※この作品はR-18です。

ハツジョウウサギ   作:粉プリン

5 / 5
ススマミレと模範解答

「…………」

 

「……?」

 

お互いに一言も発さない状況が続く。何か言おうとしても舌が固定されたかのように動かない。そもそもこの状況で何を語れと言うのだ。目の前にはかつて自分に侮蔑の視線を向けた唯一の(・・・)姉妹艦。こうしている間にも司令官が死に瀕している。前も後ろも塞がれ進退行き詰まった状態。この状況から脱することなどできると言うのか。

 

「……卯月」

 

「っ!」

 

「……どうしたの?」

 

「……な、なんでもない……です」

 

「……なんか、怒らせちゃった?」

 

「ち、違うの!怒ってないよ!た、ただ……」

 

「…………」

 

また、沈黙。せっかく弥生から話しかけてきたというのに会話のタネを潰し、あまつさえ弥生に気を使わせてしまった。既に自分の中には後悔と自己嫌悪の感情しか残っていない。弥生のことも見れず、視界を伏せていると

 

「……来て」

 

「えっ……」

 

弥生に手を掴まれ、そのまま連れて行かれた。走る弥生について行こうともつれそうになる脚を必死に動かしなんとかついていく。そうしてたどり着いたのは鎮守府のすぐ目の前にある埠頭だった。

 

「……座って」

 

淵に腰掛け脚をプラプラさせている弥生に促され、隣に座る。先程と違うのは座った自分の左手を弥生の右手が軽く握っているため、逃げることができない。逃げるという考えが浮かぶ時点で自分が弥生にどんな感情を抱いているのか分かるものだ。おそらく、いや、自分は姉妹艦の弥生に恐怖を抱いていた。

 

 

「……まず、わたしは怒ってないから」

 

「う、うん……」

 

「卯月も、怒ってない?」

 

「怒ってない……」

 

「……じゃあ、何に怯えてるの?」

 

「……っ!」

 

「……今の卯月は何かに……ううん、わたしに怯えてるように感じる」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「……平気、最初に言った。怒ってないって」

 

「うん……」

 

「……話せる?」

 

話しても良いのだろうか。過去に侮蔑の視線を向けられたからなどという話を信じてもらえるのだろうか。いや、それ以前に自分の姉妹艦がそのようなことをしていたと本人に自分は言えるのか。そんな勇気はないし、覚悟もない。過去ばかり見つめて未来どころか現実からすらも目を背けるわたしに、今を見据えるこの姉妹艦に話す権利はあるのか。でも

 

「…………あ、あの……」

 

「…………」

 

「…………魚雷」

 

「えっ?」

 

「……魚雷を、撃てなかったら……どう思う」

 

「……それは、もしもわたしがってこと?それとも卯月が?」

 

「……わたし」

 

「そう…………」

 

言ってしまった。軽蔑されるのだろうか、蔑まれるのだろうか、侮蔑されるのだろうか。少しだけ収まった頭の混乱がフィードバックし、また平衡感覚が薄れていくような感覚に陥る。前後も分からず、思考が先走った状態で混乱していると

 

「……撃てなくても、いいんじゃないかな……?」

 

「……えっ?」

 

「……魚雷が撃てないってことは、何か別のことが出来るんだと、私は思う」

 

「別のこと……」

 

「うん……艦娘にとって、艤装は魂みたいな物だから。なら自分の魂が自分に不釣り合いな物を渡すわけないと思う。……撃てないってことは撃つ以外のことが出来るってこと……じゃないかな?」

 

偉そうにしてごめん、と弥生が謝った。違う、謝るのは弥生じゃない。謝るのは自分だ。けれどなんでこの口は動かないんだろうか。どうしてこの目からは涙が溢れるんだろうか。

 

「……もしかしたら、何か酷いことを言われたのかもしれないけど。弥生は……ううん、私は大丈夫。軽蔑したりなんかしないから」

 

「…………」

 

「……だから、今は泣いても、平気だから」

 

弥生が優しく抱きしめてくれた。自分とはちょっと違うふんわりとした匂いに包まれて涙が一層溢れる。

 

「……ごめんね」

 

「……弥生は、悪く、ないから」

 

「……でも、ごめん」

 

「……どうして、そんなに、謝るっ、ぴょん」

 

 

「……弥生は……卯月の、お姉ちゃんだから」

 

 

「…………ぅぇぇええええん…………」

 

駄目だった。必死に堪えようとしたが後から後から涙が止まらない。身体中の水分を出しちゃうんじゃないかと思うくらいに弥生の胸の中で泣きじゃくった。初めて理解してもらえた、否、初めて打ち明けられた。そうだ、自分は今まで誰にも相談してこなかった。魚雷が撃てないことに絶望し、誰にも相談出来ず、それがバレて軽蔑され、勝手に自滅した。何度か言ってみたことはあったがそれも最初のうちだけ。初めて向けられた視線に耐えられず以降は黙ったままの人形だった。それが初めて受け入れてもらえた。司令官とはまた別の受け入れ方をしてもらえた。それだけで自分の居場所がここに出来たような気になった。

 

「……辛かったね」

 

「……うん」

 

「……わたしは、ちゃんと認める。卯月が卯月(駆逐艦)だってこと」

 

「…うん」

 

「……だから、司令官のところに行こう。心配してる」

 

「あ、司令官が……」

 

「……?何かあったの?」

 

「……今、手術室に」

 

「……穏やかじゃない、とりあえずみってみよう。道中で色々聞かせて」

 

「わかったっぴょん!」

 

そうだ、こんなところで悩んでる場合じゃない、頑張らないと。前をちゃんと見ないと司令官に笑われちゃう。もう卯月は笑われたくない。足手纏いじゃない、ちゃんとした駆逐艦だと認められたいから。だから、もう過去は振り返らない。




正直シリアスでもいいんだけど、早く弥生卯月と司令官でぴょんぴょんさせたいなぁ。卯月はラブラブさせて、弥生はああ見えてMなんじゃないかと妄想中。まあ作者の更新速度じゃああと何ヶ月かかるか知らないけれど(白目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。