まだ琉伽が右眼を失う前に遡る。
ある日、切比古は同じクラスの少年たちに暴行を受けて傷だらけになっていた。「奇妙な人間てのは迫害される」とはよく言ったもので、少年たちははみ出し者の切比古を叩き潰したい衝動に駆られていた。きっかけは切比古がブラジャーをつけていることを彼らが知った事である。
今ではメタボな男性をターゲットにした男性用ブラジャーと言うのも珍しくはないのだが、頭の弱い彼らはそのようなグッズなど知らない。まして切比古が実は女だということすら知らないのだから当然であろうか。家のしきたりで男装をしている切比古の事を女子生徒や学校の大人は了承しているのだが、餓鬼はそれを知らない。
妙に女子と仲が良く、狂犬として知られている狗星琉伽の腰ぎんちゃくをしている軟弱者と彼、いや彼女を侮っている。
切比古も式神術を使えば彼らを一蹴するのも容易いとはいえ、力を振りかざして問題を起こしたくないのでそれを封じる。結果として多勢に無勢で殴られた切比古の頬には青痣が出来ていた。
「誰にやられた?」
痛みで力が入らない切比古は呆然と空を見つめる。そんな彼の姿を見つけた琉伽が駆けつけた。実は切比古が男子に絡まれていると女生徒に聞いていた琉伽は内心では慌てていたが、主人として軟弱な姿はさらせないと気丈に振る舞っていた。
「案内しろ。全員半殺し決定だ!」
怒る琉伽は少年たちの事を探しだす。そして有無を言わさぬままに力一杯殴りつける。琉伽の喧嘩の腕は知っているため見つかった時点で少年たちは逃げるより他にはないのだが、足腰がたたず逃げられない。琉伽の力によって体を拘束されており棒立ちにならざるをえない。
「オメーら全員、アイツが受けた苦しみを十倍にして返してやる!」
少年たちは全員頬骨が砕けるほどであり、流石にやり過ぎたかと琉伽は冷や汗をかく。幸いなことに通りかかった朝葉院に応急処置をしてもらったことで大事には至らなかったが、きつく叱られたことでカッとなって暴れた自分を反省した。
ついでに切比古の怪我も治してもらったため、帰り道にはもうきれいな顔に戻っていた。治療の影響なのか肌はつやつやしていてなんだか妙な胸の高鳴りをおぼえる。
「なあ……前から気になっていたンだが、なンで切比古は男の格好をしているんだ?」
帰り道、二人で並んで歩く途中で琉伽はふと切り出す。少しだけ口ごもんでいたが切比古は気付いていない様子でホッと息をつく琉伽の胸はドキドキと高鳴っていた。今まで切比古を女として見ていなかった。部下であり、従者であり、親友として見ていた。だがふとしたきっかけで一度雌として認識してしまうと気持ちが止まらなくなる。
元より男でも女でも構わないくらいに切比古には気を許している。まして普段は男として振る舞っていても正体は女なのだから生物的な枷もない。琉伽とて思春期真っ只中の男子である。緊張して股間まで張り詰めてしまう。
「比良坂家のしきたりです。それに僕は琉伽さんの片腕になることを期待されていましたから、余計にそれらしい恰好をしろって言われて」
「別に女の格好でもいいじゃねぇか。ダメなのか?」
「僕に求められた役割は侍女じゃなくて執事なんです。だから男じゃないといけないんです」
「そういうモンなのか」
琉伽はその些細な違いを理解しきれないものの、そういうしきたりである以上は気軽に逆らえないのだろうと納得させて飲み込む。自分だって狗星家次期党首として父から色々と束縛されて生きている。切比古に課せられた束縛の一つがこの男装なのだろう。
偶には女の子らしい恰好をした切比古の姿も見たいが、他の男たちが切比古を女として見ないのは逆に独占欲を刺激して心地よい。切比古の事だから命じれば女の格好もしてくれるだろうが、無理強いをして内心嫌われたりするのはつらいと気弱になる。
「幸い僕は胸も全然ないですから、隠さなくてもバレませんし。そりゃあ可愛い服も来てみたいですけれど、似合わないだろうからコレで充分なんです」
「胸なんて気にしなくていいンじゃねぇか? 少なくとも俺は気にしねぇぜ」
さりげなく、琉伽は今のままの切比古でいいという思いを込めて言葉を返す。勢いで口走ったが内心ではドキドキしっぱなしでいつトチ狂ったことを言わないか気が気でない。不器用すぎる受け答えに切比古は琉伽の真意に至らないが、至れば相思相愛なので一線を超えかねない。
二人は微妙な空気のまま家路についた。
就寝前、二人は各々自室で今日の事を思い出していた。
琉伽はあの時のときめきを思い出して布団の中で丸くなって悶える。一度女として意識してしまったからにはもうまともに彼女を見れない。思春期男子にこの欲望は抗えない。
切比古もまた琉伽の言葉を思い出していた。胸なんてなくても気にならないという彼の言葉に嬉しくなり抱き枕に抱き付いてバタバタとベッドの上で転がる。普段は気にしないようにしていたが、他の女子たちと比べて明らかに発育の悪い胸の事は気にしていた。それを大好きな琉伽が気にしないと言ってくれたことがとてもうれしかった。
翌日、二人は学校で一度も顔を合せなかった。琉伽はどんな顔をして彼女の前に立てばいいかわからなかった。恋人らしい行動と言うのにはいろいろと憧れをもっているが、無理強いをさせたら嫌がるだろうなとガラにもなく弱気になる。
帰り道に買い食いでもしていこうと立ち寄ったコンビニを出たところで二人はついに鉢合わせした。
「き……切比古……」
「今日は学校では見かけませんでしたが、どうしましたか?」
「なンでもねぇよ」
琉伽は聞かれて誤魔化すが、何でもなくなんてない。昨日から意識しすぎているからこそ、どんな顔をすればいいかわからなかった。肌を合わせてあんなことやこんなことがしたいとグルグルと脳内に妄想が浮かんでいく。それを表情から隠そうとして顔つきは険しくなる。
合流して並んで歩く二人の口数は少ない。切比古はふと琉伽をある場所に誘う。
「ちょっと寄り道していきましょうよ」
「いいぜ」
二人は人気が少ない河川敷に移動した。川沿いには夏草が生い茂っており、その中に紛れれば外からは誰も見えない、まるで天然自然のラブホテルのような空間がある。地元に古くから伝わる学生向けの恋愛成就のデートスポットとして、井戸端のネットワークでは知られたスポットであり切比古がここに来たのもそのためである。
天然のラブホテルについてはそれを目的に訪れたわけではないのだが、風を浴びながら歩く切比古はうっかり足を滑らしてその中に落ちてしまう。
「う、うわあ!」
「切比古!」
慌てて手を掴んだ琉伽も同時に生い茂る夏草の迷宮に落ちた。幸い夏草がクッションになって怪我はないが、琉伽は切比古を押し倒す形になってしまう。馬乗りになって両手を地面に押し付けて身動きを防いでいる。
「大丈夫か?」
「平気です。ちょうど草がクッションになったみたいで」
切比古の安全を確認して安心した琉伽だが、自分が彼女を押さえつけていることには気が付いていない。
「ところで……これじゃあ動けませんよ」
琉伽は言われて切比古を抑えていたことに気が付く。慌てて手を退けようとしたが、切比古は彼の右手を掴む。何故と頭の中で琉伽は叫ぶ。
「でも僕は……もっとアナタに縛られたいです。僕を抱いてくれませんか?」
切比古は不器用ながら、やや遠回しながら、告白の言葉を述べた。切比古はこう見えて機会さえあれば琉伽と恋仲になりたいという淡い思いを持ち続けていた。古い賢人に学ぶこのデートスポットの支援は切比古に勇気を与えた。
一方で、切比古が自ら懇願したことで琉伽の中にある理性の糸が切れた。
「抱くって言われても……このまま襲っちまうかもしれねぇぞ」
「構いません」
「き、キスしたりしてもいいンか? 舌だって入れるぞ?」
「望むところです」
「オメーの中にちんこを入れちまうけれどいいンか? 俺だって初めてだから、うまく出来るか知らねぇぞ」
「らしくないですよ。いつもみたいにもっと強引に、僕の事をめちゃくちゃにしてください」
突然の展開にテンパる琉伽だが、まるで夢のようになんでも好きにしろと言い放つ切比古に琉伽は夢中になる。間近で嗅ぐ切比古の匂いは甘酸っぱい。男のモノとは雲泥の差を持つメスの匂いである。もう理性の糸は切れた。青春の果てに行きつくのは当然、青臭い性欲のるつぼである。
「舌ぁ入れンぞ」
琉伽は切比古と初めてのキスをした。初めてながら舌を入れてみるが、ぎこちない動きで様にならない。だが初めての二人はコレでも充分である。軽く重ねるだけで互いに性器を蜜で濡らす。
琉伽の股間は服の下で張り詰めて固くなる。股間のテントが切比古のズボンに触れて擦れ、その刺激が琉伽を悶えさせる。
「……脱ぎましょう」
「そうだな」
二人は互いにズボンを脱いで性器を晒した。初めての交尾に興奮した琉伽の一物は黒光りして固くなる。切比古の膣もわずかな時間に濡れて潤い、いつでも琉伽を出迎える準備をしている。
「入れちまうぞ。いいンだな?」
「いいに決まっているじゃないですか」
「い、いくぜ」
初めてなので手探りで琉伽は肉棒を押し付ける。開いた陰唇のくぼみに押し当てて、強引に性器を当てる。入れていないのだが気分はもう入れたも同然であり亀頭は刺激に震える。
「ここですよ」
切比古は上手に挿入できない琉伽の竿を導いて膣穴に亀頭を誘った。後は腰を深く落とし真っ直ぐ前を突くだけである。
「はぁ……はぁ……」
二人は息を荒くした。そして無言のまま琉伽は腰で切比古を突く。
この時、琉伽は生まれて初めて女の中に肉棒を入れた。童貞卒業の瞬間である。初めてのセックス、しかも相手は切比古とあって琉伽の心臓はもうドキドキが止まらない。入れただけで我慢できないのも仕方がないのだろうか。
「う!」
琉伽は三擦り半どころかたったの一突きでたまっていた精液を吐き出した。当然性知識に疎い二人はゴムなんて使わない。大量の白濁液が早速切比古の膣内に注がれていく。あまりに早い射精に琉伽は恥ずかしくなってしまうほどである。
年相応に赤面する琉伽の表情に切比古は乙女心を刺激される。普段から訓戒で自傷しているせいか思いのほか処女喪失の痛みは感じない。膣内で破瓜の血と精液が混じりあい赤と白のカクテルになる。琉伽の熱さで満たされて、切比古は溢れんばかりの快感を涎を流して表現した。
「もう出ちまった。情けなくてスマン」
「いいですよ、これくらい。僕が望んだことですし」
「まだまだ収まらなねぇ……続けるぜ」
「もっと……もっと……琉伽さんを僕に」
興奮冷めやらぬとはよく言ったもので、二人の世界に入っており周りなど気にせず交尾を続ける。天然のラブホテルは二人が上げる声までもは遮れないが、夏草の迷宮が二人の居場所を覆い隠す。この場には邪魔者なんていない。
初めて同士の交尾は単純な正常位である。保健体育の授業で習う教科書に乗った体位であるが、これくらいしか思い至らない。体は充分に性行為に耐えるほどであってもまだまだ子供である。子供らしく後先など考えず、避妊なんてお構いなしに互いを求め合う。
気持ちのよさに自然と切比古の脚は琉伽の足腰に絡みつき、容易に引き抜いて外に射精させないようにしている。琉伽も膣内射精以外は考えていないのでお構いなしだが、絡みつく御脚の細く柔らかな感触は触れ合う琉伽の背中を刺激して果てるまでの刻を加速させる。
性欲を暴走させる初体験ボゥイに違いを感じ取れと言うのは難しい話であり、ただ琉伽は切比古の膣内を熱くて、肉棒を包み込んで、トロトロのカクテルで肉棒をゆで上げているように感じていた。言葉にうまく言い表せないが妄想やエロ本などでは到底及びつかないほど気持ちが良く、高鳴る心臓の動きは息も苦しくさせるほどになる。
実のところ昨晩の琉伽は切比古の雌の体を想像して自慰に耽っており、その時も生まれて初めてというくらい大量の射精をしていた。だがいま眼前にいる本物の切比古はどうだろうか。情けなく果てた一回目の射精でさえも昨晩より多いかもしれない。それでもまだムラムラは止まらない。
「琉伽さん……」
か細い声で切比古は名を呼ぶ。涎と涙を垂らしているのは快感を感じていることの証明のようで、俺の拙い攻めでこれだけ彼女が感じているんだと思うと余計に体に血が巡る。興奮しすぎて血管が切れて鼻血が出そうになる。
一度射精をしているせいか二度目は我慢が効いており、二人は気持ちよさのあまり心は天の昇っていく。
「イク! 何処かに言ってしまいそうです!」
「イクなら俺の所に来い!」
「あぁ!」
「俺も出るぜ!」
天の頂きに届いた切比古はついに果てた。痙攣してブルブルと身悶えする動きは琉伽を刺激し、琉伽の方も二度目の射精に導く。二人の精液は膣内で混じりあい、誓の儀式となる。
果てた末に目を覚ました頃には既に日が落ちていた。こんな恰好では家にも帰れないとあたふたしたが、うまい具合に市民プールに駆け込み、体だけを清めて出て行った。
切比古の膣からは琉伽が注いだ大量のいのちの精があふれていたが、移動の間、それらは丸めたティッシュで膣穴を防いで漏れるのを防いだ。もし誰かに見つかっていたら一大事になっていたが、二人は幸運だった。神も祝福しているのだろうか。
「勢いでやっちまったが……俺達恋人ってやつでいいンだよな?」
「はい。部下で、従者で、親友で……そして恋人です。不遜ながら僕はずっとこうなりたいと思っていましたよ」
「そうなンか? 鈍くて悪いな」
「身分もわきまえずに思っていたのは僕の勝手なんですし、むしろ琉伽さんが僕を女として見てくれてうれしいのは僕の方です」
「俺も……正直言うとオメーを女として意識したのはつい最近なンだよ。でも一度意識したらなンだか止まらねぇし、無理に抱いたらオメーに嫌われると思ってガラにもなく弱気になっちまったよ。だからオメーから言ってくれて助かったぜ」
「琉伽さん……」
「だからこれは俺に言わせてくれ。切比古、付き合ってくれ」
「はい、喜んで」
こうして恋人同士となった二人だが、今はまだ周囲に気付かれたくないと思い、男女として会う時はコソコソとしていた。大人に隠れて何度か体も求め合った。二人の関係に気付く大人も何人かいたが、若者が青春を謳歌するのに横槍はいらないとあえて黙って見守っていた。そんな状態で甘酸っぱい日々を送っていたある日の事、琉伽は開斗との交流試合に敗れ、そして右眼を失った。
「無様なままじゃ、先には進めねぇンだよ。だから切比古、俺が納得いくまでオメーも我慢して待っててくれ」
琉伽は打倒皇開斗の為に疼く右眼に思いを乗せた。その中にはやっと気持ちを通じ合った切比古への男女の念も含まれていた。情けないままの俺では切比古を女として迎える資格なんてない。だからそれまでは切比古は恋人としては見ないし扱わない。そういう辛い枷を自らに課し開斗を超えることを心に誓った。
あの日から琉伽は切比古を見ない。再び残った左眼で切比古を女として見る日が来るのはいつになるか。もうすぐなのだがこの時の二人にはまだ知る由もなかった。
女切比古その②