Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
アイク達は、さらに2人……シルテリクスとエミリィを加え、一行は8人に増えた。
その状態で……今度は、2人に割り当てられているという『屋敷』に行くことになり、今まで使っていたものとは違う、アルビオン側で用意された馬車でそこに向かっていた。
フローネから乗ってきた馬車は、別に屋敷まで届けられるらしい。
荷物を降ろして、色々とやることを済ませるためにも……アイクらはシルテリクスとエミリィに従い、まずその屋敷までいくことにした。
その道中、馬車の中での会話である。
「屋敷って……俺ら、迎賓用の宿とかに泊まるんじゃねえの? サイミールとかでそうだったから、てっきり今回もだと思ったんだけど……」
と、アイク。
今までアイク達は、賓客として商談に出向く際、総会も含めて、向こう側で用意された宿に泊まっていた。それも……最高クラスの宿に、経費全てを向こう持ちで、だ。
それでも随分と恵まれた待遇だと思っていたが……今度はなんと、屋敷を丸ごと与えられる……というのだから、驚きは大きかった。
すると、アイクの向かい側に座っているエミリィが、のほほんと答えを返した。
「まあ、普通はそうなのですが~、お2人は『純系』ですので~」
次いで、シルテリクス。
「純度8以上の純系で、アルビオン在住でない方に対しては、女王陛下より、アルビオン滞在に使うための拝領屋敷が振り当てられることになっています」
「それってつまり……宿代わりとかじゃなくて、マジの意味で家1つ貰えるってこと?」
「はい~。お2人は今回が始めてのアルビオンですので、こういう形になりましたが~。今回に限らず、今後アルビオンを訪れられる際は、これから行く屋敷を自由に使っていただいて全然全く構いませんということですね~」
なんとも大判振る舞い、と言えよう。……過剰なまでに。
「管理費・修繕費を含む衣食住などは全て公費になりますので、アイク様、イオン様の支出は、ご自身の嗜好品、インテリア、収集品などのみになります」
「それと、身の回りの世話をするメイドやコックや警備兵などですが~、これもセットで200人ほど配備されておりますので、何の心配も不要となっております~」
「「「多っ!?」」」
確実に手に余る数だ、と全員が思った。屋敷を使うのは……今現在、多くとも8人なのだから。そこに使用人警備兵合わせて200人は、屋敷の大きさにもよるが、多い。
聞けば、その中からさらに選別して減らして構わないらしい。一応、後で資料を見ながら考えるつもりでいた。
☆
数十分後、
到着した屋敷は……一言で言えば、予想以上だった。
ヨーロピアン(?)な貴族風のデザインをイメージしていたアイク達だったが、実際にはそれほどではない。パッと見はそれに近く感じはするが……実際には、見た目だけでなくきちんと機能美というものを追求した、現代建築にも近い形になっている。
大きさは……これが正に予想以上。3階建てで……ちょっと小さな城、といった感じ。どこぞの王族の離宮、といわれても信じてしまいそうだ。
(ったく……10人も使わねえ屋敷にこんな面積いらねーっつの……)
広い家には慣れているものの、基本的に好きとはいえないアイクはため息を漏らす。確かにこの広さなら……200人体制での管理と警備もうなずける。
今後、誰かを家に招く可能性もあるだろうと考えて無理やり納得し、全員引き連れて屋敷の中に入った。
屋敷の中もまた、見た目・機能ともに充実したつくりになっている……そう見ていいものだった。
居住スペースはリビングだけでも形式を変えたものが4つあり、各自選べる個室が20部屋。しかもどれもホテルのロイヤルスイートルーム並みと来ている。
さらにその他の設備がまた凄まじい。パーティルーム並みの広さのダイニングにはじまり、倉庫・保管庫類はどれもそのまま暮らせそうな広さ。キッチンはホテルのそれかと思うほどに広く、ここで料理ができるのか、とカナが目を輝かせていた。
他にも、体育館ほどの広さの屋内運動場や、スパリゾート並みの広さの浴室など、色々な部屋がある。さらに何もない全くの『空き部屋』が数個あり、自由に改装して使えるらしい。セラが早速そのうちの1つを確保し、工房にする、と言っていた。
「こんなに部屋あっても使わねーよ……金持ちの道楽みたいで自分で引くわー……」
「まあまあ、くれるというのですからもらっておけばよいではありませんか~」
と、あくまでものほほんとした雰囲気のエミリィがアイクにフォロー。2人は現在、リビングを出たベランダから、これまた広い庭(噴水×2あり)を見下ろしている所だ。
「にしたって……こっちの人数は伝わってるんだろ? これからそんなに爆発的に増える予定もねーのに、何もこんな豪邸用意せんでも……」
「こればっかりはこの屋敷を決めた人に聞かないとわかりかねますが、人数はおそらく関係ないでしょうね~。おそらく、純度10の純系というステータスに対して釣り合うだけの物件を選抜した結果、ここになったものと思われますから~」
「さいですか」
再度のため息と同時に、アイクはベランダから部屋に戻る。
すると、邸内を散策しているのであろうユキたちはいなかったが、イオンはリビングにいて、何やらもう1人のお目付け役……シルテリクスから色々と説明を受けている。
「……以上が、明日以降の大まかなスケジュールになります。なお、変更を希望なさいます場合は、3時間前までに私かエミリィに言っていただければ対応致します。他に何か質問等あれば伺いますが?」
と、やはり無表情、無感情で言うシルテリクス。
対するイオン。こっちはこっちで負けじと(?)事務的だ。聞いた内容の要所要所をメモに書き取りつつ、手元の資料と照らし合わせている。
「そうですね……今始めて知ったことも多いので、今聞いた事柄に関連するものも含めた最近の情勢が知りたいのですが……そういった手段や、蔵書などは?」
「でしたら、アルビオン発行の新聞などのバックナンバーをお持ちしますか? 夜までには用意できますが……」
「お願いします。他は……特には」
「わかりました。では最後に、私達からお伝えします」
と言うと、その隣にエミリィも並ぶ。
「私とエミリィは、お2人の補佐およびお世話が役目となっていますので、仕事をお申し付けいただければ、できる範囲でそれに従って動きます」
「できる範囲、ってーと?」
「お2人のご裁可が必要となるような越権的な案件などは、単独では処理できません」
「それ以外なら何でもおーけーですよ~。仕事のお手伝いやアルビオンの町の案内、資料の手配や色々な部分でのアドバイス、それに……お風呂でお背中をお流ししたり、ベッドの上で夜のお相手なども全然ありですので~」
などととんでもないことを言ってくるが、2人とも訂正しないあたり本気と見える。
今の今まで、アルビオンの環境と待遇に驚くので忙しかったが、そんなセリフを聞いて初めて、アイクとイオンは2人を女としてみる余裕ができた。
2人とも……十分に魅力的と言っていいだろう。ルックスはもちろんのこと、柔和で巨乳な大和撫子だったり、寡黙で事務的なクールフェイスだったり、個性にも事欠かない。特にエミリィの方は、何かするたびに微妙に胸が揺れるので、意識して見ているとかなり視線をとられる。
だからといって、そんな仕事できてくれている2人に、自分達の地位を理由に夜伽を命じるなどということ、2人の主義に反するのもいい所なのでするつもりもなかったが。
「あと、そのために私たち2人も、このお屋敷に厄介になりますので~、朝でも昼でも夜でも、いつでも呼んでいただいて結構ですよ~」
「あ、そうなんだ」
「そうなのです~。ちなみに私達の荷物は、すでに部屋に運ばせていただいておりますので~」
「いくつかあるうちから、勝手ながら、皆様の邪魔にならなそうな所を選ばせていただきました。そちらから要請などがあれば、我々の部屋はいつでも移しますので」
「いえ、別に構いませんよ。他にあと18も残ってますし」
恐縮です、と一礼し、シルテリクスの話は終わった。
すると、他に何もすることはない、ということで、すっくとアイクが立ち上がり、
「んじゃ、早速たのもーかな。町見て回りたいから、ついてきてくれる?」
「かしこまりました~。では、護衛兵さんを手配しますので~……」
「いや、それはいい。いらね」
と、アイクは手を前にかざして制止のポーズ。
一瞬頭に『?』を浮かべたエミリィだったが、アイクが巷でささやかれている数々の武勇伝の存在を思い出し、理由に納得する。
それでも一応は、と食い下がったが、アイクは、
「仰々しいの嫌なんだよ」
と一蹴。エミリィはこれに、説得は無駄そうだ、と踏んだ。
アイクは簡単に身支度をすると、庭で適当に歩き回っていたユキを見つけ
「一緒に行くか?」
「うん!」
これだけのやり取りで仲間に加え、3人で門を出て行った。
そして、残ったイオンは、
「さて……資料に目を通したいな……書斎なんかはありますか? リビングより落ち着いて、集中できそうなところがいい」
「こちらへどうぞ。よろしければお手伝いしますが?」
「あ、お願いします」
と、シルテリクスの先導のもと、仕事部屋と呼んでもいい書斎に向かった。
☆
アイクは町に出て、風の向くまま気の向くままに街道を歩いていた。
横にはエミリィとユキ。
エミリィに頼んで、アイクとユキは、とりあえずこの町で有名なショッピングのスポットに連れてきてもらったところだ。
その名も『ショッピングロード』。
その名の通り、一本の大きな……幅200mを超え、全長数kmにもなる街道に所せましと色々な店がひしめき(家屋、屋台を問わず)、道路がそのまま巨大なショッピングモールのようになっている圧巻の場所だ。大体のものはここでそろうらしい。
要所要所でエミリィの説明を受けながら、アイクとユキは初めて見るものがわんさかあるアルビオンの街道を、目で、耳で、鼻で、肌で、とにかく楽しむ。
露店では美味そうな料理を売っていたり、見たことのない装飾品……おそらく魔法装飾品も混じっているであろう売店などがあったり、全く飽きる気配がなかった。
「やれやれ……こりゃすげーな……。サイミールすら比じゃねーぜ」
「それはそうです~。このアルビオンには、王国全土から色々な商品が流れ込んできますから、密度も質も、自信を持ってお勧めできるものがそろうのです~。買い物といえば、ひとまずここにくれば間違いはありません~」
「ホントすごいわね……っていうか、コレもう道って言えないと思う……大きすぎでしょもう……」
ここまでくると、目移りする……というレベルでも最早ない。店を満遍なく見て回るには……1ヶ月ほどもかかりそうだ。
というよりも……今は何気なく見て回っている程度だからいいものの……仮に何かを買う目的でここに来た場合、この中から目当ての店を探すのは不可能ではなかろうか。
家屋タイプの店はともかく、屋台というのは……サイミールでもそうだったように、日ごとに移動するもの。昨日は門の近くに出店し、今日は町の中心部……などということもざらなのだから。
そう考えたことを見透かしたかのように……エミリィはにこやかに笑いつつ、服のポケットから何やら1枚の紙を取り出した。
「もちろん、この『ショッピングロード』でお目当ての品物を売っているお店を見つけるのは、何の手がかりなしでは不可能と言っていいです~。なので、コレを使います~」
紙を広げると、そこには……この街道の地図があった。しかも……見た目一発、ただの地図ではない。
エミリィが手を触れると……なんと、まるでタッチパネルのように地図に描かれている絵柄が切り替わり、移動したり、拡大・縮小したりした。そして、街道にある店(の表示)に触れると……その店を簡単に説明する文章までもが浮き上がってくる。
((……まるでI○ad……))
アイクとユキは一様にそう感想を抱いた。嬉々として地図を切り替えてみせるエミリィは、2人のそんな心中にも気づくことなく、説明を続ける。
「うふふ~、これは『経時対応同期魔術』をかけてある地図なんですよ~」
「けーじた……何だって?」
「『経時対応同期魔術リアルタイムリニューアル』です~。お店の位置が動くと、この地図に記されている絵柄もそれに伴って切り替わる優れものでして~、まあ平たく言えば、いつでもどこでもこの『ショッピングロード』のリアルタイムの地図が見られるのです~。ちなみに、ジャンル別にお店の検索とかもできますよ~」
と、エミリィ。
(グー○ルマップだ……)
(グ○グルマップとIPa○だ……)
と、アイクとユキの率直な感想。
ともかく、これが役に立つのはわかった。
手始め&試しに、屋台のケバブか何かでも適当に検索してみようか、などとアイクが思ったその時、
―――――――ぞくっ、と、
「――――――っっっ!!?」
背後に『何か』を感じ、アイクは勢いよく振り返った。
そこには……ただ、行き交う人ごみがにぎやかに存在しているだけ。何も……変わった様子などない。
にもかかわらず……アイクの額には、嫌な汗が噴き出していた。
「………………? ……?」
「でも、そんなことまでできるんだ? 魔法って便利ね……」
「地図コレは特別なのです~。この街道そのものに術式が敷いてある上、出店者は店舗を例外なく中央の商業部門管理局に登録する決まりですので~。その際に支給される『許可証』から発せられる魔力波動を感知することで、位置がわかるのです~」
「ふーん……GPSみたいなものなのね」
「じーぴーえす……ですか~?」
「いや、こっちの話……アイク、どうかしたの?」
「え? あ、いや……何でもない……」
と、2人の会話さえBGM程度にしか感じられない状態だったアイクだが、その一言で呼び戻された。
「汗だくだけど……どうしたのよ?」
「いや、別に……」
「もしかして……人ごみの中にかわいい子でも見つけたの?」
と、ユキはジト目で的外れな邪推をしてくる。エミリィも面白がって、
「あらあら~、欲求不満ですか~?」
「なっ……ちげーよ!」
「まあ、ずっと馬車乗ってたしね……もう……それならそう言ってくれれば……あ、今日の夜部屋行こっか? 空いてるわよね?」
「あらあら~、よろしければ私もお手伝いしますよ~?」
「だから違うっつーの! ほら、さっさと行くぞ!」
アイクはきっぱり言うと、2人の背中を押して強引にその場を離れる。
……離れながら、その脳裏にこびりついた、ぬぐい切れないほどの違和感を……そして、たった今感じた感覚を……頭の中で思い出していた。
(何だったんだ、今の……? 確かに今、強烈な殺気が……)
嫌な汗は、まだ止まっていなかった。
☆
その姿を、裏路地へと続く狭い道から見ながら……睨んでいる者がいた。
「……今のに気付くか……。なるほど、ジジイの言う通り……只者じゃないらしい」
その声は喧騒にかき消され、アイクの耳には到底届かない。
そしてそのまま……その何者かは、路地裏に消えた。