それは草木の眠る真夜中の事だった。
「………いい月だ………。」
屋根の上に立つ一つの影が、徐に呟いた。
夜空に浮かぶ満月が、その姿を怪しく照らす。
「ここがレイモンの屋敷か………。」
影はそう呟き、眼下の建物を見る。
そして次の瞬間、何もない掌に炎を生み出した。
揺らめく炎が、影の顔を悍ましく照らし出す。
影はその炎を、屋敷目掛けて投げつけた。
刹那、屋敷の一角からたちまちにして火の手が上がる。
「フフフ………、楽しいねぇ………。」
その様子を満足げに眺めつつ、影は更に大きな炎を生み出し、屋敷に放つ。
「アーッハッハッハ………!!」
全てを燃やし尽くす様に笑う影。
すると、そこら中からけたたましいサイレンの音が聞こえて来た。
「何だ、もう感づきやがったのか?警察も暇なこって。」
お預けを喰らったような口調で吐き捨て、影はその場を立ち去ろうとした。
しかしその時、目の前に別の気配を感じて立ち止まった。
「………誰だ?」
殺気を漲らせた声で威嚇する。
自分は一人のため、仲間などというのは有り得ない。
こんな夜更けに屋根の上に立っているのは、大方同業者か裏の人間だ。
それを熟知している影は、油断なく身構える。
すると、ややあってもう一つの影が答えた。
「………相手より先に、自分から名乗らない?」
「悪いがこっちはそんな常識を重んじる気はない。早く答えな。」
予想より若い子供のような声に驚きつつも、先程よりも殺気を込めて迫った。
既にサイレンの音はすぐ近くまで来ている。
早くここを離れなくては、警察に見つかるかも知れない。
沸き上がる焦燥感を抑えて睨みつける影だが、相手も素直には答えなかった。
「それじゃこっちも答えられないよ。」
「アンタ、消し炭にされたいのか?」
言うや、影は痺れを切らして炎をちらつかせた。
炎は影の殺意を代弁するかのように、激しく燃える。
しかし、子供はそれを笑って返した。
「名前も教えてくれない人には遠慮したいなぁ………。」
「だったら覚えておきな。この巴里一番の大悪党、ロベリア・カルリーニをな!!」
そう叫び、ロベリアと名乗った影が炎を放とうとする。
だがその時、ロベリアの首筋を鋭い激痛が走った。
「うぐっ………!?」
激痛と共に全身を痺れが駆け巡り、ロベリアはそのまま崩れ落ちた。
「………何だ、先にやっちゃったんだ。」
倒れたロベリアの奥に立つ三つ目の影に、子供はやれやれという口調で呟いた。
三つ目の影は無言のまま、血のように赤い二つの目を光らせた。
「まあいいや、早く行こうよ。五月蝿くなってきたし。」
そう言って子供がその姿を消すと、赤い二つの目もまた見えなくなる。
その直後、屋根一体を無数のサーチライトが照らし出した。
そこには、アシンメトリーのコートを身に纏った一人の若い女性が、首筋に傷を残して倒れていた。
『ロベリア・カルリーニ、遂に逮捕。』
その見出しで始まった記事は、新聞の一面を完全に占領していた。
「………昨夜未明、レイモン氏の邸宅で火事が発生。巴里市警は放火の犯人としてロベリア・カルリーニを逮捕。」
ゆっくりと記事を読み上げたのち、大神は奥の席に座るグラン・マに尋ねた。
「司令、この記事は………?」
「今朝の朝刊だよ。巴里華撃団の戦力向上には、うってつけだろう?」
この日、大神以下三人の隊員は作戦司令室に顔を揃えていた。
グランマの提案で、新隊員について話し合うためだ。
今現在の巴里華撃団の戦績は三戦全勝。
ティガの助力もあって、白星をあげ続けている。
しかし裏を返せば、巴里華撃団が単独で敵を撃滅出来た例は存在しない。
そのため、次の戦いにティガがなくして勝てるかと問われると、大神は自信がなかった。
怪人や蒸気獣は大した問題ではない。
しかし奴らの従える怪獣は強力で、ティガなしで勝てる可能性は、少なくとも今の自分達にはなかった。
そこで新隊員を加えて戦力向上を計る訳だが、集まって早々グラン・マは大神にこの朝刊を渡したのだ。
「司令、この記事と新隊員に何の関係が………?」
「何言ってんだい、ムッシュ。そこに名前が書いてあるじゃないか。」
意図が分からず尋ねる大神に、グラン・マはさも当然の如く言う。
すると、大神はグラン・マの考えを理解すると同時に驚愕の表情を見せた。
「まさか………、このロベリア・カルリーニを隊員にするんですか!?」
正義を貫く巴里華撃団に犯罪者を入れるなど、聞いた事がない。
しかし、グラン・マはあっさり頷いた。
「そうさ。ロベリアはかなり腕の立つ霊力の持ち主らしいからね。加わってくれれば戦力は著しく上がるよ。」
「でも、悪者が簡単にボク達に協力してくれるのかな?」
コクリコが的確な意見を述べた。
相手は巴里の平和を脅かす悪党である。
そんな人間に平和のために協力を求めた所で、断られるのがオチだ。
しかしグラン・マは、主張を曲げなかった。
「簡単な事さ。何らかの条件をつけて交渉するんだよ。相手は懲役1000になる悪党だからね。飛び付いてくると思うよ?」
「1000年!?長生きな人ですね~!」
あからさまに驚くエリカ。
ロベリアは巴里で最も最悪と言われた大悪党だ。
窃盗、傷害、強盗………。
その数え切れない程の罪状を並べると、懲役は途方もないものだった。
すると、ここでグリシーヌが反論した。
「私は反対だ。このような極悪人を仲間にするなど、巴里華撃団の名折れではないか。」
「俺もグリシーヌの意見に賛成です。改心させるならともかく、取引では信用できません。」
相手は悪党だ。当然正義感もなければ、協調性もない。
いつ裏切られるやも知れぬ人物を仲間に加えるなど、正気の沙汰とは思えなかった。
が、しかし。ここでエリカが意外な事を口にした。
「だったら大神さん、今からロベリアさんを正義に目覚めさせればいいんじゃないですか?」
「え?いや、でもエリカくん………。」
「大丈夫です!私がロベリアさんを正しい道へ導いて見せます!」
大神の言葉を無視して、一人意気込むエリカ。
どうやら今の会話を聞いて、ロベリアに人としての道を説き伏せる使命感に駆られてしまったらしい。
しかし大神は、素直には喜べなかった。
改心させるというエリカの決意は素晴らしいのだが、ドジなエリカの事、また何か失敗をやらかす可能性は限りなく100%に近い。
そんな事になれば、どんな被害を被るか想像も出来なかった。
「決まりだね。ロベリアは今、サンテ刑務所に服役中だよ。」
それを知ってか知らずか、グラン・マはエリカの申し出に便乗して決定を下してしまった。
こうなっては仕方がない。
大神はエリカが大きな失敗をしないように、祈る事しか出来なかった。
サンテ刑務所は、巴里郊外に位置する刑務所の一つだ。
中では多くの囚人が集まり、出所の時を待っている。
ロベリアは、その一番奥に位置する特別牢獄に収監されていた。
「ここにロベリアが………。」
先が暗闇に包まれた螺旋階段を、ライトの明かりを頼りに下りていく大神達。
そこは、完全に外界と遮断された、奈落の底にも見えた。
「………。」
最下層にて、大神は奥に気配を感じてライトを向けた。
「あれが………ロベリア?」
薄汚れた囚人服を着せられ、足は鎖で壁に固定されている。
恐らくは目的の人物と見ていいだろう。
「………あ、怪我をしてますよ?」
ふと、エリカがロベリアの首筋を指差した。
そこには、何か鋭いもので突き刺されたような刺し傷がある。
多分逮捕のどさくさでついたのだろう。
ろくな手当てもされなかったらしく、血が滲んで僅かに腫れていた。
「悪人だけど、可哀相だね………。」
「確かに………。」
同情を見せるコクリコに、グリシーヌが同意する。
その時、ロベリアの目が四人を睨みつけた。
刹那、何処からともなく炎が現れ、一直線に襲い掛かってきた。
「なっ………!」
「危ない!!」
咄嗟に前に出たエリカが、霊力のシールドで炎を止める。
やがて炎は、数秒四人に牙を剥きつづけて消え去った。
「………君が、ロベリア・カルリーニだな?」
炎が収まった事を確認して、大神はロベリアに声をかけた。
「………。」
「単刀直入に言う。ロベリア、俺達の仲間になってほしい。」
沈黙を保つロベリアに、大神は単刀直入に申し出た。
すると、ロベリアは沈黙から一転して苦しみ出した。
「うっ………!ううう………!!」
「大変!ロベリアさん、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るエリカ。
しかしその瞬間、苦しみに耐えるはずのロベリアの顔が笑ったのを、大神は見逃さなかった。
「駄目だ!行くな、エリカくん!!」
ロベリアの狙いに気付いた大神が叫ぶ。
が、それより早くロベリアが動いた。
「動くな!動いたらこの女を殺すよ?」
いつの間にか手錠を外したロベリアの腕がエリカの首を捕まえ、フォークが突き付けられる。
やはり大神の読み通り、ロベリアは演技でエリカをおびき寄せたのだ。
「待てロベリア!俺達の仲間になれ!」
「仲間だと?」
「そうだ!そうすれば君は自由になれる!!」
「………悪いがノンだ。アタシはアタシ自身のためにしか動かない。」
大神の予想通り、ロベリアは聞く耳を持たない。
すると、ここでエリカが動いた。
「大神さん、ここは私に任せて下さい!」
「エ、エリカくん!?」
こんな人質にされて命まで危うい状況だと言うのに、一体何をすると言うのか。
しかしこの後、大神達三人はエリカが文字通り奇跡を起こす瞬間を、目の当たりにする事になる。
「ロベリアさん、貴女は本当は悪い人じゃないはずです!」
「馬鹿言うな!アタシは巴里の悪魔だ。その気になりゃ、お前を殺す事も出来るんだぞ!」
「大丈夫、貴女の罪は私が許します。」
「別にお前に許して貰わなくていい!」
「神は申されました。右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せと。」
「いい加減にしろ!それ以上喋ったら心臓ブチ抜くぞ!」
「だから私も、左の心臓を刺されたら右の心臓を差し出します。」
「お前アタシをナメてるな!?心臓は左にしかないだろうが!!」
「そうすれば、きっと貴女も真人間になれるはずです。」
「心臓と真人間に何の関係がある!」
「あ、それと話は変わりますけど………。」
「こら、勝手に変えるな!」
「ロベリアさんの何処が真人間かと言いますとね………。」
「変わってねぇじゃねぇか!!」
「す、凄い………。ロベリアがエリカくんのペースに巻き込まれている。」
先程までの緊迫した状況から一転、奈落の底はエリカによって漫才劇場になってしまった。
ロベリアは予測不能のエリカのボケに突っ込むあまり、完全に周りが見えなくなっている。
「よし!コクリコ、グリシーヌ、今の内にロベリアを取り押さえろ!」
「任せろ!」
「分かった!」
大神の指示で、三人は一斉にロベリアに飛び掛かった。
「し、しまった………!!」
エリカを人質に脱獄を試みた巴里の悪魔は、何とも情けない形でお縄についた。
「………よく分かった。ロベリア、君に会う事は二度とないだろう。」
「貴様にはその格好がお似合いだ。」
再び手錠と鎖で拘束されたロベリアに、大神とグリシーヌが鋭く言い放つ。
所詮悪党と正義は裏表。
この現状が何よりの証拠だ。
ロベリアを加える事は不可能であると分かった以上、ここには用はない。
「あ、ちょっと待って下さい。」
三人が牢獄を後にしようと背を向けた時、エリカが再びロベリアの方に駆け寄った。
そして、ロベリアの首筋に手を翳し、怪我の治療を始めたのだ。
「お前………!」
驚きの表情でエリカを見るロベリア。
その顔が、ふと大神の目に止まった。
「あれ………、さっきと違うような………。」
最初に睨みつけて来た時のロベリアの表情は、刃物のように鋭く冷たい印象を受けた。
しかし今エリカを見るロベリアには、その印象がない。
悪人特有の暗い感じが、彼女からは感じなかったのだ。
「はい、これで大丈夫です。」
「そんな奴、放っておけばいいのに。」
先程の騒ぎの心配からか、コクリコが悪態をつく。
ロベリアの怪我は、エリカの治癒能力のおかげで完治していた。
「エリカ、あまり不用意な事はするな。」
「は~い。さ、行きましょっか。」
本当に分かったのか怪しい返事で戻って来るエリカ。
その様子を、ロベリアは無言で見つめていた。
「ご苦労さん、ムッシュ。」
牢獄から出て来た四人を、グラン・マが出迎えた。
「で、どうだった?あっちの反応は。」
あっちとは言う間でもなくロベリアの事だろう。
その問いに最初に答えたのはグリシーヌだった。
「やはり悪党に過ぎん。話すだけ時間の無駄だ。」
「ボクもやだよ。あんな奴を仲間にするの。」
グリシーヌに便乗して意見するコクリコ。
すると、ここでエリカが反論した。
「そんな事ありません。ロベリアさんだって、本当は悪い人じゃないはずです。」
「エリカ、先程の事を忘れたのか?そなたこそ命が危うかったのだぞ!」
呆れた様子でグリシーヌが怒鳴る。
しかし、大神は考える様子を見せて言った。
「俺は………、出来ると思います。」
「隊長!貴公まで何を言うのだ。」
先程までロベリアの参入に反対していた大神の意外な一言に、グリシーヌが驚きを見せる。
「エリカくんに怪我を治療された時のロベリアの表情は、犯罪者特有の冷たさや暗さを感じなかった。あれがもし彼女の本当の姿なら………。」
「やっぱり!大神さんも分かってくれたんですね!」
一転してロベリア参入に賛成した大神に、エリカが感激する。
それと対照的に、コクリコやグリシーヌは不快感を露にした。
「イチロー、あんな悪い奴を仲間にするの?」
「正気か!?」
「まだ結論を出すのは早い。もう少しロベリアを観察してみるべきかと。」
ロベリアを隊員に迎えるかは隊長である大神に絶対的権限がある。
まだ彼女の参入を認めた訳ではないが、今の時点でその選択肢を切り捨てるのは、些か拙速感があった。
先程暗がりの中で放った炎の威力はかなりのもので恐怖すら感じたが、仲間になればこれ程心強いものはない。
巴里華撃団の今後を考えるなら、ロベリアは是非加わってほしい人材だった。
「なるほどね。ま、相手が相手だし一筋縄じゃ行かないよ。アタシもムッシュと同意見だよ。」
そう言った後、グラン・マは思い付いたように続けた。
「それならムッシュ。アンタ、ここにしばらく世話になったらどうだい?」
「いいっ!?俺が刑務所ですか!?」
突然の宣言に驚く大神。
つい先月、グリシーヌ邸のメイドをさせられたばかりだというのに、冗談ではない。
すると、グラン・マはさも当然の如く言った。
「ロベリアを観察するんだろ?だったら四六時中同じ建物がいいじゃないか。」
「そ、そんな~………。」
大神は今になって自分の言葉を後悔したが、あとの祭である。
かくして巴里華撃団隊長大神一郎は、めでたくサンテ刑務所に収監される事となった。
巴里には沢山の芸術がある。
それこそ世界にその名を知らしめた巨匠の作品がいくつも眠る巴里の美術館は、芸術の宝庫だ。
その一角に、不穏な影が現れた。
「………随分夜が静かになったわ。」
高い声色から、女性と推察できる。
胸元から大きく露出した服を身に纏う妖しい魅力を携えた女性。
その後ろに、赤い二つの目が光った。
「ロベリアとかいう小悪党が捕まったからね。流石はあたしのペットだわ。」
そう言って、女性は赤い二つ目を褒める。
「フフフ………。芸術の都と呼ばれた巴里の芸術、全部ズタズタにしたら、人間共はどんな顔するかしらね?」
そう言って、女性は目の前にある絵画に爪を立て、真っ二つに引き裂いた。
「………にしても、人間の芸術センスは酷いわね。壊し甲斐がないわ。」
無残に引き裂かれた絵画を前に、女性が呟いた。
人間と口にしている辺りから、やはり怪人の一人と推測できる。
「………そうだ。もっと有名な奴を引き裂くのよ。巴里の誰もが知るアイツを、このナーデルがね。」
ナーデルと名乗った女性が、残忍な笑みを浮かべた。
すると、それに合わせて赤い二つ目も輝きを増した。
「フフフ………、哀れな裏切り者。あたしが芸術にしてあげるわ。」
「………刑務所?」
レノ神父の口にした一言に、ダイゴは思わずマヌケな声を出してしまった。
今朝から教会にエリカの姿がない事が気になってレノ神父に尋ねた所、神父はこう返したのだ。
「はい。今朝から二人の友人と連れ立ってサンテ刑務所の方へ。何故か張り切っていたので、失敗しなければ良いのですが………。」
その言葉に、ダイゴは思わず苦笑いを浮かべた。
エリカのドジはどういう訳か、張り切っている時に限ってよく発生する。
そのジンクスが働けば、エリカは刑務所で少なくとも一度は何かしらの失敗をするだろう。
小さいミス位ならいいのだが、下手をすれば囚人を脱走させてしまったり、不用意に近付いて人質にされたりするかもしれない。
「………ですからダイゴさん………。」
レノ神父もダイゴと同じ事を考えていたらしく、申し訳なさそうに言った。
「でもいいの?僕まで抜けて………。」
「それなら大丈夫です。今日から新しくボランティアの方が見えますから。」
そう言った時、タイミング良くその人物が姿を見せた。
「お待たせしました、レノ神父。」
そう言って教会の入口に立っていたのは、ダイゴと同じくらいの歳の少年だった。
白い肌と金髪が特徴的な美少年で、そこら辺のパリジェンヌなら悩殺されそうな笑みを浮かべている。
「ああ、ピエールさん。よく来て下さいました。」
レノ神父が笑顔で迎えると、ピエールと呼ばれた少年はこちらに歩み寄って来た。
「ダイゴさん。こちらが今日からボランティアに加わってくれる事になったピエールさんです。」
「よ、よろしく………。」
人とは違う神秘的な魅力を持つピエールに驚きつつ手を差し出すダイゴ。
すると、ピエールは笑いながらダイゴの手を握った。
「ボンジュール、君がダイゴか。ピエール・タバルニエだよ、よろしく。」
エリカとはまた違った笑顔。
それに会えた嬉しさからか、ダイゴもまた笑顔になった。
「ダイゴさん、エリカさんを頼みます。」
「うん、分かった。ピエール、またね。」
そう言って、ダイゴは急ぎ足でサンテ刑務所へと向かって行った。
ピエールという新しい友人が出来た事に喜びながら。
「………。」
目的地のサンテ刑務所に着くや、ダイゴは固まった。
無理もない。
けたたましいサイレンの中を、沢山の警官達が走り回っているのだから。
「エリカさん………。」
まさかもう何かやらかしたのではなかろうか。
そんな不安を抱きながら、ダイゴは刑務所全体が混乱しているのをいい事に刑務所内に入り込んだ。
「ふぇ~ん!助けて下さぁ~い!!」
刑務所内に入るや否や、エリカの声が耳に入った。
「エリカさん!?」
慌てて牢獄の奥に走るダイゴ。
しかし次の瞬間、ダイゴは別の意味で驚く事になる。
「エリカさん!大丈夫………って、ええっ!?」
てっきり脱走した囚人に人質にされたと思っていたダイゴは、目の前の状況は全く違って驚いた。
「助けてぇ~!!」
泣きながらこっちに走って来るエリカ。
しかしそれを追い掛けているのは、何と警棒を持った警官だった。
それもそのはず。
何故ならエリカの手には、十字架を摸したマシンガンが握られていたからだ。
「待ちなさい!凶器準備罪だぞ!?」
「そんな~!私何もやってないのにぃ~!!」
マシンガンを持って刑務所に入れば怪しまれるのは当たり前だ。
ダイゴはとりあえずエリカが無事だった事に胸を撫で下ろして、事態の収拾を行った。
「待って。彼女は脱走犯とかじゃないよ。」
「ダイゴさん!」
助けに来てくれた事が嬉しかったのか、エリカは両目に涙を溜めてダイゴの背中に隠れた。
「本当か?じゃあそのマシンガンは………。」
「護身用だよ。囚人に襲われるかもしれないでしょ?」
「そうです!私、グラン・マの使いで来ただけです!」
「グラン・マからの!?これは失礼いたしました!」
ダイゴと全然話が噛み合ってないが、とりあえずグラン・マの名前が上がった事で誤解が解けたらしく、警官は頭を下げて走って行った。
「ありがとうございます、ダイゴさん。助けに来てくれたんですね。」
「うん。まさかこういう形になるとは思わなかったけど。」
まさかエリカがマシンガンを携帯しているとは思わず、意外そうにマシンガンを見るダイゴ。
すると、エリカが辺りを見渡して尋ねた。
「あ、そうだ!ダイゴさん、ロベリアさん見ませんでした?」
「ロベリア?誰それ?」
初めて耳にする名前にダイゴは首を傾げる。
すると、エリカはロベリアについて簡単に説明した。
「ロベリアさんは、昨日逮捕された大泥棒さんなんです。」
「ど、泥棒………?」
「はい!でも本当はいい人なんです!そのロベリアさんが逃げ出しちゃって………。」
あまりよく分からない説明だが、とりあえずこの刑務所に収監された人物と分かる。
何のためかは知らないが、とりあえずはそのロベリアという人物に用があるのだろう。
「それにしても、何でまた刑務所なんか………。」
囚人に教えを説きに来た訳でもないのに、何故こんな場所に来たのか。
すると、エリカは驚いた表情で答えた。
「ダイゴさん、知らないんですか?大神さんが昨日からここで厄介になってるんですよ。」
「………、ハァ!?」
ダイゴはまたしてもマヌケな声を上げてしまった。
先日のメイドから一転して囚人になるとは、一体彼に何があったというのか。
ダイゴは改めて、大神という人物が分からなくなった。
「それじゃ、私ロベリアさんを探して来ますね!」
「あ、ちょっとエリカさん!」
マシンガンもしまわずに走り出すエリカを、ダイゴは慌てて追い掛けた。
その頃、大神の姿はロベリアが収監されていた特別牢獄にあった。
昨日と同様に暗い闇を覆われた奈落の底。
しかし、そこにロベリアの姿はない。
彼女を拘束していた鎖も断ち切られていた。
炎を使ったのか、断面が溶解している。
他に牢獄内で身を隠せる場所はない。
しかし、ロベリアはここにいるはずだった。
『ロベリアは探さない所にいる』
混乱に乗じて脱獄を試みた囚人の情報だ。
探さない場所、それに当て嵌まるのは、ロベリアが元々いたこの奈落の底である。
脱獄を成功させるには、とにかくスピードが命である。
グズグズしていては、たちまち退路を塞がれてしまうからだ。
そのため脱獄を開始したら、すぐさま建物から屋外に逃亡を計るのが常套手段である。
普通は誰でもそう考えるだろうし、警官達もそう考えて、ロベリアを追跡するべく次々と外に出ている。
そうなれば刑務所内は必然的に手薄になる。
それまでここで待っているつもりだろう。
囚人の情報から、大神はそう推理した。
「ロベリア、出てこい!そこにいるのは分かっているぞ!」
奈落の底に、大神の声が響く。
すると、その背後から返事が返って来た。
「………中々鋭いじゃないか。」
振り向くと、囚人服から普段着に着替えたロベリアが鋭い目つきで笑っていた。
アシンメトリーのコートが闇に溶け込むように見える様は、巴里の悪魔という異名を連想させる。
「脱獄なんてよせ!懲役が増えるだけだ!」
「ハッ、1000年だろうが2000年だろうが、アタシには関係ないさ。………どいて貰おうか?」
大神の説得を鼻で笑うロベリア。
やはり無理なのか………。
大神が一瞬諦めかけた時、上から声がした。
「勇ましい事だね。ますます気に入ったよ。」
「支配人!」
それは、何とグラン・マだった。
話を聞いたグラン・マも、ロベリアに直談判すべく刑務所に急行したのだ。
「単刀直入に言うよ。ロベリア、巴里華撃団にお入り。」
「巴里華撃団?」
「巴里の平和を守る秘密部隊さ。警察や軍隊の介入もない。アンタの自由も保障できる。」
流石に大神より数段口の上手いグラン・マ。
しかし、それでもロベリアは首を縦には振らなかった。
「それがどうした?巴里の平和なんて興味ない。自由だってアンタに貰わなくても………!」
「簡単に手に入る、かい?今のアンタじゃ、説得力ないよ。」
言葉の尻を食って、グラン・マが言い返す。
確かに今のロベリアは何もない。
自力で脱獄すれば、一時の自由は手に入るだろう。
しかし、それでも完全な自由ではない。
ロベリア自身もそれを理解しているらしく、舌打ちを返した。
「だったら、もっと別なものをよこしな。」
今までノンの一点張りだったロベリアが、初めて答えを変えた。
大神は改めてグラン・マの話術に驚くと共に、ロベリアの求める別の条件を打ち出した。
「巴里華撃団に入れば、君の懲役を減らしてやる。どうだ?」
ロベリアの自由を拘束しているのは無数の軽犯罪から生まれた1000年もの懲役。
ならばその鎖を断ち切れば、ロベリアも納得してくれるのではなかろうか。
大神はそう考えたのだ。
「………なるほど。悪くないね。どのくらい減らしてくれるんだい?」
ロベリアも大神の予想とかなり近い反応を返す。
すると、今度はグラン・マが口を開いた。
「手柄一つにつき、10年でどうだい?内容によっては、ボーナスもつけるよ?」
一回の活躍につき10年。
つまり、最大でも百回手柄を上げれば、刑期が満了する計算になる。
しかし、ロベリアは何か引っ掛かった様子で言った。
「うますぎる話だね。………何か裏があるだろう。」
「そう、巴里華撃団は命懸けの仕事さ。でも、あくまで自分のために働けばいい。」
「自分のためねぇ………。」
巴里の平和を守るためでなく、自身の懲役を減らすため。
グラン・マの提示した条件は、自分のスタンスと十分噛み合っている。
「………。」
ロベリアは目を閉じ、一瞬考えるそぶりを見せた。
そして………。
「………さっきまで刑務所にいたとは思えないダンスだな。」
ステージに立つ新入りのダンスを見て、大神が呟いた。
あれからロベリアは、グラン・マの提案を受けて巴里華撃団参入を承諾したのだ。
そして今夜、シャノワールの新しいダンサーとしてステージに立ったのである。
ロベリアは何処で覚えたのか、華麗なステップでステージを舞い、観客達を瞬く間に虜にしてしまった。
すると、大神の後ろからよく知る声が聞こえて来た。
「やあ大神君。席は空いてるかな?」
「エビヤン警部!」
それは何と、巴里市警の筆頭であるエビヤン警部だった。
何やら何時にも増して機嫌がいい。
「ロベリアも逮捕出来たし、巴里も平和になったよ。今日はそれを祝おうと思ってね。」
「は、はぁ………。」
そのロベリアが今まで踊っていた事など知る訳もないエビヤン警部に、大神は引き攣った笑いを返す。
しかし次の瞬間、大神や後ろにいたエリカ達は、信じられない光景を目の当たりにする事になる。
「いらっしゃ~い、一名様ですか?」
「ロ、ロロ、ロベリア!?いつ脱獄したんだ!!」
笑顔だったエビヤン警部が突然に凍り付く。
確かに今日捕まえたばかりの悪党がシャノワールにいるとは、誰も思わないだろう。
すると、そこにグラン・マがやって来た。
「おや、警部。紹介するよ、今日入ったダンサーだ。」
「サフィールと申します。よろしくお願いしますね。」
グリシーヌとはまた違った意味で、ロベリアの名前を公にする訳にはいかない。
そこでロベリアは、サフィールという偽名でステージに立つ事になったのだ。
「サフィールさん………。これは失礼しました。………なるほど、ロベリアと性格はまるで別人ですな。」
「ウフフ、ありがとうございます。」
「それにしても美しい。」
「あら、警部さんも素敵よ?」
幸いあっさり信じたエビヤン警部。
しかし、後ろに控える大神達は唖然としていた。
無理もない。
ロベリアの態度が別人のように変わってしまったからだ。
ちょっとでも不用意な事をすればたちまち炎に焼かれるような鋭い視線が、今は全く感じられない。
演技なのかもしれないが、目の前にいるロベリアは最早別人だった。
「………!」
その時、ロベリアが鋭い目つきで客席の入口を睨んだ。
「ん?どうかされましたか?」
「………いえ、何でもありませんわ。」
何でもないといいつつも、入口を一点に見るロベリア。
大神は素早くその空気を読んで、エビヤン警部の注意を逸らす事にした。
「そういえば警部、巴里で変な事件は起こっていませんか?」
すると、サーモンムニエルを味わっていたエビヤン警部の表情が俄かに固くなった。
「そういえばここ最近、夜中に美術館の名画を切り裂く事件が相次ぎまして………。」
一流の名高い名画ばかりが無残に切り裂かれる事件。
被害額は既に3000万フランを越え、巴里市警は頭を抱えている。
かくいう昨日も、名画が十数枚切り裂かれてしまった。
「私はてっきりロベリアの仕業と思っていたんですが………。」
「それはないさ。ねぇ、ムッシュ。」
「はい、俺も違うと思いますよ?」
グラン・マも大神も即答した。
ロベリアは盗みこそすれ、金目のものをわざわざ壊すような真似はしない。
何より本人の前で確証もなしに言えるはずもない。
「確かに、そうですな。あの守銭奴なら、売っぱらうでしょうな。」
「そうですわ。ロベリアなら切り裂くなんてもったいな……、野蛮な事しませんわ。」
端から聞けば実に恐ろしい会話である。
ロベリアが入口を睨んだ視線を気にしつつ、大神はその様子に苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ここがシャノワールか。賑やかな場所だね。」
「そう?喜んでくれて嬉しいよ。」
瞳を輝かせるピエールに、ダイゴは笑顔を返した。
この日、ダイゴはボランティアを代わりにしてもらったお礼に、ピエールをシャノワールに連れて来たのだ。
「………。」
「どうしたの?」
ふと黙って奥のテーブルを見つめるピエールに声をかける。
すると、ピエールは変わらぬ笑顔を返した。
「何でもないよ。それより、店の中を色々教えてよ。」
「うん、いいよ。」
ピエールの笑顔は、他の人達のそれと違うものがあった。
まるで昔同じものを見たような、懐かしさを感じさせる笑顔。
それに、ダイゴは引き込まれていた。
最もそれがエリカに勝る事はないのだが、もしエリカが大神に取られたとしても孤独ではないという安心感が、ダイゴの心に芽生えつつあった。
その時、懐のスパークレンスが僅かに光った事に、ダイゴは気付かなかった。
その日の夜、巴里華撃団の姿はルーブル美術館にあった。
エビヤン警部の話した事件に怪人が絡んでいると見たグラン・マが、次に狙われるだろう美術館を警護するように指令を出したのである。
当初ルーブルかオランジュリーのどちらの美術館を警護するかで意見が別れてしまったのだが、餅は餅屋という事から大神はロベリアの意見を尊重し、ルーブル美術館を警護する事に決定したのである。
「………まだ現れないな。」
警護を始めて小一時間。
巴里で最も有名だけに100人近い警備員がいる中、刻々と時間が過ぎていく。
「やっぱりルーブルに来るつもりないんじゃない?」
「その時はロベリア、分かっているだろうな?」
オランジュリーを警護すべきと意見していたグリシーヌとコクリコが口を挟む。
すると、ロベリアは遠くを見たまま言葉を返した。
「来るさ。こんな空気の冷たい夜はね。」
その時、ロベリアの予想が現実に変わった。
「グアァ!?」
「うっ………!」
「ギャアァァ!!」
入口を警護していた警備員達が、突然苦しみながら倒れたのだ。
「お、大神さん!警備員さん達が………!」
「いや待て、エリカくん。」
隠れていた茂みから警備員を助けに行こうてするエリカを、大神が止めた。
どういう方法を使ったか知らないが、相手は警備員の数をものともしていない。
下手に姿を現せば、こちらまでやられてしまう危険があった。
すると、倒れた警備員の近くに人影が現れた。
ナーデルである。
「フフフ………、ルーブル美術館の警備もこの程度ね。まあ人間だから仕方ないけど。」
「………来やがったな。」
獲物を見つけたように、ロベリアが目つきを鋭くした。
どうやら美術館を襲撃している怪人に間違いないらしい。
「待て!!」
大神の一喝と共に、隊員達は一斉にナーデルの前に現れた。
「ん?まだ生き残りがいたのかしら?」
「貴様が名画を狙う怪人だな!これ以上好きにはさせないぞ!」
意外そうな反応を見せるナーデルに、大神が吠える。
しかし、怪人相手には大した威嚇にもならなかった。
「フフフ、このナーデルに刃向かうつもり?」
「何!?」
不敵な笑いを見せるナーデルに警戒する花組。
すると、ナーデルが満足げに笑った。
「ちょうど良いわ、遊び相手をあげる。出てらっしゃい、蠍怪獣アンタレス!」
高々と上げた右手の指をスナップしたその時、大神達とナーデルを割るように地面が裂け、中から巨大な怪獣が現れた。
茶色の皮膚と先が尖った長い尻尾。
そして顔には赤い二つの目が光る。
ナーデルの使役する蠍怪獣アンタレスだ。
「わぁ!出たぁ!!」
「大神さん、どうしましょう!?」
初めて生身で相対する怪獣に、思わずたじろぐ隊員達。
そんな中、ロベリアだけは表情が違った。
「コイツ………、何でアタシを攻撃しない?」
身体の大きさを活かしてこちらを追い詰めるアンタレスだが、どういう訳かロベリアを無視している。
まるで敵意を示さないのだ。
「ウフフ、仲良く食べられてちょうだい。」
「いかん!ロベリア、奴を追ってくれ!!」
美術館に向かって走り出したナーデルに気づき、大神が叫んだ。
幸いアンタレスはロベリアを攻撃しないので、自分達が怪獣を引き付けている間にロベリアなら追跡ができる。
「………チッ!分かったよ。」
やれやれといった表情で答えると、ロベリアはナーデルを追って走り出した。
「………何だこりゃ。警備員がまるで役立たずじゃねぇか。」
美術館の外を走りながら周囲を見て、ロベリアは悪態をついた。
無理もない。
巴里で一番厳重な警備をしていた警備員達が、揃ってナーデルにやられていたからである。
「見つけたぞ、ナーデルとやら!」
壁を蹴って跳躍し、ナーデルの前に立ちはだかるロベリア。
すると、ナーデルは何かに気付いたように笑った。
「あら………、誰かと思えばロベリアじゃない。捕まったんじゃなかったの?」
「成り行きでね。で、どういう訳だい?」
「何の話かしら?」
「とぼけんじゃないよ。」
白をきるナーデルを一蹴し、ロベリアが倒れている警備員を指差した。
「コイツらの首や背中の傷、アタシがレイモンの屋敷を襲った時と同じものだ。多分さっきの怪獣だろうが………。」
おそらくアンタレスとかいう怪獣によるものだろう。
怪獣の殺気は、正にレイモンの屋敷で感じたそれだった。
「そうよ。貴女があんまり巴里で騒ぎを起こすから、警戒が厳重になっちゃってね。」
これでロベリアの推理は確定した。
あの夜、レイモンの屋敷でロベリアを襲ったのは、ナーデルだったのだ。
「しかしまさか、ここで会うとは思わなかったわ。おかげであの子も攻撃してくれないし。」
その言葉に、ロベリアはある程度の察しをつけた。
蠍の中には、体内に持つ毒素を感知して仲間を見分ける種類がいる。
アンタレスも同様なら、以前毒を受けている自分を仲間と勘違いしたのだろう。
それなら、自分だけ攻撃されないのも納得がいく。
「ちょうど良いわ、ロベリア。話があるの。」
ナーデルが、再び不敵に笑った。
「………これは!!」
スパークレンスの輝きに導かれたダイゴは、目の前の状況に驚きの声を上げた。
ルーブル美術館に現れた巨大な怪獣。
その足元には、どういう訳かエリカや大神の姿がある。
「まさか、また怪人が現れたのか………。」
ダイゴは懐のスパークレンスを取り出した。
古代の彫刻は、ダイゴに戦う事を促すように光を放っている。
ダイゴはキッと怪獣を見据えると、スパークレンスを大きく時計回りに回転させ、夜空に掲げた。
「ティガーーーーーーー!!」
「チャーッ!!」
夜空を舞うように現れたティガが、アンタレスに空中から蹴りつけた。
「ガアアアアッ!!」
いきなりの不意打ちに、アンタレスは真後ろへ吹っ飛ぶ。
そして、ティガは大神達を守るように地面に降り立った。
「チャッ!」
アンタレスを前に身構えるティガ。
アンタレスも標的を大神達からティガに変えたらしく、こちらには目もくれない。
「よし、ティガが戦っている間にロベリアと合流するぞ!」
「「了解!」」
アンタレスをティガに任せ、大神達は手分けしてロベリアとナーデルを探した。
何せ辺りは真っ暗である。
二人が何処をどう走ったのか皆目見当がつかない。
そこで大神は四つに分かれてロベリアを探す事にした。
これならナーデルが更に援軍を呼んでいなければ間違いなく二対一になるので、効率が良い。
そして、最初にロベリアを見つけたのは大神だった。
「ロベリア、大丈夫か!………って、あれ?」
ロベリアと言えど生身で怪人を相手には出来ない。
先程は見失わないために追跡させたが、ナーデルの確保よりもロベリアの安否が心配だった。
が、大神の不安は一瞬で消えた。
「よぉ隊長。何息切らしてんだ?」
「ロベリア………、何呑気な事言ってるんだ?」
怪獣まで差し向けて来た怪人を前に何の余裕をかましているのか。
呆気に取られる大神に、今度はナーデルが言った。
「心配ないわよ。あたしはロベリアと、大人の話をしていたんだから。」
「大人の話?」
「ああ。手を組まないかと誘われてね。」
「何だって!?ロベリア、まさかそれを受けたのか!?」
信じられない面持ちで尋ねる大神。
すると、ロベリアはいつものように曖昧に返した。
「条件次第さ。言ったろ?巴里の平和なんてどうでもいいってね。」
「ロベリア………!」
「どうするんだい?何か条件をつけるなら考えても………。」
そうロベリアが笑った時だった。
突如大神が刀を抜き、白銀に輝く刃をロベリアの眼前に突き付けたのだ。
「そんな事、俺が許すものか!!」
「なっ………!」
「答えろロベリア!返答いかんによっては、俺が君を切り捨てる!!」
「………!!」
その瞬間、辺りの空気が震えた。
もし怪人と手を組むと言えば、大神は本気で自分を斬る。
大神の視線から、ロベリアは確信した。
「大丈夫よロベリア。そんな奴あたしが先に殺してあげるから。」
ナーデルはそう言ったが、そんなもので安心できる程の殺気ではない。
言うなれば、ここで死ぬか否か。
それが、ロベリアを決断させた。
「………ったく、冗談の通じない奴だねアンタは。言ったろ?コイツよりエリカがマシだって。」
「な、何ですって!?」
今度はナーデルが驚く番だった。
巴里の大悪党が、自分よりあの男につくとは信じられなかったからだ。
「当たり前だろ?元はと言えばアンタのちょっかいで捕まったんだ。そんな奴と対等に交渉してやるようなアタシじゃないよ。」
「だったら交渉決裂ね。きっと後悔させてあげるわよ!」
そう吐き捨て、ナーデルは夜の闇に消えた。
「あ~あ、もう少しで捕まえられたのに。空気読んだら分かるだろ?」
「ロベリア………。」
呆れた表情で言ってのけるロベリアだが、ふと大神に笑みを見せた。
「でもね、さっきのアンタ格好よかったよ。………惚れそうな位にね。」
「え………?」
普段は絶対に見せない表情に、思わず見とれる大神。
すると、ロベリアは途端に元の呆れ顔に戻った。
「嘘に決まってんだろ!何照れてんだよ、馬鹿だからか?」
そうは言うものの、赤いままの顔で言われては説得力がない。
残りの三人が駆け付けたのは、その時だった。
「二人とも、無事でしたか!?」
「ああ、それよりナーデルが美術館にポーンを呼び出すらしい。大至急シャノワールに戻るぞ!」
「「了解!」」
その頃、ティガと戦っていたアンタレスにも異変が生じた。
「ガアアアアッ!」
何と、突然地面に穴を掘って逃走を始めたのだ。
「チャッ!」
ティガは逃がさんとばかりにアンタレスの背中に馬乗りになって殴り掛かった。
「ハッ!ハッ!チャッ!」
しかし何度目かのパンチを浴びせようとした時、ティガの背中に何かが突き刺さった。
「ジュワッ!?」
それは、ロベリアさえも倒した尻尾の先にある猛毒の針だった。
途端に全身を痺れと激痛が襲い、ティガは地面をのたうつ。
その間に、アンタレスは地中深くに逃げ去ってしまった。
「チャッ………。」
無念そうにその様子を見つめ、ティガは姿を消してしまった。
ルーブル美術館には、既に裏口からかなりの数のポーンが侵入していた。
ちょうど特別展示の日だったために、たくさんの芸術文化財が並んでいる。
「………ティガも始末した事だし、早速始めましょうか。」
ナーデルの爪が一つの絵画を切り裂こうとした時、別の声がそれを制止した。
「やれるもんなら、やってみな!!」
「なんですってぇ……!?」
声のした入口に睨むナーデル。
すると、別の声と共に五つの光武Fが現れた。
「でも出来ればやらないで下さいね!」
「巴里華げき………「お前は黙ってろ!!」」
見事に決めを失敗しながら。
「ロベリアさん、ここの台詞は『巴里華撃団、参上』って教えたじゃないですか。」
「やかましい!お前のせいでしくじったんだろ!!」
注意するエリカに爪を立てて威嚇するロベリア。
すると、ナーデルが冷たい笑みを浮かべて笑った。
「ロベリアじゃない。もしかして手を組みに来てくれたの?」
「お前馬鹿か?美術品の価値も分からねぇ馬鹿と組む訳ねぇだろバーカ!」
呆れた口調で頭を叩いて見せるロベリア。
その行為が気に障ったのか、ナーデルは表情を一変させた。
「キーッ!よくも言ったわね!ポーンども、やっておしまい!!」
言うや、ナーデルは転移魔術でその場を離れた。
同時に美術館内にいたポーン達が一斉にこちらに向かってくる。
ルーブル美術館内での戦闘は、様々な意味で戦いにくかった。
ポーンの数が多い事もそうだが、何よりそこら中にある展示品を気にして戦わなければならないため、攻撃に躊躇いが生じるのだ。
大神は的確に指示を出し、美術品を傷つけないように勤めた。
そして、中央に位置する高級美術品を含む全ての美術品を保護する事に成功した。
「よし、あとはナーデルだけだな。」
美術品を保護したら、あとは主犯であるナーデルを倒すだけだ。
その姿を探して辺りを見渡すと、ロベリアが一点を指差して叫んだ。
「隊長、ナーデルならあそこだ!」
それは、美術館の奥だった。
ナーデルは特に逃げようともせず、ポーンが全滅したこの状況において尚、余裕をかましていた。
「残りはアンタだけだ。どうする?助けでも呼ぶかい?」
「あら、それはこっちの台詞よ?これでも戦えるつもり?」
ロベリアの凄みを嘲笑で返し、ナーデルは真後ろの絵画に爪を突き立てた。
その絵に、グリシーヌは見覚えがあった。
「あれは、『モザ・リナ』!フランスを代表する名画だぞ!」
「な、何だって!?」
フランスの代表的な文化遺産。
そんなものに傷をつけられてはたまらない。
「さあ、この絵に傷をつけられたくなかったら、道を開けなさい。」
「くそっ………!」
二択を迫られ悩む大神。
確かに『モザ・リナ』を傷つけられる訳にはいかない。
しかし、それではナーデルにまたも逃げられてしまう。
すると、ここでロベリアが口を挟んだ。
「簡単な引き算さ。こうすればいいんだよ!」
言うや、ロベリアはとんでもない行動に出た。
掌から炎を放ち、絵をまるごと焼いてしまったのである。
「きゃっ!?」
「『モザ・リナ』が、灰に!!」
止める間もなく、フランスを代表する名画は跡形もなく消し炭になってしまった。
「ロベリア、何て事を!」
「そうよ!せっかくあたしが素敵に作り変えようとしてたのに!」
「あとでグラン・マに怒ってもらうからね。」
ナーデルを含め口々に非難を浴びせる一堂。
すると、ロベリアはキッパリと言い放った。
「何言ってんだ!怪人の撃破が最重要任務なんだろ?絵の一つや二つ、切り捨てちまえよ!」
それは、かつてのロベリアからは考えられない言葉だった。
自分のためなら何でも簡単に切り捨てる彼女が、フランスの宝を灰にしてまで正義を貫こうとは。
「………君が怪人に見えるよ。」
「褒め言葉にしといてやるよ。」
大神の言葉にニヤリと笑い、ロベリアはナーデルに向き直った。
「ほらほらナーデルちゃん、次は何を人質にするんだい?全部燃やしてやるよ?」
すると、その言葉が逆鱗に触れたらしく、ナーデルは地団駄を踏んだ。
「キーッ!馬鹿にしないでよ!アンタ達、絶対許さないんだから!!」
「へぇ?許さないならどうするんだよ?」
「こうするのよ!!」
そう言い返し、ナーデルは魔法陣を出現させた。
たちまち辺りの妖気が高まる。
「まずい!みんな、光武に戻るんだ!」
大神の指示で素早く光武Fに乗り込む隊員達。
それと同時に、ナーデルが叫んだ。
「出て来なさい!蒸気獣『ノクテュルヌ』!!」
すると、真後ろの魔法陣から深紅の蒸気獣が現れた。
鋏のような両腕と長い尻尾は、猛毒の蠍を連想させる。
しかし、ナーデルが呼んだのはそれだけではなかった。
「こ、これは!」
突如震動が美術館全体を襲ったかと思うと、床を突き破ってアンタレスが現れた。
「この美術館ごと芸術に変えてあげるわ!覚悟なさい、巴里華撃団!!」
ナーデルの叫びと共に、アンタレスが襲い掛かって来た。
「ガアアアアッ!」
「まずい!みんな、双方に注意しながら戦うんだ!」
「「了解!」」
大神の指示を受け、五つの光武Fは別々の方向に動いた。
目標をばらけさせる事で、相手の狙いを分散させる作戦だ。
結果それは上手くいき、アンタレスは大神の狙い通り辺りをキョロキョロしている。
「よし、今の内にナーデルを仕留めるぞ!」
二刀を握り、大神が叫ぶ。
アンタレスより先に指揮官のナーデルを倒せば、アンタレスも僅かに戦いやすくなるはず。
大神はアンタレスの注意を逸らし、その上でナーデルを倒す事にしたのである。
「喰らえっ!」
振りかぶった二刀をノクテュルヌ目掛けて振り下ろす大神。
しかし、それでやられてくれる程相手も甘くはなかった。
「フフフ………、かかったわね?」
「何っ!」
ナーデルが不敵に笑った時、大神は周囲の状況にハッとした。
自分を含め、全ての光武Fがナーデルの眼前に集まっていたのだ。
「赤は血の色、死は闇の色、妖艶なれ!ル・フラール・デュ・マル!!」
刹那、ノクテュルヌの尻尾から超高圧電流が発射された。
「くっ、しまった!」
電流を受け、大神はハッとした。
光武Fは構造上、霊力を霊子水晶に反応させて動かす。
その動力部分は、希少な金属で覆われている。
つまり………。
「大変です大神さん!光武が動きません!」
最初に叫んだのはエリカだった。
見ると、他の光武Fも動きが完全に停止している。
大神の予想が、現実に変わった瞬間だった。
光武Fの弱点は霊子水晶にダメージを受ける事だ。
そうなれば、霊力が光武Fに伝わらないため、攻撃どころか身動きすら取れないのである。
「このナーデルを甘く見たわね。先にあたしを狙って来る事くらい計算済みよ。」
沈黙した光武Fを前に、ナーデルが勝ち誇ったように笑う。
対する大神は、悔しげに顔を歪めた。
「くそっ………。」
状況は完全に絶望的だ。
このままでは光武Fの機能が回復する前にやられてしまう。
しかし、ここでナーデルは意外な事を口にした。
「さて、アンタ達はしばらくそのままでいて貰うわよ?」
「何?どういう事だ!?」
せっかくのチャンスだというのにトドメを刺そうとしないナーデルに、大神が問う。
すると、ナーデルは笑って答えた。
「あたしの狙いはもう一つあるのよ。アンタ達はその後。」
そして、ナーデルは美術館全体に響く大声を上げた。
「さあ出て来なさい!ウルトラマンティガ!」
「くっ………!」
柱の影に隠れていたダイゴは、ナーデルの言葉に身震いした。
アンタレスに逃げられてすぐ、変身を解除したダイゴは美術館を離れようとしたのだが、背中から全身に痛みが走って思うように動けず、美術館内に身を潜めていたのである。
「そこにいるのは分かってるのよ?大人しく姿を見せなさい!」
おそらくこちらの居場所はばれているだろう。
ナーデルの声は明らかにこちらを向いていた。
「(どうする………?この身体で勝てるか………?)」
先程のダメージは色濃く残っている。
この状況で、怪獣と蒸気獣の二体を相手に勝てる自信はない。
しかし、スパークレンスはダイゴの意志に反して、光を放っていた。
まるで、ダイゴに戦えと言わんばかりに。
「ティガ………、それが君の意志なの………?」
勝てる見込みはない。
だが、目の前に巴里を脅かす存在がある限り自分は戦わなければならない。
それが、光を継いだダイゴの宿命だった。
「ティガ………、僕に勇気を授けてくれ………!」
ダイゴは傷付いた身体で立ち上がると、その光に従い、スパークレンスを天に掲げた。
「ティガーーーーーッ!!」
そして、光は再び戦場へ舞い戻った。
「チャッ!」
「ティガ!!」
「………現れたわね。」
姿を見せた光の巨人に、花組は驚き、ナーデルは笑った。
獲物を見つけた蠍のように、悍ましい顔だ。
「フフフ、やはり現れたわねティガ。最高の芸術に変えてあげるわ。」
言うや、アンタレスが襲い掛かって来た。
「ガアアアアッ!」
「チャッ!」
真正面から体当たりして来た首を捕まえ、一本背負いの要領で投げ飛ばす。
しかし、仰向けに倒れたアンタレスに攻撃を仕掛けようとした時、ティガは背中に激痛を感じた。
「ジュワッ!?」
激痛の余り立っていられなくなり、片膝をつくティガ。
そこに、起き上がったアンタレスが襲って来た。
「ガアアアアッ!」
「チャッ………!」
首を締め上げる両腕を外そうと、ティガがアンタレスの両腕を掴む。
しかし、毒にやられて弱った身体に十分な力が入らない。
「そうよアンタレス………。そのままティガを離さないでね………。」
身動きの取れないティガの様子を楽しむように笑い、ナーデルがティガに迫る。
「さあ、その首を撥ねてオブジェにしてあげるわ!」
「ティガ!!」
ティガの身を案じてエリカが叫ぶ。
しかし、ナーデルの攻撃は意外な人物によって阻止された。
「何正義の味方がやられてんだ?」
「なっ!ロベリア!?」
何と、ロベリアの光武Fがノクテュルヌの前に割って入り、右手の三本の鈎爪で攻撃を防いだのである。
「どういう事!?あたしの電撃が効かなかったって言うの!?」
動きを封じたはずのロベリアからの反撃に、呆然となるナーデル。
すると、ロベリアはニヤリと笑った。
「馬鹿が。このアタシを見て分からないのか?」
その言葉に、ナーデルは顔を凍りつかせた。
「なっ………!!」
何と、ロベリアの光武Fは腰から下が地面に溶け込んでいたのだ。
あの時、ロベリアは全身を床に沈める事でナーデルの攻撃をやり過ごしたのである。
「ほら、いつまで情けない格好してんだ?早いとこケリつけちまえ!!」
ノクテュルヌを押し返しながらロベリアが叫ぶ。
すると、その言葉に奮起されたティガは全身に力を集中した。
「ンゥゥゥ………、ハッ!!」
額のクリスタルを発光して、ティガはパワータイプにチェンジする。
そして、その凄まじい握力でアンタレスの両腕を握りしめた。
「ンゥゥゥ………!!」
「ガアアッ!?」
突然のティガの反撃に驚いたアンタレスは腕を外そうとするが、パワータイプの握力からは逃げられない。
「ハッ!」
ティガが気合いの一声を発する。
すると、アンタレスの両腕が音をたてて粉々に握り潰された。
「ガアアアアッ!!」
「チャッ!」
両腕を潰されて苦しむアンタレスに、ティガはここぞとばかりに反撃に出た。
逃げようとする怪獣の尻尾を捕まえ、ジャイアントスイングの要領で投げ飛ばす。
「チャーッ!!」
美術品を展示していた台を薙ぎ倒しながら、倒れるアンタレス。
ティガは両手を大きく外側から回してエネルギーを圧縮する。
「ハァァァ………!」
そして、アンタレス目掛けて渾身のデラシウム光流を放った。
「ダァーッ!!」
超高熱の光球は一直線にアンタレスを捕らえ、一気に包み込む。
「ガアアアア………!!」
アンタレスは断末魔の叫び声と共に大爆発した。
「そ、そんな………!あたしのアンタレスが………!」
自分の可愛いペットが目の前で倒され、呆然とするナーデル。
そこに、ロベリアが襲い掛かった。
「よそ見してる暇あんのか!?」
血に飢えた爪でノクテュルヌに切り掛かる。
気付いたナーデルは慌てて避けようとするが間に合わず、爪はノクテュルヌの腹を深々と引き裂いた。
「キーッ!卑怯じゃない!少しは手加減しなさいよ!」
「ハン、ここで死ぬ奴が何言ってんだ?いい加減諦めな!」
そう吐き捨て、ロベリアは凄絶な笑みでナーデルを睨んだ。
右手の鈎爪が、灼熱の炎に包まれる。
「………!!」
その悪魔にも似た恐ろしい視線に魅入られ、ナーデルの身体が固まる。
そこにらロベリアは殺意に満ちた鈎爪を振り下ろした。
「炎を見る度思い出せ、火の恐怖を!
フィアンマ・ウンギア!!」
鈎爪はノクテュルヌの脳天を直撃した。
たちまちに赤い蠍の全身を煙と火花が包む。
「こんなの………、こんなの、認めないわ!あたしの芸術を分からない、無能な………、人間共に………!!」
無念の声と共に、ナーデルは地獄の業火に蒔かれて灰になった。
「チャッ。」
その様子を確認し、ティガは静かに消え去った。
「………今回はロベリアのお手柄だったな。」
ルーブル美術館を後にして、大神が口を開いた。
今回の任務におけるロベリアの功績は素晴らしいものがあった。
ルーブル美術館が襲撃される事をピタリと言い当て、ナーデル撃破に貢献し、ティガのピンチまで救ったのだ。
これを大活躍と言わずして何と言うのか。
悪党だとか言う事は関係なく、ロベリアは立派に巴里華撃団としての存在をしらしめたのである。
最も、本人にそのつもりは全くないが。
「そうだ!『モザ・リナ』燃やしちゃったけど、どうしよう!」
ふと思い出したように、コクリコが叫んだ。
ナーデルを追い詰めるためにやむを得なかったとはいえ、フランスの宝を灰に変えてしまった責任は重い。
すると、シャノワールから通信が入って来た。
「それなら、ご心配には及びません。」
「あの絵画は全部、美術館が用意した偽物だそうですぅ。」
「ロベリアさんの事ですから、最初から知ってたんですよね?」
「当然さ。眉毛のない『モザ・リナ』が、本物な訳ないだろ?」
得意そうに腕を組むロベリア。
確かに偽物と見抜いていたなら、先程の行動も頷ける。
しかし、ここでグリシーヌがある事に気付いた。
「………待てロベリア。元々『モザ・リナ』に眉毛はないぞ。」
元々眉毛はない。
と言う事は、眉毛の有無では本物と偽物の判断が出来ない事になる。
つまり………、
「あ~ら、そうだったっけ?まあ良いじゃねぇか。」
「ふざけるな!本物だったらどう責任を取るつもりだったんだ!」
無責任なロベリアの言動にすかさず噛み付くグリシーヌ。
すると、エリカがそれを宥めながら言った。
「はいはい落ち着いて。いつものアレがまだですよ?」
「………いつものアレ?」
「はい。私達は戦いに勝った後、必ずポーズをキメる事に………。」
刹那、ロベリアの表情は一変した。
「なっ!?じ、冗談じゃねぇ!!そんな子供みたいな真似出来るかよ!!」
「こらロベリア、逃げるんじゃない!」
嫌がるロベリアを押さえ付け、大神が言った。
「行くぞ、勝利のポーズ………」
「キメるかぁーーー!!」
<続く>
《次回予告》
いつまでも覚めない夢………。
私は貴方と、愛に揺らめきたい。
そう、いつまでも………
次回、サクラ大戦3。
《揺らめく想いは》
愛の御旗のもとに………
それでも貴方を、忘れられない………