Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
アルビオンには、高貴なたたずまいの屋敷などは腐るほどある。
中央にそびえ立つ王族の居城『アルビオーニス城』はもちろん、その周りにはさまざまな施設。王立の各専門分野の研究院や、軍部の関係施設、学問所など。さらにその周囲の高級住宅街には、名門貴族や大商人、そして『純系』が居を構える。
少し離れたところには、代々王族が冠婚葬祭の折に使用する大聖堂『クレスパレス』。
そして、
今宵……昼間かと思うほどの明かりがともされている、迎賓館。
その中の大広間では……盛大な夜会が開かれていた。
☆
「それじゃあ、またね」
「ええ、今日はお会いできて嬉しゅうございました、キース卿」
そう言って大広間で、一組の男女が歓談を終えたところだった。
「ふぅ……」
ため息……とは違う息をついて、その場に残った男性は、歩いていくドレス姿の女性を見ながら、手に持った酒を口に運んだ。
180はある長身に浅黒い肌を持ち、黒髪をオールバックにして後ろになでつけている。
細身の体で着こなす黒色の礼装は……現実世界で言うスーツだろう。襟元が開いていて、その下に着ている赤いYシャツ(?)と、首もとの金のネックレスがのぞいている。
無精ひげで……渋めのダンディ、とか、ナイスミドル、とかいう表現が似合う顔だ。
よく言えばチョイ悪親父、悪く言って……マフィアの幹部クラスか。
その男性に、新たに近づいてくる2人がいた。
「これはこれはキース卿! いやはや……今日もまた凛としたたたずまいですな!」
「いやいや全く! 同性の我々から見ても、その色香が引き立つというもの!」
「ははっ、よしてくださいよ、そんなお世辞など」
と、穏やかな口調で返すのは……『キース卿』と呼ばれたその男だ。
よってきた2人は……いかにも『金持ち』といった感じのたたずまいだ。上から下まで高そうな服とアクセサリーで着飾ったその姿は、迫力はあるが品がいいとはいえない。
その2人が言うことといえば、キース卿へのお世辞ばかり。はっきり言って窮屈と言うか退屈そうにしていることにも気づいていないが、その直後、
「やれやれ……せっかくの夜会に相変わらず気品を感じん顔じゃな、デイビッド」
「! ひどいなあ……久しぶりに会う弟子に、開口一番そんな言葉なの?」
貴族と思しき男達をも押しのけて現れたのは……齢70はくだらないであろう老人。
法衣のような作務衣のような服を着ており、白髪頭だ。背丈は160にも届かないくらいで、杖をついているが……その身が纏う威圧感は別格。
どうやら、キース卿の知り合い、それもファーストネームを呼ぶ仲のようだが……
「こ、これはこれはライオネル様!」
「ご来訪に気づけずに申し訳ありません、一番にご挨拶にうかが……」
「失せんか、酒がまずくなる」
正に一蹴。貴族達は顔を青くしてそそくさと立ち去った。
「今の言い方はないんじゃないの~? せっかく僕に挨拶に来てくれてたのに」
「ふん、あのような媚売りに貸す耳など不要じゃ。どうせ奴らの頭には、ワシらの精液が生む利潤以外のものはないわい」
そう、一般ではまず聞かない会話を繰り広げる2人。
会話のとおり……この2人は『純系』だ。
別に、この夜会に招かれている純系は、これだけではない。参加者の実に9%は、純系とその関係者なのだ。しかしその中でも、この2人は他とは比にならない別格の存在。
片方の……ダンディな中年の方は、純度8の純系、デイビッド=キース。名門・キース家の党首で……今年38歳になる、ナイスミドルだ。
もう片方は、その名をウォーブル=ライオネル。今年77になる現役最年長の純系にして、別の意味でもまだまだ現役の元気な老人として有名。純度は8。
両者共に、最高クラスの純度『8』……貴族がこびへつらっていたのも、当然なのだ。
先程まで、2人ともミストレスを連れていたが……今は、会場にいる知り合いに挨拶をさせるために自由行動させており、2人とも1人だった。SPは近くに控えているが。
「しかし、また難儀な時期に帰ってきたもんじゃのう。狙って、か?」
「まぁね……ホントのとこ言うと、まだしばらくバカンスしてたかったけど……事態がこうなっちゃ、帰らないわけにはいかないでしょーよ。何たってレオ君の……」
と、酒を飲み干したキースのもとに、
「あっ、キース卿にライオネル卿! もうご到着でしたか!」
新たに1人……声をかけるものがいた。
2人が振り向くと……そこにいたのは、2人がよく知る顔。
「やあ、レオ君か。噂をすれば……ってとこかな」
「ほほう、なかなかいい面構えだな、ステルウィザードの小僧」
明るいレモン色の短めの髪に、精悍な顔立ち。170ほどの背丈に、優雅な礼装。
美少年、といっていいその様相を見せる……レオと呼ばれた彼は、おおよそアイク達と同年代といっ
ていい背格好をしていた。
目の前の2人の純度8に向けて、腰を曲げて丁寧に一礼する彼はしかし……
「じゃが、腰の低さは直っとらんな……やれやれ、純度9がそんなことでどうする?」
「そうそう。本来なら、僕らが腰を低くするところなのにね」
「ご、ご冗談を……僕など、まだまだお2人に比べれば未熟者で……」
自らが持つ地位に似合わない謙虚さを見せる、純度『9』の純系の少年は……首を横に振って『とんでもない』とアピールする。2人の言っていることは、正しいのだが。
しかし、そんなからかいの雰囲気もすぐに引っ込み……ライオネルはなんとも言いがたい、神妙な雰囲気の顔になって、レオに語りかけた。
「しかし、お主もまた厄介なことになったものじゃのう……」
「は、はあ……面目ありません」
「何言ってるの、レオ君は何も悪くないさ。誰が悪いわけでもない……そうだね、間が悪かった、とでも言えばいいのかな?」
「だからといって何の慰めにもならんがな」
はぁ、とため息をつくレオ。
「ご心配、おかけいたします……」
「いいのいいの。それより……師匠も、僕と同じ目的でここに来てる、と見ていいの?」
「うむ。この年で若いもんの色恋事に首など突っ込みたくもないのじゃが……このまま見とっても面白くないことになるのは確かじゃろうしの。まあ……わしらがどうするかは……当事者達がそろってから決めるとするか」
そう言って、手元のグラスを空にするライオネルの目は……真剣だ。
「その当事者っていうのは師匠、レオ君と、彼女と……」
「うむ……今夜ここに来る、純度10の……」
その時、
ざわざわ……ざわざわ……
大広間の入り口付近が……やけにざわつき始めた。
「ね、ねえ、もしかして……あれが……?」
「ほら、連れの女の子の小指! あれ『白金の指輪プラチナリング』でしょ!? 間違いない……」
「す、すごいわね……2人とも、噂どおりの美少年……」
「あ、挨拶しなきゃ……いやでも、いきなり行ったら印象悪いわよね……」
老若男女の、焦ったような浮ついたような声が聞こえる。
(おやおや、とうとうお出ましかな……?)
新しいグラスの酒を口元に運ぶキースの視線の先、人ごみの向こうに見えるのは……
同じ顔に同じ礼服、同じ紺色の髪の、メガネの有無だけが異なる双子の兄弟だった。
☆
「す、すごいですね……なんか、圧巻……」
「わわわ……私、こんなとこ初めて来ました……」
「ミリス、カナ、そわそわすんな、軽く見られるぞ」
このような『夜会』は始めての2人は、大広間のその光景に完全に萎縮していた。それに一応の助言を飛ばしているのが、アイク。
ミリスは『夜会』そのものは、サイミールの総会の時を含めて何度か経験があるのだが……さすがにここは、規模から何から違う。何せ王族主催のパーティだ。無理はない。
その一方でセラは、
「なあ……これ食べ放題なんだよな、皿ごと持ってきちゃダメか?」
「そんなやり方したら品位を疑われます。事前に教えたマナーを守ってください」
ちえっ、とイオンに制されて不服そうにしていた。萎縮以前に、気にならないらしい。
そしてアイクとイオン、それにユキは……この手のものには耐性がある。緊張せずに、堂々としていた。最後尾についてきている、お目付け役の2人も同様のようだ。
このパーティは、『あること』を理由に計画されたもので……貴族や大商人、それに自分達以外の『純系』も多く集まっている、と、アイク達は聞かされていた。
そして、その『あること』というのは……アイク達の来訪とは、実は関係ない。ゆえに、アイク達が呼ばれたのは、時期が重なったための追加のようなものである。
ちなみに、アイク達は現在……服装はさすがにいつものそれではない。
アイクとイオンは、この世界の素材で作った特注品のタキシードだ。
ミリス他、女性陣は……拝領の『屋敷』に備え付けられていたパーティドレスの中から、各々好きなものを選んだ。
セラは『動きづれえ!』と最後まで渋っていたが、一番ましなチャイナドレスタイプで妥協した。スリットがある分、動きやすくはある。
かくして正装して会場に来たアイク達だが……やはり、視線はそこらじゅうから飛んでくる。理由など考えるまでもないが。
今や王国中が知るところとなった、アイク達の純度。それに、ユキをはじめ、ミストレスの4人がつけている白金の指輪……。
おそらく視線はほとんどが、どうやって彼らに近づき、取り入るかを画策している者たちのものだろう。アイクに言わせれば、うっとうしい、の一言だ。
「はぁ……毎度のことながら、社交会って肩こるな……」
と、うんざりしたように言うアイク。
「兄さん、コレは一応社交会とかじゃなくて、王女でん……」
と、イオンが言った言葉をさえぎるかのように……今日ここに来てはじめて、誰かがアイクらに話しかけてきた。
「へぇ~……かわいい子連れてるね、さすがは純度10」
「「「?」」」
アイク達が視線を向けると、彼らにとっては見知らぬ1人の男が立っていた。
長身に黒い服、オールバックに浅黒い肌……他ならぬ、キースだ。
物怖じすることもなく、しかも普通の口調で自分達に話しかけてきたこの男に……アイク達は、少なからず興味を抱く。
彼らに向けられる視線もまた、異なるものになっていた。無理もない。新参とはいえ純度10の2人と、古参の純度8の邂逅なのだ。場所が場所なら新聞記事ものである。
キースは警戒されないよう、ゆっくりと手を出した。
「会えて嬉しいよ、純度10の双子くん」
「えーと……あなたは?」
「デイビッド=キース卿ですね? お噂はかねがね」
と、アイクの言葉をさえぎってイオンが言い、握手に応じた。
イオンは取り寄せた資料で、前もって滞在中に出会うことになるであろう重要人物の顔や名前、特徴まで全てを把握していたのだ。この世界には写真がないが、キースぐらいの重要人物になると、相当に詳しい情報が出回っている。困ることはなかった。
「おや、僕のことを知ってるの? これは嬉しいな」
と、キース。
アイク他が一番に彼に抱いた印象は『チョイ悪オヤジ』だったが、その笑みは思いのほか柔和である。彼の人当たりのよさをよく表しているのかもしれない。
「でもまあ、一応自己紹介はさせてもらうよ。僕はデイビッド=キース。君達と同じ純系の、38歳の冴えないおじさんだ。純度は8だけどね」
(うん、資料どおり……)
脳内にインプットした情報と合致したのを確認し、イオンは簡単に自己紹介を返す。アイクもそれにならった。
「よろしく。よければ、少し一緒に話さないかい? 向こうに、僕の友達もいるんだ」
言って、キースが指さした先には……先程まで自分が話していた2人の姿。
イオンはそれを目視で確認し、アイクにしか聞こえないような小声で、
(向かって右、ウォーブル=ライオネル。77歳。公爵。現役最年長の純系で、中央の議会にも影響力を持つ重鎮。純度は8。左、オールレオス=ステルウィザード。17歳。同じく公爵。アーサランド王国唯一の純度9で……)
(了解。説明ご苦労、人間タレント名鑑)
(誰がですか)
確認も済んだところで、アイクは考える。
今後のことを考えるなら、ここで多少なり言葉を交わして、良好な関係の基盤を作っておくのもいいだろう。見知らぬ権力者が相手、というのは少々不安要素もあるが……現実世界でも、似たようなケースはよくあった。うまく対応すれば問題ない、と考える。
キースに『ぜひミストレスの方々も一緒に』と誘われたので、エミリィら含め6人を引きつれて向かう。その様子に、どうやら自分達が声をかけられるタイミングはまだ先だ、と悟ったのか、周りの者達は静かに散った。ここでがっつかないあたり、サイミールとは違う。
部屋の中央付近にて、4人の純系が顔を合わせ……まずは自己紹介。
「お連れしましたよ。2人とも、こちらが僕の友達」
「ウォーブルじゃ。よろしくな、若いの」
「は、初めまして……オールレオス=ステルウィザードといいます。純度は9で、その、お2人のお噂はかねがね……」
「おいおいおい……緊張しすぎじゃないの、レオ君?」
初対面というだけの理由ではないのだろう、レオのぎこちなさに、横からキースがやんわりとフォローを入れる。
アイク達も、簡単に自己紹介を返した。なるべく警戒心などは抱かせないように、いつも社交会でするようにして、だ。ユキらミストレス組も、それに習う。
その後しばらく、『ここまで大変だったでしょ?』『初めてのアルビオンはどう?』などといった何の気なしの世間話や、互いの褒め合いなどが続いた。
軽口のキースがアイスブレーカーになったようで、普通に権力者同士が相対した時のような気まずそうな雰囲気は感じられない。同じ『純系』同士で、初対面であっても、問題なく交流できたかのような雰囲気だ。
ミストレス組も同じ。集まり始めた、キースやライオネルのミストレスと、ユキ達が徐々に打ち解けて話せていた。
主に、こういった場の経験があるユキや、物怖じしない性格のカナの先導でカナとミリスも加われている。初回の交流としては上出来だろう。
……が、それは見える範囲でのこと。
歓談そのものが演技というわけではないが、水面下では……アイク達の側ではイオンが、キース達の側ではライオネルが、相手の腹の内を探るように目を光らせていた。
(まだ何のこともない若造、か……? 仁や気骨はありそうじゃが、何を考えているのかワシにも気取らせんとは……。見る限りは危険さは感じんが、出回っている噂の真贋も明らかではないとなると……。ひとまず、油断は禁物、といったところか……)
(何気ない会話ですが、完全に観察されている……まあ、余所者を警戒するのは当然だし、敵愾心も特に感じませんが……そう簡単に心を許したりはしない方が賢明ですね。一定の距離を置きつつ、あくまで部外者として接させてもらいますか……)
歓談を進めつつ、相互に出方をうかがっていた。
「それにしても……やっぱりかわいい子連れてるねえ、おじさんうらやましいよ」
そう言ってキースは、他のミストレス達と歓談しているユキ達の方に視線をやる。
4人とも、その小指にきらめく白金の指輪のおかげで、周囲の者たちから羨望と尊敬、あるいは嫉妬のまなざしを向けられていた。
「あんな美少女ばかり……しかも、個性豊かで気立てもよさそうだ。公募したって、そう集まるもんじゃないよ、僕の経験上」
「ふむ……それは確かに言えるのう……どうじゃ若いの、明日には返すゆえ、1人か2人貸してくれんか?」
「ははは、全身全霊でお断りします」
「何じゃつまらん」
今なお(下の方も)現役だというライオネル。
どこまで本気かわからないセリフだが、アイクは決して首を縦に振ることはない。
「それにしても……意外と話しやすい人なんだね。色々と物騒な噂が流れてくるものだから、どんなのかと思ってしまってたところだよ」
と、キース。
「噂……っすか?」
「ええ……白兵戦でゴーレムを退けたり、数百人を抱える盗賊のアジトを一夜で壊滅させたり……人間離れした噂ばかり聞こえてきて……ってすいません! こんなことを……」
今のを失言と考えてしまったらしいレオはあわててわびた。
一応、爵位持ちである彼の方が偉いと言えば偉いのだが……やはり純系にとって『純度』は絶対のステータスのようだ。9である自分よりも、10であるアイク達を立てるべき……と心で考えていると見える。実直で誠実な性格のようだ。
同じ『純系』でも、ブボウとはこうも違うものか、と2人は思っていたりする。
もっとも、キースやライオネルはそうではなく……かといって、嫉妬や妬みを見せる様子もない。自然体で接している印象を受ける。
キースは普通に砕けた接し方だ。まるで……友達に話すかのようなそれ。というか……付き合いが浅い2人は知らないだけで、キースは基本……気に入った人物とは友達感覚で接するような男なのだが。
ライオネルの方は、見下す……というよりは、あくまで『年長者』としてアイク達を下に見るような態度が目立つ。
が、単に権力による慢心や我欲などから来るものではない、人生の酸いも甘いも経験したからこそ出てくる言葉だ……とアイクとイオンは感じていた。例えるなら……漫画の長老系キャラか。常に冷静で、時に冷徹にもなるような。
ははは、と冗談交じりに笑っていたその時、
大広間に、拡声器(の役割の魔法)を使ったと思しき超大声が響いた。
『アーサランド王国女王・イリアザート=アクリール=アーサー陛下ご到着――!!』
「「「!」」」
出入り口付近の喧騒がひときわ大きくなり……次の瞬間、ざっと人垣が割れる。
部屋の中央を横切る形でしかれた赤絨毯が見えるようになる。
その上を、周りを屈強な護衛塀に囲まれながら、2人の女性が歩いてやってくるのが見えた。
1人は……ブロンドの髪を腰まで伸ばし、さらりとなびかせている女性。赤を基調とした、荘厳といってもいい立派なドレスに身を包み、手には絵に描いたような左団扇。
年のころは、かなり若く見えるが……おそらくサイミールのエラと同じパターンだろう。まとっているおごそかな空気がそう匂わせる。そのまなざしは穏やかで、優しかった。
それが誰であるかは……頭の上に乗っている『王冠』が物語っている。
もう1人は……その娘、と思われる。髪色も髪型も同じ。顔も……前を歩く女性を若くしたような感じだ。
違うところといえば、ドレスがピンク色を基調としているところと、心持と緊張しているように見えるところ。そして、頭の上のティアラか。
その2人は、衆人環視の中ながら、堂々と絨毯の上を歩いていく。
そして、赤絨毯の中腹……すなわち広間の中央辺りに差し掛かったところで、ふと、アイク達のほうを見た。
すると……わずかだが、2人の女性のうちの若い方が……そして、アイク達側のレオが……ぴくっ、と互いに反応したように見えたのを、アイクとイオンは見逃さなかった。
イオンはそれを見て、
(ああ、この2人、そういえば……)
と、心中で納得する。
するともう1人……母親のほうもそれに気づいたらしい。途中で歩く進路を変更し、アイク達がいる方に歩いてきた。
そして、その女性達が何か口を開く前に、
「ご挨拶申し上げます、女王陛下」
ライオネルがそういって頭を下げる。キースとレオ、アイクとイオンもそれにならう。
すると向こう側……国王・イリアザートも、そしてその後ろの王女もまた、丁寧にそれに返した。
「ご丁寧にどうも、ライオネル殿。キース殿、それにオールレオスさんも、お元気そうで何よりです」
そしてすぐに、その隣……見慣れない2人の存在に気づく。
「あら? そちらのあなた方は、もしかして……!」
その時、後ろで見ていたミリスは……自分達の主……アイクとイオンの挨拶の番だ、と気づき、それと同時に不安がよぎった。
相手はこの国の頂点。普通に生きていれば、庶民は言葉を交わすどころか、直接見る機会すらそうそうないであろう、天の上の人なのだ。
それを相手に、アイクとイオンがきちんと挨拶できるかどうか……いやそもそも、挨拶の仕方を知っているのかを、ミリスは不安になった。何せ、以前のサイミールでの夜会では……いきなりブボウの糾弾で始めたため、領主達への挨拶をまるまる省いていたのだ。
ましてや今回は、言い方は悪いが相手がそもそも違う。普通なら緊張で動けなくなって卒倒してもおかしくない。
そんな超大物を相手に、大丈夫か……と思っていたミリスであるが、
その心配は杞憂もいいところである。
「「ご挨拶申し上げます、女王陛下」」
そろった声で……アイクとイオンは何の合図も無しに、同時に言った。
「サイミール地方はフローネより、お声を賜りましてこの地に参上つかまつりました、アイク・ソーヤーと申します」
「同じく、イオン・ソーヤーと申します。以後、どうぞお見知りおきのほどを」
0.1秒のズレもないタイミングで、相手を敬う動作をみせ……完璧な選択で言葉を並べる。
その声に、口調に、仕草に、一切のミスはなく……また、緊張すらも感じ取れない。
しかも、双子らしく……一礼から足を引く動作にいたるまで、一連の動きが全く同時。それが余計に、挨拶を完璧かつ印象的に見せている。優雅、といってもいい。
それも当然のこと……お忘れかもわからないが、この2人、現実世界では元々、世界ランクの名家の生まれである。こういった場所での振舞い方や話し方など、家での教育で学んだことの中でも基礎中の基礎だ。今更緊張などで失態を見せるようなことはない。
それをただ1人知っているユキだけが、そのようすを『当然』とでも言いたげな表情で見ているのだった。他は、特に普段のアイク(大雑把)を知っているカナ達は……そのあまりのギャップにぽかんとしていた。まあ、緊張してカチコチよりはその方がいいが。
少し驚いたような女王だったが、すぐに微笑みに戻り、
「ご丁寧にどうも……。私はイリアザート……この国で女王をやらせて頂いている者ですわ。お会いできて光栄です、純度10の純系殿」
やわらかな微笑で、アイク達に言葉を返す。
それに続いて、後ろにいた女性も一礼してから、
「初めまして、アイク殿、イオン殿。アーサランド王国王女……エリーネイト・アクリール・アーサーと申します。以後、どうぞお見知りおきを……」
「「恐縮です」」
王女の方は若干緊張気味と見える。純度10の純系が相手だからだろうか。
そしてその直後、その王女の視線は自分達を離れ……次の挨拶の相手に向かった。
その視線の先には……レオがいた。
しかも互いに、様子が……普通とは違うように見える。
挨拶の最中、王女の方も、レオの方も……まるで、特別に親しいものを見るかのような目で……互いに見つめ合っている。先程、アイク達と相対した時に覗かせたような緊張感が、そこにはほとんど感じられない。明らかに……心の距離が近い。
時間にして数秒の出来事だったが……イオンはそれを見逃さなかった。そしてしかし、その理由を知っているがゆえに、驚きもしない。
するとその母が、
「積もる話は後にいたしましょう。皆様を待たせてしまっては申し訳ありません。セバスチャン、はじめてちょうだい」
すると、大広間の前のほうで……おそらくこれからイリアザートたちが座るのであろう席の横に、礼装に身を包んだ司会者らしき男が立ち、声を張った。
「それでは皆様、少々お待たせしてしまいましたが……女王陛下より、開会のごあいさつを頂戴し、開会とさせていただきたいと思います。皆様、しばしご静聴のほどを……」
すぐに会場が静まり返ると、イリアザートがアイク達のところから離れ……前に出る。
当然、エリーネイトもまた前に出たのだが……なぜかその手に、先程までアイク達の隣に立っていた、レオを引き連れてきていた。それも、家来か何かとして同行させているようなかしこまった感じではなく、もっと砕けた空気をただよわせて……
その上でお互いに見詰め合って、顔を赤らめているその姿は、まるで……
と、その瞬間、イリアザートの声が響き渡る。
「本日はお忙しい中お集まりいただき、大変ありがたく思います。それでは皆様、この国の明るい未来に……そして……」
一拍置いて、
このパーティの主題でもあるワードをまぜて、開会の挨拶として……
「わが娘、エリーネイトと、かのステルウィザード家党首・オールレオス殿の婚約を祝うと共に、2人の輝かしい未来を願って……乾杯!」