第十話「ドールプレイ・後」
男女の営みを教えてほしい。
赤らんだ頬が映えさせる潤んだ青い瞳を向けてくるアリスにそう切願された玉男は、「寸前の所までなら」という条件で彼女の申し出を受け入れた――はずだった。
「お願い……します」
純白のシーツが火照った身体の色味を鮮やかなまでに際立たさせてくれていると思慮するアリスは、これ幸いと思ってなのか、先まで自分の秘部を指で愛でてくれていた玉男に条件の撤廃を要求する。
しかし、恋人の顔を脳裏に過ぎらせる玉男は頑なになりつつある首を強引に左右に捻らせる。
「ダメだよ。これ以上は……」
「やっぱり、頼まなきゃ良かったんだよね。止まらなくなるの、わかって……たん、だか、ら」
露わになる色白の痩身な身体を隠すよりも先に、アリスは泣き出してしまった自分の顔を両手で覆う。
息苦しそうに肩を上下させている彼女の震える声が、酷く寂しげに聞こえる、と玉男は下唇を微かに噛みながら目を伏せる。
「ごめんな」
「ううん……私が、悪かったの」
そこまで告げてから「気にしないで」と気丈な笑みを向けてくるアリスの顔が視界に収まると、玉男の優しくも愚かしい心が奮い立つ。
目を細めるアリスが再び目蓋を開かせるよりも早く、その唇を奪う。涙の味が唇を舌先が触れると、アリスは無言のまま抵抗することなく自らの舌で彼を受け入れる。
「いいの?」
「バカだよな、俺……」
「ううん。霊夢が羨ましいって、本気でそう思うわ」
そう告げてから、今度はアリスの方から顔を近付ける。
アリスの言葉で幾ばくかの罪悪感を誤魔化せたような気になる玉男が彼女の舌を吸うように咥え、そのままアリスの胸を優しく二三度、手の平で包み込むようにその柔らかさと大きさを感じる。
「最初は少しだけ痛いらしいけど、大丈夫か?」
「少し怖いから、キスしながら挿れて欲しい……」
そう言いながら指の第二関節を曲げた手を口元に当てがうと、玉男はその手が僅かに震えているのが分かった。
言葉に出さない彼女の不安を汲み取ると、何も言わずに促されたまま唇をそっと重ねる。舌と舌とを触れ合わせない口付けなのは、微かに彼の心に残る想い人の見せる“あの日”の表情がそうさせるのか。
しかし、横たわる西洋人形のような気品さ香る少女の中へと自らの物を挿し入れようとする刹那、彼の思考がその答えを導き出すこともないのだろう。
「んん――っ?!」
熱した鉄を押し込まれたかのような錯覚と共に押し寄せてくる耐え難くも幸福な痛みに、アリスの身が悶え動く。
「もう少しの我慢だ、な?」
「うん……」
目尻に大粒の雫を浮かばせる姿に玉男は愛おしさを覚えてしまい、それを振り払うように顔を接近させ、今度は舌での接吻を強要する。
深いキスは麻酔のごとく作用してアリスが気付いた頃には、いつの間にか玉男は自身の一番の深みへ到達していた。
「これが、男の人の感覚なんだね?」
「そうだよ。あと、動かすんだけど、最初はまだ痛いと思うからゆっくり動くよ」
「ありが、とう……」
眼前に迫った相手と密接に繋がっている事実に、いまさらながら羞恥心を覚えるアリスは顔ごと視線を横へ逸らす。
すると、そんな自分に愛想つかせてしまったのか、男の顔が上半身ごと離れていく。
「えっ、ごめ――痛っ?!」
淫らに開脚させた太ももを掴まれた感覚を感じた次の瞬間、下腹部から先程よりも少しだけ強い痛みが走り、思わずその感情を口にしてしまう。
「悪い、少し早すぎたか?」
「ううん……それより、またキスしてて欲しいの」
「そうすると、上手くゆっくり動かせるか不安なんだけど」
「お願い。それでも、して?」
両手を伸ばしながら見つめて来る。
「本当に初体験か?」
苦笑を交えるが、再びその腰が前屈みに曲げられる。
「エッチな子は嫌い?」
「そんな男は居ないよ、多分な――」
そう告げてから玉男は求められていた通りに麻酔を与える。脳髄までを曖昧に濁らせる淫靡な舌先の動きに呼応するように、下半身の動きも乱れ始める。
ゆったりとしたストロークは次第に早く、耳に聞こえ届く艶目かしい喘ぎは彼女の身体が男を許諾する度に大きくなっていった。
すっかりと雨雲が退散した星の瞬く夜空を縁側に座って眺める霊夢は、晩飯の後から自らの膝の上に頭を置いたまま眠りに着いてしまった男の髪を優しく撫でる。
「はぁ……優しすぎるのよ、バカ」
例のごとく晩飯の席で彼から聞かされた告白を思い返す霊夢。しかし、その表情は穏やかである。
「それと、素直すぎるわよ……」
すると、夢心地の男は寝言で膝枕をしてくれる相手の名前を口にし後、謝罪の言葉を続ける。
その言葉を聞いた霊夢は小さく笑い声を漏らし、再び空に視線を移す。
「あーあ、今日は徹夜かな?」
大きく伸びをする霊夢は静観する星々へ幸せそうな笑顔でそう聞かせる。
それを聞いた星たちの粋な計らいか、それとも単なる偶然か、夜空を煌めきで装飾する星の一つが流れたのを霊夢は目撃する。
「いつまでも、このバカが優しい人で居ますように」
無意識の内に呟いた言葉に、「何言ってんだか」と彼女は苦笑を漏らすのだった。