「俺は、お前を見捨てない」
あの日、司令官との行為中に聞いた言葉だ。何度も頭の中で繰り返し呟く。一緒にいる。それだけで自分の中の何がが救われたような気がして、なんでも出来るような気がして、そして夢は醒めた。目を開ければ何時もの布団の中、直ぐ隣に司令官がいて、いつもの目覚め
ではなく
「…………ぁぁぁぁぁ……司令官…………」
少女の叫びを聞くものは、いない。
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「……うーちゃん、連れていかれるっぴょん?」
始まりは一週間前、この鎮守府に届いた一通の指令書だった。駆逐艦なのに魚雷が扱えない。その事に関する情報を調べあげた結果、今までいない特異な例だったようだ。本来、艦娘は見た目以外でも名前で艦種を識別している。吹雪という駆逐艦がいても睦月という軽巡洋艦がいないという理論だ。だが卯月の場合に限ってはそれが当てはまらなかったらしい。検査の結果卯月に適合した艤装は
「……うーちゃん、出来るなら……いや、ずっと司令官の所にいたいっぴょん」
卯月は向こうに行くことに反対のようだ。自分も今回の手紙は何処か信頼性にかけている部分があると思っている。なら卯月を引き渡せという指令は無視すべきなのか。
「…………休憩だ」
これ以上は視野を狭めることになりかねない。向こうがどういった対応をするかも見極めなければならない。そう思い一旦休憩を入れることにした。
「なら、うーちゃんお茶をとってくるっぴょん!」
卯月がドアを開けて食堂に走っていく。その姿を見て内心ホッと息を吐く。着任当時のあの全てに絶望していた目はここ最近でなりを潜めてきた。その代わり、自分への依存度が高まった気がするが。まあ女の子にあんな顔をさせたままでは、お互いに気分も悪いだろうし何より楽しくない。だからこそ最近卯月の見せる笑顔には癒されていた。そして卯月が来るまでにある程度書類を終わらせようとして
小さな、陶器の割れる音が聞こえてきた。
思わずその場から立ち上がる。うちにある陶器など卯月とお揃いと言って買ったカップくらいだ。単にそれが割れただけならまだしも耳をよく澄ませると悲鳴のような物が聞こえてくる。何処かで聞いたことのある少女の悲鳴が。手に持っていた書類を投げ出すようにドアまで走り、蹴破るようにして外に出る。と、そこで誰かとぶつかりそうになった。卯月かと思ったが、それにしては身長が高い。自分より低いとはいえ駆逐艦の子達のような背丈ではない。それにまず相手は男だ。自分と同じような服装からして何処かの鎮守府の提督なのだろう。向こうは見ていて不快感を与えるようなニヤついた顔で言ってきた。
「さっき向こうにいた子が異例艦かなぁ?」
「……だったらどうした」
「いけないねぇ。僕たちはあの艦娘を大本営に連れてこいって言ったのにそれを無視するなんてさぁ!」
「……それよりも、貴様は誰だ」
「僕は少なくとも君なんかよりは階級が上なんだけどねぇ?見えないかいこの階級章が!」
肩や胸についている飾りのような物をガシャガシャと揺らして耳障りな音を立てる。不快だ、こいつと喋っている間にも卯月に何があるかわからない。そう思い男の横を通り抜けようとすると、男がずれて道を塞いでくる。
「……なんの真似だ?」
「君こそ何をしているかわかっているのかねぇ?君は僕たちの言うことを聞いていればいいんだよ!さっさとあの艦娘を引き渡してもらおうか。まあ既に他の奴らが既に確保してる頃だと思うけどねぇ」
もう我慢出来ない。目の前の男を突き飛ばすように脇に退かせると卯月のいるであろう食堂に走って行こうとして、転んだ。立ち上がろうとするも足に全く力が入らず、それどころか体全体が麻痺したように感覚がなくなり力が入らない。
「お前……僕を突き飛ばしたな。どうなるか分かってるのか!お前は死刑だ!即刻大本営で処刑する!……ざまあないな、それに良かったじゃないか。あの艦娘の側で死ねるんだぞ?」
手に銃のようなものを持った男が近づいてくる。恐らくだが、持っている銃に麻酔のようなものがあったのだろう。そんな物まで持って来ているということは自分が抵抗した時のことも含めて無理矢理でも卯月を連れて行くつもりなのだろう。阻止したいが体が動かない。どれだけ強い麻酔なのか、指先一本すら満足に動かない。首を緩慢な動きで男のほうに向ける。それだけで全ての力を使い果たしそうだった。
「……ふん、でかい図体して中身は空っぽみたいだな。じゃああばよ」
懐から取り出した二本目の銃を撃ってきた。それと同時に強烈な睡魔が襲ってくる。必死に抵抗したが既に麻酔のおかげで脳も半分うまく動いてない状態だ。抵抗虚しく意識は落ちてしまった。
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目を覚ますと檻の中。思い出すのは連れて来られてから行われた実験の数々。初めのうちはまだまだ温かった。壊れ物を扱うかのように慎重に扱われていたのを思い出す。その時はまだどのように私を扱えばいいのか分からず、思うようにいかなかったのだろう。だけど実験が進み一定の数値が出た辺りから容赦は無くなった。実験が上手く行かなければ暴行を受け、食事を抜かれ、あまつさえ性欲の捌け口にされることもあった。貴重なサンプルのようだが私も一応艦娘だ。入渠すればどんなに酷い傷も時間をかければ治ってしまう。高速修復材を使えばあっという間だ。故に傷つけないようと言う概念はない。むしろいくら傷つけても直ると思われているらしくここ最近に至っては何もしていなくても何かされる始末だった。
「………………しれ……か…………」
うわ言のように呟く言葉。地獄の底よりも酷い場所から救い上げてくれた人。この世で唯一の居場所。あの人は今どうしているのだろうか。過去の司令官達のように厄介者がいなくなって喜んでいるのだろうか。私のことなど既に忘れているのだろうか。もう顔も曖昧になってしまった。実験の数々で身も心も、記憶さえもボロボロになりいつ死んでもおかしくはない。けど死ぬことはないだろう。私は艦娘だから。死ぬことさえ出来ない哀れな少女だ。
「おぉう!どうだ、調子の方は!」
また来た。この研究施設の所長と呼ばれている男だ。私がここに捕らえられてから毎日のように来ていた。その理由は
「ほらどうした。さっさと奉仕しろよ出来損ない」
こうやって私に性処理をさせる為だ。抵抗の意味で何もせずに睨んでいた時期もあった。だがその度に殴られ、蹴られ、無理矢理犯される。そのまま入渠し、時にはそれが何度も繰り返された。そうして少しずつ私の中から抵抗心を削ぎ落としていった。事実、今の私も諦観の表情で男の
「おらぁ、全部吸い取ってくれよ。残さず掃除するようにな!」
言う通りにしなければ殴って従わせる為、もう抵抗も無駄と判断し緩慢な動きで残り汁を吸い上げる。この時吸い取った精液は飲み込まない。男の趣味なのか、ちゃんと全て取ったことを男に見せて報告しなければならない。
「…………あっ」
「よぅし、いいぞ!飲み込め!」
いつまでこの地獄が続くのか。そんな諦めにも似た何かが心を支配する。どうせ地獄なら全て諦めてしまえばいい。頭の何処かで囁く声が聞こえる。それは駄目だと返すも、理由がない。唯一の理由だった司令官の顔すら薄れてきた自分に何の価値があるのか。助けなど来ない。だったらもうここで終わりにするのもいいのかもしれない。
「どうした?さっさと飲み干せ!次が待っているんだからな!」
いつまでもそのままだった私を怒鳴りつけて男は催促した。上が済んだら今度は下なのだろう。もはや救いなどない。
「はははははっ!いい顔じゃないかぁ!このまま俺の女として育ててやるよ!」
「……
男の側頭部に赤が映った。反対側からなにか黒い物が勢いよく飛び出し、壁に当たって耳障りな音を奏でる。男は動かない。いや、少しずつ体を後ろに倒していた。そのまま倒れると血だまりを作りながら沈黙した。
「……迎えに来た」
ゆっくりとそっちに顔を向ける。開いた扉の逆光で姿はよく見えないがそれでも分かる。異様に大きい背丈、ゴツゴツした手脚、恐らく仏頂面で固定されているであろう表情。全てが懐かしく思えた。
「……済まない、待たせた」
「…………しれえかん!」
まだ私の世界にも一筋の希望が残されていた。