※この作品はR-18です。

超古代の星   作:サマエル

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最終章Ⅱ:光と闇の狭間で

そこは、文字通り何もない空間だった。

重力も、重さも、色も、形も、何もない。

朦朧とする意識の中、何かが呼び掛けて来た。

 

「目覚めなさい、ティガ………。」

 

「………?」

 

それは、初めて耳にする女の声だった。

声色から、何やら底知れぬ邪悪を感じる。

 

「いらっしゃい、私達の下へ………。そしてもう一度、殺戮の宴に酔いしれましょう。」

 

「だ、誰だ………!?」

 

恐ろしい事を口にする何者かに問い質す。

しかし、女は答えなかった。

 

「フフフ………、そうしていられるのも今の内。貴方もすぐに思い出すわ。反り血に塗れたあの無上の快楽をね………。」

 

「どういう事だ!お前は一体何者なんだ!?」

 

女に再び問い質す。

すると、女は薄気味悪い笑みで答えた。

 

「今に分かる事よ………。」

 

その時、別の声が聞こえて来た。

 

「ダイゴさん!起きて下さい!!ダイゴさん!!」

 

「え………?」

 

無駄に元気な大声でたたき起こされたダイゴの目に映ったのは、これでもかと言わんばかりに顔を近付けるエリカだった。

 

「エ、エリカさん………?」

 

目の前にいるシスターの名前を口にして、ダイゴは今置かれている状況を思い出した。

 

「エリカさん!!………それにみんな………。」

 

よく見ると、エリカの後ろにロベリアら四人の姿がある。

自分がキリエロイドと戦うまで意識がなかったというのに、どうしたというのか。

それを察したように、グリシーヌが答えた。

 

「私達はキリエロイドとやらが倒れた翌朝に目が覚めた。ダイゴ、そなたはその日から3日の間意識がなかったのだ。」

 

「グラン・マに聞いたよ。ありがとう、ダイゴ。」

 

「ったく、アタシのボーナス独り占めしやがって。今度はアタシに譲れよ?」

 

「一時はどうなるかと思いましたけど、ご無事で何よりです。」

 

グリシーヌに続いていつものように声をかける四人。

しかし、エリカだけはダイゴをジーッと見て尋ねた。

 

「それはそうとダイゴさん。………カミーラって誰ですか?」

 

「………は?」

 

「惚けても無駄です!エリカにはちゃんと聞こえましたよ!ダイゴさん、カミーラって一体誰なんですか!?」

 

有無を言わさずまくし立てるエリカに、ダイゴは半ばパニック状態に陥った。

カミーラなど聞いた事もないし、口にした覚えもない。

有り得るとしたら寝言だが、それでヤキモチを焼かれてはたまったものではない。

 

「いや、エリカさん………。僕カミーラなんて一言も………。」

 

「酷いですダイゴさん!エリカが嘘ついたって言うんですね!エリカもう怒りましたよ!!」

 

「いや、だから言ってないってば………。」

 

「言ったかなんて、もうどうでもいいんです!!ダイゴさん!責任取ってもらいますからね!!」

 

完全に頭に血が昇ったらしく、取り付くしまのないエリカ。

目覚めて早々、ダイゴはため息をつく事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ダイゴとエリカの姿はセーヌ河を流れる遊覧船の上にあった。

 

「ねぇねぇダイゴさん、魚がたくさん泳いでますよ!」

 

「フフッ、エリカさん、そんなに乗り出すと落ちるよ?」

 

子供のようにはしゃぐエリカに、ダイゴは微笑みながら注意した。

寝言で別の女の名前を口にした事で、エリカはダイゴに今日一日二人きりのデートを決めたのである。

一度はどんな目に遭わされるか不安だったダイゴだが、エリカとのデートならと快諾したのだ。

最初は巴里中の菓子屋を巡ってプリンを食べ尽くすという、何ともエリカらしい予定だったが、流石に腹を壊すと考えたダイゴは説得の末、プリン食べ歩きを巴里遊覧船に変更したのである。

 

「あ、ダイゴさん。あそこ。」

 

「ん?」

 

エリカが指差した方向を見ると、一つの大きな橋に差し掛かった。

かつて自分達が平和を賭けて戦ったシテ島と巴里を結ぶ、ポン・ヌフ橋だった。

確か巴里に架けられた橋の中でも、一番古いものだ。

 

「ねぇダイゴさん。いつも思うんですけど、ポン・ヌフ橋って、新橋って意味ですよね?」

 

「うん、そうなるね。」

 

「何ででしょうね。もうこんなにボロボロなのに。」

 

巴里最古の橋が何故新しいのか。

首を傾げるエリカに、ダイゴが答えた。

 

「きっと、見た目が変わっても、いつまでも新しい時のままでいたいんだよ。」

 

「どういう事ですか?」

 

「この橋は、シテ島と巴里を結ぶ橋でしょう?一番古いのに、一番丈夫なのは、それだけ二つを結んでいたいって事じゃないかな?」

 

そう言って、ダイゴは巴里最古の橋を見た。

セーヌ河の水面に面した所からは苔が生え、予備知識が無くても相当長い年月が経っている事が一目で分かる。

ただ丈夫なだけと言ってしまえばそれまでだろう。

しかしダイゴには、この橋がシテ島と巴里を繋ぐ掛橋に見えた。

まるで、ローマとパリシィの心をも結ぼうとしているかのように。

そう考えると、この橋が新橋という名である事には何の違和感も湧かなかった。

 

「ウフフ、ダイゴさんって結構ロマンチックなんですね。」

 

ダイゴの考えに、エリカは小さく笑った。

そして、そっと自分の手をダイゴのそれに重ねた。

 

「エリカさん?」

 

行動の意味が分からず、ダイゴが尋ねる。

すると、エリカはやや赤い表情で答えた。

 

「あの………、私達の事も結んでくれますよね?」

 

ローマとパリシィの心を結ぶなら、自分とダイゴの事も結んでくれるはず。

エリカの言葉からその想いに気付き、ダイゴもエリカ以上に赤くなった。

 

「うん………。きっとそうだよ。」

 

ダイゴは照れながらも頷き、エリカの手を握り返した。

そんな二人を見送るように、巴里とシテ島を結ぶ橋が遊覧船の上を通り過ぎる。

 

「………。」

 

そして、その橋の上に一人の女の姿があった。

女はたった今通り過ぎて行った遊覧船を見つめ、僅かに口元を上げて笑った。

 

「ようやく見つけたわよ。………ティガ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これで全員かい?」

 

作戦司令室に集まった面々を見渡し、グラン・マが言った。

そこには約2週間をかけて復活した巴里華撃団の姿がある。

最も、今は二人を除いているが。

 

「今はあの二人を呼ぶべきではあるまい。せっかくの水入らずなのだからな。」

 

「エリカとダイゴには後で伝えておくからさ。」

 

「そういう訳だ。早いとこ始めようぜ。」

 

ロベリアの言葉に小さく笑うと、グラン・マは話を始めた。

 

「みんな、一昨日のキリエロイドの件は知っているね?」

 

「はい。メルさんやジャン班長にお聞きしました。」

 

グラン・マの第一声に、花火が答えた。

先日のキリエロイドによるティガ抹殺計画。

エル・クランという盲点をついたグラン・マの作戦と、陸軍側のホセ補佐官の協力がなければ絶対に勝てなかっただろう戦いの概要は、既に誰もが知っている。

それを再度確認した所で、グラン・マは本題に入った。

 

「ムッシュ加山の活躍で入手したキリエルの古文書………、アタシも独自に調べて見たんだ。そしたら、色々面白い事が分かったよ。」

 

「面白い事?」

 

おうむ返しに聞くコクリコ。

すると、グラン・マはその古文書を机の上に置いて頷いた。

 

「そうさ。古文書によれば、アタシらの持っていた予言書は根底からひっくり返る事になるんだよ。」

 

「予言書の内容と、矛盾しているって事かい?」

 

簡潔にまとめるロベリアに、グラン・マは再び頷いた。

そして、その驚くべき内容を口にした。

 

「古文書によれば………、アタシらと一緒に巴里を守って来たティガは、闇の巨人だと言うんだよ………。」

 

刹那、花組は各々驚きの声を上げた。

無理もない。

初めて聞いた時は、グラン・マ自身も驚いたのだ。

 

「そんなの嘘だよ!ダイゴはボク達の仲間なのに!」

 

最初に声を上げたのはコクリコだった。

 

「ダイゴはこれまで、幾多の闇を打ち払った光の勇者だ。そのダイゴが闇であるはずなかろうが!」

 

グリシーヌも非難めいた口調でコクリコに続く。

すると、ロベリアがいつものけだるげな様子で口を開いた。

 

「そもそもそのキリエロイドの古文書も本当か怪しいじゃねぇか。」

 

「確かに、そうですね。現にティガは、何度も私達を助けてくれました。」

 

ロベリアの言葉に花火も頷く。

伝説にどう書かれていようと、ティガが今まで巴里華撃団と共に戦った事は変わりない。

それはグラン・マを含めて誰もが分かっている事であった。

 

「アタシもそう信じたいさ。だけどね………。」

 

グラン・マは力無く古文書に目を向けた。

 

確かにティガが闇の巨人など信じたくはない。

しかし、グラン・マは胸中の不安を拭えないでいた。

悪い予感がするのだ。

 

「何故かは分からないけど………、アタシはまだこれで終わらない気がするんだよ。」

 

「終わらない?」

 

怪訝な表情でグリシーヌが尋ねる。

 

「何か、アタシ達の想像もしない何かがうごめいてる気がするんだよ………。それこそ、巨大な何かがね。」

 

「巨大な何か………。」

 

グラン・マの言葉に、四人はその予感が外れてくれたらと願わずにはいられなかった。

しかし、それは叶わぬ願いであった。

そう………、グラン・マの悪い予感が現実になるまで、もう僅かな時間もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遊覧船の船旅を終え、終点のシャン・ド・マルス公園で休憩を取っている時だった。

 

「………!?」

 

のどかな風景と不釣り合いな冷たい殺気にも似た空気。

その得体の知れない薄気味悪さに、ダイゴの顔から笑顔か消えた。

 

「ダイゴさん?………どうしたんですか?」

 

急に様子が変わったダイゴに、エリカが心配そうに声をかける。

その時、周囲を凄まじい大爆発が襲った。

 

「うわっ………!?」

 

「きゃあああっ!?」

 

僅か一瞬で、のどかな公園は火炎地獄と化した。

周りの木々や建物は全て炎に包まれ、辺りは逃げ惑う人々で騒然となる。

 

「………!!エリカさん!」

 

ダイゴがハッとして叫んだが遅かった。

既にエリカの姿は人混みに巻き込まれ、何処にいるのか皆目見当もつかない。

 

「くっ………!!」

 

ダイゴは懐にあるスパークレンスを取り出した。

何者かは知らないが、巴里に害を成す者ならばやる事は一つだ。

ダイゴはスパークレンスを大きく時計周りに回転させ、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「ティガーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

その頃、エリカの姿は一足先にシャノワールにあった。

シャン・ド・マルス公園の混乱が怪獣による者と判断したエリカは、近くのダストシュートに乗り込んで作戦司令室に急行したのである。

 

「………で、肝心のダイゴとはぐれたって訳かい………?」

 

「エヘヘ………、ごめんなさい………。」

 

呆れた表情のグラン・マに、頭をかくエリカ。

すると、メルが口を開いた。

 

「報告します。シャン・ド・マルス公園に強い妖力反応を探知!怪獣達と同じか、それ以上の強さです!」

 

「どうやら予感が当たっちまったみたいだね。シー、現場の状況をモニターに写しとくれ。」

 

「ウィ、オーナー!」

 

やはり巴里への脅威はキリエロイドだけではなかったか。

自身の予感が当たってしまった事に悔やみながら、グラン・マはシーに指示を出す。

だがその作業を実行した直後、シーの表情が凍り付いた。

 

「こ、これ………!?」

 

「シー、どうしたの!?」

 

いつもと違う驚き方をするシーにメルが話し掛ける。

そんなに恐ろしい姿の怪獣なのか。

いや、そうではなかった。

何故ならモニターに写った妖力の正体は、そこにいる誰もが知っている人物だったからだ。

 

「ダ………ダイゴさん………?」

 

信じられない顔つきで、エリカが呟いた。

怪獣に襲われるダイゴを心配したからか。

いや、ダイゴはいた。

作戦司令室のモニターに、まがまがしい暗黒の巨人として………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、スパークレンスの光に包まれた瞬間だった。

スパークレンスの光が突然に消え失せ、周りを漆黒の鳥が飛び交う。

その中に、ティガであった巨人の姿があった。

 

「こ………、これは………!?」

 

視界に入った自らの姿に、巨人は狼狽した。

闇に溶け込むかのように黒ずんだ身体。

体内にうごめく破滅への衝動。

まるで今まで多くの血にその身体を染めて来たような悍ましさに、巨人は震えた。

 

「………何故驚いているの?それが貴方の真の姿なのよ?」

 

ふと、女の声がした。

それにハッとして振り向く巨人。

そこには、とてつもない闇を想起させる三体の魔人の姿があった。

 

「3000年振りだな、モン・アーミー………。」

 

左側の赤い巨人が低い声で呟いた。

その声は、威嚇するというより過去を懐かしむように聞こえる。

すると、今度は右側の青い巨人が声を上げた。

 

「おいおいどうした?豆鉄砲喰らったみてぇな顔してよ?」

 

寡黙そうな赤い巨人とは対照的に、挑発的な態度を見せる青い巨人。

すると、真ん中のどす黒い金色の巨人が薄く笑った。

 

「3000年の間に変わったわね。巴里も、そして貴方も………。」

 

「お、お前達は一体………!?」

 

戸惑いながら尋ねるティガであった巨人。

すると、青い巨人が露骨に落胆の表情を見せた。

 

「おいおいつれねぇな。昔の仲間を忘れちまったってのかぁ?」

 

「仕方あるまい………。目覚めさせるには時がかかり過ぎた………。」

 

「何………!?」

 

巨人は眉を潜めた。

まるで昔から顔馴染みだったような態度と言動。

初対面のはずだというのに、一体どうしたというのか。

すると、真ん中の巨人が一歩進み出た。

 

「ティガ………、貴方は忘れているだけ。知っているはずよ?私達を………。」

 

敵意のない眼差しを向ける巨人。

その声色に、ティガは聞き覚えがあった。

 

「………カミーラ………?」

 

目覚めた時にエリカが問い質した名前。

まさかと思って口にすると、巨人は嬉しそうに笑った。

 

「フフフ………、やっぱり覚えていてくれたのね?」

 

「………お前達は………、闇の巨人なのか………?」

 

キリエロイドの残した言葉を口にする。

すると、カミーラ達三人は満足げに笑った。

 

「そうよティガ。でもね、一つ違う事があるわ。」

 

カミーラが一瞬残忍な笑みを見せる。

ティガはその恐ろしさに、身体が震えた。

 

「私達だけではない。ティガ………、貴方もまた私達と同じ、闇の巨人なのよ………。」

 

「なっ………!?」

 

その言葉に、ティガはキリエロイドの言葉を思い出した。

 

「君は光でも何でもない。遥か3000年前、この巴里を滅ぼそうと企んだ闇の巨人なのだよ。」

 

あの時、キリエロイドの言葉は自身を正当化させるためのハッタリだと思っていた。

しかし現に闇の巨人は目の前にいて、ティガを仲間と呼んでいる。

それはキリエロイドの言葉と、加山が入手した古文書の内容が真実である事を示していた。

 

「かつて3000年前、私達は大いなる闇の主のもと、この地を炎に包んだ。」

 

古い詩を語る詩人のように、カミーラが話し始めた。

 

「その中でも私達は、強大なる力から主に最も近い存在だったわ。鋼力のギガンテス、疾風のグレゴール、氷獄のカミーラ、そして鮮血のティガ………。」

 

「だがある時、我等に盾突く者が現れた。」

 

「盾突く者?」

 

ギガンテスの言葉に眉をひそめるティガ。

すると、今度はグレゴールが答えた。

 

「そうさ。そいつのおかげで、俺達は暗い暗い洞窟の底に押し込められたって訳さ。」

 

「………、まさか………!!」

 

ティガの表情が驚きに変わる。

すると、カミーラがティガの心を見透かしたように笑った。

 

「そう。私達はパリシィの守護者、キリエロイドによって封印されていたの。」

 

戦慄を覚えるティガに、カミーラは続けた。

 

「でも貴方が奴を殺してくれたおかげで、私達は目覚める事が出来たわ。」

 

「そ、そんな………!!」

 

ティガは驚愕の事実に驚きの表情を更に強張らせた。

キリエロイドが残した言葉は真実であり、巴里の平和を守ったはずの自分は、あろう事か巴里の平和を脅かす最悪の敵を復活させてしまったからだ。

しかし、カミーラの口から齎された真実は更に衝撃的なものだった。

 

「それだけじゃないわ。ティガ………、貴方はキリエルの封印を助長するパリシィの怨念を消し去ってくれた。」

 

「何………?それは………まさか!!」

 

「察しが悪くなったなティガ。あいつらも言ってたろ?裏切り者ってよ。」

 

呆れた口調のグレゴールの言葉が、全てを示していた。

パリシィの怨念が具現化した怪人達。

そして、怪人達と共にティガが倒して来た怪獣達。

それらは全て、カミーラ達闇の巨人を封印する存在だったのである。

そして、ティガは巴里華撃団と共にそれを全滅させてしまった。

それは結果としてキリエロイドの封印を弱め、カミーラ達の復活を促してしまったのである。

 

「皮肉なものね?光に寝返った貴方と共に巴里を守り抜いた英雄達が、闇に転じた貴方の手によって滅んだなんて………。」

 

カミーラは嘲笑を見せた。

その言葉に、ティガはようやく気付いた。

スパークレンスが光を失い、戦う事を拒んだ理由。

それは、かつて共に巴里を救った仲間と戦う事への躊躇いと、闇に堕ちる事への警告だったのである。

本来光を継ぐ者ではないイーヴィルが変身出来たのは、元々ティガが闇の巨人だったから。

黄金の巨人に変身出来たのは、ティガの光がパリシィと同調したから。

そして、スパークレンスの光が弱まったのは、その光の源であるパリシィを滅ぼしたから。

ティガは光の巨人でありながら光を失い、巴里に封じられし闇を解放させてしまったのである。

 

「だが、我等はまだ地上に出る事は出来ない。」

 

ギガンテスが、残念そうに言った。

 

「何………?」

 

ティガは眉を寄せた。

キリエロイドの封印は解かれた。

ならば、封印されていたカミーラ達は既に解放されたはず。

しかしよく見てみると、三人は三人共足元が消えており、実体ではなかった。

何故なら………、

 

「実はもう一人、キリエロイドの他に俺達を封印してた奴がいたんだよなぁ?」

 

「………もう分かるわよね?ティガ………。」

 

カミーラが分かりきった事を敢えて尋ねた。

その言葉通り、ティガは理解していた。

 

「僕が………、封印していたからか?」

 

その言葉に、巨人達は満足げに笑った。

遥か超古代、ティガはキリエロイドの封印の上に自らの封印を施し、闇の全てを二重に封印したのである。

 

「そのせいで俺達は、目覚めていながら外に出られねぇ生き地獄って訳さ。」

 

「最もこうして虚像で暴れる事は、僅かに出来るがな。」

 

グレゴールとギガンテスの言葉に続き、カミーラは悪魔が囁くような声で言った。

 

「でもね、ティガ。貴方がその闇の力を完全に解放すれば、私達の封印は解かれるの。それが出来るのは、かつての姿を取り戻した貴方だけよ?」

 

キリエロイドとパリシィの封印が消えた今、カミーラ達の復活を妨げている最後の砦は光であった頃のティガの封印。

則ち、ティガに眠る闇の力が開花されたその瞬間、最後の封印が解け、巨人達が巴里を3000年前の悪夢に包む事になるのである。

 

「モン・アーミー、我等が主の復活も、お前にかかっている………。」

 

「この平和ボケした街を、嘆きと恐怖に包むために!!」

 

「ティガ、また私達と殺戮の宴を楽しみましょう?遥か3000年前のように………。」

 

悪夢の言葉を残し、カミーラ達の虚像は消え失せた。

残されたのは、遥か超古代に巴里を嘆きと恐怖の惨劇に包んだ哀れな裏切り者だけ。

 

「そんな………、僕は………。」

 

今まで信じつづけたものが無惨に壊れ、ティガはその場に立ち尽くしていた。

やがて空を黒雲が覆い、滝のような雨となって燃え盛る町に降り注いだ。

 

「………。」

 

まるで破滅への運命を象徴するかのような黒い雨。

その雨の中に、巨人は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な雨。

シャノワールの奥にあるエレベーターの中、エリカはふと思った。

以前もこういう事があった。

あれはカルマールに対抗するべく特訓を決意した時。

帝都からマリア達を特別コーチとして招いたにも関わらず、満足な結果を出せなかった自分。

イーヴィルの口車に乗せられ、追放処分を言い渡された自分。

そして、ダイゴの想いに気付いてあげられなかった自分。

エリカはあの日の自分を、まだ許せずにいた。

 

「(ダイゴさん………。)」

 

医務室の前に立ったエリカは、この奥にいる少年の名前を心の中で呼んだ。

巴里で一番最初に知り合った、2歳年下の少年。

そして、超古代の光を継ぐ者として、人知れず巴里を守り続けて来た少年。

その彼が、絶望という名の闇に押し潰されようとしていた。

 

「………ダイゴさん?」

 

そっと扉を開け、名前を呼ぶエリカ。

しかし真っ暗な部屋から返って来たのは、不気味なまでの沈黙だった。

 

「ダイゴさん?」

 

もう一度名前を呼ぶ。

すると、今度は返事が返って来た。

 

「………エリカさん………。」

 

以前のキリエロイドの時よりも憔悴した声。

ダイゴは医務室のベッドの上で、焦点の定まらない目でエリカを見ていた。

かなり長い間一緒にいたにも関わらず、その姿は別人のように見えた。

 

「ダイゴさん、貴方が闇の巨人だなんて嘘です………。」

 

ベッドに腰掛けたエリカは、優しくダイゴの手に自分の手を重ねた。

ダイゴの手は、死人のように冷たかった。

 

「あんなの嘘です。だってダイゴさん………、私達の事を何度も守ってくれたじゃないですか。」

 

少しでも元気づけようと、ダイゴを励ますエリカ。

しかし、ダイゴの口から返って来たのは、酷く無感情で後ろ向きな言葉だった。

 

「もういいよ………、エリカさん………。」

 

「ダイゴさん………。」

 

エリカは思わず悲しそうな目でダイゴを見つめた。

こんなに苦しんでいるダイゴを見るのは初めてだった。

光と信じていたティガが、巴里に仇成す存在だった事が、未だに受け入れられないのだ。

そんな彼を助けてあげられない自分を、エリカは嫌いになった。

辛く悲しい心。

しかし、ダイゴが今の自分以上に苦しんでいる事を、エリカは知っていた。

 

「ダイゴさん………、これだけは分かって下さい………。」

 

返事を返さないダイゴに、エリカは淡々とした口調で続けた。

 

「ティガの力が光でなくても、エリカは………。」

 

そこまで口にした時だった。

エリカは、何かが自分にしがみつくのを感じた。

 

「え………?ち、ちょっと、ダイゴさん………?」

 

それは、先程まで無表情で俯いていたダイゴだった。

いきなり胸に顔を埋められ、真っ赤な顔で慌てるエリカ。

すると、エリカの耳に嗚咽の混じった声が聞こえて来た。

 

「………エリカさん………。」

 

それは、紛れも無くダイゴだった。

肩を震わせ、必死に涙を堪えているのが分かる。

 

「今でも………信じられないよ………。ティガが………、ティガが闇の巨人だったなんて………。」

 

あの公園の全てが幻ならどんなに良かっただろう。

あの黒い闇のティガが偽物なら、どんなに良かっただろう。

しかしあれは幻ではなく現実。

光だと信じ続けて来た巨人、ウルトラマンティガは、カミーラ達と同様闇の巨人だったのである。

 

「僕は………、僕は悪魔を蘇らせたんだ………。そして………、パリシィの封印を………。」

 

ダイゴのポケットから闇の証が転がり落ちた。

それは受け継いだ闇への恐怖か。

それとも超古代の封印を解いた事への贖罪か。

そのダイゴの心を示すように、スパークレンスは輝きを失い、暗黒の色に染まっていた。

ダイゴは、おそらくエリカが見てきた中で一番怯え、壊れかけていた。

エリカにはその姿が、まるで闇に呑まれるように見えた。

 

「僕は………、僕は光なんかじゃない………。3000年前に巴里を滅ぼした悪魔なんだ………!!」

 

今までにない様子で取り乱し、泣き叫ぶダイゴ。

エリカは、ダイゴの頭をそっと撫でながら語りかけた。

 

「ダイゴさん………。貴方は悪魔なんかじゃありません………。」

 

まるで聖母のように優しい声。

その全てを包み込むような温もりからか、ダイゴの震えが僅かにおさまる。

 

「神は申されました。信ずる者は救われると………。ティガは闇なんかじゃありません。だって、私達を何度も助けてくれたでしょう………?」

 

あの凱旋門に現れたティガは間違いなく巴里を守る存在であったし、デルニエとの最終決戦で見た黄金の巨人は正しく光の化身。

そのティガが、何故闇の存在と言い切れようか。

そうだと言える証拠は揃っている。

しかし、自分達が認めない限りティガは闇の巨人にはなりえない。

この状況において尚そう言える人物を一人、エリカは知っていた。

 

「エリカさん………、でも………。」

 

「ダイゴさん、諦めては駄目です………。私達が信じなければ、誰がティガが光の存在と言えるんですか?」

 

「エリカさん………。」

 

散々泣き腫らして真っ赤になった目が、エリカを見た。

その目に、聖母のように優しく暖かいエリカの微笑みが写る。

 

「ありがとう………、エリカさん………。」

 

ダイゴの瞳から、一粒の涙がこぼれた。

しかし、それは先程までとは違う涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その僅かな心の安らぎも、闇は許さなかった。

 

「キャアッ!?」

 

それは一瞬の出来事だった。

部屋の空気が冷たくなったと思った一瞬、エリカは凄まじい何かの衝撃に襲われたのだ。

 

「エリカさん!!」

 

床に倒れたエリカを抱き起こすダイゴ。

あまりの衝撃に気絶してしまったようだが、幸い呼吸は正常だ。

しかし、ダイゴは胸を撫で下ろす訳にはいかなかった。

何故なら視線の先に、公園で会った闇の悪魔が見えたからである。

 

「ダイゴ………。私達が目覚めた今、この街に安息などなくてよ?」

 

「カミーラ!!」

 

ダイゴは叫んだ。

大切なエリカを傷つけられ、激しい怒りを見せるダイゴ。

しかし、カミーラにとってのそれは、単なる福笑いでしかなかった。

 

「何を怒るの?貴女をたぶらかす女を始末しようというのに………。」

 

「そんな事………、させるものか!」

 

ダイゴは床に落ちたスパークレンスを拾い、握り締めた。

すると、カミーラはニヤリと笑って見せた。

 

「あら、それでどうするつもり?私達を蘇らせてくれるのかしら?」

 

「くっ………!!」

 

ダイゴは悔しさに顔を歪めた。

漆黒に染まったスパークレンスのクリスタルは、邪悪を示すかの如く黒い闇を孕んでいる。

まるで、力を解放させろと言わんばかりに。

もし力を解放すれば、カミーラ達の封印が完全に解かれ、巴里は今度こそ地獄に変わるだろう。

それを阻止するにはただ一つ。

スパークレンスを使わない事だけだった。

だが、カミーラがこの状況で自分達を見逃す可能性は低い。

虚像ですらシャン・ド・マルス公園を火の海にした程の力。

対抗出来ないダイゴには、成す術がなかった。

 

「ティガ………、私達を解放して頂戴。もう一度その血に染まった腕で、私を抱きしめて………。」

 

「黙れ!僕は………、僕は闇なんかじゃない!!」

 

「ウフフ………、それなら今貴方を殺してもいいのよ?その娘と一緒にね。」

 

カミーラが悍ましい笑顔を見せた。

その恐ろしさに、ダイゴはハッと後ろに庇ったエリカに目を向ける。

今の自分は完全な無力。

もしカミーラがその気になれば、いつでも自分達を殺せるのだ。

ダイゴとエリカの命は今、カミーラの手の中にあった。

 

「ティガ………、一度だけチャンスをあげるわ。」

 

カミーラがまた笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………エリカ!エリカ、しっかりしろ!!」

 

エリカが目を覚ましたのは、それからしばらく経っての事だった。

 

「う………ん………?」

 

ゆっくりと目を開くエリカ。

するとその視界に、自分を心配そうに見下ろす仲間達の姿があった。

 

「良かった、気が付いたんだね………。」

 

意識を取り戻したエリカに、コクリコが安堵の表情で胸を撫で下ろす。

一方、状況を飲み込めないエリカに花火が説明した。

 

「悲鳴と激しい物音が聞こえて駆け付けたら、エリカさんが倒れていたんです………。」

 

「エリカ………、一体何があったのだ?」

 

グリシーヌに尋ねられ、エリカは先程この部屋で起きた一部始終を思い出した。

 

「そうだ!ダイゴさんが!!」

 

「ダイゴ?ここにはお前しかいなかったぞ?」

 

怪訝な表情でロベリアが答える。

すると、エリカの表情が一変した。

 

「そ、そんな………!まさかダイゴさん………、カミーラに………!?」

 

「カミーラ?」

 

それは気を失う一瞬手前、ダイゴが叫んだ名前だった。

一方、そのカミーラの存在を知らないコクリコは首を傾げる。

すると、ロベリアがピンと何かに閃いた。

 

「カミーラって、まさかシャン・ド・マルス公園の巨人の事か?」

 

「はい、そのカミーラです!」

 

エリカの言葉に、ロベリアはまずいといった表情で眉を寄せる。

何か悪い想像をした時の表情だ。

 

「緊急連絡!巴里華撃団隊員は、作戦司令室に集まって下さい!」

 

メルの報告があったのは、その時だった。

その報告に、ロベリアはますます眉間にシワを寄せて舌打ちをした。

 

「チッ、こりゃ厄介な事になるかもな………。」

 

「話は後だ。作戦司令室に急ぐぞ。」

 

グリシーヌの言葉に、残る四人は同時に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、全員揃ったね。」

 

作戦司令室に並んだ五人の顔を見渡し、グラン・マが確認した。

最も、一つだけ空席の椅子が残っていたが………。

 

「で、一体なんだってんだ?」

 

ロベリアはあくまで冷静に尋ねた。

緊急連絡が入った時点で大体の予測はついていたが、隊長代理の自分が冷静さを欠く訳にはいかないからだ。

最もロベリアにしてみれば、この程度の事で動じるのは自分らしくないという思いもあるのだが。

 

「分かってると思うけど、ダイゴの行方が分からなくなった。」

 

果たしてグラン・マの口にした内容は、ロベリアの予測と全く同じものだった。

その言葉に、隊員達の表情は僅かに暗いものに変わる。

 

「やっぱり、カミーラって奴の仕業なのかな?」

 

医務室でのエリカの言葉を思い出し、コクリコが呟いた。

エリカを気絶させた正体がカミーラなる人物ならば、そのままダイゴを捕まえたと考えるのが道理だ。

すると、唯一医務室での出来事を知らないグラン・マが尋ねた。

 

「カミーラ?一体誰の事だい?」

 

「実は………。」

 

エリカは先刻自分の身に起きた出来事をかい摘まんで説明した。

すると、グラン・マの厳しい表情が焦りを含んだものに変わった。

 

「なるほど………、もしかすると厄介な事になるかも知れないね………。」

 

「アンタもそう思うかい?」

 

グラン・マの危惧を読み、ロベリアが口を開いた。

 

「お二人共、何か考えがおありなのですか?」

 

花火の問いに答えたのは、ロベリアだった。

 

「ああ。カミーラとかいう女が犯人なら、奴はダイゴを狙っていた。それ以前に公園で、ダイゴは闇の巨人に変身した。つまり………。」

 

「カミーラとやらも闇の巨人の一人という事か………!」

 

ハッとした表情のグリシーヌに、ロベリアは黙って頷いた。

シャン・ド・マルス公園を火の海に変えた三人の巨人。

その内の一人がカミーラであるならば、同じく闇の巨人だったティガを狙い、ダイゴの元へ現れたと推測できる。

しかし、一つ謎があった。

 

「ですがカミーラが闇の一派だったとして、何故ダイゴさんが必要なのでしょう?」

 

それを口にしたのは花火だった。

これまでの仮説が正しいとして、何故敵は今になってダイゴを必要としているのか。

すると、作戦司令室の入口から声が聞こえて来た。

 

「その答えなら、既に出ているよ。」

 

そこにいたのは、巴里華撃団凱旋門支部長の迫水だった。

意外な人物の登場に隊員達が驚く中、グラン・マだけは笑顔を見せた。

 

「待っていたよムッシュ迫水。………で、奴らのアジトは分かったかい?」

 

奴らとは言う間でもなくカミーラ達だろう。

迫水はグラン・マの依頼を受け、カミーラ達の実体が封印された場所を探していたのである。

 

「我々の予想が正しければ………、カタコンベでしょう。」

 

「カタコンベ!?」

 

「それって、確かティガが石像になってた場所だよね!」

 

迫水の言葉に、エリカが驚きの表情を見せた。

カタコンベはかつて、ティガの石像が安置された地下神殿に繋がる地下遺跡である。

迫水もエリカの驚いた理由を理解しているらしく、頷いて見せた。

 

「その通りだ。ティガが安置された場所の先は、予言書の内容と一致する。」

 

カミーラ達が予言書にある封印された闇の存在である事は、迫水も既に見破っていた。

それと同時に、迫水はキリエロイドの古文書と予言書の二つの内容から、ある一つの予測を立てていた。

 

「予言書には、ティガが自らの魂を以って闇を封印したとある。そしてティガの石像は、巴里の海岸付近にあった。つまり………。」

 

迫水が言い終わらぬ内に、今度はグラン・マが驚きの表情を見せた。

 

「まさか、『ルルイエ』かい!?」

 

「『ルルイエ』………?」

 

「初めて聞くな。一体何の事だ?」

 

初めて耳にする言葉に首を傾げる巴里華撃団。

すると、グラン・マは二つの本を取り出した。

 

「巴里の近海にある、超古代都市さ。予言書にある闇の巨人伝説が終わりを迎えた地だよ。」

 

超古代都市ルルイエ。

それは遥か3000年の昔、闇から光に転じたティガが最後に闇と戦った決戦の地だった。

そこへの入口を塞ぐように安置されたティガの石像。

闇を封印したのがティガならば、確かに納得できる。

 

「そして、古文書の通りキリエロイドの封印が解け、闇の巨人は不完全ながらも復活した………。」

 

「なるほど。ダイゴを利用してティガの封印を解き、もう一度巴里を乗っ取ろうって訳か。」

 

グラン・マに続いてロベリアが発した言葉が、全てを意味していた。

キリエロイドの封印が無くなった今、カミーラ達を束縛しているのはティガの封印のみ。

その解放が目的ならば、ダイゴを狙う事にも納得出来た。

 

「それじゃ………、急がないとダイゴさんが………!」

 

エリカが不安げに言った。

ティガの封印を解く術は知らないが、もしかしたらダイゴの命をも危険に曝すかも分からない。

一刻も早くルルイエに乗り込み、ダイゴを救出しなければならなかった。

しかし出撃しようとした時、グラン・マが不意に隊員達を止めた。

 

「ちょいとお待ち。まだ話してない事があるんだよ。」

 

「どういう事だ?」

 

けだるげにロベリアが言うと、今度は迫水が口を開いた。

 

「賢人機関からは既に出撃許可が出されている。しかし、条件が付与された。」

 

喜ばしくない条件なのか、迫水の表情が曇った。

そしてこの直後、花組は迫水以上に表情を曇らせる事になる。

 

「賢人機関の命令は、闇の巨人復活の阻止だ。従って、ダイゴ君の救出は明示されていない。」

 

「何………?向こうは何が言いたいのだ?」

 

「つまり………、場合によってはダイゴを殺せって事さ………。」

 

「ええっ!?そ、そんな………!!」

 

グラン・マの言葉に、花組はトンカチで殴られたようなショックを受けた。

ウルトラマンティガの正体が巴里華撃団隊員、ダイゴ・モロボシである事は賢人機関にも知られ、トップシークレットとして扱われている。

そのため、ダイゴが闇に転じる事を予期した一部の人間が、ダイゴを抹殺する事でカミーラ達の復活を阻止しようと考えていたのである。

 

「出撃する事は、その命令を受ける事になる。覚悟は出来てるだろうね………?」

 

巴里華撃団は、基本として賢人機関の命令に動く。

出撃するという事は、賢人機関の下した命令を受けるという事。

つまりそれは、ダイゴの抹殺も含まれていた。

 

「………覚悟なんて必要ありません。」

 

僅かな沈黙の後、最初な答えたのはエリカだった。

 

「だって、ダイゴさんは絶対闇に転じたりしませんから!」

 

「エリカ………。」

 

エリカの発言にかつての黒髪の貴公子を想起し、目を見開くグラン・マ。

すると、残る四人もエリカに続いた。

 

「エリカの言う通りだ。ダイゴは私達の大切な仲間。戦う余地などない!」

 

「そうだよ!ダイゴならきっと大丈夫だよ!」

 

「私達………、ダイゴさんを信じていますから………、ぽっ。」

 

「あいつ殺した所でボーナスなんかねぇだろうが。お断りだね。」

 

確固たる根拠は何処にもない。

しかし、五人の表情はダイゴへの信頼と確信に満ちていた。

覚悟など必要ない。

ダイゴと戦う事など絶対にないのだから。

その表情に、グラン・マも迫水も何故だか安心出来た。

 

「それでこそ巴里華撃団だよ。さあ、行っといで!」

 

グラン・マの言葉に、隊長代理のロベリアが叫んだ。

 

「巴里華撃団花組、出撃!カミーラ共を地獄に送ってやるよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、まるで異世界のような空間だった。

暗闇に覆われた洞窟の中に、自分の足音だけが不気味に響く。

 

「………。」

 

ここに初めて訪れた時から、もう半年近くになるだろう。

かつてティガの石像が安置された場所で、ダイゴはそう思った。

石像のあった場所からは、以前はなかった通路が開いている。

ダイゴには、それが奈落に通じる地獄の門に見えた。

この奥に、鬼や悪魔より恐ろしい者がうごめいている。

通路に入るや、周りの湿っぽい空気は凍り付くような冷たさに変わった。

まるで、一度入れば二度と出られないような恐ろしさ。

ダイゴは改めて、身震いした。

 

「エリカさん………。」

 

愛しい天使の名を呟き、ダイゴはゆっくりと闇の中へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、巴里華撃団の姿は巴里の地下、カタコンベにあった。

エリカの案内でティガの石像が安置された場所まで移動し、五人は目の前に広がる奈落の入口に目を向けた。

 

「なるほど………、自らは入口を封印していたのか………。」

 

ティガが3000年もの間守り続けて来たルルイエの入り口。

そこはキリエロイドの封印が解けたためか、大きな穴が空いている。

カミーラ達の存在を知ったせいもあるかも知れないが、まるで何か恐ろしい怪物が飛び出して来るかのような緊迫感があった。

 

「さて、いよいよ奴らの監獄に殴り込みだな。」

 

これから始まるだろう激闘を前に、武者震いするロベリア。

その一方、エリカは祈るように目を閉じた。

 

「(ダイゴさん………。私も今行きます。だから………、無事でいて下さい………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来たようだな。」

 

暗闇の中、低い声が響いた。

それと同時に、今度は挑発的な声が返事を返す。

 

「ヒャハハハ!ホンット懲りねぇ奴だぜ。なぁ?」

 

「フフフ………、こうでなくては面白くないわ。」

 

グレゴールの言葉に冷たい笑みを返し、カミーラは手を翳した。

すると、目の前の空間が歪んでテレビ画面のように巴里の光を写す。

 

「メインディッシュには、前菜が必要よね?フフフ………!!」

 

冷酷な顔で笑うカミーラ。

やがて、暗闇の中を哄笑が包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超古代都市ルルイエ。

3000年の長きにわたりカタコンベの最奥にて封印され続けて来た、闇の住まう忌まわしき決戦の地。

その戦いの時から時間が止まっていたかのように、通路内は身の毛もよだつような焦気に包まれていた。

まるで、あの通路を境に自分達が3000年前にタイムスリップしたかのようだ。

 

「………何だか、別の世界に来たみたいだね。」

 

それまで無言で歩いていた五人の中で、最初に沈黙を破ったのはコクリコだった。

すると、真後ろの花火が返事を返した。

 

「やはり封印されたためか、当時の名残が色濃く残っていますね………。」

 

地底に埋没しているだけあって中は洞窟のようになっていたが、よく目を凝らすとそこらかしこに当時の文化を思わせる古い建造物の跡が見受けられた。

遠い昔、自分達の祖先が住んでいた場所。

そして、カミーラ達三人の巨人を始めとする闇の襲撃に滅んだ場所。

懐かしさと悲しみが混ざり合い、複雑な感情が胸に渦巻く。

花火にはそれが、超古代の祖先からの警告のように思えた。

まるで、これから先に進む自分達を止めるかのように。

しかし、そんな感情に浸っていられる時間は長くはなかった。

 

「皆さん、注意して下さい!」

 

「前方より、強力な妖力反応がありますぅ!!」

 

メルとシーの通信が終わらない内に、暗闇の奥で何かが光った。

 

「気をつけろ!何かいるぞ!!」

 

先頭のグリシーヌが、斧を構えつつ叫んだ。

それと同時に、洞窟内の焦気は殺気へと変わる。

 

「あ、あそこ!!」

 

コクリコが暗闇の一点を指差した。

すると、程なくして暗闇の中から一つの影が現れた。

 

「キキキ………!!」

 

それは、光武F2より一回り小さい小怪獣だった。

赤い両目を光らせながら、ジリジリとにじり寄って来る。

 

「ハン、たった一匹でアタシらとやろうってのか?」

 

爪をちらつかせてロベリアが呆れた表情を見せる。

しかしその時、モニターのシーが叫んだ。

 

「そいつだけじゃありません!他にも一杯いるみたいですぅ!!」

 

「今現れた怪獣一体の妖力と比較すると………、に、二千倍!?」

 

手元の装置が割り出した結果に驚くメル。

すると、その言葉を実証するように次々と怪獣が暗闇から姿を現し始めた。

一体の妖力は全体の二千分の一。

つまり………。

 

「なるほど………、二千匹の襲撃って訳かい。」

 

ロベリアの言葉が全てを物語っていた。

おそらくは自分達がこうして乗り込んで来る事を見越したカミーラの仕業だろう。

二千匹という膨大な数の怪獣を、足止めのために差し向けたのである。

 

「どうする?無傷で倒せる相手ではないぞ?」

 

いくら百戦錬磨の巴里華撃団て言えども、400倍の数の敵を一ひねりには出来ない。

加えて自分達は怪獣殲滅ではなくダイゴの救出に来ている。

こんな所で無駄に時間を喰っている場合ではなかった。

 

「………。」

 

ロベリアは黙ったまま、確実に状況を分析した。

幸いにも正面からぶつかる必要性はない。

何故ならこれまでの道のりで、無数に枝分かれした通路があったからだ。

光武F2一機で精一杯の大きさのものがほとんどだが、上手くやれば敵を撒く事が出来るかも知れない。

しかし、ロベリアには不安があった。

それは、あの無数の穴を使う事を相手が狙っている事だった。

わざわざ一カ所に集まってみんなで逃げるような事はしない。

複数いる時はそれぞれバラバラに逃げて撹乱させるのが定石というものだ。

しかしカミーラがそれを想定し、更に手を打っていた場合、自分にはそれを覆す自信がなかった。

何故ならバラバラになる事で、統率が取れなくなる事だ。

自分や花火、コクリコ辺りはそこまで考えてくれるかも知れないが、残るエリカとグリシーヌに至っては、一人にするのは危なかった。

グリシーヌは無謀に挑むだろうし、エリカは気付きもしないだろう。

二千匹の攻撃をかい潜り、離れた仲間に指示を出すのは正に至難の業だ。

だからと言って、正面から敵にぶつかるのも無謀の極みだった。

二千匹に対してこちらは四人。

しかも相手の力量も見当がつかない。

そんな状態で無謀に挑むような事、出来るはずがない(一人やりそうな人物はいるが)。

 

「どうします、ロベリアさん?」

 

不安げな表情でエリカが尋ねた。

すると、ロベリアは僅かに目を閉じて考えた後、命令を出した。

 

「よし………、五つに別れて奴らを撒く!いいか?レーダーの範囲より遠くに逃げるんじゃねぇぞ!!」

 

「「了解!」」

 

ロベリアの指示で、五つの光武F2は一斉に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待っていたわ、ティガ。」

 

「………。」

 

実際に顔を合わせての第一声に、ダイゴは沈黙を返した。

恐ろしいくらいに殺意が満ちた笑い。

それに笑顔を返す気には、到底なれなかった。

 

「フフフ………、強がりはおよしなさい。貴方は所詮殺戮の使徒。断末魔の宴に酔いしれたあの日々を、忘れたというの?」

 

「カミーラ………。」

 

夢に見たそのままの人間体で話す彼女に、ダイゴは無表情の視線を送った。

すると今度は右側の屈強な大男、ギガンテスが口を開いた。

 

「あくまでかりそめの光に縋るつもりか?モン・アーミー。」

 

「ヒャハハハ!!分かんねぇ奴だなティガ。人間共をなぶり殺すあの快感、お前も病み付きだったじゃねぇか。」

 

幼い表情に似合わず恐ろしい事を口にするグレゴール。

ダイゴは必要以上に言葉は返さず、三人の闇を静かな様子で見た。

 

「………僕はお前達を解放するつもりはない。」

 

「あら、こうして一人で来たのに?」

 

「お前達が言い出した事だろう!」

 

ダイゴは怒声を浴びせた。

すると、カミーラはダイゴの様子を楽しむように笑って見せた。

 

「凛々しい声………。器が変わっても、その声と佇まいは変わらないのね。」

 

「………。」

 

ダイゴは答える代わりに、懐のポケットから闇の証となった超古代の彫刻、スパークレンスを取り出した。

今や光を失ったクリスタルは、闇に溶け込むような漆黒の色に染まっている。

 

「ティガ………、これが最期のチャンスと言ったはずよ?」

 

見透かしたようなカミーラの視線に、ダイゴは思わず戦慄した。

事実、カミーラは見抜いていた。

ダイゴが要求を呑み、一人でルルイエに赴いた本当の理由を。

 

「フフフ………、かつて身も心も分け合った私に嘘が通じると思って?私には見えるわ。貴方の胸に微かに残る、忌まわしき光が!」

 

カミーラがダイゴの胸を指差して凄んだ。

刹那、周りの空気が冷たく震える。

カミーラがダイゴに要求した事。

それは一人でルルイエに来て、彼女達の封印を完全に解放する事だった。

ダイゴは要求通りに一人で来た。

しかし、その目的はカミーラ達の解放などでは決してなかった。

ダイゴがルルイエに来た真の目的。

それは、スパークレンスを通じて自らの中に残る全ての光を解放し、自分諸ともカミーラ達を再封印する事だったのである。

 

「それにティガ。今ルルイエを再封印したら、貴方の大切な女の子達が闇に囚われるのよ?それでも良いのかしら?」

 

「なっ………!?」

 

ダイゴの目が驚きで見開かれた。

カミーラの言葉で脳裏を過ぎった五つの顔。

まさか………。

 

「ダイゴっ!無事か!?」

 

その一人が現れたのは、ちょうどその時だった。

身の丈はある巨大なバトルアクスを手に勇躍する、海を想起させるマリンブルーの機体。

その機体から聞こえる覇気溢れる声は、聞き違いなどではない。

 

「グリシーヌ!どうして!?」

 

「それはこちらの台詞だ!ダイゴ、何故一人でこんな無謀な真似をした!?」

 

戸惑うダイゴに、グリシーヌが叫び返した。

 

「私達は仲間であろう!?助けるのは当たり前だ!」

 

「グリシーヌ………。」

 

助けに来てくれた事への嬉しさと、自己犠牲的な行動に走った自分への後悔で、ダイゴは胸打たれた。

しかし、それも直後の冷笑で消えた。

 

「フフフ………。高がパリシィ一人ごときが、私達とやろうというの?」

 

「貴様らか。ダイゴをたぶらかした外道は。」

 

カミーラの表情に臆する事なく、グリシーヌはバトルアクスを突き付ける。

そう、かつて花火やエリカを傷付けたコルボーに見せた時と同じ怒りがそこにあった。

 

最も、今回ばかりは流石に相手が悪すぎるが。

 

「オイオイオイ、俺達ゃ正真正銘ティガの仲間なんだぜ?言い掛かりは止めてもらおうか!?」

 

「待ちなさい、グレゴール………。」

 

抑え切れない殺人の衝動に駆られる仲間を抑え、カミーラが口を開いた。

 

「………仕方ないわね。方法を変えましょう。」

 

そう言ってカミーラは指を鳴らした。

すると、目の前にいたはずの三人が一瞬の内に消え失せてしまったのである。

 

「き、消えた………!?」

 

「臆病者め、逃げるつもりか!!」

 

戸惑うダイゴを庇いながら、グリシーヌが吠える。

すると、闇に閉ざされた虚空から冷たい笑い声が聞こえて来た。

 

「高々パリシィ一人、私達が手を出す間でもないわ。こいつらが遊んでくれるわよ?」

 

直後、目の前の闇から無数の赤い目が現れた。

否、それは目ではなかった。

 

「か、怪獣!?」

 

「しまった………。今の騒ぎでおびき寄せられたか………!」

 

バトルアクスを構えつつ、グリシーヌが悔しげに顔を歪めた。

目の前には、先程巴里華撃団を強襲した怪獣軍団の一部が犇めいていたのである。

 

「フフフ………我らが闇の下僕、暗黒怪獣ギアクーダ。その目障りなパリシィを始末なさい。」

 

「グガァッ!!」

 

カミーラの言葉に、無数のギアクーダが一斉に吠えた。

その瞬間、身の毛もよだつ闇の力が波動となって押し寄せ、目の前の空間を歪ませる。

そして何事もなかったように元に戻った空間に目を向け、二人は驚きに目を見張った。

 

「なっ………!?」

 

何と、無数にいた赤い目の怪獣は忽然と姿を消し、代わりに一体の巨大な怪獣が二人を見下ろしていたのである。

暗黒怪獣ギアクーダの真の姿が、そこにあった。

 

「フフフ………ギアクーダ、その女を殺し、ティガを闇に導きなさい………。」

 

「グガァァァッ!!」

 

カミーラの声が終わらない内に、ギアクーダはグリシーヌに襲い掛かって来た。

 

「面白い!ブルーメール家の名において、成敗してくれる!!」

 

グリシーヌも臆する事なく、バトルアクスを振るった。

巨大な腕の一降りをかわし、闇に映える銀色の刃がギアクーダの漆黒の皮膚に食い込む。

しかし、バトルアクスが深々と食い込んだにも関わらず、ギアクーダは平然とした様子で反撃を仕掛けて来た。

 

「グガァッ!!」

 

「くっ………!?」

 

重い一撃がたたき付けられた。

持ち手から手が離れ、光武F2は勢い余って後ろの壁に激突する。

 

「グリシーヌ!!」

 

ダイゴが叫んだ。

すると、片膝をついた光武F2からハッキリとした声が聞こえて来た。

 

「心配いらぬ。この程度でくたばるグリシーヌではない!」

 

降り懸かる土砂を払い、グリシーヌは立ち上がった。

 

「グガァッ!」

 

それに気付いたギアクーダが、バトルアクスを投げ捨てて再び襲い掛かって来た。

グリシーヌも素手でギアクーダに立ち向かう。

しかし体格差や力の度合いから、光武F2はギアクーダに押され始めた。

 

「くっ………!!」

 

ルルイエに漂う闇の力を吸収し、凄まじい力で押さえ込むギアクーダ。

かつてのパリシィ怪人レオンを超えるパワーに、グリシーヌは圧倒された。

 

「(どうすればいいんだ………!?このままじゃグリシーヌが!!)」

 

戦況が一方的に悪くなる中、ダイゴは必死に頭を働かせた。

以前の自分なら、迷わずスパークレンスを翳し、ティガに変身しただろう。

しかし、ティガが光を失った今の状態でスパークレンスを使う事は、ダイゴには出来なかった。

今のティガは闇………。

その力を解放する事は、文字通り自分が闇に堕ち、カミーラ達の封印を解いてしまう事を示していたからだ。

 

「フフフ………。ティガ、その女を見殺しにするつもり?」

 

虚空に再びカミーラの声が響いた。

 

「スパークレンスを使いなさい。そうすれば、貴方は苦しまずに済むのよ?」

 

「聞くな、ダイゴ!!」

 

ギアクーダを必死に押し戻しながら、グリシーヌが叫んだ。

その言葉に、ダイゴはハッとしてグリシーヌを見る。

 

「そのような言葉はまやかしだ!そなたに変身させずとも、私達が守って見せる!!」

 

「グリシーヌ………。」

 

「ダイゴ………、私達は信じている!そなたには何人も犯す事の出来ぬ光がある事を!」

 

グリシーヌの言葉に一瞬、ダイゴは胸の中の何処かに光が差し込むような暖かさを感じた。

 

「………。」

 

ダイゴはポケットに眠るスパークレンスを手に取った。

本来の姿とも言うべき闇に変わった彫刻。

しかし、輝きを失ったはずのクリスタルに残る僅かな光を、ダイゴは見た。

 

「ティガ………。」

 

一瞬目を閉じ、ダイゴは決意の表情で闇の彫刻を構えた。

 

「ダイゴ!?」

 

ギアクーダと膠着状態にあったグリシーヌが、ダイゴの異変に気付いた。

その手に握られた彫刻には、ギアクーダとは比較にならない強さの闇がうごめいている。

 

「さあティガ!その美しい暗黒の姿を見せて!!」

 

「僕は………、僕は………!!」

 

カミーラの声色が喝采に変わった。

それに応えるかの如く、ダイゴはスパークレンスを時計周りに回転させ、闇の虚空に掲げる。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティガーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパークレンスは唸りを上げ、秘められし闇の力を遂に解き放った。

クリスタルから湧き出る暗黒の焦気が、ダイゴの身体を包み込む。

 

「さあティガ、目覚めなさい!!」

 

カミーラが叫んだ。

それと同時に黒い霧が晴れ、中から一体の巨人が姿を現した。

 

「ダ………、ダイゴ………!!」

 

その一部始終を目の当たりにし、グリシーヌは信じられない様子でダイゴの名を呼んだ。

乳白色の双眼と胸に輝く空色のカラータイマー。

しかしその身体は闇を想起させる漆黒そのもの。

正しく『闇の巨人』。

カミーラと同じ、遥か3000年前に巴里を滅ぼさんとしたウルトラマンティガ真の姿がそこにあった。

 

「グガァッ!!」

 

「くっ、しまっ………!!」

 

すぐ近くで咆哮が上がった直後、光武F2は凄まじい衝撃と共に後ろに吹き飛ばされた。

土砂に半身が埋まった身体から、バチバチと火花が散る。

 

「くっ………!!」

 

激しい衝撃による痛みに耐えながら、グリシーヌはモニターに目を向けた。

幸いカメラは破壊されていないらしく、モニターにはノイズ混じりにギアクーダとその後ろに立つ漆黒の巨人が写っている。

 

「フフフ………、アハハハハ!素敵よティガ!3000年前に殺戮に酔いしれた、あの時のままだわ!!」

 

歓喜に震えたカミーラの声が響く。

その中で、漆黒の巨人ティガはゆっくりと視線をグリシーヌに向けた。

 

「ダイゴ………、目を覚ませ!私達と共に戦った日々を忘れたのか!?」

 

「………。」

 

グリシーヌの叫びに、ティガは無言を返した。

その代わりに胸に手を当て、闇の力を具現化した槍を生み出した。

ダークレイランス………

かつて闇に転じたイーヴィルティガも使用した、ティガ本来の光線技だ。

 

「さあティガ、貴方の勇姿をもう一度見せてちょうだい!」

 

興奮した様子でカミーラが叫んだ。

すると、ティガは漆黒の槍を逆手に持ち、大きく後ろに振りかぶった。

 

「ダイゴっ!!」

 

グリシーヌの必死の叫びも虚しく、ティガの手から槍が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

「グガァッ!?」

 

「!?」

 

その一瞬、グリシーヌは何が起きたのか分からなかった。

確かにティガは自分目掛けてダークレイランスを放ったはず。

しかし、漆黒の槍が突き刺さって悲鳴を上げているのは、自分ではなかった。

 

「グガァァァ………!!」

 

その場にいる誰もが信じられなかった。

ティガはパリシィの血に染まった呪いの槍を、グリシーヌではなくギアクーダに突き刺したのである。

まるで、3000年の忌まわしき過去と完全なる決別を示すかのように。

 

「ど、どういう事!?ティガ、何故あの女を攻撃しないの!?」

 

初めてカミーラが慌てた。

無理もない。

ようやく蘇ったと思ったかつての恋人が、目の前で仲間を手にかけたのだから。

 

「カミーラ………、言ったはずだ。僕は闇ではないと………。」

 

動かなくなったギアクーダの骸を前に、ティガが言葉を返した。

闇でこそあれその姿は、以前と何ら変わらない。

ティガは闇の力を解放して尚、心はダイゴのままだったのである。

それは、目の前に立つ仲間が教えてくれた光だった。

 

「グリシーヌ………、ありがとう。」

 

光も闇も関係ない。

グリシーヌの何物にも揺るがぬ『正義』の信念が、ティガの心に僅かな光を燈したのだ。

 

「そう………。ティガ、あくまで私達に盾突くつもりね?」

 

虚空に響く声が、俄かに殺気立った。

 

「いいわ。なら私達がそのかりそめの光を塗り潰してあげる。」

 

「ほざけ!貴様らごときに屈する巴里華撃団ではないわ!!」

 

バトルアクスを拾い上げ、猛然と言い返すグリシーヌ。

しかし、カミーラにとっては虚仮威しにもならなかった。

 

「フフフ………、だったら残りの女共の首を上げてやるわ。そうすればティガも目が覚めるでしょう?」

 

「何………!?」

 

その言葉にグリシーヌはハッとした。

先程自分達はギアクーダの襲撃を受けてルルイエ内に散り散りになっている。

もしも孤立した今の状態でカミーラ達の総攻撃を受けようものなら、いくら巴里華撃団と言えども一たまりもない。

急いで残る四人と合流しようとする二人だったが、それを阻む影が現れた。

 

「………ここから先に通す訳には行かん。」

 

それは闇の巨人の一人、ギガンテスだった。

人間体でも2メートルをゆうに超える巨体も手伝って、壮絶な威圧感と共にこちらを見下ろしてくる。

 

「フン!高が一人で我等の相手が務まるか!?」

 

やはり臆する事なくバトルアクスを構えるグリシーヌ。

ティガもまた、かつての仲間を相手に構えを取った。

 

「その懐かしい姿でも、心は闇に染まらんか………。悲しきかな、モン・アーミー。」

 

かつての仲間と戦う事への虚しさからか、ギガンテスは一瞬残念そうな表情を見せた。

が、すぐにそれを打ち消すと、懐から何かを取り出した。

それは、ダイゴと色違いの赤いスパークレンスだった。

 

「最後の情けだ。………私の手で殺してやろう。」

 

その言葉と共に、ギガンテスの身体が闇に包まれ、暗黒の巨人へと変化した。

胸と二の腕を守る頑丈な鎧。

かつてのパワータイプのティガを想起させる赤い身体。

そして、ティガのクリスタルに対抗するかの如く、額に輝くランプ。

3000年の時を経て蘇った闇の巨人、ギガンテスの復活だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

等身大のギアクーダを一匹爪で引き裂き、ロベリアは舌打ちした。

敵が多いからではない。

モニターに強い妖力反応があったからである。

自分達とは比べものにならない力が二つ。

その一つがダイゴだとしても、もう一つは間違いなくカミーラ達三人のいずれかという事になる。

 

「レーダーから外れていないのが幸いしたな………。」

 

二つのすぐ近くに光武F2の反応もある。

おそらくギアクーダの襲撃を逃れた仲間の誰かだろう。

なんにせよ気付いたからには、助けに行く必要があった。

 

「ったく、面倒くせぇ事になりやがった………。」

 

また一匹ギアクーダを始末し、ロベリアは妖力反応のある地点を目指して一直線に突き進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剛力のギガンテス。

かつて大地を砕くその剛腕で、数多の命を叩き潰して来た闇の巨人。

3000年の月日を経て尚、その怪力が衰える事はなかった。

 

「デュワッ!」

 

巨体を活かしてのショルダータックル。

ティガは間一髪横に飛んでそれをかわす。

目標を失ったギガンテスの巨体は、洞窟の外壁に深々と減り込んだ。

 

「チャッ!」

 

こちらを見るギガンテスに、ティガは再び立ち上がって構える。

すると、ギガンテスは真正面からティガに攻撃を仕掛けて来た。

 

「ナァッ!!」

 

「ハッ!」

 

右からのパンチを的確に避け、すれ違い様に腹部に左パンチを叩き込む。

しかし、ギガンテスは全く動じなかった。

 

「………その程度か?」

 

「なっ………!?」

 

確かに隙を突いて打ち込んだはずの一撃。

それをギガンテスは、容易く耐えて見せたのである。

 

「オォォォ………!!」

 

ギガンテスはティガの拳を掴むと、凄まじい力で握りしめた。

怪力に押し潰され、たちまちティガの拳がメリメリと音を立て始める。

 

「ナァッ!!」

 

「ジュワッ!?」

 

ギガンテスが軽く振り払うようにティガを投げ飛ばす。

ティガの身体はまるで紙屑のように地面にたたき付けられた。

かつてのイーヴィルティガを想起させる巨人同士の激しい戦い。

その激闘でいち早く優勢に立ったのは、ギガンテスだった。

 

「何と言う怪力だ………。ティガがまるで玩具ではないか………!」

 

目の前の戦いを目の当たりにして、グリシーヌが驚きを口にした。

同じ背丈にも関わらず、ギガンテスはティガを片手で軽々と持ち上げている。

その腕力は、パワータイプのティガですら霞む程だ。

しかし意外な事に、優勢に立っていたはずのギガンテスも笑ってはいなかった。

 

「弱い………。いつからそこまで力を落とした、モン・アーミー。」

 

「チャッ………!!」

 

立ち上がったティガは、ギガンテス目掛けて飛び蹴りを放った。

しかし、ギガンテスは直立状態のままティガのキックを弾き返した。

 

「デュワッ!」

 

それだけではない。

ギガンテスはティガの足を掴んで持ち上げ、背中から地面にたたき付けたのである。

 

「愚かな。相反する光の心を持つ者が、闇の力を操れる訳がない。」

 

哀れむような口調で、ギガンテスが呟いた。

いくらギガンテスが強力な闇の巨人と言えど、それと同列にあったティガがここまで苦戦するはずがない。

それでは何故ここまで両者の戦闘力に差が生じているのか。

その答えは、ダイゴの胸にある正義の信念だった。

少なくとも今のティガは、ルルイエに漂う闇の力をエネルギーにしている。

当然、その力は闇。

しかし3000年前でこそ鮮血のティガとまで言われた闇の巨人であったとしても、今のティガは正義という僅かな光の心で戦っている。

その光が相反し、ティガは闇の力を完全に操る事が出来ないのである。

 

「ハッ!」

 

それはダイゴ自身も分かっていた。

しかしそれでも、ダイゴは信じたかった。

ティガが今までのように、巴里を護る光の巨人だと。

 

「ナァッ!!」

 

ギガンテスの剛腕がティガを殴り飛ばした。

ティガの身体が再び地面に落ち、激しい衝撃が砂煙となって吹き荒れる。

 

「くっ………!!ダ、ダイゴ!?」

 

砂塵に視界が遮られる中、グリシーヌが叫んだ。

しかし砂塵の先に広がる光景に、グリシーヌは声を失う事となった。

 

「!!」

 

何と、ティガは首から下が地面に埋め込まれ、身動きが取れなくなってしまったのである。

 

「ぶざまだな………。」

 

真上からティガを見下ろし、ギガンテスが蔑んだ視線を向ける。

 

「何故だ………!?」

 

絶体絶命の状況の中、ティガが問い質した。

 

「何故お前達は、この巴里を襲う………!?」

 

「全ては、お前が望んだ事だ。モン・アーミー。」

 

「何………!?」

 

眉をひそめるティガを尻目に、ギガンテスは続けた。

 

「巴里という名の街を破壊し、パリシィという名の命を滅する。………それが我々の戦う理由だ。」

 

その時、ギガンテスの額にある緑色のランプが光った。

 

「最もティガ。それを一番に望んでいたのがお前だったのだがな。」

 

「くっ………!!」

 

ギガンテスの攻撃は分かっているが、身動きが取れない以上かわしようがない。

やがて膨大な闇の力が、ギガンテスの額に集まる。

 

「心配せずとも、他の奴らもすぐに始末してやろう。」

 

額のランプに闇の力を集中し、足元のティガに狙いを定めるギガンテス。

しかし、その光線の発射は叶わなかった。

 

「何勝手に決めてんだよ。馬鹿だからか?」

 

ランプから光線が発射されようとした時だった。

聞き覚えのある声と共に、何かが洞窟内を跳躍してギガンテスに襲い掛かったのだ。

闇に溶け込む死神のような姿。

それは、巴里華撃団副隊長の姿だった。

 

「ようダイゴ。何遊んでんだ?」

 

「「ロベリア!!」」

 

絶妙なタイミングでの登場に、二人は同時に驚きの声を上げる。

一方のロベリアは、呆れた様子で言葉を返した。

 

「言ったろ?今度はアタシに譲れって。何度もボーナスを横取りするんじゃないよ。」

 

「フッ、そなたも相変わらずだな。」

 

昔なら「仲間の危機に何を呑気な事を」と言い返しただろうが、今では本心が分かっているグリシーヌも笑顔を返す。

それに無言で笑うと、ロベリアは改めてギガンテスを見た。

 

「………で、アンタかい?最初にやって来た命知らずは。」

 

「随分と威勢の良い………。だが、この状況で危ないのはお前達ではないか?」

 

言うや、ギガンテスは額の光線をロベリア目掛けて発射した。

しかしその一瞬、ロベリアは地面に溶け込む事で難無く光線を回避して見せた。

 

「むっ!?何処へ隠れた!」

 

辺りを見渡すギガンテスだが、四方八方の何処にもロベリアの姿は見受けられない。

それもそのはず。

何故ならロベリアは、ギガンテスも気付かない地中深くに身を潜めていたからである。

 

「おい、いつまでこいつらと遊んでんだ?さっさとケリつけちまえよ。」

 

ティガの耳にロベリアの声が聞こえて来た。

 

「光の巨人なんて呼ばれたアンタも、随分堕ちたもんだね。あいつと同じ胸糞悪いオーラが漂ってるよ。」

 

あいつとはおそらくギガンテスの事だろう。

 

「ロベリア………。」

 

「勘違いすんなよ?アタシの仕事は奴らの復活を止める事だ。アンタを助ける事は仕事に入ってねぇ。」

 

いつもの調子で悪者らしい言葉を並べるロベリア。

しかし次に口にした言葉には、彼女の本心が如実に現れていた。

 

「だけどね、アンタを助けてやらないとボーナスが減額されちまうんだよ。」

 

無論ボーナス云々はロベリアの狂言だ。

本当はロベリアも、ダイゴを助けたかったのである。

 

「………、こ、これは………!?」

 

その時だった。

ティガは地面に埋まった自分の身体に、熱い何かが纏わり付くのを感じた。

 

「闇に堕ちたなら、アタシのように這い上がれ。アンタの闘志、アタシが燃え上がらしてやるよ!!」

 

ロベリアが言い終わらない内に、ティガは全身が燃え上がるように熱くなるのを感じた。

自分の中の何かが、熱く炎のように燃え上がっているような、そんな感覚だ。

 

「その前に殺してやる!!」

 

ギガンテスが大地を砕く一撃をティガに見舞った。

………だが、

 

「ハッ!」

 

信じられない事が起こった。

何とティガは頭を粉砕しかねない一撃を、両腕を交差させて防いで見せたのである。

 

「チャーッ!!」

 

それだけではない。

ギガンテスの拳を跳ね返し、地面から文字通り這い上がったのだ。

 

「ば、馬鹿な………。一体何故………!?」

 

後ろに吹き飛ばされたギガンテスが、僅かに驚きながらティガを見る。

すると、ティガの姿が先程とは違う事に気付いた。

 

「ティガ………、その身体は………!?」

 

それを口にしたのはグリシーヌだった。

ティガの身体には、深紅の炎が唸りを上げて巻き付いていたのだ。

ロベリアは地中で炎を放ち、ティガの全身に纏わせたのである。

やがてそれはティガの心の何かと共鳴し、熱き闘志となってティガに力を与えた。

言うなれば、『勝利』への闘志。

ロベリアの炎は、ティガの勝利への闘志を強く目覚めさせたのである。

 

「ンゥゥゥ………!」

 

ティガは両腕を顔の前で交差させた。

すると、全身の炎が更に唸りを上げる。

 

「ハッ!!」

 

額のクリスタルが赤く光った。

すると、ティガの全身を包む炎が漆黒の身体に赤い体色へと変化した。

そう………、まるでかつてのパワータイプにチェンジしたかのように。

 

「まさか………、ロベリアの力を光に変えたというのか………?」

 

グリシーヌの言葉が、全てを物語っていた。

ティガはロベリアの勝利への闘志を、自らの光に変えて取り込んだのである。

 

「愚かな。この状況で尚光に縋るか、ティガ!!」

 

闇を断ち切ろうとするかつての仲間に怒りを覚えたか、ギガンテスは赤き巨人となったティガに襲い掛かった。

しかし、ロベリアの炎を光にしたティガは、先程まで吹き飛ばされた程の剛腕を片手で止めて見せた。

 

「ハッ!」

 

そのまま反対の手で拳を作り、ギガンテスの顔面を殴りつけた。

 

「ヌォォッ!?」

 

ギガンテスと同等か、それ以上の凄まじい一撃が空気を震わせた。

先程と立場は逆転し、ギガンテスはそれこそ紙屑のように吹き飛ばされる。

 

「チャッ!」

 

ティガはまっすぐギガンテスを見据えると、両手を胸の前で合わせて下に下ろした。

そのまま両手をゆっくり外側に回し、エネルギーを圧縮する。

 

「ハァァァ………!!」

 

身体の赤い部分が光った。

そして、ティガの両手に膨大なエネルギーがボール状に圧縮される。

ウルトラマンティガパワータイプの必殺技。

デラシウム光流だ。

 

「ダァッ!!」

 

裂帛の気合いと共に、エネルギーボールがギガンテスに撃ち込まれた。

圧縮されたエネルギーの一撃は、こちらに向かって来る剛力の巨人の胸を貫通し、大きな風穴を作る。

 

「………見事と………、言うしかないな………。」

 

動かなくなった身体で、ギガンテスが言った。

 

「最期に………、お前と闘えて………、嬉しかったぞ………。モン………アー………ミー………。」

 

それは遥か3000年前、同じ志を共にした仲間の言葉だった。

かつての仲間に敗北した事を潔く認め、ギガンテスは粉々に砕け散った。

 

「ギガンテス………。」

 

「敵とは言え、中々あっぱれな最期であったな………。」

 

かつての仲間の最期に、ティガは感傷の表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその直後、真後ろから声が聞こえて来た。

 

「おーおー、随分派手に暴れてくれちゃってるじゃねぇか?」

 

「き、貴様は………!!」

 

振り向いた先にいた人物に、三人は驚きを露にした。

何故ならそこにいたのはギガンテスと同じく闇の巨人の一人、疾風のグレゴールだったからだ。

 

「引き返して来て正解だったぜ。これでお前をこの手で殺せる!」

 

ギガンテスとは対照的に、闘争心を剥き出しにして凄絶な笑いを見せるグレゴール。

人間体の見た目はコクリコ程しかない幼さの分、その表情は異様に恐ろしく、少なくともかつての仲間が見せるものではなかった。

 

「ヒャハハハ!さあ、復活祝いのデスゲームを始めようぜ!!」

 

グレゴールが高らかに叫び、懐から何かを取り出した。

それは、やはりダイゴのそれと色違いの青いスパークレンスだった。

クリスタルが発光し、グレゴールは少年から巨人へと変化を遂げる。

ギガンテスとは対照的に、細身の軽そうな青い身体。

胸にはやはりティガ同様にカラータイマーを備え、頭部は額のクリスタルを包むように大きく出っ張っている。

疾風のグレゴール。

風のような速さで、数多のパリシィを引き裂いて来た醜悪なる闇の巨人の復活だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギガンテスとの戦闘の直後という事もあり、ティガはグレゴールの前に苦戦を強いられる事となった。

 

「ヒャハハハ!」

 

人間体と変わりない狂ったような笑い声を上げ、風のように襲い掛かるグレゴール。

その素早い一撃は、構えるどころか見る事さえ叶わない。

疾風と言う名に恥じぬスピードに、ティガは翻弄されつつあった。

 

「ジァァッ!!」

 

風のような一撃がまた襲い掛かった。

 

「ジュワッ!?」

 

何度目かも分からない連続攻撃に、ティガは片膝をついた。

 

「オラオラどうしたぁ?光の巨人がだらしねぇな?」

 

神経を逆なでするような笑い声で、グレゴールが目の前でティガを挑発した。

 

「チャッ!!」

 

ティガはすかさず殴り掛かるが、あっさり避けられて腹に深い蹴りを受けてしまう。

ぶざまに倒れるかつての仲間に、グレゴールは蔑んだ視線を向けた。

 

「ケッ、ギガンテスも甘い奴だぜ。さっさと殺しちまえばいいのによ。」

 

「その仲間の最期を笑って見てた奴の台詞じゃねぇな。」

 

グレゴールの言葉を割り込むように、ロベリアが口を開いた。

 

「何………?」

 

「ロベリア、どういう事だ?」

 

グリシーヌが尋ねた。

グレゴールも顔をロベリアに向ける。

すると、ロベリアは生来の悪党らしい含み笑いで答えた。

 

「なぁに、簡単な事さ。アイツはさっきから、ギガンテスとかいう奴がやられるのを待ってたんだよ。自分がティガを始末するためにね。」

 

「何だと!?」

 

その言葉に、グレゴールはばつが悪そうに舌打ちをした。

つまりは、図星という事だ。

グレゴールはティガがちょうどギガンテスと戦い始めた辺りから、弱ったティガをなぶり殺すために洞窟の影に身を潜めていたのである。

 

「何と言う外道………!!貴様には仲間を思いやる心がないのか!?」

 

バトルアクスを突き付け、グリシーヌが吠えた。

同じ闇の巨人であるなら、仲間のピンチに進んで飛び出すはずである。

自分ならそうするだろうし、ギガンテスにも自分達に似た絆が見えた。

しかし、グレゴールにはそれが全くない。

ギガンテスを見殺しにし、かつての仲間であったティガさえ何の躊躇いもなく攻撃して来る。

生来の残虐性が仲間の意識に勝っているのだろうか。

 

「俺は3000年の間ずっと待ってたんだ………!ティガ、てめぇをこの手で殺す時をな!!」

 

「何!?」

 

「ヒャハハハ!ティガ………、俺は昔から、目障りなお前が気に入らなかった。」

 

グレゴールは不気味な表情で笑った。

遥か3000年前、闇の巨人として殺戮に酔いしれたグレゴールの唯一の不満要素。

それがティガであった。

カミーラに愛され、ギガンテスに心を分かち、主にも一目を置かれたティガ。

どんなに街を壊しても、どんなにパリシィを殺しても、自らの地位を逆転させる事は、グレゴールには出来なかった。

 

「俺の前にはいつもお前の背中があった。それをこの手でズタズタに切り裂くこの時を、俺は3000年待ち続けて来たんだ!!」

 

殺意を剥き出しにして、グレゴールが躍りかかった。

鎌鼬のような一撃がティガの脇腹を掠める。

 

「ジュワッ!?」

 

再び片膝をつくティガ。

その様子に、グレゴールは狂ったように笑った。

 

「ヒャハハハ!!まだまだたっぷり苦しんでもらうぜぇ!?」

 

「ジュワッ………!!」

 

フラフラと立ち上がるティガに、再び襲い掛かるグレゴール。

しかしその攻撃が当たる寸前、後ろから飛来した何かがグレゴールの腕に突き刺さった。

 

「グッ………!?」

 

腕に突然走った痛みに、グレゴールの攻撃が一瞬止む。

その隙を突き、ティガは渾身の力でグレゴールを殴り飛ばした。

 

「チャーッ!!」

 

ティガ渾身の右ストレートは、グレゴールの顔面を直撃した。

元々身体がスピードに特化して軽かった事もあり、グレゴールは大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

「グッ!?………一体何だ!?」

 

グレゴールは起き上がりながら痛みの走った右腕を見た。

そこには一本の矢が深々と突き立っている。

その直後、またしても聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「間に合ったようですね、ダイゴさん。………ぽっ………。」

 

「花火!!」

 

そこに立っていたのは、巨大な弓を構えた花火の光武F2だった。

花火もまたギアクーダの追撃を逃れ、ティガのピンチに駆け付けたのである。

 

「くそっ、援軍か!?」

 

せっかくのチャンスをくじかれ、怒りに震えるグレゴール。

花火はグレゴールに警戒しつつ、隣に立つティガに声をかけた。

 

「ダイゴさん………。貴方が光を求める理由は何ですか?」

 

「え………?」

 

唐突に尋ねられ、戸惑うティガ。

すると、花火は視線をグレゴールに向けたまま続けた。

 

「彼らが望むのは巴里を破壊と悲しみに包む事。私達の目的はそれを食い止め、巴里に平和をもたらす事。そうでしょう?」

 

カミーラ達の目的は、3000年前のように巴里を嘆きと絶望に覆い尽くす事。

光に転じてそれを阻止するという事は則ち、巴里の全ての平和を守る事だった。

 

「人も、動物も、自然も………。巴里に住まう全てを守り、全てと共にあるもの………。それが、ティガでしょう………?」

 

その時、花火の黒い光武F2が霊力を帯びて光り始めた。

 

「受け取って下さい、ダイゴさん………。私達の思いを………。」

 

やがて霊力は風の如く、ティガの全身を包み込む。

その流れる小河のように静かで流麗なる力に、ティガは心の中の何かが共鳴するのを感じた。

そして………、

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

額のクリスタルが、再び発光した。

刹那、花火の『平和』を希求する心が共鳴し、ティガの赤い体色が青に変わる。

 

「ハッ!」

 

力を取り戻したように構えるティガ。

その様子に、グレゴールの怒りは頂点に達した。

 

「ふざけるな!!光でも闇でもねぇ今のお前に、俺が負けるもんか!!」

 

先程までのようにスピードに任せて襲い掛かるグレゴール。

しかし、今度のティガは違った。

 

「ハッ!」

 

何とティガは、それまでかわす事も出来なかったグレゴールの攻撃を、華麗なジャンプで回避して見せた。

 

「チャーッ!!」

 

それだけではない。

ティガはそのまま洞窟の壁を蹴って再度ジャンプし、グレゴールの背中に強烈なキックを叩き込んだのである。

そのスピードに長けた戦い方は、かつてのスカイタイプを想起させる。

 

「ど、どうなってやがる!!さっきとまるで動きが違うじゃねぇか!!」

 

それに一番驚いたのは、外ならぬグレゴールだった。

無理もない。

今まで自分の動きに気付いてすらいなかったティガが、容易く自分の攻撃をかわし、反撃を仕掛けて来たのだから。

 

「随分なひがみ根性だな?そういうのは逆恨みっていうんだぜ?」

 

狼狽するグレゴールの心情を見透かし、ロベリアがなじる。

すると、グレゴールは遂に爆発した。

 

「五月蝿い!!ティガ、3000年の恨みを今こそ思い知れ!!」

 

醜く喚きながら、グレゴールが殴り掛かった。

しかし怒りに身を任せた直線的な攻撃が通用するはずもなく、ティガは難無くそれをかわす。

 

「ハァァァ………!!」

 

そして両手を左右に広げてエネルギーを集中し、頭上で合わせて左腰に下げる。

ウルトラマンティガスカイタイプの必殺技。

ランバルト光弾である。

 

「ジュッ!!」

 

突き出された右手から放たれた光の矢が、一直線にグレゴールの胸のカラータイマーを貫いた。

 

「畜生………!今度こそ………、今度こそ勝ったと………思った………の………に………!!」

 

3000年恨み続けた仇敵を前に、疾風の巨人グレゴールは無念の言葉を残して爆散した。

 

「………ティガ、何故貴方は光を求めるの?」

 

その声がしたのは、グレゴールが粉々に砕け散った直後だった。

振り返った視線の先には、その声の主がいた。

 

「カミーラ!!」

 

最初にその名を叫んだのはティガだった。

残る三人も、それぞれ武器を構える。

しかし、カミーラは全く動じる事なくティガに冷たい視線を送った。

 

「何故そうまでして、貴方は光に縋ろうとするの?」

 

「巴里の人々を守るためだ!いや………、巴里という都市に存在する全てと共にあるために、僕は戦うんだ!!」

 

ティガは即答した。

自分は闇の巨人。それはゆるぎない事実だ。

しかし、それが何だと言うのか。

自分が闇であれ、光になりうるのではないか。

その証拠に、こうして自分は光を見出だし、今また闇から光へ転じようとしている。

巴里華撃団という仲間がいる限り、自分は自分であり続けられる。

ティガはそう思っていた。

すると、カミーラは僅かに落胆の表情を浮かべた。

 

「お前達こそ、どうして巴里を襲う!?」

 

今度は逆にティガが聞き返した。

かつてのキリエロイドを含むパリシィ怪人達は、今巴里に住むローマ人への復讐を目的にしていた。

しかし、今回の敵はハッキリとした動機がイマイチ掴めなかった。

カミーラ達は一体何から生まれたのか。

何故巴里を襲う必要があるのか。

すると、カミーラは不気味な笑みを浮かべて答えた。

 

「ティガ………、闇は何処から生まれると思う?」

 

「何?」

 

問い掛けに謎かけで返され、返事に困るティガ。

カミーラは薄く笑って答えを口にした。

 

「それはね、人間の心の中よ。私達はその中から生まれたの。」

 

それは予想もしない答えだった。

何とカミーラは、自分達の生まれた闇は人間にあったものだと言ったのである。

驚く四人を満足げに眺め、カミーラは続けた。

 

「欲望、憎悪、嘆き、絶望、破滅………。人間共の心にある闇が集まって、私達は生まれたの。言わば、私達を生み出したのは外ならぬ人間共って訳。」

 

「馬鹿な!私達が貴様ら巴里に仇なす者を生み出すはずがない!!」

 

「貴女達パリシィならね。………でも今巴里に居座るローマ人共にも、同じ事が言えるかしら?」

 

声を張り上げて否定するグリシーヌに、カミーラは冷たく笑った。

確かにそうだ。

グリシーヌ達パリシィはともかく、ローマ人はかつて巴里に略奪者としてやって来た。

その彼らが全て光であるかと問われれば、断言出来ないだろう。

カミーラはそれを口にした。

 

「貴方達も知ってるでしょう?奴らは野を焼き、人々を殺し、全てを奪い尽くした。………今の私達のようにね。」

 

明らかな正論に、四人が反論する余地はなかった。

 

「分かるでしょう?貴方がそうやって闇を捨ててまで守ろうとしている人間共は、結局闇でしかないの。」

 

「違う………!!」

 

「何が違うの?貴方も人間共の闇から生まれた闇の巨人でしかないのよ。その偽りの光を身に纏ったとしてもね。」

 

「それは違う!!」

 

カミーラの言葉を振り払うように、ティガが叫んだ。

 

「僕のこの心にある光………。これはみんながくれた、正真正銘の光だ!パリシィもローマも関係ない、人の持つ光なんだ!!」

 

「愚かな事ね。闇の住人である人間共に、光がある訳ないでしょう?」

 

ティガの叫びに嘲笑を返し、カミーラは懐から何かを取り出した。

金色に光るそれは、やはり色違いのスパークレンスだった。

 

「フフフ………!!」

 

漆黒のクリスタルから凄まじい邪念が放たれ、カミーラを包み込む。

やがてそれはカミーラ自身の闇の力と同化し、その身体を闇の巨人へと変貌させた。

漆黒の身体と金色の妖艶な体色。

闇の先兵たる魔女が、そこにはいた。

 

「チャッ!」

 

すかさず戦闘態勢に入るティガ。

すると、カミーラはニヤリと怪しく笑った。

 

「フフフ………。戦えるの?この私と。」

 

「巴里を守るためなら、僕は戦う。カミーラ………、たとえ君でも!」

 

間髪入れずにティガが叫んだ。

刹那、カミーラの表情が俄かに険しくなる。

 

「………貴方、誰に向かってものを言ってるの!!」

 

「ジュワッ!?」

 

翳された掌から、激しい闇の波動が襲い掛かった。

真正面からそれを喰らったティガは、真後ろの壁に叩きつけられる。

 

「フフフ………。かつての貴方なら毛程にも感じなかった程度よ?弱くなったわね、ティガ。」

 

突風がまたしても襲い掛かった。

ティガは吹き飛ばされまいと踏ん張り、両腕を額の前で交差させた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

ティガの体色が青から赤に戻った。

途端に体重が増加し、地面に足を減り込ませて突風に耐える。

 

「闇を手放しても、少しはやれるようね。」

 

その時、真後ろからカミーラの声がした。

同時に背中に激痛が走る。

 

「………でも、その程度じゃ私の敵じゃないわ。」

 

「ジュワッ………!?」

 

見ると、カミーラの右腕から青い闇の力を具現化した剣が見えた。

アイゾード………多くのパリシィの生き血を啜った、氷獄のカミーラと呼ばれた彼女の代表的な技だ。

カミーラは一瞬の素早さでティガの背後に周り、アイゾードを背中に突き刺したのである。

 

「随分甘くなったわね、ティガ。これでは殺し甲斐がないわ。」

 

睨み返すティガに、カミーラが呆れた口調で肩を竦めた。

そして、何か良からぬ事を思い付いたのか、グレゴールすら霞む程の凶悪な笑みを見せた。

 

「闇でもなければ光でもない………。それなら貴方は一体何者だというの?」

 

「ジュワッ………!!」

 

ティガの背中を踏み付けにして、カミーラが笑う。

そして、再び凍てつく闇の剣を振り上げた。

 

「フフフ………、私と誓った永遠の愛………。思い出すまでじっくりいたぶってあげる。」

 

「やめろっ!!」

 

すかさず攻撃を仕掛けようとするグリシーヌ。

しかし、カミーラは左手から衝撃波を放ち、三体の光武F2を吹き飛ばした。

 

「み、みんな!!」

 

洞窟の壁に叩き付けられた三人の姿を見て、ティガが叫んだ。

ギアクーダとの戦闘による消耗もあり、どの光武F2もかなりのダメージを受けている。

しかしカミーラに背中を踏み付けられた今の状況では、助けに行く事すら出来ない。

その様子に、カミーラは笑った。

 

「誰が貴方からと言ったかしら?まずはあのパリシィ共の死に様をとくと見てもらうわよ?」

 

「くっ………!!」

 

無念に声を漏らすティガの姿を満足げに笑い、カミーラは再び左手をグリシーヌ達に向けた。

 

「馬鹿な娘達………。わざわざ自分からこの闇の領域に足を踏み入れるなんてね………。」

 

そこには一片の慈悲も存在していなかった。

グレゴールとはまた違う残虐さ。

まるで命を奪う忌まわしい行為に無上の快楽を感じているかのようだ。

氷獄のカミーラ………。

まるで氷のように冷たい滅びの視線が、そこにはあった。

 

「愚かなパリシィ共よ。………安らかにお休み。」

 

「そうはさせないよ!!」

 

今正に殺戮の突風が吹き荒れようとした瞬間だった。

闇に覆われた空気を震わせる力強い声と共に、見覚えのある猫達が一斉にカミーラに襲い掛かったのである。

 

「なっ!?こ、これは一体………!!」

 

突然の奇襲に、カミーラの冷たい微笑みが消え失せる。

それは、真の笑顔を知る一人の天才マジシャンの仕業だった。

 

「ダイゴ、大丈夫?助けに来たよ!!」

 

「コクリコ!!」

 

愛用のバトンを操り、軽快な動きでこちらに向かって来る光武F2は、ほとんど無傷に近い。

おそらくギアクーダの追撃をいち早く逃れ、自分達に合流しようとしていたのだろう。

コクリコはカミーラに真正面から立ちはだかった。

 

「お前がエリカの言ってたカミーラだな!ダイゴを放せ!!」

 

「あらあら、勇ましい事ね。」

 

相手が子供と分かるや、カミーラの表情は冷たい微笑みに戻った。

 

「でも、それは無謀と言うべきじゃないかしら?」

 

カミーラの左手がコクリコに向けられ、再び衝撃波が放たれた。

しかし、コクリコは得意のアクロバティックな動きで衝撃波は容易くかわし、ティガの前に立った。

 

「コクリコ………、君まで………。」

 

「もちろんだよ!だってダイゴは、ボクの大事な友達だもん!」

 

こんな危険な場所に躊躇う事も臆する事もなく、コクリコは叫んだ。

その理由はたった一つ。

 

『ダイゴは友達だから』

 

「コクリコ………!」

 

目の前の光武F2を、淡い光が包んだ。

それに合わせて、またもティガの身体を何かが包み込む。

そして………、

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

「なっ………!?」

 

何と、ティガは額のクリスタルを発光させると同時にカミーラを跳ね飛ばした。

格段に上昇した力。

それは紛れも無く、目の前の少女によるものだった。

 

「ば、馬鹿な………、また光を吸収したというの………!?」

 

ティガの姿を見たカミーラは、信じられない様子で呟いた。

赤と紫………、そして銀の体色。

言うなれば、何人も断ち切る事の叶わない『友情』の絆。

コクリコの友情に自らのそれを共鳴させたティガは、その光で更なる進化を遂げたのである。

その姿………、頭部とブレスターの溝が黒い事を除けばかつてのマルチタイプと何ら変わりない。

ティガは少しずつだが着実に、闇から光へ転じようとしていた。

 

「そう………。ティガ、貴方はあくまで光を求めるつもりね?」

 

カミーラの殺気が俄かに高まった。

既にティガの進化は進み、当初の闇の力はほとんど巴里華撃団の光によって打ち消されようとしている。

ただ一つ、あるものを除いては。

 

「でも、貴方は絶対に光になどなれない。私が生きている限り、貴方はその中途半端なままでいるしかないのよ?」

 

「どういう事だ!?」

 

ティガはすかさず聞き返した。

何故自分が光になれないと断言できるのか。

カミーラは静かに笑うと、その理由を口にした。

 

「それはね、ティガ……私が貴方を愛しているからよ。3000年前からずっとね……」

 

「……」

 

カミーラの言葉に、ティガは沈黙を返した。

今のティガに残る最後の闇。

それは、目の前にいる魔女の歪んだ愛だった。

共に殺戮にカタルシスを見出だし、生き血に塗れた凄惨な記憶。

ティガにとっての真の黒歴史の象徴が、言わばカミーラだった。

 

「フフフ……、どんなに光を纏ったとしても、貴方も所詮は闇の下僕でしかないの。貴方の胸に未だ私の愛が渦巻いているのが、何よりの証拠よ。」

 

「くっ……!」

 

カミーラの正論に反論出来ず、口ごもるティガ。

すると、カミーラの姿がいきなり掻き消えた。

 

「なっ……!?」

 

驚いて辺りを見渡すが、カミーラの姿は見えない。

 

「カミーラめ!またしても逃げるつもりか!?」

 

バトルアクスを振り回しながらグリシーヌが叫ぶ。

すると、その場にカミーラの声が聞こえて来た。

 

「フフフ……。教えてあげるわ、ティガ。この世で貴方を愛せるのは、私だけという事をね……」

 

「何だと………?」

 

カミーラの言葉の意味が分からず、眉を潜めるロベリア。

その時、花火が何かに気付いたように表情を凍らせた。

 

「ハッ!ま、まさか……」

 

「どうした、花火?」

 

親友の異変に気付き、グリシーヌが声をかける。

すると、花火はやや青い表情で答えた。

 

「カミーラは、ダイゴさんを愛せるのが自分だけと言ってました。」

 

「ああ、確かにそう言っていたが………?」

 

「つまり、他の誰かがダイゴさんを愛する事を、許さない事になります……」

 

そこまで来て、ロベリアも何かに感づいた。

 

「おい、ちょっと待て。それってまさか………!!」

 

同様に青い表情のロベリアの考えを察し、花火は頷いた。

 

「はい……。おそらくカミーラの狙いは……、エリカさんです」

 

 

<続く>

 

 

 

 




《次回予告》

今まで巴里に生きて来て、僕は沢山の思い出が出来た。

辛い事や悲しい事はあったけど、今僕は幸せだ。

だからティガ………。

もう一度………、力を貸してくれ!!

次回、超古代の星最終章Ⅲ!!

《終幕、ティガ伝説》

愛の御旗のもとに………

人が人である限り、光は消えない!!
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