軌跡ヲナゾル猥手 作:四十八手
人により胸糞な展開を含みますので閲覧される場合はご注意ください。
そこかしこに植えられた木々に咲き乱れる白い花に彩られた街並みを見回し、長い列車旅で凝り固まった体をほぐすようにうんと背伸びをする。
エレボニア帝国近郊都市トリスタ、街路を行き交う人々にはこの街に開設されこの日入学式を迎えるトールズ士官学院に入学する制服姿の新入生達の姿が多く見受けられる。
いいね、いかにも入学式って日和だ。
記憶に懐かしい桜の花ではないが俺の中では入学式というのはやっぱりこう春の鮮やかな花咲く季節というのが定番だ、他の生徒達もそうだろうが新しい学院生活というのは胸をわくわくさせる魅力がある。
まだ学校教育というものが普及しきっていないこの世界でもやはりそこは同じらしい、比較するような学院生活観を持ち合わせているのなんて俺ぐらいのものだろうが。
頭に思い浮かぶのはこの世界とはまるで常識も世界観も異なる、暦は西暦の地球、二十一世紀の日本という国の記憶だ。
人に話せば頭の病気を疑われるだろうが俺にはこの世界と全く異なる世界で生まれ暮らした記憶がある、前世ということになるんだろうか、しかもこの世界はその前世で好きだった軌跡シリーズというゲームの設定と寸分たがわぬ世界だったのだ。
前世の記憶で最後に残っているのは二十代会社員生活二年目、スーパーから一人暮らしのアパートに帰る途中、赤信号を無視して突っ込んできた軽トラック――を命からがら避けたところに立体駐車場の三階から壁を突き破って降ってきた大型トラックのフロントボディ。
体がぐしゃっと潰れる感覚、なんてのも残らないぐらい一瞬で逝ったらしいがこの世界でその記憶を思い出したときは流石に身震いした。
とはいえ悪いことばかりでもなかった、前世で死んでからこの世界に生まれ変わるまでの間――そういうことがあった、ということしか覚えていないのだが俺はある存在と取引をしていたのだ。
いや取引なんて呼べるものじゃない、あれにとって俺に起こった転生劇はお遊びか気まぐれみたいなものだったんだろう、一歩間違えば埃を噴くように俺と言う存在は握り潰されていた、そんな確信だけがある。
だが異世界、それもゲームの世界に転生するなんて千載一遇の機会にいわゆる軽いオタク系だった俺は叶うわけがないと理解しながら秘めていた願いをぶちまけずにはいられなかったのだ。
賭けに勝ち、俺はある力をこの世界に生まれ持つことが出来た、それは――
「きゃっ」
「おっと」
背中に誰かがぶつかりその誰かが倒れてしまう、より早く振り返った俺はぶつかってきた人物の背に手を回して抱き止めた。
腕に軽めの体重がかかり、抱き止めた人物、赤い制服に身を包んだ少女の長い金髪がふわりと揺れた。
アーモンド形に整った形の瞳がぶつかってしまったことと抱き止められたことの驚きにぱちぱちとまばたきしている。
「大丈夫?」
「え、ええ、ありがとう……ごめんなさい、つい街並みに見とれちゃってたみたい」
体勢に気づいて恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら少女はすぐに身を起こす。
「俺もそうだよ、立ち止まっててこちらこそすまなかった」
「ふふ、随分いいところみたい……ね?」
俺の顔を見ると顔をきょとんとさせてしまった少女に意識してにこりと笑いかけながら声をかける。
「久しぶりだな、アリサ」
「あなた……リィン!?」
笑いかけた瞬間、少女ことアリサは顔を赤くして俺のことを思い出したようだ。
彼女、アリサ・ラインフォルトは幼い頃に俺の生まれ故郷、ユミルを訪れたことがあり、雪山に迷い込んでしまった彼女を連れ帰ったことがあった。
そして彼女が呼んだリィンという名、俺と言う存在が塗りつぶしてしまった存在に少し苦いものを感じる。
憑依とでも言うんだろうか、この世界に本来あるべきだったリィン・シュバルツァーという人物は転生した俺に成り代わられてしまっていた。
立場容姿こそ受け継ぎ、いや奪い取ってしまったものの魅力あるこの世界の人物の一人をある意味消し去ってしまったことには後悔がある。
……けどまあやっちまったもんは仕方がない、リィンという存在が持つ力は俺のもう一つ望みを叶えるのにこの上ない好条件でもあったし。
「そうだよ、その制服、アリサもトールズに入学するんだな。それにしても」
「……?」
「昔から可愛かったけど、すごく綺麗になったなアリサ、驚いたよ」
「――――っ!」
再開の感想を率直に告げるとアリサはただでさえ赤くなっていた顔を林檎のように真っ赤にして口をパクパクとさせていた。
よし、掴みは上々のようだ。
その反応から
俺というリィン・シュバルツァーには本来のリィンと異なる点がある。
まず閃の軌跡というゲーム中での知識から完全ではないがリィンという人物に秘められた力――鬼の力と呼ばれるものを知覚しており、この世界の武における頂点に近い人物、ユン・カーファイに師事する機会に恵まれることも理解していたため幼年時代からその力を使いこなすための鍛錬に励むことができた。
前の世界の常識からすれば馬鹿げているが漫画のような世界そのものの境地に達することができるこの世界での修練は辛い修行を乗り越えるだけの根気を俺に与えてくれた。
加えてこの容姿には本来リィンには存在しなかった、瞳の下に泣き黒子がある。
これ自体はあくまで参考にした能力の象徴でしかないが、俺の願いを元に備えられた能力の正体は。
「もう……バカ、でも、また会えて嬉しいわ、リィン」
瞳を潤ませてこちらを見上げるアリサ、本来幼少の頃出会った記憶は忘れていてもおかしくないが、目の前の彼女はそれどころかすっかり再会に感動した様子でじっと俺を見つめ、更には恋する乙女のように頬を染めて眉尻を緩めている。
それもこれも転生する際に得た能力のお陰である。
女性に対しての強力無比な魅了効果、さらに因果律に干渉し色事限定で都合の良い展開を形成することができる能力。
うん、下心と浅ましさしか無い能力です。
だがそれがどうした、俺は憧れのゲームのキャラ達と触れ合いイチャコラくんずほぐれつとしたかったのだ、それが出来るチャンスには手を伸ばさずにいられなかったのだ。
それだけに特化したがために身体スペックとかには手が加えられていないがリィンならばそこはどうにかなる見込みは十分にあるし。
下手にあれこれ高望みして転生が無しになっても嫌だし、いやこの能力だけでもう十分原作ブレイクですけどね。
ともあれその能力で目を付けていたヒロインの一人であるアリサはもうすっかり惚れてくれている様子だ。
知ってはいたけど年頃に成長した彼女はとても可愛く魅力的に育ち、こうして見つめ合っているだけでぐっとくるものがある。
そんな内心を表に出さないよう小さい頃から練習したポーカーフェイスで隠してポーっとした様子のアリサに声をかける。
「これから入学式に行くんだよな、良かったら一緒に行かないか?」
「うん! もちろん構わないわ」
表情を弾ませるアリサの笑顔の愛らしさににやけそうになるのを我慢しながら彼女と揃って今しがた出てきた駅から正面、坂の上にあるトールズ士官学院まで向かうことにした。
*
入学式で起こる事の流れは細かなやり取りこそおぼろげながら覚えていることだ。
正門でロリ生徒会長ことトワ・ハーシェル先輩と太っちょ黄色ツナギのジョルジュ先輩に迎えられ持ち込み指示された得物を渡す。
名前の確認でラインフォルトというファミリーネームを呼ばれアリサが慌てていたが原作リィンはともかく俺はそんなこととっくに知っていたので事なきを得た。
ヴァンダイク学院長の式辞は実にありがたいものだったが、それよりも俺は学院教官の列に並んでいる深い赤、ワインレッドの髪を後ろで束ねたサラ・バレスタイン教官の方に興味を奪われていた。
うん、やっぱりサラ教官はイイ、出るとこ出て引っ込むところは引っ込んだ体つきしただらしない性格のお姉さんとか最高だ、それも抜群の美人ときている。
俺が転生したことで変な影響が発生して 《Ⅶ組》入りがふいになりはしないかと正直不安だったが、修行の成果は表に出ないようにしていた甲斐あってか入学式前に届いた制服は赤の色をしていた。
それにしてもやっぱりサラ教官の格好はエロいな、胸元の谷間とか短いスカートとタイツの間の太腿とか、ガン見したいぐらいで気づかれないようにするのに一苦労だ。
そんな不謹慎なことを考えてる間に入学式の式典は終わり、事前に指定されたクラスに向かう白制服の貴族生徒、緑制服の平民生徒に取り残された赤い制服の俺を含めた九人の生徒はサラ教官の号令の下、特別オリエンテーリングへ向かわされることになる――
転生しこの世界で二度目の生を得てから十七年余り、ついにこの日がやってきた。
何しろ第二の人生なんて超体験だ、不安はある、だが出来る限りの準備はしてきた、俺の望みを満たすためにもやってやろうじゃないか!