主×花+主
※思いがけぬ形で窮地に追い込まれた悠を、特捜隊の面々が救出に向かう!
お正月!
八十稲羽在住の陽介、千枝、雪子、完二の他、冬休み中を堂島家で過ごしている悠、そして菜々子の6人が、元旦の朝からここ辰姫神社へ初詣にやってきた。
「うわ~! 雪子きれい~!!」
赤い振袖に身を包んだ雪子を見て、千枝が賞賛の声を上げる。
「さすがッス、天城センパイ」
完二も感嘆して呟く。
「……ちょっと、やめてよ恥ずかしい……」
照れる雪子を、千枝がさらに覗き込んでニコッと微笑む。
「いや、マジで綺麗じゃん! 里中にはぜってー真似できねーよなあ」
陽介の声に反応した千枝は、素早い動きでソバット一閃!
千枝の右足が陽介の腹をえぐる。
「ウグッ……、ってーなー!!」
「フン!!」
いつもの光景を悠が楽しそうに眺める傍らでは、菜々子も羨ましそうに雪子の着物姿を凝視している。
「雪子お姉ちゃん、ホントきれいだねぇ」
「……もう! 菜々子ちゃんまで。……でも、ありがとう」
しゃがんで菜々子の頭をなでる雪子。
「私も、早くお着物着たいなあ」
「もうちょっと大きくなったら、きっと着られるわよ」
「うん!!」
参道を抜け、御手洗で手を洗う六人。
「なんで手を洗うの?」
菜々子が悠に問う。
「それはね、神様にお参りする前に汚れを落とさないといけないからだよ」
「けがれ……?」
「そう。手が汚れてるからとかじゃなくて、外界のけがれを落とす意味で、お参りする前にこうして洗うのよ」
柄杓を持ち替えながら、菜々子に説明する雪子。
「ふーん」
「おい里中! お前の場合は、足も洗っといた方がいいんじゃねーのか?」
陽介がからかうように千枝に言い放つ。
「なんですって~!?」
手に持った柄杓を、思わず頭の上に掲げて構える千枝。
と、それを完二が掴んで止める。
「里中センパイ、ダメッスよ」
「……わ、分かってるわよ!」
「完二君、すごく落ち着いたわよね。やっぱり修行の成果?」
「いや、そんなことないッスよ! 俺なんかまだまだッス!」
雪子の言葉に、少々照れて赤くなる完二。
「直斗が来れなくて、残念だったな~」
「ちょ……、なんスか花村センパイ! 俺は別に……!!」
焦ってさらに赤くなる完二。
全員が手を洗い終え、拝殿へと向かう。
「よっしゃ! じゃあ、今年も神様にお願いしよっか~」
まずは、陽介が一番に鈴を鳴らす。
そして、仲間たちも次々と鈴を鳴らして、二礼に拍手一礼にてお参り。
「(今年はついに警察学校の試験です! 何卒合格を!!)」
「(もっと勉強して旅館のために尽くします。神様、どうぞお力添えを……)」
「(一日も早く独り立ちできるよう頑張るッス! よ~っく見てて下さい!!)」
「(え~っと……、お兄ちゃんと……できるだけ、一緒にいたいか……な)」
「(今年は……、もっと仕事頑張って……、いやいや、それか悠と……もっともっと楽しく……、あ! ダメダメ! そーいうことじゃねーんだよ! だから……)」
千枝、雪子、完二、菜々子がそれぞれの願いを頭の中で唱える中、陽介は一礼の数秒では考えがまとまらず、結局中途半端なまま千枝に引っ張られて拝殿を退いた。
「もう! 花村ったらいつまで拝んでんの!」
「いやだってよ~、願い事なんてさ、一礼の間になんて収まんねーったら!」
「それがダメだっての! そんなまとまってない願い事なんて、神様は受け入れてくれないよーだ!」
ごもっともな千枝の意見である。
「……あれ? 鳴上君は?」
拝殿から下がったところで、雪子が悠の不在に気付いて振り返る。
しかし、悠はどこにもいない。
「鳴上君!?」
「お兄ちゃん!」
「センパイ!」
「……悠!?」
千枝、菜々子、完二、そして陽介が周囲を見渡しながら叫ぶも、悠はその場から忽然と姿を消していた……。
* * * * *
霧深い、さびれた空間。
悠の自我が、静かに目を開けた。
「ここは……、どこだ?」
妙に視界が低い。
そして、なぜか正面がボンヤリとして両サイドははっきりと見える。
「何だ? この違和感ある視覚は……!?」
* * * * *
「それは……、やはりテレビの中が怪しいですね」
電話の向こうで直斗が答える。
と、完二の携帯電話を陽介が取り上げて捲し立てる。
「どういうこった!? 悠に……、悠の身に何かあったって言うのか!?」
「……分かりません。しかし、これまでの僕たちの経験上、不可解な出来事は全てマヨナカテレビが絡んでいる。カギがあるとすれば、そこしかないのでは?」
今度は千枝が陽介から携帯電話を奪う。
「直斗君! 何とかこっちに来れない!? 鳴上君を、鳴上君を助けなきゃ……!!」
「……いや、今からそっちへ行っていては時間のロスです。ある意味賭けになりますが、僕はこっちからテレビの中に入ってみます。皆さんとは向こうで落ち合いましょう。一応、久慈川さんにも連絡しておきます」
「分かった……」
電話を切る千枝。
「何だって!?」
息せき切って千枝に問う陽介。
「直斗君は東京からテレビの中に入るって……。あ、りせちゃんにも連絡しとくって言ってた!」
「そうか……。よし! じゃ、早速ジュネス行くぞ!」
「え!? でも、今日は休みじゃ……」
「ヘッ! 俺が合い鍵持ってねーわけねーだろ? ……捜査隊、出動せよ!!」
陽介の言葉に頷く千枝、雪子、完二。
そして、一目散に駆け出していく!
* * * * *
例によって、陽介の顔パスでうまく休館のジュネス館内へ潜り込んだ四人。
家電売場の大型テレビ前に立つ。
「新年からいきなりペルソナ使うたあ、夢にも思わなかったけどな……」
「うん……。でも、鳴上君が向こうにいるなら……」
「助けなきゃ!」
「……行くッスよ!? 先輩たち!」
陽介、雪子、千枝、完二が決意を新たにする。
「よし! 待ってろよ、相棒!」
陽介を先頭に、四人がテレビの中に入る!
* * * * *
テレビの世界は、またしても深い霧に包まれていた。
しかし、四人は完二製作のニュー眼鏡を装着しているため、視界は良好だ。
「クマは、いるのか? おいクマーーーッ!」
陽介が周囲を見渡しながら叫ぶも、返事はない。
「もしかすると、またクマ君も……」
心配気な雪子。
「急ぐッスよ!」
と、闇雲に走り出そうとした完二の背後から声が。
「巽君、冷静に」
「……おっ、直斗か! よく来てくれ……、ええっ!?」
振り向いた完二の前にいたのは、髪の長いグラマー美女、そして得意気な顔のりせの二人が立っていた。
「えっ!? な……、直斗……君?」
千枝をはじめ、直斗の変貌ぶりに驚く四人。
それもそのはず。
直斗は、今までの男子風貌から打って変わって、髪が伸び、豊満な胸やくびれた腰のラインも隠すことなく、ロングパンツのキマッたスレンダー美女となっていた!
「ヘヘーン! 驚いた? 直斗君、女として堂々と自立したい!って私に言ってきたんで、私が直々にファッションアドバイスしたのでしたー!!」
「す、すみません……」
さらに得意気なりせと、少々恐縮気味な直斗。
「いや……、謝ることなんて全然ないぜ」
新たな風貌の直斗に釘付けの完二。
「ちょ……、巽君、あんまり見ないで下さい!」
照れて横を向く直斗。
「……何にしても、お前ら二人が来てくれたら百人力だ! りせ! 悠がどこにいるか、分かんねーか!?」
「ん……、ちょっと待ってね。……ペルソナ!」
陽介の言葉を受け、りせはカンゼオンを召喚してレーダーを張る。
と、カンゼオンのレーダーが何かを感知!
「……何かいる! でもこの気配は……シャドウ……?」
「何だって!? またシャドウが出ているのか!?」
「……この世界がまた霧に包まれているということは、やはりシャドウが蠢いているということでしょう。久慈川さん、案内をお願いします!」
驚く陽介の隣で、直斗がキリッとした表情に戻る。
りせを先頭に、霧の中を進む六人。
と、目の前に黒い大蛇のようなシャドウが現れた!
「……あれは、情欲の蛇!」
三年前に戦ったシャドウを全て解析して把握している直斗が、その姿を見て叫ぶ。
「何でダンジョンにいたシャドウが……、またここに?」
千枝が身構えながら直斗に問う。
「分かりません。しかし、この霧の原因があのシャドウだとすれば、原因を調査する必要があります!」
「……じゃあ、とにかく叩くしかねーだろ!?」
陽介がペルソナを出さんと身構える。
と、りせが制止!
「待って!! ……あのシャドウ、何か……変!」
カンゼオンのモニターでは、「何か変!」という文字が情欲の蛇を包み込んでいる。
と、陽介の耳に悠の声が微かに聞こえた。
「……陽介……」
「ゆ、悠!? ……ハッ!!」
悠の声は、明らかにシャドウのいる方向から聞こえた。
すると、陽介の目には、情欲の蛇に悠の姿が重なって見えた!
「あのシャドウ……、まさか……悠!?」
「何ですって!?]
驚く直斗。
そして、他のメンバーも情欲の蛇を凝視する。
しかし、陽介以外の目には悠の姿など見えない。
「ちょっと花村! どういうこと!?」
「……いや、俺には分かる。あれは……、あのシャドウは……、悠だ!!」
千枝が疑問の声を上げるも、陽介はシャドウの中に悠の存在を確信した。
「悠……、今、助けるぞ!」
ジワリジワリと、情欲の蛇に近付く陽介。
「花村先輩! 危ない!!」
直斗の制止を振り切るように、陽介は黒い蛇型シャドウの身体をギュッと抱き締めた!
「悠……!! 目を……、目を覚ませ!!」
陽介に抱き締められた情欲の蛇は次第にブルブルと震え始め、その身体が紫色に変色してきた。
「あの姿は……、愛欲の蛇!」
紫色に変わった蛇型シャドウを見て、直斗が叫ぶ!
と、愛欲の蛇に変化したシャドウがクルクルッと陽介に巻き付く!
「うわっ!!」
「花村ーーーっ!」
「花村君!」
「クッ!」
千枝、雪子、完二、そして直斗がそれぞれペルソナを召喚!
陽介に巻き付く愛欲の蛇に、攻撃を仕掛けんとする。
「……ま、待て! 待ってくれ! 攻撃はまだ……」
陽介は、至極妙な感覚に襲われていた。
身体に巻き付く蛇型シャドウの感触が、まるで悠に抱き締められているかのような……。
「……お前、悠だよな? そうなんだろ?」
優しく愛欲の蛇に語りかける陽介。
「返事をしてくれ。……頼むよ、相棒!」
固唾を飲んで見守る他のメンバーたち。
すると、愛欲の蛇の身体が真っ赤に変色し始めた!
「……あ、あの姿は……、肉欲の蛇!!」
直斗が叫ぶと同時に、赤く色を変えた蛇型シャドウは陽介への締めつけをフワッと緩めたかと思うと、全身からボーッ!と炎を吹き出した!
「は、花村ーーーーっ!!」
千枝が即座に反応し、スズカゴンゲンが肉欲の蛇へと斬りかかっていく!
しかし、激しい炎でその刃も太刀打ちできない。
「ちっくしょーーーーっ!!」
完二のロクテンマオウも飛びかかるが、炎で陽介を包み込んだ肉欲の蛇の身体がさらに発光し、攻撃を寄せ付けない。
「ニャロッ!!」
スズカゴンゲンがブフーラを連発!
と、静かに炎が消えていき、そこに衣服が全て焼け落ちて全裸と化した陽介がうつ伏せに倒れ込んだ。
「花村ーーーっ!!」
走り寄る千枝の目前、肉欲の蛇はグルッと陽介の上を旋回すると、なんとそのまま陽介のアヌスへとグイグイッと潜り込んでいった!
「ええっ!? ちょ、ちょっと!!」
「なんてこと……!!」
手で顔を覆いながら叫ぶ千枝と雪子。
完二と直斗、そしてりせも唖然としている。
クネクネを体躯を揺らしながら、ついに肉欲の蛇の全身が陽介の中に入ってしまった!
「……は、花村あああ!!」
涙ぐみながら陽介に走り寄る千枝。
そして、上半身を抱き起して肩を揺する。
「花村! ちょっと花村ったら~~~!!」
「……大丈夫。脈はあります。気を失っているだけです」
いつの間にか傍に来ていた直斗が、陽介の腕を掴んで呟く。
あれだけの炎に焼かれたというのに、陽介の身体は火傷一つしていないようだ。
しかし、シャドウ自体がその中に侵入したことは間違いない。
それも、アヌスの鍵をこじ開けて……。
「どうしよう! 直斗君! ……花村が、花村が……」
「落ち着きましょう、里中先輩」
激しく動揺する千枝を、直斗が冷静になだめる。
「今のところ、花村先輩の身体は無事です。しかし、とんでもないものが中に入ってしまった。……久慈川さん、アナライズできますか?」
「……えっ!? あ、ああ!!」
陽介の身体をカンゼオンのレーダーが解析する。
「ん……、何かすっごくちっちゃいものが大腸の中を動き回ってる……。何コレ、さっきの奴!? 花村先輩の身体ん中でちっちゃくなってるって言うの!?」
「……どういうことなんだ、直斗!」
焦るりせ。
そして完二が直斗に問う。
「原理は分かりませんが、体内でシャドウがミクロ化しているということでしょう。……花村先輩は、あのシャドウのことを鳴上先輩と呼んでました。恐らく、花村先輩にしか見えない何かが見えたんでしょう。その証拠に、凄まじい炎の影響が花村先輩の身体に全く現れていない。これは鳴上先輩の思いの結果です」
「つまり……、鳴上君の意識が、情欲から愛欲、そして肉欲へと変化してシャドウの力にも反映した……ってこと?」
直斗の分析に、雪子が追随する。
「言うなればそういうことではないでしょうか。……しかし、このままでいいわけはありません。あのシャドウが鳴上先輩ならばなおのこと、二人を一刻も早く救わなければ!」
「だけど、どうすりゃいいんだ!? 身体ン中に入っちまったモンと、どうやって戦うんだよ!!」
「ペルソナ攻撃で花村君を傷つけてもいけないし……」
完二と雪子が、ともに頭を抱える。
「……僕たちも小さくなって、花村先輩の中に入ればいいんですよ」
直斗が微笑とともに応える。
「えええええ~~~~~~っ!?」
驚く他の者たち。
「そんな無茶な!」
「いいかげんなこと言ってんじゃねーぞ!? 直斗!」
「あり得ない!!」
雪子、完二、りせが口々に声を荒げる。
「……そうでしょうか? 僕たちは、既にテレビの中に入るという、無茶でいいかげんであり得ないことをやってのけてるんですよ? おまけにペルソナなんてものまで操って……」
直斗が冷静な口調で応える。
「……でも、やっぱり無理よ!」
りせが首を振って叫ぶ。
と、完二が腕組みしながら呟く。
「……いや、そうかもしれねー。無理が通れば、道理は引っ込む!って、誰かが言ってたような気がするぜ!」
「フフ……、いいこと言いますね、巽君」
そこで、沈黙していた千枝が重い口を開く。
「……できるのなら……やろうよ! それしかないなら、やってみようよ! きっと……、きっとできるって!!」
「千枝……」
雪子がそっと千枝の肩を抱く。
そして頷く二人。
完二、りせ、そして直斗も頷き合う。
「みんな、信じましょう、僕たちの力を。そして、鳴上先輩と花村先輩の力を! ……久慈川さんと天城先輩は、万一のためにここに残って下さい。僕と巽君、そして里中先輩とで花村先輩の中に入りましょう!」
「分かったわ」
「うん……」
直斗の指示に、素直に従う雪子とりせ。
「さあ! 祈りましょう!! ペルソナに祈りを込めて、アルカナの奇跡を呼び起こすのです!!」
直斗が右手を差し出し、そこに完二と千枝も手を合わせる。
そして、目を瞑って一心不乱に祈る直斗、完二、千枝!
ヤマトタケル、ロクテンマオウ、そしてスズカゴンゲンが直斗、完二、千枝の背後で光る!
3体のペルソナが放つ眩い光が、直斗らを包み込む!
そして、その光がみるみる内に小さく小さく縮んでいき、肉眼で確認し難いほどの小さな光る粒子となった!
「凄い! ホントにちっちゃくなっちゃった!!」
驚きを隠せないりせ。
と、その小さな粒子から直斗の声が聞こえてくる。
「……久慈川さん! 体内の様子は、どうですか!?」
「あっ! えと……、さっきより上の方に上がってる! 今、丁度十二指腸の辺りかな……」
「上に上がれば上がるほど危険です。早く食い止めなければ。 じゃ、行きますよ! 巽君! 里中先輩!」
「おう!!」
「よっしゃあ!!」
光る三つの粒子が飛び上がり、陽介の鼻の穴から体内に侵入する!
鼻の穴から陽介の中に侵入した直斗、完二、そして千枝。
それぞれのペルソナも同時にミクロ化し、後方に続いている。
喉から食道へと、宙に浮いた状態で進んでいく三人。
「凄い! あたしたち、飛んでるよね!?」
「信じられないけど、何かさっきこーいう感じを想像して祈ってたぜ!」
「……僕たちが、心を一つにして祈った結果だからです。急ぎましょう!!」
高速のスピードで、下へ下へと降りていく三人。
そして、ついに胃の噴門に到着。
と、前方彼方に、ウヨウヨと蠢く白い物体が見えてきた。
「……あれか!?」
完二が指さしたところにいたのは、白く身体の色を変えた蛇型シャドウだった!
「い……、淫欲の蛇……!!」
蛇型シャドウは、胃に辿り着く間に真っ白な淫欲の蛇へと変化していた!
「こーんちくしょーーーっ!!」
千枝が、スズカゴンゲンを突進させる。
両手のビームサーベルが、淫欲の蛇に襲いかかる!
しかし、♂♀マークの楯でガード!
「里中先輩! 見た目はシャドウでも、中身は鳴上先輩のはずです! 手加減を!!」
「そ、そうだった! ゴメン! ……でも、コイツ生半可な攻撃じゃ、効かないよ!?」
「俺のパワーで、気絶させてやるぜ!!」
そう叫びながら、完二のロクテンマオウが淫欲の蛇に体当たりをかます!
吹っ飛んだ淫欲の蛇は、胃壁の粘膜にぶつかってベッタリとくっつく。
と思いきや、徐に鋭い牙で胃壁に噛みつく!
ビュッと吹きだす鮮血!!
* * * * *
「グアッ!!」
陽介が苦悶の表情で腰を曲げ、腹を押さえる。
「花村先輩!!」
りせが叫ぶ。
「りせちゃん! 中の様子、分かる!?」
カンゼオンのレーダーで陽介をアナライズするりせ。
「……う~ん、ダメ! 小さすぎて何が起きているのか分かんない!!」
涙声のりせ。
「……私たちも祈りましょう。信じるしかないわ、みんなを!!」
そう言って、りせの肩を抱く雪子。
「雪子センパイ……」
苦しむ陽介を、二人はただ見守るしかない……。
* * * * *
胃の中では、淫欲の蛇がしきりに胃壁に噛みつき、あちこちから鮮血がほとばしる!
「淫欲ってのは……、こーいうサディスティックなのもアリなのか!?」
ロクテンマオウを操り、淫欲の蛇の動きを止めんとする完二。
「あるいは……、これが鳴上先輩の淫欲そのものなのかもしれません。シャドウは、人間の心の奥底を映す出すもの……ですから」
「花村をいじめたくなんのは分かるけど……、これはやり過ぎよ! 鳴上君!!」
そう叫びながら、霧雨昇天撃を放つスズカゴンゲン!
ドヒュッ!!
一瞬怯む淫欲の蛇。
「今だ! 二人とも下がって!!」
直斗の叫びとともに、ロクテンマオウ、そしてスズカゴンゲンがスッと後ろに下がる。
「ムドハマ!!」
直斗がそう叫ぶと、ムドオンとハマオンの合体波動が淫欲の蛇を襲った!
ブルッと震えたかと思うと、ベシャッと落下した淫欲の蛇。
「やったか!?」
グタッと伸びた淫欲の蛇。
しかし、次の瞬間、その姿が緑色に変色して甦った!
「ま……、まさかあれは……」
叫び声を上げながら、クルクルッと回って緑色の大蛇が宙空を舞う!
「……禁欲の蛇!!」
「直斗! アイツは……!!」
「淫欲から禁欲への変化……、これは非常に危険です! シャドウが欲望を自ら抑え込むということは、すなわち、暴走!!」
「何ですって!?」
怒り狂ったかのように、禁欲の蛇は胃の中を超スピードで飛び回り、ロクテンマオウ、スズカゴンゲンに次々と噛みついてエネルギーを吸い込んでいく!
「グアアッ!!」
「キャアアーーーーッ!!」
エネルギーを吸い取られ、その場に倒れ込む完二と千枝。
「巽君! 里中先輩!」
続いて禁欲の蛇は、ヤマトタケルに襲いかかる!
高速の剣さばきで何とか耐えるヤマトタケル!
しかし、一瞬のスキをつかれ、首筋に禁欲の蛇が噛みつく!
「うわっ!!」
* * * * *
陽介の目が、パッと見開く!
「……花村センパイ!?」
震えながら手足を動かし、四つん這いの姿勢になる陽介。
「……ペル……ソ……ナ!!」
力を振り絞って陽介が叫ぶ!
* * * * *
エネルギーを吸い尽くされ、直斗も倒れ込んでしまう。
そして、なおも胃の中を狂ったように飛び回る禁欲の蛇。
と、そこへ突如もう一つの光が宙空に出現!
スサノオだ!!
陽介のペルソナ・スサノオが、自らの体内でミクロ化した状態で発動した!
そして、飛び回る禁欲の蛇をガシッと捕まえ、その動きを止める!
* * * * *
「悠……、悠……!! 受けてみろ……、俺の愛……、その身体全体で……受けてみやがれってんだーーーーっ!!」
* * * * *
スサノオの全身からバッと炎が噴き出す!
そして、瞬く間に禁欲の蛇と自らをも超絶の炎で包み込む!
「フギャーーーーーーーオ!!」
呻き声を上げながら、禁欲の蛇がその身体を天高く突き上げて悶える!
そして、ピシピシとひび割れしていく禁欲の蛇。
スサノオが、最後の力を振り絞って禁欲の蛇を抱き締める!
パリーーーーーン!
その表皮が砕け散った禁欲の蛇!
と、内部から生まれたままの姿の悠が、まるで赤ん坊のような無垢な顔つきで現れた!
「……な、鳴上せんぱ……い」
薄れゆく意識の中、直斗がその光景を目に焼きつける。
小さな悠を大事そうに抱くスサノオは、その姿をスーッと消していった。
と、直斗、完二、千枝、そしてそれぞれのペルソナも、その姿を消していく……。
* * * * *
四つん這いで踏ん張っていた陽介が、バタリとその身体を地面に預ける。
「花村センパイ!!」
「花村君!!」
思わず叫ぶ、りせと雪子。
と、その陽介の傍らに、直斗、完二、千枝、そして全裸の悠が等身大に戻った身体でその姿を現した!
「み……、みんな!!」
「悠センパイ! 助かったのね!? いやったーーーーっ!!」
倒れたままの四人の中、直斗が歯を食いしばりながら声を絞り出す。
「……天城せん……ぱい……、か、回復……を」
「了解!」
雪子は大きく両手を天に掲げ、メシアライザーを唱えた。
アマテラスから柔らかな光が放たれ、倒れている四人、そして陽介にも降り注がれる。
ゆっくりと目を開く千枝と完二、ふらつきながら立ち上がる。
直斗は、既に中腰で頭を振っている。
そして、ともに全裸の悠と陽介が、互いに顔を見合わせるように瞼を開いていく。
「……よ、陽介……」
「お……、おかえり……、悠」
と、雪子がどこから出したのか、その二人の上にフワッと大きな大きな羽衣を被せた。
「私たちは……、先に帰りましょう」
天女の如き高貴な笑顔で、雪子が皆を誘う。
そして、無言の内に直斗、完二、りせ、そして千枝が雪子に続いてテレビの世界から抜け出していく……。
羽衣の中で、悠と陽介がいだき合う。
「……陽介。お前が、助けてくれたんだな……。ありがとう」
「いや、俺だけじゃねー。みんなの力で助けたんだ。感謝するなら、みんなにしろよ?」
「でも……、最後はお前が助けてくれた。そんな、そんな気がするんだ……」
「俺だって助けてもらったクチだぜ? ……ん、でもまあ、今は二人で、こうしていよっか……」
静かに唇を重ね合わせる、悠と陽介。
と、周囲の霧は晴れ、明るい光が差し込んできた……。
* * * * *
翌日、ジュネスの新年初売りの舞台で、元気に福袋販売の陣頭指揮を執る陽介の姿があった。
屋上フードコートでは、悠をはじめ、千枝、雪子、完二、りせ、そして直斗が揃って談笑していた。
「でも、今回は不思議な事件だったよね~」
そう言いながら、千枝がジュースをすする。
「まさか悠センパイがシャドウになっちゃうなんて……」
「……みんな、本当に済まなかった」
りせの言葉を受け、改めて皆に頭を下げる悠。
「よして! 鳴上君」
「そうだぜ先輩! 俺たち仲間じゃねーか!」
雪子と完二が、にこやかに応える。
「……ところで先輩、あの時、神社で何を願ったんですか?」
「え?」
「先輩がシャドウ化した原因は、きっとあの神社にあるんだと思います。今回の事件はまだ終わっていません。真実を究明するためには、まず先輩が何を願ったかがキーポイントではないかと……」
直斗の言葉で、一瞬沈黙する一同。
「……あの時、俺は……」
と、そこへ陽介が大量の鯛焼きを抱えて走り寄ってきた!
「やあやあやあやあ、お疲れお疲れ~」
ドサッとテーブルに鯛焼きの山を下ろす陽介。
「うわっ! 何これ、花村のオゴり!?」
「あったりまえじゃねーか! 俺からみんなへのお礼……ってとこかな。ヘヘッ」
「わーーー!! ありがとう花村先輩! 大好き!!」
りせはそう言うやいなや、即座に鯛焼きに手を伸ばす。
当然、千枝も負けずと頬張り始める。
「……ま、いいか。今日は楽しくやりましょう」
直斗の言葉で、鯛焼きパーティーがその場で始まった。
と、目と目で語り合う悠と陽介。
二人同時に、ニコッと微笑む。
「……じゃ、俺行くから! ゆっくりしていってくれよ!!」
手を振りながら走り去る陽介。
皆も、一様に鯛焼きを咥えながら陽介に手を振る。
そして、悠が鯛焼きに手を伸ばしたその時、悠の頭の中にかすかに声が聞こえた。
「……セ……セン……センセ……」
ガタッ!!
咄嗟に立ち上がる悠。
「……ク……マ!?」
(続)