Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
その日の午後、である。
「ただいま戻りました」
「おー、イオン。お疲れ。んで……どうだった?」
屋敷に戻ってきたイオンに、入ったところのリビングのソファに座っているアイクはたずねた。
イオンは狙撃の直後、アイクの指示に従って狙撃手(弓矢だが)を追ったはずだが……
「すいません、無理でした」
「? 見失ったのか?」
「いえ……一応追い詰めたんですが……あと一歩で捕縛という時に……どうやら、口の中に事前に毒入りのカプセルか何かを含んでたみたいです。それを噛み潰して……」
「自決……か……。後味わりーな……」
「ええ………………ところで兄さん」
と、イオンはその……屋敷内の光景を見渡して言う。
「あの……これ、いったいどういう状況でしょうか?」
「ははは……ごめんね、お邪魔してるよ」
「ど、どうも……」
「……あーまあ、色々あってな」
と、そんな事を言うアイクの周り……すなわちこのリビングには……
ユキ達ミストレス組の他に……レオとキースの2人がなぜか一緒にあがりこんでいて、ソファに座っていた。
レオは緊張した様子で、キースはいつも通りの調子で。
表情には見せないが一応困惑しているイオンに、ため息混じりにアイクは……状況の説明を始めた。
「えっと、簡単に言うとだな……」
☆
一応、応急の処置として……兵たちを率いて屯所に逃げ込んだアイク達。
というか、逃げ込んだのはイリアザートたちのことをさし、アイク達はむしろその護衛……といった立ち位置だが。
その後、王国騎士団の応援が到着し、護衛の体制も整ったため、王城に帰ろうか……という段階になっての話である。
「さて、問題は……レオ君をどこで守るか……か……」
と、コレは一緒についてきたキース。
どういう意味か……とアイクが問う前に、その声に応えたのは……女王だった。
「デイビッド、やはり今回のコレは……?」
「でしょうね……。今回の襲撃、このタイミングや……2発目以降、乱雑な追撃がなかったことからも……それが一番自然だ、と考えていいでしょう。となれば、仮に王城内部や、軍の本部でかくまうとしても、安心できませんね……」
あごに手を当てて、いつもの軽口とは微妙に違う……神妙かつ真剣な雰囲気を漂わせながら、キースは言葉を並べる。
イリアザートとの2人だけで、何やらどんどん話が進んでいく。アイク達はそれについていけない、かといってむやみやたらに話に割りこめないまま、それを見ていた。
エリーネイトとレオも同様だが……レオはなぜか、沈んだような、心中に何かを抱えているような……神妙そうな顔をしていた。
イリアザートは、
「この状況下、彼をかくまうに当たって……アルビオンに最早安全な場所は……」
「いえ……1箇所だけ、心当たりがありますよ、陛下」
「!? 本当、デイビッド!?」
すると、キースは……
「……アイク君、君の家……ちょっとお邪魔できないかな?」
☆
「それで……僕らの屋敷に、ステルウィザード卿とキース卿が?」
「そういうことなんだよ、いや~……事後承諾で悪いね」
キースはグラスの酒を傾けながら言う。
「あ、あの……お客様ですし、お飲み物でお出ししたのですが……」
「ああ、ええ、構いませんよ」
と、やってよかったのかと不安になっているカナには説明しておく。
ちなみにカナを含め、ユキ、セラ、ミリス……そしてアイクも、帰ってくるとすぐに、礼服を脱いでいつもの普段着に着替えていた。
そしてリビングにいるのは、上着を脱いだアイク、メイド服のカナ、上下ナイトガウンのミリスとユキ、そして……礼装を着崩したキースとレオのみだ。
セラは工房、エミリィとシルテリクスは仕事で一時的にアイク達の下を離れている。
イオンは自分もタキシードの上着を脱いで、手近にいたメイド(備え付け)に渡しつつ、
「それで……今夜はお2人とも、ここにお泊りになるんですか?」
「ああ……そういうことになるね」
「す、すいません……いきなり、押しかけてしまって……」
ぺこりと頭を下げるレオ。
イオンは特に気にせず、一礼だけ返してキースの方に向き直る。その言わんとしていることがわかるのか、キースは先に口を開いた。
「わかってるよ。君達の屋敷ここに転がり込んだ理由が聞きたいんだろう?」
「ええ……かくまうのがなぜ、ステルウィザード卿なのか、も、できれば一緒に」
「いいところに適確に気がつくね……。まあ、どの道説明するつもりだったんだ、構わないよ。元々僕は……そのためについてきたんだからね」
そして、キースはグラスを空にした後、改まって……というわけではないが、話し始めた。そのグラスには、数秒後に……カナからおかわりのブランデーが注ぎ足された。
イオンたちが、一様にソファについたのを確認して、キースは話し始める。
「まず……最初に1つ。今回の狙撃で狙われたのは……陛下でも殿下でもない、ここにいる……レオ君なんだ」
と、キース手で示され、アイクは
「ステルウィザード卿が……? どういう意味ですか、キース卿?」
「あせらないあせらない。それとね……アイク君もイオン君も、ミストレスの皆も……僕のことは、デイビッド、でいいよ?」
「あ、じ、自分も、その……レオ、と呼んでいただいて結構です。自分のファミリーネームは長いので……」
「そうですか、ではお言葉に甘えまして……デイビッドさん、レオ君が狙われた……ということについての説明をお願いします」
その問いに、ため息をつきながら、キース卿……もとい、デイビッドは話す。
「言っちゃえば恐ろしく簡単な話さ。今回の……レオ君と王女殿下の縁談に反対の連中がいて……この縁談を成立させまいと、あの手この手で妨害をかけてくるんだよ」
「? 結婚に反対って……?」
いぶかしむようにアイクが言う。
「どういうことっすか? もしかして……他にも、お姫様との結婚を望む人がいるとか?」
「あー……王女様だもんね、許婚いいなずけ候補の1人や2人や3人や4人、いそう」
と、アイクとユキ。
しかし、デイビッドは首を横に振って、
「そういうのもいないわけじゃないけど、今回の犯行の目的とは違う。いいかい、今回の犯行は、そもそもの原因は……」
そして、
「アイク君、イオン君、君達なんだ」
「「「は?」」」
と、その瞬間、
『その表現は不適切よ、デイビッド』
「「「!?」」」
そんな声が響いたかと思うと……突如としてリビングに、一羽のツバメ……しかも、折り紙でつくったようなペラペラのそれが飛んできた。
それが、サイミールで見たあの『魔法便箋』の類型だとアイク達が気づくより先に、それはリビングの一角に舞い降りた。するとそこに光の柱が現れ……その中に……
「じょ……」
「女王陛下!? それに、エリーネイト殿下も……」
王城にいるはずの2人が姿を見せた。しかも……半透明で。
『レオ、無事なの!? 怪我は!? 何ともない!?』
「あ、ああ……何もないよ、エリー」
状況そっちのけで、エリーネイトはレオの心配をしていた。
これが、遠隔地にいるものと話をするための通信用の高等魔法であるということは……すぐ後にアイク達がデイビッドに聞かされて始めて知ったことだ。
そして、イリアザートたちの隣に……もう1人、どうやら、この魔法を使っている術師であると思われる男が1人立っていた。
中肉中背で額の広い、年齢は50代後半ほどであろう白髪頭のその男は……
「おや、あなたでしたか……ハーボック大臣」
『はっ。女王陛下の命により……そこまで魔法符を飛ばさせていただきました』
ハーボックと呼ばれた男……どうやら、この国の大臣の1人らしい。自分の術でこれを投影している彼の体もまた、半透明だ。
ともかく、その、立体映像ホログラムのイリアザートは、先のデイビッドのセリフに、
『アイク殿やイオン殿は……事情をそもそも知らない。それなのに、あんな言い方は失礼……いえ、間違っているわ』
「なるほどね……それもそうですね。失礼、アイク君にイオン君……半分忘れてくれ」
「「はぁ……」」
と、唖然とするそばで、
「それじゃあ、あらためて……」
『それにデイビッド、ここはもう特に公の場でもないのだから、普通に接してくれないかしら? 知らない仲じゃないでしょう?』
「……わかったよ、イリア」
と、仮にも陛下相手にも砕けた口調になったデイビッドは、話し始めた。
その口調の理由が、デイビッドがイリアザートの幼馴染にして、遊び相手だったから……ということをアイク達が聞かされたのは……もう少し後の話である。
☆
「知っての通り、レオ君はそこにいらっしゃる(いないけど)、エリーネイト王女殿下とのご婚姻が決まっている。それも、両思いの恋愛結婚で、ね」
「わー、素敵ですね」
と、ユキ。
エリーとレオは、かすかに顔を赤らめてうつむいた。しかしそれに構わず、というかからかう様子すら見せず、デイビッドは続ける。
「そこにいたるまでに、色々としがらみもあったんだ。何せ、王女様だからね……他にもそのお婿さんの座を狙ってる人は多かったし」
『でも、エリーは無事、レオ君と結婚できることになったわ』
これはイリアザート。
「本人達の意思を尊重した……ってわけですか?」
『ええ……しかしアイク殿、それは理由の一部でしかないのです。やはり、このエリーとレオ君の婚姻の決定打になったのは……』
そこで一拍置いて、イリアザートは、
『レオ君……オールレオス=ステルウィザード卿が、純系……それも、アーサランド王国最大にして唯一の、純度『9』だったこと』
『そうなのです』
次いで、今度はハーボックとデイビッド。
『純度『9』といえば、分野にもよりますが……元々の社会的地位に加えて、様々な特権の存在を考慮すれば、限りなく王族に近い権力を有する存在でございます。自国にとって凄まじく有益な存在とはいえ、何かのきっかけで王族と対立するようなことがあれば……国が二分されかねない、極めて大きな不安感を内包する存在でもあるのです』
「純度9のレオ君の精液は、今現在……国内のアンプルの生産において、とっても重要な位置にあるからね……仮に王族との対立でそれが採取できなくなり、流通しなくなれば……国民の子作りに必要な『アンプル』の生産・研究に直接ひびが入る。そうなれば、他の部門とも合わせて考えると……国家規模で相当に深刻なダメージなんだ」
『そういった事態を恒久的に回避し、かつ権力を集中させることも考えると……エリーとレオ君の2人の婚姻は最善と言ってもいい方法、ということなのです』
と、イリアザートが締めくくる。
つまり、国内における最大権力である『王族』と、それに近い権力を持ち、反発した場合に対抗勢力となる……純度9のレオ。
それらの対立を根本から防ぎ、かつその持っている権力の全てを王族のものとして回収できる。双方にとって利益になるその事実が武器となり、ライバル達を押しのけて、レオはエリーネイトと婚約できた、というわけだ。
と、そこまで聞いた時……イオンは、先程のデイビッドの言葉の意味を理解した。
「そうか……! それでデイビッドさんはさっき……」
「そういうこと、なんだよね……」
ため息混じりにデイビッドは言う。
「多少の反対意見はあれど、無視できる程度だったし、誰もが問題なく……愛し合う2人が結ばれることができると思ってたんだけど……ごく最近になって、それらを根本から覆しかねない、特大の阻害剤が出てきちゃったんだよ。それが……」
一拍、
「レオ君を超える純度『10』……君たち2人の存在さ」
当然、と言っていいだろう。
レオとの婚約が支持を受けたのは……少々情のない言い方になるが、相思相愛の2人の意思を尊重したわけではない。
レオがそれまでの最高純度であり、王族を除いた最高権力で、婚姻によって不安要素が消滅する……という大義名分があったからだ。
……が、レオ以上の純度……すなわち、将来的にでもレオを超える力を持つものが他に存在するとなれば……その話は根本から成立しなくなる。
それこそが、伝説クラスの純度『10』を誇る……アイクとイオンだったのだ。
「レオ君以上の純度を誇る人が、しかも2人も……この事実が数ヶ月前明らかになった時、そりゃもうアルビオン中が大パニックになったらしいよ? 僕はその時……バカンスに行ってて、詳しいことは後から聞いたんだけど」
『当然、でございましょうな』
半透明のハーボックはさらに続ける。
『純度で上回るともなれば、やがてはステルウィザード卿以上の力を持つことは必至……加えて、ここ王都にまで轟いてくる数々の武勇伝……ほどなくして、このアルビオンに……新たな派閥が誕生しました。それが……』
「……レオ君と殿下の婚約を破棄し、君たち兄弟のいずれかの婚約を締結させるべきだ……っていう考え方の連中なんだよね……」
ため息混じりにデイビッドが言った言葉に、アイクとユキ以下……ここにいたってようやく事情の全容を理解できた者たちが驚愕の表情を浮かべる。
その一方で、それを知っていたデイビッドやレオら……そして直前で気づいたイオンの表情は複雑だ。暗いような、思いつめたような……。
しかし、考えてみれば……残酷ながらも自然、とは言える。
婚約のそもそもの目的は……権力の分散の防止だ。レオが王族に次ぐ最高権力者だったのならばよいが……レオ以上の権力を将来持つであろう存在が(しかも2人も)露見した以上、解決策として成立しなくなった。
そうなれば、石よりも鉄、銀よりも金……純度9より純度10……より大きな権力を王家に併合し、国の基盤を磐石なものにするため……アイク達とエリーネイトとの婚姻を唱える者が出てくるのは当然だ。
そしてそのために、現在の婚約者であるレオが……邪魔になった。
『既に決定された婚約は、おいそれと取り消せるものではありません……一部の過激派が、花婿が死んだほうが楽に、迅速にことが運ぶ……とでも考えたのでしょう』
「いや、そんなムチャクチャなことって……」
「あるんだよね……これが、さ」
と、ユキのセリフをさえぎってデイビッド。
「しかも2人の場合……色々とオプションがついてる。ブボウの件や盗賊の件……でも一番強烈なのはやっぱり、侵攻してきた帝国軍を……しかも、『16師団長』の1角を退けた、ってことだったね」
『あなた方の支持率は、この王国全体でもうなぎ上りです。そうなれば当然、その恩恵にあやかろうと考えるのは、人の性……エリーとの婚姻で、あなた方を王族に取り入れるべきと唱える論者は、いまやアルビオン全体の4割に迫る勢いです』
「それでも、陛下は殿下とレオ君の意思を尊重し……早くに婚姻を済ませようとなさったわけですね? その結果……過激派が動き、レオ君が狙われた」
と、イオンは理解。
同時に……イオンは、自分達の邸宅がレオの保護場所に選ばれた理由も悟った。
アルビオンの4割弱……それほど多数の人間が婚約破棄賛成派に回りつつあるのであれば、どこにそういった考えを持ってレオを狙う者がいるかわからない。
軍の屯所も、城も、レオ自身の家すらも……どこに暗殺を考えるものがいるかわからない。誰を信じることも許されない状況……と言えるだろう。
そんなアルビオンで唯一、そういった情勢に限りなく無関係でいられているのが……ここ。
つい最近アルビオンとの接点を持ち、つい最近ここに来た……アイク達のところだ。ここなら……考え方以前に、その問題に積極的な関心を持っている者がそもそもいない。
加えて、武勇伝に聞く、アイクとイオンの驚異の戦闘力と優しい性格……多少賭けだが、護衛体勢としても、2人の協力があれば万全と言っていいだろう。
するとここで、控えていたハーボックの口から意外なセリフが出た。
『時にお聞きしたいのですが……アイク殿、イオン殿、あなた方は仮に……王女殿下とのご縁談の話が持ち上がった場合、どうなさいますか?』
「「「!?」」」
『は……ハーボック、何を言うの!?』
驚いた様子で、イリアザートが傍らにいるハーボックに言った。
『陛下、あくまで仮定の話です。それに、徐々に事態は取り返しのつかないところまで来てしまっている……可能性の1つとして、考えなければなりません……』
『そんな……私は、そんなことはいやです……!』
と、今日ホログラムで会ってから始めて、エリーネイトが、レオ以外に対して口を開いた。
その言葉は、王族としてでも……権力者としてでもなく、単に1人の少女として発せられたものだった。愛する人と結ばれたい……という思いの元に、だ。
『アイク殿とイオン殿が、優しくて頼もしい方だというのはわかります。それでも……私は、長年私と共にこのアルビオンで歩んできた彼と……レオと……っ!』
それを聞いた一堂が静まり返る。
デイビットとイリアザートは、悲哀の混じった微笑を浮かべ、レオは顔を赤くする。ハーボックは、表情を変えずにアイク達の返答を待っている。
イオンは……何も言わない。
アイクが勝手に……自分と同じ意見を言ってくれると確信しているためだ。
「どうなさるもなにも……そんなもん、全力で遠慮するに決まってんでしょ」
「「「!」」」
突如口にされたアイクの声に、全員の視線が集中した。アイクは一切ひるまず、
「好き同士で結婚しようっていう2人に、何だってわざわざそんな理由で割って入らなきゃいけないのかわかりませんね。むしろ……俺ぁ応援する側に入らせてもらいますよ。それを誰かが邪魔しようってんなら……暗殺者だろうが何だろうがぶちのめして、な」
軽口だが……しかしはっきりとアイクは言い切った。
唖然としている全員の中で……イオンとユキ、ミリスにカナ……この兄がこういう奴だと知っている者だけは、表情を変えずに『やっぱりね』という空気を漂わせていた。
するとその時、がちゃ、と扉が開いて、
「何だかまた、物騒と言うかなんというか……って感じの話してんなあ?」
「お、セラじゃん。作業終わったのか?」
と、ツナギ姿のセラがリビングに入ってきた。顔に、所々すすがついている。
そして、半透明のイリアザートたちを見つけると。
「あ、その……どうも、お疲れっす」
で、一礼。敬語が苦手なセラ。これでも上出来な方だとアイク達は知っている。
そのあと、何事もなかったかのようにアイク達に向き直る。
「あのさイオン、今日のあの騒ぎ……誰かが王女殿下を暗殺しようとしたんだよな?」
「ええ、まあ、ターゲットは違いますが……おおむねあってます」
「? そうなのか? まあ、それはいいとして、」
いいのか、と誰かが突っ込むよりも先に、セラは
「あたしが寝てた馬車の近くでさ、怪しい奴見たから……目撃証言しとこうと思って」
「「「え!!?」」」
聞き捨てならないにもほどがあることを口にした。
「えっとな……身長はアイクやイオンと同じくらいで……髪は短い黒。靴も黒で、革靴。着てる服も黒……ってまあ、上から下まで黒づくめの奴だったな」
「おまっ……マジかよそれ、早く言えよ!」
「しかたないだろ、今思い出したんだから!」
「でも……その人が『怪しい』って、何で思ったの? 黒服ってのは、男物の礼服にはわりとポピュラーだよ? アイク君たちや……僕も着てるし」
と、デイビッド。
セラはその問いに、
「ああ、逃げてく連中と全く関係ない方向に、その騒ぎに関心も見せずに平然と歩いてったんだよ、ですよ。一般人だったら、振り向きぐらいするだろうし……それに……」
「それに?」
「石畳が敷かれた地面を歩いてるのに、足音が一切聞こえなかったんだよ。変だろ?」
その言葉に、一同は『ああ、なるほど』と納得する。
硬質の石材の床を革靴で歩いて、音がしない……。そのような歩き方……普通の人ができるようなことではない。ましてや、セラの聴覚ですら聞こえない完璧さだと言うのだ。
黒ずくめの、謎の人物……新たに浮かび上がったカードの存在に、そこに集ったメンバーは再び頭をひねったが……結局その日は、それ以上何も話せずに終わった。
……セラが口を滑らせた、『式典の最中、馬車で寝ていた』というフレーズに気付かずに。