Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「いや~助かるよ。護衛ってのは、多くて困ることはないからね」
「ははは、そう言ってもらえると光栄っすよ」
アイクとそんな会話を交わしているのは、体格のいい中年の男。はげ頭に丸顔、ひげ面で、やや太り気味……悪く言ってメタボな感じの体格。
何を隠そう、今現在アイクとイオンが同行し、護衛している商人のキャラバンの『親方』にして……イーラとミリスの父親である。
……とまあ、一体どういう状況なのかという説明がまだなので。簡単に。
前日の昼過ぎ、鍛練中だったアイクとイオンはイーラに呼び出され、あることを頼まれたのだ。それは……
☆
「キャラバンの護衛?」
「そう。それを頼みたいんだけど……大丈夫かな?」
書斎で、山積みにされている書類をてきぱきとこなしつつ、イーラは申し訳なさそうにアイク達にウインクする。
この姿(見事に仕事を片付ける敏腕ぶり)をみている限り、先日自分たちを拘束して淫行に及び、精液を絞りとった彼女と同一人物と思うのが難しいのだが、そこはまあアイクもイオンも諦めていた。
それよりも、気になるのは話の内容である。『護衛』とは一体いかなるものか。
「そのまんまよ。先週から品物の選定と買い付けに行ってた父さんが、今日、ふもとの町から帰るんだけど……その時、村からこの家まで運ばなきゃいけない荷物があるの」
「ふむふむ」
「それで……その荷物なんですけど、けっこう大事というか、重要というか……希少価値もあって、値段も高いものが多いんです。その護衛を、アイクさん達に頼めたら……と」
と、コレは続く形で発言したミリスのセリフだ。
つまり、村から山道を通ってこの家に色々と荷物を(馬車数台で)運ぶけども、それを襲われたりするとまずいから護衛について守ってくれということらしい。
「最近……なんか山賊の動きが活発になってるのよね……。ついこないだも、ミリスと一緒に襲われたでしょ? だから、万一のことを考えなきゃいけないの。頼める?」
もともと、行くあてもないところを世話になっているアイク達である。その恩人と言ってもいいイーラとミリスが頼ってくれているとなれば、是非もない。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「話が早くて助かるわ。フローネの村まで行って、中継所で待っていてくれる? 昼前には父さんたちのキャラバンがつくはずだから……そうね、ミリス、案内お願い」
「はーい」
その後細かい説明などを聞いて、3人は支度をして出発。今に至る。
☆
恰幅のいい男、といったイメージの強いミリスの父は、自ら馬車の手綱を取り、荷車を引く馬を走らせていた。
正直言ってミリスにもイーラにも似ていないのだが……そこは2人とも気にしないことにした。おそらく2人とも、母親似なのだろう。その母親は、何かの理由で今は別居しているらしいが。
「ところで……アイクくんだったか? 君はこの辺じゃ見ない顔だけど……どこから来たんだい?」
「えー、えっと……遠いところ、としか言いようがないっすね……」
「そうかそうか。まあ、言いたくないなら無理には聞かんよ」
豪快に笑うミリスの父・名はオッドというらしい。フローネの村長を務めると同時に、周辺の色々な商業組合をひっぱっている親方さんなんだそうだ。まあ、確かに人から好かれそうな性格というか、雰囲気ではある。若干暑苦しくもあるが……嫌な感じはしない。
現在、馬車は2台。1台はオッドが、もう1台は部下の人が操っている。乗組員は……アイクとイオン、ミリスを含め、合計で10人ほどだ。
その馬車が運んでいるのは、守秘義務とかで教えてもらえなかったものを除けば、交易品や献上品、あとは食糧など。確かに、売れば結構な値段になりそうなものも混ざっているし、山賊が狙いそうなものも多くある。
傾斜もそれほどではなく、全長数キロ、荷馬車で30分ほど―――普通の馬や馬車ならもっと速い―――の山道だが、道の両側に茂る木々が深いので油断は禁物なのだ。
まあ、見張り以外は特にすることもない暇な時間なので、オッドは積極的に周りに話しかけていた。
「どうだいミリス? すこしは姉さんの手伝いなんかも始めてみたかい?」
「え? いや、そんな……せいぜい書類の整理くらいだよ」
「おいおい、だめだぞそんなんじゃ? お前もゆくゆくはフローネの代表者になるんだ。商業・商談は経験が命だからな。今度、小さな商談を任せてみようか?」
「よしてってば! まだ早いよ!」
「やれやれ……消極的だなあ。ねえイオン君、何とか言ってやってくれないか?」
「いや、そう言われましても……」
人見知りというものには無縁らしいオッド。若干無理やりな感じもするが、徐々に初対面のアイク達とも打ち解けつつあると見られた。
そして、ちょうど山道も中盤に差し掛かったころである。
「時にアイク君、君たちは……ミリスとイーラの家に滞在しているのだったね?」
「え? ええ、そうですけど……あれ? その言い方だと……」
まるで自分は違うように聞こえる……という前に、オッドは説明を返してくれた。
村でいくつもの商業組合の世話をしているオッドは、参道の先の家の他に、支部的な意味で村にも家を持っているという。商談やそれらの調整の間は、どちらかというとそっちで暮らすらしい。今日もこの後は、一旦家で休憩した後、『村の方の』家に戻るそうだ。
「そうだアイク君、イオン君! ミリスも、よかったら3人とも……」
と、その時、
「そこの馬車、止まれっ!!」
「「「っ!?」」」
怒声とともに、山道の両脇から何人ものガラの悪い男たちが飛び出して来た。そして前後に幅広く展開し、キャラバンの荷馬車を取り囲む。
それが例の山賊だということに気付くのに、時間はいらなかった。
進路をふさがれ、オッドは慌てて馬をとめた。間髪いれずに、山賊たちは距離を詰める。
「なっ……何だ貴様らは!?」
驚きながらも、ビビる様子をあまり見せずにオッドは声を張る。それに対して、集団の中の1人が意地の悪そうな声で返した。
「見てわかんねえか? 山賊だよ。その荷物……丸ごと置いて行きな!」
「ふざけるな! そんなことできるか! さっさとどけ!」
「おいおい、命が要らねえのかい?」
ぎゃははは、と下卑た笑い声があたり一面から聞こえる。
こうなることも当然予想して、オッドはアイク達以外にも腕の立つ用心棒を3人雇って荷台に乗せていた。山賊対策はそれなりにとれていたはずだ。
しかし、いかんせん山賊の数が予想外に多い。ざっと見て……30人いるかいないか、というところだろうか。さらに……茂みの奥にまだ同じくらいの人数が見える。
「ぬぅ……どうです? 先生方……」
「さ、さすがに厳しいんじゃないか、旦那……この数は……」
「ああ……10人くらいなら何とかなったかもしれねえが、数が違いすぎる……」
「むぅ……」
オッドの額に嫌な汗が流れる。予想をはるかに超えてまずい事態に、決断を迫られているのだろう。
村長として、商人として、荷物を渡したくはない。汗水流して買い付けてきた荷物をすんなり略奪者に渡すなど、プライドが許さない。
しかし、そうも言っていられない。用心棒は、アイク達を計算に入れても5人。組合いの仲間は、戦力に数えられるほど強くはない。山賊たちを破るには、明らかに戦力不足だ。
抵抗すれば何をされるかわからない。ましてや……ミリスが一緒にいる。
そんな葛藤をあざ笑うかのように、山賊たちの群れの中から、1人の男が前に進み出た。
その男は……
「「「…………っ!!」」」
「さて……どうしますかな? 村長……オッド殿?」
まぎれもなく……先日アイク達が連係プレーでふき飛ばした、あの男だった。
(山賊って……こいつらのことかよ!)
(まあ……予想しないではありませんでしたけどね……)
(あ、あわわ……)
馬車の内側に乗っているために、恐らくアイク達が見えていないのだろう。山賊の頭(リーダー)は、オッドの悩み苦しむ顔を見て満足げな笑みを浮かべていた。
「さて……今一度お頼み申しあげようか。荷台の荷物、それに、乗組員でも用心棒でも、乗っている女も全員……置いて行っていただけるかな、オッド殿?」
「貴様……!」
頭の『女も全員』というセリフに、ミリスが怯えて『ひっ……』と声を出しそうになる。それをイオンは『大丈夫』と制しつつ、アイコンタクトでアイクと会話した。
(んじゃ行くぞ、イオン)
(やれやれ……了解です)
☆
「さて……もう考える時間は十分でしょう? オッド殿、返答を」
頭はそう言って、オッドに決断をせかす。あくまで奪う前に、オッド自身に諦めの決断をさせたいようだ。恐らく、それがオッドにとってどれほど悔しく、屈辱的なものになるかをわかってのことであろう。
しかし、仮にオッドが断ろうものなら、今度は力ずくで、何の遠慮もなく荷物と女を奪いにかかるのだろうが。
「卑劣なまねを……! 貴様、これらの荷物が私達にとって、村人たちにとって、どれほど大切なものかを知っているとでもいうのか……!」
「知ったことか! 俺たちは金と女が手に入ればそれでいいのさ!」
「そうそう、こんな奴らに何言っても無駄だって、オッドさん」
「そういうことだ……ん?」
と、ここで頭は、今の声が手下の者にしてはやけに若いものであるということに不自然な感じを覚えたらしい。
嫌な予感を感じつつ、声のした方……荷馬車の上を見ると、そこには……
「な……っ!! て、てめえらは…………!!」
「ハロー?」
「9日ぶりですね、お山の大将さん?」
荷台の上にさっそうと立っている、想夜兄弟の……9日前に、自分を含めた山賊団の全員をたった2人で撃滅した双子の姿だった。
2人を視界にとらえたとたん、明らかに頭の表情が余裕のないものに代わる。それを、そして荷台の上のアイクとイオンを交互に見て、オッドは不思議そうにしていた。
無理もない。この2人の美少年が……40人もの山賊を蹴散らしてみせたなどという経歴は、知る由もないであろうものだから。
歯ぎしりをしながら、頭は言葉を絞り出す。
「てめえら……ここの用心棒をしてやがったのか……!」
「みたいだね? さーて、そんなわけなんだけど……どうするよ、おっちゃん?」
「何だと……!?」
額に青筋を浮かべて興奮状態の頭に、遠慮なくアイクがたたみかける。
「1回だけ言うけどさ……さっさと消えてくんない? 部下の皆さんも全員連れて。そしたら、俺らもあんたらをコテンパンにしなくて済むからさ」
「何だと!?」
「テメェ何言ってやがるんだクソガキ!!」
「殺すぞ!!」
盛大に愚弄され、部下たちが殺気づく。こうなると……部下たちを制止するのは逆効果とも言える。それを考えてだろうか、山賊の頭は、少し迷っていたが、どうやら今回は前よりも人数が多いということ、そして部下の手前であると言うことを考慮して、勝負に出たようだ。
「お前ら! まずあのガキ2人をやっちまえ! 残りはその後だ、手出しはするなよ!」
「「「おぉーっ!!」」」
号令とともに抜刀し、山賊たちが襲いかかってくる。その様子を、少しは驚いてもよさそうなものだが……2度目でもあるせいか、さして動揺している様子もないアイクとイオンは冷たく見下ろしていた。
(やれやれ……学習しませんね……)
このまま馬車の上に乗っていては、オッドやミリスが巻き込まれかねない。となれば……アイクらの出方は1つ。
「じゃ……行くか! 特訓の成果、試すいい機会だぜ!」
「了解です。せっかくですし、練習相手になってもらいましょうか!」
掛け声という合図とともに、双子の戦士は馬車から飛び降り、地面に降り立った。
「うらあぁっ!」
「死ねェ!!」
馬車前方に降り立ったアイクのもとに、一番手前にいた2人が斬りかかってくる。
しかし、所詮は馬鹿正直に突っ込んでくるだけの突進。アイクは軽々とかわし、余裕たっぷりにその背後に回り込む。そしてその2人が振り返る前に。
「そらっ!」
ドガガッ!!
「「が……」」
どさっ
延髄に手刀を入れて2人とも気絶させた。
「は……全然大したことね―な。所詮は不良上がりってことか……」
次いで、襲ってくる山賊たちの攻撃を見事にさばき、かわしつつ、急所を狙った拳や蹴りで1人ずつ地に沈めていく。
かわす、殴る。かわす、殴る。かわす、蹴る。かわす、殴る、殴る、蹴る。
アイクにすれば普通にそういう単調な作業を行っているだけなのだが、身体強化をつかって戦っているため、その速さは尋常ではない。
当然だが、武術もやっていたそのアイクの動きに、『楽に生活したいから』という理由で不良から山賊に転職した彼らがついて行けるはずもなく、さしてアイクが技も使わないうちから山賊たちの人数はみるみる減って行った。
「だから遅ェっつの! おら!」
「「ぎゃああ!!」」
どさどさっ!
上段の回し蹴りでさらに2人崩れ落ちる。この時点で残り半分ほど。
一方、馬車後方ではイオンが戦っている。こちらは前方のアイクとは違い、体術のみならず、魔法・非物理系統の攻撃を主体に戦っていた。
「『ソニックブーム』!!」
バシュッ!!
「「「ぐあああぁあ!?」」」
言うと同時に、イオンの手から強烈な衝撃波がほとばしり、周りにいた山賊たちをまとめて吹き飛ばす。
その光景に唖然として隙ができている手下を、イオンは見逃さない。瞬時に前に跳び、上段蹴りを決めて気絶させる。さらにその背後から迫ってきていた敵のサーベルを、護身用にと借りていたナイフで受け流し、体制を立て直す前に顎にアッパーを決めた。残りの奴らには、ダメ押しとばかりに『アクアエッジ』の水の刃をぶつけて倒す。
理論派のイオンらしく、常に数手先までを予測・計算した動きである。行き当たりばったりで戦っている山賊たちが太刀打ちできるはずもなく、前線のアイクに負けない勢いで掃除されていった。
何より、イオンの目を盗んで馬車の方を襲おうとしたり、誰かを人質に取ろうとするかのような動きを見せようものなら、
「『スピードスター』!!」
ヒュヒュヒュヒュヒュン………… ドガガガッ!!
「ぎゃああーっ!!」
遠距離系の攻撃を使って容赦なく滅殺される末路をたどる。イオンの手から、星型をした無数の光弾がほとばしり、山賊たちを直撃・炸裂し、残らず打ちのめした。
しかもこれは『ポケットモンスター』の技の1つ『スピードスター』。この技、『敵に必ず当たる』という特殊効果がついているために、味方や荷物にまで余波が及ぶことが無いのだ。いわば、超簡易的な誘導弾丸である。そこまで計算された、やはり見事な選択と言えるだろう。
前線と後曲、両方で攻守ともに見事な殺陣を繰り広げるアイクとイオンの姿に、
「す、すごい……これほどとは……」
「ありえねー……!」
「強すぎだろ。な、何モンだあのガキ達?」
オッドを始め、守られている味方までもがその強さに畏敬の念を覚えていた。
さして変わった様子が無いのは、ミリスくらいである。彼女は以前に、彼らがその『力』と驚異の戦闘技術を使って山賊を討伐するのを見ているのだ。それに、訓練している2人の姿も、その際に繰り出される技の数々も何度も見ている。
それでも、
「すごい……やっぱり、強い……」
実際の戦いでこうまで見事に動く姿というのは、やはり彼女でも見とれるほどのものであるわけだが。
ほどなくして、攻撃音がおさまった。
60人近くいた手下達は、いつの間にかほぼ全滅していた。残るは、頭の近くにいる近衛兵と思しき数人と……その頭本人である。
「ち、畜生……こいつら……!」
「やれやれ……結果、この前と変わんなかったな、おっさん?」
そう軽口で言うアイク。素人同然のザコが相手とはいえ、見事な動きで回避と攻撃を完璧にこなしていた彼の体には、かすり傷の1つもない。
そしてそれは、後方の全てを片付けて前線に上がってきたイオンも同様である。
「か……頭ぁ……?」
「ど、どうしますか!? こいつら……滅茶苦茶強いっすよ!?」
「く、くそ……!」
悪態をついた頭は、一瞬だけ荷台に……そして、そこに乗っているオッドやミリス達に視線を向ける。
一瞬、彼らを人質にするという選択肢が頭をよぎったが、すぐにそれは消えた。2人のあの動きと反応の速さに勝てる気がしないし、よしんば追撃を振り切れたとしても、メガネの方……イオンは、遠距離系の魔法らしき攻撃を使うところを頭は見ている。何をされるかわからない。
となれば、
「逃げるぞお前ら! 引けぇ―――っ!!」
「「「へ、へい!!」」」
踵を返し、一目散に地毛身の向こうをめがけて逃げ出す。
賢明な判断だろう。数人の手下と自分だけでは、アイクとイオンに到底かなうはずもない。ここで意地を張らずに逃げるのは、当然の選択だ。
……惜しむらくは、それを選択するのが少々遅かったことと、
「ったく……逃げるのはいいけどよ……仲間置いて逃げてんじゃねえっつーの!!」
とまあ、そういう態度をとったことが……熱血漢系のアイクの癇に障ったことだ。
どの道、ここで逃がしてはまた後々商人を襲う恐れがある。不安の芽を徹底的に摘むというのは、イオンにしても同様の考え方だった。
そんなことを知ってか知らずか、アイクは地面を蹴って前に跳んだ。
「ひ、ひいぃーっ!? く、来るなぁ!!」
「往生際が悪ィんだよ! 『ニトロチャージ』ィィ――――ッ!!」
直後、アイクはその体に燃え盛る炎をまとい、その勢いを急激に増したまま、固まって逃げている山賊の残党のど真ん中に飛び蹴りで突撃した。
ドゴォオオォーン!!
「「「ぎゃああああああ―――――っ!!!」」」
断末魔の悲鳴とともに、着弾の際に発生した炎と爆風に巻き込まれ、頭を含めた山賊たちは、死にこそしなかったものの、全員が一撃でノックダウンした。
☆
「いや~助かったよ、本当にありがとう!」
「いやいや、コレが仕事ですから」
「でも……相変わらず、2人とも強いですね……」
再び動き始めた馬車の中で、一行はそんな会話を交わしていた。
アイク達の活躍により、人も荷物も何の被害もなく山賊をやり過ごせたばかりか、ここらの治安の問題点である山賊を一網打尽にして、全員捕らえられたわけだから、オッドはそれはそれは機嫌がいい。さっきまでにもまして、笑顔にハリが見られる。
その捕らえられた山賊たちは、全員縛って拘束し、村から呼んだ自警団に引き渡された。あとは彼らの仕事、その内相応の裁きが下るだろうとのことだ。
「しかしミリス、お前えらい逸材を見つけたもんだなぁ? あんな強さの用心棒なんて……多分、都の王国軍にもそうそういないぞ?」
「あ、うん、いや……たまたまだから……。運がよかったの……かな?」
あはは、と乾いた感じの笑い声を返すミリス。まあ、偶然森で倒れているところを発見して保護した……という来歴しかないわけだから、それはそうなのかもしれないが。
そうこうしているうちに、一行はもうじきミリスの家……という所まで来ていた。
「ふぅ……ようやくだな。やっと我が家だ」
いい仕事し、という感じの表情になるオッド。苦難を乗り越え、帰宅の喜びもひとしおなのだろう。ここで『乗り越えたのはアイクとイオン』ということは言ってはいけない。
しかし、ミリスはため息間尻にこんなことを言い出した。
「でもさ……お父さん、どうせまた夜になったら村に戻るんでしょ?」
「え? そうなんスか?」
せっかく家に着くのに? とアイク。
「ああ。まだ向こうでやるべき仕事が残ってるし……商業組合の連中と打ち上げもしたいしな。向こうには事務所もあるから、今日はそこにとまるよ。すまんな」
「大丈夫よお父さん。私もお姉ちゃんも、もう子供じゃないんだからさ」
どうやら、父親の外泊はあまり苦でもないというか、慣れているらしい。
そうか、といって笑うオッドに、ミリスも笑顔で返していた。と、ここで、
「そうだ……アイク君、イオン君、よかったら君たちもどうだい? 今晩の打ち上げ……参加しないか?」
「え? いいんすか?」
オッドの口から、そんな誘いを受け、興味がありそうなアイクが聞き返す。
「もちろんさ。今回無事に荷物を運べたのは君達のおかげだし……武勇伝を語るには、本人がいた方が盛り上がるってもんだ。それに……俗な話、帰る時の護衛も欲しいしね」
「あ、待ってよ父さん。アイクさんとイオンさんには、これから報告書類をまとめてもらう約束をしてるのよ? 一応、山賊と一戦あったのは事実だし……」
ミリスの言うとおりである。アイク達は今回の護衛に関して、簡単な報告書をまとめて依頼主であるイーラに提出し、今日何かあったかを知らせるという仕事が残っているのだ。決してないがしろにしていい事柄ではない。
それでも、確かにオッドの誘いをむげに断るのもいい気はしないし、護衛の役割が必要なのも確かだ。それを考え、イオンが挙手した。
「じゃあ……こうしませんか? 僕はミリスさんのお宅に戻って書類をまとめますから……兄さんは、打ち上げの方に参加してくれば」
「え、いいのかよ? そんな俺ばっかり……」
と、唐突に飛び出した弟からの意外な申し出に、アイクは戸惑いを浮かべる。まあ、自分だけ遊びとも言える席に……なんてことを言ってきたわけだから、無理もない。その上、自分は面倒事の方を引き受ける……と。
「どの道護衛は必要でしょうし……僕はまあ、もともと書類整理がてら、書庫で読書するつもりでしたから平気です。その代わり……お土産は期待していいんですよね?」
「ああ……んじゃ、悪ィけどそうさせてもらうかな。おっちゃん、御馳走になるッス」
「おう、どんと来い!」
わっはっは、と機嫌よく笑うオッド氏である。呼称に関してはどうでもいいらしい。
どうやら、自分達の窮地を救ってくれた英雄と酒を飲めるのが嬉しくてしかたなく、テンションが今から上がってきているようだ。
(町だし、『打ち上げ』だしな……見たこともない料理おごってくれるかも)
自然とそんな期待もわいてくるアイク。その横でイオンはミリスと、
「いいんですか? イオンさんは行かなくても……」
「まあ……正直、あんまり騒がしいのよりは静かな食事が好きな方でしてね」
と、肩をすくめて一言。このあたり、この想夜兄弟の『双子』でありながらの差と言えるのかもしれない。
結局その日は、アイクがまたオッド氏について村へ戻り、家には明日戻る。イオンはミリスの家に残って作業……という形になった。
…………が、
この時、アイクに言わなかったものの、オッドがお礼にと考えていたもう1つの『プレゼント』の存在を、まだオッド本人以外の誰も知らなかった。
善意からではあるのだろうが……あまりに突拍子もないプレゼントの存在を。