このストーリーは拙作「桜舞う星~フィナーレ~」の続きとなっております。
前話から続けて読むと、内容を十分お楽しみいただけない場合がございますのでご注意ください。
遥か3000年の昔………。
西の地に浮かぶ小さな島に、自然と生きる一族があった。
大いなる自然の恵みを受け、繁栄した一族。
その名を、パリシィという………。
ある時、その地を滅ぼす伝説の邪神が目覚め、西の地は闇に覆われた。
草木は枯れ、生命は死に絶え、闇はかの地を包み込もうとした。
だが、それを阻む希望の光があった。
残されたパリシィの最期の祈りに応え、光は巨人となって闇に立ち向かった。
戦いの果て、巨人は自らの魂を以って、闇と邪神を海底深くに封じ込めた。
そして巨人は石の像と化し、二度と動く事はなかった。
生き残ったパリシィ達は、命を賭して自分達を守った光を讃え、こう呼んだ。
『ティガ』と………。
そこまで目を通した所で、ダイゴの意識は現実に引き戻される事となった。
何故なら、奥の方で聞き慣れた悲鳴と共に何かが崩れる音が聞こえたからである。
「やれやれ………。」
ため息と共に古びた本を閉じ、ダイゴは立ち上がった。
そして、特に急ぐ様子でもなく音のした本棚に向かう。
「うー!うー!」
そこには無数の本が棚から落ちて山になっていた。
見ると、二本の足がジタバタと動いている。
とはいっても、ダイゴは慌てなかった。
この状況に遭遇するのは、今日だけで四回目だからである。
「本当に懲りないんだから………。」
ぶつくさ言いながら、本をどけてやる。
すると、程なく茶髪に埋もれたエリカが顔を出した。
「ぷはぁ~。あ、ダイゴさん………。」
「エリカさん、大丈夫?」
そう言って手を差し出すと、エリカは赤い顔でその手を掴んで立ち上がった。
ダイゴはエリカを真っ直ぐ立たせると、服についたホコリを払う。
帝都の存亡を賭けた大神華撃団の戦いから数ヶ月。
ダイゴは帝都に残った大神の穴を埋める形で、正式に巴里華撃団隊員に任命された。
今日はその初任務。
ティガに纏わる伝説について、調査する事を命じられた。
そこで、シャノワールも定休日という事でエリカも手伝いに来たのだが、こうして生来のドジを遺憾無く発揮し、ダイゴの邪魔ばかりしているのである。
「だって見つからないんですよ?ティガについて書かれた本って。」
「そりゃそうだよ。何たってティガは巴里にして見れば黒歴史なんだから。」
ティガの伝説は、則ちパリシィの滅亡に直結する内容のはず。
あのオーク巨樹の事件があっても、巴里にとってパリシィの伝説は触れたくない過去である。
それゆえに、パリシィやティガの伝説を記した書籍はほとんどが廃棄されているのが現状だった。
「みんな、自分達の過去を見るのが怖いんでしょうか………。」
「多分ね………。オーク巨樹の事件も極秘扱いのままだからね。」
本来向き合うべき過去に、まだ向き合えない巴里。
しかし、その伝説に隠されたもう一つの真実を、彼らはまだ知らない。
テアトル・シャノワール。
巴里屈指の娯楽施設にして、巴里華撃団総司令部の存在する場所。
その地下にある作戦司令室で、グラン・マは厳しい表情でモニターを見ていた。
モニターには、流星F2とは違う形の戦闘機が写っている。
「………これが、アンタの考えた新型戦闘機かい?」
グラン・マは視線を戦闘機から設計者に向けた。
「そうさ。流星Fを大きくグレードアップさせた超高性能戦闘機。その名も『エル・クラン』。勇気の翼だ。」
「勇気の翼か………。あの子にはピッタリだろうね。」
ジャンの言葉に操縦士の顔を思い浮かべ、グラン・マは思わず含み笑いをこぼした。
エル・クランはジャン班長を始めとする整備班が威信をかけて設計した戦闘機だ。
左右の翼からは機関銃やレーザーを発射でき、更に機体の内部にマキシマ砲を装備しており、前部を展開する事で発射出来るようにしているのだ。
予定では、巴里華撃団一番の新入りが搭乗するはずだ。
「………それじゃあ、例の話は承諾って事だね。」
グラン・マが表情を俄かに厳しくした。
すると、ジャン班長も同様に目を細めた。
「ああ。しかしオーナー、何だってこんな話が舞い込んで来やがったんだ?」
「アタシが教えて欲しいくらいだよ。今までこんな事、なかったのにねぇ………。」
困った様子でジャンに言うと、グラン・マは机の上にある一枚の書類に目を向けた。
それは、フランス軍部からの命令状だった。
『巴里華撃団総司令部殿
先の事件における功績、及び今回の新型兵器完成に伴い、我がフランス陸軍の発展に助力を命ずる。
フランス陸軍司令部』
それは、平たく言えば軍事演習の出頭命令だった。
巴里華撃団に対し、フランス軍部のトップが要請をかけたのである。
「ムッシュがいないのが幸いしたよ。あの子は優しいから、すぐに怒鳴り込むだろうしね。」
「ちげぇねぇ。俺達は軍隊じゃねぇし、嬢ちゃん達は兵器じゃねぇ。まあ、お偉いさん方には分からねぇだろうがな。」
グラン・マもジャンも、出来るならこんな依頼は断りたかった。
今までこんな命令が来る事はなかったし、何より目的が不明瞭だ。
フランス軍部は取り立てて兵器を開発したという話は聞いてないし、そもそも合同での演習を依頼するなど初めてである。
だが、相手は軍部のしかもトップに位置する人間達だ。
下手に逆らえば、巴里華撃団と言えどもただでは済まない。
場合によっては一方的な敵視を受け、攻撃を受ける事も大いに有り得るのだ。
間違っても、そんな事態を招いてはならない。
その思いから、グラン・マは渋々ながらも軍部の命令を了承したのである。
「何か良からぬ事を企んでなければいいけどね………。」
見えない軍部の目的に、悪い予感を払拭出来ないグラン・マ。
そして、その不安は見事に的中する事になる。
それから2日後。
巴里華撃団の姿は巴里郊外の名もなき平原にあった。
美しい緑の草原が、風を受けて波立つ。
横一列に並んだフランス陸軍と光武F2。
その前には、たくさんのターゲットが並べられていた。
「これより、フランス陸軍及び巴里華撃団合同の軍事演習を開始する。」
正午を知らせる鐘が鳴り、陸軍の士官がメガホンで怒鳴った。
その合図に、最初に陸軍が動き出した。
お馴染みの戦車や砲台、軍事ヘリなどが一斉に弾丸を発射して、次々にターゲットを沈めていく。
しかしながら命中率は低く、当たったとしても一撃でターゲットを破壊出来なかったりで、結局陸軍が全てのターゲットを破壊し終えたのは開始から3分が経過した頃だった。
「次、巴里華撃団。」
士官がメガホンで開始を伝えた。
すると、今度は副隊長のロベリアの指揮の下、光武F2とエル・クランが動き出した。
人数は僅か6名ながら、そのチームワークによる攻撃は華麗なダンスの様にも写り、気が付けば巴里華撃団は僅か30秒足らずでターゲットを全滅させていた。
特にダイゴの操るエル・クランの活躍は目覚ましく、彼の機関銃で潰されたターゲットの数は一つや二つどころではなかった。
「フン、この程度か!」
物足りないとばかりにバトルアクスを振るうグリシーヌ。
勇猛な彼女にとって、ターゲットが動かず、何より攻撃して来ない事がつらまなかった。
すると、隣に立つエリカがポツリと呟いた。
「エリカ、お腹空きました………。」
「もうエリカ~、演習中にお昼ご飯考えてちゃ駄目だよ~。」
「仕方ありませんよ。もうお昼時ですし………。」
エリカを窘めるコクリコに、花火が笑いかけた。
自分達は朝早くから呼び出されていて、昼ご飯はおろか朝からろくに食べていない。
故に空腹を訴えるのは仕方のない事であった。
「しかし分からぬ。今回の演習は一体何を目的にしているのだ?」
ふと、グリシーヌが思い付いたように呟いた。
今回の軍事演習への参加は何の前触れもなく知らされたもので、グラン・マも軍部側の意図は解り兼ねるらしい。
最も、自分達には関係のない事ではあるが。
それを口にしたのは副隊長のロベリアだった。
「いいじゃねぇか、ギャラは貰えるんだし。向こうが何考えてようと、アタシらには関わり合いのねぇ事さ。」
「良くない。私達の力を軍事目的などのために使われてはならんだろう。」
今回の軍事演習への参加は、グリシーヌ達にも少なからずの不信感を与えていた。
一体何のためにこんな意味もない演習を行うというのか。
もしかしたら、何か自分達も想像しえないような裏があるんじゃないか。
胸中に様々な疑惑の念を膨らませる六人。
その時、突如凄まじい咆哮が草原一帯に響き渡った。
「ガオオオオッ!!」
刹那、激しい震動が草原を割き、中から一体の怪獣が現れる。
その姿にフランス陸軍は圧倒されるが、巴里華撃団は見覚えがあった。
「あれは………!?」
上空からその怪獣の姿を見たダイゴも、驚きの表情を浮かべた。
何故ならその怪獣は………。
「レッドキング………!!」
そこに現れた怪獣。
それは、以前ノートルダム寺院でウルトラマンジャックに倒された怪人レオンの部下、髑髏怪獣レッドキングだった。
ウルトラブレスレットで切断されたはずの首と腕も再生しており、凶悪な面構えでこちらを睨みつけている。
「ガオオオオッ!」
レッドキングは咆哮を轟かせ、巴里の街に向かって進撃を開始した。
「演習中止!総員、直ちに怪獣を攻撃せよ!!」
士官が多少驚きつつもメガホンで命令を出した。
すかさず戦車やヘリが、一斉にレッドキングを攻撃した。
だが、生半可な攻撃が通用するはずもなく、レッドキングは怯む事なく進撃を続ける。
「ガオオオオッ!!」
「あ、危ない!」
「うわぁっ!!」
レッドキングが戦車を踏み潰した。
乗っていた隊員は何とか脱出したが、その様子に陸軍は焦りを見せ始める。
「くそっ、こうなったら………!!」
ダイゴは戦闘服のポケットから、超古代の光の証スパークレンスを取り出した。
だが………、
「え………!?」
ダイゴは驚きに目を疑った。
何と、ティガに変身出来ないのだ。
目の前で怪獣が暴れているというのに、スパークレンスのクリスタルは沈黙したままなのである。
「そんな………、一体どうして………!?」
突然光を失った事に動揺を隠せないダイゴ。
その時、エリカから通信が入った。
「ダイゴさん!危ない!!」
「!!」
その声に我に還るダイゴ。
だが遅かった。
既に目の前には、レッドキングの拳が眼前に迫っていたのである。
「うわあああ………!!」
コントロールを失った勇気の翼は、煙を上げながら墜落した。
その日、加山は何時になく厳しい表情で窓の外を流れる景色を眺めていた。
汽車が今走っているのはのどかな田舎道。
争いとは無縁な、平和な風景が広がっている。
「………。」
加山はふと、先の戦いを思い浮かべた。
自分の故郷でもある帝都での戦い。
ジャックやティガの助けを受け、勝利した大神華撃団。
そして、勝利の余韻に浸る事なく帰った巴里華撃団。
「(何が………、あったって言うんだ………?)」
何度目かも分からない自問。
加山はこうして汽車に乗っていながら、帝都で聞かされた内容が信じられなかった。
『演習中に怪獣出現。巴里華撃団壊滅。』
その報を知らされた時、加山は耳を疑った。
まさか、共に戦った巴里華撃団が高が怪獣一体に遅れを取るなど、考えられなかった。
本来なら、ここは元巴里華撃団の隊長である大神一郎が現地へ向かうべきなのだろう。
しかし、それは出来なかった。
その知らせが届いた時、大神はちょうどアメリカ合衆国で進められている『紐育華撃団・星組計画』に携わっていて、帝都を離れる事が出来ないからである。
そこで、先立って渡米していた加山に白羽の矢が立ったのである。
「まさか………、こんな形で巴里に来る事になるとはな。」
あの知らせが悪い夢ならどれだけ救われるか。
未だ消える事のない衝撃を胸に、加山は巴里へ向かう汽車に揺られていた。
「………ムッシュ加山、よく来てくれたね。」
シャノワールの玄関で、グラン・マが加山を出迎えた。
その両脇には、メルとシーの姿もある。
「詳しい話は後だ。中に入っておくれ。」
そう言って、グラン・マはシャノワールの中に入る。
加山もその後を追いかけ、作戦司令室へ向かった。
以前と何ら変わりのないテアトル内。
しかし、明らかに以前とは雰囲気が違った。
例えるなら、人のいない孤独感だろうか。
そう思いながら、加山はエレベーターに乗り、地下に移動した。
「………さて。来てもらって早速だけど、本題に入らせておくれよ。」
作戦司令室の椅子に座った加山に、グラン・マが口を開いた。
その表情は、やはりやるせなさから来る悲しみを十二分に孕んでいる。
「巴里華撃団壊滅………ですか?」
おそらく口にする事も辛いだろうグラン・マの心情を察し、加山は尋ねた。
すると当たりだったらしく、グラン・マは小さく頷いた。
「アタシらも信じられないよ………。何日か前まで元気だったあの娘達がね………。」
「皆さんは………?」
加山が尋ねると、グラン・マの代わりにメルが答えた。
「巴里華撃団隊員は、一名を除いて、全員意識不明の重態です。」
「今は、紅蘭さんが作ってくれてた医療ポッドの中ですぅ………。」
敢えて事務的な言い方で辛さを堪えようとしているメルに対し、シーは素直に悲しい表情で伝えた。
「その一人とは?」
「ダイゴさんです。墜落したエル・クランの中から重傷で発見されました。ただ………。」
そこまで口にして、メルは言葉をつぐんだ。
まるでその先を言う事が、禁じられているかのように。
「グラン・マさん………。」
加山が尋ねると、グラン・マは沈黙をおいて答えた。
「ああ。ダイゴはみんなと違って意識はある。でもね、精神が不安定になってるんだよ………。」
その言葉に、加山はメルが口をつぐんだ理由を悟った。
墜落したエル・クランから救出されたダイゴは、負傷こそしているものの意識ははっきりしていた。
だが、何かしらのショックを受けたのか、ダイゴは僅かに話は出来るが、半狂乱の廃人寸前のように無反応になってしまったのである。
それには、理由があった。
「実はダイゴさん………、怪獣が現れた時にティガに変身出来なかったんですぅ。」
「変身が………?」
「はい。何でもスパークレンスのクリスタルに光がなかったと………。」
それはおかしな話だった。
ティガは巴里の街を人と共に守っていく存在のはず。
それを脅かす怪獣が現れたなら、ティガは必ず現れるはずだ。
更にティガは、同じ光の巨人であるジャックからプラズマオーブを受け継いでいる。
その光たるティガが黙したままなど、考えられない事だった。
その演習で一体何があったのか。
謎は深まるばかりだ。
「幸い、軍部が当時の状況をフィルムに残してくれている。参考までに見ておくれ。」
メルとシーに準備をさせ、作戦司令室に映写機が回された。
程なくセピア色の草原の中から怪獣レッドキングが現れ、エル・クランを撃墜する。
そして残された光武F2が、レッドキングに激しい攻撃を加え始めた。
ここで、加山はある事に気付いた。
「………、音がありませんね。」
最近の映像化技術は飛躍的に進歩しており、既に活動写真のように声のないフィルムは下火になりつつある。
しかし、どういう訳かこの映像には音声が全くない。
グラン・マが指摘しない所を見ると、映写機の不具合ではないようだ。
その時、画面に変化が現れた。
何と、それまで猛然とレッドキングに攻撃を仕掛けていた光武F2が、いきなり苦しみ出したのである。
「………尋常じゃなかったらしいよ。あの娘達の悲鳴は。」
「………。」
無音の映写機からでも分かるほどの光武F2の苦しみ様に、加山は声を失った。
そして、糸の切れた人形のように動かなくなる光武F2。
文字通りの沈黙が草原を支配した所で、映像は途切れた。
「………原因は、判明したんですか?」
加山の言葉に、グラン・マは首を振った。
「何もないよ。あの娘達だけがああなったんだ。」
「では、軍部側に同様の者はいないと………?」
持ち前の鋭さで、加山は不自然な点を指摘した。
映像を見る限り、巴里華撃団は何かに苦しめられたと見るべきだ。
そして、軍部側に同様に苦しみ、または意識喪失に陥った人間がいなければ、その原因は明らかに彼女達を狙っている事になる。
すると、メルがそれに関連する情報を口にした。
「関係があるかはわかりませんが、演習に参加したフランス陸軍の将校の内、数名が共通した発言をしています。」
「共通した?」
「はい。『鐘の音が聞こえた』と………。」
加山に聞き返され、メルがその言葉を口にする。
鐘の音が、花組壊滅に関係しているのだろうか。
そこまで考えた加山の頭に、ふとある疑問が沸いた。
「そう言えば………、レッドキングはどうなったんですか?」
巴里華撃団も壊滅し、ウルトラマンティガも現れないなら、レッドキングはまだ倒されていないはず。
それなのに、レッドキングによる巴里の被害は聞いていない。
すると、グラン・マが重々しく頷いた。
「実はね………、レッドキングはあの直後に倒されたんだよ。」
「………どういう事ですか?」
加山は眉を潜めた。
フランス陸軍ごときに倒せるはずもないし、一体何があったというのか。
すると、シーが口を開いた。
「これも将校さんから聞いた話ですけどぉ、何でもティガとは違う巨人が現れてレッドキングを倒したそうですぅ。」
「ティガとは違う巨人?」
おうむ返しに聞く加山。
すると、今度はメルが答えた。
「はい。容赦のない戦い方で、その姿は光と言うより悪魔に近かったと………。」
「酷いんですよぅ。散々蹴り倒して、生きたまま炎で焼き殺したそうですぅ。」
「なるほど………。」
加山は顎に手を当て、考えるそぶりを見せた。
二人の話を聞く限り、その巨人が光の存在とは考え難い。
それに巴里華撃団壊滅に合わせて聞こえたという鐘の音も気になる。
「それとね、ムッシュ加山。気付いてると思うけど、今回の演習そのものの意図が、アタシには見えないんだ。」
グラン・マの言葉に、加山は納得したように頷いた。
「確かに。軍事演習の参加など、今まで有り得なかった事ですからね………。」
「それで、アタシは思うんだよ。この演習が、あの娘達を誘い出すための罠だったんじゃないかってね………。」
それはあながち否定出来ない話だった。
意図の不明瞭な演習。
突如復活したレッドキング。
現れなかったティガ。
壊滅した巴里華撃団。
聞こえたという鐘の音。
そしてレッドキングをなぶり殺したという謎の巨人。
これらを総合して考えると、裏で何か大きな陰謀が渦巻いているように見えた。
それは、諜報部隊月組隊長としての、加山の勘だった。
「………ともかく、計画を立てた軍部側と、一度接触する必要がありそうですね。」
計画を立てたのは軍部側。
もしかしたら有力な情報を入手出来るかもしれないし、あわよくば軍部内で手引きした人間を摘発出来るかもしれない。
いずれにせよ、真相に迫るには軍部の情報が必要不可欠だった。
「ああ、頼むよ。アタシ達も出来る限りの協力をするからさ。」
「お願いします、加山さん。」
「頑張って真相を掴んで下さいねぇ。」
加山の言葉に、グラン・マ達は縋るような思いで言った。
何故こんな事になったのか。
その真相を掴むまで、泣き寝入りする訳にはいかなかった。
自分は何をしているのだろう。
今まで動いていたものが止まったような感覚の中、ダイゴはふとそんな事を考えた。
自分が受け継いだはずの光。
それは、自分に応えてくれなかった。
「(何故………?)」
そして、エリカ達は何かに苦しめられ、意識不明。
「(何故………?)」
何一つ答えが出せないまま、ダイゴは沈黙したままのスパークレンスを手に取った。
「どうしてなの………?………ティガ………。」
尋ねてみても、答えは出て来ない。
そして、枯れたはずの涙が頬を伝う。
守れなかった大切なもの。
あの時、大神に約束したのに………。
「どうしてなの………?」
答えの見えない問い掛けを、ダイゴはただ狂ったように続ける事しか出来なかった。
フランス陸軍総司令部。
その一室から一人の男が荒々しく扉を開けて立ち去ったのは、つい先程の事だった。
「よろしかったのですか?エリック軍曹。」
男を追い返した張本人に、後ろに立つ補佐官が声をかけた。
「彼は霊的部隊に属する人物。例の事件、伝えるべきでは………?」
常識的な意見を述べる補佐官。
しかし、エリックと呼ばれた人物は無表情のまま答えた。
「構わん。どうせ怪獣一体も倒せんひ弱な霊的部隊だ。情報を提供した所で解決の目処は立つまい。」
もしこの場に大神がいれば即座に殴り掛かっただろう台詞をぬけぬけと口にする軍曹。
補佐官は、その軍曹の態度に自分の役職を忘れて不快感を示した。
巴里華撃団は先のオーク巨樹の戦いで巴里を救った英雄である。
それだけでも凄い事であるのに、隊員はみんなまだ年頃の乙女達ばかりだ。
フランスという国を守る使命を帯びた自分達は、その乙女達に尊敬の眼差しを向けるのが普通である。
しかし、このエリックという軍曹にはそれが全くと言っていい程見受けられない。
まるで彼女達を小馬鹿にし、自分が計画した演習でこのような事態を招いたというのに、反省の色一つ見せない。
それは軍人として、人としてあるまじき行為だった。
「しかし、もしまたあのような怪獣が現れた時は………。」
「何、心配はいらん。」
補佐官の言葉を遮るように、軍曹が言った。
「お前も見ただろう?あの怪獣を虫けらのように倒す巨人を。あれこそ真に巴里を護る者だ。」
軍曹が笑った。
その顔があの悪魔とそっくりに見えて、補佐官は背中に悪寒が走るのを感じた。
「全く、何なんだあの男は………!!」
フランス陸軍総司令部からの帰り道、加山は柄にもなく怒りをぶちまけた。
自分に応対したエリックという軍曹に話を取り付けたはいいものの、まるで話を聞いてくれずにとんでもない事を口にしたのである。
「霊的部隊とは大層なものだ。高が小娘の集まりのくせに。」
「大神………、俺は残念でならん………!!」
出来るならあのエリックとかいう軍曹を殴り飛ばしてやりたかった。
しかしそんな事を働けば、巴里華撃団が軍部に敵視され兼ねない。
加山は怒りを堪えて、総司令部を後にしたのである。
「仕方ない………、今日はひとまず休むとしよう。」
既に日も暮れて、空には満天の星が光っている。
その中に一つ、一際輝く星を、加山は知っていた。
M78、ウルトラの星だ。
「なあ、ティガ………。」
ふと夜空に浮かんだ巴里の巨人に、加山は語りかけた。
「今の巴里にはお前が必要だ………。お前が光なら、今こそそれを示す時じゃないのか………?」
ダイゴの思いに応えてくれなかった巨人に、加山はその是非を問う。
その時、突如激しい震動が一帯を襲った。
「こ、これは………!?」
その激しさに立っていられず、加山はその場に膝をついて辺りを見渡す。
すると、大通りの石床を割り、巨大な怪獣が現れた。
その頃、シャノワールでもモンパルナス付近の異変を察知した。
「オーナー、モンパルナス付近の妖力反応が、急速に高まっています。」
「モニターの映像、届きましたぁ。………こ、これって………!?」
作戦司令室で報告をする中、映像を見たシーの表情が凍りついた。
何故ならそこに写っていたのは、かつてティガに倒されたはずの蠍怪獣、アンタレスだったからである。
「ガアアアアッ!!」
巴里の夜空に向けて、アンタレスが激しい咆哮を轟かせる。
そして、長い尻尾で目の前の建物を片っ端から破壊し始めた。
「何てこったい………。」
グラン・マの表情が悔しげに歪む。
出撃しようにも花組は目を覚まさないし、ダイゴも戦える状態ではない。
このまま黙って見ているしかないのか。
そう思ったグラン・マに、驚くべき報告が寄せられた。
「オーナー!アンタレスの前に、謎の………謎の巨人が現れました!!」
「何だって!?」
メルからの報告に驚き、グラン・マはモニターを見た。
そこには、アンタレスと対峙する一人の巨人の姿があった。
こいつは一体何者なんだ……?
加山が最初に抱いた疑問はそれだった。
アンタレスの出現の直後に現れた謎の巨人。
その風貌はティガやジャックとは明らかに違い、光のような神秘よりも、悪魔のような邪悪を感じた。
「ガアアアアッ!」
闘争本能のままに巨人に向かっていくアンタレス。
すると、巨人は難無くアンタレスの首を掴んで投げ飛ばした。
「キリッ!」
更に華麗な身のこなしで空中から蹴り込み、アンタレスを地面に沈める。
「ガアアアアッ!!」
地面にたたき付けられてのたうち回るアンタレス。
すると、巨人は右手に何かの光を出現させた。
「キリィッ!!」
それが大きな光の玉に変わると、巨人はその光の玉を地面に埋め込んだ。
すると、信じられない事が起こった。
アンタレスの周囲で、次々と火柱が立ち上ったのである。
たちまち逃げ場を失うアンタレスに、四方八方から炎が襲い掛かった。
「ガアアアア………!!」
全身を炎に包まれたアンタレスは、断末魔の叫びと共に灰と化した。
「キリキリキリィ………!!」
その様子を満足そうに見届け、巨人は跡形もなく消え去った。
そして、その場には灰になった怪獣と焼き尽くされた建物と、呆然と立ち尽くす加山だけが残された。
「な、何なんだ、あれは………!!」
炎を操り、残忍に怪獣を焼き殺すその手口。
自身の記憶が正しければ、それはメルとシーの報告に一致する。
「まさか………、あれがその巨人なのか………?」
炎の中で苦しむ怪獣の死に様を楽しむように笑う姿は正しく悪魔の二文字か相応しい。
目の前に残る灰に、加山はそう思った。
翌日、新聞の一面には昨夜の巨人が大きく掲載されていた。
『謎の巨人、怪獣を滅っする。』
その見だしで始まった記事は、謎の巨人の戦い振りを詳細に記していた。
「多分、レッドキングを倒した巨人と見ていいだろうね。」
グラン・マの言葉に、そこにいた全員が頷いた。
炎を使った戦い方といい、怪獣の死に様を楽しむ姿といい、明らかに将校の話と一致する。
「ティガに代わる巨人………、でしょうか?」
メルが巨人に対し好意的な意見を述べた。
しかし、加山は首を振った。
「そうも言えませんよ、メルさん。奴は怪獣を倒しこそすれ、街の被害を塵程も考えていない。」
加山の言う通りだった。
巨人はアンタレスを倒した。
だがそのために、戦場になった地域はほとんどの建物が壊されるか燃やされるかしていた。
中には巨人の火柱に巻き込まれ、焼け死んだ人もいる。
これではいくら怪獣を倒したとは言え、巴里を守ったとは言えないだろう。
そうなると、やはり巨人が光の存在とは言えなかった。
「………で、ムッシュ加山。収穫はあったかい?」
ふと、グラン・マが話を戻した。
巨人の事も気になるが、軍部の話も重要だ。
しかし、加山はグラン・マの期待する答えを提示出来なかった。
「残念ながら、門前払いを受けました………。」
「そうかい………、まあ仕方ないさ。相手は軍部のお偉いさんだからね。」
やや落胆の表情を浮かべながらも、グラン・マは苦笑いを見せた。
その表情に、加山はピンと閃くものがあった。
「もしや………、何か情報が?」
「鋭いじゃないか。実は昨日、エビヤン警部が情報を提供してくれたんだよ。」
そう言って、グラン・マは昨夜エビヤン警部に手渡された極秘資料を机の上に置いた。
オーク巨樹の一件で巴里華撃団の素性を知ったエビヤン警部は、今回の事件を看過出来ずに警察と軍部で極秘に取り扱われている資料を、危険を冒して提供してくれたのである。
「失礼。」
そう言って資料をめくり、加山はやはりという表情を浮かべた。
資料には、加山の予想した通りの内容が記されていたからだ。
「やはり………、エリックの在籍期間が際立って短いですね………。」
加山が目を光らせたのは、総司令部の人間の在籍期間だった。
その中でも演習計画を作り、加山を追い返したエリック軍曹は、陸軍に配属されて一月にもならない新入りだった。
そんな短い期間で軍曹になれた事は驚きだが、加山が気になるのはそんな事ではない。
「ムッシュ加山………、アンタはこの一件をどう見る?率直に聞かせておくれ。」
真剣な顔でグラン・マが尋ねる。
加山は、一瞬考えた後ハッキリ答えた。
「自分が推理するに………、このエリック軍曹に裏があると思われます。」
その言葉に納得するように、グラン・マが頷いた。
「アタシも同意見だよ。このエリック軍曹とかいう奴、どうも怪しいからね。」
謎に包まれた今回の事件に、ようやく解決の糸口が見出だせて来た。
エリック軍曹があの巨人と何らかの関わりがあり、巴里華撃団を壊滅させるために演習を計画した。
そう考えると、一連の流れがスッキリ纏まる。
しかし、謎は残されている。
花組を苦しめたと思われる鐘の音の正体がまだ掴めていない上、エリックがあの巨人と関わりを持つ決定的な証拠が手元にないのだ。
これではいくら訴えた所で、エリックをたたき出す事は出来ない。
この推理を確実なものにするには、やはり決定的な証拠が必要だった。
「そこでだ、ムッシュ加山。アンタに一つ頼まれてほしい事があるんだよ………。」
「陸軍総司令部に潜入………、ですか?」
加山の言葉に、グラン・マは厳しい表情で頷いた。
「これは隠密行動のプロのアンタにしか出来ない。………いいね?」
念を押すようにグラン・マが言った。
何しろ相手はフランスの正規軍部だ。
もし見つかろうものなら巴里華撃団が潰されかねない。
しかし、有益な情報を得て事件の真相を暴くためには、エリック軍曹とその近辺を調査する必要があった。
失敗は許されない。
しかし、そんな危険なミッションにも関わらず、加山は余裕の含み笑いで答えた。
「ご安心下さい、グラン・マさん。月組隊長の名にかけて、真実を暴き出して見せましょう。」
「場合によっては、敵は人間ですらない可能性もある。気をつけるんだよ、ムッシュ加山。」
グラン・マの言葉にしっかりと頷き、加山は準備を開始した。
外から差し込む日差しに気付いたのは、太陽が大分高くなった頃だった。
「………。」
ろくに食事もとらず、別人のように窶れたダイゴ。
そんな彼の耳に、前触れもなく声が聞こえて来た。
「私のプレゼントは気に入っていただけたかな?」
「!!」
驚いた様子で、ダイゴは俯いていた顔を上げた。
そこには、一人の見知らぬ男が薄気味悪い笑みをたたえて立っていた。
身につけた軍服は、かなり階級の高い軍人を想起させる。
「その窶れようでは、昨夜の怪獣の出現も知るまい。光の巨人もぶざまな事だ。」
「お、お前は一体………!?」
ダイゴは警戒心を剥き出しにしながらも問い質した。
初対面の軍人が、自分の正体を知るはずがない。
すると、男はダイゴの様子に満足そうに笑って答えた。
「私はエリック・ミュラー。先の演習を立案した、フランス陸軍軍曹だ。」
エリックはそう言って、ふてぶてしい態度でダイゴを見下す。
その顔に、ダイゴはエリックの中にある闇を見た、
「ダイゴ君。実は君に、先の演習の目的を教えようと思ってね。」
「目的………?」
会話を続けたためか、ようやく普段の自分を取り戻したダイゴは、油断なくエリックに聞き返した。
「そうだ。あの演習は、君に知ってもらうために行ったんだ。真に巴里を守護する者が誰か、知ってもらうためにね。」
「真に巴里を守護する者………?」
「そう。この美しい花の都を護る事が出来るのは、君でも巴里華撃団でも、ましてやウルトラマンティガでもない………。」
「だったら誰だって言うんだ!?」
ダイゴはエリックを睨んだ。
パリシィの怨念から巴里を守ったのは、外ならぬ自分達だ。
誰であろうと、それを否定される事は許せなかった。
しかし、エリックはダイゴの視線に怯む事なく言ってのけた。
「分からないかな?真に巴里を守護する者。それは超古代よりこの地を見守り続けていた存在。超古代のパリシィはこう呼んだ。『キリエル』とな………。」
「『キリエル』………!?」
聞き慣れない言葉に、ダイゴは眉をひそめた。
すると、エリックは薄気味悪い笑みを更に強いものへ変えた。
「そう。超古代よりこの地を護り、巴里の行く末を見守る者。それがキリエル………。」
初めて聞くキリエルの歴史に、ダイゴは驚きを見せた。
だが、ダイゴはこれからエリックの話に更に驚かされる事になる。
「だが3000年前、我等キリエルは強大な闇に立ち向かい、敗れ去った。かりそめの光を掲げる、悪しき偽りの巨人によってな。」
「悪しき偽りの巨人………?」
「そうだ。その巨人は闇でありながら光を語り、3000年の間巴里を欺いて来たんだ。」
その言葉が、ダイゴの脳裏で一つの考えを生み出した。
だが、それは絶対に信じてはならない事である。
「ククク………、いいだろう。教えてやろう、ダイゴ・モロボシ。」
エリックは強張るダイゴの表情を楽しむように笑って続けた。
「君は光でも何でもない。遥か3000年前、この巴里を滅ぼそうと企んだ闇の巨人なのだよ。」
刹那、目の前が真っ暗になった。
「そ、そんな馬鹿な………!?だって、ティガは………!!」
「巴里を守ったとでも言うつもりか?愚かな。パリシィを滅ぼし、ローマの人間を庇い立てした事が、巴里に正義を示したとでも言うつもりかな?」
「パリシィは関係ない!ティガは、巴里に住む全ての命を護るウルトラマンだ!!」
ダイゴは毅然とした態度で言い返した。
すると、エリックはニヤリと笑って見せた。
「ならば何故ティガは現れないのかね?巴里を護る巨人が、怪獣を見て見ぬ振りではないか。」
「そ、それは………!!」
痛い所を突かれて押し黙るダイゴ。
エリックは更にまくし立てた。
「不思議には思わないのかね?光の巨人が怪獣を看過するなど。それこそ君が闇の存在である証だ。」
「違う………!!ティガは………、ティガは闇なんかじゃない!!」
ダイゴは頭を振って否定した。
しかし、目の前に並べられた事実は覆しようがない。
仮にエリックの言葉がでまかせだとして、ティガは何故自分に力を貸してくれないのか。
あのオーク巨樹との戦いで、黄金の巨人にまでなったティガが何故………。
「………まあ良い。遅かれ早かれ、君も認めざるを得ないだろう。真に巴里を護る者は、ティガではなくキリエルとな………。」
そう吐き捨て、エリックの姿はいつの間にか見えなくなった。
「………嘘だ………。」
ベッドに座り込み、ダイゴは頭を抱え込んだ。
今現れた男の事などどうでもいい。
ただ、エリックの言葉は頭に焼き付いて離れなかった。
「ティガは闇の巨人………。真に巴里を護るのはキリエル………。」
「嘘だ………、そんなの嘘だっ!!」
必死に叫ぶダイゴ。
その声は冷たい壁に吸い込まれて、誰の耳にも届かなかった。
太陽が地平線に沈み、巴里の街を夜空が包んだ。
それを合図に、加山は行動を開始した。
敵地への潜入は、絶対に見つかってはならない。
そのためには、いつどんなタイミングで行動を開始するかが極めて重要になる。
加山はこれまでの経験から、夜間に行動を起こす事にしていた。
夜間は人も少なく視界が制限されるため、少々の事では見つからない利点があるからだ。
こと今回の潜入地に至っては前日に客人として入ったために、警備員の配置を含めてある程度の構造は分かっている。
加山にとって、それは大きなプラスだった。
「(確か裏側は見張りがいなかったな………。)」
記憶が正しければ、裏側は最新式警報装置を設置して、人間を置いていない。
裏側の扉に回ると、加山の予想通りだった。
だがたった一つ、加山も予想していない事があった。
「扉が………?」
どういう訳か、扉が開け放しにされているのだ。
見ると、警報装置も外されている。
まるで自分に入って来いと言わんばかりだ。
「よし………。」
加山は一瞬罠かも知れないと躊躇ったが、意を決して中に入った。
陸軍の総司令部にも関わらず、加山はさしたる障害もなく中に侵入出来た。
しかし、安心は出来なかった。
不自然な程に人気がない事と、警備の手薄さが引っ掛かるのだ。
「(おかしい………。警備はおろか、人そのものの気配もない………。)」
言うなれば無人の総司令部。
加山は不信感と共に、自分が罠に嵌まっているのではないかという悪い予感を感じた。
だが、目的地のエリックの部屋に入るや、それは思い違いと分かった。
何故なら………。
「お待ちしておりました、ムッシュ加山。」
「あなたは………!」
軍曹の部屋で加山を出迎えた人物に、加山は僅かに驚きの表情を見せた。
何故ならそこにいたのは、昨日エリック軍曹の後ろに控えていた補佐官だったからだ。
「もしや、あなたが?」
「はい。部下に手配し、人払いをさせていただきました。」
加山の予想に、補佐官は頷いた。
裏側の扉のセキュリティを解除し、加山の侵入を手助けしたのは補佐官だったのだ。
補佐官は、エリックの座っていた机から幾つかの書類を取り出した。
「こちらをお持ち下さい。軍曹の詳細と、他の人間にも内密にされた情報が記されています。」
加山は、机に並んだ書類を順番に手に取った。
そこにはエリックの個人情報と、例の演習の計画が詳細に記されていた。
「そして、こちらが私が独自に調べたものです。」
「………、これは!」
補佐官に手渡された一枚の書類に、加山は驚きの表情を見せた。
それは、ある任務の報告書だった。
『エリック軍曹指揮のもと、超古代遺跡カタコンベより、謎の鐘を押収されたし』
「現場には私も立ち会いました。かの演習で、我々の中にも鐘の音を聞いたという者がいましたので、もしやと………。」
補佐官が言った。
確かに軍部から鐘の音を聞いたものがいる事はグラン・マの話で確かだし、御丁寧に演習の立案者であるエリックの命令で鐘は押収されている。
最早エリックの関与は、ゆるぎないものになりつつあった。
「私は一軍人に過ぎませんが、軍曹は巴里の英雄たる花組の方々をけなし、得体の知れないあの巨人を贔屓していました。この場を借りて、お詫びさせて下さい。」
そう言って、補佐官は頭を下げた。
エリックの行為が、フランスを守る自分達のポリシーに反すると考えたからだ。
加山はその補佐官の姿に、自分がよく知る一人の軍人の姿を思い浮かべた。
「………頭を上げて下さい。」
加山の言葉に、補佐官は静かに頭を上げた。
「協力に感謝します。それでは。」
そう言って部屋を出ようとする加山。
だが、彼は扉の前で何かに気付いたように振り返って尋ねた。
「最後に、貴方の名前を聞かせてもらえますか?」
「名前、ですか………?」
加山の言葉に一瞬意外そうな表情を見せた補佐官だが、次の瞬間には笑顔で名を名乗った。
「ホセ・サンセールと申します。ムッシュ加山、私はあなたたちが、そしてウルトラマンティガが光であると信じています!」
「………Mercy.貴方の信頼に、応えてみせましょう。」
ホセの言葉に胸打たれながら、加山は決定的証拠を手に部屋を後にした。
「………気分は如何かな?」
その頃、エリックは再びダイゴの前に現れた。
ふてぶてしい態度は、更に強いものに変わっている。
「………今度は何だ?」
ダイゴは俯いていた顔を上げ、エリックを睨んだ。
憔悴した顔はそのままだが、その目は怒りを帯びている。
「その顔では、まだ自分を光だと言い張るつもりだな?」
「お前の言葉なんか信じない!ティガは光だ!僕はティガを信じる!!」
ダイゴは自身に言い聞かせるように叫んだ。
すると、エリックは露骨に落胆の色を浮かべた。
「やれやれ………、やはり君には実物を見てもらうしかないようだな。」
「何………!?」
眉をひそめるダイゴ。
その時、エリックの周囲にどす黒い妖力の波動が集まって来た。
「やはり話し合いでは解決出来ないようだ。君にはこの巴里の大地に沈んでもらうとしよう。」
妖力は紅蓮の炎に変わり、エリックの体を包み込む。
その一瞬、ダイゴは炎の中に醜悪なる悪魔の姿を見た。
「見るが良い!!巴里を護りし聖なる光の姿を!!」
エリックの姿が炎と共に消え、部屋全体を激しい震動が襲った。
「くっ!………ま、まさか………!!」
ダイゴはハッとして窓の外を見た。
そこには夜の巴里の街に浮かぶ、悍ましい悪魔の姿があった。
「キーリキリキリ………!!」
突如現れた巨人に、シャノワールは騒然となった。
レッドキングとアンタレスを無惨に虐殺した悪魔のような巨人。
それが今また現れたのである。
「モンパルナス近辺に、例の巨人が現れました!」
「周囲に火柱が立って、以前より妖力が高まっていますぅ!!」
「どういう事だろうね?怪獣もいないってのに………。」
メルとシーの報告に、グラン・マは首を傾げた。
これまで巨人が現れたのは二回。
そのどちらも怪獣を倒すためであった。
しかし、今回は怪獣のいない平和な街中に単独で現れた。
まるで自分が怪獣のように。
「3000年の復讐ですよ。」
その時、入り口から声がした。
振り返ると、陸軍総司令部に潜入していた加山が何枚かの書類を手に立っていた。
「加山さん!」
「………説明してくれるかい?」
驚く二人をよそに、グラン・マが尋ねた。
すると、加山はホセから受け取った書類を机の上に並べた。
「調査の結果、かなり驚くべき事が明らかになりましたよ。」
加山は、最後に一冊の古びた本を置いた。
かなりの年代物らしく損傷が激しいが、何かの書物である事は分かる。
「ムッシュ加山、その本は?」
「エリック軍曹の所持品から押収しました。多くの情報はこの本にあります。内容からして、やはり超古代の文献かと………。」
加山の説明は、本の損傷具合から十分に説得力がある。
加山は続いて、本の内容をかい摘まんで説明した。
「まずはティガの代わりに現れたあの巨人、奴はキリエルと呼ばれる超古代の戦士です。」
「キリエル?初めて聞く名だね。」
自分の持っていた予言書にない名前に、グラン・マが目を細める。
しかし、次に加山が口にした内容は更にグラン・マを驚かせた。
「キリエルはティガより以前に、超戦士キリエロイドとしてパリシィを守護する存在だったそうです。しかし、闇の前に敗北し、消滅したと………。」
「ティガより以前に?じゃあ、奴はティガの仲間って事かい?」
ティガと同様にパリシィを守護する存在なら、ティガの仲間と考えるのが自然だ。
だが、残念ながらキリエロイドはそうではなかった。
「それが妙な事に、この文献には我々の考えを根底から覆す内容が記されてましてね………。」
余程信じられないような内容なのか、一旦口をつぐむ加山。
しかしそれは一瞬で、すぐに内容を口にした。
「文献によれば………、キリエロイドはティガを含む闇の巨人に敗北したとあるんです。」
「何だって!?そいつは本当かい?」
衝撃的事実にメルとシーはもちろん、流石のグラン・マも驚愕の表情を見せた。
これまで幾度となく巴里華撃団と共に戦って来たティガが闇の戦士など、考えもしない事だったからだ。
「それだけではありません。これは自分の推論ですが………、巴里華撃団壊滅の黒幕はキリエロイドです。」
「どういう事だい?」
「情報によれば、モンパルナス郊外における演習を立案したエリック軍曹は、その数日前にカタコンベ内部の遺跡で古びた鐘を含む幾つかの超古代遺物を回収しています。となれば………。」
「その鐘に何らかの力があり、エリックはそのために演習を立案したって事かい?」
グラン・マの言葉に、加山は厳しい表情で頷いた。
「はい。怪獣を倒した事で自分を正当化し、再び巴里に君臨するつもりだったとしたら………。」
確かに、そう考えれば全ての話が一つに纏まる。
巴里華撃団を壊滅させたのは、ダイゴに精神的なショックを与えて不安定にするため。
その間に怪獣を倒して、如何にも自分を巴里の守護者に仕立てあげる。
古文書が指し示す通りなら、3000年前に敗れたティガへの復讐のために。
不可解な演習に始まる全ての謎が、遂に明らかになった。
「ともかくキリエロイドが敵と分かった以上、市民の避難を急いだ方が良いね。」
キリエロイドは正義の名を語る復讐者。
そんな奴がパリシィを滅ぼしたローマの子孫である巴里に危害を加えないとは考えにくい。
前回のアンタレスとの戦いで、周囲の被害を全く考慮していなかった事が何よりの証拠だ。
だが………、
「オーナー!モンパルナス周辺に避難勧告を発令しましたが、市民達は一向に避難する気配を見せません!」
「キリエロイドを仲間と信じ込んでるみたいですぅ!」
「何てこったい………!!」
グラン・マの表情が悔しげに歪んだ。
既にキリエロイドの計画は最終段階に来ていた。
市民達に自分が正義だという概念を刷り込ませ、ティガを抹殺する。
加山の予想が正しければ、キリエロイドの次の狙いはティガだ。
少なくとも市民の誤解を払拭するまで、ダイゴを戦わせる訳にはいかない。
そう考えたグラン・マは、シーに指示を与えた。
「今ダイゴに変身させる訳にはいかない。シー、すぐにダイゴにこの事を伝えな。」
「ウィ、オーナー。」
グラン・マの指示に頷き、シーはダイゴのいる教会に向かおうとした。
しかしその時、加山は首を振って口を開いた。
「残念ながら、それは手遅れです………。」
「何だって?………まさか!?」
脳裏に一つの考えが過ぎり、グラン・マの顔が凍り付いた。
すると、加山がそれを肯定するように頷いた。
「はい、既に教会はもぬけの殻でした。おそらくは………。」
その頃、ダイゴの姿は巨人が現れたというモンパルナスにあった。
そこには、多くの市民に喝采を浴びる悪魔、キリエロイドの姿がある。
「我が親愛なる巴里市民の諸君。私は今宵、君達を救済するために来た。」
まるで全知全能の神の如く、キリエロイドが言った。
「私はこの巴里を守護する天使、キリエルなり!さあ巴里市民の諸君よ、今こそ天使の福音を授けよう。」
キリエロイドが右手を空に掲げた。
すると、紅蓮の光が右手に集まる。
その炎に、ダイゴはハッとした。
「(マズイ、このままじゃ………!!)」
完全にキリエロイドを守護者と信じ込んでいる市民達は逃げようとしない。
ダイゴはスパークレンスを取り出した。
クリスタルは未だ、沈黙を保っている。
「ティガ………。こんな時、君が力を貸してくれたら………!」
スパークレンスに向かい、ダイゴは悲痛な思いで呟いた。
「君が闇なんて信じない。僕は、君から光を継いでこの街を守って来た。君も、それが使命なんだろ………!?」
今まで一緒に戦って来た光の巨人。
巴里華撃団が沈黙した今こそ、ティガの力が必要だった。
すると………、
「ティガ………!!」
今まで沈黙していたクリスタルが、待ち侘びた光を放ち始めた。
まるで、ダイゴの思いに応えるように………。
「ありがとう、ティガ………。エリカさん、みんな、見ててね………!!」
今尚医療ポッドの中で眠る仲間達に勝利を誓い、ダイゴはスパークレンスを空に掲げた。
「ティガーーーーッ!!」
それは、キリエロイドが今正に天使の福音を地に放つ寸前に現れた。
「チャーッ!!」
「キリッ!?」
突如現れた光の柱から飛び出し、キリエロイドにキックの一撃を食らわせるティガ。
遥か3000年の時を経て、巴里を護り続けて来た二人の巨人が、再び相見えた瞬間だった。
「待ち兼ねたぞ………、巴里の悪魔にして巴里に居座る偽りの巨人、ウルトラマンティガ!」
キリエロイドが、獲物に見つけたように笑った。
ティガもまた、負けじと言い返した。
「僕は光だ。巴里の未来を守り抜く光の巨人、ウルトラマンティガだ!」
「キリキリキリ……!愚かなる巨人よ、キリエルの裁きを受けるが良い!!」
言うや、キリエロイドが襲い掛かって来た。
「チャッ!」
ティガも真っ向から攻撃を仕掛けた。
キリエロイドのミドルキックを受け止め、反対側から蹴り込む。
「キリッ!」
しかしティガの反撃を予期したか、キリエロイドはティガの足を捕まえて引き倒した。
「ジュワッ!?」
「キリッ!」
仰向けに倒れたティガを踏み付けるキリエロイド。
しかし間一髪、ティガは両腕を交差させてキリエロイドの足を受け止め、払いのけた。
「ハッ!!」
「キリッ!?」
バランスを崩して、今度はキリエロイドが仰向けに倒れる。
起き上がったティガはすかさず反撃に出ようとするが、その前にキリエロイドは距離を取って起き上がった。
「キリッ!」
そして右手に紅蓮の光を集め、地面にたたき付けた。
すると、二人を囲むように炎が巨大な円を描き出す。
「これで逃げ場はないぞ?ウルトラマンティガ。」
「チャッ………。」
周囲を炎のリングに包まれる中、キリエロイドがニヤリと笑った。
その姿は、悪魔以外の何者でもない。
それでも怯む事なく戦おうとするティガに、キリエロイドは更に笑った。
「キリキリキリ………!覚えている、覚えているぞ!遥か3000年前、燃え盛る炎と共に私を滅ぼした、悪魔にも似た貴様の姿を!!」
「3000年前の事なんて関係ない。僕は、今ある巴里の未来を護る!!」
3000年前に相見えた時と全く同じ、燃え盛る炎の中で、激闘が始まった。
その頃、シャノワールのモニターにもキリエロイドとウルトラマンティガの戦いが映されていた。
その戦いは、これまでのそれとは比べものにならない程に激しい。
巴里を守って来たと自称するだけあって、キリエロイドの戦闘力はティガとほぼ互角だった。
「マズイ事になったね………。」
モニターの様子を見ながら、グラン・マが呟いた。
現時点で両者の戦いは互角。
紙一重の差もないと言って良い。
しかし加山の予想通りなら、キリエロイドはティガ抹殺のために何かしらの準備をしているはずである。
だとすれば、ティガの方が不利であった。
「オーナー、キリエロイドは炎によるバリケードを出現させました!」
「これじゃ、ティガも脱出出来ません!」
二人の報告に、グラン・マは何時になく冷や汗をかいた。
本来ならここで即巴里華撃団を出撃させるのだが、彼女達はキリエロイドの策略によって出撃出来ない状況にある。
キリエロイドの周到さに、グラン・マは改めて脅威を感じた。
その時、作戦司令室に顔を出す人物がいた。
シャノワール整備班の筆頭、ジャン班長である。
「待たせたなオーナー、準備完了したぜ!!」
「ジャン班長!なら、例のアレは………!」
ジャンの到着に、グラン・マの表情が明るいものに変わった。
この事態を予想してジャンに依頼していたものが、完成したのである。
「ああ、完成だ。いつでも行けるぜ!」
「決まりだね。すぐに準備だよ!」
「「ウィ、オーナー!!」」
ジャンの返事に頷き、グラン・マが命令を出す。
おそらくはキリエロイドが唯一予測しなかった盲点。
加山の話でそれを見出だしたグラン・マは、その盲点を軸にキリエロイドに対抗する作戦を立てたのである。
メルとシー、ジャン班長を始め、各々が準備に取り掛かる中、グランマは再びモニターに目を向けた。
「(アタシらももうすぐだからね。ダイゴ、それまで持ちこたえておくれよ………!)」
巴里を復讐の炎に包まんとした3000年の悪魔。
その悪魔に立ち向かう正真正銘の光に、グラン・マは心の中で祈った。
超古代の戦士、キリエロイド。
超高温の火炎とスピーディーな連続攻撃を武器とするこの強敵に、ティガは今までにない苦戦を強いられた。
激しいキックの嵐に防戦一方となり、反撃の隙が見出だせない。
「キリッ!」
キリエロイドが何発目かのキックを浴びせて来た。
ティガはそれを腕でガードするがその一瞬、ティガの身体か反動で泳いだ。
「キリッ!」
その一瞬を見逃さず、キリエロイドがトドメとばかりに蹴り込む。
しかし、これはティガがわざと見せた隙だった。
「ハッ!」
キックより先に相手の腹に正拳突きを叩き込む。
「キリッ!?」
思わぬ反撃を受けてキリエロイドが怯んだ。
ティガはすかさず腕を掴み、勢い良く投げ飛ばした。
「チャーッ!!」
しかし、キリエロイドは空中を華麗に回転して着地し、振り向き様に回し蹴りを放って来た。
「ジュワッ!?」
今度こそ完全に隙を突かれた攻撃に、ティガは後ろの建物を巻き込んで倒れる。
パワー、スピード、どちらも相手が一枚上手だった。
「(それなら………!!)」
ティガは距離を取って立ち上がると、両腕を額のクリスタルの前で交差させた。
「ンゥゥゥ………、ハッ!」
額のクリスタルが光った。
そして、ティガの身体が赤く変わる。
怪力で敵をたたきのめす、パワータイプである。
「キリッ!!」
追い撃ちとばかりに飛び蹴りを仕掛けるキリエロイド。
しかし、パワータイプにチェンジしたティガに、キリエロイドは驚かされる事となる。
「ハッ!」
「キリッ!?」
ティガはその場に踏み止まり、猛スピードで迫るキリエロイドの足を片手で容易く掴まえてみせたのだ。
流石のキリエロイドも、これには驚きを隠せない。
ティガはそのまま、ジャイアントスイングの要領でキリエロイドを投げ飛ばした。
「チャーッ!!」
「キリッ!?」
紙屑のように吹き飛ばされるキリエロイド。
ティガはトドメを刺すべく、両手をゆっくり外側から時計回りに回転させた。
すると、胸のカラータイマーを中心に膨大なエネルギーがティガの手の中に圧縮される。
パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ。
「ハァァァ………!!」
その時、キリエロイドが思わぬ行動に出た。
「キリッ。」
何と、自分の身体に腕を食い込ませたのである。
痛みに耐えながら胸から引きずり出された手には、ちょうど光武F2程の大きさの鐘が握られていた。
「キリッ!」
そして、キリエロイドが鐘を鳴らした。
刹那、信じられない事が起こった。
「ジュワッ!?」
何と、デラシウム光流を放とうとしたティガが突然苦しみ出したのだ。
まるで、演習の時の巴里華撃団のように。
圧縮されたエネルギーは消えうせ、たちまちカラータイマーが赤く点滅を始める。
すると、キリエロイドが鐘を持つ手を揺らしながら笑った。
「キリキリキリ………!この私が貴様を倒すために、何の策も擁しないと思ったか?」
「ジュワッ!?」
キリエロイドが足元で苦しむティガの腹を踏み付けた。
「まさか………、その鐘で………!?」
「察しが良いな。その通り、この鐘はカタコンベ内部に残っていた超古代遺物。霊力を持つ者を苦しめる殺戮兵器だ。」
その言葉に、ティガは確信した。
エリカ達を意識不明にまで追い込んだ正体。
それが今自分を苦しめている鐘だという事に。
キリエロイドはあの演習の時、風に乗せて鐘を鳴らし、エリカ達を襲ったのである。
「これは本来貴様らを倒すために我等キリエルが使用していたものだ。あの小娘共を始末するために少々改造を加えたが、貴様への威力は小娘共の比ではない。」
ティガを弄ぶように踏み付け、キリエロイドが高らかに笑った。
鐘は、本当はキリエロイドがティガ抹殺に用意した代物だったのだ。
「な………、何故だ………?エリカさん達は、お前の仲間じゃないのか………!?」
全身の細胞を引き裂かれるような激しい痛みに耐えながら、ティガが問い質した。
エリカ達はパリシィの血を引く末裔達だ。
キリエロイドがパリシィの守護者であるなら、エリカ達は仲間のはずである。
しかし、キリエロイドはティガの当然とも言える質問に嘲笑で返した。
「キリキリキリ………!!我等が神、オーク巨樹に逆らう裏切り者など仲間ではない!」
「違う………!!オーク巨樹はこの街と共に生きる事を選んだ!パリシィの怨念は消えた!」
「戯れ言は良い。ウルトラマンティガ、巴里に居座る悪魔よ。キリエルの裁きを受けるが良い!」
鐘を鳴らしたまま、キリエロイドはもう片方の手に炎を生み出した。
だが、炎はティガに裁きを与える事はなかった。
何故なら、上から発射されたエネルギーの光が、キリエロイドに攻撃を仕掛けたからである。
「キリッ!?な、何者だ!?」
「チャッ………!?」
光はキリエロイドの右手にある鐘を直撃した。
途端に粉々に砕け散る鐘。
激痛から解放されたティガは素早く起き上がり、光の発射された方を見た。
そこには、巴里華撃団と共に巴里を護る勇気の翼が羽ばたいていた。
「ダイゴ!助けに来たぜ!どうだ、俺の操縦振りは!?」
エル・クランからジャンの怒鳴り声が聞こえて来た。
グラン・マが目を付けた盲点。
それは、演習で初めて投入された新兵器、エル・クランの存在だった。
光武F2と違って霊力を必要としないこの戦闘機の存在はキリエロイドも把握しておらず、グラン・マはジャンに依頼して急ピッチでエル・クランを修理。
開発者であるジャン班長操縦のもと、ある新装備を加えて戦場に現れたのである。
「おい巴里の市民共!いい加減目を覚ましやがれ!!」
エル・クランの下に備え付けられた巨大スピーカーで、ジャン班長が怒鳴った。
「ティガは悪魔なんかじゃねぇ!天使を偽る奴こそが真に悪魔なんだ!!」
戦いを見守っていた市民にどよめきが起きた。
「考えても見ろ!今までウルトラマンティガは何度も俺達を助けてくれた。ティガこそ正真正銘、巴里の光だ!!」
グラン・マの作戦。
それは、エル・クランを利用したティガの援護と鐘の破壊。
そして洗脳された市民の説得だった。
キリエロイドの予期しなかった唯一の存在であるエル・クラン。
結果それは上手くいき、鐘は必殺のマキシマ砲で破壊。
そして今、市民の洗脳も僅かに解け始めていた。
「小癪な真似を………!貴様から裁きを下してやる!!」
作戦に狂いが生じ、キリエロイドがエル・クラン目掛けて炎を発射した。
だが、炎はまたも裁きを与える事が出来なかった。
何故ならティガの放ったハンドスラッシュが、キリエロイドの炎を相殺させたからである。
「おのれウルトラマンティガ………!何処までも邪魔だてするつもりか!!」
キリエロイドは怒りを露に炎を発射して来た。
ティガは横にかわそうとするがその瞬間、後ろから別の声が聞こえて来た。
「チャッ………!!」
それは、キリエロイドの洗脳が解けかかった市民達だった。
このまま自分が炎を避ければどうなるか、考える間でもなかった。
「ジュワッ!!」
ティガは間一髪ウルトラシールドを張り、キリエロイドの火炎をせき止めた。
火炎が四方八方に散り、周囲を焼き尽くしていく。
「馬鹿め!この聖なるキリエルの裁きを、その程度のシールドで防げると思うか!?」
市民を半ば人質に取った状態で、キリエロイドは更に火炎の威力を増加させた。
超高温の火炎を受け続け、シールドに亀裂が入る。
「キリキリキリ………!!どうだウルトラマンティガ。闇を無くした今、この暗闇の中では満足に戦えまい!!」
それは、キリエロイドが周到に仕組んだ作戦だった。
ティガは光の巨人。
当然ながら、エネルギーは太陽を始めとする光エネルギーだ。
そのため夜間は分が悪く、取り分け今回は周囲の建物もキリエロイドによって焼き払われている。
建物の明かりがあれば多少の粘りも可能だが、これではかなり危険な状態だった。
「おいお前ら!これでもまだあの野郎を信じるってのか!?」
ジャンが上空から怒鳴った。
その言葉に、市民達のどよめきが強まる。
「ティガは今、お前らを護るためにわざわざよけねぇで炎を防いでいるんだ!これでもまだ分からねぇのか!!」
「そうだ!アイツは天使なんかじゃない!」
ジャンの叫びに合わせて、市民の誰かが叫んだ。
「前にアイツの炎で、俺の女房が死んじまったんだ!アイツは悪魔だ!!」
それが口火を切った。
それまでキリエロイドに喝采をあげ、天使の福音を待ち侘びていたはずの市民達が、完全に目を覚ましたのである。
そして、市民達の叫びは程なくしてティガへの声援に変わった。
「ティガ!アイツをぶっ飛ばせ!!」
「私達の巴里を守って!!」
「お前だけが頼りなんだ!!」
人々の必死の声援。
その暖かい言葉を背中に受け、ティガは歓喜に震えた。
やはり自分は闇ではない。
巴里を護る存在の自分が、何故光でない事があろうか。
その確信が現実となり、ティガの胸に燃ゆる闘志は激しいものに変わった。
「ハァァァ………!!」
その時、信じられない事が起こった。
何とティガは、キリエロイドの火炎諸ともデラシウム光流に圧縮して見せたのである。
たちまち超高温の火炎を取り込んだエネルギーボールがティガの手の中に出現する。
「ダァッ!!」
先程とは比べものにならないエネルギーが、キリエロイド目掛けて投げつけられた。
デラシウム光流はキリエロイドを包み込み、爆発と共に大きく後ろに吹き飛ばした。
「キリッ!?」
突然の反撃に意表を突かれ、倒れ込むキリエロイド。
その隙を突いて、ティガは再び額のクリスタルを発光させた。
「ンゥゥゥ………、ハッ!」
ティガの身体が赤から青に変わる。
スピードで相手を翻弄するスカイタイプである。
「チャッ!」
ティガは起き上がったキリエロイドに、真っ向から勝負を挑んだ。
風のような流れる動きで、激しいラッシュを与えていく。
「ハッ!ハッ!チャッ!」
「キリッ………!?」
先程のデラシウム光流のダメージが大きいのか、動きのキレが弱まっているキリエロイド。
ティガはすかさず猛反撃に出た。
「ハッ!!」
空中に飛び上がり、ティガはキリエロイドの脳天目掛けて踵落としを放った。
直撃した頭から火花が散る。
しかし、まだティガの反撃は終わらなかった。
「キリッ!?」
「ハッ!」
キリエロイドのキックをかわし、ティガは再び上空へ飛び上がる。
そして、炎を発射しようとするキリエロイド目掛けて渾身のティガスカイキックを放った。
「チャーッ!!」
放たれた矢のごとき一撃が、キリエロイドの胸倉に見舞われた。
その勢いで、キリエロイドは大きく真後ろへ吹き飛ばされる。
「キリッ………!!」
「ンゥゥゥ………、ハッ!」
地面に降り立ったティガは、三度クリスタルを発光させた。
そして、マルチタイプに戻ると同時に胸の前で両手を交差させる。
ティガ最強の必殺技、ゼペリオン光線である。
「ハッ!!」
水平に広げてエネルギーを集約させた腕がL字に組まれ、必殺光線が発射された。
天使の羽根を思わせる純白の光が一直線に悪魔を狙い撃つ。
「キリッ………!!」
しかし、キリエロイドも負けてはいなかった。
ゼペリオン光線を押し返さんと、火炎放射を放ったのである。
ティガは必死に押し返そうとするが、カラータイマーの点滅スピードが急激に上がった。
デラシウム光流に始まる必殺技の連発で、エネルギーが底を尽きかけているのだ。
「キリキリキリ………!!復讐の炎で灰になれ、ウルトラマンティガ!!」
キリエロイドが更に炎の力を強めた。
火炎が激しさを増し、ゼペリオン光線を中程まで押し戻す。
あれ程の猛攻を受けてここまで戦えるとは、ティガも驚いた。
しかし、それはティガも同じだった。
「(僕は………、負ける訳には行かない………!!)」
今尚医療ポッドの中に眠る巴里華撃団の仲間達。
エル・クランで助けに来てくれたジャン班長。
そして、すぐ足元で応援してくれる市民達。
負ける訳にはいかなかった。
たとえこの命を失う事になったとしても。
「チャァァァッ!!」
ティガは体内に残る全てのエネルギーを解き放った。
その凄まじいエネルギーに一瞬、ゼペリオン光線が純白から黄金へと姿を変える。
そして、均衡は破られた。
「キリッ!?」
ゼペリオン光線が火炎を押し戻し、キリエロイドの胸倉を直撃した。
たちまちキリエロイドの全身を、光が包み込む。
「認めん………!認めんぞ、ティガ!!我等キリエルこそ………、キリエルこそ、この巴里の守護者なのだぁぁぁ………!!」
巴里の守護者を名乗り、ティガに裁きを与えようとしたキリエルの悪魔は、ティガの手により光の裁きを受ける事となった。
「チャッ………。」
立ちのぼる爆煙と足元から聞こえる歓声の中、ティガのカラータイマーが点滅を止めた。
そして、ティガの身体は光の粒子となって消えていく。
光の巨人ウルトラマンティガが、その正義に燃え尽きた瞬間だった。
その頃、巴里の地下に眠るカタコンベ内で一つの封印が解かれた。
理由は簡単。
封印を施していた者が消えたからだ。
「………目覚めの時か。」
暗闇の中から声がした。
野太い男の声だ。
奥で赤い二つの目が光る。
「ククク、また遊べるのか?」
別の男の声がした。
今度は青い目だ。
先程の男とは違い、残忍さを露呈する笑い声が聞こえる。
すると、その間を縫うように金色の目が現れた。
「まあ良いわ。でも、肝心な人物がいないわね。」
二つの声とは異なる女の声がした。
すると、赤と青の目が女に向けられる。
「………確かに。」
「ヒャハハハ!あんな奴ほっときゃいいのによ。」
同意する赤の目とは対照的に、嘲笑を返す青い目。
すると、金色の目は同じ口調で答えた。
「もう過去の事よ。我等が主も、それを望んでいるはず。」
金色の目が、俄かに殺気立った。
「そうよね………、ティガ。」
<続く>
《次回予告》
懐かしいわ、もう3000年になるのかしら。
あの日と変わらぬ凛々しい貴方。
貴方の愛した破壊と殺戮を、今こそ………!!
次回、超古代の星最終章Ⅱ。
《光と闇の狭間で》
愛の御旗のもとに………
戻っていらっしゃい、ティガ………。