Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「病める時も健やかなる時も……愛し合うことを誓いますか?」
「「誓います」」
お決まりのやり取りの後で……クレスパレス大聖堂で……愛し合う2人の口付けがかわされる。式典の参加者達が、見守る中で。
指輪が交換され……ヴェールが取られ……唇が重ねられる。一連のやりとり。
その全てがすんだ瞬間……エリーネイトとレオの結婚式がつつがなく終了し……2人ははれて夫婦となったのだった。
参加者たちから、若い2人の前途を祝し……惜しみない拍手が送られる。
無論……その中には、アイクやイオン、ユキ達や……デイビッドにウォーブルもいる。
それらの顔を発見して……レオは嬉しそうに笑いながら、手を振っていた。
☆
そんな感じで、ついにレオが正式に王族に入ったのが……7時間ほども前のこと。
現在、時刻は午後7時……場所は、王宮の大広間。
そこでは……2人の結婚披露宴が行われた後、なし崩し的に祝賀パーティ……というより、それを大義名分にした社交会が開かれていた。
当然、互いに名前を売り込みたい者たちが、あちこちで名刺の交換やら自慢話やらを繰り返すのだが……その者たちが、一番名前を売り込みたく思っている2人が……いつのまにか、その会場から……忽然と姿を消していた。
その張本人たちは……理由をこう語る。
「「肩がこる」」
そして、2人は……底から程近い、屋外の庭園の一角に腰を下ろし……夜風で涼んでいた。
繰り返される四方八方からの挨拶の嵐に嫌気が差し、アイクもイオンも、休息を求めて会場を抜け出したのである。
ちなみに、ユキ達はもう少し会場にいるとのことだったので、世話をエミリィとシルクに任せておいてきた。ゆえに現在、庭園にはアイクとイオンの2人だけである。
「ふー……ったく、どこいってもあの感じは同じだな……。なまら偉くなると、あのへんがめんどくさくてしゃーねーや」
「まあまあ、有益な取引相手が向こうから来てくれたと思えばいいでしょう。必要なだけのパイプラインも、今日一日で構築することができました。棚から牡丹餅でしたね」
やることは全て済んだがゆえの脱走……というわけだ。
2人は、しばし、この静かな夜を、雑談でもしながら楽しむことにしていた。
心配して気にかけるようなことは、何もない。それら全て、アイクとイオンが……シルクやエミリィに手伝ってもらって、昨日までにすべて片付けたからだ。
あのあとしばらくくすぶっていた、『結婚反対派』の残党達は……観念した大臣の自白によって、関係者のほぼ全員が御用となった。
僅かに逃げ延びた者たち、追及をかわした者たちもいたが……それらにそなえて十重二十重に策を張っていたイオンの、そしてデイビッドらの餌食となった。
さらに、逮捕には至らずとも、主張を覆さない者たちに対しては……アイクが『レオとエリーの結婚を邪魔するやつは、俺が直々にぶんなぐる』と公に声明を出すとおとなしくなった。やはりというか、影響力は本物……と言わざるを得ない。
……婚姻反対の論議は、そこで完全に、ぱったりと収まった。
ゆえに、今までもこれからも……レオとエリーの今後は安泰であろう。
ちなみに、『エリー』というのは……王女であり花嫁である、エリーネイトの親しみをこめた呼び名である。2人ともそう呼んでいい、といわれたのだ。レオと共に改めて自分達に例を言いに来た、エリー本人の口から。
さらに、イオンは今後『純系』や『伯爵』などのステータスを持ってやっていくために必要な各方面へのパイプラインの着工にも務めた。
事務仕事に関して驚異の優秀さをもつシルクの手助けもあって、商業関連のルートに始まり、学問から医療まで、強力な後ろ盾を次々に獲得し……後顧の憂いを一掃した。
ついでに、裏がありそうな奇妙な話を持ちかけたり、後ろめたい事情を抱えているような者が近寄ってきた際には……その者のバックの組織ごと壊滅させた。
そういうわけで、2人は今、正真正銘、あらゆる意味で自由というかフリータイムだ。
月明かりに照らされながら、久々にゆっくりできる時間を堪能している。
「ひとまず、安心できる……ってことでいいんだよな?」
「ええ、まあ……まだ、やることはいくつもありますが、今求められていることは、もうすでに終わっていますから」
満天の星空の下で、兄弟が交わすのはそんな会話。
特に中身は無い。ただそう思っているだけの、思いつきの会話。
と、ふとアイクが気づいたように言った。
「そーいや……ちょっと気になってることがあんだよな……」
「? と……いいますと?」
と、イオン。
アイクは、思い出しながらしゃべるような調子で……
「ん、ああ……あのよぉ、一回話したと思うんだけど……」
アイクの脳裏に浮かんでいるのは……一連の結婚妨害事件でただひとつ解明されていない点……。
そう、あの謎の殺気である。
初日・町の散策時や、クレスパレスでの狙撃時……そして、大臣と直接対決した、あの結納式典の時もまた……アイクはその殺気を感じていた。
しかし、アイクが感じ取る限り……あの殺気は、大臣や……他の過激派のそれではない。彼らでは、あれほど鋭い殺気は出せない。
だとすると、あれは誰の殺気なのか……どうして、あの場で感じ取れたのか……アイクはそれがわからず、ため息をついていた。
「……正体不明の殺気、ですか……。気になりますね……」
「ああ。過激派じゃなかったとすると……いったい……。いやそもそも、なんだってあんな場でわざわざ殺気なんか垂れ流しにしてたのか……その疑問がわからねえ。考えられる可能性としては……」
そこで一拍置いて、
「あの殺気の持ち主は……レオ達じゃない、別の『誰か』……を狙ってた、とか……?」
ありえない話ではない。あそこには、各分野の要人が数多く出席していたのだから。陛下はもちろん……デイビッドやウォーブル……そして、自分達も。
それを考えると、依然として警戒は必要なのか……と、アイクは少々げんなりする。
「ま、別にいいか………………ん?」
と、
アイクの目の端に……向こうからは死角でこっちが見えないであろう位置にたたずんでいる、1人の人影が映った。
黒髪に、黒い服(今日は燕尾っぽい見た目であるが)……紛れも無く、先日レオに紹介してもらった彼だ。
その姿を見ながら……レオはふと、数日前にセラが言っていた『目撃証言』を思い出す。
たしか……『上から下まで真っ黒の男』……そう、彼女は言っていたはずだ。
そして、今目の前にいる男……ギルが、普段身につけている服はと考えると……
「………………まさか、な……」
☆
所変わって、会場。
「あら……? あなた達のご主人様はいずこに?」
「ああ……多分、外に涼みに行ったのだと思います」
イリアザートからの問いに、礼節をわきまえつつ……緊張しないタイプのユキが丁寧に答える。
方々からの挨拶をようやく全て終わらせて、彼女が本当に挨拶したい者のところに来たときには……その2人がそろってここにはいなかった。
やや残念そうにしているイリアザートだったが、
「まあ……アイク殿とイオン殿には、今回色々とがんばっていただきましたからね……精神的にゆとりをもつ時間も必要でしょう」
「寛大なご判断、ありがとうございます。わが2人の主に代わりまして、心より御礼申し上げます、女王陛下」
と、優雅なしぐさと共に返すユキ。
普段の奔放な彼女を見ているミリスやカナは……その意外性……というかギャップに驚きを隠しきれない様子だった。そしてわかりにくいが、エミリィも一応驚いていた。
ちなみに、シルクとセラは違う。元々が無表情なシルクは全くもって表情の変化が見て取れず(驚いているのかどうかすらも)、セラは……完全に食事に神経が行っていた。
一応、会釈などはしているが……イリアザートの視線が外れたタイミングを見計らって、ミートボールを1個ずつ着実に口の中に運んでいる。合間合間にレタスなどの野菜を選ぶのも忘れない。
「ふふっ……それにしても、あなた達はとてもいいご主人様をお持ちですね。なんでも……妾でなく、友達や恋人として接していただいているとか。デイビッドが面白そうに言っていましたよ?」
「あー……それは確かに、そうですね」
「まあ……あの2人はあれがデフォルトですから」
苦笑するユキとセラ。それでも、その表情はいかにも幸せそうなそれだった。
使え甲斐のある主をもつということは……ここまで人を幸福にするものか、と、イリアザートはあらためて、アイクとイオンの大徳に感心した。
するとおもむろに、
「はい~。そういった方に、自分を認め、見初めていただけるというのは、この上ない幸福なのだと、私も改めて知りました~」
おもむろに……エミリィがそんな事を言い出す。気になったカナがたずねると、
「? エミリィさん……それ、どういう意味ですか?」
「はい~。ええとですね、実は昨日、アイク様に、ミストレスにならないか、と誘われまして~、それはもちろん、その場でお受けさせていただいた次第なのです~♪」
「「「んなっ!?」」」
驚いて目を見張る2人。
そう、あの日……アイクが彼女に対して言った、ハーレムへの勧誘……あれを、当然のようにエミリィはその場で承諾していた。
明日にでも書類をまとめて申請しようとしていたところであり、一足早くであるが……立場上『先輩』である2人に対しての報告を行ったのだ。
エミリィにとっては、願ったりかなったりだ。自分の能力を認めてくれて、嫉妬も疎ましさも見せない、しかもフランクで優しく……おまけに自分の始めてを捧げたアイクだ。
これ以降、彼ほどに自分を大切に思ってくれそうな男性は現れないだろう……そう悟ったエミリィ。貴族の娘として、政略結婚の道具にされるであろうことを覚悟していた彼女は、何の迷いも無く、これを承諾していた。
……若干だが、新しく考えた術式を試しやすくなる、と考えたところもあったが。
しかし、そんな彼女の参入に……誰一人として、反対はしなかった。
むしろ、同じ男を愛せる仲間が増えた……ということに、喜びすら感じているようだ。
それどころか『じゃあさ、シルクちゃんもどう? イオンとシたんでしょ?』『いえ、私は……』などという会話さえ聞こえてくる。
完全に『同僚』ではなく『友達』の会話。それも……何も裏に隠すことのない、素直な本音のやりとりだ。
その光景も……イリアザートには不思議だった。
(後宮といえば、主人の寵愛と、それについてくる権力をめぐって水面下での争いが耐えない場でもあるというのに……そんな常識、彼女達には通用しないのね)
そして彼女は、こらえきれない微笑を浮かべつつ……ここにはいない彼女達の主のことを考えて……
(ふふっ……アイク殿とイオン殿……こんなにも彼女達に愛される2人って、どんな……。あらやだ、私ったら年甲斐もなく……ふふっ、でもいつか……閨に招いてみたいものね)
そんな、『女』としての本音を……人知れず、心の中でつぶやいていたりした。
しかし、それを口に出すことはさすがにせず、
「ふふっ、ともかく……今宵は無礼講。存分に笑い、語らい、飲んで食べてくださいね? そこのあなたも、わざわざ私に隠れてでなくて、堂々と食べていただいて結構ですよ?」
「あ、ばれました?」
隠れて食べていた、と、とっくにばれていたセラが、ばつが悪そうにする光景に……その場で明るい笑いが起こった。
その笑い声も……イリアザートにとっては、娘婿の純度をめぐっての権力抗争が終わりを告げた、という安堵感をもたらすいい音色であった。
☆
「何だ何だ? せっかくの宴だってのに……こんな静かなとこでしけた面してんなぁ? 新たな王子様の親友ともあろう奴が」
「……あんたが言えることか?」
と……後ろから声をかけてきたアイクに、庭園の片隅で座っていたギルはぶっきらぼうに返した。視線すらもよこさずに。
暗い中でいきなり話しかけられたにも関わらず、驚いていないところを見ると……ギルも、アイクが近づいてきたことには気づいていたと見ていいようだ。
「俺はああいうにぎやかな雰囲気は苦手でね。レオの奴と静かに飲むってんならつきあわねーこともねーが……っと、悪い、敬語は苦手でな」
「いや、構いやしねーよ。俺もあんまり遠慮されんのは好きじゃねー」
何も言わず、隣に立つ。手にはサンドイッチを持って。
無論……会場の大皿から失敬してきた料理である。テイクアウト。
ギルの脳内には、『伯爵とは思えない振る舞いだな』という当然の感想が浮かんだという。
と、その時、
おもむろに……僅かだが、鋭い威圧を……アイクが周囲に向けて、一瞬だけ放った。
「……っ!?」
とっさにギルが身を強張らせ、懐に手を伸ばしかけて……やめた。
隣にいるアイクは、そ知らぬ顔でサンドイッチをぱくつくばかり。一瞬遅れたタイミングで、横に視線を向け……にやりと笑う。
「おやぁ? どうしたよ、ギル? 懐から何を取り出そうと?」
「…………別に、どうもしない」
言うと、ギルは不自然にとめていた手を懐に入れ……ハンカチを出して、汗もかいていない顔を拭き始めた。
明らかなごまかしにアイクは噴出しそうになるが、どうにかこらえる。
もっとも……ギルはギルで、ごまかせるとも思っていないが。
「随分とつまらないまねをしてくれるな」
「その割には律儀に反応したじゃねーか。……お前、何者?」
「……しがない貴族の道楽息子さ。不良で……レオの馬鹿の友達のな」
一応、嘘ではない。ギルのいるドレッドシュリンク家は、候爵位をもつ党首を筆頭とした貴族家系として知られている。そしてかくいうギルも、男爵位を持っている。
もっとも……最近になって、田舎から家族まとめて引っ越してきたために、その家のことをよく知るものがいない……というのが、アルビオンでの現状だが。
へぇ……と適当な返事を返すアイク。傍目にも、信じていないとわかる。
交渉としてはどうかと思うが……両者共にそこに固執するような雰囲気は無い。
やがて、ため息をつきながら……ギルはその場を離れ、歩き出した。
「何だ、レオに会いにでも行くのか?」
「さぁな。……それとあんた、ひとつ言っとくぜ」
と、ギルは顔半分だけ見せるように振り向いて、
「……世の中にはな、放っといた方がいいことや、知らない方がいいこともあるんだよ。それに……逆らっちゃいけない、世の流れってやつもな……おせっかいは別にいいけど、あんまり過ぎたことやると……後で後悔するぜ?」
「おいおい勘弁してくれよ? 俺は別にやりたいようにやってるだけだ」
「それが時にはまずいし、場合によってはどこかの誰かに疎まれる……って言ってんだ。あと、何で俺に言う?」
「後悔するような事態にしてほしくないから、か」
「……自分でなんとかするんだな。あばよ」
そういうと、ギルは振り返らずに……黒服を夜陰に溶け込ませるようにしてその場を去った。
残されたアイクはしばらくそこに立っていたが……ふぅ、とため息をついて、
「なるほどね、邪魔するな、嗅ぎまわるな……ってか。わざわざ注意してくれるとは、優しいな」
軽口でそういいながら……自分も、振り返って歩き出した。
アイクは、威圧した時のギルの反応から……彼がやはり只者ではないことを確認していた。
自分があの時放った、不意打ちとも取れる強烈な威圧感。
普通なら……驚いて飛び退くか、腰を抜かしてもおかしくは無いそれだ。温室育ちの貴族や豪族なら、なおさらのこと。不良とはいえ……そうだろう。
しかし、ギルがとった行動は……とっさに、懐に手を伸ばす、というもの。
懐から何か―――おそらくは武器―――を取り出そうとする、という反応を見せた時点で、アイクはギルを『ただの貴族ではない』と認識していた。
そして、それを考え……アイクは夜空を仰ぎながら、
「…………何者かはしらねーが……化けの皮、いつかはがしてやる」
笑いながら、そう言っていた。