第二話「最近の悩み事・前」
玉男には小さな悩み事がある。
それは何も見知らぬ土地に迷い込んでしまった事ではない。むしろ年齢と彼女不在歴が同一の値を示す彼にとって、この事は喜ぶべきハプニングなのだ。
本当の悩み。それはこの世界に来てから己に備わってしまった強運である。
彼の行く先々で巻き起こるヒョンなアクシデントの数々は、結果として彼に抗い切れない誘惑を与えてくるのである。
そして、今日もまた彼は自らの強運ぶりを発揮するのだった――
人里離れた山道を散歩している玉男は、元の世界にいた頃には感じ得たことのない自然の美しさに圧倒されていた。
枝葉の隙間から見え隠れする木漏れ日の煌めき。虫たちが各々奏でる譜面のない演奏。そのどれもが彼の心を揺さぶるのには十分過ぎる印象を与える。
「今度は霊夢も誘って散歩でもするかな」
愛おしい人を頭に思い浮かべる玉男がふと視線を彷徨わせると、木々の途切れた先に佇む一軒の大仰な屋敷が目に入ってくる。
瓦屋根の大きな平屋。その姿はまごうことなき日本家屋そのものである。
興味本意で近づく玉男の目に、屋敷の縁側に似つかわしくない紫色の西洋風のドレスを着た女性の姿が飛び込んでくる。女性は障子の隙間を覗き見ているらしく、四つん這いの状態で臀部を突き出す形で伏せている。
「あれ、紫さん?」
紫の西洋風のドレスを着込む女性を玉男はこの幻想郷内では一人しか知らない。故に導き出した答えが今しがた彼が口にした名前である。
紫と呼ばれた女性はビクッと頭を上げ、慌てて振り返りながら口元に人差し指をあてがう。
「見つかったらどうするのよ?」
しぃ、と頬を赤らめるその美人はやはり八雲紫その人であった。
しかし、そうと分かったら分ったで玉男は困惑する。彼の中での彼女はコソコソと何かを覗き見るような性格ではないからだ。
「どうしたんです――!?」
紫の後ろから僅かに開かれる障子の隙間を覗き見る玉男は、叫び声を漏らしそうになるのを両手で覆うことで防いだ。
そこまでの動揺を彼に与えたのは、黄色い狐の尾を生やした女性が年半も行っていなさそうな仰向けになって倒れている少女の上に跨り、腰を上下させている様だった。
「紫さん、これって……」
「ええ。藍のやつがまた変な物でも飲ませたんでしょうね」
呆れたように呟いて見せるものの、その声がどこか艶っぽく玉男には聞こえてくる。不審に思った玉男が視線を落とすと、突き出された紫の臀部が微かに前後しているのだ。
障子の隙間から漏れ聞こえてくる二つの激しい喘ぎ声に紛れて、次第に荒くなる紫の息遣いが聞こえてくる。
「紫さん、大丈夫ですか?」
そう尋ねてはいるが、玉男は紫の荒くなる呼吸がもたらす意味を理解していた。
「……ねぇ」
吐息のような声を漏らした紫は、振り返えりながら自らの臀部を玉男の股間をこするように押し付けて動かす。
「な、何を――」
玉男の男根が強度を増した瞬間、玉男の唇と胸元に柔らかい何かが押し付けられた。