Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
アルビオン王城『アルビオーニス』……玉座の間
そこには、急な呼び出しにもかかわらず……名だたるメンバーが終結していた。
アーサランド女王・イリアザートをはじめ……娘のエリーに、その婿となったレオ。今はすなわち、王子だ。
そして主要な官僚や、軍部の高官、議院の代表……。
それに、ライオネルにデイビッド、その他の有力な純系達。
そしてもちろん……アイクとイオン。
普通なら、この中の一人に会うだけでも、謁見の手続きやら何やらで恐ろしく手間がかかる。このように一堂に会する様子というのは、壮観と言うほか無い。
しかし……それも当然であろう。何せ、事態が事態である。
「……皆様、お忙しい中、此度の急な招集に応じていただき、ありがとうございます」
玉座に座り……赤絨毯の両側にずらりと並ぶ面々に向かって、イリアザートは言う。
「前置きなど不要じゃ。さっさと本題に移ってくだされ、陛下」
と、これはライオネル。さすがにこの中で最年長の重鎮+純系というだけあり、礼儀はわきまえつつも、陛下に対しても遠慮が無い。
もっとも、気遣いも入っているのだろうが。
それを受けてイリアザートは息をつくと、そうですね、と話し始めた。
「ライオネル殿の言うとおり……取り繕っても仕方のないことゆえ、申し上げましょう。つい先程のことですが……隣国・ガーベル帝国より……宣戦布告の文が届きました」
「「「!?」」」
あまりに突然の出来事に、その場にいたほぼ全員が驚いて目を見開いた。
中には、小さく悲鳴をあげたり、頭を抱えた者もいる。無反応なのは……報告した当人のイリアザートを除けば、ライオネルやデイビッド、そしてイオンくらいだ。
イリアザートはその反応に、心苦しそうにしながら……手元に持った一枚の紙を開く。
上質の紙だ。そして、それに手をかざすと……おそらくそういった術を使ったのだろう、紙に書いてあるらしい文面が、何者かの―――おそらくは彼女が召喚した精霊の類―――によって、音読され始めた。
文面は堅苦しくはあったものの……内容は至極簡単。アーサランド王国に対して、自国の利益と国民を守るため……という理由で、戦争を行う……というもの。
「えぇっ……?じ、自国を守るためって……何がそんな……意味がわからないのですが……お母様!?」
と、エリー。
たしかに……理由としては意味がわからない。まるで、アーサランドがガーベルを狙っているかのような言い方だ。
それに、イリアザートはため息交じりで答えた。
「それについては私も同感なのですが……心当たりが無いわけではありません」
「と、おっしゃますと?」
「以前に起こった……テイロスの一件を覚えていますか?あの一件で、わが国の軍はこれ以降同じようなことが起こることを危惧し、海岸線に警戒態勢を敷いています。帝国側は……それを、帝国に対する攻撃準備である、と主張してきています」
「なんですって!?そんなムチャクチャな!」
と、今度はレオ。息子となったからか……今までよりもイリアザートに対して話しやすくなっているような印象を受ける。
「あれは、暴走とはいえ……向こうの師団長が奇襲同然で攻めてきたことが発端でしょう!?当然の備えをしている我々が攻められるいわれなど……」
「とはいっても、聞き入れてもらえないんだろうね。どうやら敵さん、最初からそのつもりだったみたいだし……」
「うむ……どの道、こうするつもりだった、ということじゃろう」
レオの意見は最もだが……その考え方は通じないだろう、という見解を述べる、デイビッドとライオネルだった。
「こうなっては、話し合いは考えない方が懸命じゃな。どの道……やつらは先の戦いで、16師団長の1角を失っておるのだ。予定調和である以上、相応の戦果を求めるじゃろう」
「あー……俺らのせい、ってことっすか?」
ばつが悪そうに頬をかきながら言うアイク。……攻め入ってきた師団長・モーガンを倒したのが他ならぬ自分と、弟のイオンであるがゆえに、だろう。
もっとも……そのモーガンが実は生き延びているということを、彼らは知らない。
「いやいやいや、そんなことはないさ。というか、テイロス地方以降に戦火を広めないで収束させてくれたんだから、恩の字ってもんだよ」
と、デイビッド。
そして、続けて発言したのは……そのアイクとデイビッドの間に立っているイオン。
「それを除けば、全ては帝国の思惑……ということでしょうね。となると、ライオネル卿の言うとおり、相手との対話は考えるだけ無駄でしょう」
「せ、戦争は……避けられないのですか、イオン殿?」
「でしょうね」
無常ともいえそうな、あまり感情を感じない口調でイオンは告げる。
できれば否定してほしかったエリーは、がっくりとうなだれた。その横にいる、彼女の婿は……そっと肩に手を添えて、彼女を支えた。
つらそうにその様子を見ているイリアザートは、王ゆえのしたたかさなのか、口を真一文字に結んで前を向いた。
「イオン殿やライオネル卿の言うとおりでしょう。これから先は……いかにして帝国との戦いに勝ち、わが国を守るか……それを考えなければならない時です。皆様、一旦解散した後……必要な資料を集め、持って、議事堂にお集まりください。緊急会議を開きます。開会は……午後2時とします」
☆
午後2時の開会を前に、アイクとイオンは一旦自分達の館に戻り……その驚愕の事実を、ユキ達に告げていた。
シルク以外は、唖然として驚きを隠せずにいる。いや、シルク自身も驚いてはいるのだろうが、顔に出ない。せいぜい眉毛がミリばかり動くくらいである。
ショックで何もいえない彼女達の中で、一番最初に反応をしめしたのは……セラ。
「やれやれ……あの連中、とうとうっつーか、思い切ったやり方に出やがったな……テイロスの次は、正式に戦争おっぱじめやがったか」
「あらあら~、セラさん意外と余裕がおありですね~?」
「いや、そういうわけじゃねーけど……むしろうんざりしてる、ってとこかな。あたし、あいつらには結構な目にもう遭わされてるし」
その脳裏には、テイロスの地下牢に捕えられて手篭めにされていたときの記憶がよみがえるが、今はもう振り切っていることだった。
それにしても、嫌悪感はぬぐえないらしく、しかめっ面を浮かべている。
一方で、普段からお気楽なユキも、戦争となると動揺は隠せないらしい。彼女には珍しい、いつもに比べれば神妙と言ってもいい表情で……目に見えて不安がっているカナとミリスをあやしながら、
「そうなると……私達も巻き込まれるのかな、アイク?」
「……あんまし考えたくないが、多分な」
「でしょうね……」
イオンはというと、傍らに座っているシルクに何事か色々と質問している。よく聞こえないが、おそらく今後の展望に関することだろう、とアイクは推測した。
「せ、戦争に巻き込まれる、って、そんな突然……」
「あ、アイク様……わ、私達はその……どうすれば……?」
驚いて不安で、すっかりおびえてしまっているミリスとカナは、ユキにあやされながらどうにかこうにか声を絞り出し、アイク達に尋ねていた。
無理も無い。いかに修羅場をくぐってきた経験があるとはいえ……国家規模での戦争など、2人とも初めてだ。
それは、この場にいる全員に共通のこと。たまに起こる紛争などとは違うスケールでの争いが始まるという現実に、不安にならない方がおかしい。
アイクもイオンもユキも、現実世界ではそのようなことと一番無縁である国の一つである『日本』から来たのだ。いつも頼りになる3人ではあるが、今回は3人共不安感をぬぐいきれないでいる。
それでも、彼女達を不安なままで放置するのは、彼らの信条に反する。
と、それに答えを返したのは……シルクだった。
「詳しい話は午後の会議で決まるようですが……おそらく、戦闘への参加を要請されると考えられます」
「ええっ!?わ……私達がですか!?」
「いえ、ミストレスの皆様まで……ということはないでしょう。ただ……」
そこまで言って、シルクはアイクとイオンの方を見る。
「アイク様とイオン様、それにユキさんは、評判にもなっているように強大な戦闘力を保有していらっしゃいます。ですので、本来は要人中の要人であるお3方ではありますが、1つの強大な戦力として換算されるものと予想されます」
「そ、そんな……イオンさんやアイクさんが、戦場に送られる……っていうんですか!?」
シルクのセリフに、ミリスは愕然とした様子で聞き返した。隣のカナも然り。
当然だろう……自分の愛する者が、死と隣り合わせの戦場に送られるかもしれないというのだから。不安かどうか、などというレベルの話ではない。
特にカナは、自分を不遇の状態から助け出してくれた、命の恩人とも呼ぶべきアイクの命に関わっている問題……同様と不安で気が狂いそうになってもおかしくない。
「いやです……そんな……!」
わなわなと震えるカナの姿は、酷くはかなげで、小さく見えた。
そっとその体を抱きしめながら、ユキは、
「ともかく……そこまで大事になっちゃうと……私とかは口出さない方がいいかもしれないわね。正直……何をどう受け止めたらいいのかもわかんない。実感ないし……考えるどころか、怖がることもできないわ」
「だな……あたしも同感。その会議で全部決まるんだろ?ひとまずそれ、待とうぜ。カナとミリスは……部屋で休ませた方がいいな」
「そうですね~、私達みたいに、柔軟というか図太い思考ができない子だと、今回のこの話はあまりに突然というか~……刺激が強すぎるというか~……」
「す、すいません……そう、します……」
エミリィの言葉に、申し訳なさそうにうなずくと……カナはミリスと一緒に部屋に戻った。アイクが目で合図を出して、兵士達と侍女達に彼女達の世話を言いつける。
そしてイオンは、少し考えた後、
「じゃあ……会議には僕と兄さん、それに……シルクさんで出ましょう。ついてきてください」
「よろしいのですか?補佐とはいえ、私の重要会議への参加は許可されていませんが」
「ことがことだけに、シルクさんの事務処理能力は必要です。許可なら特権を行使して僕が出しますから、手伝いをしてください」
真っ直ぐ目を見て、有無を言わさぬ口調で言うイオン。
シルクはそれに、少し考えるようなしぐさを見せた後、
「了解しました。では、会議に必要・有用な書類を可能な限り用意させていただきます。開会時刻30分前にここ、リビングに集合、ということでいかがでしょうか?」
「そうしましょう。じゃあその方向で、解散!」
☆
その後、議事堂で会議が行われた。
簡単に、その内容を……色々と解説を交えて説明させていただくとしよう。
以前に、このフェルガルドは前日世界の世界地図に地形が対応しているといったが、
アーサランド王国は、その世界地図で言うところの、ヨーロッパ全体にあたる。南は黒海周辺から、ロシアはウラル山のあたりを通って北に抜ける……といった位置取りだ。
そして、今回戦争になった国……『ガーベル帝国』は……その南方、アフリカ大陸の北部から中部までを占める大国だ。
すなわち、両国は地中海をはさんで国境を構えている形になる。
無論、異世界ゆえに地名は違うが……『ヨーロッパVSアフリカ北部』……そう理解しておけば差し支えないだろう。
そして、今回の会議では、今後の大方針とともに……初戦をどこで交えることになるか、という話になったのだが、
「おそらくですけどぉ……初戦は、ここでしょうねぇ」
そう言って……議会の司会進行を勤めている女性は、魔術で空中に投影している、ホログラム状態の地図を指差した。
黒を貴重とした法衣のような服を着ている彼女は、手に指揮棒を持ち……議題に似合わないにこやかな笑みを浮かべていて……目はなぜか半開き。
身長も高く、胸も大きい。声も、どこか妖艶な響きがある……大人の声だ。
何よりも印象的なのが……その異様なまでに長い髪。フェルガルドには珍しい黒色の髪を、膝の下辺りまで伸ばしている超ロングヘアだ。
その女性がさしているのは……地図上の、地中海に当たる部分。
フェルガルドでの地名は……『コートラー海域』。
「当然と言えば当然なのですがぁ、両国とも敵の襲撃に備えての軍備が整えられ、軍港も整備されていますぅ。戦いの始めやすさや、敵国への進行の足がかりを確保するという意味を考えても、おそらく初戦はここでしょうねぇ」
「加えて……わが方の軍港の1つ、テイロスは、以前向こうに襲撃にあって、まだ多少なり復興段階だ。軍港としての機能を10割出せるかというと微妙……帝国がまず攻め込んでくるのに、好条件……か」
付け加える形で発言したのは、アイク達が会ったことのない女軍人だった。
まあ、もともと軍人への知り合いが多いわけでもないので、この場はほとんどそうだが。
「つまり……初戦は海戦になる……ということですか、ネール?」
「そうですねぇ」
イリアザートの質問に、そう答える……ネール、と呼ばれた女性。
「おそらく、帝国は軍艦を動かし、艦隊で進行してくると思われますぅ」
緊張感があるような無いような表情で、指揮棒を振ると……その海域が地図上でズームされ、さらに注釈で詳細なデータがホログラムに浮かび上がる。
(……便利だな、魔法)
アイクは人知れずそう思った。その隣で、イオンとシルクは凄まじい速さでペンを動かしながら、情報を頭に叩き込んでいっている。
すると、女性の説明は佳境に入ったらしい。
「この……『コートラー海域』における海戦ですがぁ、鍵を握るポイントは2つですぅ。1つは、海域各所に存在する岩礁ですねぇ」
「あ、聞いたことあります!たしか、昔はそのせいで座礁する船が多く出たと……」
と、レオ。
「その通りですぅ。今も、どこにあるのかはっきりとは把握できていないため、下手に船を動かせばその岩礁に衝突して立ち往生か、最悪沈没しますぅ。ですので、ここでの戦となると、必然的に慎重さが求められますがぁ……その点に関して、我々には大きなアドバンテージがありますぅ」
「「「?」」」
その意味を図りかねる者たちが首をかしげる。
すると……あらたに1つ、ホログラムのウィンドウが開き、画像を映し出した。
そこには……金色の、懐中時計のような何かが映し出されていた。その周囲に英語で表記されている説明文を読んでみると……
「『コートラーの羅針盤』か!」
誰かがそう叫んだ。
アイクは、そういわれてみれば、のようにも見える、と感じた。しかし……普通の羅針盤ではない……ということは、見た目から明らかにわかる。
豪華な装飾はともかくとして、その羅針盤には……通常は南北を指し示す1本である磁針が、いくつもあるのだ。ざっと数えただけで……6本。しかも、どれもが違う向きを指し示し、絶えずくるくると回っている。
ある種の魔法アイテムだ、と気づくのに時間はかからなかった。すると、横からシルクがあれの正体を2人に耳打ちしてくれる。
「『コートラーの羅針盤』は、古代よりアーサランドに伝わる秘宝で、コートラー海域の岩礁の位置を指し示してくれる道具です」
「ってことは、アレがあれば……」
「はい、岩礁に被害を受けることなく、海を自由に行き来できます」
「ほぉ……」
確かに……それは大きなアドバンテージだと言えるだろう。
どう知るのかはわからないが、最も適切なルートを洗い出して速攻で敵陣に攻め入ったり、敵艦を岩礁に誘い込んで自滅させたりもできる。
そして、
「そしてもう1つの重要な点ですがぁ、その岩礁を縫って存在する小さな島の数々ですねぇ。ほとんどが無人島ですが、それゆえに補給・中継拠点として有用に利用できるかとぉ。海戦を征し、これらの島を押さえれば、今後の進軍がよりスムーズに行きますねぇ」
「敵国侵入の中継地点の確保も、この初戦にかかっている……ってわけだ。こりゃいきなり大一番だねえ」
と、デイビッド。軽口だが、言っていることは正しい。
地中海を挟んで存在する2つの国。2国間を最速で行き来するルートがそこに限られる以上……言ってみれば、この『コートラー海域』での戦いは、天王山に等しい。
ゆえに、それを前提に会議は進められ……そして、大方針が決定した。
アイクとイオンも発言しつつ、進められた会議で決まった内容は……
「では皆様、これより、コートラー海戦における大方針を発布します!」
議事堂中央の玉座から立ち上がり、イリアザートは声を張る。
「我々アーサランド軍は、斥候を放って敵国の状況を適宜観察しつつ、旗艦1隻、軍艦40隻からなる艦隊を編成し、帝国軍を迎撃!『コートラーの羅針盤』を駆使して戦いつつ、点在する無人島をおさえ、帝国攻略の足がかりとします!」
そして、
「出陣は3日後!艦隊提督は、王国騎士団副団長・キュラ=アスターベル!副官として、将軍数名の任命権を与えます!加えて特務戦闘員として、アイク=ソーヤー殿、イオン=ソーヤー殿の両名にも出陣を要請します!その他、傭兵の雇用も許可!王国海軍を率い、必ずやこの戦いを勝利をもって終結させてください!以上!」