とある提督が鎮守府に着任しますた 作:へんたいかがくしゃ
海風に運ばれてくる潮の香りを感じながら、制服に身を包んだ自分は、目の前の男に付いて行く。
そのうち、見えてきたのは少し古めかしい、巨大な建物で。
「……は?ここっすか?」
思わず面喰らい、聞いてしまったら。
「そう、君の新しい別荘、加えて人類の最終防衛ラインとなる島だ」
一人で住むにはデカすぎるその島で、端的に告げられる。
確かにそう説明されても、実感が湧かないのは当然だと思う。
というか、本当に俺は提督になれたのだろうか。
ハーレムが作れるとかどうとかいう話につられたわけではない気がするし。
人類を守るとかいう崇高な目的があるワケでもない。
……単純に職に困っただけだが。
まあある程度は適当にやるだけだ……。
「いやしかし、まさか『あの』神矢さんに会えるとは……この業界も捨てたものではないですね……」
「ハハハ……過去の栄光でしかないですよ、あまり苛めないでください」
しかし、あの、と言われるのはいつ振りだろうか。
もうすでに自分は忘れられた存在だと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
いや、出来れば忘れられて欲しいのだが。
「あ、ちなみにここ、出るって噂ですよ」
「……何すかそれ?霊的なアレっすか?」
「まあ、そうらしいよ……あ、これ鍵ね」
チャリン。という、金属が擦れあう小気味の良い音が掌から聞こえる。
既に入る気が失せているが、行くしかないだろう。
試しにドアノブを回してみる。手応えからして、鍵は掛かっている。
早速、貰った鍵を使おうとしてみても、どの鍵か解らない……。
一つ目、失敗。二つ目、失敗。三つ目……明らかに違う。
四つ目……開かない。そろそろ成功してほしい五つ目……開いた。
変な達成感とともにドアを開けてみれば、中は玄関のようになっていた。
提督室までの道のりは意外と手狭で、作戦会議に使えるであろう空き部屋、様々な調度品が整えられていた。
申請すれば、他にも様々な家具を取りそろえられるだろうが、今のところはしがない男が一人居るだけだし、食糧に困ることもないだろう。
しかし、先ほどの話が気にならない訳ではない。
とりあえず、提督室で資料の整理をしたいところだが、好奇心が駆り立てられる。
男と言うのは単純な生き物なのだ。そうやって正当化でもしなければ何もできない立場というのも、面倒なものだが。
「さて、探すとしますか」
鍵を片手に、荷物を置いてから提督室を後にする。
しかし、手入れが行き届いているのが窺える。
誰かが住んでいるのではないか、と疑うくらいにだ。
鍵は掛かっていたが、内側から掛けられるようだったし。
もしかすると、霊の正体と言うのはブリーフィングで聞いた、艦娘という少女達の誰かなのかも知れない。
自分でもどうしようもないと思うが、そんな薄く、淡い期待だけでも行動するための原動力になってしまうのだから、男とは本当に単純なのだろう。
試しに、艦艇を製造していたのであろう工廠へと出向く。
ハッチは閉まっており、電気も点いていないために暗い。
少し寒気がするのは、海水が少しずつ蒸発しているせいだろう。
次いで向かったのは入渠用の大浴場。
出来れば艦娘とご一緒したいところだが、怖い顔をした憲兵さんと監獄でご一緒する破目になるのは避けたい。
見回りをするついでに部屋の間取りを覚えるというのは楽だ。
まあ、件の霊とは会えそうにないが。
次に向かったのは島の中央にある兵舎だ。
大浴場は兵舎と巨大な執務室を挟んだ部分にあり、帝国時代らしく、『宮間』と書かれた和風のカフェテリアのような物も、近くに見受けられた。
元は海軍基地か防空壕だったものを改良したのか、ご丁寧なことに、広い地下通路まで完備していることには驚いた。
そんな発見はさて置き、兵舎の管理室の扉のノブを回してみれば。
―――開いてる?
不可解なことこの上ない。
ここは一応のところ、絶海の孤島だ。
本国から少し東南に位置している、世界地図には明記されていない島で。
ここへ来るにはある程度の能力が必要不可欠になる。
そんな島に、そもそも霊がいるはずもない。
「―――誰かいるのか?」
扉を開け、中を注意深く確認する。
廊下は日が差し込んでいて明るいが、昼間からは日差しが差し込まなくなるだろう。
試しに正面玄関から入ってみようとしても、電源を入れてないのか、自動ドアは微動だにもしなかったが。
玄関には、置いてけぼりにされたような靴が一足だけ、綺麗に揃えてあった。
後はもう、その持ち主を探すために兵舎をくまなく探索する。
部屋の鍵が管理してある管理人室に置かれていない鍵は……一階の22号室。
走る。
自分の持てる全力を振り絞って。
居ても立っても居られないとはこのことだろうか。
それとも単純に、何かを期待していたのだろうか。
でも実際、出会いというのは唐突なクセに、必然でもある。
そんな出会いを、オレはしてしまうことになったのだ。
「はっ……はぁ……はぁ……」
部屋の前で息を整えるというのは人生で初めてだ。
いや、走ったのだから仕方はないが。
相手は女性……それなのに、この惨状では申し訳がたたないし、通報されてもおかしくはない。
しかし、確認したいという気持ちはとどまることを知らない。
「誰か!?誰か、いるのか!?」
息せき切って扉をノックする。
本当に誰かいるのか……?本当に、人なのか……。
開いた扉の先に居たのは、間違いなく、少女だった。
「ぇ……?」
それも、腰まで届く銀髪と、宝石のような碧眼をもった、絶世の、だ。