やはり、私の青春ラブコメがまちがっているはずがない。 作:夏ノ雪
私の名前は由比ヶ浜結衣。
高校1年生の女子高生。
昨日、ちょっと、その、口ではいいにくいことが起きた。
満員電車の中で、エッチな出来事にあった。
でも、違うの。
痴漢とかじゃなくて、私の事を守ってしてくれたことで。
悪い事じゃないの。
ぜんぜん。
その、そう、悪気があったわけじゃないの。
本当に。
ただの生理反応。
意識したことがないけど、はじめも男の子なんだから、あれぐらい当然。
寧ろ私が悪いの。
上手くごまかせなくて。
そう、私が。
帰り道では変な別れ方になっちゃったけど、はじめ、気にしてないかな。
気まずくでよく顔を見れなかったけど、その、つらそうだった。
とてもつらそうだった。
あんな雰囲気のはじめ、久しぶりに見た。
昔私の家に来て遊んでいた、小さい頃以来だ。
気にしてないかな?
自然と心が沈む。
だめ。
だめ。
私がこんな沈んでたらだめ。
明日からはいつも通り、いつも通り。
はじめにあったら、笑顔でいつも通り挨拶しよ。
笑顔で。
◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日。
3時間目の終わり。
職員室にプリントを提出しにいった帰り道。
廊下で思いがけずはじめとあった。
私の幼馴染のはじめ。
小さい頃はいつも一緒にいたはじめ。
頼りなさそうな見えるけど、私が困っているといつも助けてくれたはじめ。
あれから昨日は寝れず、ついはじめのことを考えてしまった。
私の記憶の中のはじめは幼く、いつも困った顔をしながらいつも私の傍にいた。
時よりみせる笑顔がとてもかわいかった。
私はその笑顔がみたくて、はじめによくちょっかいをかけていた。
「はじめ、おはよう」
私はいつも通り挨拶する。
そう、いつもと同じように。
昨日、なにもなかったような雰囲気で。
だが、私ははじめを凝視してしまう。
幼さは残すが、どこか男を感じさせる雰囲気がある。
私の頭の中のはじめとは違うはじめ。
全体的に幼さが残る顔つきだけど、顎やひたいなど、所々男らしさを感じる。
私の目に映るはじめは昨日とは違った。
小さい頃一緒に遊んでいたはじめではなく、高校生になったはじめ。
なつかしさと新しさを同時に感じ、なにやら心がほっと温かくなる。
「おはよう」
はじめが返事をする。
小さい頃の様に、高い声なのに暗さを感じさせるそれではなく、落ち着いた声。
男を感じさせるその声。
その声で私ははっとする。
数秒間意識がない。
はじめに見惚れていたのだ。
私がはじめに・・・・
その事実に私の心は焦る。
なんで私が。
昨日まで何もなかったのに。
私はとっさに顔が赤くなる。
・・・・・・・・・
学校の喧騒の中、ここにだけ生まれる沈黙。
まるでここの空間だけ切り取られて別の次元に送られたように。
昨日までには生まれなかった沈黙。
何か言わなきゃ。
何か言わなきゃ。
そうじゃないと私、昨日の事を気にしてるみたいじゃん。
昨日の夜、決心したんだし。
いつも通り、いつも通り。
「俺、いそいでるんだ」
私が口を開く前に、はじめが声を出してその場を後にする。
いつものように私を守って。
私は心が沈む。
こんなことじゃだめ。
いつまでもはじめに守ってもらってちゃ。
私はすぐにその後を追う。
はじめは既に角を曲がっていた。
急がなきゃ。
急がなきゃ。
私は走りだす。
心に急かされて走り出す。
だが角を回った先にはじめの姿はもうなかった。
やっちゃった。
また、やっちゃった。
あれだけ昨日心に決めてたのに。
そう沈んでいると、
「こんなところで立ち止まってどうしたの?」
その声は高くどこか威厳を感じさせる私の好きな声。
私の憧れる雪ノ下雪乃の声。
「あ、ゆきのん。別に、なんでもないの」
「そう、それならよかったわ。さっき走っている男子生徒とぶつかりそうになったわ。ここは幼稚園ではなく高校だというのに・・・・あなたも注意した方がいいわよ」
そうしてさっていくゆきのん。
私は彼女の後ろ姿は見送る。
彼女はいつも自信に満ち溢れ、落ちついている。
私にはできないことを常に実践している。
そんなゆきのん姿は、さらに私をみじめにさせた。
だめ。
こんな落ち込んじゃダメ。
ほら笑顔。
笑顔にならなくちゃ。
はやく教室に戻ろ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日、はじめと話す機会がなかった。
だがはじめの姿を見つけるたびに自然と目で追っていた。
つまらなそうに歩くはじめ。
友達と何やら笑い合っているはじめ。
どれも私がみた事がないはじめだった。
あんな風に歩いて、あんな風に笑うんだ。
それのどれもが新鮮だった。
私はいつも通りの日常を送った。
クラスでは仲の良いグループと、放課後はヒッキーやゆきのんと時間を過ごす。
私はひそかにヒッキーに恋心を抱いていた。
彼は無愛想に見えるがとても優しい。
変な事をいう事も多いけど、色々考えてみんなのためになることをしてくれる。
そんな彼の姿に私は憧れを抱いていたのかもしれない。
私はつい人の顔を伺ってもじもじしてしまう。
だけどヒッキーは、そんなこと気にせず、ずばりと言いたい事をいう。
私にはできない。
でも、私の思いはヒッキーに伝えていない。
私はヒッキーに恋心を抱いている。
でも、私が憧れているゆきのんも、ヒッキーに恋心を抱いているような気がする。
それは気がするだけ。
直接聞いたわけじゃない。
そんな怖い事、私にはできない。
私にできるのは人の顔を伺うことぐらい。
私が憧れているゆきのんと、好意を抱いているヒッキー。
もしゆきのんがヒッキーのことを好きなら、私は邪魔ものだ。
彼女より私は劣っている。
彼女に勝てるはずがない。
ヒッキーを幸せにできるのは彼女だ。
私は何もできない。
だから何もしない。
私は今の3人の関係を壊したくない。
そんな後ろ向きな考えが私の行動を縛る。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ある日。
とある光景に目を奪われる。
ゆきのんとはじめが廊下で二人きりで話していた。
その光景は私の心にひんやりしたものを与えた。
まるで冷水が心の中に流し込まれたように。
はじめは恥ずかしそうに笑い、ゆきのんも珍しく表情が柔らかい。
なんで?
なんで二人が一緒にいるの?
なんで?
私の頭の中に同じ疑問が何度も浮かび上がる。
ゆきのんが何やら言い、小袋をはじめに渡す。
はじめはそれをうけとり中を見る。
はじめの表情がさらに柔らかくなる。
私の心はさらに冷たくなる。
何渡しの?
ゆきのん。
はじめの口が開く。
何かいったのであろう。
普段のあまり表情をかえないゆきのんが、ふと頬を緩ませる。
え?
ゆきのんが笑った?
あのゆきのんが。
なんで?
なんで?
そして二人は二言三言会話をしてその場を後にする。
私は暫らく動けなかった。
なんで?
なんで私はこんなショックを受けてるのだろう。
ゆきのんは友達。
はじめは幼馴染。
別に二人が話していても問題ないはずだ。
ゆきのんは友達で、憧れの人。
はじめは幼馴染で、いつも私を守ってくれる人。
私は・・・・・
私は何だろう?
私は・・
その日、私は部活を休んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日。
部室。
部屋の中には、私とゆきのん。
私はそっとゆきのんを見る。
いつも通り、ゆきのんは紅茶を飲みながら読書している。
とても絵になり綺麗だ。
私ならああはならない。
私はタイミングをまっていた。
昨日見た光景の理由をさぐる機会を。
あれから私は家で考えた。
ゆきのんとはじめ、二人に共通するのは私だ。
だから私に関係する何かを話していたのかも。
そうだ、きっとそうだ。
だから数日もすればどちらかが話してくれるかも。
だから私はそれを待っていた。
だが、その機会はこない。
いつも通りゆきのんと何気ない世間話をするけど、その話は出ない。
好きなお菓子や音楽は聞けるのに、昨日の事については聞けない。
はじめのクラスの話をしてみるも、何の反応もない。
そのあまりの何もなさに、わたしは徐々に不安になる。
なんで何もいってくれないの。
その事実は、私にいいようのないしこりを残した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
京都への修学旅行。
学校の一大イベントの一つ。
私は日常を忘れて楽しんだ。
だが、その最後は気持ちいいものではなかった。
ヒッキーが、私が恋心を抱いているヒッキーが、目の前で私の友達に告白した。
そう、目の前で。
それで彼は振られた。
ヒッキーが本気で私の友達に告白したのではないことは分かっている。
彼は、私がクラスで仲良くしている6人の男女グループの関係を壊さないために、わざと告白したのだ。
彼らの内の一人に依頼されて。
私たち全員が依頼されたのに、彼は一人で解決した。
そう、彼は自分を犠牲にして他人を救った。
私たちに頼らず、自分を犠牲にして。
だが、私の心には大きな喪失感があった。
ヒッキーが他の女の子に告白した。
その事実が私の心を強くにぎりしめた。
なんで?
なんで私はこんなに動揺したの?
考えても分からなかったけど、ひどく私は動揺していた。
その際に、ゆきのんは彼に言った。
「あなたのやりかた嫌いだわ」
私もそう思っていた。
だけど私は言えなかった。
本当は私が言いたかったセリフ。
そのセリフを私とヒッキーの前でゆきのんは言った。
そして去った。
その事がさらに私を苦しめる。
あ、ゆきのんもやっぱりヒッキーのことを・・・・
ゆきのんは私とヒッキーの前で思いを口にした。
私は・・・
心がぐちゃぐちゃになりながらも私はヒッキーと歩いた。
そして、
私も思いを口にした。
「こういうのなしね」 「ああいうのやだ」
ゆきのんがいない場所。
二人きりで。
私は卑怯だ。
でも、口に出さずにはいられなかった。
心がぐちゃぐちゃになっていた。
吐き出さずにはいられなった。
私はやっぱり卑怯だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
修学旅行後。
私は沈んでいた。
私はヒッキーの力になれない。
私は友達のゆきのんに隠れて、ヒッキーに思いを口にした卑怯者。
ゆきのんは私より美人だし、頭もいいし、性格もいい。
ゆきのんは、はじめとも仲がよい。
はじめは私をいつも守ってくれた。
でも、ゆきのんははじめとも仲が良い。
私は何もない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
笑顔でいつものように日常を送りながらも、私は混乱していた。
そして、知らず知らず、追いすがるようにはじめの姿を目で追っていた。
彼の一挙一動を目に焼き付けていた。
彼と他の女子が話していると心が痛んだ。
なんでこんなに痛いのか。
分からない。
私はヒッキーが好きなはず。
なんではじめに・・・・・
誤字脱字修正しました