※この作品はR-18です。

変態特別捜査隊   作:三化月

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【カップリング】
 主×足

※足立の新たなる力で迷いの道に入ってしまった悠。
 その悠を助けるべく、特捜隊の面々がテレビの中へと赴く!
 そして展開される新たなる戦いとは……!?


第24話「道化師の罠(後編)」

 5年に渡る足立裁判が終了し、結局無罪判決となった足立透は武蔵野署へ異動。

 一方、自らのペルソナ能力の暴走によって罪もない青年裁判員を精神異常の窮地に追い込み、混乱した精神世界の中で足立に犯された悠は、身も心もボロボロになっていた。

 なんとか立ち直ろうとする悠だったが、そこにまたしても足立が現れ、悠に「心を救ってやる」と持ち掛ける。

 人類代表という意味合いのもと、イザナミから新たなペルソナ能力を授かった足立は、悠のワイルドカードに自分のエネルギーを注入し、悠の心をコントロールせんとする。

 

 そんな足立の介在、そして自らの精神破壊の相乗効果により、突如悠は身体が三つに分裂してしまう。

 

 一人目の悠は、性欲と活気に溢れた「見結(けんけつ)」の念から現出した悠。

 自分の存在を全ての中心に据えた行動をするこの悠は、社内の同僚や先輩、果ては取引先の女性まで手当たり次第に性欲処理の対象とし、そのプラスエネルギーが仕事面でもいい方向に作用していた。

 

 二人目の悠は、こだわりに囚われた心を何かに頼ることで満たそうとする「戒取結(かいしゅけつ)」の念から現出した悠。

 悠の中で間違いなく一番の存在である陽介に全面依存し、そのマイナスエネルギーが仕事を放り出し、陽介のベッドから離れようとしなくなっていた。

 

 そして三人目の悠は、真実が全く見えなくなってしまった「疑結(ぎけつ)」の念から現出した悠。

 判断能力を失い、プラスとマイナスが混在した状態で足立の要求を受け入れ、混乱の原因を生んだ足立に従うことでその心を救ってもらおうとしていた。

 

 三人の悠が三結それぞれの煩悩に生きる中、陽介がその行動を不審に思い、悠の会社に電話を入れる。

 すると、自分のベッドで眠っているはずの悠が東京では元気に出社しているという話を聞く。

 直斗に相談する陽介。

 二人は悠の分裂の原因が足立にあると疑い、仲間を集結させて東京へと向かう決意を固めたのだった……。

 

 

  * * * * *

 

 

 汽車から新幹線に乗り継ぎ、東京駅に降り立った陽介、千枝、雪子、完二、そして直斗の五人。

 それぞれに自分の道を歩き出している特捜隊の面々だが、仲間のピンチに駆けつけるその団結力は今も変わらない。

 

 陽介はジュネスの正社員となって4年。

 販売推進部のチーフとして、日々様々な葛藤と戦っている。

 

 千枝は念願だった警察学校の受験を見事パスし、来るべき入校の日に向けて鍛錬に励んでいる。

 

 雪子は天城屋旅館の若女将として、今や実質的に旅館全体を切り盛りする存在に。

 

 造形作家目指して修行中だった完二は、独立開業した手作り雑貨の店が軌道に乗り始めていた。

 

 そして直斗は、東京の特殊科学捜査研究所に勤務し始めて既に5年。

 女性風体へと変わり、心の欲求にも正直になることで、直斗もまた大きく躍進し始めていた。

 

「あー!! 東京の空気、ひっさびさだなあ」

 新幹線から中央線へ乗り換える道のりで、陽介が伸びをしながら歩く。

「やっぱりこっちは、人が多いね……」

 若干歩きにくそうな雪子。

 八十稲羽在住組にとって、やはり都会の雑踏は少々窮屈か。

 

「で、りせとはどこで合流すんだ?」

 陽介の問いに直斗が答える。

「さすがに顔が指すだろうということで、足立さんのマンション付近で落ち合うことにしました」

「足立か……。あの野郎、まだ懲りねーのかよ!」

 黒髪で真面目な風体となった完二だが、気の荒いところは変わらない。

「ま、あたしたちが揃えば怖いモンなしよ! ……何度でもギッタンギッタンにしてやるんだから!」

 ノリノリの千枝がボキボキと指を鳴らす。

 

 そして一行は中央線で三鷹まで移動し、遼太郎から聞いていた足立のマンション近くでりせと合流。

「みんな、おっまたせ~!!」

 今やトップアイドルとして歌やドラマに大忙しのりせ。

 帽子にサングラスという変装風体で、捜査隊の面々と再会した。

 

 そして、陽介を先頭にいざ六人の特捜隊が足立の部屋へと歩を進める!

 

 

 

 最近にしては古風な、石造りのマンションの2階。

 日曜午後3時というタイミングだが、足立在宅の確証はない。

 

「……行くぜ」

 陽介の言葉に、皆が無言で頷く。

 

 足立の部屋のドアノブを陽介がゆっくりと回す。

 

 ……空いてる!?

 

 勢いよくドアを開け、中に入る捜査隊の六人。

 と、部屋の隅で三角座りをしている悠の姿が……!!

 

「ゆ……悠っ!!」

 

驚く陽介たち。

 

「バ……バカな……!! さっき東京の悠には電話で確認したんだ! アイツは確かに自宅にいた……。なのに、ここにも……」

「まさか……、三人目の……悠センパイ?」

 りせが恐る恐る現実を口にする。

「こ、これは……」

 そして直斗が、虚ろな眼の悠を見て険しい表情となる。

 

「悠ーーーっ!!」

 叫ぶやいなや、部屋に上がり込んで悠のもとに走る陽介。

 そして、悠の両肩を掴んで呼び掛ける。

「悠! お前、悠なんだよな!? ……オイ!!」

 陽介に激しく肩を揺らされる三人目の悠。

 しかし、悠は意識があるのかないのか分からないような眼で、ジッと宙空を見据えている。

 

 部屋の中を見渡す特捜隊の面々。

「足立のヤツは……いねぇみたいだが……」

 完二が呟く。

 

 と、テレビのモニターが一瞬光ったかと思うと、砂嵐のような画像が映し出された!

 そして、うっすらと浮かび上がってきたのは……、足立のニヤついた顔!!

 

「あ……、足立さん!」

「な、なにぃ!? テッメェ~!!」

 モニターを見つめる直斗を押しのけるように、陽介が駆け寄る。

 

「やいテメェ!! 悠に何をした!?」

 憤る陽介に、テレビの中の足立はからかうような調子で答える。

「やっぱり君たちかあ。……いやあね、悠君のカードのエネルギーが今朝から妙な信号を出してたからさあ。こりゃなんかあるな~って思ったんで、とりあえず『中』に避難してたんだよ」

「……う、うるせぇ! テメエ、性懲りもなく……、どういうつもりだ!?」

「べっつにぃ? どういうつもりもこういうつもりも……。悠君が苦しんでたから助けてあげただけだよ。なんなら君たちも、僕がらく~な道へ誘ってあげようかあ?」

 そう言いながら、足立はスゥーッと奥の方へと消えていった。

 

「……おい直斗!」

 陽介が直斗の方を見る。

「入るしか……、ないでしょうね」

 直斗の言葉に、千枝、雪子、完二、りせも同意する。

「あたしはいつでもいいよ!」

「覚悟は……、出来てる」

「あんなヤローを、野放しにはできねーだろ!」

「悠センパイを……、助けなきゃ!」

 

「……よし! じゃあ、みんな行くぜ! 悠、必ず助けてやるからな!!」

 そんな陽介の言葉も、悠には届いていない様子だ。

 

「……行きましょう!!」

 直斗の号令で、特捜隊の面々がテレビの世界へと入っていく!

 

 

  * * * * *

 

 

 久々に入ったテレビの世界は、またもや深い霧に包まれていた。

 六人はそれぞれの専用眼鏡をかけ、辺りを見渡す。

 

「あのヤロー!! どこ行きやがった!?」

 完二が鼻息荒く動き回る。

「そ、そうだ! クマの奴はどうしたんだ!? ……おーい! クマーーーッ!!」

 陽介が呼び掛けるも、クマの返事はない。

 

「……もしかして、またクマ君も捕まったのかしら」

 雪子が心配そうに呟く。

 

 と、周囲の景色が法廷へと変わり、裁判長席前の机上に、足立が下品な足の組み方で座っていた。

 

「やあやあ、ようこそ僕の世界へ。みんな相変わらずペルソナ能力を使いこなせるなんて、いやあ凄い凄い」

 パチパチと手を叩く足立。

「……ふざけんな!! てめぇ悠に何しやがったんだ!?」

 足立の言動に腹立たしさを増幅させる陽介。

 

「言ったじゃない、さっき。苦しんでたみたいだから、僕の新しい力で助けてやったんだよ」

「新しい……力、だと?」

 足立の言葉に、完二が反応する。

「そう。あの時の裁判では君たちもご苦労だったねぇ。結局、な~んの役にも立たなかったけどね~。でもね、おかげで僕は無罪な上にイザナミから悠君とは違うワイルドの力を手に入れた。……ボクが人類、人類はボクってね」

「……何ワケ分かんないこと言ってんのよ!」

 苛立った千枝が足立に走り寄り、跳び蹴りを試みる。

 しかし、スッと消えた足立は、傍聴席の方にまた現れる。

 

「まあ、そう興奮すんなよ。そーいう無駄なエネルギー使わないでさあ、君たちもらく~に生きた方が幸せだよお?」

 傍聴席の真ん中、前の背もたれに両腕を預け、足立は実にリラックスした様相だ。

 

「……足立さん。新しい力と仰いましたが、その意見ではあなたは何も変わってないじゃないですか」

 直斗が一歩前に出る。

「何も変わってない。……ハハハ、そうだな。僕は何も変わってないよ? 僕はずっとありのままの僕だ。だから選ばれたんだよ。分かる? ……君たちにやられて、最初は僕も考えを変えようとしたさ。でも、現実社会では償いたくても償えない。それはあの時の裁判が証明したろ? じゃあどうすればいい? もう思ったように自由に生きるしかないじゃない。……人間、ある程度の努力は必要だと思うよ? でも無理してもしょうがない。人間には限界がある。それを超えようとするなんてコタァ、それこそ無意味なことだ。そう思わないかい?」

 

「……詭弁よ!」

 雪子があの時のように言い放つ。

「詭弁。……フフ、そうだね。詭弁だよ? この世の中、全て詭弁で成り立ってるってことに、君たちは気付いてないんだよ。人間の言ってることが正しいか間違ってるかなんてことは、実は誰にも判断できない。だから結局のところ、その場その場で説得力のあることが真実なんだよ。それが人間社会だ。……君たちも、もうみんな社会人として歩き始めたんだろう? 早めにそーいうことに気付かないと、足元すくわれちゃうよ~」

 

 足立の持論に、直斗が反論する。

「足立さん。僕たちは言葉遊びをしに来たんじゃありません。あなたの狙いは何なのですか? 何故先輩を陥れようとするのですか?」

「……白鐘君。頭のいい君なら分かるはずだ。いつ僕がもう一度力を得たと思う? あの裁判で君たちは証言台に立ったよね? そこでどういう証言をした?」

「そ、それは……」

「あれは君たちに与えられた唯一のチャンスだったんだよ。あそこで虚偽の証言をしたことにより、君たちも人類の可能性から逆戻りした。この意味が分かるかい? ……リスクを回避して、自分たちの身を守ることを一番に考え、無難にやり過ごす方向に走ったわけだ。でもそれは、人間として最も一般的な方向。その方向に君たちを誘導できたことで、イザナミはもう一度僕に賭けてくれたのさ」

 そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる足立。

 

「……人間に、未知の可能性などは……ないんだよ!!」

 そう叫ぶや、足立は天高く舞い上がり、暗黒の空で大きく両手を広げた。

 

「白鐘君! 言葉遊びをバカにしちゃいけないよ? それこそが人間の力そのものだ! 僕が新しく得た力……、言葉遊びの怖さを、思い知るがいい!! ……マガツイザナギ!!」

 

 足立の眼前に現れた赤黒いマガツイザナギ!

 それは、一度目に戦ったあの時の何倍も虚無感を感じさせる、まさに『何も無い色』を人間が視覚的に感知した結果の赤黒さだった。

 

「出やがったな! 俺たちも……、ペルソナ!!」

 陽介の叫びとともに、スサノオ、スズカゴンゲン、アマテラス、ロクテンマオウ、カンゼオン、そしてヤマトタケルが六人の頭上に現れた!

 

 と、足立のマガツイザナギが六体に分裂し、特捜隊それぞれのペルソナに食らいついた!

 

「グアッ!!」

 

 マガツイザナギの圧倒的な力に飲み込まれる特捜隊のペルソナたち。

 そして足立の眼が……、ギラリと光った!

 

 

  * * * * *

 

 

 周囲全てが真っ黒な闇の空間。

 どうやらテレビの世界ともまた違う世界のようだ。

 

 その空間に浮いている陽介が、ふと目を覚ました。

 

「な……、何だ? ここは、どこだ!?」

 

 と、目の前に巨大な足立の顔がボンヤリと姿を現した!

 

「て、てめぇ! 何を……、うっ!!」

 まるで金縛りにあったかのように、身体を全く動かすことができない。

 そして、自分が全裸であることに気付く陽介!

 

「花村陽介君……。君は高校卒業後、大学に進学することもなく、積極的に就職活動することもなく、結局親のスネをかじってジュネスの正社員となった」

「な……、なんだと!?」

「今さら受験勉強しても大した大学には入れない。かと言ってこんな田舎町じゃあ就職先に幅もない。その点、ジュネスと言えば全国的な大企業だ。親のコネもあるし、入社に大した苦労はしないで済む。コレが一番手っ取り早い方法だよなあ」

 

「……ち、違う! 俺はそんなつもりでジュネスに入ったんじゃあ……」

「じゃあ、どんなつもりで入ったんだい?」

「お、俺は……、もっと自分を鍛えなきゃいけないと思ったんだ! あの事件があって、自分のダメな部分も受け入れて、でもまだまだ全然足りてねーと思った。だから敢えて親父の目の届くところで、もっぺん一から鍛え直そうと思ったんだ!」

「で? 何か変わったのかい? 前の自分を大きく超えるような自分に、君はなったのかい?」

「そ……それは……、まだそこまでは……。でも! チーフとして会社のためにどうすればいいかを、毎日考えてる! 俺は、俺なりに……、頑張ってんだ……」

 

 ニヤリと笑う足立。

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも間違ってない。たっくさん勉強していい大学に入ればいいってもんじゃない。就職先だって、楽しては入れればそれに超したことはない。ああいや! 君が楽ばかりしてジュネスに入っただなんて言ってないよお? それなりの苦労はあったろう。それなりの苦労で自分なりに頑張る。それのどこがいけないんだい? 今のままで充分じゃないか。もっと肩の力を抜いて、自分にできることだけをやっていればいいんだよ。それで世の中うまく回る。……人間はねぇ、世の中を無難に回していく、重要な歯車なんだ。それが……、真実だよ」

 

 陽介の身体から、みるみる熱意が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 別の真っ暗な空間。

 そこには、陽介と同じように全裸・金縛り状態で宙に浮かぶ千枝がいた。

 

 目を開けて、自分の状況を肌で感じ取る千枝。

「な……、なによコレ!? ここは一体……」

 

 と、巨大な足立の顔面がその眼前に現出した!

 

「ハッ……!! ちょ……、くっそ!!」

 恥ずかしさと悔しさで、頭が完全沸騰してきた千枝。

 

「里中千枝君……。君は高校卒業後、皆が大学や企業に進んでいく中で一歩も前に出ることなく、武道の鍛錬という逃げ場を経てなんとなく警察学校に入ることにした」

「ちょ……、何言ってんのよ!?」

「勉強するのも面倒。かと言って入りたい会社もない。警察官には憧れてたけど、気が付いたら受験の時機を逸してた。まあ適当に身体鍛えて浪人してりゃあ、チャンスは巡ってくるもんだもんなあ」

 

「……ち、違う! あたしはそんなつもりで警官目指したんじゃあ……」

「じゃあ、どんなつもりだったんだい?」

「あ、あたしは……、こんな田舎でも、生まれ育ったこの町が好きだった。そんな町を、アンタ達のような悪い奴から守りたい! その一心で警察官になる決心をしたのよ! アンタなんかに、何が分かるって言うの!?」

「でもさあ、それなら高校出たらすぐに警察学校入んなきゃ。どーして妙な回り道をしたんだい?」

「そ……それは……、事件のゴタゴタで三年生まで進路とか考えらんなかったし……、親の反対もあったりでストレートにはいかなかった。だから……、せめてもっと強くなってからって思って……」

 

 ニヤリと笑う足立。

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも間違ってない。勉強して大学に入る? いい会社に就職する? まあ親御さんにしたらそーいう道を望むのは当然だ。それを説得するのは大変だよねぇ……。分かるよお? 分かる! それに、警察官は大変だ。どんな事件に出くわすか分からないし、どんな大悪人と戦わなくっちゃいけないか分からない。そのために回り道して身体を鍛えたのならいいじゃないか。君はきっといい警官になると思うよ? 他人より少し遅れたからと言って、別に肩張るほどのことじゃない。君が無理することより、君が無事でいることの方が親御さんはきっと望んでる。自然体で~、無理せずゆっくりでいいんだよ。……人間に無理は禁物。無理して突出すれば、周りに迷惑がかかっちゃう。それが……、真実だよ」

 

 千枝の身体から、みるみる使命感が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 また別の真っ暗な空間。

 ここでは雪子が、陽介や千枝同様、全裸・金縛り状態で宙に浮かんでいた。

 

 ゆっくりと目を開く雪子。

 目の前には、足立の巨大な顔面が微笑んでいる。

 

「……キャ……、キャーーーッ!!」

 

 逃げようとして身体を動かそうとした雪子だったが、首から下は全く微動だにしない。

 そして、自分の全裸姿を確認すると、置かれている状況に今にも失神しそうになった。

 

「天城雪子君……。君は高校卒業後、流れのままに家業の旅館を引き継ぐべく、若女将としてその仕事に専念するようになった。そう。またしても籠の中に戻ったわけだ」

「な……、何ですって!?」

「一度は外へ飛び出そうとしたが出来なかった。まあ外の世界も旅館の中も、同じような苦労がある。そういう名目があるなら、そのまま敷かれたレールに収まってる方が楽だもんなあ」

 

「……ち、違うわ! 私はそんなつもりで旅館に残ったわけじゃあ……」

「じゃあ、どんなつもりで残ったんだい?」

「た……、確かに始めは籠の中から逃げたいと思ったわ。でも籠の中だからって外の世界に劣るわけじゃない! 旅館の仲間みんなの協力が旅館を大きくする。その力に……、私自身ぶつかってみたくて……」

「ふーん。で、君自身、それで成長したのかい? 旅館を盛り上げていく自信は、ついたのかい?」

「それはまだ……、まだそこまではいってない……。でも! 毎日一所懸命勉強して、お客さんに愛されるいい旅館にしてきたいと思ってる。そのために、ホントに毎日……」

 

 ニヤリと笑う足立。

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも間違ってない。敷かれたレール大いに結構じゃないか。そんな幸運に恵まれることなんてそうないよ? 外の世界を知らなくたって、約束された場所があれば生きていける。もちろん、そこである程度は頑張らなきゃ結果はついてこない。だから頑張るのも大いに結構。ただ、必要以上に汗水流したって、お客さんにはな~んにも見えないよ? 今お客さんが満足してくれてるんだったら、それでいいんだ。用意された自分の場所があって、そこで誰かのためになることが出来る。それでいいじゃない。……人間はねぇ、報われる努力とそうでないものを見極めなきゃいけない。効率も大事。それが……、真実だよ」

 

 雪子の身体から、みるみる習練の心が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 また別の暗闇では、完二が全裸・金縛り状態で浮かんでいた。

 

「な……、なんだこりゃあ!? クソッ!!」

 動かぬ身体を何とかせんともがく完二。

 そして眼前に、足立の巨大な顔面が現れた。

 

「テ……、テメェは!!」

 

「巽完二君……。君は高校卒業後、元々進学の意志もなく、実家の染物屋を継ぐこともなく、たまたま知り合った造形作家の家で住み込み修行できた流れで、小さな雑貨屋店主に収まっている」

「ち……、小さくて悪かったな!!」

「高校時代は悪さばかりで親にも迷惑かけっぱなし。でもその親の仕事を継ぐこともしないで離れていく。まあ、イヤなもんからは逃げたいし、自分が満足なら周りのことなんか別に関係ないもんねぇ」

 

「バ……バカ言うな! 俺はそんなつもりで修業してきたわけじゃあ……」

「じゃあ、どんなつもりで今の仕事を選んだんだい?」

「そ……、そりゃあ家継ぐかどうかは迷ったよ。でも、俺がやりたいこととはちょっと違ったんだ! ホントにやりたいことが出来て、いい師匠に巡り合えて……、きっとお袋も喜んでくれてる……はず」

「喜んでる……はず、か。ホントにそうだと……いいんだけどねぇ」

「バ……、テメェいい加減にしろよ!? お袋はきっと喜んでくれてる。今までさんざん迷惑ばっかかけたけど、俺のやりたいようにやれって、言ってくれたんだ。……そりゃ、家業を継ぐことは出来なくなっちまったけど……」

 

 ニヤリと笑う足立。

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも間違ってない。迷惑かけるのは子供の特権。親はね、子供に迷惑かけられた方が嬉しいんだよ。家業継ぐことが出来なくたって、いい会社に就職して親御さんに楽させてやれなくたって、子供が幸せなら親も幸せなんだよ。小さなお店結構じゃないか。今の自分のことを一番に考えてりゃいいんだよ。それが親の願いでもある。うん! ……人間はね、人に甘えて生きていくもんなんだ。それが……、真実だよ」

 

 完二の身体から、みるみる求同心が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 別の真っ暗な空間、そこではりせが同じく全裸で浮かんでいた。

 ゆっくりと目を開け、まずその何も纏わぬ身体に驚愕した。

 

「え……、えええっ!? どういうことなの!?」

 

 そして動かすことに出来ない身体に、さらに苛立ちを覚える。

 と、目の前に現れた巨大な足立の顔!

 

「……ア、アンタ!! 何なのよ一体!?」

 

「久慈川りせ君……。君は高校を中退してめでたくアイドルに復帰。人気もどんどん出てきて歌にドラマにと引っ張りだこ。まさにアイドル、偶像そのものになってしまった」

「な……、何言ってんのよ!?」

「まともに高校も卒業せず、本当の君を誰も見ない世界に結局戻ってった。冷たい仮面被って感情のない偶像を演じていればみ~んな騒いでくれる。こんないいことはないよねぇ」

 

「そ……、そんなつもりで私は芸能界に戻ったんじゃあ……」

「じゃあ、どんなつもりで戻ったんだい?」

「ほ……、本当の私を見てくれてないって思ってたのは私自身のせい。私は……、私はありのままの私でアイドルに戻ったのよ! ファンのみんなはそれをちゃんと見てくれているわ! 偶像なんかじゃ……」

「偶像じゃない。……とすると、君はアイドルという立場が本格的な俳優や歌手に劣ることは絶対にないと思ってるんだね?」

「……えっ!? も、もちろんじゃない!! アイドルだからって下に見られるなんてことは……。そりゃ演技や歌は全然未熟だけど……。でも、でも私を応援してくれるファンは、ちゃんと私を見てくれてる……」

 

 ニヤリと笑う足立。

「いやいやいいんだよいいんだよ。君はな~んにも間違ってない。アイドルも立派な職業の一つだ。高校を満足に卒業してなくたって、もっと別の社会をいち早く経験してるんだから、こりゃあ自慢できることだ。演技も歌もみ~ん上手いなんて贅沢な話さ。そんなとこまで行かなくていいんだよ。君は今の君のスタンスで充分ファンがついている。君を見る目がどんなものであれ、それはちゃ~んと君のステータスになってるんだよ。……人間にはね、それぞれふさわしい立場ってもんがあるんだ。そこで頑張っていれば、無理に色んなものを越える必要はない。それが調和ってもんなんだ。それが……、真実だよ」

 

 りせの身体から、みるみる上昇志向が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 そして最後の真っ暗な空間。

 そこでは直斗がアンバランスなグラマー肢体を露に、金縛り状態で浮かんでいた。

 

「……こ、ここは……!?」

 目を覚まし、辺りの状況を冷静に窺う直斗。

 と、足立の巨大な顔面がヌーッと近付いてきた!

 

「あ……、足立さん! ここはあなたの……?」

 

「ハハハ、さすがだね~白鐘君。そう。ここは僕の精神エネルギーが生んだ異次元空間。ここでは僕の感性が全て。そして、ここで経験したことはそのまま現実の肉体にも跳ね返る」

「……鳴上先輩に、何をしたんです!?」

「ああ、ここではちょっと遊ばせてもらっただけだ。……彼は物凄いペルソナ能力を持ってる。その計り知れない精神エネルギーが、あの裁判の時、一人の裁判員の心を支配してしまったんだよ」

「まさか……、あの後精神病院に入ったっていう……」

「そう。悠君が自分を責める気持ち、僕に対して、世間に対して、そして何より自らを騙して生きようとしてしまったことに激しい嫌悪感を覚え、現実社会で僕を裁くことに一番熱意を傾けていた裁判員の彼に、精神が同調して心に入り込んでしまったんだ。……人の心が他人の心に入り込む。そうなればどうなる? 力の小さい方は飲み込まれて当然だ。悠君は無意識の内に、罪もない人間の精神を破壊してしまったんだ」

 

「…………」

 ショックを受ける直斗。

 その時の悠の気持ちが分かり過ぎるほど分かり、自己嫌悪の黒い塊が直斗の心にまで届いてきた。

 

「へぇ~……。敏感だねぇ、君は。話を聞いただけで悠君のドス黒い罪悪感のパルスに共鳴しちゃったんだ」

 

 足立が直斗の全身をジロジロと舐めるように見渡す。

 悠のマイナスエネルギーをキャッチしてしまった直斗は、その身体から黒いオーラを発し始めていた。

 

「白鐘直斗君……。君は高校を中退して科学捜査研究所に入った。探偵王子としての実績を買われ、警察の信頼も厚い。だが結局はいつまでも警察の犬だ。用が済んだら、捨てられる」

「そ……、それは……」

「国家公務員でもなければ、強制捜査の権限もない。でもそこがいいんだよねぇ……。だって自由だもの。な~んにも縛られないし、好きなように調べられるし納得いくまで追求できる。幸せな境遇じゃないか」

 

「ち……、違う。僕たちはそんな姿勢では……」

「ないというのかい? じゃあ何故警官にならなかった? 何故刑事にならなかった? ……謎を解くってことは、一見凄く難しくて偉くて気高いように感じるけど、結局自分本位なだけじゃないの? 謎だけ解いたらハイ終わり! あ~、こりゃあ楽だ」

「楽だなんて……、そんなふうに思ったりはしない……!! 僕は真実を突き止めたかった。そ、それが出来る最適の境遇が今の場所……。もちろん強制力は何もないけど……、きっと……、警察の役にも立ってる……!!」

「ふーん。じゃあさ、また僕を正しく裁いてくれよ。何の誤魔化しもない正しい証言で、僕の能力を、テレビの世界を、シャドウの存在を、僕たちが戦ったあの時のことを、もう一度法廷で示してくれよ! ……さあ!!」

 

「や……やめてくれ……、やめてくれーーーっ!!」

 

 そのまま黒いオーラに包まれて失神してしまう直斗。

 直斗の身体から、みるみる正義感が失われていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 深い霧の中、陽介、千枝、雪子、完二、りせ、そして直斗の六人がガックリと膝をついてうなだれている。

 その頭上には、六体のマガツイザナギが特捜隊の面々それぞれのペルソナを押し潰すように覆い被さっていた。

 

 足立の精神攻撃に、皆の心は今にも崩壊寸前だった。

 

「さあ~て、仕上げと……、いくかな」

 

 ……と、そこにクマのペルソナ・カムイと、辰姫神社のキツネのペルソナ・イナリが現れてマガツイザナギたちに体当たり攻撃!!

 

「な……、何だと!?」

 

「いい加減にするクマ! お前なんかに、みんなが負けるわけはないクマーーーッ!!]

 鋭く大きな三本爪で、六体のマガツイザナギを蹴散らしていくカムイ。

 そしてイナリも、猛烈な牙で噛みついていく。

 

「ぐあっ!! ……ちっくしょ~~!! お前は、お前なんかは、所詮何も無い出来損ないのシャドウだろーが!! ……お前の真実は失望! 無気力! 高望み! ペルソナが出せたからってシャドウには変わりない。お前はそもそも人間とは違うんだよ!! …………ハッ!」

 

「そ~だよお? クマは人間じゃないクマ。だから人間を虚無に追い込むお前の力は、クマの前ではそれこそ無意味!!」

 そう叫びながら、勢いよく陽介の前に降り立ったクマ。

「ヨースケ! ヨースケ!! ダメクマよこんな奴の口車に乗っちゃあ! グチャグチャ色んなこと考えてちゃダメクマ! ……人間が生きる、人間が可能性を信じて生きていくのは理屈じゃないってことは、ヨースケがクマに教えてくれたんじゃないクマかーーーっ!!」

 

 クマの言葉が眩い光となって、陽介の額に突き刺さる!

 そして、パッと目を見開いた陽介。

 

「……そうだ。俺は自分の未熟さを自覚した。だからこそ、それを克服する決心をしたんだ! 人間は世の中を無難に回していく歯車だってぇ? ……ふざけんな!! 人間にはなあ、限界なんてねーんだ!! あるとすれば、それは自分でその限界を決めちまった時だ。でも俺は違う。俺は悠から、仲間からそれじゃあいけねーってことを学んだ。限界を超えようとしねー奴は、人間でいる資格はねーんだよ!!」

 

 陽介の叫びとともにスサノオが閃光に包まれ、その頭上のマガツイザナギを光の力で消し去った!

 

「みんな! 目を覚ませ!! ……俺たちは、俺たちは無限の可能性を持つ、人間なんだーーーっ!!」

 

 千枝の目が開き、スズカゴンゲンの全身が発光して頭上のマガツイザナギを飲み込む!

「……無理は禁物だって~? 無理が通れば、道理は引っ込むものよ! あたしは全部乗り越えて、町を、みんなを守っていくんだーーーっ!!」

 

 雪子の目が開き、アマテラスの全身が発光して頭上のマガツイザナギを飲み込む!

「……報われない努力ですってぇ? そんなものは絶対にない! 人は転んでも転んでも、常に前へ進むように出来ているんです!!」

 

 完二の目が開き、ロクテンマオウの全身が発光して頭上のマガツイザナギを飲み込む!

「……甘えて生きていくのが当然だとぉ~? 己を磨く困難な道が、男には最もふさわしいに決まってんだろーがっ!!」

 

 りせの目が開き、カンゼオンの全身が発光して頭上のマガツイザナギを飲み込む!

「……調和が聞いて呆れる。現状に満足して止まってるほど私はお人好しじゃないんだから! 可能性は、絶対に捨てない!!」

 

 そして直斗の目がゆっくりと開き、ヤマトタケルの全身が発光して頭上のマガツイザナギを飲み込む!

「……屁理屈はもうたくさんだ。人間はいいものはいい、悪いものは悪いと判断できる。しかし悲しいかな、今の人間の能力ではお前を裁く境地には達せない。でも……、だから僕たちがいるんだ! ペルソナ能力は悪の力であってはならない。……正義は……、正義は我にあれ!!」

 

 足立の全身が激しい電流に打たれたかのようにビクビクッと震え、ガックリと地面に膝をつく。

 そして、ヤマトタケルの閃光を自らにも宿した直斗が追い打ちをかける!

「お前を裁くのは僕たちだ! だが……、引導を渡すのは僕じゃない。…………鳴上先輩!!」

 

「センセーーッ!!」

「コンコーーン!!」

「悠センパイ!!」

「先輩っ!!」

「鳴上君!!」

「鳴上くんっ!!」

 

「……悠ーーーーーーっ!!」

 

 直斗の呼び掛けを受けて、クマが、キツネが、りせが、完二が、雪子が、千枝が、そして陽介が悠に届けと声を振り絞って叫ぶ!!

 

 

 

 足立の部屋で蹲っていた悠が、ピクッとその肩を揺らす。

 そして、自宅にいた一人目の悠、そして陽介のベッドにいた二人目の悠がスッと空間を超えて飛び、ここにいる三人目の悠の身体に入り込んだ!

 

 悠の眼がギラッと光る。

 そして、ゆっくりと掌を上にして右腕を前へ差し出す。

 

「ペ……ル……ソ……、ナ!!」

 

 悠の右手に愚者のワイルドカードが現出し、大いなる輝きがその場を埋め尽くす!!

 

 

  * * * * *

 

 

 何もない真っ暗な空間。

 そこに浮かぶのは、全裸で身体中アザだらけの足立だった。

 

「……クソッ! クソッ! クッソッ!!」

 嗚咽を漏らしながら悪態をつく足立。

 と、その眼前に凛々しい顔つきの悠が現れた!

 

「足立さん……」

 

「……クッソ! 何だよ! 憐れんでんのかよ! ……何でこんな、こんなこと……!! 未来を変える力なんて……、あるはずが!!」

 

 悠が、足立に一歩近付く。

 

「人間ってのは、自分に理解できないことを認めるのは難しい。それが自分のレベルを超えていればなおさらだ。……でも、ケチなこだわりを捨てて自分のレベルを認め、自分以上のものを自分以上と認めた時、初めて大きな一歩を踏み出せるんだ!」

 そう言いながら、悠はまた一歩足立の前へと進む。

 

「前にも言ったはずだが、俺たちは人間の可能性を決して捨てたりはしない。迷うことがあっても、必ずその後決意する。そしてまた迷ってもまた決意する。正しい答えが見つかるまで、何度転んでも人間は起き上がってしまうように出来てるんだ! それが……、人間の可能性の力だ!!」

 

「……ぐふっ!!」

 足立が身体を屈めて吐血する。

 

「もう俺は、あなたに対しては迷わない。あなたから入れられたものを、今ここで返してやる!!」

 悠はそう叫ぶや、自らの股間から地上最硬のマグナムを取り出した!

 それはダイヤモンドを超える、この地上で最も硬いと言われるオリハルコン・ペニスであった!!

 

 悠は足立の臀部を自らに引き寄せ、バックからその憐れな菊門にオリハルコンを突き刺した!

 

「が……!! が……!! が……!! が……!!」

 

 激しく腰を振り続ける悠。

「あなたに……、もらった……、ものを……、全て返してやる! それで俺は……、元の鳴上悠に……、返るのだ!!」

 

 凶器となった悠のオリハルコン・ペニスから、虚無のエネルギー全てが赤黒濁液となって足立の中へと放出された!

 

「あっぐ……!!」

 

 真実のポーズでグッタリと倒れ込む足立。

 かつて、清めのセックスで仲間たちをシャドウの猛毒から救い出した悠のペニスが、今回は戦いのセックスで目の前の敵を見事討ち倒した!

 

 勝利した悠、そして敗北した足立が、ゆっくりとペルソナ能力が生んだ精神世界から解放されていく……。

 

 

  * * * * *

 

 

 霧が晴れたテレビの中の世界。

 正気を取り戻した悠が、陽介はじめ特捜隊の面々と握手を交わしていく。

 

「悠……。良かった」

「ありがとう。陽介……、みんな……。本当にみんなのおかげだ」

 

 と、ここで直斗の携帯が鳴る。

「……はい。ああ、堂島さん。……え? そ、そうですか! それは良かった……。……はい。先輩に伝えます。……はい、失礼します」

 

 電話を切り、にこやかに顔を上げる直斗。

「例の裁判員の方、正常に戻って退院したらしいですよ」

「ホントか!? ……良かったな、悠」

 陽介が悠の背中をポンと叩く。

 

「ああ……」

 心底ホッとした表情を浮かべる悠。

 

「アイツは……、どうなったかな」

 千枝がポツリと呟く。

 皆が顔を見合わせる中、直斗が述懐する。

「……恐らく、自分の部屋へ戻ったのだろうと思います。しかし今回は、以前のように個人的な我儘や絶望感を利用した悪事というわけではなく、ある意味人間の本質を突く巧妙な精神攻撃でしたので、本当に危なかった。……花村先輩が呼び掛けてくれなかったら、あのまま倒されてしまっていたかもしれません……」

 

 直斗の言葉に、陽介が照れた表情で答える。

「え? ……ああ、いやあ俺はなんも……、そう、クマ! お前のおかげだ! ……お前、一体どこ行ってたんだよ!」

「クマはあ~、みんなのピンチに駆けつけようと思って、上からず~っと様子を窺ってたクマ!」

「……んだと!? テメェマジか!?」

 完二がクマに詰め寄る。

「あああ~、冗談! 冗談クマ!! ……ホントはキツネ君とともにアイツに動けなくされていたクマ。でも、みんなが攻撃されていく内にちょっとずつ身体が動き始めて、助けに行けたクマよ」

「……どういう、ことなのかしら」

 クマの言葉に、雪子が首をかしげる。

 

 その疑問を受け、直斗が続ける。

「足立さんの新しい能力、それは人間の普遍的な考え方を洗脳するように植え付けて、自分の精神世界に誘っていくというものでした。人間でなく元々シャドウのクマ君には、一時的に効果はあったのでしょうが、完全に足止めしておくことは出来なかったのでしょう」

 

「……で、アイツの新しい能力って?」

 りせが直斗に問う。

 

「元々持っている素養、そして少しの努力。それによってある程度満足のいく結果が出ればそこで妥協して周囲との調和を重要視して自分を抑え、無理せず無難に、常にいい温度の中で心の余裕を維持して生きていく。そういう波風を立てないマイナス方向のエネルギーで、この世界を支配していこうとしたのではないでしょうか」

 

 

 

「……それが何故、いけない?」

 

 ふいに空の彼方から声が聞こえた。

 皆が首を上げると、イザナミの美しき半身が上空を覆っていた!

 

「あ……、あれは!?」

「イ……ザナミ」

 驚く陽介に、悠が神妙な面持ちで答える。

 

「あの人が……」

 雪子が息を呑む。

 そして、直斗がイザナミに問い掛ける。

「何故いけないか……と問われれば、確かにいけないとは言い難いかもしれません。でも、それは人間の弱い部分であり、克服すべき部分です。そこから一歩踏み出せるか否か、それが人間の可能性であり、未来を変える力なんじゃないんですか?」

 

「可能性……。可能性を追うことは、果たして真理なのか? 多くの者が可能性を模索し、挫折し、生きる意味を失っていく。それならば、初めから可能性を求めなければ平穏無事に生きていける。それが人間本来の姿ではないのか?」

 

 イザナミの問い掛けに、今度は陽介が答える。

「……いや、それは違うね。俺たち人間は、もがき苦しんでこそ本当の道ってもんを見つけられるんだ。挫折を知らねー人間なんてなぁ、生きる意味を見出せない奴だぜ!」

 

「は……花村センパイ……、カッコいい!」

 りせが思わず漏らす。

 

「では何故、現存する人間全てがそういう考えを持って生きていないのだ? その姿が真実ならば、全ての人間がそうあらねばならない。だが実際は正反対だ。突出する人間が異常として排除される。……これはごく当然の事象ではないのか?」

 

 イザナミの言葉に対して、ここで悠が口を開く。

「……正反対か。なるほどその通りだ。しかし、成長するかしないか。努力を続けるか続けないか、そして普遍的なものから脱却しようとするかどうかは、個人個人の自由だ。その自由こそが人間の真理。枠に収まった生き方、形にはめられた生き方など俺たちはまっぴらだ。……無難な生き方を好むならそれでいいと思う。しかし全員がそうであっては、それこそ人間である価値はない。人間の価値観は、個人個人によって多様な解釈や定義が存在するんだ」

「多様な解釈や定義……。それがお前たちの場合は、何なのだ?」

 

「……変態だ」

 悠が真顔で言い放つ。

 

「変態……だと!? 何なのだ!? 変態とは……」

「普遍的な人間の新たな可能性を模索する時、それはやはり欲望に直結する。特に性欲が人間の可能性を大きく左右すると俺たちは悟った。……変態は、ある種の性倒錯だと見られるだろう。しかし、その背後には確固たる人間の未知なる可能性を秘めているんだ! 限界を超えること、道理を超越すること、前へ前へと進むこと、常にストイックでいること、現状を打破する心を持つこと、そして自分の正義を貫くこと……。俺たちは揺るぎなきその精神をもとに、変態道を突き進む決意をしたんだ! ……これが、真実だ!!」

 

 悠の身体から黄金のオーラが浮かび上がる。

 その後ろにいる、陽介、千枝、雪子、完二、りせ、直斗、クマ、キツネの身体からも、それぞれキラキラと輝くオーラが浮かぶ!

 

「ムムム……、これが変態の力か……。私も、経験したくなってきたな。……分かった。今回はこれで引き下がるとしよう。だがお前たちの変態力が本物かどうか、いずれ試す時が来るだろう。その時は…………」

 イザナミはそう言うと、その姿を細かい粒子状に変えていき、そして消えた。

 

 

  * * * * *

 

 

 翌日、特捜隊の面々はそれぞれ自分の場所へと帰っていった。

 

 陽介は、ジュネス八十稲羽店を町の人たちが心から愛してくれるために何をすべきか、日々考えながら奮闘するようになった。

 そして、悠との結びつきもより強固に、自分が包み込んでやろうという気持ちが育まれた。

 

 千枝は、間もなく迎える警察学校への入校に向け、改めて道場に籠って精神鍛錬に入った。

 そして、雪子との関係をよりハードに、同時に陽介との関係もさらなる成長の糧として位置付けた。

 

 雪子は、天城屋旅館の若女将として、より責任感を持つべくさらなる高みにその目標値を定めた。

 そして、千枝やりせとの関係をそのステップとし、悠との同化を自覚の中で進化させていくことを密かに決めた。

 

 完二は、自らの雑貨店の今後も見据え、実家の染物屋との共存経営を視野に入れ始めた。

 そして、直斗やりせとの関係を昂ぶりの要素として最重要視し、己の変態道を確立させる決意も固めた。

 

 りせは、アイドルの枠を超えた真のスーパー・アイドルとなるべく、表現者としての挑戦をさらに推し進めることを自らに課した。

 そして、完二や直斗との関係をさらに活発にしつつ、雪子、かなみとの関係も糧に、さらには悠へのアタックも心に決めた。

 

 直斗は、研究所における自分の価値はもとより、研究所を実益を伴う機関にすべく改革を進める決心をした。

 そして、完二やりせとの関係も大切にしつつ、悠への依存を対等のものへと変化させる性技を磨き始めた。

 

 クマとキツネは、テレビの中の世界を監視する任務を改めて強く意識し、未だ蠢くシャドウの残党を一掃する動きを開始した。

 

 そして悠は……。

 

 

 

「おはようございます!」

 

 凛々しい面持ちで出社する悠。

 周囲では、その悠に朝から濃厚なラブビームを発射する多数の女性社員が、巧みに足を組み替える。

 そして、上司からの信頼の眼、同僚や先輩からの羨望と嫉妬の眼、その他様々な視線を浴びながら、自分のデスクへと就く。

 

「(……俺はイザナギ。愚者の力を宿した可能性の象徴だ。俺はあらゆる可能性に賭ける力がある。いや、その信念を持っているんだ。これからも何が襲って来ようと、俺が人間の可能性をより高みに持っていき、人間の心がシャドウを生まないようにしていかねばならないのだ。…………よし! 今日も、行く!!)」

 

 決意を新たに、仕事に、性行動にと、悠はさらに自らを高めるべく心の炎を点火した。

 

 

 

 今後、イザナミがどう動いてくるかは分からないが、特捜隊全員がよりレベルアップしたことで、何が起ころうと回避できるに違いない。

 

 しかし、これら新たな心の成長が、全て足立の精神攻撃が要因として生み出されたということを、実は誰一人自覚してはいなかった。

 

 今回の足立の攻撃こそが、実は普遍的な人間への大いなる警鐘であったのかもしれない…………。

 

 

(了)

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