やはり、私の青春ラブコメがまちがっているはずがない。 作:夏ノ雪
数日後。
あの日から僕は雪乃を意識するようになった。
ただの幼馴染の少女だった彼女。
それが女性になった。
そして同時に心がどこか焦っていた。
何故だか分からないが、依然の僕とどこか変わったように思えた。
どこが変わったのかは分からない。
僕は女性にもてる。
それは誇張ではなく事実だ。
彼女たちにいい寄られることもよくある。
だが、僕は彼女たちに興味を持つことができなかった。
勿論女性には興味がある。
でも、それは基本的な女性への興味だった。
どの女性にも等しく感じる興味。
だがあの日、僕は雪乃に特別なものを感じた。
あれは何だったのだろう。
雪乃の中に陽乃さんをみたからかもしれない。
僕が憧れているその人、雪乃の姉、雪ノ下陽乃さんを。
ただ、分かることがある。
僕の心は揺れていた。
そう、揺れていた。
◆◇◆◇
街のケーキ屋。
先日雪乃と来た店だ。
今もこうして僕は、雪乃とテーブル越しに向かい合っている。
あの時と同じ席に。
街路からよく見えるその特別な席に。
店にくると、前と同じ茶髪の女性店員にこの席へと案内された。
今度は案内表に名前を書く前に連行された。
目があった瞬間だ。
席につく際に聞いたのだが、何でも僕たち目当てにこの店に来る人がいるようで、店の収入に貢献しているらしい。
その話がどこまで本気か分からないが、僕たちは再びその席に着いた。
「これ、ありがとう」
僕は雪乃に袋を渡す。
世界的なスポーツメーカーのロゴが印字されている袋を。
あの日借りたジャージとトレーナーだ。
雪乃は受け取り、袋の中を見る。
そして、ふと一瞬目を閉じる。
「別にクリーニングにださなくてもよかったのに」
「他に出すものがあったから、ただのついでだよ」
「そう・・・」
そして雪乃も袋を僕に渡す。
有名アパレルメーカーが印字されたその袋を。
僕は中を確認する。
あの日の僕の濡れた服だ。
やっぱりか。
「雪乃ちゃんこそ、別にクリーニングにださなくてもよかったのに」
「私にも他に出すものがあったから、ついでよ」
「そうか」
僕たちは紅茶を飲む。
その時、窓の外に見知った姿が映る。
あの興味深い男。
世の中に斜に構えているような男。
日企谷八幡の姿が。
僕の目線を追って、雪乃もそれに気づく。
だが、その視線の先にいるのは八幡だけではない。
その隣に見知らぬ女子生徒がいる。
同じ高校の制服を着ている女子生徒。
そして・・・
彼と彼女は手を繋いでいる。
まるで、彼氏と彼女の様に。
「比企谷君には彼女がいるみたいだね」
僕はそう口にする。
見たままを口にする。
その光景を口にする。
雪乃は僕の言葉を聞いているか分からない。
視線の先をずっと見ている。
何かにとらわれたのか。
ずっと見ている。
比企谷君とその隣の少女の姿を。
あの雨の日、僕が雪乃の姿に見惚れていたかのように。
珍しく彼女のその顔には、驚きの表情が見て取れる。
普段決して見せることがない素の表情。
それを僕の前で見せている。
驚きと悲しみ、それが合わさったような複雑な表情を。
僕はその表情に魅力された。
その姿が僕の心を満たす。
すると、視線の先で比企谷君とその少女がこちらを見ている。
彼女が僕らの方向を向いて指をさしている。
何やら少女が比企谷君にいっているようだ。
彼ははじめ、消極的に否定的な動作をしていた。
だが、彼女の勢いに負けたのか、二人はこちらに歩いてくる。
◆◇◆◇
店内。
迷わず僕たちのテーブルに近寄ってくる一組の男女。
先頭に女子生徒。
後ろに比企谷君。
比企谷君は、彼女に無理やりつれてこられたというオーラが出ている。
それを隠そうともしない。
だが明確に反対もしない。
その姿が彼らしい。
「葉山先輩、私たちも一緒にいいですか?」
女子生徒が僕にいう。
僕は雪ノ下の顔を見る。
彼女も僕の目を見る。
彼女は何の動作も見せない。
「もちろんだよ。雪乃ちゃんもいいかな?」
「ええ、かまわないわ」
そして僕の隣に比企谷君。
雪乃の隣にその少女が座る。
全員が席に着いた所を見計らって僕は声を出す。
「初対面の人もいるし、一応自己紹介しようか。僕の事は皆知っているから省くよ。
彼女は同級生の雪ノ下雪乃さん。こちらは一色いろはさん。サッカー部のマネージャーだよ」
僕は言葉を話ながら、手振りで紹介する。
その言葉を聞き、
「どうも」
「こちらこそ」
雪乃と一色の二人は、共に挨拶をまじわす。
雪乃に比べると劣るが、一色も十分魅力的だ。
彼女は美しいというより、かわいさがある。
由比ヶ浜さんとは違ったかわいさだ。
「それにしても感激です。雪ノ下先輩に会えるなんて」
一色が雪乃の方を見ながらいう。
その顔は笑顔、そして元気一杯だ。
「そんなことないわ。私も・・・合えて嬉しいわ」
一色にほめるべき所がなかったのか、言葉を濁す雪乃。
何か落ち着かない表情をしている。
あまりこういう娘になれていないのか。
由比ヶ浜と仲が良いわりには不思議だ。
「ですよね~。先輩といっしょにいたら葉山先輩見つけて、すぐ来ちゃいましたよ」
「そう。すぐね・・・」
雪乃と一色は合わなさそうだ。
雪乃は僅かに目線を逸らしている。
「そういえば比企谷君たちも注文しないか」
「そうですね」
そうして時は流れていく。
◆◇◆◇
「あれ?これなんですか?」
一色が雪乃の隣に置いている袋について質問する。
それは僕が雪乃に返した服が入っている袋。
スポーツメーカーのロゴが印字されたそれ。
「これはただの服よ」
「そうなんですか~。なんか意外です。雪ノ下先輩がそんな袋を使っているなんて。見せてくださいよ。私、先輩の私服とか超気になります」
そういって雪乃の返事を聞かずに袋を開ける一色。
その動作が素早い。
「ちょ、ちょっと」
慌てる雪乃だが遅い。
一色は服を取り出す。
それはトレーナーとジャージ。
「こ、これはパジャマよ」
恥ずかしいのか、とっさにそう答える雪乃。
珍しく言葉を詰まらせている。
すぐに服を取り返して袋にしまう。
この様子に、隣の比企谷君も驚いているようだ。
いや、一色の様子に驚いているのかもしれないが。
「すいません。つい先走ってしまって・・・。あれ、葉山先輩の隣にあるおしゃれな袋なんですか?」
とっさにその袋をとる一色。
「まて」
そう言おうと思ったが遅かった。
一色は袋をとり、中から僕のトランクスを出す。
僕はすぐに袋を取り返す。
「すみません」
彼女は顔を赤くして謝る。
急にしおらしくなる少女。
先程の勢いが一気に失われる。
「別にいいよ、洗濯済だから」
僕は落ち着いた声でそういう。
だが、一色がふと顔をあける。
「あれ?でもなんで二人ともそんな服持ってるんですか?それに、雪ノ下先輩の袋は葉山先輩がもってそうなもので、葉山先輩がもっている袋は・・・」
僕と雪乃の表情が凍る。
場に緊張が走る。
そんな彼女をみかねたのか、
「悪い、俺もういくわ」
それまで黙っていた比企谷君がその場を後にする。
その光景に慌てる美波。
「ちょ、せんぱ~い、待って下さいよ。あの・・・・すみませんでした」
そういって頭を下げて出ていく二人。
まるで嵐のようだった。
残された僕と雪乃。
「その、あれなんだ・・・・・。一色は良い娘なんだ。決して悪い子じゃないんだ。ちょっと自我が強いだけで・・・」
「そのようね」
雪乃は小さく呟く。
◆◇◆◇
その後、僕たちは何気ない会話をしながらケーキを食べた。
雪乃はどこか落ち着かないようで、始終落ち着きがなかった。
そんな雪乃は珍しく、その姿は僕の心をくすぐった。
彼女の心の揺れが、僕の心をくすぐる。
それが僕のどこか満たされない心を満たしていく。
周りの人々の期待に応えることで、心を満たしてきた僕だけど、今は違った。
この高揚感はなんなのか。
彼女の姿が僕の心を満たしていく。
何故だか分からない。
でも、それは心地よかった。
僕はそれに手を伸ばしていた。
痛!
すると僅かに頭痛がした。
僕はその痛みで平静に戻った。
僕たちはケーキ屋を後にした。
今回も会計時にクーポン券がもらえた。
今回も雪乃の分の会計は僕が払った。
彼女は前回ほど抵抗しなかった。
2回目ということもあるが、今の彼女の精神状態では会計にまで頭が回らなかったのだろう。
驚いた事に、比企谷と一色さんは自分たちの料金を払っていたらしい。
あのドタバタの中払っていたらしい。
僕は比企谷君をまた見直した。
本作と関係ないですが、今日はサッカー観戦行ってきます。
次話は時間通りに投稿しますのでご安心を。
---------------
20150503 誤字脱字修正