18歳未満の方には刺激が強すぎる表現が含まれますのでお読みになる際はお気をつけください。
第一話「最初くらいは静かに」
時間の流れは思っていた以上に早い。取り分けこっちへ来てからと言うものの、必死だったり充実してたりで気付けば三ヶ月も経っている。
最初はどうなる事かと、まばたきをする一瞬の間でさえ躊躇したものだ。それが今では元の世界よりも居心地の良さを感じている。
幻想郷。ここの連中はこの世界をそう呼んでいる。ここでは俺の――いや、殆どの人間が培ってきたであろう常識は通用しない。
生身で空を飛ぶ神社の巫女さん。箒にまたがって空を滑走する魔女っ子。終いには妖怪やお化け、この間は閻魔大王にまで会ったな。
兎にも角にも、何でもアリな世界。それがこの幻想郷。
少しだけ話が変わるんだが、俺はこの世界に来てからお世話になっている場所がある。
先の話にも出てきた空を飛ぶ巫女さん。俺はここへ来た時から今日に至るまでその巫女さんの神社で厄介になっていたのだが、つい先日のこと。俺はその巫女さんと正式に交際を始めたんだ。
「俺さ、ずっと霊夢の側に居たいんだ」思わず口を突いて出てきたその一言がキッカケだったと思う。因みに霊夢っていうのは巫女さんの名前だ。
いつもは俺の言うことなんか、「はいはい」などの適当な返答で流してくる霊夢があの日は珍しく流さなかったんだ。
「本気なの?」そう聞いてくるアイツの驚いたような表情、今でも覚えてる。そこからは……まあ、気恥ずかしくて言い辛いことなんだけど、少しだけ恋人らしいことをした。
「もちろん本気だよ」って俺が答えたら、アイツは柄にもなく顔を真っ赤にしてた。ひいき目ナシに可愛かったよ。本当に。
そこからの事は、また別の機会にでも話すよ。
天気がいいな。金元玉男(かねもとたまお)は鳥居の真下で大きく体を伸ばす。パキパキとどこかの骨が音を立てた時、不意に玉生の無防備な脇腹をか細い十本の指が容赦無く襲う。
皮膚を軽く摩擦するようにして動かされる指。ムズムズとする耐え難い感覚が、玉生の口から飛沫と共に盛大な笑い声を吹き出させる。
「――ったく、朝っぱらから何すんだよ」
「いいじゃない。いつものお返しよ」
振り返る玉男の目に霊夢が浮かべる悪戯っぽく舌を出して笑みが映り込む。僅かな紅潮を伺わせるその顔に玉男の腕は一人でに目の前の少女の背中へと回り、そのまま抱き寄せる。
「ちょっ、ん――」
何かを言いかける霊夢の口を玉男の口が封をする。唇と唇とを重ねる軽い口付けを交わすと玉男は一旦顔を離すが、背中に回された腕はそのままである。
「もう、どんだけ盛ってんのよ?」
「ごめん。霊夢が可愛くてつい、な」
「……バカ」
先よりも頬を赤く染める霊夢は、今度は自分から顔を寄せていく。再び軽い口付けを一度、二度と繰り返すと次は互いの舌先を触れ合わせる。
そのまま玉男が霊夢の後頭部に手を回そうとした時、ふと目を開ける彼の目に、霊夢の頭越しに一人の女性がこちらを艶かしいそうに見詰めている姿が入る。
「ん――?!」
「ちょっと、どうした――」
玉男につられて振り返る霊夢の顔は途中で凍り付く。
「朝からお熱いことで」
そこに居たのは、金色の長い髪を風に揺らし紫色のドレスにも見える豊満な胸元を主張する衣服を装う、この世界では随一の力を持つ大妖怪“八雲紫”だった。
紫は右手を口に当てがい、目を細めながら固まる玉男たちを見続けているのだった。