだよ。ほっとこうじゃないの、ねえ、ベルー」
「どうでもいいだろ。んで、どうすんだよ。人数少ねーけど、会議やるわけ?」
コレは、態度の悪い禿頭に紅瞳の男。呼ばれた名は、ベルーレッド。
その問いにリューは、
「もちろん」
そう言って、椅子に座りなおした。
そして、軽口の口調のままだが……ややまじめな雰囲気を漂わせ、円卓に声を張る。
「さて、と。まー知ってのとおり? テイロスを攻める作戦が失敗したな」
「ああ、私に全責任がある。処罰は甘んじて受けよう」
何も言い訳1つせず、モーガンは堂々と言った。その姿に、からかいの意味をこめて……ベルーレッドがひゅう、と口笛を吹く。
が、しかしリューはというと、
「ああ、それはいいや。別にお咎めなし、ってことになってる」
「何だと? どういうことだ?」
任務失敗の咎がない……不審に思い、いぶかしげに聞き返すモーガンに、
「幸いな、お前……アーサランドじゃ死んだことにされてるらしいんだわ。だから、下手に処分とかはしねえ。傷を癒して、次の戦いに備えてくれ。もっとも……」
そこで一拍置いて、
「生存の事実を隠さなきゃいけねーから、師団長の座からしばらく引いてもらうけどな。いつになるかわかんねーが、その時が来るまでは」
「……承知した」
一言そう答えて、モーガンは『身を隠して待機』という処罰を受け入れた。
それに続ける形で、
「けどまあ……厄介なのがいる、ってのがわかったのは収穫だな。名前何つったっけ?」
「ソーヤー兄弟だ。兄がアイク、弟がイオン。2人とも……かなりの腕だった」
「モーガンがそこまで言うのなら……間違いないのかも知れんな。現に、2対1とはいえ、モーガンを退けてテイロスの死守に成功している」
と、リューに続けて、モーガンとエクター。
そこに続けて、オーグとベルーレッドが、
「師団長クラスか……野放しにしておくのは危険かもわからんな」
「おいおい、何を弱腰になってんだ? 何兄弟だかしらねーけど、俺達に勝てるかよ」
「現にモーガンが負けているのだ、用心は必要だ」
「けっ、でかい図体してるくせに情けねえ。どうせモーガンが油断してただけだろ?」
「はいはい、そこまで(ぱんぱん)」
リューが拍手をともなった鶴の一声で、会話を切断する。
「ま、ベルーの気持ちもわかるけども、用心しとく分には損はねーだろ。それに……爺様、手は打ってあんだろ?」
「全く貴様らは……呼び方はもうええわい」
と、エイブラハム、と自分で名乗っていた老人はため息混じりに言う。
「無論じゃ。この第8師団長・エイブラハム=デルドーリ……事態の対応に抜かりはないわい。既に1人、アルビオンにわしの手の者をもぐりこませてあるからの。その兄弟の情報のみならず……アーサランドの機密情報も、根こそぎ持ち出してみせようぞ」
「大した自信だな、エイブラハム殿。それほどまでに、その隠密は優秀か?」
と、エクター。
「ふ、愚問を。わしが飼っている者のうち、最高の腕と最強の戦闘力を持っとる。いざとなったら、そのまま要人の暗殺でもやってのけるじゃろう。まあ論より証拠……焦らず、奴が情報を持ち帰るのを待つがよい。結果が全て教えてくれるわい」
「おっかねーなあ」
と、軽口に言うリューは、それ以上に話し合うこともないとして、その日の会議を閉会にした。
☆
そのころ、
こちらは、アーサランド王国王都『アルビオン』。
その……正面門。
「さて、と……やっとついたな」
「こ、ここがアルビオン……私も始めて来ました……」
馬車の窓から外を眺めるアイクとミリス。
その眼前には……フランスの凱旋門を髣髴とさせる、立派なゲートが建っていた。そこには……『Albion』と、都市の名前が彫り刻まれている。
その向こうには……凄まじく広い街道に、両脇に並んだ優雅な建物の数々……。
手紙を受け取ってから数日……アイクたちは旅に出、今日こうしてようやくアルビオンに到着したのだった。
「しかし、またすげーとこだな……サイミールよりでけーや」
「そりゃそうだろ。何たって王様が暮らす町なんだから」
アイクのセリフに返したのは、セラだ。
メンバーの中で、彼女だけはこの光景に特に感激などを見せる様子がない。まあ……彼女はもともとここからテイロスに来ていたのだから、当然だ。珍しくもないのだろう。
その一方で、カナ、ミリス、ユキは、窓からはなれようとしない。一秒でも長くこの景色を眺めていたいかのようだ。さっきまでアイクもそうしていたのだが、ユキに押しのけられた。
残るイオンはというと、最初こそ一緒になって感心していたが、すぐに馬車に戻った。
アルビオンの位置は、現実世界で言うところの……フランスはパリのあたりだ。ここに来るまでかなり……およそ1週間超かかった。これでも飛ばした方だ。
しかし、ある理由で……今回、ミリスが乗り物酔いになることはなかった。セラが一肌脱いだのだ。
「へへっ、しっかしここまで順調に、居心地よく来れたなあ……『さすぺんしょん』だったっけ? あれ、役に立ったみたいで何よりだよ」
「はい、おかげで揺れもかなり減って……ホントにありがとうございます、セラさん!」
「お礼なら、アレの知識を提供してくれたアイクにいいなよ」
そういうこと。アイクの知識提供を受け……セラが馬車を改造し、サスペンションを真似したものをとりつけたのだ。
その改造と、最近『第二次超スーパー中二病』でミリスの治癒力が増していることもあり、今回はほぼ乗り物酔いとは無縁の旅路を送ることができたのだ。
ちなみにその際、セラはなんと馬車を水陸両用のものに改造した(無断で)。
そのせいで……荷台部分がかなり前衛的なデザインになっている。一言で言うと……小さめの軍用装甲車両が馬に引っ張られているような形だ。
そして……残念なことに、今回『船モード』の出番はなかった。
そうこうしているうちに、一同の乗る馬車は門に到着。
門番の兵士が駆け寄ってきて、馬車の形状に少しひるんだ後、
「身分証を拝見する。出しなさい」
「ここに」
御者台に身を乗り出し、イオンが封筒に同封されていたカードを見せる。すると、一瞬で門番の兵士の顔色が代わった。
「し、ししししばしお待ちを!!」
そう言ってかけていく。
そして……戻ってきたときには数十人の兵士が一緒に来ていた。
まるで赤絨毯の両側に立つように、道の両側に一列に並び、びしっと敬礼。
そしてその中でもっとも地位の高いと思しき1人が前に歩み出て言った。
緊張しているのだろうか、若干震える声で、
「よ……ようこそおいでくださいました! 中枢府より、お話は伺っております。お二方のアルビオン入りに関しまして、諸々の手続きがございますので……馬車を降りて、こちらへどうぞ」
おそらく『お二方』というのは、アイクとイオンのことだろう。
アイクとイオンの2人と、ミリスたち4人もそれに従い……馬車を降りて、兵士達が両脇に並ぶ道を歩いていく。こんな風に扱われたことのないミリスやカナは、緊張からか……小刻みにぶるぶると震えていた。
一方でアイクとイオン、それにユキは、現実世界で似たような空気を何度か味わっていることもあり、割と平然としている。
そして残るセラはというと『丁寧に扱えよな、その馬車あたしの自信作だぞ!』……とまあ、とりあえず緊張とは無縁のようだ。
☆
先導に従い、荷物を兵士に持たせてついていくと……門から少し離れたところにある、来客用と思しき館の立っている場所に通された。大きくはないが、つくりは豪華で丁寧だ。おそらく、外からの来客を一時的に待たせるための設備だろう。
中に入ると、やはり中も豪勢なつくりだ。
イオンはすばやくあたりを見回し、ここは特に座敷牢などではなさそうだ、と確認する。その上で、警戒心を一応持ったままで、兵士についていった。
アイク達はそのまま、屋敷の中の応接室のような部屋まで通され、そこで少し待っているように指示を受けた。
遠慮なくソファに腰掛け、アイクは辺りを見回して言う。
「やれやれ……来るなりすげーとこに通されたな……」
「そりゃそうですよ……だって、アイク様もイオン様も、純系ですから……」
と、始めてみる光景に目を輝かせつつも、豪華すぎて思わず気後れしてしまうらしいカナ。
ミリスとセラも同じような感じで、座ってはいるものの落ち着かない。
セラとて、いくらアルビオンにいたとはいえ、今までの肩書きは『技術者』。このような超特別待遇は初めて、といっていいのだ。
「もぉ……そんなにそわそわしなくてもいいじゃない、一応歓迎されてる側なんだから」
と、ユキ。
「で、でも……わ、私ただの村長の娘ってだけなのに、いきなりこんな……」
「わ、私なんて最近まで孤児で奴隷だったのに……」
「あ~……なんか堅苦しーなー……肩こるわ、この感じ」
1人だけ緊張ではない気がするのは気のせいではあるまい。
「大丈夫だって、今までなんだったかはともかく、今は立派にこういうところに出入りできる身分なんだから。その小指のそれ、飾りじゃないのよ」
と、ユキが呼びかけ、自分の右手の小指を立ててみる。
他の3人も同様にする。もっとも……カナとミリスは左手だが。
そこには……一様に『白金の指輪』がきらめき、彼女らのステータスを如実に物語る。
純度10の純系の『ミストレス』……そのステータスはすなわち、貴族すらもうかつに手を出せないほどの地位と権力を表す。たとえ今までの身分が何だろうが、その指輪がある限り、たいていのトラブルは回避できるほどの力が4人にはある。
もっとも……それを完全に認識できている者は、まだこの場にいない。ユキすらも。知識がある分……イオンとミリスがギリギリ、か。
するとその時、部屋の扉がノックされた。
アイク達が視線を向けると、その向こうから……見るからに軍部か何かの高官と思しき男が数人、兵士十数人……そして最後に、2人の女性が入ってきた。
扉の周辺に男達が並ぶが……おそらく礼節の一環らしく、口を開く様子もない。
代わりに、その女性2人が一歩前に出た。
1人は明るい藍色の髪で、あごの下のあたりまでの長さのセミショート。整っていて、美少女と言える顔立ちだが……どことなく無愛想というか……無表情な印象を受ける。そこにさらに、赤い縁のメガネをかけている。
華奢な体で、身長は……160前後か。年齢は、アイク達よりも下に見える。おそらく……15、6歳といったところだろう。
落ち着いた雰囲気で、元の世界で言うと……スーツ姿のOLのような服装で、脇に何やらクリップボードと何枚かの書類をかかえている。本当にOLのような見た目だ。
もう1人は、桃色の髪を腰の辺りまで伸ばした女性だ。同じく顔は整っているが……前の1人と同じく美少女と言える顔で、にっこりと笑っている。
いや、美少女と言うよりは、美女といった方がいいかもしれない。まだ顔にあどけなさは残るものの、アイク達よりも高そうな身長と、大和撫子のような柔和な雰囲気、そして、Eカップは優にありそうな豊満な胸がそう見せている。年齢は20歳前後だろう。
どことなくのほほんとした雰囲気で、こちらはスーツではなく、RPGで神官か僧侶が着るような、ゆったりした法衣のような服を着ていた。前に揃えた手には、やはり書類。
その彼女らは、アイク達全員の視線が自分に集まったタイミングで、
「純度10の純系、アイク=ソーヤー様とイオン=ソーヤー様、および、そのミストレスの皆様に、ご挨拶申し上げます」
「ご挨拶させていただきます~」
そう言って、そろってぺこりと一礼。練習したのだろうか。
藍色の髪の彼女は、やはり、というわけではないが……声にも、感情の起伏はあまり感じられない。一方で桃色の髪の方は、おっとりとした話し口だ。
順に、
「私は、シルテリクス=ヴィートレイアー。アルビオン中央特別事務管理局より派遣されました事務官です。お2人がこのアルビオンに滞在なさる間、諸々のお世話と補佐を申し付けられております。どうぞ、お見知りおきのほどを」
「同じく、お世話と補佐をさせていただきます、エミリィ=スティングレイと申します~。王国軍魔法科学研究部門から参りました~。お2人ともアルビオンは初めてとのことですので、何なりとお申し付けくださいませ~」
そう言って、またぺこりと一礼。今度は、後ろの兵士達も一緒に。
言うなれば、これからアイク達が、この王国の中央に進むに当たり……その始めの一歩となる出会い。
それを認識した上で、アイク達もまた、二人の女性……シルテリクスとエミリィに、ぺこりと礼節を持って返した。