※この作品はR-18です。

超古代の星   作:サマエル

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最終章Ⅲ:終幕、ティガ伝説

 

「ふぇ~ん………。ダイゴさん何処なんですか………?」

 

闇の漂うルルイエの中で、エリカは一人道に迷っていた。

ロベリアからレーダーの範囲から離れないように言われていたのだが、ギアクーダから逃げる内に完全に孤立してしまったようだ。

左右には歴史を感じさせる建造物がそびえ立ち、エリカはその前に果てしなく伸びる一本道をひたすら進んでいた。

 

「あら………?」

 

どれだけ歩いただろうか。

立ち止まったエリカの前には、開けた広場のような空間が広がっていた。

その中央には、巨大な一つの祭壇のようなものがある。

 

「何でしょう………。お祭りでもあったんですかね………?」

 

状況に合わない呑気な発言をするエリカ。

その時、背後から声が聞こえて来た。

 

「その通りよ。正確には儀式だけど………。」

 

「!!」

 

振り返ったエリカは絶句した。

黒と金の体色と、血のように赤い瞳を持つ暗黒の巨人。

実際に対峙するのは初めてだが、エリカはその巨人の正体を知っていた。

 

「………カミーラ………!」

 

3000年前にパリシィを滅亡に追い込み、今またティガを闇へ誘おうとした闇の巨人。

すかさずマシンガンを構えるエリカに、カミーラは冷たい笑いを見せた。

 

「ここはルルイエの中心部。かつて我等が暗黒の支配者が、捕われた数多のパリシィを食い殺した場所。」

 

「い、いけにえ………!?」

 

「そのほとんどは、貴女のような年端もいかない若い娘だったわ。彼女達の甲高い断末魔は、私達闇の巨人に素晴らしいカタルシスを感じさせてくれた。」

 

生きたまま頭から食いちぎられたいけにえの姿を想起したか、カミーラが残忍な笑顔を見せた。

そのあまりの恐ろしさに、エリカは戦慄した。

 

「もちろんその中に彼もいたわ。逃げだそうとした女を躊躇う事なく叩き潰したの。」

 

「そ………、そんなの嘘です!!」

 

たまらずエリカが言い返した。

ティガは光の巨人だ。

誰よりも巴里を愛し、誰よりも巴里のために命を懸けた勇者だ。

そんなティガが残酷な真似をするはずがない。

必死に自分に言い聞かせるエリカに、カミーラは冷笑を返した。

 

「嘘?貴女の知るティガこそ、光の名を語った虚像よ。3000年前にパリシィの血に塗れた姿こそ、私の愛した彼の真の姿………。」

 

「私は信じません!!」

 

かつての記憶に酔いしれるカミーラに、エリカは毅然とした態度で言い返した。

 

「3000年も昔の事なんて関係ありません!ティガが………、ダイゴさんが闇であるはずはありません!!」

 

3000年の歴史など、所詮は過去に過ぎない。

かつてのティガは闇であったかも知れないが、今のティガが光であるのもまた事実である。

闇だろうと関係ない。

ティガは、ダイゴなのである。

 

「………やっぱり、貴女があの五人の中で一番パリシィの光が強い。」

 

刹那、カミーラの殺気が高まった。

 

「貴女だったのね………。あの時、キリエロイドと差し違えたティガをたぶらかしたのは………。」

 

「え………?」

 

何の事か分からず戸惑うエリカ。

刹那、カミーラの翳した右手から先程とは比べものにならない衝撃波が発生した。

 

「きゃあああっ!!」

 

反応する間もなく後ろの壁に叩き付けられるエリカの光武F2。

あまりの勢いで機関部がやられたのか、背中の辺りから煙が出ている。

 

「フフフ………。いいわ、その声。その恐怖に怯えた表情………。本当はもっともっといたぶりたいんだけど………。」

 

凶悪を超えて狂気を孕んだ奇怪な笑い声を上げ、カミーラは凍てつく殺意を右手に生み出した。

その姿に、エリカは闇よりどす黒い感情をカミーラに見た。

 

「今すぐ殺さないと………、治まらないのよ!!」

「!!」

 

アイゾードが眼前に迫り、エリカは思わず目を閉じた。

 

「(ダイゴさん………!!)」

 

助けを求めてか、それとも志半ばで倒れる事への謝罪か、心の中でダイゴの名前を叫ぶエリカ。

だがその時、アイゾードが自分を切り裂く前に何かが弾かれる金属音のようなものが聞こえた。

 

「え………?」

 

まさか………。

そう思って目を開いたエリカの視線の先に、彼はいた。

顔とブレスターは未だ黒いままだが、その赤・紫・銀の体色は見間違えようがない。

 

「ダイゴさん!!」

 

エリカが叫んだ。

そこにいたのは、既に光に目覚めつつあるウルトラマンティガの姿だった。

間一髪エリカのもとにたどり着いたティガは、ハンドスラッシュでカミーラの攻撃を牽制したのである。

 

「カミーラ、君の相手は僕だ!!」

 

カミーラを見据え、ティガが叫んだ。

すると、カミーラは徐にティガみ向き直る。

 

「ティガ………。そうまでしてこの女の下に走るの?」

 

先程とは違う、憎しみを込めた表情でカミーラが睨んだ。

 

「愚かな事ね………。昔の貴方ならともかく、今の貴方に私は倒せなくてよ?」

 

「倒して見せる………!エリカさんは、僕が守るんだ!!」

 

言うや、ティガはカミーラ目掛けて走り出した。

 

「ハッ!!」

 

大地を蹴って跳び上がり、キックを見舞う。

しかし、コクリコの友情を光に変えた今のティガですら、カミーラには及ばなかった。

 

「フフフ………!!」

 

カミーラは避ける様子もなく、身体をよろめかせた。

その直後、目にも留まらぬ速さでアイゾードが一閃する。

 

「ジュワッ!?」

 

「ダイゴさん!!」

 

凍てつく殺意は脇腹をえぐった。

倒れ込むティガの姿に、エリカは思わず叫ぶ。

その声を遮るかのように、カミーラの冷たい笑い声が響いた。

 

「アハハハハ………!!だらし無いわねティガ。その程度で何かを守るなんて、狂ってるとしか言いようがないわ!!」

 

「チャッ………!!」

 

脇腹を押さえながら立ち上がり、ティガは氷のように冷たい微笑みの魔女を睨みつけた。

 

「貴方が闇の戦士である事は、紛れも無い事実。………何故受け入れないの?」

 

「今の僕は違う………!この胸にある光は本物だ!」

 

即答するティガ。

刹那、その眼前にアイゾードの切っ先が突き付けられた。

 

「光の巨人の顔がどうして黒くて?私には見えるわ。光を語る今の貴方の胸に、私の愛が渦巻いているのを!」

 

ティガは微動だに出来なかった。

一歩でも動けば首が飛ぶ。

そう感じさせる程、カミーラの殺気は冷たく、強いものだった。

 

「ティガ………。どんなに光に縋ろうと、貴方は私から逃れる事なんて出来ないのよ………。」

 

狂ったように笑い、カミーラが殺気を強める。

だがその時、カミーラの背中に無数の銃弾が浴びせられた。

エリカだった。

ティガのピンチを悟ったエリカは、カミーラが後ろを見せた隙を突いてマシンガンを発射したのだ。

 

「フフフ………!!」

 

しかし、カミーラはそれすら予期していたように左手を背後に翳した。

すると、背後の空間が歪んで無数の鉛が呑まれていく。

プロケアテクト………ルルイエに漂う闇の力を利用し、様々な攻撃を無力化させる防御技だ。

ルルイエに蔓延る闇の力からか、それとも3000年に渡るティガへの歪んだ愛の執着か。

カミーラの力は、ギガンテスとグレゴールを遥かに凌駕していた。

 

「………どうやら、貴女から死にたいらしいわね。」

 

カミーラがゆっくりと後ろに立つエリカを見た。

エリカは自分の攻撃が通じない事が信じられず、呆然としている。

 

「カミーラ!!待てっ!!」

 

ティガが慌ててカミーラに飛び掛かろうとする。

しかしその一瞬、カミーラは目にも留まらぬ速さでアイゾードを一閃させた。

 

「ジュワッ!?」

 

ティガの足が一太刀の下に深く切り付けられた。

バランスを失い、ティガは再び地面に倒れ込む。

 

「………ダ、ダイゴさん!!」

 

ティガの姿で我に還り、エリカが叫ぶ。

その直後、今度はエリカの眼前にアイゾードが突き付けられた。

 

「気安く彼の名を呼ばないでくれる?忌ま忌ましいパリシィの小娘。」

 

万物を凍り付かせる程の絶対零度の視線がエリカを貫く。

しかし、エリカはこの状況で尚も言い返した。

 

「ダイゴさんは渡しません!ダイゴさんは………、エリカが守ります!!」

 

刹那、青い閃光がエリカを襲った。

 

「きゃあああ………!!」

 

激しい衝撃に光武F2は宙に巻き上げられ、地面にぶつかる。

 

「う、うう………!!」

 

そこら中に身体を打ち付けられ、エリカは痛みに耐えながら目を開いた。

そこには、剣ではなく鞭が握るカミーラの姿があった。

カミーラはアイゾードを鞭に変化させ、エリカの光武F2を鞭打ったのである。

 

「ほざけ小娘!お前ごときに………、お前ごときにティガは渡さないわ!!」

 

カミーラが憤怒の形相で吠えた。

 

「私のティガをたぶらかした罪………死して償いなさい!!」

 

再び凍てつく鞭が振るわれた。

エリカは思わず目を閉じる。

しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え………?」

 

いつまで立っても衝撃が来ない事を不思議に思い、エリカはゆっくりと目を開ける。

そして………、時が止まった。

 

「ば………、馬鹿な………!?」

 

それは、カミーラも同じだった。

凍てつく殺意は、エリカに牙を剥く事は出来なかった。

何故なら、二人の間に割って入った一つの影が、自らの背中を犠牲にエリカを守ったからである。

 

「ダ………、ダイゴさん………!!」

 

エリカは信じられない面持ちで呟いた。

ティガはあの一瞬、痛みすら忘れてエリカを庇い、鞭の一撃から守ったのである。

 

「エリカさん………。」

 

片膝をついた状態で光武F2を優しく抱きしめ、ティガが囁いた。

 

「大丈夫………。僕が………、僕が守る………。」

 

傷付いたこの状況で尚エリカを守ろうとするティガ。

その時、ティガの腕の中に抱かれるエリカの光武F2が、仄かに光り始めた。

いや、それはエリカだけではない。

 

「これは………!!」

 

何と、ティガの身体も同様に明滅を始めた。

それと同時に、胸の中にこれまでと比べものにならない温もりを感じる。

そう………。

まるで初めてエリカに出会いときめいた、あの時のように………。

 

「馬鹿な………!!こんな事が………!?」

 

カミーラも驚きのあまり攻撃しない。

ティガは光に包まれる中、自らの心に存在するまがまがしい闇の力が急速に消え失せていくのを感じた。

 

「カミーラ………。」

 

ふとエリカの光武F2から手を離し、ティガはゆっくりと立ち上がった。

 

「かつて………、3000年前の僕は君の言う通り、殺戮の巨人として君を愛したかも知れない。」

 

認めたくはない。

しかし、現にティガは一度闇の巨人として覚醒した。

それは紛れも無い事実だ。

しかし、今のティガは違う。

 

「でも、今ここにいるティガは違う。巴里を愛し、人々を愛し、そして………、一人の女性を生涯愛すると誓った光の巨人………。」

 

自分が継いだのは闇なんかでは決してない。

その証拠に今、ティガの心の中は言いようのない光が満ち溢れていた。

 

「ウルトラマンティガだっ!!」

 

刹那、闇を掻き消さんばかりのまばゆい閃光がティガを包んだ。

そして………、その奥に見えた姿に、カミーラは目を疑った。

赤・紫・銀の体色に、空色のカラータイマー。

乳白色の瞳と、光り輝くクリスタル。

かつて愛した姿は何処にもない。

そこにいたのは巴里華撃団と共に悪を滅する光の巨人、ウルトラマンティガだった。

 

「何故………?何故その姿に………?」

 

信じられない様子のカミーラが、譫言のように呟いた。

すると、ティガはハッキリと答えた。

 

「僕が………、彼女を愛しているからだ。」

 

どんな形であろうと、愛を消せるのはそれより強い愛だけ。

言うなれば、エリカと育んだ愛の光。

 

『正義』の信念。

 

『友情』の絆。

 

『勝利』の闘志。

 

『平和』の希求。

 

そして、『愛』の光。

 

ティガは自らの心に残る最後の闇を、エリカとの愛の光で打ち払ったのである。

闇に満ちた過去を捨て、光に溢れる『未来』を歩むために。

 

「フフフ………、アハハハハ………!!」

 

しばしの沈黙の後、カミーラが狂ったように笑い出した。

 

「そう………。ティガ、やはり私達を裏切るのね?あの時と同じように!」

 

「あの時………。」

 

その言葉に、ティガの記憶がフラッシュバックした。

 

 

 

 

 

3000年前、ティガは闇の巨人として巴里を襲った。

建物を踏み潰し、人々を焼き尽くし、守護者たるキリエロイドと戦った。

カミーラ、ギガンテス、グレゴールの三人を封印され、自らもキリエロイドと差し違える形で倒れるティガ。

その時、ティガの前に一人の少女が現れた。

パリシィの生き残りの少女だった。

内側に巻いた長い茶髪と、首から下げた十字架が印象的な少女。

周りのパリシィ達が止めるのも聞かず、少女はティガに両手を向けた。

たちまちにティガの身体か光に包まれ、傷が癒されていく。

そして光は、ティガの心にも届いた。

まるで今まで闇に閉ざされていた心に、光が射したかの如く。

少女の想いを受けたティガは、それに応えるべく主に反旗を翻した。

そして………。

 

 

 

 

 

「覚えているわ!あの時貴方をたぶらかした女………、正に奴の顔そのものよ!!」

 

カミーラが叫んだ。

ティガもまた、カミーラの言葉に納得していた。

ティガの命を救い、光を与えた少女。

彼女の顔は、自分の後ろにいる少女に瓜二つである事に。

 

「いいわ。そうしていつまでも光に縋るつもりなら………!!」

 

カミーラはアイゾードをティガに突き付けた。

 

「この場で血の海に沈めてやる!!」

 

言うや、カミーラが襲い掛かって来た。

ティガも動じる事なく、真正面から迎え撃つ。

 

「ハッ!」

 

以前と変わらぬスピードで襲い来るカミーラ。

しかし、完全に光に目覚めたティガの動きはそれ以上に素早く、正確だった。

突き出されたアイゾードが刺さる寸前に左手を内側から割り込ませ、がら空きになった腹部に強烈な肘打ちを決める。

 

「グッ!?」

 

別人のようなスピードに驚き、カミーラの攻撃が一瞬止まる。

ティガには、その一瞬で十分だった。

 

「チャーッ!!」

 

そのままカミーラの右腕を掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばす。

カミーラは大きく宙を舞い、地面に沈んだ。

それを見たティガは、両手を額の前で交差させ、クリスタルを発光させた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

ティガの体色が紫に変わる。

スカイタイプだ。

 

「お、おのれ………!!」

 

「ハッ!!」

 

アイゾードを構えながらティガを睨みつけるカミーラ。

ティガは間髪入れずに、ハンドスラッシュを放った。

威力自体はマルチタイプのそれとさほど変わらないが、鋭さは比較にならない。

 

ティガの手から発射された光弾は、カミーラの手にある凍てつく殺意を真っ二つに寸断して見せた。

 

「なっ!?」

 

すかさずティガは反撃に出た。

持ち前の素早さで距離を詰め、カミーラの攻撃がくる寸前で真上にジャンプする。

 

「ハッ!」

 

そのままカミーラの頭上を越えたティガは、向かい側の壁を蹴り、カミーラの背中に渾身のティガスカイキックをぶち込んだ。

………だが、

 

「フン!!」

 

何とカミーラは背中への一撃に怯む事なく、逆にティガの足を掴んで地面にたたき付けた。

 

「ジュワッ!!」

 

カミーラの前に仰向けに倒れるティガ。

その耳に、カミーラの怒りの雄叫びが聞こえた。

 

「おのれ………!!この、裏切り者がぁっ!!」

 

見るとカミーラの腕のアイゾードが鞭に変化していた。

カミーラはティガを鞭打とうと、大きく振り上げる。

ティガは再び額のクリスタルを発光させた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

ティガの手が鞭を掴むのと、その身体が赤に変わるのは同時だった。

ティガは鞭打たれる一瞬、パワータイプにチェンジしたのである。

 

「ハッ!!」

 

ティガはそのまま、力任せに鞭を引きちぎった。

更にカミーラの腹部を蹴り飛ばす。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

ティガは続けざまにクリスタルを発光させ、マルチタイプに戻って立ち上がった。

それと同時にカラータイマーも点滅を開始する。

 

「チャッ!」

 

ティガは両手を胸の前で交差させ、ゆっくりと左右に広げた。

その軌道に沿って光の筋が現れ、エネルギーが集約される。

ティガ最強の必殺技。

ゼペリオン光線だ。

 

「ハッ!!」

 

L字に組まれた腕から、白色の光線が発射された。

光線は寸分の狂いなく、カミーラの胸にあるカラータイマーを直撃する。

 

「ギ………、ギャアァァァ………!!」

 

闇の巨人に相応しい、凄まじい悲鳴が発せられた。

そして、ルルイエの中心部に閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中心部の光に気付いた巴里華撃団のメンバーがエリカの下に駆け付けたのは、少ししての事だった。

 

「エリカ!!」

 

最初に叫んだのはグリシーヌだった。

その声に気付き、エリカも自分の下に走る四機の光武F2を見る。

 

「エリカ、大丈夫だった!?」

 

自分達がここに到着するまでの間に、エリカがカミーラの襲撃を受けた可能性は高い。

しかし意外にも、エリカはコクリコの問い掛けに首を振った。

 

「私なら大丈夫です。ダイゴさんが守ってくれましたから。」

 

「ダイゴが?」

 

おうむ返しに聞くロベリアに、エリカがしっかりと頷く。

すると、今度は花火が口を開いた。

 

「エリカさん、ダイゴさんはどちらに………?」

 

エリカは無言でそっぽを向いた。

いや、そうではない。

その視線の先には、ダイゴの姿があった。

地面に横たわる、謎の女と共に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身全霊のゼペリオン光線をカラータイマーに受けたカミーラだったが、それでも消滅には至らなかった。

しかし、それでも数分の延命を保ったに過ぎず、人間体に戻るやカミーラは仰向けに倒れた。

自分は死ぬ。このルルイエと共に。

そう思ったカミーラの手に温もりが感じられたのは、その時だった。

 

「え………?」

 

薄れかけた意識が僅かに覚醒し、閉じかけた瞳が僅かに見開かれた。

その手に伝わる温もりの正体を、知っていたからだ。

 

「ティ………、ティガ………?」

 

死を予感させる弱々しい声が、かつての恋人の名前を呼んだ。

返ってくるはずもない呼びかけ。

しかし、カミーラはそれでも夢見たあの安らぎに浸りたかった。

3000年前のように、愛する者に抱かれたあの温もりを。

たとえ歪んだ願いであったとしても、それはれっきとした愛の形であった。

 

「カミーラ………。」

 

しかし、返事はあった。

3000年前と何ら変わらぬ、胸に心地良く響くあの声で。

 

「ティガ………?ティガなのね………?」

 

「ああ。カミーラ………、僕はここにいるよ………。」

 

しっかりと聞こえる愛しき人の声。

その声に、カミーラは微笑んだ。

恨みも、憎みもしない。

ただ、自分に応えてくれた事が嬉しかった。

 

「応えて、ティガ………。何故闇を捨てたの………?」

 

カミーラが尋ねた。

 

「光が………。」

 

ややあって、ダイゴは応えた。

 

「僕の心に、光が差し込んだからだ。全てを包み込むように、優しく暖かい光が………。」

 

「光………?これが………、この温もりが………、光なの………?何て………、暖かい………。」

 

カミーラは驚きと共にダイゴを見た。

思えば、こうして3000年の復活を果たしてから、ダイゴと触れ合った時はなかった。

全てを包み込むように、優しく暖かい光。

自分の手に感じる温もりに、カミーラはダイゴの言葉が嘘ではないと悟った。

 

「私も………、欲しかった………。こんな………、暖かい光………。」

 

それが、カミーラの最期の言葉となった。

氷獄とまで呼ばれた闇の魔女が最期に欲したもの。

それは、破壊と殺戮でも、ましてやティガでもない。

自らの凍り付いた心を溶かした、優しく暖かい光だった。

 

「なれるさ、カミーラ。………君だって………。」

 

ダイゴは言った。

返事は返って来ない。

しかし、それに応えるかのように、カミーラの頬を一筋の涙が伝った。

その涙は、彼女が闇の存在であった事を思わず疑ってしまう程、清らかで美しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイゴさん………。」

 

カミーラの身体が光の粒となって消えた後、エリカがダイゴに声をかけた。

それに気付いて振り向くと、ダイゴの視界に五人の仲間の姿が移った。

 

「みんな………、ありがとう。」

 

仲間の正面に立ち、ダイゴは改めて礼を述べた。

今回、自分は仲間を傷付けたくないからとはいえ、自己犠牲に過ぎる行動をとった。

しかし、そんな自分のためにエリカ達巴里華撃団は命懸けで助けに来てくれた。

彼女達の心が闇に堕ちたティガに光を与え、再び光の巨人に変えたのである。

 

「礼を言う事はない。我らは仲間なのだからな。」

 

「ダイゴが無事で、本当に良かったよ。」

 

「私達………、勝ったんですね。」

 

「さぁて、早いとこ戻ってボーナス貰うとしようか。」

 

思い思いの言葉を口にする仲間達。

だがその時、激しい震動がルルイエを襲った。

 

「こ、これは………!?」

 

カミーラ達闇の巨人は滅んだ。

にも関わらず、これ以上ここに何がいるというのか。

状況を飲み込めず混乱する巴里華撃団。

しかし、ダイゴだけはハッと表情を凍り付かせた。

 

「(まさか………!!)」

 

「ダイゴさん?どうし………「みんな!早くここから脱出するんだ!!」

 

エリカの言葉を遮り、ダイゴが叫んだ。

もし自分の予想が当たっていたなら、一刻も早くルルイエから脱出しなければならない。

ダイゴの表情は、焦りと恐怖で震えていた。

そんなダイゴの様子にただならぬ何かを感じた巴里華撃団は、すぐさまルルイエから撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、巴里華撃団がカタコンベを脱出して数分もしない内に起こった。

空を覆う漆黒の雲海。

吹き荒れる魔の嵐。

嵐は海を激しく波立たせ、雷鳴を轟かせる。

やがて高波の奥に、巨大な何かの影が写った。

古い歴史を感じさせる、遺跡のような建造物。

それは幾重にも連なり、まるで一つの都市のように巴里近海にそびえ立つ。

その中心に、二つの巨大な赤い光が見えた。

カミーラ達と似て、それでいてカミーラ達とは比べものにならない程強い闇を放つそれには、正に邪悪という言葉が相応しい。

 

「何てこったい………。」

 

作戦司令室のモニターを見て、グラン・マは力無く呟いた。

カミーラ達が復活した時点で、もしやとは思っていたが。

 

「間違いない………。これは、伝説の最後と同じだ………。」

 

闇の巨人伝説の結び。

それは、ティガが自らの魂を以って、闇を封じたというもの。

グラン・マは確信した。

これこそ3000年前の超古代、ティガが命を賭して封印した闇の権化。

そして今、それが復活したのだという事を。

 

「ギエエエエ………!!」

 

モニターの赤い光が、不気味な咆哮を上げた。

この世のものとは思えない、悍ましい叫び声。

3000年前に巴里を歎きと悲しみ、そして絶望に追いやった最後にして最強の闇の存在。

 

邪神、ガタノゾーアの復活だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴里の空は、黒い雲に覆われていた。

破滅を予感させる邪悪な闇を秘めた空。

それは紛れも無く、巴里近海に現れた邪神によるものだった。

 

「報告します!巴里近海に浮上した一帯は超古代都市ルルイエと確認!!」

 

「中心部にとんでもない妖力反応がありますぅ!霊子計も振り切れてて測定出来ませぇん!!」

 

メルとシーの報告は、ルルイエから脱出したばかりの巴里華撃団は表情を暗いものに変えるには十分だった。

カミーラ達の復活と間を置かずに起きたルルイエの浮上。

これにカミーラ達と同様超古代の闇が関わっている事は明白な事実だった。

 

「さて………、最悪な事態になっちまったみたいだね………。」

 

二人の報告に、グラン・マはいつもの冷静さを装いつつ言葉を紡いだ。

その表情は得体の知れない怪物に相対したというより、元々知っていた恐ろしい怪物に再び出くわしたといった表情に近い。

それを最初に口にしたのはグリシーヌだった。

 

「どうした、グラン・マ。まさか敵の正体を知っているのか?」

 

敵の正体を知るか知らないかでは、作戦立案から大きく有利に立てる。

すると、グラン・マは珍しく曖昧な返事を返した。

 

「ああ。まあ、知らない事はないんだけどね………。」

 

「どういう事?」

 

すかさずコクリコが聞き返した。

今は明らかな緊急事態だ。

当然ながら一刻も早く作戦を立て、巴里を防衛しなければならない。

少しでも役に立ちそうな情報があるなら、出し惜しむメリットはないはずだ。

しかし、グラン・マが言葉を濁したのには理由があった。

 

「………伝説の最後を、知ってるかい?」

 

厳しい表情で、グラン・マが言った。

伝説の最後。

それはおそらく、明かされた闇の巨人伝説の事だろう。

エリカの先祖に命を救われたティガが闇から光に転じ、闇の全てをルルイエに封印したという………。

 

「まさか………?」

 

花火が青い顔でグラン・マを見た。

何か良からぬ想像をした時のそれだ。

その表情から言葉の先を読み取り、グラン・マは頷いた。

 

「そうさ………。最後にして最強の闇、邪神ガタノゾーアだよ。」

 

「ガタノ………ゾーア?」

 

聞き慣れぬ名前に聞き返すエリカ。

すると、今度はダイゴが口を開いた。

 

「カミーラ達が言ってた『我らの主』って、そいつの事だったんだね………。」

 

超古代に、ティガが命を賭して封印した暗黒の邪神。

そのガタノゾーアが、遥か3000年の時を経て復活したのである。

 

「………で、そのガタノゾーアって何なんだ?」

 

痺れを切らした様子でロベリアが尋ねた。

すると、グラン・マは厳しい表情のままで答えた。

 

「3000年前にティガに封印された、闇の邪神だよ。カミーラ達のボスって言った方が分かりやすいかもね。」

 

「でも、何でそんな奴が今になって現れたの?」

 

コクリコが最もな事を口にした。

カミーラ達を倒した直後に、非常にタイミング良く現れたガタノゾーア。

まるで、ずっと前からこの瞬間を狙っていたかのようだ。

 

「闇の巨人達は全てルルイエに封印されていた。ガタノゾーアもまたしかり。多分………。」

 

「我々とティガの光に反応して、目覚めたという事か………?」

 

グリシーヌの言葉が、全てを意味していた。

ガタノゾーアはティガと、そしてパリシィの末裔である巴里華撃団の光を察知し、ルルイエを浮上させたのである。

おそらく3000年前の悲劇を、巴里に齎すために。

 

「………!!ルルイエ周辺から、別の妖力反応!」

 

「これは………、間違いありません!ギアクーダですぅ!!」

 

その報告に、一同の視線は作戦司令室のモニターに集中した。

見ると、そこにはカミーラ達と共に巴里華撃団を散々苦しめた暗黒怪獣、ギアクーダの大群がルルイエから飛び立っていた。

まるで巴里の空を覆っている、破滅の黒雲のように。

 

「ま、まだあんなにいたなんて………!!」

 

ルルイエ内部で確認されたギアクーダの数はおよそ二千匹。

しかしモニターを見る限り、その程度の数ではない。

明らかに一万か、それ以上の軍勢が巴里に迫っていた。

 

「………どうする?とても相手に出来る数じゃないぜ?」

 

ロベリアが正論を口にした。

相手は万単位の大群。

僅か六人の巴里華撃団では、戦わずとも結果は見えていた。

 

「正面から挑むのは無謀だ。戦わずして済ませる方法はないだろうか………?」

 

普段なら先陣を切って正面から迎え撃つだろうグリシーヌが、意外にもロベリアに賛成した。

無論、グリシーヌも戦意を失った訳ではない。

こんな時あのサムライならどうするかを考えたら、この結論に至ったのである。

しかしガタノゾーアのいるルルイエは海の上だ。

徒歩はもとより、エクレールでも海上を輸送するのは難しい。

何よりギアクーダの軍勢を突っ切って行くため、それこそ危険だ。

上手い作戦が見つからず、重い沈黙が流れる。

 

「………方法なら、ない事もないよ。」

 

その沈黙を破ったのは、グラン・マだった。

途端に六人の視線がグラン・マに向けられる。

 

「ガタノゾーアはまだ復活したばかりで、完全に目覚めてはいないはず。リボルバーカノンでルルイエに直接突撃し、ガタノゾーアに集中攻撃をかければ、勝機はあるかも知れない。」

 

ガタノゾーアの力は、それこそ神を名乗れる程に恐ろしい。

しかし、どんな生命も生まれてすぐにその力を自在に操る事が出来るかと言うと、そうではない。

特にガタノゾーアは復活したばかりで、ギアクーダを出現させた以外は何も行動を起こしていない。

今の内に先手を打てば、万に一つの勝ち目はあるかも知れないし、もしかしたらガタノゾーアを倒す事でギアクーダも消滅するかも知れない。

だが、それでもガタノゾーアは戦うに余りある存在だった。

例えるなら、かつて帝国華撃団が叉丹のいる聖魔城に乗り込んだ時のような、それこそ全滅の危険を大いに孕んでいた。

 

「でもね………。ガタノゾーアはティガでも相打つのが精一杯の相手だ。アンタ達がこれまで戦って来た相手とは次元が違う。それでも、戦えるかい?」

 

グラン・マが尋ねた。

オーク巨樹の決戦は、大神を中心に巴里華撃団が一つにまとまり、すんでの所で解決に至った。

しかし今度は、パリシィなどという生易しいものではない。

巴里華撃団の絆を信用していない訳ではないが、今回ばかりはチームワーク云々で対処出来るような相手ではなかった。

3000年前に巴里を闇に包み込もうとした、伝説そのものが相手になるのだ。

しかし、目の前にいる六人の返事は、グラン・マの予想を見事に裏切った。

 

「………それで、アタシらが怖じけづくと思うか?」

 

「ロベリア………。」

 

最初に口火を切ったのはロベリアだった。

 

「考えてみなグラン・マ。こんな時、アイツなら何て言うか。」

 

グラン・マの脳裏に、大神が過ぎった。

ロベリアの心を盗んだあの黒髪の貴公子なら何と言うか。

答えは考える間でもなかった。

 

「我ら巴里華撃団、どんな敵が相手だろうと退く事はせん!」

 

力強い闘志はそのままに、されど以前とは違う表情で宣言するグリシーヌ。

 

「今までだって大丈夫だったじゃない。今度もきっと大丈夫だよ!」

 

仲間の安心感に恐怖を感じないのか、偽りのない笑顔を見せるコクリコ。

 

「また皆さんで帰って来ましょう。大神さんなら、きっとそう言うはずですから。」

 

必ず勝ち、生きて帰る。

大神が命令を無視してまで自分達に誓った事を口にして、決意の眼差しを見せる花火。

 

「大船に乗ったつもりで、もうバッチグーです!!」

 

いつものハイテンションとは裏腹に、真面目な表情で決意を述べるエリカ。

 

「僕らの心に光がある限り………、闇には絶対に屈しない!!」

 

そして、『光を継ぐ者』として未来を生きる事を選んだダイゴ。

 

「………アンタ達………。」

 

グラン・マは信じられないという表情で六人を見た。

オーク巨樹すら霞む程の相手、ともすれば決死の戦いになるかも知れないという状況で尚、六人の表情からは塵程の恐怖も不安もなかったのだ。

まるで、何者も恐れない、あのサムライのように。

 

「超古代の邪神だか知らないが、アタシら巴里華撃団を相手にするとはいい度胸じゃないか。纏めて潰してやるよ!」

 

ガタノゾーアに臆する事なく、ロベリアは掌に炎を浮かべて不敵な笑みを見せた。

勝てる根拠はない。

それでも六人の表情には、自分達まで勝てると思えてしまう程の輝きが、『光』があった。

 

「………分かったよ。アンタ達の様子を見たら、こっちまで安心出来ちまうね。誰に似たのやら………。」

 

口ではそう言うグラン・マだが、その表情は笑っていた。

まるで、勝利を確信したかのように。

 

「見せてみな!3000年の闇を打ち払う、アンタ達の決意と光を!!」

 

その言葉に弾かれ、ロベリアが立ち上がった。

 

「巴里華撃団・花組、出撃!!ルルイエを火葬場にしてやるよ!!」

 

「「了解!!」」

 

数十分後、巴里華撃団の姿は凱旋門支部にあった。

ガタノゾーアとの戦闘を前に、出来るだけ霊力は温存しておきたい。

そのためにはギアクーダの群れに構わず、敵の本拠地であるルルイエに乗り込む必要がある。

それにはグラン・マの進言通り、凱旋門支部にあるリボルバーカノンが不可欠だった。

 

「………。」

 

発射の準備が着々と進められる中、ダイゴの姿は凱旋門支部の前にあった。

空には一面に広がる、闇。

そして海の向こうにいる闇の権化。

 

「ティガ………。」

 

ダイゴは、懐の光の証、スパークレンスを取り出した。

闇である事を捨て、巴里と共にあり続ける事を誓った光の巨人。

その最後の使命を果たさんかのように、クリスタルは光を放っていた。

 

「これが、きっと最後の戦いなんだね………。」

 

ダイゴは穏やかな声で、クリスタルに語りかけた。

思えばもう一年になるだろうか。

エリカと出会い、ティガと出会い、光になった自分。

この一年、本当に色々な事があった。

嬉しい事ばかりではないけれど、それでもダイゴは巴里が好きになった。

だからこそ守りたかった。

この愛と平和と光に満ちた街を。

 

「ダイゴさん………。」

 

後ろから声がしたのは、その時だった。

 

「あ、エリカさん………。」

 

振り向くと、そこにはダイゴの愛した天使の姿があった。

おそらくダイゴがここにいる事を知らなかったのだろう。

エリカは驚いた表情でこちらを見つめていた。

一方のダイゴは、何も申し合わせていないのに巡り会えた事に運命的なものを感じていた。

 

「………、どうしたの?」

 

向かい合って最初に口を開いたのは、ダイゴだった。

すると、エリカは表情を戻してダイゴを見た。

 

「いえ………、外に出たらたまたまダイゴさんがいて………。」

 

何故外へ出たのか、ダイゴは敢えて聞かなかった。

聞いたところで気まぐれと返されるだろうし、今聞きたい事は他にあったからだ。

 

「………エリカさん。」

 

「………。」

 

「………不安なの?」

 

その言葉に、エリカの肩が震えた。

当たり前だとダイゴは思った。

何しろ敵は、3000年の眠りから覚めた邪神なのだ。

そんなオーク巨樹が霞む程の敵に本当に勝てるのか。

まだ十七の少女が、そんな不安に打ち勝てるはずもなかった。

 

「………はい、怖いです。」

 

エリカは、躊躇いがちに目を逸らした。

 

「あんな怪物と………、3000年前の伝説と戦うなんて………。」

 

「エリカさん………。」

 

「分かってます。でも………、不安なんです………。」

 

申し訳なさそうに俯くエリカ。

ダイゴはエリカに近づき、優しく声をかけた。

 

「エリカさん、覚えてる?ティガが完全に光に目覚めた、あの瞬間を。」

 

「………はい。」

 

それは、ルルイエの中心部におけるカミーラとの決戦の時だった。

カミーラの攻撃からエリカを庇ったティガは、カミーラの歪んだ愛をエリカとの純粋な愛で打ち消し、完全なる光の巨人となった。

 

「君の愛の光がなければ、きっと僕はまだ光と闇の間をさ迷っていたと思う。エリカさん、僕と君との愛は、それだけ強いものだった………。」

 

「………ダイゴさん………。」

 

突然恥ずかしい事を言われ、エリカは赤い顔でダイゴを見た。

ダイゴもまた、自分の言葉がやたら恥ずかしく感じていた。

 

「でも、それは必然なんだ。………何でか分かる?」

 

ダイゴが尋ねると、エリカは首を横に振った。

 

「それはね………、ティガがエリカさんの先祖を愛していたからだよ。多分、3000年前からずっと………。」

 

あのティガの記憶に写ったエリカそっくりの少女。

あれはおそらく、超古代に生き抜いたパリシィの一人。

エリカの先祖、もしくは生まれ変わりとも言えるだろう。

間違いなくティガは、彼女を愛していた。

おそらく3000年の間ずっと。

 

「互いに光を受け継いで、3000年経って………、やっとこうして巡り会えたんだ。こんな形で、終わりたくないでしょう?」

 

エリカは無言で頷いた。

3000年の時を越えて、ようやく巡り会えた二人。

その光が再び闇に閉ざせる訳には、断じていかなかった。

 

「エリカさん………。」

 

ダイゴはそっと、エリカの手を取った。

 

ダイゴの言う通り、エリカは不安だった。

かつて巴里の街を壊滅寸前にまで追い込んだ邪神。

その力は、それこそ底の見えない闇のように深いものだ。

そんなものに、パリシィの怨念からようやく守った巴里を、そしてダイゴを失いたくはない。

しかし、自信はなかった。

相手は伝説に名を残す超古代の怪物。

先程はみんなが目の前にいたから、

 

『今度もきっと大丈夫』

 

そう思えた。

しかし、一人になって冷静に考えてみると、自分達が何て無謀な戦いを挑もうとしているかが自然に分かる。

ただでさえドジな自分が何か一つでも失敗すれば、それは巴里華撃団全滅を意味している。

いけない。

エリカは思った。

この暗い感情を空にうごめく闇のせいに出来たらどんなに楽か。

先程はたまたまと言ったが、それは嘘だ。

エリカは自分の胸に去来する不安を、ダイゴに側にいてもらう事で払おうとしていた。

 

「ダイゴさん………!」

 

包まれた手から伝わる懐かしい暖かさ。

気が付けば、エリカはダイゴの胸に飛び込み、しがみつくように顔を押し付けた。

 

「きっと……、きっと帰ってきてください……! 一人に……しないでください……」

 

「大丈夫………、きっと大丈夫だよ………。」

 

背中に両手を回し、ダイゴが耳元で優しく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リボルバーカノン、リフトアップ!!」

 

「巴里華撃団隊員は、衝撃に備えて下さい!」

 

グランマの命令と同時に、凱旋門が大きく変形した。

シャンゼリゼの道路が真っ二つに割れ、中から超巨大なリボルバーが姿を現す。

 

「リフトアップ完了!」

 

「照準システム、作動開始します!」

 

幸い漆黒の雲はまだ海の上。

リボルバーカノンはやはりその中を突っ切る事になるが、超高速の弾丸なら大した問題ではない。

ガタノゾーアが完全に目覚めるまでは正に時間勝負。

とにかく一分一秒が大事だった。

 

「………、カタコンベ地下より、妖力反応を確認!!」

 

それは順調に作戦が進み、いよいよ発射に差し掛かる時だった。

凱旋門支部のレーダーに、ギアクーダの軍勢とは別の妖力反応が現れたのである。

途端に司令室の空気が更に緊迫したものに変わった。

 

「ここからの距離は!?」

 

「約15キロメートル!こちらに接近しています!!」

 

「チッ、カタコンベの地下通路か………!!」

 

メルの報告に、グラン・マは舌打ちをした。

ルルイエが浮上したからと言って、必ずしもカタコンベの通路が閉じた保障はない。

おそらく別の怪獣が地下通路を通ってこちらに向かっているのだろう。

グラン・マはシーの方を向いた。

 

「照準は?」

 

「あと120秒ですぅ!!」

 

敵のスピードからして、おそらく間に合わない。

グラン・マは悔しげに表情を歪めた。

以前の帝都出陣の際に完成した照準システム。

その唯一の欠点は、照準を完全に合わせるのに僅かに時間がかかる事だった。

とはいえ相手は遥か海の向こうにいる。

とてもではないが目視で照準を合わせるのは危険過ぎた。

 

「妖力反応増大!地上に出ます!!」

 

メルか言い終わらない内に、凱旋門付近の道路が土煙を上げて寸断された。

そして、土煙の向こうに現れた妖力反応の正体に、誰もが驚愕した。

いや、グラン・マは驚きつつも、怪獣の正体を知っていた。

 

「………ギアクーダ………!!」

 

それは、巴里近海を飛行している怪獣と同じ姿の怪獣だった。

 

「グガァァァッ!!」

 

悍ましい咆哮が轟いた。

ギアクーダは一直線に、凱旋門支部に迫る。

 

「シー!照準は!?」

 

「あと85秒ですぅ!」

 

「怪獣の攻撃、来ます!!」

 

刹那、ギアクーダの巨体が凱旋門支部にたたき付けられた。

 

「くっ!」

 

「きゃあっ!!」

 

以前のゴブニュ以上の激しい衝撃に倒れるグラン・マ達。

更にギアクーダは、次の狙いをリボルバーカノンに定めた。

 

「まずい!あのままじゃあの子らが………!!」

 

グラン・マの表情が凍り付いた。

リボルバーカノンが破壊されては、巴里華撃団をルルイエに送り込む事が出来ない。

それどころか、リボルバーカノンの射出カプセルにいる彼らは脱出する事すら出来ないのだ。

マキシマ砲はダイゴのエル・クランと共にカプセルの中。

もはや万事休すだった。

 

「グガァァァッ!!」

 

勝ち誇った様子で腕を振り上げるギアクーダ。

だがその時、遥か上空から叫び声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッツ、ショータイム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、若い男の声だった。

刹那、黒雲の奥から三つの光が疾駆して来た。

光は猛スピードでギアクーダに殺到する。

 

「昴、今よ!」

 

今度は若い女の声がした。

すると、無感情な返事が返って来た。

 

「了解。」

 

おそらく昴と呼ばれた人物だろう。

光の一つが三つに分裂し、ギアクーダを直撃した。

正に息もつかせぬ一撃を受け、ギアクーダは大爆発を遂げる。

そして、三つの光が凱旋門支部前に降り立った。

 

「「紐育華撃団、レディ・ゴー!!」」

 

それは、光武F2にも似た新型の霊子甲冑だった。

いや、カメラが一つである事や高い飛行能力は、かつての欧州星組のアイゼンクライトを想起させる。

 

「巴里華撃団の皆様、お待たせしました!」

 

中央で小型ナイフをちらつかせる銀色の霊子甲冑が叫んだ。

何が起こったのか状況が読めない一同だったが、グラン・マだけは安堵の表情を見せた。

 

「間に合ったみたいだね、迫水支部長。」

 

「いえいえ、本当は昨夜着いたんですが。」

 

その声ど同時に作戦司令室の扉が開き、凱旋門支部長が姿を現した。

迫水はこのガタノゾーアの復活に備えて渡米。

結成して間もない霊的組織、紐育華撃団に巴里華撃団の支援を依頼したのである。

 

「我ら紐育華撃団星組!ラチェット・アルタイル、九条昴、ハワード・アンバースンの三名、着任致します!」

 

星組の若い隊長、ラチェットが力強い声で着任を伝える。

すると、照準システムを睨んでいたシーが叫んだ。

 

「照準システム、固定完了!発射準備、完了しましたぁ!!」

 

それが合図となった。

グラン・マは遥か海上に居座る邪神を睨み、叫んだ。

 

「リボルバーカノン、発射!!」

 

巨大なリボルバーが火を噴いた。

間髪入れずに六つの弾丸が巴里の街を突き抜ける。

その様子を見届け、グラン・マは呟いた。

 

「さて………、これからだね。」

 

それに合わせ、三つの霊子甲冑は各々の武器を手に仁王立ちになった。

ナックルの付いた腕で構える赤。

投擲用のナイフをちらつかせる銀。

舞踊に用いる鉄扇を持つ紫。

そして、その前に群がる無数のギアクーダ。

 

「さぁて、最初に死にてぇのはどいつだ?」

 

「昴は言った。最初に死ぬのは油断するやつだと。」

 

「記念すべき初陣よ。私語は慎みなさい。」

 

帝都、巴里に続く紐育華撃団。

その初舞台が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超古代都市ルルイエ。

3000年の時を経て海底から蘇った姿は、超古代の歴史を感じさせる。

闇に支配され、闇と共に封印された忌まわしき地。

その一角に、巴里を照らす六つの光があった。

 

「巴里華撃団、参上!!」

 

色違いの光武F2と、その上に控える勇気の翼。

闇のうごめく邪神の住家において尚、その光が弱まる事はなかった。

 

「正に呪われた都市だな………。ここにガタノゾーアが………。」

 

身の毛もよだつ殺気を感じつつ、グリシーヌはバトルアクスを握る手に力を込めた。

巴里近海に浮上したルルイエは小さな島一つ程の大きさを誇り、オーク巨樹はおろかシテ島ともタメを張れる程だ。

多くの建物が海面から顔を出し、かつての道は海水が貯まって水路のようになっている。

 

「キキキ………!!」

 

そのルルイエ一帯を埋め尽くすように、小型ギアクーダの大群が目の前でうごめいていた。

 

「ルルイエ中心部から、より強力な妖力反応が見られます!!」

 

「そこに間違いありませぇん!急いで下さぁい!!」

 

メルとシーの通信を受け、ロベリアが叫んだ。

 

「よし、一気に突っ切るぞ!立ち止まるなよ!!」

 

「「了解!!」」

 

こんな大群をいちいち相手にしていたら埒が開かない。

そう判断したロベリアは、ギアクーダの群れを突っ切って一直線にガタノゾーアのいるであろうポイントに向かう事にしたのである。

ロベリアの命令を合図に、巴里華撃団は一斉に怪獣の群れに突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………中々の暴れっぷりじゃないか。これが新世代の華撃団かい。」

 

眼下で繰り広げられる戦いの様子を眺め、グラン・マが呟いた。

元欧州星組の二人、ラチェット・アルタイルと九条昴を含めた紐育華撃団。

隊員は僅か三名ながら、華麗な戦い振りでギアクーダ相手に奮戦していた。

 

「………如何ですかな?ミセスグラン・マ。」

 

緊迫した状況に不釣り合いな呑気な声が背後に聞こえた。

 

「ああ、驚きだね。これがアンタの趣味かい?ムッシュサニーサイド。」

 

振り向いた先にいる人物に、グラン・マは意味深な笑みを浮かべた。

若々しさの目立つ眼鏡の好青年。

彼こそ迫水の依頼を受けて巴里華撃団支援に駆け付けた紐育華撃団の総司令、マイケル・サニーサイドである。

 

「趣味と言う程ではありませんよ。霊的組織と言っても、光武ばかりでは民衆ががっかりですから。」

 

「それでこの新型霊子甲冑かい。さっきの飛行能力といい、本当にやる事が派手だね………。」

 

紐育華撃団星組。

彼らの操る霊子甲冑は、『スター』と呼ばれる全く新しいスタイルのものだった。

元々欧州星組の内の二人がいる事から、サニーサイドはかつて彼女達が使用していたアイゼンクライトをベースにこれを考案したのである。

ラチェットの操るシルバースター。

昴の操るランダムスター。

そしてハワードの操るバーニングスター。

それぞれ得意な武器に合わせて機体そのものに工夫がされており、乗り手の技術も相まって次々と闇のしもべ達を沈黙させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りに間違いないな………。」

 

グリシーヌの言葉に、五人は無言で頷いた。

ギアクーダの大群を突っ切ってやって来たのは、ルルイエの中心部。

ちょうどティガが光に目覚め、カミーラとの決着をつけた場所だ。

 

「皆さん、気をつけて下さい!」

 

「その辺り一帯の妖力が跳ね上がってますぅ!!」

 

その通信が終わらない内に、激しい震動がルルイエを揺るがした。

そして放射状に広がった足場がゆっくりと離れ始め、中央の水路に大きなスペースが出来る。

 

「………いよいよお出ましって訳か。」

 

獲物を見つけた鋭い視線をルルイエの中央に向け、ロベリアが凄絶に笑う。

すると、開いたスペースの水路が盛り上がり、巨大な水の柱が現れた。

 

「こ、これは………!?」

 

グリシーヌが驚きに目を見開いた。

いや、彼女だけではない。

その場にいた誰もが、驚かずにはいられなかった。

水の柱の中から現れたのは、想像を絶する怪物だった。

鮫のように並んだ鋭い牙と、その下にある血のように赤い二つの目。

まるで上下を逆さまにしたような顔。

アンモナイトを想起させる身体を半分海に沈め、周囲からは無数の触手がうごめいている。

この世のものとは思えぬ醜悪なる姿。

これこそ遥か3000年前の超古代、巴里を恐怖のどん底に突き落とした化け物。

 

「ギェェェェ………!!」

 

邪神、ガタノゾーアだった。

 

「これが………、超古代の邪神………。」

 

「何と言う悍ましさ………。立っているだけで震えが来る………!!」

 

何もしていないにも関わらず、瞬殺されてしまうかのような威圧感。

その悍ましいまでの姿にうごめく果てしない闇は、正に邪神の二文字が相応しかった。

 

「ダイゴさん………。」

 

エリカは、不安な表情を隠せないままダイゴを見た。

3000年前のティガでも相打つのがやっとの相手。

本当に勝てるのか。

生きて帰れるのか。

あの時のダイゴの温もりは今でも覚えている。

それがこの戦いで無くなるかと思うと、怖くてたまらなかった。

 

「エリカさん………。」

 

モニターに写るダイゴの顔が笑った。

 

「大丈夫。光がある限り、僕は絶対に負けない。」

 

そう言って、ダイゴはポケットにしまっていた光の証、スパークレンスを手に取った。

あのカタコンベの邂逅から、幾度となく自分を、そして巴里を守り続けて来た超古代の遺産。

その最後の役目を果たさんと、クリスタルは今まで以上に輝きを放っている。

 

「ティガ………、僕に勇気を授けてくれ………!!」

 

目を閉じて祈るように呟くと、ダイゴは目の前の邪神を睨んでスパークレンスを掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティガーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャーッ!!」

 

闇のうごめくルルイエの中央に、一筋の光が現れた。

ウルトラマンティガ。

超古代に闇を封印した、伝説の巨人。

遥か3000年前の戦いに、終止符が打たれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティガは変身して早々、ガタノゾーアに圧倒された。

凱旋門にもタメを張れる程の巨大な身体。

ティガですらヒケを取るその威圧感で、邪神はこちらを見下ろしていた。

 

「ハッ!」

 

ティガは僅かに距離を取り、ハンドスラッシュを放った。

幸い相手は巨体にものを言わせて戦闘体勢はとっていない。

先手必勝の言葉通り、ティガは先制攻撃を仕掛ける事にしたのである。

だが、そんなティガの思惑は脆くも崩れ去った。

 

「チャッ………!!」

 

何と、ガタノゾーアの皮膚はハンドスラッシュを容易くいなしてしまったのである。

着弾箇所は僅かに白い煙を上げただけで、かすり傷一つついていない。

 

「ハッ!」

 

ティガは一転して、接近戦を試みた。

ハンドスラッシュが全く通用しないのでは話にならない。

しかしガタノゾーアの皮膚は異常なまでに固く、ティガの激しいラッシュにも動じる様子がない。

 

「ハッ!ハッ!チャッ!」

 

尚も絶え間無くパンチを浴びせるティガ。

だがその時、唐突な反撃がティガを襲った。

 

「ジュワッ!?」

 

何と、海面から現れた触手の一本がティガの左腕に巻き付いたのである。

その思いの外頑丈な触手に腕を引っ張られ、ティガの攻撃の手が止まる。

ガタノゾーアは、そこへ更なる追い撃ちをかけた。

 

「ジュワッ!?」

 

ティガの足元を、別の触手が掬い上げた。

たちまちバランスを失い、ティガは仰向けに倒れる。

 

「まずい………、あの触手を断ち切らねば!」

 

戦況を見ていたグリシーヌが声を上げた。

見た目ではよく分からないが、どうやらかなりの力らしい。

見ると触手は、ティガの手首に食い込んでいた。

 

「仕方ねぇ………、花火!」

 

「お任せを!」

 

ロベリアの指示を受け、花火は十二分に引き絞った弦から手を離した。

刹那、一本の矢が音速の速さで触手を貫く。

 

「チャッ!」

 

ティガは手首に残った触手を引きはがし、両手を胸の前で合わせて左右に広げた。

その軌道に沿って光の筋が現れ、膨大なエネルギーが集約される。

 

「ハッ!!」

 

L字に組まれた腕から、必殺のゼペリオン光線が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャッ………!?」

 

「う、嘘………!!」

 

その場にいる誰もが、目を疑った。

確かにゼペリオン光線は命中したはず。

しかし、ガタノゾーアの身体は煙こそ上げているものの、全くダメージを負った様子がない。

 

「ギェェェェッ!!」

 

驚きを隠せない一同を尻目に、ガタノゾーアはティガ目掛けて再び触手を伸ばす。

それに気付いたティガは、両手を額の前で交差させてクリスタルを発光させた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

刹那、ティガの身体の色が紫に変わる。

超スピードで空を舞う、スカイタイプだ。

 

「チャッ!」

 

勢い良く空へ飛び上がり、迫り来る触手を避けるティガ。

そして、両手を左右に水平に広げ、頭上で重ねた。

 

「ハァァァ………、」

 

頭上から左腰に降ろされた両手が、淡い光を放つ。

ティガは真下にいる邪神を見据え、右手を突き出した。

 

「ジュッ!!」

 

右手の先から幾つものランバルト光弾が発射された。

青白い光弾は次々とガタノゾーアのいる海面を直撃し、爆発する。

一つの爆発が更なる爆発を誘発し、たちまちルルイエの中心を大爆発が覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュワッ!?」

 

青白い光の中から突然現れた触手が、ティガに襲い掛かった。

完全に不意を突いた触手はティガの首に巻き付く。

そして、ティガの身体を海面にたたき付けた。

 

「ダイゴさん!!」

 

思わずエリカが叫んだ。

今のスピードは尋常なものではなかった。

海面とはいえ今の攻撃は、大ダメージ必至の一撃だ。

 

「チャッ………!!」

 

何とか海面から姿を見せたティガ。

しかし、その首には未だガタノゾーアの触手が巻き付いている。

 

「ダイゴさ………きゃあっ!?」

 

触手を射抜こうと矢を構える花火だったが、それより早く高波が巴里華撃団を襲った。

激しい波は堪えるのがやっとで、とても攻撃に転じる余裕がない。

それに気付いたのは、ティガも同じだった。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

エリカ達を助けたい。

光を継いだ少年の無垢な願いは、巨人に再び力を与えた。

額のクリスタルが発光し、ティガの身体が赤に変わる。

超怪力で大地を揺るがす、パワータイプだ。

 

「ンゥゥゥ………!!」

 

ティガは渾身の力で、首に巻き付いた触手を握り締めた。

そして、

 

「チャーッ!!」

 

裂帛の気合いと共に、触手が音を立てて引き千切れた。

ティガはそのまま両手を外側から大きく回転させる。

 

「ハァァァ………!!」

 

圧縮されたエネルギーがボール状となって、胸の前でティガの両手に収まる。

ティガは更に、両手を徐々に広げてエネルギーボールを肥大化させた。

掌サイズのエネルギーボールは、たちまちに超巨大な火球、デラシウム光流へとその姿を変える。

 

「チャァァァッ!!」

 

押し出された火球は海面スレスレを走り、ガタノゾーアに触れるや激しい大爆発を引き起こした。

その凄まじさ、先程のランバルト光弾のそれを大きく上回る程である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな………!!」

 

「馬鹿な!あれだけの攻撃を受けて、無傷だと!?」

 

目の前に飛び込んで来た状況に、巴里華撃団は唖然とした。

ランバルト光弾に続くデラシウム光流の大爆発。

しかしガタノゾーアは、そのティガの猛攻を毛ほどにも感じていない様子だった。

それだけではない。

大技の連発で、ティガのカラータイマーが遂に点滅を始めたのだ。

 

「チャッ………!!」

 

最早時間もない。

ティガは怪力にものを言わせ、最後の抵抗とばかりにガタノゾーアに殴り掛かった。

しかし、邪神の巨体はパワータイプの怪力を以ってしても、まるで動じる事はなかった。

 

「ジュワッ!?」

 

邪神の口から、霧状の闇が吐き出された。

刹那、霧に塗れたティガの身体から次々と火花が散る。

 

「ギェェェェッ!!」

 

闇の霧に苦しむティガに、海面からガタノゾーアの腕とおぼしき鋏が襲い掛かった。

ろくにダメージも与えられぬまま、再び海面に沈むティガ。

その時、ティガの額のクリスタルが三度発光した。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

再びマルチタイプに戻ったティガは、ゼペリオン光線を放つべく起き上がり様に両手を左右に広げた。

だが、邪神はそれ以上の攻撃を許さなかった。

 

「ジュワッ!?」

 

何と、目一杯に広げられたティガの右腕を、先程現れた鋏が挟み込んだのである。

それと同時に、左腕に別の触手が巻き付く。

攻撃はおろか、完全に身動きを封じられたティガ。

そんなティガをなぶるかの如く、ガタノゾーアは再び闇の霧を吐き出した。

 

「ジュワッ!!」

 

反撃はおろか避ける事も出来ず、苦しむティガ。

邪神が一瞬勝ち誇ったような笑みを見せる。

そして………、

 

「ギェェェェッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、エリカは目の前で起こった出来事が信じられなかった。

邪神に身動きを封じられたティガの背中を、一条のレーザーとおぼしき光線が突き抜けた。

その直後、カラータイマーの点滅が消え、鋏と触手が外されたティガの身体が海面に沈む。

 

「ダイゴ!!」

 

誰かの叫び声が聞こえた気がした。

そんな声も、エリカの耳には朧げにしか聞こえない。

何があった?

今、何があった?

そう自問するエリカの前で、再びティガが海面から姿を見せた。

既にカラータイマーの点滅は止まっているにも関わらず、尚も戦おうとするティガ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そこまでだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………?」

 

最後の力で海面から姿を見せたティガ。

だがその直後、ティガの身体に異変が起こった。

 

「ダイゴ………さん………?」

 

別人のようなか細い声で、エリカは愛しい少年の名を呼んだ。

だが、返事は返って来ない。

何故なら、ティガの身体は海面から出ると同時に石像と化してしまったからである。

 

「嘘………でしょ………?ダイゴさん………。」

 

エリカの呼び掛けに、沈黙を守る石像。

それが3000年の果てに巡り会った恋人の死だと気付くのに、大した時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

「ダイゴさぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

天使の慟哭が、闇の魔城に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………オーナー………、ティガが………。」

 

ティガ敗北の報は、凱旋門支部にも届けられた。

必死に悲しみを堪えるメルの報告に、グラン・マは呆然となった。

 

「何と………言う事だ………。」

 

先に口を開いたのは迫水だった。

ティガの石化。

復活した邪神に対抗しうる唯一無二の存在だった彼の消失は、巴里の破滅を現していた。

 

「ダイゴ………。」

 

脳裏に浮かんだ少年の笑顔を思い浮かべ、グラン・マは胸が張り裂けそうになった。

 

「………あの娘らに、退却命令を出しておくれ。」

 

グラン・マは、涙を呑んで指示を与えた。

今は悲しみに沈んでいる場合ではない。

ティガを失った巴里華撃団がガタノゾーアに勝てる確率は限りなく0だ。

一刻も早く五人を退却させ、この街を離れる必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーナー!花組側より、退却命令を拒否するとの返信が!」

 

「皆さぁん!早く逃げて下さぁい!!」

 

メルとシーの表情が一変した。

何と、巴里華撃団が退却命令に応じないと言うのだ。

グラン・マは反射的に通信を繋げた。

 

「アンタ達何してるんだい!早く脱出するんだよ!!」

 

「………悪いが、その命令には従えぬ。」

 

最初に返事を返したのはグリシーヌだった。

 

「ダイゴはまだ石像と化したに過ぎん。何らかの方法で、巨人に戻す事が出来るはずだ。」

 

「馬鹿言ってんじゃないよ!ガタノゾーアが何もなしにさせる訳がない!」

 

確かにティガは石像に戻っただけで、復活の余地は残されている。

しかし、目の前の邪神がそんな事を許すはずがない。

ティガを軽く捻り潰した力だ。

巴里華撃団などガタノゾーアにとって、烏合の衆に過ぎないだろう。

しかし、少女達は尚も退却を拒んだ。

 

「確かにグラン・マのおっしゃる事は正論です。しかし、このままダイゴさんを放っておけば、間違いなくガタノゾーアに殺されてしまいます。」

 

「イチローならこんな時、逃げたりなんかしないよ!」

 

「『希望を捨てては駄目だ』。生憎アタシらの希望は、まだ消えちゃいないんでね。」

 

「アンタ達………。」

 

グラン・マは彼女達の言葉が信じられなかった。

その場にいる五人に退却の意志はない。

それどころか、この状況において尚ガタノゾーアに挑もうとしている。

直後のエリカの言葉が、それを如実に物語っていた。

 

「私達、ダイゴさんのいない未来なんてこれっぽっちも欲しくありません!!」

 

みんなで生きて帰って来る。

かつて大神が、命令に反してまで彼女達に訴えた言葉だ。

そのサムライの心は、確かに彼女達の中に受け継がれていた。

 

「通信、遮断されました………。」

 

メルの力の無い声が、作戦司令室に響く。

すると、一番後ろにいたサニーサイドが、手元の携帯通信機を操作した。

 

「こちらサニーサイド。………ああ。………そうだ。うん、よろしく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラン・マの退却命令を拒否した巴里華撃団は、ティガの石像を半円状に囲むようにルルイエの建物に離れて立った。

彼女達の考えたティガ救出作戦。

それは、闇に転じたティガを光に目覚めさせた時のように、自分達の霊力を再びティガに与えようというものだった。

しかし、今回は上手くいく保障はない。

あの時のティガは闇でこそあったが、実際に生きて動いていた。

しかしティガは今、全ての光を失って物言わぬ石像と化している。

この状態のティガを、霊力で復活させられるのだろうか。

仮に出来るとして、ただでさえギアクーダとの戦いで霊力を消耗した五人にそれが出来るだろうか。

更にもう一つ問題があった。

先程のティガとガタノゾーアの戦いに反応し、ギアクーダがルルイエの中央に集まり始めたのである。

時間は、残されていなかった。

 

「よし………、始めるぞ。」

 

ロベリアの言葉を合図に、五人は目を閉じて残り少ない霊力を集中させた。

たちまち淡い光を放ち始める光武F2。

その光がルルイエの中央に浮かぶ石像に照射される。

 

「(ダイゴさん………!)」

 

エリカは、心の中で叫んだ。

巴里の街で初めて知り合ったダイゴ。

ヤキモチを焼く程に自分を愛してくれたダイゴ。

そして、ウルトラマンティガとして巴里を守り続けて来たダイゴ。

エリカの願いはただ一つ。

 

「(神様、お願いです!もう一度………ダイゴさんに会わせて!)」

 

全てを知った今ならハッキリと分かる。

自分とダイゴの出会い。

それが3000年の間、少しも褪せる事のない愛の証だった事が。

今のエリカに、巴里の平和など眼中になかった。

ただダイゴを助けたい。

もう一度ダイゴに会いたい。

そして、あの温もりに触れたい。

エリカは神にも縋る思いで、祈るように霊力を捧げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギェェェェッ!!」

 

邪神はその願いを、嘲笑で返した。

巨体が海底を踏み鳴らし、激しい高波がルルイエの中央から牙を剥く。

 

「チッ、気付きやがったか!」

 

ロベリアが悔しげに顔を歪めた。

ただでさえギアクーダ戦で消耗した今の巴里華撃団に、高波をそのまま持ちこたえるだけの耐久力はない。

 

「くっ………!あと一歩という所で………!!」

 

グリシーヌが邪神を睨んだ。

自分達がティガに与えようとした光も、ガタノゾーアの闇に掻き消されてしまっている。

更にギアクーダの大群がルルイエの中央に迫り、逃げようにも逃げようがなかった。

正に絶体絶命。

成す術がなかった。

 

「どうしよう………!これじゃダイゴに霊力が………!!」

 

「それにこれだけの数、今の私達だけでは………!」

 

「諦めるな!今我らが諦めれば、巴里は闇に呑まれてしまうのだぞ!?」

 

コクリコと花火を勇気付けるグリシーヌ。

しかし、現状がそう簡単に覆せる状況でない事は、グリシーヌ自身も分かっていた。

抗いようのない闇の力の前に、敗北を想起する巴里華撃団。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

それは、突然の出来事だった。

何かがこちらに近づいて来るような気配を感じたかと思うと、上空から一筋の光が飛来した。

否、それは光ではなかった。

 

「あれは………!?」

 

それを目にした瞬間、エリカは驚きの余り目を見開いた。

戦闘機のようにも見える赤い機体。

それが霊力を身に纏い、残像を残す程の速さで数体のギアクーダを屠って見せたのである。

 

「よう、間に合ったみてぇだな。」

 

目の前を飛行している機体から、通信が入った。

鋭い三白眼と、短い金髪。

その正体にいち早く気付いたのは、ロベリアだった。

 

「お前………、まさか紐育華撃団の………!!」

 

すると、モニターの青年はニヤリと笑って見せた。

 

「御名答。紐育華撃団星組、ハワード・アンバースンのお出ましだぜ。」

 

突如ルルイエに現れた謎の機体。

その正体は、紐育華撃団のハワード・アンバースンが操る、バーニングスターだった。

ティガ敗北の報が凱旋門支部に齎された直後、サニーサイドはハワードに通信を繋げ、巴里華撃団の救援を命令したのである。

 

「そのティガとかいう奴を助けるんだろ!?奴の足止めをしてやるから、早いとこケリをつけちまえ!!」

 

言うが早いか、ハワードは猛スピードでガタノゾーアに迫った。

 

「ギェェェェ………!!」

 

ガタノゾーアも目の前に迫るハワードにターゲットを移し、触手を伸ばして来る。

しかし、ハワードは触手の攻撃を難無くかわし、すれ違い様にミサイルを顔面に撃ち込んだ。

 

「ギェェェェッ!!」

 

やはり煙が上がっただけでダメージはないようだが、至近距離からの一撃でガタノゾーアは一瞬怯んだ。

ハワードは更に、先程の残像を残す超スピードで、触手の一本を切り裂いて見せた。

超古代の邪神を相手に、たった一機の霊子甲冑で見事なまでの戦い振りを見せるハワード。

その姿に、巴里華撃団は思わず目を丸くした。

 

「皆さん!今の内にダイゴさんを!!」

 

エリカがハッとした様子で叫んだ。

ガタノゾーアはもちろん、周囲を取り巻くギアクーダもハワードの方に注意を向けている。

今ならもう一度霊力を光に変えて送り込み、ティガを蘇生させられるかも知れない。

五人の隊員達は互いに頷き合い、再び霊力を集中させた。

再び光武F2を光が包み、ティガに照射される。

その時、別の光が飛来し、ティガのカラータイマーに吸い込まれた。

 

「え………?」

 

気配でそれを感じたエリカが、閉じた目をゆっくりと開く。

そして、目の前の光景に声を失った。

 

「こ、これは一体………!?」

 

「光が………、集まって来る………!!」

 

他の隊員達も同様に、目の前で発生している状況に驚きを隠せずにいた。

それもそのはず。

何故なら何処からともなく現れたたくさんの光が、次々にティガのカラータイマーに吸い込まれていくからである。

 

 

 

 

 

その発端は、ハワードが凱旋門支部を飛び出した直後に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴里の街は、オプスキュールやオーク巨樹を越える壊滅的被害を受けた。

空を縦横無尽にギアクーダが飛び交い、街のあちこちで火柱が上がる。

正しくこの世の終わり。

3000年の伝説に従い、巴里の街は滅びようとしていた。

絶望に沈む巴里。

その街一帯に、ある人物の声が響き渡った。

 

「こちら巴里華撃団総司令部。巴里の皆さん、聞いて下さい!」

 

それは、グラン・マの声だった。

普段は市民に避難を呼び掛けるためのスピーカーで、グラン・マは巴里の市民に訴えかけているのだ。

 

「皆さん、希望を捨てないで下さい!私達人間の、巴里に生きる人達の希望がある限り、ティガは必ず現れます!」

 

ティガは確かにガタノゾーアに敗れた。

しかし、自分達が希望を捨てない限り、ティガは決して死なない。

証拠はないが、そうグラン・マは確信していた。

 

「ティガは巴里の守護神ではありません。私達と共に、巴里の未来を歩む存在なのです。ティガが光であるように、私達も光があるはずです!その光を、ティガに与えて下さい!」

 

今、巴里華撃団が、娘同然の少女達が、命を危険に曝してまでティガを助けようとしている。

それなのに、自分達ばかりただ助けを待っていて良いはずがない。

 

「ウルトラマンティガは、今まで何度も私達を守って来てくれました。今度は私達がティガを守る番です!巴里市民の皆さん、貴方達の希望を、光を、ティガに与えて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが止まっていた。

時間、空間、景色。

何もかも動く事をやめ、動く事を諦めた。

何も見えない闇の中。

そこに、僅かに声が聞こえた気がした。

 

「(え………?)」

 

耳に心地好く響く、優しく暖かい声。

その声に、閉じられた瞼がゆっくりと開かれた。

何もない暗闇。

しかしその奥にたった一つ、まばゆい光が見えた。

 

「(あれは………。)」

 

遠く離れた光に目を凝らす。

すると、その光の中からこちらに向かって駆けて来る一つの人影が見えた。

 

「(誰………?)」

 

逆光になってよく見えない。

しかし、少ししてその姿に見覚えがある事を思い出した。

一歩一歩こちらに近づく度に、長い茶髪が跳ね、赤いスカートがヒラヒラと舞う。

それは、自分が3000年の間愛し続けた天使の姿だった。

 

「………、エリカさん!」

 

初めてダイゴが声に出して叫んだ。

すると、僅かにしかなかった光が一瞬にして周囲の闇を打ち払った。

たちまち光につつまれる周囲。

ダイゴは目の前の状況に驚きながらエリカの方を向く。

 

「ダイゴさん!」

 

自分の名を呼びながら、こちらに走って来るエリカ。

しかしその後ろから、更に走って来る人影があった。

 

「グリシーヌ!ロベリア!コクリコ!花火さん!」

 

それだけではない。

四人の後ろからは更にたくさんの人々の姿があった。

レノ神父やグラン・マ。

迫水大使メルとシー。

ロランス卿やタレブー婦人。

エビヤン警部にホセ補佐官。

貴族のダニエルと、ボーイのドミニク。

その他、ダイゴも知らないような人達がこちらに向かって走って来た。

みんな、巴里に住む人々。

巴里に生きる人々だ。

ダイゴはその光景に、涙が出そうになった。

エリカやレノ神父だけでなく、名前も知らない人達までもが自分を呼び、笑いかけて来る。

それを、光と言わずして何と呼ぶのか。

歓喜に震えるダイゴの目の前に光が現れたのは、その時だった。

何処か懐かしく、暖かい光。

ダイゴは、その正体を知っていた。

右手を目一杯に伸ばし、光に触れる。

そして、エリカ達が自分を呼ぶ声に続いて心の中で光の名を叫んだ。

 

「ダイゴ!!」

 

「ダイゴ!!」

 

「ダイゴ!!」

 

「ダイゴさん!!」

 

「ダイゴさん!!」

 

「ティガーーーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇に覆われたルルイエの中央に、まばゆいばかりの光が柱となって現れた。

その神々しいまでの光に、ギアクーダはもちろんガタノゾーアまでもがたじろぐ。

まるでルルイエに蔓延る闇の全てを打ち払わん限りの光。

やがてその中から、一つの影が現れた。

赤、銀、紫の体色。

乳白色の目と、空色のカラータイマー。

そして、ガタノゾーアとタメを張る程の巨体と、その全身を包み込む黄金の光。

 

「グリッター………、ティガ………!!」

 

天使が、驚愕の表情でその名を口にした。

グリッターティガ。

かつてパリシィの光と同調したティガが見せた、大いなる黄金の巨人。

巴里華撃団と巴里に生きる人々全ての希望が一つとなり、ウルトラマンティガをグリッターティガへと覚醒させたのである。

 

「チャッ!」

 

黄金の巨人が、邪神目掛けて拳を突き出した。

刹那その軌道に沿って、黄金の光が光弾となってガタノゾーアに炸裂した。

 

「ギェェェェッ!?」

 

先程までの光景が嘘のように、ガタノゾーアの巨体が大きく後ろに吹っ飛んだ。

ティガは続けざまに、キックを叩き込む。

 

「ハッ!!」

 

今度は足の先から光弾が飛んだ。

光弾はやはりガタノゾーアの巨体を紙屑のように吹き飛ばす。

 

「ギェェェェッ!!」

 

後ろの建物を薙ぎ倒し、半身を海に沈められたガタノゾーアは、怒りの雄叫びと共に触手を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!」

 

今度はガタノゾーアが驚く番だった。

ティガは徐に身体に巻き付いた触手を掴み、先程までパワータイプでやっと引き千切れた程の触手を、いとも容易く断ち切って見せたのだ。

 

「ギェェェェッ!!」

 

ガタノゾーアは続いて、右手の鋏を突き出した。

しかし、グリッターティガにはこれすら虚仮威しにもならなかった。

 

「ハッ!!」

 

ティガは眼前に迫る鋏を掴み、逆にガタノゾーアを自分の方へ引き寄せた。

そして、200メートルを誇る巨体を軽々と持ち上げ、勢い良く脳天から地面にたたき付けた。

 

「チャァァァッ!!」

 

ウルトラヘッドクラッシャー………本来ならパワータイプでしか使用出来ない、相手を頭から落とす力技だ。

本来マルチタイプのティガには、これほどの巨大な怪獣を持ち上げるほどの力はない。

しかし全身を包むグリッターの力と、巴里に生きる全ての人々の希望が、それを可能にした。

 

「ジュッ!!」

 

ティガはそのままガタノゾーアを殴り飛ばし、両手を胸の前で合わせた。

そして左右にゆっくりと広げ、膨大なエネルギーを集約する。

グリッターゼペリオン光線………かのオーク巨樹の核、デルニエを一撃のもとに葬り去った、グリッターティガの必殺技だ。

 

「チャァァァッ!!」

 

まばゆい黄金の光線が、一直線に邪神の顔面を狙い撃った。

たちまちガタノゾーアの全身がスパークを起こし、頑丈な皮膚にいくつもの火柱が上がる。

形勢は、完全に逆転した。

その時、

 

「オ………、オノレ………、ティガ………!!」

 

それまで人語を話さなかったガタノゾーアが、初めて語りかけた。

 

「マタシテモ………、ワレノ………ジャマヲスルカ………!?」

 

3000年前と全く変わらない、光と闇の闘争。

その以前と変わらぬ結末に、邪神は仇敵である裏切り者を睨んだ。

瀕死の状態でありながら、その赤い目はギラギラと光っている。

遥か3000年の間封印され続けた執念の成せる業だった。

 

「無駄だ!!」

 

ティガは目の前に邪神に、切り捨てるように言い放った。

 

「人が人である限り、光は絶対に消えない!!」

 

ティガは両手を頭上で交差させ、水平になる位置に下ろした。

すると、胸のカラータイマーに先程のグリッターゼペリオン光線を越えるエネルギーが集約される。

タイマーフラッシュスペシャル………体内のエネルギーを閃光にして放つ、グリッターティガの最終奥義だ。

 

「闇の邪神ガタノゾーア!今こそ3000年の戦いに、終止符を打つ時だ!!」

 

カラータイマーから、目が眩まんばかりの閃光が発した。

視界の全てが白く覆われ、邪神の最期の咆哮が轟いた。

 

「ギェェェェ………!!」

 

正義………、

 

友情………、

 

勝利………、

 

平和………、

 

未来………、

 

そして、愛………。

 

巴里の想いの全ては七色の光となり、闇の都市ルルイエの全てを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティガの光に包まれた後、ハワードは自分の置かれている状況を把握するのに数秒を要する事となった。

 

「こ………、これは………?」

 

確かに自分はバーニングスターの操縦席にいたはず。

しかし今、ハワードの身体は光の中な放り出された状態だった。

一体何が起こったというのか。

頭を悩ませるハワードの耳に声が届いたのは、その時だった。

 

「貴方が………、光を継ぐ者?」

 

「!?」

 

見ると、目の前に見慣れない少年の姿があった。

短い黒髪と黄色い戦闘服から、巴里華撃団の人間である事が分かる。

 

「お前は………、ティガなのか?」

 

この状況に驚いていない事と、光を継ぐ者という不可解な言葉を口にし事からそう推理し、尋ねる。

果たして少年は、笑顔で頷いた。

ハワードは重ねて尋ねた。

 

「どういう事だ?俺に光を継げってのは………。」

 

「僕にも分からない。でも………。」

 

少年は、戦闘服のポケットから何かを取り出した。

翼を象った彫刻で、赤い膜に包まれたクリスタルが淡い光を放っている。

 

「オーブは、貴方を選んだ。次の継承者に貴方を。」

 

「オーブ?それって一体………。」

 

少年の話す言葉の意味が分からず、ハワードが更に聞き出そうとした時だった。

少年の持つ彫刻から光が飛び出し、ハワードの腕に固定した星型のバッジに同化したのである。

 

「うわっ!?な、何だ!?」

 

訳が分からず慌てるハワード。

少年は、穏やかな表情で言った。

 

「貴方が、新たなる光になるんだ………。」

 

光が再び、視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタノゾーア消滅と時を同じくして、超古代都市ルルイエは崩壊した。

3000年に及ぶ忌まわしき歴史と共に。

巴里を襲っていたギアクーダの大群も、一瞬の内に跡形もなく消え失せた。

そしてティガもまた、ルルイエ崩壊と時を同じくして姿を消した。

まるで自分の役目が終わった事を示すかのように。

 

「………。」

 

気が付けば、ダイゴは巴里の港に一人佇んでいた。

目の前には、地平線から昇る太陽が見える。

空は、雲一つない晴天だった。

 

「………朝だ………。」

 

3000年の歴史は、夜明けを以って幕を下ろした。

これ以降二度と、闇がこの街に牙を剥く事はないだろう。

ティガが何処に行ったのか、ダイゴは大して疑問を抱かなかった。

ティガは光。

目の前に見えなくても、心の中に光がある。

その光こそ、ティガなのだ。

 

「ダイゴさん!!」

 

待ち焦がれた声が背中に聞こえたのは、その時だった。

振り向くと、今まで苦楽を共にして来た仲間と、紐育華撃団のサニーサイドの姿があった。

 

「ダイゴさん!!」

 

先頭をきって走って来たエリカが、ダイゴの胸に飛び込んだ。

 

「良かった………。ダイゴさん………、もう会えないと………思ってました………。」

 

「エリカさん………。言ったでしょう?大丈夫だって。」

 

感激のあまり肩を震わせるエリカを力一杯に抱きしめ、ダイゴが優しく囁きかける。

そして、ダイゴはポケットにしまった光の証だったものを取り出した。

 

「あっ、スパークレンスが………!」

 

最初に気付いたコクリコが、驚きの声を上げた。

スパークレンスは、クリスタルを含めて輝きを失っていた。

金と銀の光沢が鮮やかだった彫刻は、青銅の錆びれたものに変わっている。

 

「もう………、ティガにはなれないんですね………。」

 

光を失ったスパークレンスを見て、エリカが残念そうに呟く。

しかし、ダイゴは首を振った。

 

「そんな事はないさ。ティガは今でも、僕達の中にいる。ティガは光でも闇でもない、『人』なんだ。」

 

ティガとは一体何者なのか。

それが、一年かけてダイゴが見つけた答えだった。

ガタノゾーアを始めとする闇を生んだのは人間だが、ティガを光に変えたのもまた人間。

ティガは、『光』であり『人』である。

だから闇にも光にもなれる。

 

「僕達はみんな、自分達の力で光になれる。ティガは、それを教えてくれたんだ。」

 

ダイゴの言葉に、微笑みを返すエリカ。

すると、ここで一番後ろに立っていたサニーサイドが口を挟んだ。

 

「オーケー、エブリバディ!巴里華撃団勝利を祝って、ボクが記念撮影をしてあげよう!さぁ並んで並んで!!」

 

人一倍テンションの高いサニーサイドに苦笑いを浮かべながら、ダイゴの周りに仲間達が集まる。

そして、サニーサイドがキネマトロンに撮影機能を加えた通信機、その名も『キャメラトロン』を取り出した。

 

「オーケー、エブリバディ!花の都と言えば!?」

 

「「パリ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、何でこうなっちまうんだろうな………。」

 

穏やかな波に揺られながら、ハワードは何回目かも分からないため息をついた。

あの光が消えた後、ハワードはバーニングスターの中にいた。

しかしどういう訳かエンジン部分が故障し、こうしてルルイエのあった巴里近海で救助を待つ事になった。

 

「………。」

 

ハワードは、ふと左腕に付けたバッジに目をやった。

『ミレニアム・スター』。ニューヨークに初めて来た時の思い出の品。

しかしその中央には、見た事もない宝珠が光っている。

 

「(貴方が、新たなる光になるんだ………。)」

 

光の中で少年が呟いた言葉が脳裏を過ぎる。

 

「俺が………、光を継ぐ………?」

 

言葉の意味がイマイチ掴めないハワードの目に二つの機体が写ったのは、その時だった。

 

「ん………?おおっ!!」

 

待ち焦がれた二つの機体に、ハワードは満面の笑顔を浮かべた。

 

「ラチェット~!昴~!俺はここだぁ~!!」

 

筏代わりのバーニングスターの上に立って叫ぶハワード。

後に、彼は紐育華撃団と共に魔を討つ光になるのだが、それはまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、3000年の時を超えたもう一つの伝説は終わりを迎えた。

 

 

 

闇の脅威の消滅と時を同じくして、巨人は人々の前から姿を消した。

 

 

 

光として、人として、人類の生きるべき道を共に模索し続けた巨人のサーガは、後世の巴里に生きる人々に好んで語られるようになる。

 

 

 

闇の巨人伝説に代わるその名………

 

 

 

 

 

 

『光のティガ伝説』と………。

 

《超古代の星・完》





<緊急告知>

人、物、歴史、その全てが特異な国「アメリカ」。

多くの人種が行き交い、様々な歴史を吸収し続ける彼らが目指すのは、まだ見ぬ未来。

その未来に闇が影を差す時、やはり光は現れる。

新章「摩天楼の星」!!

お楽しみに
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