※この作品はR-18です。

超古代の星   作:サマエル

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笑顔の仮面

「………全員揃ってるね。」

 

作戦司令室にて、グラン・マは周りを見渡して言った。

 

「今日集まってもらったのは他でもない。ムッシュの身分は、正式に巴里華撃団花組の隊長となった。それに伴い、ムッシュには新しい任務に就いてもらう。」

 

「新しい任務?一体どんな………?」

 

任務と聞いて表情を固くする大神。

すると、グラン・マはニヤリと笑って何かを取り出した。

 

「ほら、こいつだよ。」

 

「………いいっ!?」

 

それを見た瞬間、大神の表情は凍り付いた。

何故ならそれは、大神が帝国華撃団時代に着用していたモギリ服だったからだ。

と、いう事は………、

 

「もしかして、またモギリをやるんですか………?」

 

まさかと思って尋ねる大神。

すると、グラン・マはしたり顔で言った。

 

「当たり前じゃないか。ついでに店内のボーイも兼任してもらうからね。」

 

「はい………。」

 

まさか巴里に来てまでモギリをさせられるとは思わず、ため息をつく大神。

すると、グラン・マがシーに声をかけた。

 

「シー、あれをムッシュに渡しておくれ。」

 

「ウィ、オーナー。はい、携帯キネマトロンです。」

 

そう言って、シーは大神にハンドサイズの機械を手渡した。

キネマトロンは、帝国華撃団のメンバーである李紅蘭が発明したもので、離れた所から通信が出来る画期的なメカだ。

しかし、トランク程の大きさのために持ち歩きにくいのが難点であった。

それを克服したのが携帯キネマトロンで、通信は片方しか出来ないものの、ポケットに入れて持ち運びが出来るので、格段に通信がやりやすくなったのだ。

 

「さてムッシュ。他にも色々聞きたい事があるだろう?」

 

「はい。巴里華撃団とは………?」

 

前回は緊急事態であったために省略したが、大神は当然とも言える疑問を口にした。

 

「それじゃあ、巴里華撃団設立の経緯から話そうか。」

 

そう言って、グラン・マは一冊の古びた本を取り出した。

 

「こいつは古い時代から伝えられて来た巴里の予言書だよ。この中に、ある言い伝えが残されている。」

 

「言い伝え?」

 

訝しむ大神に、グラン・マは重々しく頷いき、話し始めた。

 

巴里に災いを齎す闇が蘇りし時、希望の光は目覚める。

その書き出しで始まる段落には、今回の事件と酷似する内容が記されていた。

巴里を襲う魔の存在。

それに立ち向かい、巴里を守る希望の光。

遥か昔、自分達を守ったその光を、人々は讃え、こう呼んだ。

 

………ティガと………

 

「………しかし、必ず巨人が復活するとも限らない。それで、帝国華撃団をモデルとして霊的組織、巴里華撃団設立に至ったのさ。」

 

曖昧な希望にすがるより、自分達が希望となる。

言わば、巴里華撃団はティガと対を成す希望の存在だった。

 

「で、シャノワールなんだけどね。流石のムッシュも驚いたろう?」

 

「はい。まさかシャノワールが総司令部だったとは………。」

 

実際は帝国華撃団も本部を劇場に構えていたので同じようなものだが。

 

「では、ウルトラマンティガというのは………。」

 

大神は、いよいよ核心とも言える問題を口にした。

 

「それは、前回の戦いのレポートにそくして話すよ。メル、レポートを読み上げておくれ。」

 

「ウィ、オーナー。シャンゼリゼ通りに出現したウサギの怪人、及び怪獣は妖力が確認され、巴里の破壊と混乱を企てたようである。怪人は花組に、怪獣は巨人に倒されたために正体は未だ不明である。ただ一つ言える事は、伝説の災いと光が蘇った事である。」

 

早い話が、ティガが復活した以外は何も分からないという事だ。

 

「本には災いとしか書いてない。有力な情報はないね。」

 

「だが、何者かが巴里を狙っている事は確かだ。それを止められるのも私達だけという事もな。」

 

あくまでティガをあてにしないつもりなのか、グリシーヌはそう言い放った。

 

「それだけ分かれば上等さ。さあ、夜の支度をするよ。」

 

そうグラン・マが締めくくり、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ティガ?」

 

「そうです!そのティガが、巴里を守ってくれたんです!」

 

おうむ返しに聞くダイゴに、エリカは興奮気味に語った。

会議が終わった後、エリカは教会でダイゴにティガの活躍を語っていたのだ。

実際の所本人は目の前にいるのだが、それをエリカが知るはずもない。

ダイゴもまた、それを話すそぶりを見せず、寧ろエリカの話に驚いて見せた。

 

「で、そのティガが怪獣をやっつけた訳?」

 

「そうです!ハッとかチャッとか言って………!」

 

ハイテンションでティガの真似をするエリカ。

すると、エリカが突き出した右手が、ダイゴの後ろの棚にぶつかった。

その拍子に棚の上にあった花瓶が落下し、真っ二つに割れてしまった。

 

「あ………!」

 

「エ、エリカさん………。」

 

冷や汗をかくエリカと、呆れた表情を浮かべるダイゴ。

すると、そこへレノ神父が駆け付けた。

 

「どうされました?何か割れる音が………。」

 

直後、ダイゴが無言で指差した方を見てレノ神父は固まった。

何故なら………、

 

「こ、こ、これは!設立時から共にあった大切な花瓶が………!」

 

その花瓶の無惨な姿に、レノ神父は膝をつき、天を仰いで嘆いた。

 

「主よ………、どうかこの罪をお許し下さい………。」

 

「あ、あの………、ごめんなさい!私、同じもの買って来ます!」

 

流石にいたたまれなくなり、エリカはダッシュで教会から飛び出した。

教会に残されたダイゴは、レノ神父に声をかけた。

 

「神父様………、エリカさんも反省しているし、許してあげてくれない?」

 

「………はい。エリカさんもわざとではないでしょうし、形あるものは、いつかは壊れますです、ハイ。」

 

ハンカチで涙を拭くレノ神父。

すると、ダイゴは本題に入った。

 

「そうだ、神父様。この前の事なんだけど………。」

 

「ハイ。希望の光が、復活しました。ダイゴさん、見つけたんですね。」

 

「うん。エリカさんはティガって呼んでた。あれが、巨人の名前なのかな?」

 

ダイゴが尋ねると、レノ神父は考え込むそぶりを見せた。

 

「おそらくその通りです、ハイ。かつて東の地にも、同様の巨人がいたと聞きます。」

 

「………ウルトラマン………ティガ………。」

 

その名を呟き、ダイゴはポケットから光の証、スパークレンスを取り出した。

前まで錆びた青銅だった彫刻は、見違える程の輝きを放っている。

光を継ぐ者。

自分がまさか、そんな運命にあったとは、ダイゴも思わなかった。

しかし、現にティガは自分を後継者に選んだ。

果たしてそれが偶然なのか、それとも必然なのかは分からないが、今のダイゴに出来る事は、その力を受け入れる事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと………、確かこの辺りだよね………。」

 

花瓶を買いに行ったエリカを探しに、ダイゴは市場に足を運んだ。

巴里での生活用品は、大概この市場に揃っている。

おそらくエリカもここにいると、ダイゴは踏んでいた。

 

「あ、そこの人ちょっといい?」

 

「ん?僕の事?」

 

声がした方を見ると、小さい女の子がダイゴを下から覗き込んでいた。

フランス人ではないのだろうか、肌がやや黒っぽい。

帽子を被った活発そうな少女だった。

 

「はいコレ。よかったら来てね。」

 

そう言って、少年は一枚のチラシをダイゴに手渡した。

 

「シルク・ド・ユーロ?」

 

一番上の見出しには、白い文字でそう書かれていた。

シルク・ド・ユーロと言えば、ヨーロッパでも指折りのサーカス集団である。

確かつい最近、この巴里に来たばかりだった。

 

「それにしても、君は………?」

 

ふと、ダイゴは少女を見た。

チラシを配っている事から、サーカスの関係者である事は間違いないだろう。

しかし、見る限り少女は10歳前後。

まさかこの歳で働いているというのか………?

そう考えるダイゴに、少女は胸を張って答えた。

 

「ボクはコクリコ。サーカスの団員だよ?」

 

正にダイゴの予想そのまんまだった。

コクリコと名乗った少女は、シルク・ド・ユーロの団員だったのだ。

 

「へぇ………、本当に?」

 

「何だよ~、疑ってるの?」

 

膨れて見せるコクリコだが、確かに10歳くらいでサーカスが出来るというのは、俄かに信じにくい話だ。

その時、市場の奥が急に騒がしくなった。

見ると、市場の真ん中で馬が暴れているではないか。

 

「よ~し、見てて!ボクがサーカス団員だって事、証明してあげる!」

 

「えっ!?ちょっと………!」

 

ダイゴを余所に、コクリコは市場のテントに飛び移った。

その身のこなし、信じられない軽さだ。

 

「す………凄い………!」

 

その様子に、ダイゴは驚いて見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君………凄いね………。」

 

呆気にとられた様子で、大神が馬に乗るコクリコに声をかけた。

いきなり屋根を跳んで現れたかと思うと、暴れる馬の背中に乗り、軽く落ち着かせてしまったのだ。

 

「どう?ボクが団員だって事、納得してくれた?」

 

得意げに胸を張るコクリコ。

すると、そこにダイゴが駆け付けた。

 

「なるほど………、納得だよ。」

 

「ダイゴ!どうして君が?」

 

「………それはこっちの台詞だよ。何でアンタがエリカさんと一緒にいるのさ。」

 

大神の姿を見るや、ダイゴはあからさまに不機嫌な表情を見せた。

 

「(俺………、何かしたのか?)」

 

言われのない視線に困惑する大神。

すると、エリカが助け舟を出してくれた。

 

「実は、花瓶を買おうと市場に来たら大神さんに会ったんです。」

 

あの後、エリカは割ってしまった花瓶と同じものを買うべく市場に来ていたのだが、たまたま野菜を注文しに来た大神と会い、二人で花瓶を探していた。

その前で馬が暴れだし、結果としてコクリコに助けてもらったのだ。

 

「オジサンも中々やるね!カッコ悪かったけど。」

 

「オジサン?酷いな………、これでもまだ23なんだぞ?」

 

初めてオジサン呼ばわりされ、大神はショックを見せた。

まだ大神は23なのだ。

まだまだオジサンではなくお兄さんである。

すると、コクリコも失礼だと思ったのか、すぐに謝った。

 

「あ、ごめんなさい。ボクの名前はコクリコ。オジサン………じゃなかった、お兄さんは?」

 

「俺は大神一郎。シャノワールでモギリをしてるんだ。」

 

きちんと訂正する所が可愛らしく思い、大神は微笑みながら名乗る。

すると、エリカとダイゴも続いた。

 

「私はエリカ・フォンティーヌ。修道院のシスターなの。」

 

「そう言えば、僕もまだだったよね?僕はダイゴ・モロボシ。教会に住んでるんだ。」

 

とは言っても、ダイゴは仕事を持っていない訳ではない。

教会の一員として、色々ボランティア活動等にも参加しているのだ。

 

「へぇ~、イチローにエリカにダイゴか。イチローもダイゴも変な名前だね。何処の国の人?」

 

「日本人だよ。君もフランス人じゃないね。」

 

コクリコの疑問に答えつつ、大神が指摘した。

すると、コクリコは笑顔で答えた。

 

「当たり。ボク、ベトナム人なんだ。」

 

ベトナムはインドシナ半島にある国だ。

確か少し前にフランス領になっているはずだった。

ホーチミンが革命を起こす事になるのだが、それはこの物語の終わったずっと後の事である。

 

「さっきは見事だったね。あの暴れ馬を止めるなんて………。」

 

「エヘッ、ありがとう。ボクね、動物が好きで、みんな話が出来ると思ってるんだ。」

 

ダイゴに褒められ、コクリコは照れた様子で言った。

すると、エリカがふと何かに思い出したように手を叩いた。

 

「あ、動物で思い出しましたけど、私花瓶が買いたいんでした。」

 

「………何処が繋がってるの。」

 

動物からどう連想すれば花瓶に辿り着けるのか。

ダイゴが呆れた口調で言うと、コクリコが胸を叩いた。

 

「買い物?だったらボクが案内するよ。市場には詳しいんだ。」

 

「本当!?実は花瓶を探してるの。これくらいの。」

 

そう言って、エリカは手で花瓶の外観を描いた。

花瓶の割には若干大きすぎないかと思うダイゴだが、敢えて黙っておく。

 

「わかった。花瓶はこっちだよ。」

 

そう言って、コクリコは市場の奥を指差した。

目をこらして見ると、確かに瀬戸物や骨董品が見える。

おそらくコクリコは何度も市場に出入りしているのだろう。

どの場所にどんな品物が置かれているか一瞬で判断出来るのが、何よりの証拠だ。

 

「やっぱり男の子ね。大神さんより頼りになりますね。」

 

感心したようにエリカが言う。

すると、コクリコは不意に振り返った。

 

「ボク、男の子じゃないよ。ほら。」

 

そう言って、コクリコは帽子を取った。

すると、左右の可愛い栗色のお下げ髪が現れた。

 

「女の子だったのか………。」

 

「普通気付かない?」

 

エリカと同じようにコクリコを男の子と思っていたのか意外そうな顔をする大神を、ダイゴがなじる。

 

「アハハハハ!いいよ、たまに間違えられるから。」

 

その場を取り繕うように、コクリコが笑った。

 

「さ、早く行こう。お店が閉まっちゃうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コクリコ、ありがとう。おかげでいい花瓶が安く買えましたね。」

 

割ってしまったものより数段価値の高い花瓶を抱え、エリカがコクリコに礼を述べた。

コクリコは店を教えてくれただけでなく、その店の主人と値段交渉をして、1000フランだった花瓶を200フランまで下げてもらったのだ。

その業は、ネゴシエーターにも匹敵する。

 

「何だかコクリコに助けられてばかりだな。俺も何か手伝おうか?」

 

「本当!じゃあ手伝って。イチローだけでいいからさ。」

 

大神の申し出に、コクリコは目一杯の笑顔を見せた。

 

「それじゃ、僕達は花瓶を届けて来ます。」

 

「またね、コクリコ。」

 

そう言って、エリカとダイゴは一足先に市場を後にする。

すると、コクリコは早速市場を練り歩き始めた。

 

「こんにちは!今日も野菜クズもらっていくね。」

 

そう言って何処から取り出したのか、コクリコはバケツを手に片っ端から店の野菜クズをもらっていった。

剥いたジャガ芋の皮。ニンジンの先っぽ。ひん曲がったキュウリ。

市場を一周する頃には、バケツいっぱいに野菜クズが溜まっていた。

 

「じゃあイチロー、これ運んでね。」

 

「こんなに沢山………、どうするんだ?」

 

野菜クズなど集めて、一体何に使うというのか。

大神が尋ねると、コクリコは笑って答えた。

 

「みんなのゴハンなんだ。さあ、イチロー頑張って!」

 

そう言って大神を励ますコクリコ。

すると、そこに声がかかった。

 

「おや、コクリコじゃないか。またお仕事かい?」

 

「あ、おひげのおじさん!」

 

それは、実に優しい表情をした老紳士だった。

立派な白い口髭を蓄え、元気な印象がある。

コクリコは知り合いなのか、老紳士に手を振った。

 

「今日はどうしたの?」

 

「いや、リンゴでも買おうと思ってね。」

 

そう言うと、老紳士は一つの袋を取り出した。

 

「ところでコクリコ、お腹空いてないかい?パンを買ったんでね。君も如何です?」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

初対面の老紳士にパンを差し出され、大神は戸惑いつつも受け取った。

すると、老紳士は大神の表情を読み取って自己紹介をしてくれた。

 

「私はロランス・ロランと申しまして、宝石商をしております。」

 

「俺は大神一郎です。テアトル・シャノワールのモギリをしています。」

 

そう答えて、大神はようやくいっちょ前に握手をした。

すると、不意にロランスが大神の目を見て言った。

 

「ほう、いい目をしていますね。」

 

「え?」

 

「人の目は宝石と同じ。その輝きで、善し悪しが分かるものなんですよ。」

 

それは、長年宝石と向き合って来たロランスだからこそ分かる事だった。

美しい宝石には誰もが惹かれる。

それと同じように、綺麗な目をしている者には、自然と輝くのだろう。

 

「大神君。君の目には美しい光があります。大切なものを守れる強い光が………。」

 

「はあ………、ありがとうございます。」

 

宝石の知識は持たない大神は満足な返事を返せず、一応の礼を述べるに留まった。

 

「ねぇねぇ、何の話をしてるの?早くパン食べようよ。」

 

話の内容が良く分からず、コクリコが急かす。

すると、ロランスは笑って答えた。

 

「そうだね。では、いただくとしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここがシルク・ド・ユーロか………。」

 

大神とコクリコの二人と分かれた後、ダイゴはコクリコからもらったチラシを頼りにサーカスのテントの前まで来た。

コクリコの凄さは市場で十分理解した。

今度はそれを、サーカスで見たくなったのだ。

しかし、残念ながらサーカスはまだ始まっていないらしく、ガランとしている。

 

「………仕方ない、コクリコに挨拶でもしようか。」

 

そう呟き、ダイゴはサーカスの裏手に足を運んだ。

すると、そこにはオリの中の動物達に餌をあげる大神とコクリコの姿があった。

 

「………やあ、ダイゴじゃないか。」

 

ダイゴの存在に気付き、大神が声をかける。

すると、ダイゴは恥ずかしげに視線をずらしながら歩み寄った。

 

「いや、チラシをもらったからサーカスでも………って。」

 

「本当!ありがとうダイゴ!ボク嬉しいよ。」

 

よっぽどダイゴの言葉が嬉しかったのだろう。

コクリコはとびきりの笑顔を見せた。

 

「ところで、二人はここで何を?」

 

「コクリコと一緒に、動物達のゴハンを市場で集めて来たんだ。」

 

そう言って、大神は手に持ったバケツを見せた。

市場で集めていた野菜クズは、動物達のゴハンだったのである。

 

「イチロー、ダイゴ、ほら見て。この間火の輪くぐりを失敗して………。」

 

そう言って、コクリコが一頭の虎を指差した。

見ると、右の前足に真新しい包帯が巻かれている。

 

「熱かったよね………、痛かったよね………。ごめんね、ボクがいたのに………。」

 

「コクリコ………。」

 

まるで自分の痛みのように、虎を優しく撫でるコクリコ。

その様子に、大神もダイゴもいたたまれない気持ちになる。

しかし、そこに別の男が現れた。

 

「コラ、コクリコ。練習だというのに何をサボっている?」

 

振り返ると、値段の高そうな葉巻を口にくわえた小太りの男が、コクリコを睨みつけていた。

その帽子には、高そうなダイヤモンドが光っている。

彼はドニクールと言って、このシルク・ド・ユーロの団長だった。

 

「は、はい。動物達のゴハンを貰いに行ってました。」

 

慌てて頭を下げるコクリコ。

すると、ドニクールは隅に置かれた野菜クズのバケツを見た。

 

「そうか、たっぷり貰えたようだな。」

 

満足げに笑うドニクール。

しかし彼は次の瞬間、とんでもない事を口にした。

 

「よし、明日から動物の餌代は半分に切り詰める。」

 

「そ、そんな!ムリだよ、みんなが可哀相だよ!」

 

ただでさえ野菜クズを貰わなければ動物達の空腹を凌いでやれない。

にも関わらず、これ以上餌を減らされては手に負えなかった。

だがしかし、ドニクールはコクリコの抗議を鼻で笑い、あろう事か怪我した虎を蹴りつけた。

 

「なら、怪我した虎を売る。毛皮にすれば儲かるだろう。」

 

「や、止めてよ!!」

 

コクリコは虎を庇って叫んだ。

虎は怪我した患部をドニクールに蹴られ、苦しんでいる。

 

「止めろ!怪我をした動物を蹴る等、サーカスの、ましてや団長のする事ではないぞ!」

 

流石の大神も腹を立て、コクリコを庇うように前に出た。

 

「ふん!部外者が口出しをするな。それともコクリコ、俺に文句でもあるのか?」

 

「………ありません。」

 

団長の権限を振りかざすドニクールに逆らえず、抗議の声を飲み込むコクリコ。

すると、ドニクールは満足げに笑った。

 

「なら良い。開幕までに腹ごしらえをしておけ。」

 

そう言って、ドニクールはテントから出て行った。

 

「………何だあの男は。」

 

「葉巻は吹かす、動物には手を出す………最悪だね。」

 

大神の言葉に同意するように、ダイゴもドニクールという男に対しての不快感を露にした。

サーカスは超人的な業を披露しておひねりをもらうショーだ。

当然本番までに大変な練習がいるし、失敗すれば大怪我どころでは済まされない。

だからこそ、サーカスは団員全員が一つにまとまり、互いに助け合う事が必要不可欠だ。

だが、ドニクールという男にはそれが塵程にもない。

葉巻は動物の身体に悪影響を及ぼすし、動物や団員に危害を加える等、人として言語道断である。

大神もダイゴも、よくあんな男が団長になったと不思議に思った。

それもそのはず。何故ならドニクールは、本来の団長である彼の弟が病気なのをいい事に、金でこのサーカスを乗っ取ったのだから。

 

「いいんだ………。もういいよ………。」

 

それを指し示すように、コクリコが小さい声で言った。

 

「イチロー、ダイゴ、ありがとう。ボク、凄く嬉しかったよ。」

 

そう言って、コクリコは夕飯を持って来た。

 

「………これがコクリコの夕飯なのか?たったこれだけが………。」

 

「………酷い………。」

 

パンが一口と、野菜のふやけたスープ。

まるで残飯のような酷い夕飯に、大神もダイゴも信じられない面持ちを見せる。

しかし、コクリコは笑っていた。

 

「ボクにはご馳走だよ?だって毎日食べられるもん………。」

 

「それで、奴に逆らえないんだね………。」

 

ダイゴの言葉が、全てを物語っていた。

確かに反発する事は出来るだろう。

しかしあのドニクールの事、そんな人間はすぐさまお払い箱にするはず。

そうなればどうやって生きていくのか。

そう考えれば、苦しくてもドニクールに従う他なかった。

 

「我慢なんてしてないよ。………ボク………幸せだよ………。」

 

その時、サーカスの開幕を知らせるベルが鳴った。

 

「あ、もう行かなきゃ。じゃあねイチロー、ダイゴ。」

 

「コクリコ………、我慢しているじゃないか………。」

 

大神がそう呟いた時、テントの方から動物達の叫び声が聞こえて来た。

 

「な、何だ!?」

 

「テントの方だ。行くぞ、ダイゴ!」

 

ショーにしては不自然な叫び声に、大神とダイゴはテントに急行した。

 

「みんな止めてよ!何でボクの言う事聞いてくれないの!?」

 

テントの真ん中でコクリコが叫ぶ。

何と、動物達が突然暴れ始めたのだ。

まるで、ドニクールに逆らえないコクリコの代わりに怒るように。

 

「ええい騒がしい!構わん、逆らう動物は殺してしまえ!」

 

「止めてよ!!ボクが何とかするから!」

 

ドニクールの言葉に血相を変えるコクリコ。

しかし、動物達は怒りを収めてくれない。

 

 

 

「お前達、お鎮まり!!」

 

 

 

その時、テント内に透き通る声が響いた。

すると、今まで怒りの咆哮を上げていた動物達が、それこそ蛇に睨まれた蛙のように大人しくなったのである。

 

「す、凄い………。」

 

その様子に、驚くコクリコ。

見ると、南国を思わせる衣裳を来た若い女性が歩いて来るのが見えた。

 

「お待たせしましたわ、ドニクール団長。今日から雇われる事になったカルチェラです。」

 

「あ、ああ。アンタが新入り予定だったカルチェラさんか。助かったよ。」

 

鼻の下を伸ばして、ドニクールが言った。

 

「凄い………、あの人動物と通じ合っているんだ………。」

 

「ふふ、よろしくお願いするわね。」

 

そう言って、カルチェラはこちらに微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、巴里の裏通りに悲鳴が轟いた。

 

「うわあああっ!!」

 

「イヒヒヒヒ………。素直に渡せば、苦しまずに済んだのにね………。」

 

そう言って現れたのは、全身が蛇の鱗に覆われた怪物だった。

怪物の目の前には、悲鳴を上げた男が謎の巨大な口に一呑みにされる姿がある。

 

「さて………。」

 

怪物は口が男を骨も残らず食い漁ったのを見届けると、残った服のポケットに手を入れ、何かを取り出した。

それは、高価なルビーだった。

 

「チッ、また違ったね。」

 

目的の物と違ったのか、怪物は落胆の表情を見せた。

 

「それにしても人間は、宝石を何だと思ってるんだろうね。自然の恵みに手を加えるなんてさ。………それを庇う裏切り者の気がしれないよ。」

 

そう言って、怪物はルビーを飲み込んだ。

 

「さて、証拠隠滅も済んだし、ずらかるかね。」

 

そう言って、怪物は男の服を丸呑みにしてその場を後にした。

 

「………待ってなよティガ。このピトン様は何処までも追い詰める。それこそ蛇のようにね………。」

 

夜の巴里に、不気味な笑い声が響いた。

 

 

 

 

✿

 

 

 

 

 

翌日、ダイゴはチラシを持ってシルク・ド・ユーロに赴いた。

昨日の一件から、コクリコの様子が気になったからだ。

 

「今日は凄い人気だな………。」

 

昨日とは打って変わり人に溢れるサーカスにダイゴは驚くと共に、シルク・ド・ユーロの偉大さを改めて感じた。

 

「ダイゴさ~ん!」

 

エリカの声が聞こえて来たのは、その時だった。

見ると、エリカを先頭に大神とグリシーヌ、メルとシーの姿もある。

大神の話を聞いたエリカ達も、コクリコのサーカスを見に来たのだ。

 

「もしかして、ダイゴさんもコクリコの様子を見に?」

 

「うん。昨日から気になって。エリカさんも?」

 

ダイゴが聞き返すと、エリカは満面の笑みで頷いた。

すると、それをフォローするように大神が言った。

 

「みんな、済まないが先に入っていてくれないか?俺達は後から行くよ。」

 

「仕方ないな。行くぞ、メル、シー。」

 

グリシーヌを先頭に、先に中に入る三人。

ダイゴは、エリカと大神の三人でコクリコのいるテントに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すっかり怪我も治ったみたい。ありがとう、カルチェラのおかげだよ。」

 

「獣医のまね事が役に立ったわ。もう団長も売るなんて言わないはずよ。」

 

そう言って、カルチェラは立ち上がった。

足元には、右足を治療してもらった虎が元気そうに二人を見ている。

 

「虎さん………。よかったね………。」

 

「………どうしたの?」

 

ふとコクリコの目に浮かんだ涙に気付き、カルチェラが尋ねた。

 

「この子とボクは同じだ………。一生懸命笑って芸をしないと、捨てられるかもしれない………。」

 

それは、コクリコが初めて明かした本心だった。

ドニクールは金のためならどんな犠牲も厭わない男だ。

逆らえばどんな仕打ちを受けるか、想像にかたくない。

 

「………大丈夫。貴女も動物達も、あたしが守ってあげるから。」

 

そんなコクリコに、カルチェラは母親のような暖かい声で言った。

すると、コクリコはいつになく甘えるような声で言った。

 

「………じゃあ、ボク、お願いがあるんだ。」

 

「何?」

 

そう言ってコクリコの顔を覗き込むカルチェラ。

すると、コクリコは赤い顔ではぐらかした。

 

「ううん、やっぱりいいや。また今度にするよ。………ボク、この子のゴハン持って来るよ。」

 

そう言って外に出たコクリコに声がかけられたのは、その時だった。

 

「やあコクリコ。遊びに来たよ。」

 

「あ、イチロー!エリカにダイゴも来てくれたんだ。」

 

今や友達となった三人の来訪に、コクリコははしゃいだ。

 

「そうだ、カルチェラに紹介してあげる!こっちに来て。」

 

興奮を抑えられない様子で、コクリコは三人をテントの中に案内した。

 

「カルチェラ!イチローとエリカとダイゴが来てくれたよ!」

 

「はじめまして、カルチェラと申します。コクリコから聞いていますわ。」

 

丁寧な挨拶をするカルチェラ。

大神達も、それに合わせて挨拶をする。

 

「それじゃあ、ボク虎さんのゴハンを持って来るね。」

 

そう言って外に出るコクリコ。

その様子に微笑んだのち、カルチェラが大神に尋ねた。

 

「今日はサーカスを観に?それとも、コクリコに会いに来て下さったのかしら?」

 

「両方です。前はコクリコの元気がなかったので。」

 

「でも、貴女のおかげで元気になったみたいですね。」

 

「とんでもない。元気になったのはあたしの方ですわ。」

 

大神の言葉にダイゴが続くと、カルチェラは笑って答えた。

 

「へ?何でですか?」

 

「実は、あたしにも娘がいたんです。生きていればちょうど、コクリコと同じ年に………。」

 

生きていれば。

つまりは死んだという事だ。

カルチェラにとってコクリコは、娘に等しい存在なのだろう。

 

「今日はコクリコのステージもありますの。是非見てあげて下さいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう夜になってる。大神さん、楽しいサーカスでしたね。」

 

サーカスが大盛況で幕を降ろした帰り道、エリカが興奮の覚め止まぬ様子で言った。

 

「冗談じゃない………、心臓が止まるかと思ったよ。」

 

その隣で、ダイゴが疲れた様子で言った。

今回コクリコが披露したマジックは、回転ノコギリによる切断マジックである。

会場の一人に手伝って貰おうとした所、手を上げたエリカが見事に当たってしまったのだ。

当のエリカは楽しかったようだが、客席のダイゴはエリカが斬られる様子を目の当たりにし、泡を吹いて倒れてしまった。

 

「さあ、今度は俺達だ。早く戻って開店準備をしよう。」

 

そう言って戻ろうとした時、ダイゴがふと口を開いた。

 

「それじゃ、僕は予定があるから。またね。」

 

「はい、ダイゴさん。よかったらシャノワールにも来て下さいね。」

 

そう言ってエリカ達と別れ、ダイゴは一人サーカスに戻った。

コクリコと話がしたかった。

………いや、そうではない。

一人になる理由があった。

それは………。

 

「やっぱり………、スパークレンスが反応してる。」

 

ポケットの中で光る彫刻を握り締め、ダイゴはテントを見た。

スパークレンスが輝くという事は、その近くに何かがあるという事。

つまり、テントに何かがあるという事だった。

そっとテントに近づき、ダイゴは中を覗き込んだ。

 

「………毎日眺めても見飽きないなあ、このダイヤモンドは………。これさえあれば、動物等クズ同然だ。」

 

中にいたのは、団長のドニクールだった。

帽子に輝くダイヤモンドを幸せそうに見つめている。

まさかあのダイヤモンドか。

ダイゴはそう思ったが、それは直後の声で間違いと分かった。

 

「本当だねぇ………、食べちゃいたいくらいさ………。」

 

「何っ?なっ!?何だお前は!」

 

振り返ったドニクールは見てしまった。

蛇のように長い舌で目の前に立つ怪物、ピトンを。

 

「ヒィィィ………!!こ、このダイヤモンドは渡さねぇぞ!」

 

「いいよ。それなら………一緒に奪うまでだ!!」

 

「グ、グアアアア………!!」

 

逃げ出そうとしたドニクールに、何処からか現れた巨大な口が襲い掛かった。

血も肉も皮も残さず食い荒らされるドニクール。

その様子を満足げに眺め、ピトンはダイヤモンドを手に取った。

 

「やっぱり違うねぇ………。この近くに間違いないんだけど………。」

 

そう言いつつ、ピトンはダイヤモンドを飲み込んだ。

 

「何だか宝石ばかり飲み込んで、クセになりそうだよ。早い所奴を見つけないとねぇ………。」

 

「………!!」

 

一部始終を目撃し、ダイゴは恐怖で身体が震えた。

その時だ。

 

「………ん?誰だい!そこにいるのは!!」

 

ドスの利いたピトンの声が飛んだ。

もしや見つかってしまったか………。

そう思ったダイゴだったが、別の声にそれは勘違いと分かった。

 

「あ、ゴメンね。コクリコだよ?」

 

「(………!!コクリコ!?)」

 

ダイゴはハッとした。ピトンが気づいたのは、ダイゴではなくコクリコだったのだ。

このままではコクリコまで………。

いっそ出て行こうか迷ったダイゴだが、次の言葉で三度驚かされる事になる。

 

「あらコクリコ、どうしたの?」

 

「(なっ………!?)」

 

ダイゴは驚きで目を見張った。

何故ならそこにいたのは、怪物ピトンではなく、カルチェラだったからだ。

 

「あのね、カルチェラ………。さっきのお願い聞いてくれる………?」

 

「ええ。言ってご覧なさい?」

 

先程の怪物は別人だったのか?

いや、そんなはずはない。

だとすれば………。

 

「あのね………、カルチェラの事、ママって呼んでもいい?」

 

「ええ、もちろんよ。あたしの可愛いコクリコ………。」

 

そう優しい口調で答えて、コクリコを抱きしめるカルチェラ。

一見すると美しい家族愛である。

しかし、もしダイゴの想像が的中しているとするならば、これ程残酷な愛の形はなかった。

 

「………。」

 

ともかくばれずに済んだ事に胸を撫で下ろし、ダイゴはその場を後にした。

 

「………。」

 

その様子を、後ろから見る視線に気づかずに………。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シャノワールもシルク・ド・ユーロに負けない程の盛況ぶりを見せていた。

それもそのはず。何故なら………、

 

「今宵はプログラムを変更して、皆様に新しい仲間を紹介します!」

 

「彗星の如く現れた新人ダンサー、その名もブルーアイ!」

 

司会のメルとシーの紹介で中央の階段から現れたのは、何とグリシーヌだった。

彼女もまた、エリカのように舞台に立つ事を決意し、華々しいデビューを決めたのである。

 

「す、凄い!まるで緊張していない!」

 

ボーイの仕事に従事していた大神は、グリシーヌの様子に驚いた。

普通初めて舞台に上がる者は、どうしても緊張してしまい、それが客にばれてしまうものだ。

しかし、グリシーヌからは全く緊張が見えない。もしかしたら、緊張すらしていないのかもしれない。

そのくらい堂々とレビューを見せていた。

本人の言葉を借りれば当然なのだろうが、周りから見れば圧巻である。

すると、隣に現れたグラン・マが言った。

 

「花形スターの誕生さ。最も、本名は出せないけどね。」

 

グリシーヌは巴里の名門ブルーメール家の一人娘である。

そんな大事な娘を舞台に上げたと知れれば、血気盛んなブルーメール家の事、怒鳴り込んで来るに違いない。

そこで、ブルーアイという偽名でデビューしたのである。

 

「ほう、これは美しい。まるで極上のブルーサファイアですな。」

 

「おやロランス卿、ご無沙汰だね。」

 

そう言って現れた人物に、グラン・マが笑いかける。

一方、大神はその人物に驚いた。

 

「あ、貴方は市場の………!」

 

「おや大神君。覚えてくれたんですね。」

 

市場で会った時と変わらない笑顔で、ロランスが笑った。

 

「ところでロランス卿、今回の獲物は何だい?」

 

意地悪そうに尋ねるグラン・マ。

すると、ロランス卿もそれに合わせて感慨深げに答えた。

 

「やっと手に入れたんですよ。あの幻の巨大ルビー、『赤い少女の涙』を。」

 

そう言ってロランスが取り出したのは、掌程にもなる巨大なルビーだった。

上の部分が尖っていて、確かに涙の雫のようにも見える。

 

「ほら、これがそうです。見事な輝きでしょう?」

 

「これは見事なもんだね………。ロランス卿が必死になるのも分かるよ。」

 

その大きさと輝きに、流石のグラン・マも驚きを見せる。

正しく人類の宝というべき宝石が、そこにはあった。

 

「今、コンコルド広場で開催中の宝石展に展示してもらう事になっているんです。」

 

「なるほど。その時は店の子達も連れて行こうかね。ムッシュ、その時は………。」

 

「留守番ですか?」

 

「ああ、分かってるじゃないか。アンタに宝石は、猫に小判だからね。」

 

その言葉に、三人は思わず笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りは薄暗くなり、不気味な三日月が巴里の街を照らしていた。

その巴里の人気のない裏通りを、ダイゴは歩いていた。

そして、辺りに人がいない事を確認し、声を発した。

 

「………隠れてないで出て来たら?」

 

「ばれてたのかい?」

 

そう言ってダイゴの背後に現れたのは、先程ドニクールを殺してダイヤモンドを奪った怪人ピトンだった。

あれからピトンはダイゴの後を尾け、口を封じるチャンスを伺っていたのである。

 

「やっと見つけたよ。さあ、光の証をおよこし!」

 

「やっぱり。狙いはスパークレンスか!」

 

ダイゴはポケットからスパークレンスを取り出した。

中心にしまい込まれたクリスタルは、淡い光を放っている。

 

「イーッヒッヒッヒ!素晴らしい輝きだねぇ。そいつをおよこし!」

 

「………嫌だと言ったら?」

 

答えはさっきの事で分かっているが、ダイゴは敢えて言った。

すると、予想通りピトンが叫ぶ。

 

「なら仕方ないねぇ………、覚悟おし!」

 

その声と共に、地中から巨大な口が現れる。

しかし、ダイゴは薄く笑ってスパークレンスを掲げた。

すると、クリスタルから閃光が放たれ、口を消滅させてしまった。

 

「さっきのドニクールの時に見て気付いたんだ。今の怪物は常に地中に潜っている。ならば光に弱いとね。」

 

「チッ!やるじゃないか。」

 

一筋縄ではいかないと感じ、ピトンは攻撃の手を一旦止める。

その時、裏通りに別の影が現れた。

 

「そこまでだ!宝石泥棒め!」

 

それは、何と大神だった。

グラン・マから宝石盗難事件の調査を命じられた大神は、夜の巴里を一人捜査していたのである。

 

「大神さん!」

 

「来るんじゃないよ!お前も死にたいのかい?」

 

こちらへ走って来る大神を威嚇するピトン。

すると、今度はピトンにマシンガンが浴びせられた。

 

「そこまでです!ダイゴさんには指一本触れさせません!!」

 

それは、マシンガンを持ったエリカだった。

エリカもまた、宝石盗難事件を聞いて捜査していたのである。

 

「チッ、覚えておいで!」

 

流石に形勢不利と見たか、ピトンは背を向けて逃げ出した。

 

「逃がすものか!エリカくん、ダイゴ、奴を追い掛けるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピトンを追って三人がたどり着いたのは、シルク・ド・ユーロの前だった。

 

「くそっ、見失ったか………!」

 

辺りを見渡す大神。

すると、そこにカルチェラが現れた。

 

「あら、大神さん。こんな時間にどうなさったの?」

 

「カルチェラさん。実は、宝石盗難がこの辺りに………。怪しい人物を見ませんでしたか?」

 

「怪しい人物………。」

 

大神の問いに僅かに考えるそぶりを見せ、カルチェラは思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、確かに誰かがテントの近くをうろついてましたわ。」

 

「本当ですか!?どちらです?」

 

ようやく尻尾を掴んだとばかりに尋ねる大神に、カルチェラは笑って答えた。

 

「はい、ご案内しますわ。さあ、こちらです。」

 

「その必要はない!」

 

しかしその時、待ったの声がかかった。

ダイゴである。

 

「どういう事だ、ダイゴ。早く探さないと犯人が………。」

 

「大丈夫。もう犯人はいるから。」

 

そう言って、ダイゴはカルチェラを睨んだ。

 

「そうだよねカルチェラさん。………いや、怪人ピトン………かな?」

 

「………ふっ、優しく始末してやろうと思ったのに………!」

 

ダイゴに指摘され、大神とエリカが驚きの表情でカルチェラを見る。

すると、カルチェラは不気味に笑い、遂にその笑顔の仮面を剥ぎ取った。

 

「イーッヒッヒッヒ!!」

 

「キャーッ!!カ、カルチェラさんが………!!」

 

衝撃の事実に、エリカが思わず悲鳴を上げた。

無理もない。

目の前で知り合いの女性が突然怪物になったのだから。

 

「そうか、宝石盗難事件の犯人はお前だったんだな!」

 

「そうさ、宝石は美味しくいただいたよ。持ち主の人間はみんな食い殺しちまったけどね!!」

 

今までのカルチェラからは想像もつかないような残忍な笑み。

これこそが、ピトンの真の素顔だった。

しかし、ここでとんでもない事態が発生した。

 

「あ、ママお帰りなさい。何処に行ってたの?」

 

何と、事もあろうかコクリコが出て来たのだ。

 

「コクリコ!近寄るな!!」

 

「チッ!コクリコはあたしがいただくんだよ!」

 

大声で叫ぶ大神。

しかし、それより早くピトンが動いた。

 

「ふふふ………、可愛いコクリコ………、ママのために人質になって頂戴ね。」

 

「ど、どうしたのママ!?」

 

突然後ろから肩を捕まえられ、困惑するコクリコ。

大神は、意を決してコクリコに真実を告げた。

 

「コクリコ、落ち着いて聞くんだ。そいつは人間じゃない。巴里を襲う怪人だったんだ!!」

 

「か、怪人………!?………ママ、嘘だよね?優しいボクのママだよね?答えてよ、ママ!」

 

自分を娘のように可愛がってくれたカルチェラが怪人のはずがない。

きっと見間違いか、疑われているだけだ。

そう信じ、一縷の望みをかけてコクリコが尋ねた。

しかし、健気で無垢な少女に突き付けられたのは、残酷なまでの真実だった。

 

「コクリコ………。その言葉、この顔を見ても言えるのかい?」

 

「そ、そんな!?マ、ママ………!!」

 

「止めろ怪人!今すぐコクリコを離せ!」

 

「動くな!一歩でも動けば、この子の首が引き千切れるよ!」

 

コクリコを救出しようとする三人を、ピトンが脅した。

鋭い爪が、コクリコの首に向けられる。

これでは助けに行く事もできない。

 

「バカ正直め。そのまま立ってなよ!」

 

その時、大神の真下から数多の犠牲者を食い殺した巨大な口が襲い掛かった。

 

「うわあっ!!」

 

何とか食われずに済んだものの、大神は今の一撃で左膝を斬ってしまった。

 

「大神さん!」

 

「くっ!………怪人、コクリコを放せ!」

 

鮮血が流れる膝を手で包み、大神がピトンを睨んだ。

その時だった。

 

「………ハハ………ハハハ………。」

 

どういう訳か、コクリコが突然笑いはじめたのだ。

 

「コクリコ………、何で笑ってるんだい?」

 

人質にされ、命さえ危うい状況なのに、何を笑っているのか。

大神やエリカ、ダイゴのみならず、ピトンすらも呆気に取られてしまった。

すると、コクリコは笑ったままで言った。

 

「ボク、泣かないんだ。どんな時でも、笑ってるんだ。」

 

すると、不思議な事が起こった。

コクリコの身体を、淡い光が包み込んだのである。

 

「な、何何だい?この光は!?」

 

「だから、ボクは笑うんだ。泣いても辛いままだから、笑うんだ………。」

 

ピトンの驚く声も聞こえていないのか、コクリコは譫言のように言った。

 

「ねぇ、イチロー………、ボク笑ってるよね?泣いてなんかないよね?」

 

「もういい、コクリコ!もういいんだ!!」

 

好きだった人に、ましてや一人だった自分を救ってくれたはずの者に裏切られて、どうして笑ってられようか。

コクリコが笑顔の仮面の下で泣いているのが、大神には分かった。

 

「イチロー………、ボクは………ボクは!!」

 

コクリコが叫んだ。

その時、コクリコの身体を覆っていた光が、まばゆい閃光となってピトンを襲った。

 

「くっ!?しまった!!」

 

その拍子に、ピトンがコクリコから離れた。

それと同時に、ダイゴが割って入る。

 

「コクリコに近づくな!怪人!!」

 

「チッ、覚えておいで!」

 

捨て台詞を吐き捨て、ピトンは夜の闇に消えた。

 

「コクリコ、コクリコ!大丈夫か!?」

 

倒れたコクリコを抱き上げて呼びかける。

しかし、失神しているのか返事はない。

 

「大神さん!とりあえずシャノワールの医務室に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………この子かい?ムッシュが見つけた霊力の持ち主は。」

 

「はい。怪人を吹き飛ばす程の、強い霊力でした。」

 

グラン・マの問いに、大神が答えた。

目の前には、ベッドに横たわるコクリコの姿がある。

 

幸い霊力の発動によるショックで気を失っただけらしい。

おそらくママと呼び慕っていたカルチェラが、怪人ピトンだったショックによるものだろう。

コクリコの心の傷は、深いものだった。

 

「………で、ムッシュ。この子は戦力になりそうかい?」

 

「そ、そんな!コクリコを隊員にするって言うんですか!?」

 

グラン・マの発言に、エリカが反発した。

無理もない。

コクリコはまだ11歳なのだ。

そんな幼い頃から戦場に立たせるなど、エリカには考えられなかった。

一方グリシーヌも、根拠こそ違うがエリカに賛成した。

 

「同感だ。こんな子供に何が出来る?足手まといもいい所だ。」

 

「口を慎みな。巴里華撃団はただでさえ人手不足なんだ。子供だろうと関係ない。」

 

二人の意見をバッサリ切り捨てるグラン・マ。

すると、大神が口を開いた。

 

「司令、俺はコクリコ自身に選ばせたいと思います。」

 

「そんな、大神さんまで!こんな子供に戦わせるって言うんですか!?」

 

珍しく大神を睨むエリカ。

しかし、大神はキッパリと言った。

 

「コクリコは今までずっと戦ってきた。辛い事も悲しい事も、笑顔を作って必死に乗り越えて来た。そうだろう?」

 

「………。」

 

大神の言葉に押し黙るエリカ。

グリシーヌも、無言だが大神の考えには納得したようだ。

 

「じゃあコクリコの事はムッシュに一任するよ。………ムッシュ、側にいてあげな。」

 

「はい。」

 

他の仲間が医務室を出る中、大神は一人コクリコを見た。

すると、不意にコクリコが目を開いた。

 

「………イチロー………。」

 

「コクリコ………、気がついたのかい?」

 

大神が優しく笑いかけると、コクリコは上半身を起こした。

 

「………本当はね、さっきから起きてたんだ。………話、聞いちゃった………。」

 

巴里華撃団の存在を知られた事は、一向に構わない。

もしかしたらコクリコも、共に戦うかもしれないんだから。

 

「俺達と一緒に戦うかは、コクリコが好きに決める事だ。でも、俺はコクリコの味方だよ。」

 

あくまでもコクリコを尊重してくれる大神。

傷ついたコクリコにとって、これ程救われるものはなかった。

 

「イチロー………。」

 

「笑わなくていいよ………。」

 

胸に顔を埋めるコクリコを抱きしめ、大神が優しく言った。

笑わなくていい。もう涙を飲み込む必要はないのだ。

 

「イチロー、ありがとう………。」

 

コクリコは、大神の胸でおそらく初めて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、大神が医務室に迎えに行くと、笑顔を取り戻したコクリコの姿があった。

 

「コクリコ、元気になったみたいだね。何か食べに行こうか。」

 

「うん!!」

 

元気な声で答えるコクリコ。

しかしその時、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

「緊急事態発生!巴里華撃団隊員は、大至急作戦司令室に集合して下さい!」

 

それを耳にして、大神の表情は一変した。

 

「怪人が現れたのか!コクリコ、君はここで待っているんだ!いいな?」

 

「あ、イチロー!」

 

コクリコの返事も聞かず、大神は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターに映し出されたのは、コンコルド広場だった。

確かロランスが、赤い少女の涙を展示する予定である。

おそらくそれを狙っているのだろう。

 

「あ、おひげのおじさんだ!」

 

コクリコが作戦司令室に飛び込んで来たのは、その時だった。

 

「コクリコ、待ってるように言っただろう?」

 

慌てて大神が窘めようとすると、グラン・マが口を挟んだ。

 

「おひげのおじさん?ロランス卿の事かい?」

 

「うん!いつもボクに優しくしてくれたんだ。おじさん、どうしたの!?」

 

コクリコは頷いて、大神に尋ねた。

 

「ねぇイチロー、おじさん、怪人に狙われているの!?」

 

「大丈夫だコクリコ。ロランスさんは絶対助ける。」

 

大神が元気づけるように言ったその時、コクリコは遂に決断した。

 

「ボクも戦う!おじさんを助けたいんだ!」

 

「ふざけるのもいい加減にしろ!貴様ごときに一体何が出来る!足手まといだ!!」

 

たまり兼ねたグリシーヌが怒鳴るが、コクリコは聞かなかった。

 

「足手まといなもんか!ボクだって力があるんだ!イチロー、いいでしょ?」

 

「………分かった。コクリコ、一緒に戦おう!」

 

一瞬考えたのち、大神はコクリコの申し出を受け入れた。

カルチェラが敵と分かった今、ロランスはコクリコに残された大切な人なのだ。

守れる力があるなら、守りたい。

 

大神は、そんなコクリコの想いと勇気を尊重したのだ。

 

「ありがとう!ボク、頑張るよ!」

 

「コクリコ、一つだけ言っておくよ。誰のためでもなく、自分のために戦うんだ。いいね?」

 

「はい!」

 

グラン・マの忠告に素直な返事で頷くコクリコ。

その様子に満足そうに微笑み、大神は命令を下した。

 

「よし!巴里華撃団花組、出撃!目標地点、コンコルド広場!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくつもの宝石が並ぶコンコルド広場の展示場。

そこにピトン率いるポーン達が現れたのは、突然の事だった。

急いで逃げ出す人々。

その中に、コクリコの大切なおひげのおじさん、ロランスの姿があった。

奴らの狙いは、おそらく自分の持つ赤い少女の涙。

そう考えたロランスは、他の人々を危険から守るために敢えてポーンの真ん中を突っ切っての脱出を敢行したのだ。

 

「イーッヒッヒッヒ!逃がしはしないよ!さあ、赤い少女の涙を渡して貰おうか?」

 

「あれは人類の宝だ!お前のような奴にくれてやる訳には行かん!!」

 

ピトンやポーンに囲まれても毅然と言い放つロランス。

すると、ピトンはニヤリと笑った。

 

「そうかい。ならアンタごと食ってやるよ!」

 

 

 

「そうはさせないよ!!」

 

 

「な、何っ!?誰だ!!」

 

突然の声に驚いて左右を見渡すピトン。

すると、ピトンとロランスの間に割って入るように、四つの光武Fが現れた。

 

「巴里華撃団、参上!!」

 

刹那、先頭に立つピンク色の光武Fが叫んだ。

 

「おじさん、伏せて!!」

 

ロランスが退避したのを確認するや、コクリコが両肩の大砲を撃った。

その攻撃を至近距離で食らったポーンは、たちまち炎上する。

 

「お、おのれ………!!ポーン達、あの邪魔者を蹴散らしておしまい!!」

 

言うや、ピトンは素早く姿をくらました。

 

「よし、敵蒸気獣を全滅させるぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

コンコルド広場の戦闘は、前回の凱旋門に比べて戦いにくかった。

ショートソードという砲台をピトンが設置していた事もあったが、何より建物が入り組んでいて、中々敵を発見できないのだ。

しかし、それを打ち消したのがコクリコだった。

持ち前の身のこなしで建物の屋根を飛び移り、ポーンを片っ端からやっつけたのである。

宝石を回収したのち、砲台を全滅させ、巴里華撃団はロランスのもとへ急いだ。

 

「おじさん、大丈夫?」

 

「ああ、私は大丈夫だが、あそこに………。」

 

光武Fに乗って現れたコクリコに多少驚きつつも、ロランスは真上のオベリスクを指差した。

 

「あのオベリスクにまだ、赤い少女の涙が………!!」

 

「分かりました。我々が保護しますから、貴方は避難して下さい!」

 

大神がそう答えた時だった。

突然地中から巨大な鮫のような怪獣が現れ、オベリスクごと赤い少女の涙に噛み付いたのだ。

 

「しまった!みんな、あの鮫を止めるんだ!!」

 

大神の指示で、花組は一斉に飛び掛かるが、鮫は凄まじいスピードで光武Fを跳ね退け、ピトンの下にたどり着いてしまった。

 

「イーッヒッヒッヒ!よくやったよゲオザーグ。さて、赤い少女の涙はいただくからね。」

 

勝ち誇ったように笑ってゲオザーグの頭を撫でるピトン。

しかし、配下の鮫が口にくわえた物を手に取るや、その笑いが凍りついた。

 

「な、何なんだいこれは?赤い少女の涙じゃないじゃないか?」

 

「ええっ!?」

 

何と、ゲオザーグがくわえていたのは、飴玉だった。

確かにオベリスクをかみ砕いたはずなのに、一体どういう訳なのか。

それは、一人の天才マジシャンの仕業だった。

 

「さあさあ、お代は見てのお帰りだよ!」

 

何処にしまっていたのか、コクリコが巨大なハットとバトンを取り出した。

 

「アン、ドゥ、トロワ!」

 

掛け声と共にバトンを振るとあら不思議。

ハットの中から巨大なルビーが出て来たのだ。

コクリコはゲオザーグにしがみついた瞬間、一瞬の早業で飴玉と宝石を入れ替えていたのだ。

 

「はい、本物はこちら!!」

 

途端に周囲から拍手が巻き起こる。

すると、コクリコが大神に声をかけた。

 

「笑顔がこんなに………。イチロー、みんな笑ってるね。」

 

「そういうコクリコも、いい笑顔をしているよ。」

 

「本当?イチローだって、笑ってるよ。」

 

それは、仮面などではない。

コクリコの心を偽らない、本当の笑顔がそこにはあった。

 

「グリシーヌさんが言う程、足手まといになってませんよ?」

 

「うむ………。まあ、少しは役に立ったな。」

 

エリカに肘でつつかれ、グリシーヌがそっぽを向く。

相変わらずだが、グリシーヌもコクリコを認めたのだ。

しかし、この状況に怒る者がいた。

ピトンである。

 

「おのれ巴里華撃団!あくまでも邪魔するなら、容赦しないよ!!」

 

すると、ゲオザーグと並ぶように一体の蒸気獣が現れた。

両腕がなく、代わりに蛇の形をしたロボットが腕になっている。

 

「お前らだけでも絞め殺してやる!この蒸気獣『ベルスーズ』と、可愛いゲオザーグでね!!」

 

「来るぞ!全員戦闘配置につけ!!」

 

「「了解!!」」

 

大神の指令で、花組は直ちに戦闘体勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピトンの操るベルスーズとゲオザーグ。

この二体の怪物に、花組は劣勢を強いられる事となった。

ゲオザーグが地面に潜り、花組に地中から奇襲を仕掛けているのだ。

そのゲオザーグに気を取られていると、今度はベルスーズが攻撃を仕掛けて来る。

しかし、浮足立つ巴里華撃団を救う者が現れた。

 

「やはり怪人の仕業だったか………。」

 

騒ぎを聞いてコンコルド広場に駆け付けたダイゴは、ゲオザーグとベルスーズに苦戦している花組を見た。

いずれもベルスーズの毒にやられ、動きが鈍っている。

 

「ピトン………、光の力を見せてやる………!」

 

正義の怒りと共に、ダイゴはスパークレンスを取り出した。

メルバを倒した光の力。

今一度それを示すかの如く、クリスタルは光っている。

ダイゴはスパークレンスを構えて時計回りに回転させ、光の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

「ティガーーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

それはやはり突然現れた。

 

「チャッ!!」

 

空から飛来した巨人がベルスーズを蹴り飛ばし、コンコルド広場に降り立つ。

その姿に、巴里華撃団は驚きを露にした。

 

「ウルトラマンティガ!!」

 

それは正しく、凱旋門でメルバを倒した伝説の巨人。

ウルトラマンティガであった。

 

「イーッヒッヒッヒ!待ってたよティガ!ここで暴れていればアンタが来ると踏んでいたからね。」

 

「チャッ………!」

 

巴里華撃団と対照的に、ピトンはティガの登場に不敵な笑いを見せた。

コンコルド広場の襲撃は前座に過ぎない。

ピトンの目的は、ティガを誘い出して抹殺する事だったのだ。

 

「さあゲオザーグ!あの裏切り者を噛み千切っておやり!」

 

ピトンの命令で、地中鮫ゲオザーグがティガに襲い掛かった。

 

「ハッ!」

 

前方から背鰭を出した状態で突っ込んで来るゲオザーグ。

ティガはそれを前転で避けると、右手を突き出した。

ハンドスラッシュ………突き出した右手から爆発する光弾を連射する、ティガの必殺技だ。

 

「ハッ!」

 

右手から打ち出された青白い光弾は、ゲオザーグの背鰭を直撃した。

それに伴い、ゲオザーグは苦しみながら地中に潜る。

 

「凄い………、あれがウルトラマンなんだ………。」

 

初めて見る光の巨人に、瞳を輝かせるコクリコ。

今まで自分達が苦戦していた敵の片方を難無く退けたその力は、正に救世主の三文字が相応しい。

 

「チャッ!」

 

次の目標をベルスーズに定め、ティガが構えを取る。

しかし、ピトンはニヤリと笑った。

 

「いいのかい?あたしばかり見て………。」

 

そう笑った時、大神はベルスーズの異変に気づいた。

ベルスーズの腕の蛇がいない。

それと同時にベルスーズの目が赤く光り、ゲオザーグ以外に地面を揺らす震動を感じる。

 

「まさか………、ティガ!下だ!」

 

大神が気づいて叫ぶが遅かった。

 

「ジュワッ!?」

 

突然地中から現れたベルスーズの腕が、ティガに巻き付いてがんじがらめにしてしまったのだ。

 

「イーッヒッヒッヒ!罠にかかったねティガ。」

 

ピトンが凶悪な顔で笑う。

ゲオザーグがやられて油断した隙に、腕でティガを捕まえる作戦だったのだ。

 

「さあ、巴里華撃団と共にあの世へお行き!ル・シャ・ドゥ・デラ・テール!」

蛇の口から、緑色の猛毒ガスが浴びせられた。

ガスは勢い良く飛散し、ティガと花組を瞬く間に包んでしまった。

 

「くそっ、これじゃあ助けに行く事も………。」

 

動かない光武Fに、大神が悔しげに拳を握る。

すると、ベルスーズに走る一つの影が目に入った。

 

「コクリコッ!?」

 

それは、何とコクリコだった。

コクリコは持ち前のジャンプで毒ガスをかわしていたのだ。

 

「えい!」

 

屋根からジャンプすると同時に、コクリコはベルスーズの顔面にドロップキックをかました。

 

「よくもみんなを騙したな!絶対許さない!」

 

「フン、調子に乗るんじゃないよ!お前から絞め殺してやる!」

 

「やれるもんならやってみろ!みんなはボクが守るんだ!」

 

ピトンに言い返し、コクリコはバトンを取り出した。

 

「イッツ、ショータイム!みんな、出ておいで!マジーク・ボンボン!!」

バトンが振られると同時に沢山の猫が現れ、ベルスーズを引っ掻き回した。

 

「クワッ!?くそ、ガキが………!」

 

その一撃で、ベルスーズは赤い目を潰された。

すると、蛇の締めが急に緩んだ。

 

「ティガ!今だよ!」

 

「チャッ!」

 

コクリコの言葉に頷き、ティガは蛇を振りほどく。

そして、両腕を額のクリスタルの前で交差させた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!」

 

勢い良く両腕を振り下ろすティガ。

すると、ティガの体色が赤と銀に変わった。

スカイタイプと対を成し、超怪力で敵をたたきのめすパワータイプだ。

 

「チッ!ゲオザーグ!早くティガを片付けておしまい!」

 

ピトンの命令を受け、ゲオザーグがティガに迫る。

しかし、今度は違った。

 

「チャッ!」

 

ティガはどっしりとゲオザーグを待ち構えると、その牙を掴んで地上に引っ張り上げたのだ。

全身を太陽の光に曝され、苦しむゲオザーグ。

 

「デュアッ!!」

 

ティガはゲオザーグを高々と持ち上げると、ベルスーズ目掛けて投げつけた。

 

「クワッ!?」

 

たちまちベルスーズは、ゲオザーグの下敷きになって身動きを封じられる。

その時、ティガのカラータイマーも点滅を始めた。

 

「チャッ!」

 

ティガは胸のカラータイマーに両手を合わせ、下に降ろした。

すると、その二つの掌に赤い光が宿る。

 

「ハァァァ………!」

 

そのまま両手を大きく外側から回し、膨大なエネルギーが圧縮される。

デラシウム光流………エネルギーをボール状に圧縮し、敵にぶつけるパワータイプの必殺技だ。

発動まで僅かに時間がかかるが、威力はランバルト光弾を大きく上回る。

 

「ダァッ!!」

 

 

胸の前で圧縮された光のボールが、裂帛の気合いと共にゲオザーグに直撃した。

刹那、ゲオザーグを光が包む。

 

「クワッ!!あ、あたしはまだ死ねない………!」

 

死期を悟ったか、ピトンが吠えた。

 

「ティガ………、貴様を倒してその宝石を食らい尽くすまで、死ねないんだよ!!」

 

そう叫ぶと同時に、ベルスーズはゲオザーグ諸とも大爆発した。

 

 

 

 

 

 

「………終わったね。」

 

「ああ、大活躍だったなコクリコ。」

 

「凄い!初めてなんて信じられない!」

 

「………霊力の高さだけは認めてやろう。」

 

光武Fから降りたコクリコに、花組が労いの言葉をかけた。

ゲオザーグから赤い少女の涙を取り戻しただけでなく、ティガの窮地までも救ったのだ。

これを大活躍と言わずして何と言おう。

 

「エヘッ。」

 

恥ずかしそうにコクリコが笑う。

すると、エリカが大神に言った。

 

「それじゃあアレ、やりましょうか!」

 

「アレって………?」

 

初めての戦いで知らないコクリコが尋ねる。

すると、グリシーヌが呆れた口調で説明した。

 

「巴里華撃団には、勝利した後の約束事があるらしいのだ。私は不本意なのだが。」

 

「ふーん、そうなんだ。それじゃ、いくよ!」

 

 

「勝利のポーズ、決めっ!!」

 

 

「チャッ!」

 

その様子を見届け、ティガは空高く飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、コクリコの姿はシャノワールにあった。

それも、レビュー服を着て。

 

「ヘヘヘ、これからボクもシャノワールのステージに立てるんだって。」

 

正式に巴里華撃団のメンバーに迎えられたコクリコは、グラン・マの提案でシャノワールでも働く事になった。

最も、昼はサーカスがあるため、夜しか出演できないが。

 

「それとね、市場の手伝いも続けるつもりなんだ。」

 

「おいおい………、それじゃ身体がいくつあっても足りないぞ?」

 

「あ、そうか。アハハ………!」

 

大神に言われ、コクリコは笑った。

今までのような仮面の笑顔ではなく、心からの笑顔で。

 

<続く>





《次回予告》

私はブルーメール家の名誉と誇りにかけ、巴里を守る。

光の巨人だか何だか知らぬが、そのような者の出る幕はない!

次回、サクラ大戦3!

《サムライの誇り》

愛の御旗のもとに………

貴公のようには………なれん………
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