元の文章を更新する形ですと各章つじつまが合わなくなりそう(あと新規の方がやる気出そう)
なので別投稿にて失礼します。
ミーナのお世話になっていたスペクタクルマシン団を探す前に、 僕らはガサラの街で旅の準備をしながらハイランダーとしての仕事をはじめていた。
所属している地区周辺の警備を主としている隊ではあるけれど、現在、僕のいるガサラ地区は、騒ぎが日常茶飯事ということも無く安定した治安を確立しているため。
個人の利益に関わらない公共での業務での人員不足がある際に、その補充員として色々な場所に赴くのだという。
僕の今いる場所からは、開け放たれた扉に切り抜かれたように遠方の丘と草原と行商路が日光が鮮やかさを与えはじめ、後ろを振り返れば密集した町並みに響くの調理の音が、今日一日が賑やかになる事を知らせている。
そう、ここは町の象徴ともいえる、立派な壁門の下。
配属され、数日前からお世話になっているここであたっているのは、城壁を境にした出入りに対しての検問だ。
城壁といっても、お城だけ囲う方では無く、町全体を防御線で覆う都市単位の建造だ。
ここはヴィジョンで一番交易の盛んな土地らしく、東西南北各門に同じ規模の出入りがあると聞き、荷物検査を任された僕には身をもって規模の大きさを知ることになった。
分厚く、見上げるほどの壁で囲われた町並みは日本では教科書で想像する事くらいだったので、言い表せないほど圧巻だ。
ハイランダーとして迎え入れてくれたこの壁内居住区で住みはじめ、はじめは圧迫感はありそうなんて思ったが、とんでもない。
“旅人勇者見習い”と格付け?をされ、右も左も分からないまま、いきなり野へ放り出された事に無自覚にもトラウマになっているのか、この地に形容しがたい安堵を感じる。
きっと壁内のガサラで住む事自体、条件も厳しいのだろう。 一時的に宿を手配してくれたカッツさんには感謝しきれない思いだ。
しかも旅慣れない僕をキキーマと合部屋にしてくれて、ミーナは女の子だから個室にという配慮も嬉しい。
もちろん、特別扱いばかりされてもいけないし、返しきれない恩ではあるけど、頂いた業務をしっかりこなして感謝を伝えなくちゃ。
開かれた外門には敷地内に入ろうと待つ行列が既に一直線に並んでいる。
目視で確認できる最後尾は丘の上にいる行商荷車の雨風除けのテント張りだが、丘になっているということは後方の下りにもまだ続いているのは確実だ。
まだ慣れてない分、足を引っ張る場面も多々あって昨日より効率よく人数をさばかなければと、まだ今日の業務が始まってもないのに焦る。
昼時になるとその白いテント張りが日光を照り返し、目に痛いほどで、日蔭での作業の僕から見れば申し訳ない気持ちになるし。
「そういえば、なんで今日はカッツさんと二人でなんですか? 荷物の上げ下げとかするのだったら、トローンさんとか、男手が必要なんじゃないですか?」
「ワタル、あんたも男だろっ。 シャキっとしなよ」
カッツさんが面倒くさそうに僕をにらむのですごすごと謝罪を言って、今日は波風立たぬよう努めようと心の中で誓った。
トローンさんは、カッツさんと同じ管轄のハイランダーに属している大柄な獣人で、見た目通りな力仕事の効率の良さに、僕らアンカ族と呼ばれている種族より
鼻も利くらしい。
そんな、鍛え抜かれた警官に麻薬捜査犬を足して2で割らずにいるような人ならば、いると居ないとでは断然の違いがある。
今朝もブランチ(ハイランダーの事務所的な場所)で顔を合わせたが、今日は溜まっている事務処理をしなくてはと平積みになった紙束に目を向け渋い顔をしていた……配員ミスなんじゃない?
「ああ~……そっか」
しばらく間をおいて、不満を察してかカッツさんは言葉を付け足す。
「この前あんたと一緒に組んだように、こういう力仕事は普段トローンをまわすんだけどねぇ」
「今日、荷作業出来ない程体調が崩しているとかですか?」
そういう感じには見えなかったんだけど……。
「あはは、ちょっと惜しい。 今日、ここで作業“したら”体調が崩れるんだよ」
「んん? どういうことでしょうか」
「あんたもブランチで今日の帳簿、確認したかい?」
「ええ、一応目を通しましたけど……」
そんな特殊なもの記載してあったっけ? と仕事始めに皆に配布された“定期入荷品目一覧”の紙を開き、再確認する。
「ヒント、昼前に3箱」
え~っと1、2、3、4……到着時間順に並ぶ文字列をたどり、指を止めた。
今日の積荷の一つに3箱と記載されており、商品名は
「これって、ケ~、ケショウヒンって読むんですよね」
まだ覚えきれてないヴィジョンの文字表記をたどたどしく読むだけに精一杯で、獣人さん不在の件とうまく結びつかず、
「?」マークと共に再びカッツさんに目を移した。
「そっ、高級化粧品って書いてある。一滴が昼飯代くらいのね。 ってことは?」
そう回答を促され、やっと気付いた。
「ああ、匂いですか!」
「正解。 大量のカートンだとどうも具合悪くなるタチなんだよ、私らと違ってね。 だから今日のメンツは、ほら」
クイッと顎を動かすのにつられ、周りを良く見渡してみると確かに今日の検閲官や受け取り業者のその多くが尻尾の生えていない人々。
なるほど、これだけあからさまだとトローンさんみたいな獣人には、ちょっとした避難命令が出てるんだろうな。
というかそんなにキツイ物資が来るなんて、大丈夫なのだろうか?
「その荷車の通過の時にだけ獣人さんに休憩してもらうのはダメなんですか?」
「ああ、一度そういう体制組んだ時もあったけど、やっぱダメみたい、通過後半日は残るみたいね。ここももう少し風通し良けりゃいいんだけどねぇ」
「どんだけすごいんですか、それ」
思わず苦笑する僕にお手上げといった顔を返す。
解らない感覚……僕に害がなくても、キキーマやミーナにとっては危険な事があるということなのだ。
僕よりずっと旅慣れてる二人とはいえ、特にミーナは僕と同じくらいの年齢だし、気を使って我慢する子かもしれない。
気をつけよう。 とにかく、知らないことや気になったことはちゃんと聞いておかないと……
そういえばネギってあるのかなぁ……種族間で毒の違いがあるかもだし……タマネギとかがいい例だよなぁ。
「ったく、私らみたいなスタミナがない人間じゃ効率悪いのに、困ったもんだねぇ……」
僕はともかく、カッツさんは見かけによらず獣人並なんだけどね。 というツッコミは波風立つどころじゃすまなそうなので「えぇ」と相槌だけ返した時
「お~ぃ、早く始めてくれ~!」という行商人の声に急かされるように衛兵らが開門の作業を終えたところだった。
「さ、無駄話は終わり! あまり待たせるわけにはいかないよ」
「はい!」
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「高!級!化粧品だかんね。 落としたら承知しないよ」
と冗談交じりに変なプレッシャーを掛けてくるカッツさんと、次々運ばれてくる木箱の中身チェックをしている僕。
左右にも3列くらい、並行して同じように点検業務をしている僕と同じハイランダーや、手慣れた従業員さんがいて
まぁ、確率的に例の品に当たるのは低いのではと。
朝方は気温による鮮度落ちを避けてか、生肉生魚生野菜と“生”が付く品々が多く運ばれてきて順調に帳簿のチェックが埋まってゆく。
審査と関税を終えた人々の、急いでいるが控えめな鞭で入国する音を環境音として耳になじんできたころ。
さっきまでの木箱の扱いが台車に三段重ねだったのに
外箱からして今までの趣とは違うものが一箱、こっちにまわってきた。
「あたりだな」カッツさんが冷やかしに「にっ」と笑う。
あぁ~……僕は苦笑いを浮かべつつずしりと重いそれを台車ごと受け取った。
四隅の釘を外す前から、うあ、自分もちょっとってくらいの甘い匂いを通り越した何かが鼻を通り抜けてきて、これは納得せざるをえないって感じだ。
その箱を開けると、さらに箱、の中に仕切り板のある箱があり、順を追うごとに一つ、また一つと五感のうちのどれかが鈍っていく感じがした。 多分お昼ご飯は味がしなくなるのだろう……
箱にびっしり整然と入ってるそれを見て、今日仕事が済んだらダッシュでお風呂入りにいかないと一時的ではあるが一部の種族にとっての「生理的に無理」な嫌われ者になっているなと溜息がでる。
この厳重な箱の外し方、戻し方にもコツを掴み、2箱めの許可証を貼り付ける。この調子で最後も手早く終わらせたい……
あれ?
3箱目の台車が来ない?
『ぅうわぁっ!! あぶないっ そこのヒト~!』
「……へ?」
顔を上げると荷物を台車で運んでいた作業員のひとりが、足を滑らせたらしく、その三段組の、一番上段に乗っかっている物資の一箱が僕めがけて落ちてきそうだった。
重心は明らかに3段目の木箱にかかっていて、下の簡素な木箱が軽量をアピールしているかのようにぐらりと前傾姿勢を助長させる。
「ちょっと!? うあッ!」
とっさにそれを押し返そうと判断し手を上にやってはみたものの、僕みたいな子供の背では3段目下端を支えるのが精一杯で、
あ、この触り心地、さっきの木箱と同じ物だ。 と変に呑気な感想が浮かんだ束の間。
「あっ――まずいっ!」
「ワタルッ。 もういいから、よけなっ!」
とカッツさんが言うのと同時に僕は後ろへ思いっきり避けた!
――グワシャァァア!
僕の目の前で、舗装されてる地面とその木箱の角が激しく追突し、中身のガラス製品が割れる音がその木箱の中で反響している。
そのとき思った、
あっ、真横に避ければよかった――と。
厳重に締まってる木箱の蓋が自重で変形しバネのように弾け、尻餅をつく僕の頭上をかすめた。
「うわっ」
冷や汗をかく間もなく、箱の中身からその内容物であろう物がモワリと立ち込め、視界は瞬く間に真っ白になっていった。
あれ……?
さっきまでのは液体だったはず? あれ?
「すみません、だっ大丈夫ですか!?」
「……けほっえほっ。 えほっ、だいじょ……ぶ。 けふっ、です!」
得体のしれないものが舞い上がっているのであまり息を吸いたくなく、咳き込みながら大丈夫と両手を開いてみせた。
「ワタル大丈夫かい!――――これはっ……!」
近づこうとしたカッツさんが直前で足を止め、3歩後ずさりする。
自身を見ると粉砂糖でデコレーションされたみたいになっていて、まだ浮遊している微粒子を飛ばさぬよう、あおがないようにそっと袖に目をやる。
かかっている粉は特に変なものではなく、今のところ微粒子にむせただけだ。
匂いはというと、あの化粧品のせいで麻痺してよくわからず何とも言えないが、手触りは、薄力粉みたいな?
地面に飛散した製品はやはり3箱目も同じ、のガラスの小瓶に小分けされてあった液体、落下地点にはその水たまりが出来ており石畳の床の目地に徐々に流れ込みはじめていた。
そのイチゴシロップみたいな液体の上にも僕と同様、粉砂糖風デコレーションになっていて、甘い匂いも相まって誕生日祝いに食べたレアチーズケーキのイチゴゼリーかけを思い出す。
……なんて呑気な事考えてる暇はない。
この1ビンでどれだけの価値がと考えると血の気が引きそうだ……
不幸中の、僅かな幸いといえば、3段積まれていた内の1、2段目は台車に残ったままで無傷だということだ。
――あれ?
ならこの白い粉……どっから?
僕の見落とし……?
粉だけ意図して隠してあった!?
「カッツさんこれ、もしかして記載にはない……」
カッツさんは足元に転がるビンではなく、木板をおもむろに手に取り、顔をしかめた。
『皆、近づくんじゃないよっ! その場にいる全員そこを動かぬように! 衛兵、出入りのない様警備を!あと内門外門下ろして! ハイランダーは清掃タンク持ってきな!』
カッツさんは即座に統制をはかる。
「ワタル、とりあえず上着とズボンはここで脱いで置いていきな。 あと靴も! 門番用の休憩所に予備の服あるからそこで待機、さあ!」
非常時だからズボンとかは分かる。 でも「靴も!」って、ガラス飛散してるんだけど!
しかしただならぬ様子に気圧されて、そこに置いてくと、今いる足元のガラスだけは注意深く忍び足で避け、休憩室を探す。
あそこだ、ダムみたいに厚い壁の内面をくりぬいた構造なっているのだろう、木製の扉がぽつんと取り付けられていた。 うん、鍵はかかっていないようだ。
「はぁ~……」
室内で一息。 まだお昼前だというのに、先が思いやられる。
突然のハプニングだったから、動悸がおさまらないのは仕方がない、とりあえず着替えを探そうとあたりを見回した。
「……ないなぁ~」
ロッカーといえば鍵がかかった私物用の物だけのようだ。
そういえばここに入る寸前、後方から「もしかして獣人の―――」と、カッツさんと衛兵の会話が断片的に聞き取れたが犯人の事かな?
であれば獣人さん、よくあの匂いのキツイものを運搬できるなぁと思う。
まぁそれはいいとして、事態によってはここに居られない、もとの持ち場に戻ろうとドアノブを押す。
「あれ?」引くんだっけ、とドアノブを前後に押し引きしても動かず……。
鍵を掛けているようだ。 ああ、門の下の空間にいた人をとりあえず出入り禁止にしようと指示を出していたっけ。 僕が入った後のタイミングで外鍵を閉められたんだな。
ここも内門を閉めた後、衛兵が壁内居住区に出られるように繋がってるからね。
試しに居住区側の扉をひねると、鍵はかかっていなかった。
僕が内鍵を閉めればいいのだけれど、諦めていた着替えや水浴びは目の前だ。
そう、この門壁の扉を開けると丁度いま借りしてる宿は道を挟んだ真向いなのだから。
壁門の関係で日当たりが悪い点は嫌だったけど、今日は感謝している。