やはり、私の青春ラブコメがまちがっているはずがない。 作:夏ノ雪
ということで、少し早いですが新話開始します。
前回の話とは関係ありません。
時期設定としては、修学旅行後になります。
それでは、よろしくお願い致します。
1 葉山隼人
夕方。
駅前の商店街。
ジャージ姿の部活帰りの学生や、仕事帰りのサラリーマンの姿がちらほら見える。
いくつかの店は早くも看板をライトアップしている。
その中に見覚えがある少女の姿が見える。
腰まであるストレートの黒髪。
儚くも気品を漂わす美少女。
その魅力にひかれたのか、その周囲に二人組の男の姿。
男達が一方的に少女に声をかけられているようだ。
その少女は身を引いて、何か言っているようだが男達は中々身をひかない。
ナンパか・・・
その光景をみて思った。
関わりたくないとばかりに、通行人は顔を逸らして横を通り過ぎる。
誰も彼女を助けようとしない。
その空間だけ日常から切り離されている。
日常の中にできたエアスポット。
僕はその場所へ足を進める。
「ごめん雪乃ちゃん。待った?」
僕は男たちを無視してその少女、幼馴染の雪ノ下雪乃に声をかける。
はっとした表情でこちらをみる雪乃。
「なんだよ、彼氏持ちかよ」
「行こうぜ」
そうして去っていく男達。
僕は男たちが去っていくの確認すると雪乃を見る。
いつも通り、表情が見えないポーカーフェイス。
しかし、どこか怒っているようにも感じる。
幼い事からの付き合いだからなんとなく分かる。
「余計なお世話だったかな。あれぐらいなら君一人でも対応できたかもしれないけど見てられなくて」
「いいえ、助かったわ。ありがとう葉山君」
雪乃はそういって僕に頭を下げる。
そのやりとりが僕と雪乃の距離を表している。
昔とは違う、今の関係。
距離感。
何故か僕の心は寂しく揺れる。
僕は体のどこかがそれを感じる。
そして反応するかのようにとっさに口が動く。
「良かったら最近オープンした店に行かないか。男一人だと入りにくい店でね。一緒に来てくれると助かるんだ」
僕の提案に一瞬驚いたような表情をする彼女。
だがすぐにいつもの彫刻のようなポーカーフェイスに戻る。
実際、僕自身彼女にこんなことを言おうとは思っていなかった。
つい、いつもの癖で口から言葉が出た。
困っている人をみるとほっておけない。
その人の願いを叶えてあげたい。
いつからか、僕はそんな行動をとるようになっていた。
「お気遣いありがとう。でも、大丈夫よ」
そういって、話は終わったという雰囲気で歩き出そうとする雪乃。
でも、その姿にどこか弱さを感じる。
何故だろう?
僕は興味が惹かれた。
彼女をこのまま帰したくなかった。
「一緒に来てほしいんだ。陽乃さんからの頼みで、他の娘だとちょっと困るんだ」
僕は雪乃を再度誘う。
彼女が反応するだろう言葉で。
その魔法のようなワードを入れて。
その言葉を受けて一瞬考える雪乃。
顎を引き、ちょっと目線を下げる雪乃。
こんな姿でも彼女は絵になる。
他の人ならかっこいいとか思うのだろう。
でも僕にはその姿が少しかわいく見えた。
一生懸命頑張っている女の子。
それが何故だか分からないが。
「そう・・・・・それなら一緒に行くわ。先程の件もあるのだから」
「よかった。それじゃ行こうか」
こうして僕と雪乃は歩き出す。
夕暮れの商店街を二人で。
◆◇◆◇
ケーキ屋。
店内は満席。
女性同士の客やカップルが多い。
独特の甘い空間。
ふんわかとした時間。
砂糖菓子の甘い匂いに加え、それとはあきらかに違う匂いがする。
店内に専用の香水でもまいているのだろうか。
最近そういう事に凝っている店が多い。
この店もその一つだろう。
オープンしたばかりというわけで、入口に列ができている。
「ごめん雪乃ちゃん。こんなに人がいるとは思わなかった」
「いいえ、別にあなたが謝ることじゃないわ」
何ともなさそうに言う雪乃。
いつも通りの雪乃だ。
世界と隔絶している少女。
「僕は案内表に名前を書いてくるよ」
「ええ。分かったわ」
案内表に名前を書き、僕たちは列に並んだ。
すると、周りから視線が集まる。
周囲で声が聞こえる。
「ねぇねぇ、あの人かっこいい。ほら。それにあの隣の子も・・・」
「見てみて、あの人・・・」
いつもの事である。
女子高生と思われる二人組の少女たちの声が聞こえる。
僕たちに聞こえるような声は出していないが、チラチラとこちらを見つめるものも多数いるようだ。
こういう視線はよく感じるから分かる。
慣れてくると特に何も感じなくなる。
日常の一瞬。
隣の雪乃を特に動揺はしていないようだ。
やはり彼女も慣れているのだろう。
「あの、すみません。一緒に写真いいですか?」
先程から僕たちの方をチラチラ見ていた少女二人組がこちらにくる。
顔を赤くしながらも、笑顔でこちらを見ている。
何かを期待しているような顔。
僕は一瞬横の雪乃を見る。
彼女は僕の視線を受けて僅かに頷く。
「大丈夫だよ。一緒に映ればいいのかな?」
「え、本当ですか!!嬉しいです」
「やったー」
彼女たちに挟まれて僕は笑顔になる。
彼女の内の一人が自画撮りのように手を伸ばし、スマホでアップの写真をとる。
パシャ
写真がとられる。
そして次は、もう一人の娘のスマホで。
パシャ
「「ありがとうございます」」
そうして二人は自分たちの列に戻っていった。
そんな僕を何か言いたそうに見つめている雪乃。
「ごめん雪乃ちゃん。一人にしちゃって」
そんな僕の言葉を受けて、一瞬間が開く。
「あなたは本当にお人よしなのね」
彼女は何か愁いを帯びた声で答える。
僕がお人よしか。
そうなのかもしれない。
そうだろう。
ただ、これぐらい何でもない。
◆◇◆◇
暫らくすると、僕たちの前に女性店員が来た。
何でもすぐに席に案内してくれるとのこと。
案内表を見た限りだと、後30分は待つ事になるかと思っていた。
僕たちは、他の並んでいる客の横を通り過ぎながら店内に進んでいく。
そして案内されたのは、店で一番良いだろう席。
日当たりがよさそうな、全面ガラス越しの壁の前の席。
そのため、通りからも僕たちがいることがよく見える。
花やアンティークで飾られたその席は、店内で一際異彩を放っていた。
センスがいいのか、不思議と場の空間とマッチしている。
座りたいと思わせる魅力があった。
そんな席に僕たちは向かい合って座る。
「いいんですか?あの、たくさんの方が並んでいるようですが?」
僕は案内してくれた女性定員に聞く。
肩で髪が切りそろえられている茶髪の女性。
大学生ぐらいだろうか。
「大丈夫ですよ。店長から美男美女がきたら優先的にこの席に案内しろって言われてますから。この席は特別なんです。それにメニューも、今回はどれでも1品無料でいいですよ」
その話を聞いて隣の雪ノ下は不機嫌そうだ。
表情は変わっていないがそんなオーラを発している。
「そうですか。ありがとうございます。是非友達にもこの店の事を宣伝しておきます」
「よろしくお願いしますね」
そういって、女性店員は去って行った。
僕はテーブル越しに雪ノ下と向かい合う。
やはり彼女は不機嫌そうである。
僕たちの容姿は、この店の宣伝として利用されているのだろう。
そのかわりに待ち時間も短縮され、会計でも得をする。
僕たちと店にとってはWin-Winの関係。
でも、僕たちと他の客にとっては不公平な関係。
他の客より、明らかに得をしている僕たち。
「ごめん。君はこういうことが好きじゃないのは知っているんだけど」
「いいわ。別にあなたから何かしたわけじゃないのだから」
「そう・・・それじゃメニューに決めようか。この店は味も評判だからね」
雪乃は不満を感じていながらもそれを口にしない。
それは彼女が大人だからか。
それともそれが彼女の抱える問題の一旦なのか。
僕には分からない。
◆◇◆◇
それから僕はチーズケーキ、雪乃は苺のショートケーキを頼んだ。
ちょっとそれには驚いた、
雪乃が苺のショートケーキ。
そんな女の子らしく、かわいい物を選ぶとは思っていなかった。
僕は、彼女がそれを注文するのを聞いて驚いた。
顔には出ていなかったと思う。
でも驚いた。
雪乃の選択に。
その瞬間、ちらちらと小さい頃の雪乃の姿が頭に浮かんだ。
今のような雪乃になる前の姿が。
それが目の前の雪乃と重なる。
その瞬間、彼女に懐かしさとかわいさを感じた。
現状の彼女とはアンバランスなその感覚。
僕はその感覚に押されて表情が崩れそうになった。
でも耐えた。
彼女はそういう事を望まないだろう。
今の彼女は。
僕は会話が途切れないように何気ない世間話を続けた。
こういうのは得意だ。
女の子が楽しめる会話はだいたい似通っている。
その中から適宜選んで話す。
小さい頃から一緒で忘れそうになるが、雪乃も女の子だ。
僕は話し続けた。
雪乃はいつも通りだ。
氷の彫刻のように美しい表情を崩さない。
でも、つまらなそうにもしない。
僕たちは何気ない会話を続けた。
周りから見ると仲の良いカップルの会話に見えるかもしれない。
だが、実際は表面上をなぞる会話。
僕も雪乃も一線は超えない。
だが、僕は思った。
僕は何故だか、その表情を崩してみたいと思った。
そして口が動く。
「雪乃ちゃんは、比企谷君の事をどう思ってるの?」
ピクッっと眉が動く。
不意の僕の質問に動揺したようだ。
超えてはこないと思った領域に踏み込んできた事に驚いているのか。
「どうも思っていないわ。ただの部員よ」
彼女はいつも通り、冷たく威厳のある声で答える。
どこか無理して振舞っているように聞こえるその声で。
「そうなんだ。雪乃ちゃんだからいうけど、僕は比企谷君が気になってるんだ。君もそうだと思ってた」
彼女は僅かに顔を傾けて目を細める。
彼女は何かを探るように僕を見ている。
「私はそんなことないわ・・・・でも、あなたがそう思ってるのは意外だわ」
彼女は言葉を選ぶように口を開く。
意外。
彼女はそう口にした。
だがその口ぶりには何か複数の意味を感じる。
「意外でもなんでもないよ。雪乃ちゃんなら理解できるよ。僕と一緒に陽乃さんと過ごした時間がある雪乃ちゃんなら」
ふいに言葉が口から出た。
ちょっと踏み込みすぎたと思った。
でも言わずにはいられなかった。
僕が思っていることの内容を確認したかった。
一番その判定が確かであろう人物に。
「私には・・・・・分からないわ」
彼女は何かを言いかけてやめた。
僕はその姿を見て懐かしさを覚える。
一瞬だけど昔の雪乃ちゃんが見えたような気がした。
「学園祭、修学旅行。彼がこれまでやってきたこと。僕はそれを見ていて、彼の中に何故か陽乃さんを感じたんだ。ひょっとして雪乃ちゃんも同じかと思ったんだけど・・・」
僕は雪乃を見る。
彼女の前では、食べ終わったケーキの紙が綺麗に包まれて置かれている。
皿の上に残っている苺の蓋がその紙の彩る。
彼女は間をあけ、そして口を開く。
「私は感じなかったわ」
そう呟く。
今までよりわずかに力強い声で。
僅かに自身のなさそうな姿でそう答える雪乃の姿。
それは自分自身に言い聞かせているように見えた。
言い聞かせることでその言葉を事実にしようかとしているように。
「僕の勘違いかもしれない」
僕はそう答えてこの会話を終わりにした。
確認したいことを確認できたのだから。
◆◇◆◇
その後は、食事をしながら何気ない会話をした。
彼女も変わりなかった。
雪ノ下雪乃は、雪ノ下雪乃を演じていた。
会計時、僕たちはあの女性店員からクーポン券をもらった。
次回も無料でメニューを頼めるらしい。
案内された時に言われたように、僕と雪乃のメニューが1品づつ無料になった。
彼女は残りの自分の代金を払うといったが、僕はそれを断って彼女の分を支払った。
不機嫌そうになる彼女だが、彼女はそれを受け入れた。
そうして食事を終えた僕たちは、店を後にした。
久しぶりに一緒の時を過ごした雪乃に、僕は少し興味を抱いた。
これまで抱いていなかった興味を。
次話は、今日の21時に投稿予定。
エロ有りです。
-------------------
20150503 誤字脱字修正