Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
ここはガーベル帝国帝都・エイドロギア
その城の一室にて……
「ふむ……そうか、ならばよい。引き続きやれ、よいな……?」
1人の老人が……机の上に広げた大きな紙に向かって、何やらつぶやいていた。
どうやらその紙の向こうからは、何者かが通信を行っているようだが……術式により、その紙の向こうの通信相手の声は、術者である老人以外には聞こえない。
「うむ……では、これでな。よい報告を待っておるぞ」
言うと同時に通信は切れ……紙は燃えてチリになった。
その様子を横から見ていた男が……ため息混じりにいう。
「その通信魔術だけどよぉ……木製のテーブルの上でやるのやめねえ? 燃え移りそうで怖えーんだけど」
「阿呆、魔術の炎じゃ、こげ跡1つつかんわい」
「んや、それはわかってんだけどさ……なんつーか、ニュアンス的な?」
「全く……おぬしは相変わらず意味がわからん奴じゃな、リュー」
「あんたが言うかね、エイブラハムの爺様」
赤いコートを着て腕を組み、はぁ、とため息をつくリュー。その様子を見て、通信を行っていた張本人であるエイブラハムもまた、ため息で返す。
しかしリューはその空気を引きずることなく、すぐさまけろっとした表情になって、
「そんで爺様? 今の……アルビオンに潜り込ませたっていう部下からの報告だよな? どうよ首尾は?」
「ふん、若造に心配されるようなことなど何もないわい」
椅子に座りなおすと、いかにもといった感じのどや顔になってエイブラハムは、膝の上に乗せていたメモと思しき羊皮紙を見せる。その上にはふわふわと羽ペンが浮いており、完全自動でメモをとる仕組みの魔術だと容易に想像できる。
それを手に取ると、
「書いてあるとおりじゃ、向こうに目立った動きはない。純系の小僧と王女の婚姻に関してのいざこざで手一杯……わしら帝国を気にする余裕など無いようじゃな」
「モーガンが攻め込んできてたってのにか?」
以前に、第9師団長のモーガンがテイロスに攻め込んできたという事件は、まだ記憶に新しいそれだ。
にもかかわらず、自分たち帝国に対しての備えなどを特にしていない……という報告を聞かされたリューは、拍子抜けしたような顔になる。てっきり、兵隊の整備くらいは進めていると予想していたからだ。
「やれやれ……仮にも外交的に戦争一歩手前の状況下で、平和なもんだ」
「そう言ってやるな。いろいろと大変だったようだからな……まあ、その一件も……残念ながら、何事もなくおさまったようであるが……しかも、例の双子の手でな」
と、それを聞いたとたん……リューの瞳が輝く。好奇心に満ちている。
「ほぉ、ソーヤー兄弟っつったっけ? やるねえ……今度は内輪もめの仲裁か?」
「まあ、わしらとしてはこのまましばらくもめていてくれるか……いっそのこと、内乱に発展して死人でも出てくれればやりやすくなったのじゃが……まあ、よかろう。別に王族の婚姻がどうなろうと、わしらの知ったことではない」
「それでも一応は監視させてたんだろ、あんたの部下に」
「ああ……特に手出しはさせんかったがな。それよりも……今はアルビオンの情報じゃ」
「何か手に入ったのか?」
「いや、まだじゃ。あまり早い時期から動いては感づかれるからの……じっくりと時間をかけて……というのが、奴のやりかたじゃ、まあ、楽しみに待っとれ」
そう言うと、エイブラハムは顔に薄気味悪い笑みを浮かべたまま、部屋を後にした。
ばたん、と扉が閉まったのを確認して、部屋に残されたリューは椅子に腰掛ける。
そして、
「やれやれ……なんか、水面下で色々やるのって……聞こえはいいけども、地味なんだよな~……退屈でしゃーねーや」
今日何度目かのため息をついていた。そして、赤色のコートをひるがえし……『昼寝しよ……』などとつぶやきながら、彼もまた部屋を出た。
☆
同じころ、
アルビオンにある、とある高い建物の屋上で……
ボウッ、と音を立てて……1枚の紙が燃えてチリになっていた。
その様子を見下ろしながら、けだるそうなため息をつく、黒髪に黒いコートの男が1人。
「ったく……自分は安全圏にいながら、人使いの荒いジジイだな……」
後に残った灰を、軽く息を吹きかけて散らすと、男はすっくと立ち上がった。
そして、眼下に広がるアルビオンの町並みを見渡しながら……
「さて……この先、大局はどう動くのか……キーポイントは、軍事力と、情報と……」
そして、そこで意図的に一拍置いて……
「あの双子も……か」
大して感情のこもっていない言い方で言う。
すると、その背中に声をかけるものが1人、
「君はここにいるのが好きだね、ギル」
「…………レオか?」
黒髪の、ギルと呼ばれた少年が振り向くと……そこには、レオが……
数日後に……王女・エリーネイトと結婚式を挙げる、オールレオス・ステルウィザードが立っていた。
背後から声をかけられてもギルがさして驚いていないところを見ると、この2人……赤の他人、知らない仲……というわけでもなさそうである。
現に、ギルの方は無愛想な表情のままだが……レオは特に警戒などは表情に浮かべてはいない。
「俺に何か用か? わざわざこんなとこまで来て」
「ははは……相変わらずご挨拶というかなんというか……」
「さっさと用件を言え。ムダに長い前置きは好きじゃねえ」
仮にももうすぐ王族入りするレオを前に、ギルの口調はえらく荒っぽい。
「ええと……これから友人に会いに行くんだけど……君も来てくれないか? 彼らに君を紹介したいんだ」
「彼ら? 誰だ?」
「ああ、有名だから知ってると思うけど……アイク君とイオン君だよ」
「!」
ぴくっ、と、
ギルの眉毛の辺りが……反応した。
☆
所変わって……ここは、アイクとイオンの屋敷。
そのリビングには……拝領の借家ながらも、一応この家の主であるアイクとイオン、そして……客人である、デイビッドが紅茶を飲みながらくつろいでいた。
「ふぅ……おいしいね、このお茶……こんなブレンド、冗談抜きに飲んだことないや」
「あ、ありがとうございます!」
と、それをいれた本人であるカナ(メイド服装備)が、ぺこりとお辞儀。
そして、デイビッドにおかわりを注ぐと……茶がなくなりそうになっているのを察し、速めに補充をしようと厨房に戻る。
デイビッドがその後姿を見ていると、今度は庭の扉が開き、
「おーいイオン、アイク、馬車の改造、終わったぜ!」
「あ、お疲れ様です、セラさん」
「なァに、なんてことねーよ」
いつもの作業着(?)姿で、『へへっ♪』などといった感じの表情を浮かべているセラだった。腰にはごつい革のベルト。いくつもの大工道具が装着されている。中には……素人の目には何に使うかさえわからないものもある。
そのバックには、きちんとした設計はもちろんのこと、装飾まで丁寧に施された馬車がどんとあった。
(おぉ~……あの馬車、あの子が……? 買ったら20万、いや30万ドルはするな……)
などと、デイビッドが感想を抱いているそばで、セラは『んじゃ、風呂入ってくるわ!』と言って去っていった。
「……何ていうか、いつも思うんだけど……変わってるね、君たちのハーレムは」
「「はぃ?」」
と、アイクとイオンが同時に聞き返す。
唐突に飛んできた質問がどういう意味なのか図りかねていると、デイビッドは紅茶を再び口に含んで味わいながら、
「そうだろう? だって……あんなミストレス、見たことないよ」
と、当然のように、笑いを交えて言う。
「普通……純系のミストレスっていったら、後宮の中で一日中遊びながら、侍女に何でもやらせて……っていうのが基本的なイメージだからね。ほとんど籠の中の鳥状態だけど、一生楽して暮らせるわけだし……でも……」
そして、デイビッドは紅茶のおかわりをもってきたカナを見ながら、
「君たちの場合は……侍女に何でもやってもらえるミストレスなのに、自分から進んでメイドをやったり……ススやオイルの汚れで真っ黒になりながら、日曜大工なんかやってたり……自由と言うか、常識にとらわれないスタイルだね、君たちのハーレムは」
確かに……デイビッドの言っていることはもっともと言えるだろう。
本来、ハーレムというのはそういうものだ。
その主に見初められた美女が、いついかなる時でもその体を主の好きにさせる……という契約と引き換えに、自身は用意された豪華絢爛な屋敷に身を置き、贅沢で快適な生活を約束される。
身の回りのことは全て侍女に任せ、買い物も自由。食事も服も高級なものが揃えられ、自分達はただただ遊んでいられる……そういう場所だ、普通は。
しかし……アイク達のハーレムは少し違う。
訂正、だいぶ違う。
好きなようにやっている、という意味では同じかもしれないが……自ら好き好んでメイドをやって、茶を沸かしたり、料理をしたり……塗料にまみれながら日曜大工に精を出したり……おおよそ、優雅なイメージが自然と出てくる『ミストレス』からはかけ離れた生活様式が展開されていた。
すきなようにやっているのはユキくらいであるが……それでも、豪遊などをしている様子は微塵も見受けられない。
まるで……普通に中のいい者同士が一緒に暮らしているかのようだ。
まあ……実際というか実質、そうなのだが。
(けど……何ていうか、すごしやすいというか……不思議な空間だな……)
そう、デイビッドは薄く笑いながら思った。
時代が変わって自分が取り残されたのか、はたまた彼らが少々おかしいのかそれはわからないが……彼にとっては別に胴でもいいことだった。
と、
「遅くなりましたー!」
と、玄関の扉を開け……レオが入ってきた。
その後ろには……1人の男を同伴させている。
「すいません、お礼が言いたいから、なんていっておいて、遅れてしまって……」
言いながらリビングのソファに駆け寄ってくるレオ。アイクは『別にいいよ』などといっておきつつ、そのあたりにかけてくれ、と手で指し示す。
そのレオの後ろから突いてきた少年……見覚えの無い、黒髪に黒服の少年は、どこか無愛想な表情のまま、レオにならって腰掛ける。
「…………?」
そのようすに……何か気になることを覚えたイオンだった。
☆
あらためて、レオは一連の件について礼を述べた後、ついてきた親友の自己紹介に移った。
「彼はギル。僕の友達です。宮廷顧問の傭兵で、主に見回りや、有事の際は遊撃などの担当もこなすんですよ」
「……ギルファス・ドレッドシュリンクだ。よろしくな」
仮にも純度10であるアイクとイオンの前で、物怖じせずに、敬語すら使わず。
違和感は覚えた2人だったが、特に気にする必要もないため、何も言わなかった。
「彼は、最近まで里帰りでこのアルビオンにはいなかったんですが、最近になって帰ってきたんです。僕とは幼馴染のようなもので……」
長いつきあい、とは言えないが……レオは彼に心を許しているようだ、と2人は感じ取った。
ぶっきらぼうな印象を受けるが……レオにはその向こうの、彼の性根の部分が理解できているのかもしれない、と。
ちなみにデイビッドは、彼らの関係は前から知っていたので、特に反応は無い。
そんな空気の中で、ギルは終始、必要最低限のことを話すばかりで……場に溶け込むつもりはあまりなさそうだ。
時折、視線を送ってアイクやイオンのことを見てきているが……特に2人にとっては気になる程度ではなかった。
するとレオは、
「それと……今日はお礼のとは別に、お祝いも兼ねて来たんです」
「お祝い?」
「はい、お2人とも……爵位ご取得、おめでとうございます!」
と言って、満面の笑み。自分のことのように嬉しいようだ。
今の彼のセリフのとおり、アイクとイオンは……今すぐにではないが、未来の王族の守護と国家級犯罪者の確保の功績、そして純度10の純系というステータスにより、女王陛下から爵位を贈呈されることが決まっていた。
2人としても、つい先程来た使者によって聞かされた話だった。
授与されるのは、『伯爵』位。5階級ある爵位の3番目……つまり、最初の2つ、『男爵』位と『子爵』位をすっとばして取得することになる。女王陛下の勅命あってこその、超法規的な措置だ。
もっとも……ステータスがステータスであるため、不自然さも無いが。
「お2人なら、いきなり『公爵』位でも全然おかしくないと思うんですが……」
「いきなりはさすがに指揮系統が混乱するだろ。仕方ねー……っつーか、もらえるだけでありがたいもんさ」
と、気にしていない様子のアイク。続けてイオンも、
「ええ……それに。僕らとしても、今のうちに色々と済ませておきたいこともありますしね。色々と面倒ごとが増える『公爵』位は、後々になってから、で結構ですよ」
「あ、もらうつもりではいるんだね?」
「ええまあ、いただけるのであれば」
などと歓談をかわしながら……いずれも国の要人達であるとは思えなそうな柔らかな空気の中で時間が過ぎていく。
そんな中で……
(……よくわかんねーな……実際に強いのは見たが……ジジイが警戒するほどのイレギュラー……なのか、この2人は……? まあ、今はまだどうでもいいが……)
不愛想・無感想なふりをして……目を細めて、心の中でそんな事を考えながら、アイク達をひそかに観察していたりする、ギルファスであった。
そして、その場の様子を違った視点から見ているものが……もう1人。
「……あいつ、クレスパレスのときに見た、黒服男……? なんでここに……?」
と……家に入っていく彼を風呂上りに見たセラが、首を傾げつつ、物陰から様子を伺っていた。
「いや、あの事件は大臣とかいうやつの仕業だったらしいから、あれは関係ねーのか……? だとしても、あの態度に……そもそも何でここに……? ……ま、いいか」