完×直
主×完
※新たなる道を歩み出した完二。そこにはやはり、改めて感じ取る悩みもあった。
完二に協力する特捜隊の面々。そして悠は……!?
稲羽市では老舗と謳われる染物屋『巽屋』、言わずと知れた完二の実家の呉服問屋だ。
ここで、完二は今改めて呉服に関する知識を深めんと修行に励んでいる。
一連の足立裁判事件の後、完二は独立開業した雑貨店を営む傍ら、実家の巽屋に対する関わり方を変える決心をした。
実家の後を継ぐことなく造形作家への弟子入りを果たし、元々得意だった裁縫の技術を応用してオリジナルの手作り雑貨を販売する小さな店を構えた完二。
母と話し合った結果の職とは言え、家業を継がずに飛び出したことは事実であり、その心の隙間を先般は足立に攻撃されたのであった。
しかし、その現実ともしっかり向き合うことが出来た完二は、純粋な気持ちで巽屋も盛り立てていきたいと考え、まずは一から呉服修行に励もうと決めたのだ。
だが、当然出戻り息子への周囲の風当たりは強い。
中には「今更店を継ぐつもりなんじゃあ……」といった中傷も聞かれたが、完二の本心はそこではない。
母を支え、外部からでも何とか巽屋の力になりたいという、ピュアな気持ちから出た行動なのだ。
「完二君、反物はうまく巻けるようになったかい?」
「は、はい! 大丈夫ッス!」
穏やかな販売主任・志賀が腕を組みながら完二に近付く。
完二は、付下げ着尺数本をクルクルと巻いて井桁に積んでいく。
「なるほど、さすがに手先は器用だねぇ」
「ありがとうございます!」
反物を両手で巻き取っていく作業は呉服屋にとっては基本動作だが、これが結構難しい。
不器用な者なら、何度やっても隙間が出来てフワフワしたり、巻く度にズレが生じて側面がガタガタになったりするものだ。
しかし、完二が巻いた反物はしっかり固く巻かれ、側面もビシッと揃っている。
「ところで、付下げはどういう時に着るんだったかな?」
「……えっと、ちょっとしたパーティーとか、観劇とか……かな?」
「そうそう。じゃ、訪問着との違いは?」
「あ、と……、まず格が違います! ……で、柄が上向きになってるのが付下げ……で良かったッスよね?」
矢継ぎ早に質問され、少々焦り気味の完二。
隣に座った志賀は、自らも着尺を手に取ってクルクルと巻きながら話す。
「柄が上向きになってるってのは、仕立て上げた時の状態を想定して柄付けしてあるってことだね。その意味をちゃんと押さえておかないと」
「は……、はい!!」
「訪問着は仮絵羽になっていて、付下げは着尺のまま。だから訪問着の柄付けは大胆な絵画のようなものも可能だけど、付下げはそこまで面積の広い柄合わせはしない。そこが大きな違いだね。……柄が上向きって表現は、小紋との違いを説明する時のキーワードだ」
「……あ! そっか」
左の方に積んであった小紋着尺を手に取り、ウンウンと頷く完二。
「フフ……」
そんな完二をにこやかに見送りながら、志賀は立ち上がって営業に出掛けていった。
手に持っていた小紋を元の位置に戻し、頼まれていた出荷作業に戻る完二。
パッキングケースを組み立て、黄色いウコンの布を敷いて反物を詰めていく。
と、その脇を宮野部長が眉間にしわを寄せながら通り過ぎる。
「おらっ! ボヤボヤしてないでさっさと片付けんと間に合わねーぞ!」
「はい!」
素直に従い、反物を手早く詰め込んでいく完二。
それを横目に、宮野はしかめっ面のままその場を離れていく。
この宮野こそ、完二の母の後を継ぐと目されてる巽屋の中心人物なのである。
* * * * *
忙しい一日が終わり、奥の和室で完二とその母が夕食を摂っている。
「どうだい、完二。少しは慣れてきたかい?」
「ああ、まあな。……しかし、やっぱ着物って奥深けーよなあ」
「そりゃそうです。だからこそ、時代が変わっても受け継がれていく大切な文化なのですよ」
「わーってるよ、ンなこと!」
完二が勢いよく味噌汁をすする。
そして母は、息子を頼もしげに眺めながら食事を進める。
「……お袋」
「ん? 何だい?」
「俺思うんだけどさあ、伝統を守るってのは分かるんだけど、なんかこう、もっと新しいことが出来ねーもんかなあ?」
「新しいこと?」
「俺、雑貨屋始めて思ったんだけどさ、あーいうの買いに来るお客さんって、すっげー元気なんだよな。……いや、着物買いに来る人が元気ないってわけじゃねーんだ。そうじゃなくって、なんかこう、もっと元気を分けてあげるって感じの売り方って出来ねーもんかなあって……」
真剣な表情の完二を見て、母は軽く口元を上げながら呟く。
「そう思うなら、一度好きなようにやってごらんなさい」
「え?」
「あなたは自分の店も、この巽屋も一緒に盛り上げていきたいんでしょ? そのためになることなら、母さんは反対しないわよ」
「お、おう……」
「ただね……」
「ん?」
「ただ、巽屋を動かすには宮野部長を動かさないとダメよ。彼を説得出来るくらいの勢いがあれば、面白いかもね。フフ……」
そう言いながら、悪戯な笑みを浮かべる母。
完二は少し考えた後、クシャクシャっと頭を掻いて茶碗の飯を平らげた。
* * * * *
休日の午後、完二はジュネスのフードコートで陽介、千枝と会っていた。
「新しい催事?」
陽介の問いに、完二が真面目な表情で答える。
「そうッス。ウチの実家でやってるもんにしても、ジュネスの催事場でやってるもんにしても、着物の催事ってどれもありきたりなんスよね」
「そりゃそーじゃん。着るシチュエーションとか限定されてるし、変えようないものもあるんじゃないの?」
千枝の鋭い指摘に、完二も素直に頷く。
「実際そうなんスよね。大振袖展とか留袖大祭典とか、この何十年同じこと繰り返してる感じッスよ」
「でもそれが着物の売り方なんじゃないの? 難しいことは分かんないけどさー」
ジュースをすする千枝。
と、陽介がポンと手を叩く。
「そうだ! お前さ、一時期トンボ玉作ってたことあったろ?」
「……ああ、師匠の友達がトンボ玉職人だったんで、ちょっと教えてもらってたッスね」
「それで洒落たアクセサリーとか作ったらいいんじゃねーの? ウチの店もさ、浴衣の時期だけは呉服売場も派手な装飾とかして売り出すからさ、いいのが出来たら取り上げられるかもしんねーぞ?」
「面白いッスけど……、俺一人じゃ全然手が足んねーッスよ」
「あたしたちも手伝うじゃん!」
「……いや、あの……、売り物なんで……」
完二の懸念をよそに、陽介と千枝は二人で盛り上がる。
「はあ……」
溜め息をつく完二。
これは相談する相手を間違えた、そんな気分であった……。
* * * * *
その夜、完二は雑貨店兼自宅にて、直斗と夜を共にしていた。
東京の科学捜査研究所に勤める直斗が、ここ稲羽市を訪れることはそうない。
しかし、こういうところに仲間の因果は巡るもの。
たまたまこの日、稲羽市近くの現場に捜査協力があったので、時間を作って完二宅へやって来たのだ。
久々のまぐわいということもあり、二人は夜半を待たずに激しく縺れ合った。
女性風体で堂々と生きることにした直斗は、やはり女性ホルモンが昂ぶり、色気を増してきた。
その豊満な胸で完二のマグナムを挟み込み、ユサユサと山を揺らす。
「お……、おおお……」
谷間からリズミカルに頭を持ち上げてくるマグナムの先端が、じわりと潤み出す。
直斗はその湧き水を時折舌を伸ばして舐め上げ、双子山の運動を続ける。
「はあ……、はあ……、巽君……」
「た、堪らねー……。直斗……、堪らねーよもう!」
完二の銃身が鋼鉄の如く硬化し、その硬きモノを直斗はすかさず口中に頬張る!
「……ああ! ダメだって、イ……イッちまう……」
唇を上下に動かしながら、直斗は完二の胸に『ダ・メ』の二文字を指で描く。
耐える完二。
しかし直斗の口撃は止まらない。
激しいストロークに、完二は撃鉄が上がることを抑えられない。
「あうう! ダメだ!! ……イク!!」
直斗の口中に、白き銃弾が飛び散る。
そして直斗は、そのホワイト・ドレッシングを完ペニ全体に塗り込むようにゆっくりとしたストロークを続ける。
「な……直斗……、それは……」
白濁ドレッシングに包まれたペニスがヒクヒクと微震を繰り返す。
直斗はしばらくそれをうっとりと眺めたかと思うと、今度はスピーディーなお掃除フェラ!
完二マグナムは瞬く間に艶々のフランクへと変貌を遂げた。
「……すまねぇ、久々だったからか、どーにも我慢出来なかったぜ」
「いいですよ。夜は長いですから……」
そう言いながら、直斗は色気迸る目線を完二に送る。
戸惑う完二。
取り繕うように、傍にあったペットボトルの水をグイッと飲むと、直斗にもそれを手渡す。
「ありがとう」
水を受け取った直斗は、にこやかにそのペットに口を付ける。
しばらくの余韻。
そして上半身を起こした完二は、背中を壁に預けて話し始める。
「なあ、直斗よ」
「なんですか?」
「俺ちょっと、壁にぶつかってるっつーかよ、なんつーか……、悩んでて……」
「へぇ~。それは興味深いですね」
思わず身を乗り出す直斗。
「待て! オラァ真剣なんだぞ!?」
「分かってますって。……で?」
完二は、直斗に実家の呉服問屋で修業を始めたこと、そこで何か新しいことをやってみたいこと、そして陽介と千枝に相談したことを掻い摘んで説明した。
「ふ~ん。……着物には僕もてんで無知なものですんで、的外れかもしれませんが……」
「……何だ?」
「花村先輩の案は、実現可能かもしれませんよ?」
「いやでも! 俺一人で催事に出品出来るほどアクセサリー作るなんて、とても無理だっつーの!」
ニコリと笑う直斗。
「君は作らなくていいんですよ」
「……え?」
「そのトンボ玉の先生に作ってもらえばいいんです。何なら会場で実演とかやってもらうのもいいかも」
「……な、なるほど」
「で、顔の広い先生だって言いましたよね。そういう人は多分、クリエイター仲間をたくさん持っているはずです。人のつながりっていうのは、そういうところに生まれるものですから」
「フムフム」
「……分かりますか? 巽君は、プロデューサーになればいいんですよ、その催事の」
「プ、プロデューサー!?」
「そう言ったら大袈裟に聞こえるかもしれませんが、要するに若者が集まるような商材を集めたスペースを作ればいいんじゃないですか? それこそ、どこかで和に関連していれば、直接着物に関係ないアイテムでもいいかもしれない」
「でもよ、そんなのどこで……」
「どこで? ……何言ってんですか。僕たちにも仲間がいるじゃありませんか」
考えを巡らせる完二。
そして、ハッと目を見開いて手を打つ。
「ジュネス……か!!」
「そうです。巽屋からは、ジュネスにも染物を卸してるわけでしょう? そして販売推進セクションには花村先輩がいる。これを使わない手はありません」
直斗の提案に、完二の脳内では可能性のイメージが次々と広がっていく。
「うん、うんうんうん! なんか見えてきたぞ! ……直斗、サンキューな!!」
直斗に抱きつく完二。
その表情は希望に満ち溢れている。
「フフ……、じゃあ、アイデア料を、いただきましょうか」
そう言いながら、直斗は完ペニをまたしてもしごき出す。
「おう! ちょっ……、直斗!」
「……おやおや、まだそれほど間を空けてないのに、すぐに硬くなってきましたよ?」
直斗は艶めかしくそう呟くと、完二の乳首をチロリと舐め上げる。
「……よーっし! じゃあ、四の五の言わずにやってみるか!!」
完二は直斗を四つん這いにさせると、その妖艶な花園にビッグ・マグナムをあてがった。
「おっしゃあああーーーっ!」
直斗の中に侵入する完二。
それは豪快なピストンをもって、直斗の快楽スポットを突きまくる。
「あっ! ああっ! あっ! あんあんっ!!」
バックの体制で攻めまくる完二。
その両手はいつしか直斗の巨乳へと伸び、舌先は腰の辺りを複合攻撃した。
直斗の中でますます大きさを増していく完ペニ。
その激動は、その後数十分にも及んで続いていった……。
* * * * *
珍しくスーツを着込んだ完二は、ジュネスの販推商談ブースにいた。
緊張した面持ちで椅子に固まっている完二。
そこへ、販売推進部チーフである陽介がやって来た。
「よっ、お待たせ!」
「……すんません花村先輩!」
「お、スーツか。なかなか似合うじゃねーか」
「あ……ありがとうございます!」
慣れない企業の商談ブースに落ち着かない完二だったが、陽介の顔を見て幾分緊張感はほぐれてきた。
「で? 雑貨のイベントをやりたいって?」
「は、はい! ……まあ、雑貨って言うか、こう、和に因んだ小物類とかを集めて、着物と一緒に何か催しが出来たら……って感じなんスけど」
「和に因んだ小物ってーと……、何だ?」
「いや、例えば帯飾りとか髪飾りとか……」
「あー、なるほどなるほど! でもそんなのは、呉服売場でいっつもやってんぞ?」
「あ、いや……。ですんで……、普段やってないような、和風なんスけど着物に直接関係ないような、なんかそーいう小物を売れないかな、と……」
「和風で着物に関係ない小物って……、今イチ意味分かんねーけど」
首を捻って考える陽介。
「……と、和風だけど洋服に合わせられるバッグだとかアクセサリーだとか……」
「ああ! そういうことね! ただ、その辺も割とやり尽くしてる感あるけどなあ。……ま、いいや。呉服担当の三澤主任がイノベーターだからさ、そういうの好きかもしんねー」
「インベーダー?」
「インベーダーじゃねぇ、イノベーター!! 革新的に新しいもの取り入れる人ってことだよ。俺もこーいう仕事し出してからカタカナに強くなっちまったよ。ハハッ。……ちょっと待ってろよ、連絡してみっから」
「はい!」
ブースから離れて自分のデスクへと移動する陽介。
「……しっかしまあ、インベーダーとは古典的なボケだったな」
そう呟きながら、内線で三澤主任に連絡する。
「……あ、販推の花村です。お疲れ様です! 三澤しゅに……あ、三澤さんですか! 今大丈夫ですか? ……いや、実は今、僕の高校の後輩が来てまして、巽屋の社長の息子なんですよ。……そうですそうです。んで、着物関連でイベント案があるってことなんですけど、ちょっとだけ話聞いてやってもらえないですかねぇ? ……はい、……はい、そうなんです。……あ、ありがとうございます! じゃ、ブースにいますんで。……はい。失礼します!」
商談ブースに戻る陽介。
「おう、こっちに来てくれるってよ、三澤主任」
「ありがとうございます!」
快活に頭を下げる完二。
「……でもさあ、突然どうしたんだよ。雑貨屋、うまくいってないのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんス。……こないだの事件の後、俺ちょっと考えたんです。家業を無視して好き勝手やんのは、やっぱり良くねーんじゃねーかって……」
「でも、お前が独立して、お袋さん喜んでたんじゃねーのか?」
「一応、そうなんスけど……、なんかやっぱり引っ掛かって。だから、俺なりに出来ることはやっておこうと思ったんス! 着物の知識をちゃんと持って、いつでも手伝えるようになって、それで自分の店ともなんつーかコラボとか出来たら……とか」
少々恥ずかしそうに話す完二に、陽介が嬉しそうに微笑む。
「へぇ~。いいじゃんか! まあ、後継ぐばっかりが親孝行じゃねーしな。……俺もさ、自分の仕事のことをもっぺん見直してみようと思ってるんだ。どうやったらもっとみんながジュネスを好きになってくれるかってね……。あ、もしかして今回、いいチャンスじゃね?」
と、そこへ呉服担当の三澤が現れる。
「お待たせしました」
「すんません! お忙しいところを!」
スクッと立っておじぎし、三澤に椅子を勧める陽介。
三澤は三十過ぎの売場主任で、赤い眼鏡が個性的な、陽介も尊敬しているジュネス社員である。
「は、はじめまして! 巽完二と……申します!」
直立したまま、名刺を三澤に差し出す完二。
「はじめまして、呉服売場の三澤です。よろしくお願い致します」
名刺交換した三澤は、完二の正面の椅子に腰を下ろす。
「あ、そうそう。いつも巽屋さんにはお世話になっています。ありがとうございます」
「ああ! いえいえ、そんなこと……」
「……で、イベント案というのは?」
「あ……、はい! お……、いえ、僕の知り合いにトンボ玉職人がいまして、アクセサリーをたくさん作っています。帯飾りとか、髪飾りに丁度いい感じの……。そういうのとか、洋服にも合わせられるバッグとか、和柄のTシャツとか、和をモチーフに若いお客さんたちを集める催事をしたらどうかと……」
一気に思いを捲し立て、直斗のフォローを受けながら作った企画書を差し出す完二。
それを見ながら、三澤が答える。
「……なるほど。面白いですね。……でも、これだけでは予算を組めませんねぇ。催事場を押さえるためには、それなりに見込める予算組みが必要です。そうですよね? 花村さん」
「そ……、そうですね」
「そのためには、少なくともこの五、六倍程のクリエイターやショップが必要です。……でも面白い企画だとは思います。今夏は無理でも、この秋冬でショップ探しと出店交渉を続ければ、今までの常識を覆すような催事が出来るかもしれない。……うん、きっと出来る!」
企画書を見て目を輝かせる三澤。
「花村さん、来年の催事予定に加えるいい候補だと思いませんか?」
この三澤の言葉に、完二が反応する。
「来年……ですか? そんなにかかるもんなんですか!?」
食い下がる完二を、陽介が手を出して止める。
「ああ。今年度の催事場使用予定はもうとっくに決まってる。今すぐどうこうってのは……、無理だなあ」
ガックリとうなだれる完二。
「……いや、待てよ」
陽介が何かを思いつく。
「浴衣に絡めたら、今夏でも何かやれるんじゃあ……」
陽介の言葉に、三澤がニヤリと口元を上げる。
「花村さんならそう言うと思ってました。……今年も浴衣商戦は苦戦が必至。こういう斬新な企画はテコ入れにはうってつけだし、販推としても受け入れやすい……ですよね?」
「ヘヘッ。さっすが三澤さんですね。浴衣ならイベントスペースでのミニ催事も予定してるから、そこにプラスアルファって形で突っ込みますか!」
「ありがとうございます。……ただ、もうちょっとラインナップを広げないと。……巽さん」
「は……、はい!?」
「少しでも和に関連付けられればいいです。インパクトのある商材を、もう少し加えて下さい。そうすれば、きっと今夏のいい目玉になる!」
三澤の言葉に、完二はギュッと拳を握り締める。
「……はい!!」
* * * * *
多少のリテイクはあったにせよ、企画が通った完二は意気揚々とさらなるクリエイター発掘に燃えた。
まずは師匠の友人であるトンボ玉職人の北条氏を訪ねて東京へ。
気難しいところもあるが、打ち解けると兄貴肌をとことん見せてくれる北条氏。
出品するアクセサリー、そして当日の実演内容を改めて打合せし、夜は日本酒で親睦を深めた。
翌日、都内を巡った完二は、和の匂いのするセレクトショップを周りつつ、ファッション誌やネット情報を頼りに歩き回った。
そしていくつかのショップやクリエイターに出展承諾を取り付けた。
完二としては、和柄のTシャツ類に予てより注目しており、今回も組み入れたかった思いはあったのだが、浴衣イベントへの合流企画として半ば強引に捻じ込んでもらっただけに、今回は本体アイテムの食い合いは避けようという配慮で見送ることになっていた。
しかし、今後のためにつながりをと、東京に拠点を置く数社との接触は怠らなかった。
そして翌日、完二は北条氏から紹介を受けた和風手作りバッグのクリエイターとの交渉のため、一路三重県へ飛んだ。
そのクリエイターは、山金氏と本山氏という女性二人組で、日々アンティーク調のバッグや小物を製作し、日本全国のイベントに出品している。
完二の出展交渉に快く応じてくれた彼女たちは、催事当日までに出来るだけ新作を作っていくと約束してくれた。
合計5社から出展承諾を得た完二は、休む間もなく八十稲羽へ舞い戻り、陽介と三澤にその報告をした。
「すげぇな完二! 時間ない中でこいつは助かるわ」
「あ、ありがとうございます!」
出展を取り付けたショップやクリエイターたちの資料を見て、陽介が素直に喜びを表す。
そして、三澤は冷静に売場作りのアドバイスを送る。
「このラインナップならいけそうですね。浴衣に合わせることが出来る小物もあれば、単独で魅力あるアイテムもある。……特に、これはインパクトあります」
三澤が指差したアイテム、それは東京で見つけたとある姉妹のアート作品であった。
「確かに斬新ですよね。こーいうのが呉服関係のイベントに添えられるって発想は、今までなかったですもんねぇ」
陽介も同意してウンウンと頷く。
「あと、このバッグ作りの二人の作品も大変興味深いです。品揃えにボリュームがあれば、常設も可能じゃないかな」
「あ……、僕もその二人にはすごく共感しました。わざわざ三重まで行った甲斐があったって感じッス!」
三澤の言葉に、完二も素直に同調する。
そして、資料をひと通り確認したところで、三澤が今後の動きをについて指示を送る。
「じゃあ、スペースのレイアウトと契約関係は私が進めますんで、宣伝媒体の方は花村さん、お願いします」
「オッケーです!」
「巽さんには、出展していただけるショップやクリエイターの方々と密に連絡を取り続けていただくとともに、もう一つお願いがあります」
「……は、はい! 何でしょうか?」
「巽屋さんには、いつも染物についてはお世話になってます。今回の企画を成功させるためには、やはり巽屋さんとのパイプは重要であり、契約面ではひと役買っていただく必要もあります。そこで、もう一つの目玉として、巽屋オリジナルの浴衣を何とか組み入れたい。あなたからも、口添えしていただけないでしょうか?」
三澤の言葉に、完二は即座に答える。
「分かりました! 僕に任せて下さい!!」
商談ブースの机をバンと叩いて、勢いよく立ち上がる陽介。
「よっしゃーー!! こいつぁ忙しくなるぞ~」
陽介もまた、完二同様武者震いの様相であった。
* * * * *
「何をバカなことを! 新作浴衣はもうとっくに販売ルート決まってんだから、今更無理に決まってるだろ! ……そもそも、そんな小物ばっかり集めたようなイベントなんて成功するわけないんだから、ウチが契約窓口になるなんてリスクが大きすぎる。君はやっぱり呉服業界を甘く見てるんだよ!」
巽屋にイベントへの出品協力を要請した完二だったが、待っていたのは宮野部長の厳しい言葉だった。
「すんません、宮野部長! でも、こういう新しい企画が、新しいお客さんを呼び込むと思うんスよ! マンネリ化してる今の催し形態には必要なことじゃないかと、俺は思います!」
「マンネリだと? ……これは伝統だ!! 呉服というものは伝統に支えられている。それを崩すなんてこと、出来るわけがないだろ!」
「……出来るか出来ないかは、やってみなければ分からないでしょう」
完二と宮野部長の言い合いに、完二の母が割って入って来た。
「しゃ……社長……」
「お袋……」
「伝統は確かに大切です。でもね、それに囚われていたら新しいものは何も生まれないんじゃないかしら?」
「し……しかし社長、ウチがわざわざこんな企画に肩入れしなくても……。それに、新作浴衣の出荷スケジュールは変えられないですよ!?」
「生産ラインにはまだ余裕があります。それに、在庫調整もあなたの仕事ですよ? 宮野部長」
完二の母の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情となる宮野。
「完二、お前も仕入れの流れを勉強するいい機会です。宮野部長をサポートして、やってごらんなさい」
「(母の言葉に頷き)部長! よろしくお願いします」
宮野に頭を下げる完二。
しかし、宮野は返事することなく、踵を返してその場を離れていった。
* * * * *
一方、陽介と三澤はジュネス内での調整を順調に進めていった。
一度決まった催事計画を変えることはよほどのことがない限りあり得ないので、今回の浴衣特集の中にテコ入れとして別途アイテムを投入するという方法は、売場としても後方部門としてもやりやすかった。
ただ、レイアウト変更に伴って什器やPOPの再発注、広告類の撮影追加や新たな媒体編集など、細かい付帯作業は二人に圧し掛かってきた。
それでも何とか準備は整い、催事開始の日が刻一刻と近付いてきた。
完二の方は、宮野が仕切っている各販売店への卸しについて、その調整の手伝いに奔走した。
と言っても、段取りも何も分からない完二とすれば、宮野の仕事ぶりを見聞きして学ぶより術がなかった。
既に各販売店への出荷数も決まっており、仕入れ計画の数値もそれぞれ決まっていた。
それを一店一店再交渉し、仕入れ数量を減らしていくことは容易なことではない。
加えて、縫製工場の方へもシーズン半ばに追加する生地を前倒しして仕上げていくよう指示を送り、ジュネスへの出荷分を何とか確保していった。
宮野の胸中が穏やかではないことは間違いがなかった。
元々保守的な考えを持った社員だけに、呉服業界の常識を破るという選択肢はなく、完二の企画はとても認められるものではなかったのである。
しかし、社長命令に逆らうわけにもいかない。
逆に、予定を大幅に変更した出荷計画に短時間で立て直したその手腕は、見事という他ないだろう。
数日とは言え、間近で宮野を見て完二は考えを改めた。
そして、自分の甘さと浅はかさを痛感した。
「……俺は全然甘ちゃんだった。元々取り引きがあるんだから、ジュネスに浴衣を卸すなんて造作もないことだと思っていたんだ。でもそれは違った。こういうのはもっともっと前から計画して、色んなお店と契約を交わしてきてることなんだ。仕立ての問題だってそうだ。簡単に増やせるなんて、そんな甘いもんじゃなかった。……ああ、ホントに俺ってバカなんだよな! クソッ!!」
* * * * *
いよいよ催事開始を二日後に控えた夜、完二は不安と自信喪失の念が頭から離れず、河川敷で一人立ちすくんでいた。
と、そこへ一人の人影が……。
「……完二」
聞き慣れた声の方へ完二が振り向くと、そこにはなんと悠が立っていた!
「セン……パイ!」
「どうした。完二らしくないぞ」
優しい笑顔で完二の傍にやってくる悠。
「先輩……。俺、すっげーみじめなんスよ! 若い人どんどん集めたらそれで色んな意味で活気が出るって……、そういうことばっか考えてて、ホントに大事なことって言うか、なんかやるには必要なことがたくさんあって、一つのことにたくさんの人たちが絡んでて大変ってことに、全く目が行ってなかったんスよね……。ホント、情けねぇッス」
ガックリとうながれる完二。
その完二の両肩を、悠はガシッと掴んで微笑む。
「情けなくなんかないぞ? お前の企画がなかったら誰も動かなかった。逆に言えば、お前の企画があったからこそ、大勢の人が動いたんだ。その過程で色々なことが起こることは、もちろん想定しなきゃいけない。でも、気付けなかったことや配慮不足だったことは、これから気を付ければいい。人間というのは、そうやって一つ一つ新しい皮を何度も何度も被っていって、厚みを増していくんだ。反省はいくらでもすればいい。だが、後悔はしてるヒマは……ないんだぞ?」
「……先輩。でも俺、このまま……」
言いかけた完二の口を、悠は電光石火の口づけで塞いだ。
「う……!!」
激しいディープ・キス。
完二の全身に電流が走る。
ふと唇を離した悠が、完二の耳元で囁く。
「俺が……、元気を与えてやる」
そのまま悠は、服の上から完二の乳首を即座に探り出し、指先で刺激する。
「お……、おお!」
そして、首筋にキスの雨を降らせたかと思うと、神の手が完二の下半身を一瞬の内に丸裸にする。
ピンとそそり立つ完二のイチモツ。
悠はそれを右手で弄び、左手は上着をはだけさせ、露になった逞しい腹筋キャンバスに舌先で絵画を描く。
「はあああ……、はうあううう」
力の抜けてきた完二は、河川敷の芝の上に両手両膝をつき、四つん這い状態になる。
その背後には、一段と成長した悠のゴールデン・ダイヤモンドポールが既に待機!
完二のアヌスに素早くお気に入りのローションを塗布すると、一気にその金剛棒を突入させる悠!
「あ! あっく、あっく……、す、すげ……!!」
地上最高の硬さを誇る悠の金剛棒が、完二の中で暴れ回る。
凄まじき刺激が完二の直腸まで響き渡り、完ペニの膨張度合いもMAXに達していた。
そして悠が完二の中で昇天すると同時に、完二もイチモツへの直接刺激なしに猛烈な射精!
「くわああああああっ!!」
完全に果てた完二は、しばらく真実のポーズで固まっていた。
そして、意識を取り戻したかのようにゆっくりとその体を起こす。
「はあ、はあ、はあ、……せんぱ……?」
そこに、悠の姿は既になかった。
突如として現れ、突如として消えていった悠。
しかし、完二は芝の上に座り直すと、その不可思議さには何を思うこともなく、たった今元気を注入されてまだビクンビクンしている下半身に真実を感じていた。
「……ありがとう、先輩! 俺、もう二度と後悔はしねぇ。いつだって前のめりに、何度倒れてもとことん突き進んでいくぜ!」
晴れやかな笑顔で夜空を見上げる完二の目は、煌く星と反射するかのように輝いていた……。
* * * * *
催事前日の夜、ジュネスのイベントスペースでは今日まで行われていた故郷物産展の什器が撤去され、陽介と三澤が中心になって今回の催事図面を見ながら配置確認をしていた。
そして、新たに運ばれてきた什器類を、陽介がテキパキと指示して設営させていく。
一方、完二はジュネスの社員用出入り口前にて、出展してくれる人たちを集合させていた。
「……これで揃いましたね! 皆さん、遠くまでホントにありがとうございます! 不慣れでご迷惑おかけすると思いますが、私、巽完二が皆さんのまとめ役をさせていただきます!」
元気に挨拶した完二は、皆に入店用のバッジを手渡していく。
その中で、まずは最初に協力を申し出てくれたトンボ玉職人の北条氏に完二は改めて頭を下げた。
「よろしくお願いします! 北条さん」
「ああ。こちらこそよろしく頼むよ」
次に、北条氏の紹介でやって来てくれた手作りバッグ・クリエイターの山金・本山両氏とガッチリ握手。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ~。すっごい楽しみにしてますぅ!」
「ウフフ……、私達も新しいお客さんに会えるの、ホントに楽しみです!」
子供のようにはしゃぐ本山氏、屈託なく笑顔を見せてくれる山金氏二人の癒しキャラぶりは、緊張した完二の心をほぐしてくれた。
そして幾人かのクリエイターと順次話しながら、完二はバッジを手渡して館内へと導く。
最後に、三澤が『インパクトのあるアイテム』と期待を寄せていたショップのクリエイター・水川姉妹と握手する完二。
水川姉妹は、東京を始め、京都や大阪にも既にいくつかギャラリーを持つ万華鏡作家の二人だった。
日本発祥ではない万華鏡というアイテムは純粋に和商材とは言えないかもしれないが、そのテイストは日本の古き良き歴史を感じさせる。
このアイテムを呉服というカテゴリに組み込むことで、今までにない相乗効果が生まれると三澤は確信しているのだ。
「こんばんは。よろしくお願いします」
水川姉妹の方から、完二に握手を求める。
「よ……よろしくお願いしまっす!!」
落ち着いた佇まいの二人に少々たじろぐ完二。
こうして、完二は出展者全員を地下通路から会場へと案内していった。
イベントスペースでは、既に什器類が設営され、メインの浴衣関係の商品が随時運び込まれてきていた。
そこへ、完二がクリエイターたちを引き連れて若干遠慮気味に入ってくる。
「……おう完二! 待ってたぜ!!」
まずは陽介が声をかけてきた。
刺激的な催事とあり、陽介のテンションも上がっている。
そして、浴衣の陳列を部下に指示していた三澤も完二のところへやって来た。
「お疲れ様です」
「お、お疲れ様ッス! こ……、今回協力していただくクリエイターの皆さんです!」
完二が出展者たちを紹介すると、三澤は順々に名刺交換を始めた。
またも緊張してきた完二に、陽介が横槍を入れる。
「……か~んじ! 緊張して震えてんじゃねーか?」
「バ……、そんなことねーッスよ! 武者震いッスよ、武者震い! 花村先輩こそ、しっかり頼んますよ!」
「ヘヘッ、任せとけって! 俺も新しいことやらなきゃって思ってたから、ホント今回の催事は渡りに船って感じなんだ。ありがとな」
そう言いながら、完二の肩をポンと叩く陽介。
「い……、いえ。こちらこそ、ありがとうッス」
と、ひと通りの挨拶を終えた三澤が戻ってきた。
「巽さん、すみませんでした。無理言ってしまって。巽屋さんのオリジナル浴衣、今日入ってきましたよ。これで本体の方にも幅が出ます。本当にありがとうございました」
「いえいえ! こちらこそ色々とその……、この度は本当に、よろしくお願いします!!」
改めて三澤に大きく頭を下げて挨拶する完二。
その完二を、出展クリエイターたちは頼もしげに見つめ、三澤と陽介も目を見合わせ微笑んだ。
「さあ! いっちょ始めようぜーーい!」
陽介の号令のもと、いざ全員揃って会場の準備にかかる!
* * * * *
明るい日差しが照り返す朝、ジュネスの新生浴衣特集催事がスタートした!
例年の内容プラス、今年は完二企画の和小物・和雑貨のコーナーが真新しい空気を醸し出し、初日から多くのお客さんが詰め掛けた。
心配された違和感もなく、浴衣と和風アイテムの融合は絶妙のバランスで売場を盛り上げている。
三澤は陣頭指揮に走り回り、陽介は後方部門の担当者として逐一現場を見回る。
そして完二は、それぞれのショップやクリエイターたちのまとめ役として、随時巡回して要望を聞いたりレジへ走ったりと、精力的に動き回った。
お客の途絶えぬ中、お昼前には千枝と雪子が、丁度学校が休みだった菜々子を連れてやって来た。
「ヤッホー!! 花村~」
メインVPのチェックをしていた陽介のところへ、千枝が声をかけてきた。
「お、里中。来てくれたんか! 天城もありがとさん! ……あ、菜々子ちゃん!!」
「陽介お兄ちゃん、こんにちは!」
「いやあ、よく来てくれたねぇ! ゆっくり楽しんでってね!」
「うん!」
今年中学二年になる菜々子が、以前と変わらぬ可愛らしさで陽介に挨拶。
と、そこに完二もやって来た。
「……完二君!」
雪子が完二に呼び掛ける。
「あ……、天城先輩! 里中先輩に菜々子ちゃんも……。ありがとうございまッス!」
「花村が来い来いってうるさくてさー」
「うっせい!」
千枝のチャチャに陽介が毎度の如く悪態をつく。
「千枝ったら。……まあでも、そろそろ浴衣も買い替えの時期かな~と思ってたんで。あと、今回は色んな小物がたくさんあるって広告に出てたんで、菜々子ちゃんも誘ってきたの」
雪子がそう話している間に、菜々子はいつの間にやら手作りバッグのコーナーで商品に見入っていた。
「かわいい~!!」
菜々子が、小さな手作りバッグをニコニコと見回す。
ここでは古い着物生地などを使ってバッグを作っており、財布やブックカバー、カードケースやポーチなど、小物類も多彩に品揃えしている。
そして、気さくな女性作家二人は常にお客さんと友達のように会話する。
「いらっしゃいませ~。ホラホラ、こんなのもあるよ~」
「うわ~、すごいすごい! ……菜々子こういうの欲しかったんだあ」
菜々子の後ろから、千枝と雪子も商品を手に取って眺める。
「いいねぇ、コレ! フツーの浴衣用巾着とかよりいっぱい入るし、オシャレじゃない?」
「うん。旅館のみんなにも勧めてみようかな」
再び、賑わう会場を巡回する完二。
と、そこへ巽屋の宮野がやって来た。
「あ……宮野部長! お疲れ様です!!」
完二がかしこまって挨拶。
「完二君、お疲れさん。……いやあ、お客さん、よく入ってるじゃないか」
「ありがとうございます! これも部長のおかげッス!」
「いやいや。……正直初めはね、こんな企画は絶対あり得ないと思ってたんだよ。でも、それは間違いだった。伝統を重んじることは大切だが、新しい考えも取り入れなければその伝統も薄らいでしまう。それを君に教えられたよ。私も、今後はもっと頭を柔軟にして巽屋を盛り上げていこうと思う。……これからも力を貸してくれよな、完二君」
「……は、はい!!」
宮野の有難い言葉に、完二は涙が出そうだった。
そして改めて力強く拳を握り、自分自身に気合いを入れるのであった。
その間、千枝、雪子、菜々子の三人はというと、トンボ玉アクセサリーの製作実演や美しい万華鏡に見入ったりと、めいっぱい楽しんでいる様子だった。
嬉しそうにその光景を眺める完二に、陽介が横に立って声をかける。
「……みんなすっごく喜んでくれてる。若いお客さんもたくさん来てくれてるし、クリエイターさんたちもみ~んないい人たちばかりだ。ホントにいい催事になったよ。ありがとな」
「お、俺の方こそ、ホントに感謝してます! ありがとうございます!」
「三澤さんもいい感触だって言ってた。今回で流れを掴めたら、これをもっと大きく広げて、食品の物産展みたいな恒例催事にしていきたいって。……そう出来る可能性は、俺もきっとあると思う」
「花村先輩……」
「……おっと、あっちのレジが混んできてるぞ。頑張ろうぜ!」
「は、はい!!」
忙しくも楽しそうに、陽介も完二も会場を走り回るのであった……。
* * * * *
ベルベットルームにて、マーガレットがタロット・カードの入ったブックレットを眺める。
と、2枚のカードが眩い光を放ち、その外枠がゴールデンに象られた。
「皇帝と魔術師のカードが、スクエアー(自乗)に達しました。自らを掛け合わせるスクエアーの力。それはMAXを遥かに超えた大いなるペルソナ能力を生み出します。……無限の可能性、それがどんな形になっていくのか。これからも、楽しみに見ていこうと思います」
昼休み、悠の職場があるビル。
その屋上で缶コーヒーを飲む悠。
微笑みを浮かべながら、ゆっくりと青空を見上げる。
「フッ」
(了)