Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
夜、リビングに……4人の男が集合していた。
アイクにイオン、それに、この家に泊まっている……デイビッドとレオだ。
ただ『眠れない』というだけの理由で、たまたま集まっただけだったが……やはりそこは、先程聞いた話が話題に登る。
「……先程は、その……ありがとうございました、アイク殿」
「んあ? 何が?」
カナを起こすわけにも行かないので、自分で入れた茶を飲みながら、アイク。
「エリー……殿下との婚姻のことです。あそこまできっぱりと断っていただけて……」
「ああ……別に、そのまんま言っただけだよ」
「はぁ……」
「それよりも……せっかくですし、対策とか話し合いませんか?」
と、こっちは向かい側のソファに座っているイオン。
その手には、明日以降のスケジュール表。これ以降、レオが狙われそうな場所と時間を、イオンなりに分析してみているのだ。
「僕としても、兄さんの意見に賛成です。愛し合う2人には幸せになってもらいたいですし……そのためには、どうにかレオ君を死守して、結婚まで行かなければいけません」
「そして……できれば、レオ君を狙った主犯格も見つけたいね、どうにか」
と、デイビッド。彼の言うとおりだろう。レオの命を狙った犯人を見つけられなければ……仮に結婚できたとしても、今後……しばらく狙われる可能性は付きまとう。
せっかくの新婚生活に、そんなムードは悲しいというか、似合わない。
しかし、そう簡単に、主犯格をあぶりだして突き止めることなどできるものか……
「方法は……無いわけではありません」
と、イオンがテーブルに予定表を広げた。
そこには、今後のさまざまなスケジュールが記されているが……その中に混じって、数日間にわたって行われる、2人の結婚のためのさまざまな儀礼・行事が色々な種類記されていた。今日行われた、ご先祖様へ報告するための儀式に始まり……いくつもある。
「これが……どうかしたの?」
と、尋ねてくるデイビッドに、イオンは自分が考えたことを話す。
「おそらくですが……過激派は、この数日中……レオ君がエリーネイト殿下と正式に結婚する前に、まだ王国そのものへのダメージが少ないうちに、レオ君を殺そうとするでしょう。結婚し、正式に王族の一員となってからだと……その後の混乱も大きいです」
「ああ……そうだね。だからこそ、今のうちに……とあせってる」
全ての儀礼を終え、レオが正式に王族になってからだと……暗殺の後の混乱や、事態の収拾に今の段階の倍はかかる。彼ら過激派の目的は、あくまで……このアーサランドに力をもたらすこと……余計な混乱は、かえってマイナスになるわけだから、望まない。
さればこそ、そのダメージも比較的短期間で回復できる今のうちにレオを消し、そのあとアイクかイオンをエリーの婿に迎えることで……打開を図るはずだ。
「それを利用します。犯人には……もっと焦ってもらいましょう」
「「「?」」」
イオンの言っている意味がわからずに、首をかしげる一同。
その目の前で、イオンはペンを取り出し……テーブルの上に広げた予定表に、何やら書き込んでいった。
☆
翌日、
アルビオンは、今朝方になって王城から言い渡された告示に騒然としていた。
なんと……以降控えている儀式のほぼ全てを省略し、急遽……明後日にも、レオとエリーネイトの結婚式を挙式するというのである。本来なら十日以上後だったそれを。
いきなり女王陛下が下した決定に、色々な理由で市民やら貴族やらはあわてていた。
しかし、一番驚いていたのは……当事者達である。
王城の、イリアザートの部屋にて……花嫁であるエリーネイトと、大臣のハーボックは慌てふためいて女王に詰め寄っていた。
「ほ……本気なのですか女王陛下!? こ、このような……」
「本気ですよ? こうでもしなければ……エリーとレオ君の幸せを守れませんから」
「わ、私と、レオの……?」
「ええ。レオ君を正式に王族に迎え入れてしまえば……過激派も下手に手は出せません。王室直属の精兵による警護はもちろんのこと、仮にその状態でレオ君を殺してしまえば、多大なるダメージがアーサランドにふりかかるということで……牽制できます」
一刻も早く『結婚』をすませ、レオを王族に迎え入れることが、2人の幸せにつながる。それは……一見すると正しい意見だ。
しかし、それよりも……リスクがはるかに大きい。そこが大臣の主張だった。
「しかし陛下! 明後日というと……予定などの調整に今日を費やし、明日は結納の儀式……そして明後日が結婚式……つまり、結婚まで2日しかないことになります!」
「それが何か?」
「時間がないと知れば過激派は焦ります! その前になんとしてもステルウィザード卿を亡き者にせんがため、どんな攻撃を仕掛けてくるか……手段を選ばなくなるようなことになれば、陛下や殿下にまで被害が及びかねませんぞ!」
もっともな意見だ。
しかし、イリアザートは取り合わない。振り向きもしない。
「ご心配なく、わが国の精兵が守ってくれます。明日の結納式、明後日の結婚式、どちらも万全の体制で、倍以上の兵を配備して警護してもらえるとのことです」
「しかしっ!」
「決定事項です。下がりなさい、ハーボック大臣」
「……っ……わかりました……。では、くれぐれも厳重な警備の元で……」
まだ納得は到底していない様子だったが、強い意思がこめられたイリアザートの一喝に逆らえず……ハーボックはその部屋を後にした。
部屋に残されたのは……共に王族である2人。
「……不安かしら、エリー?」
と、うつむきがちになっている自らの娘に、イリアザートは問いかける。
エリーネイトは、小刻みに震えつつも……やはりというか、うなずいた。
「お母様のご決断は、嬉しく思います。しかし……やはり、レオが狙われるのは……やはり、不安です……。この国の兵士の力を信じないわけではありませんが、それでも……」
「大丈夫……きっと、うまく行きますよ。あなた達には……きっと、幸せが来ます」
イリアザートは、娘の肩に手をのせて……ゆっくりと、安心させるように言った。
その口調は……まるで、自分自身にも言い聞かせているかのようでもあった。そしてそれは正しいのだろう……イリアザート自身、何度も心の中で反芻していた。
(大丈夫……だって、デイビッドがうまくいく……って言ってくれたのだもの……)
☆
また別の場所。
アルビオンの町並みがよく見渡せる、とある高い建物の屋上で、1人の男が通信魔法で遠くの誰かと話していた。あぐらで座る足元に広げた紙……複雑な文様が描かれているそれは燐光をまとい、術式の媒体となっている。
「告示見たぜ。何だか妙な事になったもんだな……こいつは何かの策か?」
『うむ……可能性としては十分ありうるじゃろう。何せ、昨日の今日じゃ』
燐光を帯びる紙から、その声がもれ出てくる。声はくぐもっていて……誰の声かまでは、到底判別がつかない。
『このやり方を考えたのが誰かはわからんが、こんなことをすれば……』
「焦る、って思いつかないはずがない……な? となると、やっぱり何かの策か? 昨日は……あのデイビッド=キースが、花婿と一緒に泊まったって話もあるしな」
『何かあることはほぼ間違いあるまいが……だからといって計画に変更はない。むしろ……より力を入れねばならなくなった。明日が勝負だ。心してあたれ、ギル』
「……了解だ、ジジイ」
その返答を聞くと、次の瞬間……紙が帯びていた光が消えた。……同時に紙の紋様の中心に火がつき、灰も残さずに魔法の紙を焼き尽くしてしまった。証拠隠滅の措置か。
ギル……と、そう呼ばれていた……黒髪に黒服の男は、黒い革靴についてしまった白い灰を軽く払うと、
「さて……んじゃ、行くか……。狙うなら……明日の結納、だろーな……」
そうつぶやくと、屋上から飛び降りて姿を消した。
☆
そして、その翌日。
結納の式典は……昨日と同様、クレスパレスで……しかし昨日とは別の場所である、大きな広間で行われていた。今回は、屋根はある。
といっても……品物の交換は午前中に既に終わっており、今(午後)行われているのは……毎度おなじみ、ありがたいお話を延々と聞くだけの形式行事なのだが。
その中で、アイク達やデイビッド達……そして、レオやエリーネイト、イリアザートたちが、一昨日と同じようにして座っていた。ただし……今日はセラも一緒に。
最前列に座る王族2人とレオ。そのすぐ後ろでは、少し間隔は開くものの……アイク達がきっちりと目を光らせている。
そのかいあってか……ここまで、何事もなく式典は進行してきていた。
そして、最後の最後……王族2人と、レオが並んで退場する場面に差し掛かる。
ここで、前回は狙撃を受けた……その経験から、先日の倍の数が配置された兵士達にも……緊張が走る。
何事もなく……3人の姿が赤絨毯まで差し掛かったその時、
――ズウウゥゥ…………ン
「「「!?」」」
いきなり、建物内に重い音が響く。
何事か……と客達の間に波紋が広がるよりも早く、兵士の1人が広間に飛び込んできた。
「お……お逃げください陛下、殿下! 襲撃です!」
「! やはり来ましたか……」
と、イリアザートは表情をゆがめるが、あわてない。ハーボックと共に兵士に指示を出し、すぐさま周りを護衛の兵士で固めた後、入ってきた兵士に聞いた。
「人数と規模はどの程度ですか? 武器は? 術師の有無は?」
「人間ではありません! ご……ゴーレムですっ!!」
「な……っ!?」
しかし、帰ってきたのは……予想外の返答。
それに驚く暇もなく……次の瞬間、広間の扉の向こうから……1本の腕が兵士を弾き飛ばして入ってきた。それも……人間のウエストよりもはるかに太そうな手が。
「おやまあ……また久しぶりに見ますね……ん?」
と、そこまで言って……イオンは、そのゴーレムがサイミールで戦ったものとは違う容姿をしていることに気づく。
サイミールのブボウのゴーレムは、材質が土(レンガ)、形状もレンガを積み上げただけの乱雑なものだったのに対して……このゴーレムは明らかに違う。
まず材質が……おそらく鉄だ。しかも、形状も、まるで職人が製作した鎧のような、デザインにもきっちり気を使ったものになっている。鎧の騎士が動いているかのようだ。ただし……サイズは3m以上あるが。
「あらあら~、メタルゴーレムですね~。レンガ製の旧型よりもパワーも強度も上、1体で家が3軒立つくらいの高級品です~。暗殺者さんも太っ腹と言うか、本気ですね~」
と、エミリィの解説。さすがは魔法科学研究部門出身、知識が豊富らしい。
そのゴーレムは、扉を破壊し……ゆっくりと広間の中に入ってくる。
すぐさま客席はパニックになり、客達は我先に吹き抜けの窓から外へ逃げ出し始めた。
「もう騒がしくて、暗殺なんてレベルの話でもありませんね……けどっ!」
と、守りは兵士達とユキとアイクに任せ、イオンは前に跳んだ。
それに気づき、ゴーレムは鈍重な動きでイオンを払いのけようとする。イオンはそれをかわして懐へもぐりこみ、手のひらから電撃を放った。
ゴーレムは一瞬ひるんだが、大してダメージは無いようだ。すぐに次の一手とばかりに、イオンを払いのけようと腕を振り回す。イオンはそれを、後ろに跳んでよけた。
今の数秒にも満たない攻防の中で、イオンは色々と感じ取っていた。
鉄製だけあり、レンガよりもかなり強度が高い。アイクならともかく、自分では打撃斬撃で相手をするのは少々難しそうだ……とイオンは初撃で感じ取った。
また、このゴーレムは……自分を攻撃することはするものの、致命傷を与える気がない。パワーを最初から低くセーブさせているかのように思える。
過激派の目的は、自分達を王家と結婚させることであるため……イオンやアイクに死なれては困るのだ。おそらく、それに関連しての配慮だろう。
どう相手をしようか……とイオンが考えていたその時、広間に地響きが響き渡った。
振り返ると、なんと広間の床が中央部から隆起し……次々に土塊のようなものを盛り上げさせていた。まるで、地下から山脈が出てきているかのような光景である。
「『|暴れ岩の陣(テリブルロック)』ですね~。土や岩石で作られている壁や床に、小規模な形状変動を起こすものです~。高度な技術が必要な、難易度の高い魔術ですね~」
明らかになる魔術の正体。そしてしかも、なんとレオがその小規模な地殻変動に巻き込まれ、兵士を含めたほかのメンバーから孤立して隔離させられてしまっていた。
「れ、レオっ!」
「行ってはなりません殿下! 危険です!」
「はなしてキース卿、レオが、レオが!」
エリーネイトの視線の先で……レオは、盛り上がっては崩れる地面に巻き込まれることなく、どうにか立ち回って被害を受けないようにしていた。
しかし、それもいつまでもつか……というのが、この場にいるほぼ全員の見解。
助けに行こうとする兵士も多くいるが……隆起する床に阻まれて満足に進めない。
すると、その地面の向こうに……意外な人物が見えた。
どうやって近づいたのか、レオの隣に立っている人物とは……
「は、ハーボック……?」
決して肉体派とは呼べない、この地面の隆起を超えていけるだけの動きなどできそうにない容姿の大臣・ハーボックは……その背後から音もなくレオに近づく。
そして、彼が振り返ったその瞬間、
「ステルウィザード卿、御免っ!!」
「「「!!?」」」
息を呑むイリアザートやエリーネイトの眼前で、ハーボックの手のひらから漆黒の闇が放たれ……レオの体にまとわりついた。
それが、黒い茨(いばら)だと気づくころには……その体は黒い茨ですっかり覆われてしまい、まるで黒い繭(まゆ)の中に閉じ込められたような形になっていた。
術式の完了を示すのだろうそれを確認し、ハーボックはふぅ、と息をついた。
「どういうことです、ハーボック……あなた、いったい何を……!」
「……ご覧の通りです、女王陛下……」
そして、何か言われる前に、決意したようにハーボックは自ら言った。
「一連の襲撃……全ては、私が裏で手引きしたことです、陛下」
「なっ……!?」
一番近くにいた忠臣の思わぬ告白に、イリアザートたちはショックで動けない
無理もない。今ハーボックは……自らを、レオ暗殺の主犯格……そして、婚約破棄賛成・過激派の黒幕だ、と告げたのだから。
レオが茨の中に消えてしまったことにショックを受け、エリーネイトは膝を突いた。その隣に、すぐさまアイクが駆け寄る。
その母は……枯れ果てたような声で、ハーボックに問いかける。
「昨日の襲撃も、あなたが……?」
「……ええ。作用でございます。全ては……この国の繁栄のために……」
「そんな……そんな理由で、レオ君を殺そうと……」
「それは違います、陛下!」
と、ハーボックはさえぎった。
「昨日の矢は、急所を外して放たれたものでございます。殺す意図はありませんでした。今回のこれも同様……」
ハーボックは自らの傍の、黒い繭―――中にレオがいる―――に目を向けて言った。
「この術と同様の術式を、昨日の矢にも付与させておりました。禁術『|封魂の黒茨(リミテーションソーン)』……対象を魂ごと休眠状態に陥らせ、以降3ヶ月の間絶対に目覚めさせない術でございます。これで……この先3ヶ月、ステルウィザード卿は昏睡状態となります」
「昏睡状態……そんなことをして、何になると!?」
「3ヶ月もの間、純度9の精の供給が滞れば、国は荒れましょう……それを打開するためには、より大きな吉報をもたらすほかに方法はありません。さすればこそ、陛下に、そして殿下に、純度10のお2人とのご婚約を決意いただけると思ったのです!」
つまり……一時的にでもレオがいなくなることで起こるであろう、アーサランドの混乱を逆手に取ったやり方だ。
株価大暴落のごとく、王国全土に広がる混乱……それを鎮めるためには、それを上書きできるだけの吉報を民衆に示せばいい。ハーボックはその手段として、エリーネイトとアイクもしくはイオンとの結婚を決意させるつもりだったのだ。
そうすれば……より王国の基盤が磐石になると考えて。
たしかに……政情不安を解消するには、手っ取り早いのはその方法だろう。道徳的にはともかく、プランとしては立派に成立している。
「あなたという人は……なんということを……!」
イリアザートの震えた声を、ハーボックはつらそうに聞いていた。そこに、アイクと友にエリーネイトの傍らに立つデイビッドが声を投げかける。
「見上げた愛国心だねえ……でも君、こんなことしてただじゃすまないよ?」
「覚悟はできております」
と、まっすぐに見返してハーボックは言う。
「おそらく私は死刑となるでしょうね。しかし、この老いぼれの命1つで、アーサランドの未来に強さをもたらせるというのであれば……よろこんでこの首、ささげましょう!」
その言葉に……誰も何も言えなくなった。
ハーボックの行為は、間違いなく許されないものだ。しかし……そのあまりにも愚直な自己犠牲と、ゆがんだ愛国心に……かける言葉が見つからないのだ。
すると、地殻変動(おそらくこれもハーボックの術だろう)が収まってきたころ……その沈黙が……デイビッドによって破られた。
「ホント、すごいよ君は。けど、君のこの計画には、惜しむべき点がある」
「やり方が間違っている点、でしょう? その責め苦なら、私は甘んじて……」
「その他に、もう1つ」
そしてデイビッドは、『もう1つ?』というハーボックの視線を受けながら、
「計画が、結局失敗に終わってしまった点…………だよ」
直後、
バリリリィィッ!!
「「「!!?」」」
黒い茨の中から……なんと無傷のレオが、あろうことか茨を内側から破って現れた。
本来、戦闘能力はもとより、戦うだけの魔力も持たないレオにありえないそのパフォーマンスに、ハーボックを含め、その場にいた全員が驚き、唖然としている。
その視線を受けながら、レオは地上に降り立った。
「ったく……妙な技使いやがって……防ぐのマジで大変だったったんだぞコラァ!」
口調までもが違う……その違和感に、一部を除く全員が目を丸くする。
すると、デイビッドが……笑いをこらえたような口調で、
「もういいんじゃない、イオン君? 黒幕もわかったし、種明かししちゃおうよ」
「そうですね……では」
と、イオンは両手で印を結ぶと、
「『象転の術』……解除!」
瞬間、
なんと、エリーネイトのそばに立っているアイクの姿がぶれて……一瞬でなんとレオに変わった。同時に、茨から出てきたレオの姿もぶれて……アイクに変わる。
一瞬の出来事に、アイクとイオン、デイビッド、そしてレオ以外の頭がついていかない。
何が起こったかわからずにいる彼らに説明するため、デイビッドが、
「あー、つまり……今のはだね……今の今まで、イオン君の術で、アイク君とレオ君が、互いの『見た目』を交換してたんだよ」
「「「え!?」」」
一応、反応は返ってきた。
つまりこういうことだ。
黒幕を捕まえるには、レオを狙って出てきたところを捕まえるのが確実だが……そのためにレオを危険にさらすわけにはいかない。そこで、イオンが一計を講じた。
イオンの使える技で、アイクとレオの見た目を逆転させる、というものだ。
それにより、レオの姿になったアイクが標的になるが……戦闘力や使える技はそのままであるため、仮に襲われても逆に返り討ちにできる。無論、防御法も心得ている。
そして同時に、アイクの姿になったレオは……大事な純度10の純系であるために、狙われることがなくなる。これからの王国に必要だ……とハーボックは考えているからだ。
攻守一体のこの『逆転DE逆転』作戦(命名アイク)、見事成功……というわけだ。
と、その説明でようやく自体を飲み込めたらしい一同。その中で……恋人の無事を理解したエリーネイトの目からは、大粒の涙が流れ出ていた。
「よかった……無事なのね……レオ……!」
「エリー……うん、もう、大丈夫だから……」
言葉を交わし……2人はしっかりと抱き合った。
その様子を、アイク達が横目で見ていると
「……っ! ゴーレム!」
と、いきなり再びハーボックが声を張る。そして……今まで入り口付近でおとなしくしていたゴーレムを呼んだ。
今となってはただの陽動だったとわかるゴーレムだが……その戦闘力は本物である。あわてて防ごうとする兵士達を軽々と蹴散らし、レオ達が固まっている場所の付近へズシンズシンと歩いてきた。
「ハーボック大臣、この期に及んで何のつもりですか!?」
「女王陛下、止めないでください! この国は……この国はより強くならなければいけないのです! そのために、ステルウィザード卿には……」
「ちっ、まだ言ってんのかテメ……」
と、その時、
「愛国心は結構だけど……往生際が悪いんじゃないかな?」
ベコォオン!!
「「「!!?」」」
突如としてそんな擬音が響き……強固なはずのメタルゴーレムが、一瞬でぺしゃんこにひしゃげて破壊された。同時に、その周囲の床が……まるで小さなクレーターのような形にへこんだ。……上から何か、目に見えない巨重の物体が降ってきたかのように。
皆が驚いて目を丸くする中で、ただ1人……
「あらら、やりすぎちゃったか……僕、まだこの技うまく加減できないからなあ……。ま、人間相手じゃなかったし、いいよね」
ゴーレムの残骸に向けて手をかざしている姿勢のデイビッドだけが……そんなお気楽なことを言っていた。その目は……表情と一致せず、真剣で、笑っていなかったが。
(あ……あのおじさん、こんなに強かったの!?)
と、ユキは心の中で驚いている。他のほとんどの者たちにも……同様の感想だ。レンガ造りの、それでさえ兵士100人分の戦闘力を有するといわれる『ゴーレム』……しかも鉄製のそれを、正体不明の魔法の一撃で破壊してのけたのだから。
と、そのショックからどうにか立ち直ったハーボックが、次の瞬間目にしたのは……
「想夜家家訓・その10……!!」
握りしめられた……アイクの拳だった。
バキィッ!!
「ぐあがぁっ!!?」
アイクの鉄拳制裁を顔面にくらい……ハーボックは宙を舞い、数回回転した後、地面にたたきつけられた。
唖然とした視線や、『やるねぇ』と口を鳴らすデイビッドの視線を受けながら、アイクはもはや意識もないであろうハーボックに向かって、己が心中を語った。
「『他人の恋路に口出しするな』……だ! 睡眠学習でも何でもいいから覚えとけ、そういうつまんねーことたくらむとな、余計俺とイオンが敵に回るんだよボケ!!」
びっ、と指差しながら言うアイクの、その広く頼もしい背中が……この事件の収束を告げていた。