A-1:不快な舌先
壁に付着する鮮血を舐め落とす仕事。
当時六歳だったイリアは四歳の時から、来る日も来る日も壁に飛び散る先程まで友達の中を巡っていた血液を舐め続けてきた。
イリアたちの間で“舞台"と称される窓のない閉鎖的な部屋。天井から直にぶら下がる裸の電球だけが照らす薄暗い部屋。そこがイリアの仕事場である。
剥き出しのコンクリートに飛び散った血液をイリアたちが舐め取るのが普段の仕事内容だが、その日の演目によってはコンクリートに臓物が付着している日も存在する。普段の仕事に慣れ切っているイリアであっても、その日の仕事だけはいつになっても慣れることはない。
だって変な味がするから。それがその日を嫌うイリアの理由だった。
「イリアは血が好きか?」
ある時。イリアたちから監督と呼ばれる左の目蓋が上下で縫い付けられている男が、いつも通りに仕事をこなすイリアへ声を掛けてきた。
左目の瞼が上下で縫い付けられている監督と呼ばれる男は、いつものように壁を舐めているイリアに問う。
うん。満面の笑みを浮かべて頷くイリア。
「それじゃ、次からは床の方もお願いできるかな?」
監督はイリアの小さな頭を撫でながら優しい口調で告げる。常に血生臭い舞台の中にあっても、監督の手から漂ってくる匂いは特に強烈に感じられる。
やります。強烈な死の匂いで吐きそうになるのを必死に堪えてイリアは答える。
「ご褒美をあげなくちゃならないな」
従順な態度のイリアに気を良くした監督は、下卑た笑みを浮かべ、履いているズボンを下ろす。
露わになった監督の下半身。その中でも、イリアの視線は股から生える異様な突起物に集中する。黒く縮れた毛の塊の中から飛び出ている棒状のそれは、青白い血管が脈打ちながら浮き出ており、見れば見る程にグロテスクな印象をイリアに与える。
「さぁイリア、壁を舐めるようにしてコレも舐めなさい」
イリアは監督に促されるまま、突き出されたグロテスクな突起物を、恐る恐る舌先で触れる。舌先が触れた瞬間、その棒は勢い良く跳ね上がった。
「ごめんなさいっ」
悪い事をしてしまった。そう思ったイリアは、目に涙を浮かべながら床に顔を伏せる。
「謝らなくても良いんだよ、イリア。今のは舐められた棒が喜んで跳ね上がっただけなんだよ」
楽しそうに笑う監督の姿を見たイリアはホッと胸を撫で下ろす。
もっと喜ばせてあげなきゃいけない。自分でも訳のわからない使命感に駆られ、イリアは無我夢中で監督の陰部を舐め続けた。