※この作品はR-18です。

変態特別捜査隊   作:三化月

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【カップリング】
 足×主

※「黒き足立裁判」の後編です。
 留置場を脱走した足立の真意は!?
 そして、裁判の結果はどうなるのか!?

※なお、真逆の展開となる「白き足立裁判」は別タイトルでアップ予定です。


第22話「人類皆足立説(後編)」

 足立透被告が留置場を脱走した。

 

 そもそも、裁判中の被疑者は拘置所に収容されるのが通常のパターンだが、稀に拘置所収容店員オーバーの時や警察での捜査事由によって留置場に止まったまま公判を迎えることもある。

 足立被告の場合は後者であったが、それは事件の特殊性と供述の荒唐無稽さによるものであることは明白だった。

 何しろ、犯行の手口が『テレビに入れた』なのである。

 そして、そこには異世界があり、その中にいる化け物が殺害の実行犯であると推察しているのである。

 公判においても、最初は誰も相手にしない絵空事として片付けられていたが、担当検察官と弁護士が交代してからは事態が一変し、足立被告の奇妙な供述に対して大真面目に質疑を繰り返すようになっていったのだ。

 しかし、決め手のない供述を証明する術もなく、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。

 

 そして第1回の公判が始まってから3年後の夏、突如足立被告が姿を消したのだ。

 脱走の手口は全くの不明。

 留置場が荒らされた形跡は一切なく、足立被告は一夜にして煙のように消えてしまったのだ。

 

 何故、今になって脱走する必要があったのか?

 どうやって密室から何の破壊工作もなしに脱出することが出来たのか?

 

 全てが謎のまま、公判は一時中断を余儀なくされた……。

 

 

  * * * * *

 

 

※足立が消えている間、実はテレビの中では新たなる事件が起こっていた。

『第7話 絶望が司る世界 ~Return to TV-World』 を参照。

 

---第7話 あらすじ---

 

 稲羽市の事件の後、志望の大学へと進学した鳴上悠は、現代に甦ったイザナギの如く早くも女性百人斬りを果たしていた。

 その上、陽介との友情がいつしか愛情に転化し、そこでも肉体関係が生まれていた。

 しかし、目覚めてしまったキング悠がそれで満足するはずもなく、数ヶ月前から直斗との交際を始めていたのだ。

 当然、身体の交わりありきである。

 

 その直斗はと言うと、高校を卒業してすぐ民間の科学捜査研究所にスカウトされ、都内で警察と協力体制を取りながら日々研究に勤しんでいる。

 

 ある夜、直斗が悠のマンションを訪ね、吉祥寺連続行方不明事件についての相談を持ち掛けるが、やはり肉欲に溺れかける。

 しかしその最中、大型テレビ所有という被害者の共通点とマヨナカテレビの復活という情報を聞いた悠は、自宅以外の部屋に密かに準備していた八十型のテレビに触れてみると、そこからクマの助けを求める声が……!

 

 翌日偶然にも遼太郎から「足立脱走」の知らせを受けた悠は、再び仲間を集結させてテレビ内捜査へと赴く。

 そこにはやはり足立がいたが、どうやら自分の意志で脱走したわけではなくイザナミによってテレビの中に召喚された様子で、人生に絶望を感じた人たちを引っ張ってきてシャドウにするという悪事を働いていたのだった。

 そして、その足立自身もミズハノメなるシャドウと同化しており、その攻撃で仲間たちが次々に窮地に追い込まれていく。

 しかし、悠の「清めのセックス」により救出、全員の力を一つにしてミズハノメを倒し、再び現れたイザナミを圧倒した。

 

 そして、現実世界へ戻った悠のところに「留置場付近で倒れている足立を発見した」と遼太郎からの連絡が入ったのであった……。

 

 

  * * * * *

 

 

 足立被告脱走の知らせから数日後、留置場付近の路地に倒れている足立被告が発見された。

 着ていたトレーナーはあちこちが激しく裂けており、身体は衰弱し切っていたそうだ。

 

 結局、足立被告はそのまま入院となり、公判は長い中断状態に入った。

 

 そしてまた2年の歳月が流れ、私も裁判員を離れて日常へと戻っていった……。

 

 

  * * * * *

 

 

 長く意識不明の状態であった足立が、ある日突然意識を取り戻した。

 その連絡を遼太郎から受け取った悠は、ある種奇妙な感覚に襲われた。

 

「足立さんが目を覚ました……。面会に……、行ってみるか」

 

 元々、悠は他の捜査隊の面々ほど足立に対して憎悪の念が強くない。

 寧ろ、最初の事件、二度目の事件のいずれの時も、仲間とともに戦いながらも足立の詭弁に一定の理解を持っていた。

 だからこそ、足立の更生を心から願い、この2年の間も心のどこかでいつも気にかけていたのだ。

 

 何故か足立への思いが募った悠は、週末の連休を利用して稲羽市の警察病院へと赴いた。

 

 

 

 意識を取り戻した足立ではあったが、まだ公判再開には無理があるとして、しばらくその身は警察病院の入院病棟にあった。

 そこへ、遼太郎の許可を得た悠がはるばるやってきた。

 

「……足立さん、お久しぶりです」

 

 恐る恐る病室に入った悠を、かなり顔色も良くなった足立がにこやかに迎えた。

「やあ、君か。……わざわざ来てくれたのかい? ま、座れば?」

「……失礼します」

 ベッドの横の椅子に腰を下ろす悠。

 

 悠の全身を舐めるように凝視する足立。

「へぇ……、また一段と逞しくなった感じだね。ま、そりゃそうか。あれから2年も経ってるんだからね」

「身体は……、大丈夫なんですか?」

「だいぶダメージが強かったみたいだね、2回目の時は。おかげで長いこと眠ったままだったみたい」

「すみません……」

 思わず詫びてしまう悠を見て、足立がほくそ笑む。

「ハハ。何謝ってんの? 君は正しいことをしたんだろ?」

「そのつもりですが……」

「じゃあ、いいんじゃないの? もっと堂々としてなきゃあ」

 

 下を向いていた悠、キッと首を上げて表情を引き締める。

「……俺は、足立さんにちゃんと償ってほしいいんです!」

「償う。償うねぇ……。そう簡単にいかないのがこの世の中の面倒なところさ。僕の罪を確定させるためには、人間をテレビに入れるって行為を認めなきゃいけない。その上シャドウの存在も。そんなことが出来ると思うかい?」

「それは……」

「公判の途中からはね、僕の話を真剣に聞く人も出てきた。でも僕自身に入れたり入ったりする力がなくなってたんだ。多分、1回目に君たちにやられた時点でね。2回目の時はただの操り人形だったんだろうね、今にして思えば。……だから、公判で証明しようと思ってもできない。証拠がなけりゃ、こんな夢みたいな話、信じる人はいないよね」

「……」

 黙り込む悠。

 

「人間ってね、基本的に自分しか信じてないんだ。だから、自分が見たものじゃないと信じない。いや、場合によっちゃあその目で見ても信じないこともある。あり得ないって思っちゃったらそこまで。自分の了見外の事実は、事実じゃないんだよ。分かる?」

「……はあ」

「人間、面倒なことには関わりたくないし、嫌なことからは逃げたい。それが本音だろ? 君たちはそういう自分と向き合ってペルソナを出したんだろうけど、それはたまたま受け入れられるレベルの深層心理だったってことに加えて、ワイルドのアルカナを持った君が傍にいたからだ」

「俺が……いたから?」

「そう。イザナミに選ばれた君がいたからさ。で、君の他に選ばれたのが僕と生田目。その中で、どうして僕がアメノサギリと同じ立ち位置にいたのか? それは、僕の考え方が最も大多数の人間と共鳴するパルスを持っていたからだ。つまり、僕の考え方が人間本来の姿なんだよ」

 

「それは……!」

「違うと言うのかい?」

「確かに、誰でも嫌なことからは逃げたい。でも、それを受け入れて、乗り越えなければ、人間の成長はないんじゃないですか?」

 

「……悠君さ、君確か、今年社会人一年生だよね」

「そうです」

「これから徐々に分かってくると思うけどさ、そういう青臭い理想を掲げていると、逆にどんどん乗り遅れていっちゃうよ?」

「……どういう……ことですか?」

「世の中はね、『正論』が『常識』じゃないってこと。君もその内分かるよ」

 

「俺は……分かりたくありません! そうやって一生、困難から逃げていくって言うんですか!? そんな生き方はしたくありません!」

「おー、ご立派ご立派。でもね、そーいう考え方が余計なトラブルを生む。世の中ってのは、そういう仕組みになってるんだよ。……もっとさあ、肩の力抜いて生きていった方がいいよお。楽に生きなきゃ、損じゃない。……あーあ、僕もこれからどうしよっかなー。罪も償えない、シャドウにもなり切れない……。ねぇ、どうしたらいいと思う?」

「それは……」

「分っかんないよねー。そりゃそうさ。君の理想論からすれば、今の僕の立場では何も出来ない。僕だって出来るものならちゃんと償いたいさ。でもね、甘ったるい正義感だけでは乗り越えられない『世間の常識』ってもんが、この世界にはあるのさ、確実にね」

「……」

 またしても言葉を失う悠。

 

「……悠君」

「は……はい?」

「僕のクロを証明するために、君がひと肌脱いでくれるかい?」

「……え?」

 

「フフ……」

 そのまま足立は目を瞑り、深い眠りに入っていった……。

 

 

  * * * * *

 

 

 2017年秋、足立透被告の公判が再開された。

 

 2年以上経った同じ裁判に、また裁判員として選出されることは異例なことだ。

 しかし、2年前中断した時点で第1回公判から裁判員を続けていたのは私一人ということもあり、特殊過ぎる事件ゆえ、事情に詳しい私が再選出されたのはある意味必然だった。

 私自身、多少の迷いはあったが、事件の真相を知りたいという欲望が消えることはなかったので、この選出に従った。

 

 公判の争点としては、やはり『有罪』なのか『無罪』なのか、そして有罪ならばその『量刑は幾何か』ということになる。

 その中で問題はやはり、中断した第6回公判までに議論されていた『テレビに入れる』という犯罪の手口だ。

 これを実証出来るかどうかにより、足立被告の運命が決まると言っても過言ではない。

 加えて、留置場を何故脱走したのか?

 そして何故身体に多大なるダメージを受けて舞い戻り、原因不明の意識不明状態が続いたのか?

 この二点も、新たに足立被告の行く末を占うカギになることだろう。

 

 

 

 足立透被告の第7回公判、それは2年の空白を経たこともあり、第1回同様の起訴状読み上げから始まった。

 事件の概要が改めて説明され、山野真由美、小西早紀両名への暴行致死、久保美津雄受刑者への殺人未遂、そして生田目太郎氏への殺人教唆いずれについても『テレビに入れる』という荒唐無稽な手口が絡んでいる。

 その真偽が明らかにされない限り、裁判の進展はないだろう。

 

 そして改めて、検察側から足立被告への質問が始まった。

 

---では、改めて質問致します。足立被告、あなたは山野真由美さんを殺害しましたか?

「いいえ」

---では、何故自首してきたのですか?

「死ぬかもしれないと分かっていて、テレビの中に入れたからです」

---小西早紀さんの場合も同様ですか?

「はい」

---久保美津雄受刑者の取り調べを行ったのは、あたなですか?

「そうです」

---詳しく聞かせて下さい。

「連続殺人は全部自分がやりましたって自首してきましたんで、一応僕が話を聞きました。まだ証拠も何もなかったですし、イタズラの線も濃いという判断でしたが、僕としてはここで万が一彼が容疑者として祭り上げられでもしたら流れが止まってしまうんで、大型テレビのある部屋に連れて行って、電気を消して慌てたところを狙い、彼をテレビに入れました」

---流れが止まる、とはどういうことですか?

「山野、小西とテレビに入れた後、生田目にその後のことを任せました。つまり、生田目がテレビに入れる行為を止めさせてはつまらないと思ったってことです」

---後日、久保受刑者は結局逮捕され、諸岡金四郎さん殺害の罪が明らかになりました。そのことを追求するには至らなかったのですか?

「何も根拠がなかったですし、イタズラだと決めつけてましたからね」

---この件につきましては、別途ご判断願います。話を戻しますと、生田目氏も『テレビに入れる』ことが出来たということなんですか?

「そうです」

 

 ここで、生田目氏が5年前に受けた調書が読み上げられた。

 確かに『テレビに入れた』と発言しているが、ただの空想論として片付けられ、結局証拠不十分のまま執行猶予となっている。

 

---生田目氏の連続誘拐容疑をここで蒸し返すのもなんですが、ここに一つの証拠物品があります。

 

 そう言って検察官は、一つの手帳を差し出した。

 あ……、あれは生田目の手帳だ!

 あそこには確か、四人の高校生の名前が……!

 

---この手帳には、『僕は新世界の存在を知った。なら僕は、人を救わなければならない』とした上で、山野真由美、小西早紀の他に、四人の高校生と、5年前に誘拐容疑の被害者となった堂島菜々子さんの名前と現住所が書いてあります。そして最後のページに『こんな小さな子が映ってしまうなんて……』と書かれてあります。これは、何を意味しているか分かりますか? 足立被告。

「小西早紀が死んだ後、生田目が僕に電話してきたんです。マヨナカテレビに映った人間がその後死んでいくって。そこで面白いなって思って、生田目の背中を押してあげたんですよ」

---背中を押した、とは?

「生田目はマヨナカテレビに映った人を助けたいと思っている。じゃあ、誰にも見つからない場所にかくまってあげたら?って、生田目がテレビの中に入れていくように仕向けたってこと」

 

 ここで検察官が徐に立ち上がる。

「マヨナカテレビにつきましては以前も弁護側から説明がありましたが、この点について少しお話しさせていただきます。これは、事件のあった2011年当時、この稲羽市で話題になった都市伝説でありまして、『雨の日の深夜0時に一人で消えたテレビの画面を見つめていると、運命の人が見える』といったものです。よくある噂話と片付けられがちですが、稲羽市の住民の方々に改めて聞き取りとしますと、『見えた』という方が多数おられました。その中に一人、毎日チェックし、その結果を日記にまとめていた方がいらっしゃいました。それがこの日記です」

 

 検察官が一冊の日記帳を取り出す。

 

「これによれば、マヨナカテレビが映ったのは確かに雨の日に限っております。4月11日、ショートカットの女性。4月14日、ロングヘアーの女性。これはいずれも、山野真由美、小西早紀両名の遺体が発見された前日となり、被害者の外観とも一致します。そしてその後です。4月15日、和服姿の女性。5月15日、学ラン姿の少年。6月21日、水着姿の女性。そして9月14日、帽子を被った少年。以上の記録がありますが、これと生田目氏の手帳に記載されている人物とを照らし合わせてみますと……」

 

 そう言いながら、検察官が机上に対比表をバンと広げる。

 

「和服姿の女性と天城雪子さん、学ラン姿の少年と巽完二さん、水着姿の女性と久慈川りせさん、そして帽子を被った少年と白鐘直斗さん。以上四人が、一時的に行方不明となっていた期間と日記帳の日付け、そしてそれぞれの風貌と一致しています!」

 

 騒然となる傍聴席。

 そして、各裁判員たちも顔色を変えている。

 それはそうだろう。

 その四人の中には、人気絶頂のアイドル・久慈川りせと、かつてその名を轟かせた高校生探偵・白鐘直斗が含まれていたのだから。

 

 私としては、以前この四人の高校生について足立被告に質問しようと考えたこともあったが、勇気がなくて出来なかっただけに、この指摘は大いに興味深かった。

 ただ、公開された日記帳には、鮮明な画面でバラエティ風な番組が流れるというマヨナカテレビ二度目の登場については一切記載がなかった。

 つまり、この記録を残していた人は、この四人とは顔見知りではなかったということなのだろう。

 

「今回は、この四人の方々に証言者として来ていただきました」

 

 さらにどよめく傍聴席!

 まさか本当にあの四人を呼んでくるなんて……!

 

 

 

 ここから、件の四人が順次証言台に立った。

 まずは天城雪子さんだ。

 

---天城雪子さん。あなたは2011年の4月15日、どこで何をしていましたか?

「よ……、よく覚えてはいませんが…………、、、

 

 

  * * * * *

 

 

 ここで、時は四日前に遡る。

 

 緊急事態ということで、天城屋旅館のとある間(捜査隊集結の際に使う部屋)に、悠、陽介、千枝、雪子、完二、りせ、そして直斗が集まってきた。

 

「……証人呼び出し!? 何だよそれ!!」

 陽介が驚きの声を上げると、雪子がそれに呼応する。

「突然でびっくりしたわ。……どうしよう」

「え? そんで天城の他には……?」

 陽介の言葉に、完二、りせ、直斗が小さく手を挙げた。

「マ……マジかよ」

 

「今さら何だってんだよ……ったく!」

「困る! 困るう~~~!!」

 苛立つ完二と泣き顔のりせ、そして直斗が冷静に口を開く。

「足立さんの裁判が難航していることは聞いてました。しかし、まさか公判で僕たちの証言が必要になるなんて……。それってつまり、テレビの世界について証明したいってことですからね」

 

「あり得ねーだろ! そんなの!!」

 陽介の言葉に、悠が若干動揺した表情を見せる。

 

「……実は、こないだ足立さんに面会に行ったんだ」

 悠の言葉に、一同が息を呑む。

 

「ゆ……悠、お前……!」

 身を乗り出し、悠に疑念の眼差しを向ける陽介。

 

「誤解しないでくれ! 俺はただ、足立さんにちゃんと償ってもらいたくて、それで……」

 歯切れの悪い悠を、直斗が庇う。

「先輩の気持ちは分かります。僕も、あの人にはキッチリ裁きを受けてほしい。しかし、手口が荒唐無稽なだけに、現実の裁判でそこは争点にはなり得ないはず。それもあって、こう何年も無駄な公判が続いていたわけですし……。だから、先輩があの人に会ったことと今回の呼び出しは、特に関連性はないと思います」

 

「ん……、まあ……、そうだろうな」

 落ち着いて座り直す陽介。

 

「……で、何の証言を求められんだ?」

 陽介の問いに、雪子が答える。

「私は……、4月15日のことを聞かれた」

「その頃って言やあ、丁度天城がテレビん中にさらわれちまった時だよな?」

「うん。本当にさらわれたのかどうか、もしそうならどんな状況だったのか……ってことを色々聞かれた」

「俺は5月15日だ」

「わ、私は6月21日!」

「そして僕が9月14日……。これは、紛れもなく生田目太郎の誘拐を裏付けるための証言ですね」

 完二、りせ、そして直斗が証言を求められた日付けを明らかにする。

 

「でも……、それだけで済むのかな」

 千枝が、不安そうに口を開く。

「……そうだな。心配なのは、テレビの中でのことをどう聞かれるかだ」

 悠の言葉に、直斗が反応する。

「そうですね。誘拐の手口はテレビに入れること。となると、僕らの証言がすなわち『テレビに入れる』という手口の裏付けにつながっていく。さらに言えば、テレビの中のことを聞かれることも十分にあり得る。それらをどう答えていくか……」

 

 一瞬の沈黙。

 それを破ったのは陽介。

「……生田目の罪が実証されれば、アイツの罪の証明につながるんだろ? じゃあ、ありのまま喋っちまうのもこの際いいんじゃねーのか?」

「バカ! そんなことしたら、あたしらが逆に注目されちゃうじゃん!」

 陽介の言葉に、千枝が即座に反応する。

 そしてそれを直斗が受ける。

「……難しいですね。ここまで来たら、花村先輩の言うように真実をさらけ出すべきなのかもしれません。しかし、そうなれば僕たち全員が好奇の眼にさらされることは間違いなく、あらぬ疑いをかけられる恐れも出てきます」

「俺たち一般人はまだいいが、りせみたいな芸能人にはダメージ大きいよな……」

 完二がこれに同調する。

 黙って俯くりせ……。

 

 と、静かに呟く雪子。

「……私、証言しようにも、さらわれた時の記憶ってすごく曖昧で……」

「あ、俺も気が付いたら……って感じだったんだよな。りせ、確かお前も……」

「うん。あんまり……、覚えてない」

 

「直斗は、どうなんだ?」

 陽介が問う。

「僕は、自分から入れられたわけなんでさすがに覚えていますが……、そういうことなら……」

「うむ。さわられた記憶は曖昧、テレビの中のことは知らない。もちろんマヨナカテレビのことも……。この線でを貫き通すのがいいだろうな」

 直斗の言葉を受けて、悠が結論付ける。

 

「分かりました。ある意味虚偽の証言となってしまうことは本意ではありませんが、もう僕たちも子供じゃありませんからね」

 直斗の言葉に、皆が頷く。

 

 しかし、悠だけはその言葉に何かが引っ掛かったのか、表情を曇らせたまま下を向いていた……。

 

 

  * * * * *

 

 

 証言台には天城雪子さん。

 

---天城雪子さん。あなたは2011年の4月15日、どこで何をしていましたか?

「よ……、よく覚えてはいませんが……、家の手伝いが忙しくて……、その……、学校も休んでしまって……、ずっと旅館の仕事をしていました……」

---翌日は、どうですか?

「あ……朝早くから仕込みのお手伝いをして……、そのまま厨房に……。そして午後に……、午後に宅配便が来て…………」

---それで、どうしましたか?

「荷物を受け取って伝票にサインしていたら……、なんか急に気が遠くなったような気がして……、その……すみません! ホントによく覚えていないんです!」

---その宅配便業者は、生田目太郎氏でしたか?

「……分かりません」

---トラックの中に、大型テレビはありましたか?

「わか、分かりません!」

---マヨナカテレビのことは、御存じですか?

「噂は……、知っていました」

---見たことは、ありますか?

「ありません」

---かなり噂になっていたと思いますが、見ようとは思いませんでしたか?

「旅館の仕事で毎日夜中まで忙しかったですから……」

---分かりました。

 

 続いて、巽完二さんが証言台に。

 

---巽完二さん。あなたがさらわれたのは、いつですか?

「……え? あ、いや……、さらわれたっつーか、天城さんと同じように宅配業者が来て……、そこからの記憶は正直曖昧です」

---それは、何月何日のことですか?

「んなモン、日記つけたりしてるわけじゃねーんで、分かりません!」

---その宅配業者は、生田目太郎氏でしたか?

「分かりません。そもそも、生田目って人の顔も知らなかったし……」

---不倫騒動やなんかで、テレビでも話題の人でしたが、知りませんでしたか?

「あんまテレビとか見ないんで、知らなかったッス」

---マヨナカテレビを見たことも?

「ありません」

---分かりました。

 

 次に証言台に上ったのは、久慈川りせさん。

 さすが現役アイドルだけに、傍聴席が少々ザワついた。

 

---久慈川りせさん。あなたは2011年の6月21日、どこで何をしていましたか?

「分かりません。私も……日記とかつけないんで……」

---しかし、芸能人であるあなたなら、スケジュール管理は大切じゃないんですか?

「あ……あの頃は、一時的に芸能界がイヤになっておばあちゃんチに隠れてましたから……」

---確か、お婆様のお家は豆腐屋さんでしたね?

「はい」

---その間は、そこでお手伝いを?

「そうです」

---ではその時に、あなたのところにも宅配便が来たのですか?

「そう……だと思います。でも、その頃の記憶がはっきりしていなくて、宅配便とか、よく分からないです」

---質問を変えます。マヨナカテレビを見たことはありますか?

「ありません」

---噂は、知っていましたか?

「聞いたことは……あります」

---芸能界って、そういう噂話に敏感じゃないんですか?

「そういう風に決めつけるのはどうかと思いますけど。寧ろ、忙しくて決まった時間にテレビなんて見られませんから」

---でも、お婆様のところにいた間は、そうじゃなかったですよね?

「その時は……、悩んでて何もする気になりませんでした」

---分かりました。

 

 そして最後に、かつての探偵王子・白鐘直斗さんが証言台に立ったのだが、驚くべきことにその風貌は美しい女性に変わっていた。

 もちろん、私は事前の資料で実は女性だったと聞かされていたが、以前の姿を知っている人は少年だとばかり思っていたはずなので、ここでも傍聴席に大きなどよめきが起こった。

 

---白鐘直斗さん。あなたはこの事件について、探偵として警察に協力していましたね?

「はい」

---足立被告のことは、もちろん御存じで?

「はい」

---どういう印象を持っていましたか?

「少しおっちょこちょいな印象もありましたが、芯の強い方だとは思いました」

---2011年の9月頃、あなたはまだ捜査に協力していたのですか?

「いえ。久保受刑者の逮捕で事件は解決していましたので、僕は捜査協力から外れました」

---しかし、実際には山野真由美さん、小西早紀さんの両名を殺害したのは久保美津雄ではなかった。このことは気付いていたのですか?

「知りませんでした。……ただ、証拠があまりにも希薄だったので、違和感は感じていました」

---マヨナカテレビを見たことはありましたか?

「ありません」

---捜査の一環として見ることもなかったのですか?

「ただの噂話でしたし、そこに興味は沸きませんでしたので」

---そんな中、9月14日にあなたと思しき人物がマヨナカテレビに映ったとの記録があるのですが、そのことは?

「知りませんでした」

---その日、あなたはどこで何をしていましたか?

「普通に、自宅にいたと思います」

---次の日は?

「捜査協力からは外れていましたので、基本的に普通に通学して普通に生活していました。しかし、その日から数日の記憶はありません」

---数日、そうですね。その日を境に、あなたは数日間学校を休んでいますね。これはどういった原因ですか?

「多分風邪だったと思いますが、身体中が重くて療養していました」

---話を戻しますが、9月15日から記憶がないということは、その時に何かあったのですか?

「それもはっきりとは覚えていません」

---宅配業者が来たということは?

「来たような気もしますが、応対した記憶もありません」

---分かりました。

 

 証人四人が下がっていく。

 

 結局何だったんだ?

 四人が四人とも曖昧な証言で、肝心なところはみんな記憶がないの一点張り。

 これでは全く有益な証言になどなり得ない。

 

 と、誰かの視線を感じた。

 誰だ?

 

 その感覚の方へと顔を向けると、そこには足立被告の不気味な笑顔が……!

 どういうことだ?

 あの四人の証言には、何か意味があったというのか?

 

 何だその顔は!

 何故私を見る!?

 

 その瞬間、私の意識は遠くその場から飛び去った。

 

 

  * * * * *

 

 

 真っ黒な異空間。

 

 そこでフッと目を覚ました悠は、軽く頭を振って考えた。

「……俺は、どうしたんだ? 確かずっと法廷にいて……。そうだ! 足立さんの公判の裁判員をしていたんだ! ずっと今まで、この五年間……。でも結局、足立さんを有罪にする決め手はなかった。今回はみんなが証言台に立ったというのに、何も進展がなかった。やはり誤魔化しの証言をすべきではなかったのか? 俺たちが、テレビの世界を証明しさえすれば……!」

 

 闇の中で浮いている悠は、さらに考える。

「待てよ。……よく考えたら、俺が裁判員であるはずがないじゃないか。じゃあこの記憶は何だ? この5年間の、鮮明な公判での記憶は……! 俺はずっと、どこから足立さんを見ていたんだ!?」

 

 と、そこに現れたのは全裸の足立。

 

「いやあ、さすがだねぇ悠君。君のワイルドの力は凄いよ。無意識の精神コントロールで裁判員の心にシンクロしちゃうんだから」

 

「な……、何ですって!?」

 足立の言葉に戸惑う悠。

 その足立が全裸姿であることには大して疑念は沸かず、自らの心をジッと見つめた。

 

「(ペ……、ペル、ソナ!!)」

 ペルソナ能力を発動させる悠。

 ワイルドのカードが悠の掌に現出する。

 そこには、悠と精神が同化した裁判員の魂が閉じ込められていた。

 

「こ……、これは!!」

 

 宙に浮く足立が、悠の耳元で囁く。

「ペルソナ能力に限界はない。君は事件以後もステータスを上げ続け、精神が肉体を凌駕するほどの力を身に付けてしまった。今回の僕の公判で、君は真実をさらけ出すかどうか悩み、その迷いの心が法廷に飛び、一人の裁判員の魂を支配してしまった。……面白いよねぇ。こんな面白いことが、まだこの世には残ってたんだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はそんなこと……!!」

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも心配しなくていい。僕の言う通りに、してくれればいいんだよ」

 そう言いながら足立は、悠の耳たぶに噛り付いた。

「……うっ!! 足立さん、何を!?」

「君言ってたよね~? 僕のためにひと肌脱ぐって。……ホラ、ご覧よ」

 

 足立の視線が悠の身体へと移る。

 と、悠も自分の身体へと視線を移すと、なんと自分も全裸ではないか!!

 

「僕を償わせてくれるんだろう? じゃあさ、その前に僕を満足させてくれよ~」

 飢えた獣のように、足立が悠の乳首を左手で弄びながら、右手は悠のワイルド・ポールへと伸ばしていく。

 

「う……!!」

 

 まるで金縛りにでも遭ったかのように、全身が固まって動かない悠。

 足立の成すがまま、その全身を貪られる。

 

「……君は凄い。並外れたペルソナ能力者だよ。イザナミが一目置くのも分かるね。……でもね、僕もイザナミに選ばれたんだ。フフフ……」

「な……!」

 

 悠のポールを舌で転がしながら、足立は続ける。

 

「君が人の可能性のマックス値ならば、僕は人そのものなんだよ。分かる? ……面倒なことはご免、楽して過ごしたい。そりゃ、時には熱血振る舞ってもみるけど、それで損はしたくない。肝心なとこでは周りに合わせてく、長いものは大いに巻かれる。それが人間本来の姿なんだよ? だからイザナミは、僕にも君同様ワイルドの力を与えてくれた。人類代表って意味でね」

 

 足立がここで立ち上がり、硬くいきり立った自らの肉棒を、悠の口元へ押し込んでいく。

 

「ウグ……!」

 

「……ホラ! しっかりやれよ!」

 足立のジュニアを、抵抗する術なくその口中で愛撫する悠。

「は! うまいじゃないか。……悪いけどね、イザナミの人間観察はまだ終わっていない。終わるどころか、ますます『見る力』を強化していこうとしている。今度はマヨナカテレビ以上のモンが出てくるよ~、きっと!」

 

 と、足立は徐に自らのモノを悠の口中から引き抜き、素早く悠の下半身へ廻ったかと思うと、そのアヌス目がけて自らの鋭い肉ナイフを突き刺した!

「あっぐ!!」

 激しく腰を動かす足立。

「……は! 僕……はね! おもしろ……ければ! 何でも……いいのさ! はっ! 面白いものが……人生にある……、それが……一番の……楽しみってもんじゃないかい? はっ!」

 

 やがて足立は昇天し、悠の中で果てた。

 

「ふう……。いやあ、やっぱり君は面白いねぇ。ここでやってるだけじゃ、物足りないなあ。……ん、やっぱりムショなんて入ってる場合じゃないかな。あ~、さっきのみんなの証言の時でもね、ちょっと口挟んでみようかなーなんて思ってたんだ。テレビの中で僕たちが戦いました~っなんてね。そしたら盛り上がっただろうね~法廷は。まあでも、誰も信じちゃくれないだろうから、また精神鑑定に逆戻りになっちゃう。もうあんな退屈なことすんのヤだからさ~、黙って見とくことにしたのよ。結局さ、証人として証言したところで何も変わらない。それが現実なんだよ。……あ、そろそろ判決出るみたいだから帰ろっか?」

 

 そう言うや、足立の身体はビュンと下方の闇へと吸い込まれていった。

 

 残された悠は、足立に犯された事実を改めて全身に感じ、抵抗出来なかったこと、最中の足立の言葉への憤り、そして身体は正直に感じてしまったことへの怒りとある種の満足感に心を揺らしながら、次第に意識を失っていった……。

 

 

  * * * * *

 

 

 法廷では、突然失神した青年裁判員を救護室へ運んだ後、最終審議に入った。

 

 そして数分後、裁判官が判決文を読み上げた。

 

「稲羽市連続殺人事件における暴行致死、殺人未遂、及び殺人教唆について、当裁判所は次のように判決する」

 

 一瞬静まり返る法廷内。

 そして……。

 

 

 

「主文。被告人は……無罪とする」

 

 どよめく傍聴席。

 しかし、そのほとんどが「やっぱり」といった空気に満ちていた。

 そして、足立被告は……微妙に呆れたような表情だ。

 

「理由。本件公訴事実の内容。本件の公訴事実は、被告人は、第一、2011年4月12日、山野真由美を拉致した結果死に至らしめ、住宅屋根のテレビアンテナに吊り下げ、第二、2011年4月15日、小西早紀を拉致した結果死に至らしめ、街中の電柱に吊り下げ、第三、2011年7月12日、警察に自首してきた久保美津雄受刑者に対して殺意を持って暴行し、第四、2011年4月未明、生田目太郎氏が殺人につながる誘拐を引き起こすよう煽動した、というものである。当裁判所は、本件第一公訴事実、第二公訴事実、第三公訴事実、第四公訴事実のいずれについても犯罪の証明がないと判断したので、その理由を以下に説明する。……本件第一公訴事実について。被告人は、天城屋旅館に宿泊していた山野真由美を訪ね、身辺保護と称してロビーで話をし、不倫関係について問い質した結果頭に来たので、山野真由美の身体を掴んで大型テレビに中に入れた。そして、そのテレビの中というのはどんな世界なのかも分からず、死ぬかもしれないという意志を持ってその行為に至ったと供述した。しかしながら、テレビのモニターが人体を溶け込ませるような構造ではないこと、仮に特殊な物理的細胞変化等によって可能たらしめたとしても、法廷で被告人が再現することも出来なかったため、かかる行為は不可能なものと判断する。さらに、被告人が山野真由美を拉致したとする特定の場所は限定出来ず、テレビアンテナに吊るすという行為も実行した形跡なく、死因の直接的要因を被告人に求めることも困難である。本件第二公訴事実について。被告人は、テレビアンテナに吊るされて死亡していた山野真由美の第一発見者として、小西早紀の取り調べを行い、生田目太郎氏と肉体関係があったと示唆される言動に憤り、大型テレビの中に入れたと供述した。しかしながら、本件第一公訴事実同様、テレビ内に人体を入れることは不可能と判断され、小西早紀を拉致したとする特定の場所は限定出来ず、電柱に吊るすという行為も実行した形跡なく、死因の直接的要因を被告人に求めることも困難である。本件第三公訴事実について。被告人は、連続殺人事件の犯人として自首してきた久保美津雄受刑者の取り調べを行い、署内の総意としては悪戯と判断されていたが、もし立証の方向へと流れたら面白くないと感じ、殺意を持って大型テレビに入れたと供述した。しかしながら、こちらも本件第一公訴事実、第二公訴事実同様、テレビ内に人体を入れることは不可能と判断され、久保美津雄受刑者を拉致したとする特定の場所は限定出来ず、結果的に15日後に姿を現した久保美津雄受刑者には外傷もなく、被告人の殺意についても否定的であった。本件第四公訴事実について。被告人は、生田目太郎氏から、マヨナカテレビに映った人間が数日後に死ぬので保護してほしいという電話を受け、そのような夢みたいな話には取り合えないとしながらも、生田目太郎氏に誰にも見つからない場所にかくまってあげればいいとテレビに入れることを煽動したと供述した。これについては、生田目太郎氏も五年前の取り調べで類似する証言をしていたが、やはりこちらも本件第一公訴事実、第二公訴事実、第三公訴事実同様、テレビ内に人体を入れることは不可能と判断されるため、殺人教唆としての証拠たりえない。マヨナカテレビについては、見えたという稲羽市民の声も多くあったとされているが、それが事実である証明には至らず、証言台に立った四名の証人の証言から誘拐の事実を立証するものもなく、その物的証拠もない。……結語。以上の検討により、本件第一公訴事実、第二公訴事実、第三公訴事実、第四公訴事実いずれも犯罪の証明がないことになるため、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言い渡しをする。よって、主文の通り判決する。……なお、被告人の本件に関する判決は無罪とするが、山野真由美、小西早紀、久保美津雄受刑者、生田目太郎氏四名に対する職務行使の方法及び結果については警察官として不適切であると思われ、その処分を警察本部に委ねるものとする。以上」

 

 

 

 結局、足立を法で裁くことはやはり不可能であった。

 行きついた先は、警察官としての職務怠慢を指摘されたに過ぎない。

 今後、警察機構として足立に何らかの処分が下るであろうが、こちらも物的証拠が何一つない以上、目に見えて重い処分とするのは難しいだろう。

 

 

 

 そして足立透は、同日の内に留置場を釈放された……。

 

 

  * * * * *

 

 

 言葉なく駅までの道程を歩く雪子、りせ、完二、そして直斗。

 

 信号待ちで止まったところで、完二が重い口を開く。

「……結局、俺ら何しにこんなとこまでやってきたのかねぇ」

 

「足立の……無罪に手を貸しただけ?」

 りせが暗い表情で呟く。

 

「もしそうなら、なんだか悲しい……」

 雪子も沈んだ心を隠せない。

 

 信号が変わり、四人が歩き出す。

 と、直斗が大きく伸びをして、快活に答える。

 

「これで、良かったんですよ! 所詮、テレビの中に人を入れるなんで非常識としか言えない。僕たちが経験したことは、この世界の範疇では収まりきらないことだった。でもそれは、僕たち自身の糧になったし、これからも人間の可能性を守る責任者として、この世界をしっかり見ていけばいい。……そうじゃないですか?」

 

「……だな。俺たちゃ、俺たちだ。人知れず人間の可能性を守るってのも、オツなもんだぜ」

「完二のクセに、カッコいい!」

「う……、うるせい!!」

 

「ハハ……、アハハハハハハハ!」

 

 久々に見た完二とりせのお決まりの掛け合いに、雪子が思わず吹き出す。

 

「さあ、みんなのところに、帰りましょう!!」

 

 直斗の言葉を皮切りに、四人が勇んで駆け出していく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 自宅のベッドの上で目覚めた悠。

 その全身には、今なお足立の感覚が生々しく残っている。

 

 夢だったのか?

 いや、夢じゃない。

 この肛門から流れる白きモノ……、これは紛れもなく足立の体液。

 

 この5年間に積み上げてきたものが、悠の中で音を立てて崩れていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 街外れの白い建物。

 有刺鉄線の張られた窓。

 その室内には、無機質な白いベッドが一つ。

 

 裁判所から運ばれた青年が、虚ろな目で外を眺める。

 

「……か~ら~す、なぜなくの……。からすはや、ま…………、に。……ふふ、ふふふははは」

 

 

(了)

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