※この作品はR-18です。

超古代の星   作:サマエル

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翼の紋章

それは、やはり突然現れた。

 

「巴里を守護する者、大神一郎。」

 

「またお前か!今度は何だ?」

 

またも現れたピエロを睨む大神。

すると、ピエロはいつになく不敵な笑いを見せた。

 

「君に問う。君にとっての敵は何か?」

 

「これまで巴里の平和を脅かして来た怪人や怪獣達だ。巴里の平和を守るのが、俺達の任務だ!」

 

大神は即答した。

すると、ピエロにニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「本当かい?ならばまだ、君は戦わなければならない。」

 

「何だと?カルマールの他に敵がいるというのか!?」

 

ピエロの言葉に激しい反応を見せる大神。

すると、ピエロはそれを楽しむかの如く笑った。

 

「フフフ………、気付かないのかい?」

 

その時、大神の目の前に人影が写った。

 

「………、ロベリア!!」

 

それは、大神と共に副隊長として戦った巴里華撃団の仲間、ロベリアだった。

まるで眠っているかのように、反応を示さない。

見ると、ロベリアの周りには大神の仲間達の姿が次々と写し出された。

 

「エリカくん!ダイゴ!みんな………、一体どうしたんだ!?」

 

大神の声に反応する者は誰もいない。

すると、ピエロが口を開いた。

 

「もう一度問う。大神一郎、君の敵は怪人か?」

 

「何?みんなに何をした!?」

 

大神が叫んだ。

しかし、ピエロが返したのはその答えではなかった。

 

「もし君の敵が怪人なら、ここにいる六人は君の仲間ではない………。」

 

「何だと!?どういう事だ!!」

 

「何故なら、この子達には怪人達と同じ血が流れているから………。」

 

「馬鹿な!何を根拠に………!!」

 

「それは、超古代より続くパリシィの血………。怪人達にもこの子達にも、同じ血が流れているという事さ………。」

 

頭を振る大神に構わず、ピエロは言った。

 

「君は戦わなければならない。パリシィの血を引く全てと、あの裏切り者と共に………。」

 

「パリシィ………?裏切り者………?何の事だ!!」

 

聞き慣れない言葉を問い質したその時、大神の意識は夢の世界から現実に引き戻された。

 

「また………あの夢か………。」

 

先日からよく見るピエロの夢。

会話の流れからして連続性を持ったその夢が、大神はどうも気になった。

 

「何かの正夢でなければいいが………。」

 

平和になった巴里の朝日を眺め、大神が呟いた。

カルマールを打倒し、ようやく掴み取った平和。

しかし、その余りにも早い崩壊の時が、迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁダイゴさん!どうぞ上がっちゃって下さい!」

 

いつにも増して上機嫌なエリカに連れられてダイゴがやって来たのは、シャノワールの屋根裏部屋だった。

あれから修道院をクビになってしまったエリカは、グラン・マの計らいでこの屋根裏部屋に移り住む事になったのである。

 

「へぇ~、きちんと整理されてるね。」

 

部屋全体を見渡して、ダイゴが呟いた。

綺麗に拭き掃除された床には、修道院時代からあった祭壇や日記帳などが並べられている。

 

「ふぅ、何だかいい天気ですね!」

 

窓を開け払い、エリカが言った。

外から日差しが差し込み、暖かな夏の日差しが風と共に入って来る。

 

「そうだね。もうすぐ秋になるから、巴里も涼しくなるしね。」

 

しみじみと頷くダイゴ。

すると、エリカが何故か頬を膨らませてダイゴを見た。

 

「もう、何言ってるんですかダイゴさん!」

 

「えっ?何で怒るの?」

 

何かエリカの気に障るような事を言ったのだろうか。

すると、エリカは考え込むダイゴの腕を抱き寄せて言った。

 

「ダイゴさんは私とアッツアツになるんですから、涼しくなっちゃ駄目です!!」

 

「エ、エリカさん………。」

 

秋の涼しさを恋の終わりと履き違えたか、エリカは口を尖らせた。

最もそれはダイゴにしても願ってもない事だが、こう勘違いが酷いと何やら複雑な気分である。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。僕とエリカさんは一年中一緒なんだから。」

 

そう言うと、エリカは途端に笑顔になった。

 

「うふふっ、ならいいんです。」

 

その時、ふとエリカのお腹の虫が鳴った。

 

「「あ………。」」

 

同時に声を上げてエリカのお腹に目をやる二人。

その様子は、まるで子供を授かった新婚のようにも見える。

 

「あ、あの、ダイゴさん………。」

 

「何?」

 

「もし良かったら………、朝ごはん食べに行きません?」

 

躊躇いがちにエリカが尋ねた。

思えば朝起きてすぐエリカに連れて来られたので、今日はまだ何も食べていない。

せっかくのエリカの誘いという事もあり、ダイゴはエリカの申し出を受ける事にした。

 

「もちろんいいよ。行こう、エリカさん。」

 

「はい!」

 

差し出されたダイゴの手を、エリカは笑顔で握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、大神の姿は裏通りにあった。

朝食をとろうと足を運んだカフェで偶然ロベリアに会い、半強制的にこの店に連れ込まれたのである。

 

「中々似合ってるじゃないか。」

 

隣に立つロベリアが珍しく大神を褒める。

しかし、合わせ鏡を見る大神の表情は良くなかった。

それもそのはず。

鏡に写ったのは、黒いコートにチェーンを着飾った冴えないヤンキーだったからだ。

 

「ロベリア………、本当にこれ着るのか?」

 

「当たり前だろ?それとも、アタシのペアルックは嫌か?」

 

「いや、そんな事はないぞ!だけど………。」

 

ロベリアの言う通り、コートはロベリアの色違いで、俗に言うペアルックという奴だ。

確かにロベリアの考えは嬉しいのだが、爽やかな好青年で通っていた自分には明らかにイメージが違う事を、大神は自覚していた。

 

「俺にはやっぱりモギリ服の方がいいな………。」

 

「ふ~ん、アタシのお願い聞いてくれないんだ。」

 

「いや、別にそういう訳じゃ………。」

 

「いいよ、それならそれで。ただし………、」

 

弁解しようとした大神に、ロベリアがニヤリと笑った。

 

「アタシが副隊長を辞めちまうけどね。」

 

「いいっ!?ずるいぞロベリア!!」

 

この服は些かキツイものがあるが、かといって副隊長を辞職されてはたまったものではない。

ロベリアは、そんな大神の反応を見越したように笑った。

 

「さあ隊長、どうするんだ?」

 

「………分かったよ。ロベリアがそうして欲しいなら………。」

 

大神はため息を吐きながら、ロベリアの申し出を呑むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらぬ日常。

しかし、それは余りに唐突な形で消え去る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、大神はレビューを終えたロベリアと二人で、ある場所へ向かった。

モンマルトルの丘。

巴里を一望できる名所の一つだ。

 

「巴里にこんな所があったなんて、知らなかったな………。」

 

眼下に広がる町並みを眺めながら、大神が呟く。

すると、前を歩くロベリアが答えた。

 

「そりゃそうさ。ここはアタシがよく使う逃げ道の一つだからね。巴里の人間でも、知ってる奴は少ないだろうね。」

 

モンマルトルの丘は自然を大事にしているらしく、街中の街路樹より立派な木が道を覆い隠している。

昼間は木漏れ日が差し込んで森林浴を楽しめるが、夜になると月明かりが遮られて真っ暗闇に変わる。

ことロベリアにとってこの場所は、いざという時の逃げ道に最適という訳だ。

しかし、ロベリアがこの場所を気に入っている理由はそれだけではなかった。

 

「見てみな、隊長。」

 

そう言って、ロベリアが展望台の手摺りに寄り掛かった。

大神も同じように巴里の町並みを見下ろす。

そこには、美しい巴里の明かりが見えた。

 

「ここで警察をやり過ごしてる時、よくこうして巴里の街を見てたモンだ。それで、一つ気付いたのさ。」

 

「気付いた?」

 

「ああ。巴里の街には、昼と夜とで違う。華やかな昼間と違って、夜は温もりのある光がある。」

 

巴里は花の都と謳われる程、華やかさが魅力的な街だ。

しかし、そればかりが巴里の魅力ではない。

夜はこうして、温もりのある光が街を包んでいるのだ。

その一つ一つは、名前も知らない誰かの温もりに溢れている。

そう考えると、何やらセンチメンタルな気分になる。

花の都と謳われた巴里のもう一つの姿が、そこにはあった。

 

「でも、それも一時の間だけだ。いずれは終わりが来る。………アタシ達みたいにな。」

 

「え?」

 

ロベリアの最後の言葉の意味が分からず、聞き返す大神。

すると、ロベリアはまっすぐに大神を見て尋ねた。

 

「隊長、アンタ………帝都に将来を約束した奴がいるだろ。」

 

その言葉に、大神は思わずハッとした。

確かにロベリアの言う通りだ。

大神は帝都にいる紅蘭と、既に将来を約束している。

分かっていた事だが、今まで伝えられずにいた事だ。

 

「………そうだ。君の言う通り、俺は帝都に大事な人を残して来ている。」

 

一瞬躊躇ったが、大神は意を決して正直に答えた。

ロベリアに対して特別な感情を抱かなかったと言えば嘘になる。

しかしロベリアなら嘘をついても見破るだろうし、そうまでして好きと言う事を望んではない。

ロベリアも、大神の答えに納得したように口を開いた。

 

「やっぱりね。まあアンタみたいな男を、アイツらがほっとく訳もねぇからな。」

 

「隠すつもりはなかったんだ。ロベリア、済まない………。」

 

大神はロベリアに謝罪した。

確かに事実ではあるが、その事実にロベリアが少なからず傷ついたのもまた事実だ。

しかし次の瞬間、ロベリアの口から信じられない言葉が返って来た。

 

 

 

 

 

「許すものか!!」

 

 

 

 

 

「ロ、ロベリア!?」

 

突然態度が豹変したロベリアに、大神は驚きの表情でロベリアを見た。

まさかロベリアはそこまで怒っているのか。

いや、そうではない。

何故ならロベリアの口から出て来た言葉は、会話の流れと全く違うものだったからだ。

 

「許しはしないよ………。大地は都市を憎み、それを守護する者達を憎む………。」

 

ロベリアとは明らかに異なる口調。

この口調に、大神は聞き覚えがあった。

 

「………!お前は、夢に現れたピエロか!?」

 

「君の敵が怪人達なら、この子達は君の仲間ではない。何故なら、この子達には怪人達と同じ血が流れているのだから………。」

 

大神の声を無視して、ピエロは続けた。

 

「それは、超古代より続くパリシィの血。君はその全てと戦わなければならない………。」

 

夢で聞いたものと同じ台詞。

そこまで口にした時、ふとロベリアが糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

「ロベリア!」

 

大神は慌てて駆け寄り、ロベリアを優しく抱き起こした。

 

「ロベリア、しっかりしろ!ロベリア!」

 

優しく肩を揺すりながら呼び掛ける。

すると、程なくしてロベリアは目を開いた。

 

「う………、た、隊長………。」

 

「ロベリア………、大丈夫か?」

 

意識を取り戻したロベリアに尋ねる大神。

すると、ロベリアは頭に手をやって答えた。

 

「ああ、アタシなら平気だ。一体何だってんだ?」

 

おそらく記憶が飛んでいるからか、あまり状況が掴めていないロベリア。

大神は、ふと思い出した様子で尋ねた。

 

「ロベリア、パリシィと言う言葉に聞き覚えはないかい?」

 

「パリシィ?さぁな、ガキの頃に聞かされたような覚えはあるが………。」

 

ロベリアから返って来たのは曖昧な返事だった。

あのピエロが何者で、言った事が本当かは分からない。

ただ一つ言えるのは、これまで大神の見た夢はただの夢ではないという事だ。

そこまで考えを巡らせた時だった。

巴里の街を、凄まじい震動が襲ったのである。

 

「こ、これは………!!」

 

あまりの震動に立っていられず、その場に座り込む二人。

すると、ロベリアが驚いた表情で街を指差した。

 

「た、隊長!街が、街が燃えてやがるぜ!?」

 

「何!?」

 

ロベリアの言葉に大神は巴里の街に視線を写し、そして絶句した。

先程まで平和だった巴里のそこら中で、火の手が上がっていたのである。

新たな闇の出現か。

それとも怪人に生き残りがいたのか。

いずれにせよ巴里の平和が再び終わった事は間違いなかった。

 

「ロベリア!シャノワールに急行するぞ!」

 

「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巴里華撃団、参上!」

 

謎の地震から程なく、巴里華撃団の姿はノートルダム寺院にあった。

かつて巴里の命運を賭けてカルマールと激突した決戦の地。

一際高い妖力を感知したそこに地震の元凶があると踏んだ大神達は、再び戦場となるであろうこの地に駆け付けたのである。

 

「何でしょうね、この根っこ。気持ち悪い色ですね。」

 

そこら中に生えた謎の根っこを掴み、エリカが呟いた。

他の植物と比べてどす黒い色で、何やら有害な感じがする。

 

「ただの植物ではあるまい。何者かの意思でこうなったのだろう。」

 

根っこを注意深く観察しながら、グリシーヌが分析する。

その時、大神の光武F2に警告の表示が現れた。

 

「これは………!みんな気をつけろ!奥に何かいるぞ!!」

 

その声に一斉に警戒する花組。

すると、大神達の前に見覚えのある巨大な影が現れた。

 

「………諸君ではないか………。また、余の邪魔だてをするつもりか………?」

 

「カルマール!!」

 

そこに現れたのは、以前このノートルダム寺院で倒したはずのカルマールだった。

確かにオプスキュールを呼び出せたカルマールなら、これだけの植物の根っこを呼び出せた事にも納得出来る。

 

「貴様、まだ生きていたのか!!」

 

「分からん………。一度は死んだかも知れん。」

 

大神の言葉に、カルマールはやけに弱い声で答えた。

以前の余裕はなく、まるで死人のように生気がない。

 

「だが、余はここにいる。巴里が余を呼んでおるのだ。破壊してくれとな………。」

 

刹那、サンフォニーを取り囲むように根っこが現れた。

 

「大神さん、また根っこが!」

 

「カルマール!この植物はお前の仕業か!?」

 

問い質す大神。

しかし、カルマールの答えは全く違うものだった。

 

「そのようなものは知らん………。余の目的は諸君らの、裏切り者の抹殺のみ………。」

 

「何………!?」

 

不可解な答えに大神が眉を潜めた時、流星Fで空中に待機していたダイゴから通信が入った。

 

「大神さん!空に何かいる。凄いスピードだ!!」

 

「何っ!?」

 

その直後、空を切り裂く咆哮が轟き、サンフォニーと並ぶ巨大な影が寺院前に降り立った。

 

「ビィーッ!!」

 

それは、身体に開いた無数の穴が特徴的な翼竜を想起させる怪獣だった。

赤い真っ赤な目からは、殺気にも似た闘争本能が強く感じられる。

 

「よくぞ目覚めた、超古代怪獣ゾイガー………。」

 

やはり部下だったらしく、現れた翼竜にカルマールが命令を下した。

 

「行けぃゾイガー!あの忌ま忌ましい小僧共を皆殺しにしてしまえ!!」

 

「ビィーッ!!」

 

命令に応えるように咆哮を上げ、ゾイガーは大神達を睨む。

そして、口から無数の光弾を吐き出した。

 

「いかん!みんな、下がるんだ!!」

 

咄嗟に指示を出し、後方へ退避する花組。

しかし、縦横無尽に飛び交う光弾は地面を砕き、花組を二つに寸断してしまった。

 

「これで逃げ場はないな、小僧………!」

 

「くっ………!!」

 

眼前に迫るサンフォニーを前に、大神は悔しげに歯噛みした。

ゾイガーの光弾は地面を寸断し、花火、コクリコ、エリカの三人がゾイガーのいる対岸に取り残されてしまったのだ。

チームワークが売りの巴里華撃団にとって、戦力の分断は大きな打撃であった。

しかし、そこに助け舟が現れた。

ダイゴである。

 

「大神さん、あの怪獣は僕に任せてカルマールを!!」

 

「ダイゴ!よし、エリカくん達はダイゴの援護を、ロベリアとグリシーヌは俺と一緒にカルマールを撃破するぞ!」

 

「「了解!!」」

 

命令を受けて動き出す花組。

同時にダイゴも、スパークレンスを取り出して叫んだ。

 

 

 

 

「ティガーーーーッ!!」

 

 

 

 

「チャッ!!」

 

流星Fから飛び出した光の巨人が、ゾイガーの前に降り立った。

それに伴い、ゾイガーも襲い掛かって来る。

 

「ビィーッ!」

 

「ハッ!」

 

口から吐き出される光弾。

ティガは素早くウルトラマンシールドを展開し、地面をも砕くそれを打ち消した。

 

「チャーッ!」

 

それと同時に、ゾイガーの顔面目掛けてハンドスラッシュを発射する。

 

「ビィッ!?」

 

思わぬ反撃にたじろぐゾイガー。

ティガは更に追い撃ちをかけるべく、ゾイガーの腹を蹴りつけた。

 

「ハッ!」

 

が、しかし、ゾイガーの皮膚は思いの外固く、ティガのキックが容易く跳ね返されてしまった。

 

「ビィーッ!!」

 

ゾイガーは更に、お返しとばかりにティガにタックルを仕掛けて来た。

 

「ジュワッ!?」

 

そのカウンターに不意を突かれ、後ろに倒れるティガ。

それを見たゾイガーは、翼を広げて空高く飛び上がった。

 

「チャッ………。」

 

そしてティガが立ち上がるタイミングを見計らって、体当たりを仕掛けて来た。

 

「ビィーッ!」

 

「ジュワッ!?」

 

超高速の体当たりをまともに喰らい、ティガはまたしても地面に倒れる。

そこに、ゾイガーの光弾が襲い掛かった。

 

「ジュワッ!?」

 

四方八方から光弾に蒔かれるティガ。

それを見て、大神はすぐさま命令を出した。

 

「エリカくん、花火くん、ゾイガーの翼を狙撃して飛行能力を奪うんだ!」

 

「はい!」

 

「お任せを!」

 

大神の指示を受け、二人はすぐさま空中にいるゾイガーを攻撃した。

しかしゾイガーのスピードはメルバ以上で、中々攻撃を当てる事が出来ない。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

すると、ティガは額のクリスタルを発光させ、スカイタイプにチェンジした。

 

「ハァァァ………!」

 

そして両腕を左右に広げて頭上で重ね、ランバルト光弾を発射した。

 

「ジュッ!!」

 

突き出された右手の光弾は、一直線にゾイガーの右翼の根元を直撃した。

プラズマオーブの力で、スカイタイプの集中力が飛躍的に上昇したためである。

 

「ビィーッ!!」

 

叫び声と共に地面に落下するゾイガー。

ランバルト光弾の威力からか、直撃を受けた右の翼は無くなり、煙が上がっていた。

 

「ビィーッ!!」

 

ティガを睨みつけ、怒りの叫びを上げるゾイガー。

すると、ゾイガーは意外な行動に出た。

 

「えっ………!?」

 

「チャッ………。」

 

その信じられない行動に、ティガもエリカ達も驚きの声を上げた。

何とゾイガーは、残る左の翼を不要とばかりに引きちぎったのである。

まるでティガに対する闘争心を剥き出しにするかの如く………。

 

「ビィーッ!!」

 

「チャッ!」

 

咆哮と共に襲い来るゾイガーに、ティガは真正面から応戦した。

だが、ゾイガーの戦闘力は翼を失って尚高いものだった。

 

「ハッ!ハッ!」

 

スピードを活かしてマシンガンのごときパンチを浴びせるティガ。

だが、ゾイガーの固い皮膚はティガの猛攻を全く寄せつけなかった。

 

「ビィーッ!」

 

「ジュワッ!?」

 

更に激しいラッシュを受け、状況はまたしてもゾイガーに傾く。

ゾイガーの戦闘力は、これまでの怪獣とは一線を画していた。

 

「ビィーッ!!」

 

勢いに乗ったゾイガーは、凄まじい力でティガの首を締め付ける。

すると、ここで遂にティガのカラータイマーが点滅を始めた。

 

「ダイゴさん!!」

 

思わず叫ぶエリカ。

すると、隣に立つ花火が再び矢を放った。

 

「はっ!!」

 

狙い澄ました一矢が、ゾイガーの片腕に突き刺さった。

その一瞬、ゾイガーは腕こそ離さなかったが、注意をティガから逸らす。

ティガにはその一瞬で十分だった。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

一瞬の隙をついてクリスタルを発光させ、パワータイプにチェンジする。

そして、内側からゾイガーの肩を掴み、巴投げの要領で後ろに投げ飛ばした。

 

「ビィッ!?」

 

「チャッ!!」

 

起き上がって反撃しようとするゾイガーの腹に、今度は力強いストレートパンチが打ち込まれた。

 

「ビィッ!!」

 

やはり固い皮膚に変わりはないが、大地を揺るがす衝撃にゾイガーの身体は大きく真後ろに吹き飛ぶ。

 

「ハァァァ………!!」

 

ティガは両手を外側からゆっくりと回転させ、胸の前で圧縮したエネルギーボールを生み出す。

そして、ゾイガー目掛けてパワータイプ必殺のデラシウム光流を放った。

 

「ダアッ!!」

 

極限まで圧縮されたエネルギーボールが、一直線にゾイガーの顔面を直撃した。

たちまちゾイガーの全身をエネルギーが包み込む。

 

「ビィーッ………!!」

 

最期の咆哮と共に、ゾイガーは大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、大神達とカルマールの戦いも大詰めを迎えていた。

捕獲ユニットを全て切り伏せ、大神が猛然と切り掛かる。

 

「狼虎滅却………紫電一閃!!」

 

大神の二刀から霊力を具現化した狼が現れ、四方八方からサンフォニーを引っ掻き回す。

それが決定打となり、サンフォニーは全身から煙を上げ始めた。

 

「………小僧、覚えておけ………。余を倒した所で巴里壊滅は止まらん。」

 

「何………?」

 

「巴里が巴里である限り、この街は滅びの定めにあるのだ………!!」

 

何やら意味深な言葉を残し、カルマールは爆発四散した。

だが、大神達は今の戦いに疑問を持った。

 

「どういう事だ?前と違って手応えがなかったが………。」

 

以前オプスキュールで相対した時のカルマールは、威厳と共に圧倒的な妖力で常に有利に立っていた。

しかし、今のカルマールからはそれが見受けられない。

攻撃も激しくなかったし、捕獲ユニットの動きも隙だらけだ。

大神達やウルトラマンティガにリベンジに来たというより、まるで倒されるために現れたようにとれなくない。

すると、隣にいたコクリコが何かに気付いて叫んだ。

 

「みんな、見て!変な根っこが光り始めたよ!!」

 

見ると、ノートルダム寺院一体に張り巡らされた植物の根っこが一斉に光り始めたのだ。

まるで、カルマールの死に反応したかのように。

 

「カルマールは倒した。どういう事だ?やはり怪人と植物は関係ないのか?」

 

植物を発生させたのがカルマールなら、倒した時点で植物も消滅しているはず。

なのにまるで力を蓄えるように光り出すとはどういう事か。

その時、グリシーヌの言葉に答える声があった。

 

「あるよ………。」

 

「き、貴様は………!!」

 

その声と共に現れた人物に、大神は仰天した。

何故ならその人物は、大神に散々夢の中で御託を並べたピエロだったからである。

 

「はじめまして………、と挨拶すべきかな?一人を除いては。」

 

「ふざけるな!貴様、何者だ!?」

 

油断なく刀を構える大神。

すると、ピエロは余裕を持った表情で答えた。

 

「心配はいらない。彼らの仲間ではないからね。ましてや、君達の仲間でもないが………。」

 

「ならば何者というんだ?」

 

大神は間髪入れずに問い質した。

自分達の仲間でもなく怪人達の仲間でもないなら何だというのか。

 

「大いなる超古代の意思を伝える者………。人間は、サリュと呼んでいた。」

 

サリュと名乗ったピエロは、何処か懐かしむような目つきで答えた。

 

「遥か3000年前、この地は自然の恵み豊かな大地だった。」

 

サリュがそう呟いた時、目の前の世界が大きく変わった。

まるで、サリュのいう超古代にタイムスリップしたかのように。

 

「これは………?」

 

「な、なんだ!?サリュとやら、下らぬまやかしは止めろ!!」

 

まやかしと決めて否定するグリシーヌ。

しかし、コクリコの反応は違った。

 

「でも、何だか懐かしい感じがするよ?昔、何処かで見たような………。」

 

すると、サリュは目の前の景色について説明を始めた。

 

「これは、君達が祖先より受け継いだ、超古代の記憶。このセーヌ河に浮かぶシテ島には、かつて自然と共に生きる一族がいた。」

 

「それが、パリシィという事か?」

 

大神の言葉に頷き、サリュは続けた。

 

「ある時、パリシィはその光故、闇の力により滅亡の危機に立たされた。」

 

すると、サリュは右手を徐に上げた。

途端に景色が変わり、平和だったパリシィの街が闇に包まれる。

その奥に、醜悪なる闇の元凶が見えた。

 

「あれが、闇………?」

 

「そう。しかし、パリシィには希望があった。守り神がいたからだ。」

 

「守り神………?」

 

そう呟いた時、闇から街を守るように、一筋の光が現れた。

その姿に、大神達は揃って驚きの声を上げた。

 

「あ、あれは!?」

 

光の正体。

それはこれまで幾度となく自分達を救ってくれた光の勇者にして巴里の守護神、ウルトラマンティガだったからである。

 

「守り神は激しい戦いの末、自らの魂を以って闇を封じ込めた。そして、生き残ったパリシィは石像となった守り神を神殿に安置してこう讃えた。『ティガ』と………。」

 

サリュが再び右手を上げた。

すると、最初より慎ましくはあるが、平和な街の風景が写る。

ティガによって救われたパリシィの人々が、新たなスタートを切ったのだ。

 

「だが、ティガによって守られた平和も長くは続かなかった………。」

 

サリュが三度右手を上げた。

すると、パリシィの街はまたも炎に包まれた。

それも今度は闇ではなく、人間の手によって………。

 

「パリシィの時は、ローマ人によって終わった。人の悲しみを踏みにじり、その上に築かれた街………。それが、今の巴里だ。」

 

「この巴里に、そんな歴史が………。」

 

ティガが命を賭して守り抜いた平和が壊れる様に、エリカが傷心の思いで呟く。

すると、サリュは更に続けた。

 

「しかし、人間はパリシィにある光とティガという守り神の制裁を恐れた。そして、魔術を用いた城壁によってパリシィの怨念を無理矢理深い眠りに就かせた。」

 

「城壁?」

 

思い当たる節がなく、大神が尋ねる。

すると、ダイゴが答えた。

 

「きっと、カタコンベだ………。」

 

「カタコンベ?」

 

「ティガの石像が安置されていた場所だよ………。シテ島からティガを引き離して、少しでもパリシィの怨念からティガを遠ざけようとしたんだ………。」

 

初めてティガと出会った場所。

そこは、シテ島から最も離れた位置にある隠し部屋だった。

何のためにティガの石像をそこに安置したか。

それがサリュの言うパリシィの怨念から遠ざけるためと考えれば、簡単に説明がつく。

 

「その通り。流石は光を継ぐ者、察しが良い。」

 

ダイゴの推理に、サリュが満足げに笑った。

 

「しかしその城壁も、文化の発展に伴い人間の手で破壊された。そして、怪人達が現れた。」

 

「つまり、奴らはパリシィの怨念から生まれたと………?」

 

ロベリアの言葉に頷いた後、サリュはニヤリと笑った。

 

「そして不思議な事に、君達巴里華撃団も怪人達と同じパリシィの血族なんだ………。」

 

「馬鹿な!そんな証拠が何処にある!!」

 

たまり兼ねたグリシーヌが叫んだ。

すると、サリュは不敵に笑って見せた。

 

「ならば見せてやろう。君達がパリシィという証を!!」

 

サリュの金色の目がギラリと光った。

すると、エリカ達五人の右手の甲に紋章が現れた。

その形は縦線の左右に二本ずつ斜め上に線が伸び、まるでスパークレンスと同じ翼の形をしている。

更にそれと共鳴するように、ダイゴのスパークレンスが明滅する。

 

「ふざけるな!アタシ達が怪人と同じ血を引いてるだと!?」

 

「ですがロベリアさん………。胸の奥から沸き上がる、奇妙な懐かしさを感じませんか?」

 

「みんな、そうなのか?」

 

これまでの過程を見る以上、サリュの言う事がデタラメとは考えにくい。

大神は、六人に恐る恐る尋ねた。

 

「隊長、理由は説明出来ないが、奴の言う事は確かだ………。」

 

「ボク………、生まれるずっと前からパリシィとして生きてたと思う。何故だか………、そう思うんだ………。」

 

「凱旋門で初めてティガを見た時に懐かしさを感じたのも、私やみんなに霊力があったのも、みんなパリシィの力なんですね………!?」

 

エリカの言葉が、全てを物語っていた。

ダイゴだけではない。

エリカも、グリシーヌも、コクリコも、花火も、そしてロベリアも、怪人同様にパリシィの子孫だったのである。

 

「その翼の紋章こそ、パリシィの証。そしてそのスパークレンスは、パリシィの守護神であるティガの証………。」

 

「じゃあ、あいつらが僕を裏切り者と言ってたのは………!」

 

ここに至り、ダイゴはようやく裏切り者と言われた由縁を察した。

今巴里に生きる人々のほとんどはローマ人の子孫。

つまりティガは、今まで本来守るべきはずのパリシィではなく、仇であるローマ人を守って来た事になる。

それは、巴里華撃団も同様だった。

 

「パリシィの真の力は死せる時。つまり、君達に倒された怪人の数だけ怨念の力は増す。」

 

「何っ!?じゃあまさか………!!」

 

大神の表情がまたも驚きに変わった。

サリュの言葉が事実なら、怪人達の目的は巴里の平和を脅かす事ではなく自分達に倒される事になる。

 

「君達が肉体のみならず魂までも滅ぼしてくれたおかげで、超古代の最期の力を呼び覚ます事が出来る………。」

 

サリュはフワリと宙に浮かび上がり、両手を広げた。

すると、六つの光の玉がその周りを浮遊する。

それこそカルマールを含めた怪人達の魂だった。

 

「さあ目覚めの時だ、オーク巨樹!パリシィの魂を以って、超古代の盟約を果たす時だ!!」

 

「みんな、力を貸してくれ!奴を止めるんだ!!」

 

何をするつもりか知らないが、巴里に害を成すつもりなら放ってはおけない。

しかし、返って来たのはあまりに無気力な返事だった。

 

「できません………。」

 

答えたのはエリカだった。

他の四人も、苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。

 

「駄目だ………!大神さん、スパークレンスも反応しない!」

 

「何だって!?」

 

やはりティガも力を貸してくれないというのか。

驚く大神と対照的に、サリュは高笑いを上げた。

 

「フハハハハ!パリシィの血を引く者が、パリシィの意志に逆らえるはずがない!」

 

「くっ………!!」

 

信じたくはない。

しかし現にスパークレンスは反応を示さないし、エリカ達も躊躇ったままだ。

 

「さあ、裁きの時だ!とこしえに消え失せるがいい、巴里と言う名の醜悪なる都市よ!!」

 

サリュがそう叫ぶと、辺りを漂っていた魂達は地面に溶け込むように消え失せた。

 

「それでは、ごきげんよう。パリシィの子供達、ゆっくりとお休み………。」

 

そう言って何処かへと消えるサリュ。

刹那、先程とは比べものにならない震動がノートルダム寺院を襲った。

 

「大神さん、このままじゃ………!」

 

「そうだな。よし、一旦シャノワールに戻るぞ!」

 

ダイゴに言われ、大神は命令を出した。

しかし、五人は思い悩むように反応を示さない。

 

「退却だ!グズグズするな!!」

 

大神が怒鳴り付けた。

すると、五人はようやく意識を現実に引き戻した。

 

「「りょ………、了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは大神達が脱出した直後に現れた。

最初の根っことは比べものにならない程の巨大な根。

それは一瞬にしてノートルダム寺院を包み、巴里の街に牙を剥いた。

逃げ惑う人々。

潰されていく建物。

巴里全域に緊急避難命令が発令されるまで、2分もかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノートルダム寺院より発生したオーク巨樹は成長を続け、市街に広がっていますぅ!」

 

「主要道路は壊滅。建物もほぼ倒壊。都市機能、沈黙しています。明日の夕刻には、オーク巨樹が巴里全域を覆い尽くすものと推測されます。」

 

メルとシーから齎された報告は、巴里華撃団にとって正に死刑宣告だった。

カルマールの決戦からようやく街が立ち直った矢先の出来事に、グラン・マの表情も暗いものに変わる。

 

「巴里が消える………。正に最悪だね。」

 

「………すみません。俺達が怪人を倒したばかりに………。」

 

「ムッシュ、そんな事はないよ。オーク巨樹だけなら勝算はある。」

 

謝罪する大神に、グラン・マは首を振った。

 

「問題なのはこの子達だよ。祖先がパリシィと知って、戦う意志が消えかけている。」

 

「失ってはいない!だが………!!」

 

咄嗟に言い返そうとしたグリシーヌだが、言葉に詰まって黙り込む。

明らかに動揺している証拠だった。

 

「スパークレンスに光があれば………、すぐにでも戦ってやるのに………!!」

 

形見の彫刻を悔しそうに握り締めるダイゴ。

そのクリスタルに、光はない。

その点、花火は戦う意志がない事に正直だった。

 

「パリシィの歴史を知って、今の巴里を守る事に納得がいかないんです………。」

 

「何甘えてるんだい!!これは戦争なんだ!アンタ達は兵士なんだよ!!」

 

「違う!アタシ達は人間だ!!機械じゃねぇ!言われるままに死ねるかよ!!」

 

一喝するグラン・マに、今度はロベリアが言い返す。

すると、今度はコクリコが口を開いた。

 

「人間だけど、パリシィなんだ………。ボクには出来ない………。」

 

「みんなはサリュに惑わされているだけだ!しっかりしろ!」

 

何とか正気に戻そうと大神が呼び掛ける。

その時、作戦司令室を激しい震動が襲った。

 

「どうしたんだい!?」

 

「シャノワール劇場部分にオーク巨樹が到達!!外部から攻撃を受けています!!」

 

「全防御シャッター閉鎖完了!地下までの到達時間………、じゅ、10分!?」

 

最早一刻の猶予もなかった。

オーク巨樹は、遂にシャノワールにまで魔の手を伸ばしたのである。

 

「支配人、避難命令を!」

 

「よし、脱出だ。メル、全施設内に避難命令を出すんだよ!シー、ジャンにエクレールの発進準備を急がせておくれ!」

 

「「ウィ、オーナー!」」

 

大神の言葉を受けてテキパキと指示を与えるグラン・マと、しっかりとした返事を返す二人。

続いてグラン・マは俯いたままの五人を怒鳴り付けた。

 

「アンタ達何してるんだい!早く格納庫に向かうんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫に急行した大神達を待っていたのは、いつもと違うエクレールだった。

 

「ジャン班長、これは新型のエクレールですか!?」

 

「ああ、そうさ。強行突入に改造した、その名も『エクレール・フォルト』だ。」

 

車体前部に、ジャン考案の新兵器マキシマ砲を備えた攻撃型エクレール。

光武F2に並ぶもう一つの巴里華撃団の武器だった。

とはいえ、この状況では悠長に自慢している暇はない。

 

「さあ、早く乗り込め!光武F2は中にある。」

 

「了解しました!!」

 

「全スタッフ搭乗完了!」

 

最後の整備班が乗り込むと同時に、発進準備も完了する。

しかし、相手もかなりのつわものだった。

 

「オーク巨樹、格納庫内に侵入!!急いで下さぁい!!」

 

シーの報告が終わらない内に、オーク巨樹が襲い掛かって来た。

 

「くそっ………、遅かったか!?」

 

「緊急発進!総員、衝撃に備えな!!」

 

エクレールフォルトは臨界点突破と同時に最高速度で発進した。

喰らいつくオーク巨樹の根をアームで引きはがす。

しかし、安心は出来なかった。

 

「前方よりオーク巨樹出現!」

 

メルの報告と同時に根が張り巡らされ、フォルトの道を塞ぐ。

それを見たグラン・マは直ちに指示を出した。

 

「照準セット!マキシマ砲、発射!!」

 

刹那、フォルトの前部にある主砲が火を噴いた。

凄まじいエネルギーの圧縮された弾丸が撃ち込まれ、オーク巨樹の壁を一瞬で粉砕する。

しかし、これで終わりではなかった。

 

「オーク巨樹の根より、小型兵器が放出!照合不能!未確認兵器です!!」

 

「小型兵器の攻撃が始まりました!エクレールフォルトの蒸気ユニットを狙ってますぅ!!」

 

ポーンとはまた違う兵器だろう。

いずれにせよ、独断でフォルトの心臓でもある蒸気ユニットに目をつける辺りから、高い知能を持った生命体と分かる。

 

「聞こえるかい、アンタ達?すぐに上に出て蒸気ユニットを守るんだよ!」

 

エクレールフォルトの驚異的なスピードを可能にしているのは、上部にある蒸気ユニットのおかげ。

これが破壊されようものなら、たちまちエンジンがオーバーヒートを起こし、エクレールフォルトは爆発してしまう。

それだけは、何としても阻止しなければならない。

 

「了解しました!みんな、出撃するぞ!!」

 

グラン・マの指示を受けて出撃命令を出す大神。

 

「分かった!」

 

しかし、それに答えたのはダイゴだけだった。他の隊員達は黙ったまま答えようとしない。

 

「どうしたんだみんな!」

 

「………出来ません。」

 

ようやくエリカが口を開いた。

しかし、それは出撃拒否の意志だった。

 

「これは命令だよ!行かなきゃここにいる全員が死ぬんだ!!」

 

「でも、ボク達はパリシィなんだよ………!?」

 

グラン・マに言われ、尚も拒む隊員達。

そのコクリコの言葉と同時に、激しい震動がフォルトを襲った。

 

「エクレールフォルト一部に異常発生!」

 

「最後尾のハッチが制御不能ですぅ!」

 

「何………!?」

 

最後尾はダイゴの流星Fがあったはず。

つまり、これでダイゴは出撃したくても出撃出来ない事になる。

大神は一瞬考えたが、決意した様子で叫んだ。

 

「司令、俺一人で出撃します!格納庫を開けて下さい!!」

 

「頼んだよ、ムッシュ………!!」

 

「ごめんね、大神さん………!」

 

托すように頷くグラン・マと、出撃出来ない事を詫びるダイゴ。

それに一瞬だけ笑うと、大神は叫んだ。

 

「大神一郎、出撃します!格納庫、開けて下さい!!」

 

轟音と共に格納庫が開かれ、爆風の熱気が肌に感じられる。

しかし大神が今正に出撃しようとした時、名乗りを上げる者がいた。

 

「あ~ったくバカかてめぇは!一人で勝ち目なんかねぇだろうが!!」

 

ロベリアだった。

呆れたという表情だが心配しているのは見え見えだ。

 

「ロベリア………、しかし俺には………。」

 

「みんなを守るってか?アンタらしいな。それが侍気質かよ。」

 

やれやれという様子で肩を竦める。

がしかし、その直後ロベリアはハッキリと告げた。

 

「どうせ止めても行くんだろ?アタシも行ってやるよ!」

 

「………いいのか?ロベリア。」

 

大神が尋ねると、間髪入れずにロベリアは答えた。

 

「もうパリシィだか何だか知るか!パートナーに手を出す奴は潰さねぇと収まらねぇんだ!」

 

一見すると自己中心的な言動だが、裏を返せば大神を傷つけられたくないという気持ちが見て取れる。

それが分かる大神には、その一言で十分だった。

 

「よし………行くぞ、ロベリア!!」

 

「だから、いちいち叫ぶなってのに………。」

 

いつもの掛け合いを挟みつつ、二人はエクレールフォルトに飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーク巨樹の根から現れた小型兵器。

それは、超古代兵器カラミテだった。

機械仕掛けでありながら生命体のような様子は、ポーンより降魔を彷彿とさせる。

大神とロベリアは互いに背中合わせになり、前方から近寄って来た敵だけを相手にする作戦に出た。

本来なら蒸気ユニットを狙う敵を片っ端から倒すのがベストかも知れないが、こちらはたった二人である。

危険を侵して攻撃を試みるより、こうして守備的に行動した方が遥かに安全で効率良く戦えるのである。

事実、大神とロベリアはさしたるダメージもないまま60近い数のカラミテを撃破していた。

 

「なあ、隊長………。」

 

また一匹カラミテを爪で屠り、ロベリアが言った。

 

「あいつら、来ねぇな。」

 

「ああ。」

 

あいつらとは聞く間でもないだろう。

ロベリアは、自嘲気味に笑った。

 

「アタシら巴里華撃団も、結局はこんなモンか。チームワークだ何だで、気に入ってたんだけどな。」

 

「ロベリア、俺は信じているぞ。」

 

諦めたように笑うロベリアに、大神は言った。

 

「思い出してごらん、シャノワールや今までの戦いを。いつでも俺達は力を合わせて頑張って来たじゃないか。」

 

カラミテを切り捨てながら、大神はロベリアを勇気づけるように言った。

 

「君だって信じているんだろう?みんなの事を。だから、俺は信じている。絶対にみんなは来てくれると………。」

 

あのシャンゼリゼの敗戦で、巴里華撃団は強く生まれ変わった。

絆を深め、助け合い、共に勝利を掴み取って来た。

その思いを、みんなは決して裏切らない。

それを、大神はもちろんロベリアも知っていた。

 

「………全く、何でそんな覚悟ができるんだ?やっぱりバカだからか?」

 

「バカでも、弱気になるよりいいだろう?」

 

珍しくおどけて見せる大神。

すると、ロベリアは声を上げて笑った。

 

「アハハハハ!そりゃそうだ。仕方ねぇからあいつらが来るまで、アタシがアンタを守ってやるよ。」

 

「ありがとう。俺もロベリアを全力で守るぞ!」

 

「アタシよりユニットの心配してな!」

 

いつもと何ら変わらぬ掛け合いを織り交ぜながら、二人はエクレールフォルトに仁王立ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約10分。

フォルトの上にはカラミテの残骸で埋め尽くされていた。

 

「これで波は防いだか………。」

 

周囲にカラミテがいなくなった事を確認し、大神が二刀を下ろす。

だが次の瞬間、何かが大神の横を過ぎった。

刹那、何かが後ろに飛ばされる。

 

「ロベリアッ!!」

 

大神はブースターを全開にして、ロベリアをギリギリの所で抱き留めた。

 

「クソッ、どれだけ居やがるんだ………!?」

 

大神に助け起こしてもらいつつ、ロベリアが悪態をついた。

フォルトの上にはまたたくさんのカラミテが溢れている。

いくら巴里華撃団の中で戦闘に卓越した二人でも、この状況では多勢に無勢だった。

 

「諦めるな、ロベリア!まだ負けてはいない!!」

 

必死に闘志を奮い立たせ、大神が二刀を握り締める。

その時、聞き慣れた声が聞こえて来た。

 

「この地に遣わされし、母なる天使よ。光、あれ………

グラース・オ・スィ・エール!!」

 

刹那、二人の光武F2の傷が全快していく。

こんな事が出来るのは、一人しかいない。

 

「エリカくん!!」

 

大神が叫ぶ。

そこにはエリカ以下、巴里華撃団のメンバーが勢揃いしていた。

 

「二人の姿を見て、大切な事に気付きました………。」

 

「遅れて済まぬ、隊長。私達が間違っていた。」

 

「もう、パリシィだとか関係ないよ!!」

 

「大切な者を守る………。それが巴里華撃団ですから………!」

 

口々に決意を述べる隊員達。

こうなれば、敵が何人来ようと負けはしない。

大神はみんなの決意に熱いものを感じながら、命令を出した。

 

「巴里華撃団、出撃せよ!!エクレールフォルトを守るんだ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリシィであった真実を切り捨て、仲間のために戦う事を誓った巴里華撃団。

そんな彼らにカラミテなど、烏合の衆に過ぎなかった。

勇躍する光武F2の前にカラミテは次々と敗れ去り、既に100体に上る個体が殲滅されていた。

 

「あと少しで出口みたいだな………。みんな、無事でよかった………。」

 

一人も欠ける事なくカラミテを撃退出来た事に胸を撫で下ろす大神。

しかし、相手も甘くはなかった。

 

「エクレールフォルト後方より、妖力反応確認!」

 

「小型兵器どころか、怪獣レベルです!!」

 

「な、何だと!?」

 

カラミテを打ち破った矢先の報告に、大神は耳を疑った。

すると、最後尾にいたグリシーヌが叫んだ。

 

「隊長、後ろだ!!」

 

言われるままに後ろを目をやる。

すると、一つの巨大な影がエクレールフォルトの最後尾でこちらを睨んでいた。

カラミテが無数の同族の残骸を取り込んで合体した巨大機械人形ゴブニュである。

 

「グオオオオッ!!」

 

ゴブニュは雄叫びを上げ、同族達の無念を晴らさんとばかりに襲い掛かって来た。

閉じ込められた格納庫の中、ダイゴは一人悔しさに身体を震わせていた。

 

「どうして………、どうしてなんだ………!!」

 

握り締められたままの光の証。

そのクリスタルに、光はない。

上では既にゴブニュと大神達の激しい戦闘の音が聞こえている。

今こそティガの力を使う時だ。

しかし、スパークレンスはそれを拒むかの如く、沈黙を保っている。

 

「ティガ………。やっぱり君も、あいつらに味方するのか………?」

 

パリシィの守護神である以上、やはりオーク巨樹につくというのか。

いや、そんな事はない。

ダイゴは頭を振って否定した。

パリシィの復讐などのために、ティガが戦う訳がない。

その証拠に、ティガはこれまで幾度となく怪人や怪獣と戦って来た。

今度だって、その時だ。

 

「お願いだ、ティガ………。僕が光を継いだのなら、僕に力を貸してくれ………!!」

 

必死に懇願するダイゴを突き放すかの如く、沈黙を保ったままのスパークレンス。

どうすればティガの光を取り戻せるか、ダイゴは必死に頭を働かせた。

すると、脳裏にあの言葉が蘇った。

 

「戦いの中で、帝国華撃団の皆さんとの関わりの中で、私はそれより大切な事に気付きました。………それが分かれば、貴方も、きっと強くなれますよ。」

 

カルマールとの決戦の時、同じ光の勇者が口にした言葉。

ダイゴにはその答えが、今ハッキリと分かった。

 

「そうか………!!そういう事だったんだ………!!スパークレンス!」

 

ダイゴは再びスパークレンスを握り締め、語りかけた。

 

「もう一度僕に力を貸してくれ………!守護神になるためじゃなくていい………!大切な人を守り抜く力を、愛する力を、僕に貸してくれ!!」

 

そう叫んだ時だった。

 

「………スパークレンス………!!」

 

何と、それまで沈黙を保っていたスパークレンスが一転、今までのように光を放ち始めたのである。

まるで、ダイゴの思いを聞き入れたかのように………。

 

「みんな………、今僕も行くからね………!!」

 

光の証を握り締め、ダイゴはそれを天高く掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

「ティガーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

エクレールフォルトにおけるゴブニュとの戦闘。

既にカラミテの大群との戦闘で疲弊しきった巴里華撃団にとって、ゴブニュは相手にするに余りある存在だった。

 

「くっ!!」

 

「グリシーヌ!」

 

剛腕の一撃を受け、後ろに追いやられるグリシーヌ。

真後ろのコクリコが受け止めるが、それでもギリギリ踏み止まれた程度だ。

 

「諦めるな、みんな!ここでコイツに屈すれば、みんな生きては帰れないんだぞ!?」

 

必死に隊員達を励ましつつ、大神が叫ぶ。

しかし、状況は見る限り絶望的だった。

隊員達はいずれも霊力をほとんど使い果たしているし、特に大神とロベリアの二人は立っているのがやっとの状態だ。

そんな状況で怪獣を相手にしようなど、無謀以外の何者でもなかった。

 

「来るぞ!みんな、後ろに下がるんだ!!」

 

大神の指示で、素早く後ろに下がる隊員達。

だがここで一人だけ、遅れた者がいた。

エリカである。

実は先程大神とロベリアを回復させた際、霊力を大幅に消費してしまい、動きや反応が鈍くなってしまったのである。

 

「エリカくん!!」

 

気が付いた大神が助けに入るが間に合わない。

誰もがゴブニュに叩き潰されるエリカの姿を想像して目を閉じる。

しかしその瞬間、エクレールフォルトの内部からあの声が聞こえて来た。

 

 

 

 

 

「ティガーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

その叫びと共に光の柱が現れ、中から大いなる巴里の光が現れた。

 

「ティガ!!」

 

「ダイゴさん………。」

 

ティガの腕に抱かれ、まじまじとティガの横顔を見つめるエリカ。

ティガはエリカを優しく下に下ろすと、改めてゴブニュと対峙した。

 

「チャッ!」

 

「グオオオオッ!」

 

ゴブニュも標的をティガに変え、襲い掛かって来る。

両者は互いに真正面からつかみ合った。

 

「ハッ!ハッ!チャッ!!」

 

激しいパンチのラッシュを浴びせるティガ。

しかし、ゴブニュのボディはゾイガーよりも固く、全くティガの攻撃を受け付けない。

 

「グオオオオッ!」

 

ゴブニュは更に、ティガの腕を掴んで後ろの列車に投げ飛ばした。

 

「ジュワッ!?」

 

その衝撃でフォルトから振り落とされるティガだが、素早くジャンプしてフォルトに舞い戻る。

 

「グオオオオッ!」

 

「ハッ!」

 

すかさず襲い掛かるゴブニュのラリアットを前転でかわし、僅かながらも距離を取る。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

そして額のクリスタルを発光させ、パワータイプにチェンジした。

 

「グオオオオッ!」

 

「チャッ!」

 

そして、殴り掛かって来るゴブニュの腕を捕まえ、腹部に渾身の肘打ちを叩き込む。

 

「グオッ!?」

 

「チャーッ!!」

 

思わず怯んだ所を持ち上げ、たたき付けようとする。

だがその時、ゴブニュが驚きの行動に出た。

 

「ジュワッ!?」

 

何と、ティガの身体にしがみついて離れなくなったのである。

更に耳を澄ますと、何やらカチカチという音が聞こえて来る。

そう、まるで時計の秒針のような。

 

「まさか………、自爆装置か!?」

 

大神が叫んだ。

ゴブニュは大神達巴里華撃団抹殺のために送り込まれた機械人形だ。

おそらく戦況が不利と見るや全てを巻き込んで葬る算段だったのだろう。

 

「ハッ!」

 

ティガがクリスタルの光を右手に移し、エクレールフォルトを光に包んだ。

その直後、ゴブニュの身体から目が眩むほどの閃光が放たれ、轟音に変わった。

 

 

 

「ダイゴさああああん!!」

 

 

 

爆発の轟音の中、エリカの叫び声が一瞬聞こえたかと思うと、轟音に掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ………!?」

 

気が付くと、ダイゴは外に放り出されていた。

周りには爆発の衝撃からか、瓦礫が山になっている。

目覚めたばかりの頭で辺りを見渡すダイゴの目に赤い服が見えたのは、その時だった。

 

「エリカさん!!」

 

ダイゴはハッとした様子で駆け寄り、エリカをそっと抱き起こした。

目立った怪我はないらしく、とりあえず胸を撫で下ろす。

 

「ん………ん………、ダイゴ………さん………。」

 

意識のない中自分の名前を呼ばれている事に戸惑いつつ、ダイゴはエリカの肩を優しく揺すった。

 

「エリカさん。エリカさん、しっかりして。エリカさん。」

 

「う………ん?………あ、ダイゴさん………?」

 

閉じられていた目がうっすらと開かれ、エリカがダイゴを見た。

そして、何度か瞬きをした後、目に涙を溜めてダイゴに抱き着いた。

 

「ダイゴさん!」

 

「エ、エリカさん………!?」

 

突然の事に驚くダイゴ。

すると、エリカはダイゴの胸に顔を埋めたまま、嗚咽混じりに言った。

 

「良かった………です………ヒック。ダイゴさん、無事で………クスン。」

 

「エリカさん………、泣かないで。僕は大丈夫だから………。」

 

そう言ってエリカを落ち着かせるダイゴ。

すると、何やらまた震動のような揺れを感じた。

 

「………、まさか………!!」

 

ハッとした表情で後ろを向くダイゴに気付き、エリカもまた顔を上げる。

そして、二人は絶句した。

 

「う………、嘘………!?」

 

「爆発が、こんなに………。」

 

そこは、まるで月面のクレーターのような巨大な穴が開いていた。

ゴブニュの爆発は、巴里の街に巨大な穴を作る程の威力だったのである。

 

「まずい!エリカさん、ここは早く離れないと!」

 

「は、はい!!」

 

ダイゴに手を引かれ、エリカはただ頷く形でその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからおよそ30分。

ダイゴとエリカはオーク巨樹の進攻をかい潜り、教会の前に落ち延びていた。

既に根の攻撃で教会は見る影もないが、それでも他の建物程酷い壊れ方はしていない。

 

「レノ神父は………、いないみたいだね。」

 

入口を塞ぐ瓦礫を退かし、ダイゴが呟いた。

並べられた椅子はどれも柱の下敷きになり、綺麗だったステンドグラスが砕けて床に散乱している。

それでも中央にあるイエスの像が無事なのは不幸中の幸いだろうか。

季節は残暑というのに、壁に開いた穴から吹き抜ける風は冷たかった。

ダイゴとエリカは、教会の奥にしまってあったシーツに包まり、夜を明かす事にした。

風の冷たさからか、それとも薄着だからか。

密着状態の二人は互いの体温に顔を赤くしていた。

 

「ダイゴさん………。」

 

ふと、エリカが口を開いた。

 

「皆さん、無事でしょうか………?」

 

「大丈夫だよ………。そう、信じよう。」

 

そう言って、ダイゴはエリカの手を優しく包む。

あの大爆発から生還出来るかは分からない。

しかし今は、その僅かな可能性に縋りたかった。

 

「はい………。ダイゴさん。」

 

「何?」

 

「この前の話の続き、してもいいですか?」

 

ダイゴの胸に寄り添いながら、エリカは口を開いた。

この前。

おそらくそれは、ダイゴがエリカを守るために目の前でティガに変身した時の、あの告白だろう。

 

「あれから私………、ダイゴさんの事を色々意識してみました。友達としてじゃなく、一人の男の人として………。」

 

僅かな沈黙。

エリカは、やや緊張したような面持ちで続きを話した。

 

「ダイゴさん……強いと思います。ティガとして何度もこの町を守って……、いつも私が何か騒動を起こしたら、真っ先に駆けつけてくれましたよね……」

 

「そんな、当たり前だよ……」

 

「うれしかったです……。霊力を怖がられて、初めてこの教会に来たあの日、初めて声をかけた男の子が、こんなに親しい人になってくれるなんて……」

 

懐かしむように目を閉じるエリカ。

だが、ふとその表情が曇った。

 

「でもエリカは……いけない娘でした。何が起きても、ダイゴさんなら分かってくれる。ダイゴさんなら助けてくれる。それさえ、当たり前になってました……」

 

自分を戒めるように呟き、エリカはふと口元をシーツにうずめた。

 

「ホントは分かってたんです。私が何かドジを踏むたびに、ダイゴさんに迷惑かけてることも。私の知らないところで、ダイゴさんが必死でフォローしてくれたことも……」

 

「うん……」

 

「でも、私は怖かった……。ダイゴさんにまで嫌われたら、今度こそ居場所がなくなっちゃう……。だから私、必死に笑ってごまかしてたんです。……そうしないと、辛くて泣いちゃうから……」

 

思いもよらぬエリカの本心に、ダイゴは言葉を詰まらせた。

初めて教会で出会ったその日、ダイゴにはエリカが文字通りシスターの衣を身にまとった聖女のようにさえ思えた。

だが実際は違った。

かの聖女もまた、天使の微笑みに心の傷を隠した、迷える少女に過ぎなかったのである。

 

「だからあの時……、ダイゴさんが目の前でティガに変身して、ボロボロになりながら守ってくれた時、悔しくて、悲しくて、気がおかしくなりそうでした。そしたら……」

 

「覚醒したんだね、眠っていた真の霊力が……」

 

「はい……、きっとエリカ、ダイゴさんに依存してたんですね……」

 

ダイゴが言葉をつなぎ、エリカは静かに頷いた。

沈黙の中、ダイゴは胸中の衝撃を自覚せずにはいられなかった。

エリカは自分にない物を持った、高みの存在だと思っていた。

でも、本当は違った。

彼女もまた、多くの罪と傷に塗れてここへたどり着いた、人間なのだ。

全ての仮面を脱ぎ捨て、ありのままをさらけ出す今の彼女に、ダイゴはかつての己を見た。

そしてそれは、少年の胸に一つの答えを導き出した。

 

「……ごめんなさい。嫌ですよね……、こんな……自分勝手で……迷惑しかかけない……友達なんて……。」

 

涙で潤んだ瞳をシーツに押し付け、ひたすら嗚咽交じりの謝罪を繰り返すエリカ。

それは自分と齢二つしか違わない女の子の、小さな背中だった。

 

「……聞いて、エリカさん」

 

シーツを濡らすばかりだった瞳が、おずおずとこちらを見た。

 

「僕は、赤ん坊の時にここに預けられた。親の顔なんか知らない。だから神父以外に守ってくれる人もいなかった。黒い髪や黄色い肌を馬鹿にされて、ひどい時は人間としてすら見てもらえなくて絶望していた……。そんな僕に、初めて声をかけてくれたのが、エリカさんだった」

 

「え……?」

 

「あの日から僕の周りの世界は変わった。僕は自分に自信が持てるようになったし、何か言われても気にならなくなった。それに……、笑えるようになった」

 

これは運命だと、ダイゴは思った。

かつて自分を孤独という心の闇から救い出してくれたエリカ。

そして今、今度は自分が飛べなくなった天使の心の羽を癒そうとしている。

それは、少年にある決意を抱かせるに至った。

 

「だから、エリカさん。僕は貴女を……君を助けることをこれっぽっちもいやだと思わない。……僕は決めたんだ。僕の笑顔を取り戻してくれた君を、今度は僕が笑顔にして見せるって」

 

「ダイゴさん……あっ」

 

シーツに潜った華奢な体を、両腕で包むように抱き寄せる。

涙で滲んだ可憐な顔が驚きをたたえ、甘い吐息が鼻をくすぐった。

 

「エリカさん……、もう一人で何もかも抱え込まないで。何か失敗しても、力が制御できなくても、みんな受け止めてあげるから……」

 

「ダイゴ……さん…。でも、でもぉ……もし貴方に……もしもの事があったら……」

 

「それでもいい! 巻き込まれてケガしたっていい! 一緒に頭を下げたっていい! 周りに後ろ指差されたったいい! 僕が……、僕が一生守ってやる!!」

 

「……ダ……ダイゴ……さん……」

 

一瞬の間をおいて、栗色の瞳から再び涙があふれ出した。

胸板に添えられていたエリカの手がゆっくりと離れ、ダイゴの背中に回される。

エリカは泣き顔を隠すように、ダイゴの胸に顔を埋めた。

 

「……嬉しい……。私の事……、ドジも、力も、みんな……みんな受け入れて、くれるなんて……、夢……みたい……」

 

「夢じゃない。夢なんかにしてたまるか……。もう、離さないって決めたんだ……!」

 

ふと、肩を震わせ続けたエリカが顔を上げた。

栗色の愛らしい瞳は真っ赤になってしまったが、頬を染めて目を細め微笑むその笑顔は、いつもより艶を帯びていた。

 

「……ダイゴさん、約束です。エリカの事……、離さないでくださいね……」

 

「うん。ずっとそばにいるよ、エリカさん……」

 

顔を完熟した林檎のように真っ赤に染め、見つめ合う二人。

何時しかすき間風の冷たさは、感じなくなっていた。

 

「好きだよ……、エリカさん……」

 

「ダイゴさん……私も……愛してる……」

 

甘く優しい声で囁き合い、どちらからともなく唇を重ねる。

今宵、イエスに見守られる中、一つの愛が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

いつの間に眠ってしまったのだろうか。

気が付くと夜は明け、壁の穴から朝日が差し込んでいた。

隣では愛を誓った天使が可愛らしい寝息を立てている。

 

「ダイゴさん………、お目覚めですか?ハイ。」

 

「レノ神父!」

 

見ると、目の前にレノ神父の姿があった。

おそらく眠っている間に教会に戻って来たのだろう。

 

「さあ、どうぞ。身体が温まります。」

 

そう言ってレノ神父は、二つのマグカップを渡してくれた。

中には作り立てのコンソメスープがある。

礼と共に一口含むと、身体の奥まで暖かくなるのを感じた。

 

「ん………。」

 

ふと、コンソメスープの香りを嗅ぎ付けたエリカが目を覚ました。

 

「あ………、ダイゴさん………。」

 

「おはよう、エリカさん………。」

 

寝ぼけ眼のエリカが可愛らしいと思いつつ、ダイゴがマグカップを渡す。

エリカはそれを受け取り、ダイゴ同様一口含んだ。

 

「………はぁ、美味しいです………。」

 

「お口に合いましたか、エリカさん?」

 

「はい。………って神父様!!何でここに!?」

 

レノ神父を見るや否や、エリカは慌てた。

無理はない。

何せエリカはダイゴと違って自身が巴里華撃団の一員である事をレノ神父に秘密にしている。

今のエリカは戦闘服姿。

これでは言い逃れのしようがない。

しかし、そんな心配は無用だった。

 

「ご安心下さい、エリカさん。貴女が巴里華撃団におられたという事は、既に私も耳にしている事です。ハイ。」

 

「ええっ!?神父様、ご存知だったんですか!」

 

レノ神父の言葉に素直に驚くエリカ。

すると、教会の入口から声がした。

 

「アタシが話したのさ。レノ神父はダイゴの正体も知ってたしね。」

 

「グラン・マ!!」

 

ダイゴとエリカは同時に叫んだ。

 

教会の入口に立っていたのは、ゴブニュの爆発に巻き込まれたとばかり思っていたグラン・マだったからである。

 

「グラン・マ!無事だったんですね!」

 

「ああ、ムッシュ達も揃って無事だよ。安心おし。」

 

嬉しさのあまり飛びつくエリカの頭を優しく撫で、グラン・マはダイゴに視線を向けた。

 

「ダイゴ、あの時は助かったよ。」

 

「え?」

 

「あの爆発さ。アンタはあの時、バリアでエクレールフォルトを包み込んで、アタシ達を守ってくれたんだよ。」

 

そうは言うものの、無我夢中だったために記憶にないダイゴは首を傾げた。

ゴブニュが自爆した瞬間、ティガはウルトラシールドを全面に展開。

エクレールフォルトを包み込んで、爆発から守ったのである。

 

「とりあえず凱旋門まで来ておくれ。ムッシュ達も待ってるはずだからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカくん!ダイゴ!二人共無事だったのか!!」

 

グラン・マに連れられて凱旋門にやって来た二人を最初に出迎えたのは大神だった。

その後ろには、仲間達の姿がある。

 

「みんな………、本当に良かった………!」

 

「エリカとダイゴだけ連絡がつかないから、どうしちゃったかと思ったよ………。」

 

「ごめんね、心配かけて。」

 

心配をかけた事を謝罪するダイゴ。

すると、グリシーヌが笑顔で首を振った。

 

「気にする事はない。こうして無事に戻って来たではないか。」

 

「アンタ達は簡単には死なないから、心配もなかったけどね。」

 

「これで、巴里華撃団勢揃いですね………!」

 

生きて再会出来た事に喜び合う面々。

すると、ここでグラン・マが口を開いた。

 

「それだけじゃないよ。この凱旋門には、支部基地があるんだ。」

 

「支部基地!?本当ですか!!」

 

初めて聞く設備の存在に驚く大神達。

すると、グラン・マは七人の表情を満足げに眺め、続けた。

 

「紹介するよ。巴里華撃団、凱旋門支部長だ。」

 

そう紹介されて現れた人物に、大神達は更に驚かされる事となった。

何故ならその人物は、大神達がよく知る人物だったからである。

 

「しばらくだね、大神君。僕だよ、迫水典通だ。」

 

「さ、迫水大使!!まさか、あなたが支部長だったんですか!?」

 

「ハハハ、大神君。今は大使じゃなくて支部長だよ。」

 

驚いた表情のままの大神に、迫水は笑って答えた。

 

「それに凱旋門にあるのは基地だけじゃない。凄い切り札を用意してあるんだ。」

 

「切り札?」

 

「そうさ。この戦況を一気に覆す究極の切り札を、迫水支部長に依頼していたんだよ。さあ、ついておいで。」

 

そう言って歩き出す二人の後を追う大神達。

その時、ふとエリカが隣を歩くダイゴに耳打ちした。

 

「ダイゴさん、夜の事、本当でしたね。」

 

「うん………。信じていたから………。」

 

そう言ってダイゴは光の証を取り出した。

クリスタルはダイゴに応えるように、淡く光を放っていた。

 

<続く>




《次回予告》

現代に蘇る、超古代の怨念………。

だがこの胸に希望がある限り、俺達は絶対に勝つ!!

次回、サクラ大戦3最終話!!

《巴里は燃えているか》

愛の御旗のもとに………

巴里華撃団、参上!!
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