彼女が目を覚ました時、先ず目に入って来たのは見知らぬ木目だった。黒に見える程の濃色だが、所々に見受けられる歪んだ細線の数々によってそれらが天井の一部分であると同時に、それ自体が天井であることを悟った。
つまり――所在不明の見知らぬ天井である。
「は――ここはっ?」
ガバッ、と布団がめくれ上がる。
次いで彼女、もとい早苗が抱いたのは違和感。
今の今まで身体を覆っていたのは掛け布団――しかし、臀部より伝って来るのは硬質ではないが柔らかさにも秀でていないという、何とも中途半端な柔さ。
だが、完全な覚醒を終えていない頭でも彼女がこれまで培ってきた経験、そして身体がその正体を報せて来る。
その正体とは――畳である。
「わたしはどうして畳の上に寝ているのでしょう?」
不思議というよりは不自然。
早苗は起き掛けという状態を考慮したとしても、到底にあり得るはずもない程の盲目ぶりを発揮していた。
「あっ……」
掛け布団を剥いだ瞬間から目線だけは向いていたハズだが、その目が焦点を合わせることを怠っていた先では今まさに、見ず知らずの男が秘部を隠していた湿った白い布地を剥いでいる最中だったのである。
意識と、それから目。
二つの焦点が合わさった瞬間、早苗は自分が見据えているモノが初めて目にする男性器であることに思い至る。
「わ、わわわっ――だ、男性器?!」
「ご、ごめん違うんだよっ。急に雨が降ってきて、洗濯物を取り込もうとして――」
慌てた様子で取り繕う男だったが。奇しくも早苗の関心は男の告げる弁解ではなく、その下部で微妙な揺れを伴う黒々とした物体に向いていた。
バナナ――そんな物ではない。もっと別の、見たこともない虫のような様だ。
今の早苗はまるでUMAとの遭遇を果たしたオカルト研究者のよう。兼ねてから遭遇する機会を待ち侘び、そして今、祈願だった邂逅を果たしたのだ。
絶句しているのは驚嘆からではない。喉を締めるのは畏怖ではなく、歓喜。余りに強過ぎる喜びからである。
「ふ、ふふ……ふふふふ」
気付けば耳に聞こえて来るのは自らの不気味な笑声、それと表から聞こえ届いて来る疎らな雨音。
「いま隠すから――」
慌てて足元へ放った布地を取ろうとする男。
「ねえ」
しかし、早苗の問い掛けがそれを御する。
意外だったのだろう。男は左手で股を隠しながら不思議そうに次の言葉を待つ。
「現役JKのわたしが――」
次第に早苗の両眼は愛おしい者へ配せる目つきになる。
男が生唾を飲む間を置き、早苗は言い放つ。
「イイコトしてあげますね」
刹那――浮かんだのは淫らな笑み。
聖職に従事する者が身に纏う巫女服との大きな差異の溝は、そこに溜まった不浄な欲求という水をさながら誘い水が如くして男を惑わせるのだった。
服上からも窺い知れていたのだが――なかなかどうして。
足を崩して座る早苗の背後に着くようにして同じく座した玉男は、痩身な身体つきにしては似つかわしくない胸元の脂肪を鷲掴みにして思い馳せる。
薄いとは言え、まだ布地を挟んではいる。いるのであるが、指間に吸い付くようにしてフィットする水風船が如き感触は重罪だ。
一度、そして二度、玉男は無意識に指を動かす。
「JKオッパイ、そんなに気持ちいいですか?」
「やばい……ずっとこうしてたい」
「ふふ――いいんですよ? 気が済むまであなたのイヤらしい指で犯しちゃって下さいね」
さすがはJKだ、と玉男は悟られぬように苦笑を浮かべる。
相手が如何様な理由から『現役JK』と名乗っているのかは知れる道理もないのだが、『JK』という単語を駆使している時点で彼の中では凡その検討は付いていた――彼女も自分と同じような境遇なのではないか。以前は俺と同様、この幻想郷の外で暮らしていたのではなかろうか、と。
そしてもう一つ、彼にとってはあまり歓迎できない推測が立った――相当な数の男を侍らせていたのではないか、である。
「でもでも、あんまりオッパイばっかり弄ってたら貴重な初物JKオ◯ンコが寂しがっちゃいますよ?」
「えっ……初物?!」
「きゃっ――」
思わぬ吉報に、玉男の指に力が入ってしまった。
「ごめん。てっきり君は、その――」
「もしかしたら、あなたとする為に今まではこういった機会がなかったのかもしれませんよ? なんたってわたし、奇跡を起こす程度の能力を持ってるみたいですから」
咄嗟に胸から離した指に、早苗の温かく細っそりとした指が絡みついてくる。
火照った頬、潤んだ瞳――不意に向いてきた早苗の横顔が備えたそれら二つは先の言葉と折を重ね、今度は玉男の心中を鷲掴みにしてくるのだった。