「こ………ここは何処だ………?」
そこは、何もない空間だった。
色も空気もない空間。
その中を、大神は漂っていた。
「………どうして?」
ふと、大神の耳に誰かの声が聞こえて来た。
「どうして奴らは、大地から全てを奪おうとするの?」
それは、ピエロのような格好をした少年だった。
あどけない顔に、金色の二つの目が光る。
「お前は一体何者だ?奴らとは一体………?」
大神が尋ねると、ピエロはニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「どうしてって聞いても………、答えられないんだろ!!」
刹那、ピエロの金色の目が光った。
「なっ………!?」
光は瞬く間に視界を包み込んだ。
「………夢か。」
気がつけば、大神はシャノワールの秘書室にいた。
その事から、先程までの出来事が夢と分かる。
「俺自身、あの敗北から立ち直っていないんだな………。」
シャンゼリゼを炎に包んだ怪人カルマール。
これまで倒した怪人軍団を復活させたあの怪人に、自分達は手も足も出なかった。
「俺は、どうすればいいんだ………。」
いつまた奴らが襲って来るか分からない。
それまでに何かしらの対策を立てなければ、次の敗北は決定的だ。
しかし、大神には良い考えは思いつかなかった。
「………。」
大神はふと、ポケットにいれてある写真を手に取った。
そこには、かつて帝都を守るために共に戦った九人の仲間達が写っている。
帝国華撃団。
帝都に潜む魔の存在を打ち破った、大神のよき仲間達だ。
「………みんなならこういう時、どうするかな………。」
「みんなって誰の事だい?」
突然後ろから声がしたかと思うと、誰かが大神の写真を引ったくった。
「あっ、ロベリア!それにみんなも………。」
そこには、ロベリア以下巴里華撃団のメンバーが勢揃いしていた。
五人共大神の写真を物珍しそうに眺めている。
「何なんだ?この妙な女共は。」
「帝国華撃団の仲間達だよ。君達にとっては、先達に当たるかな。」
「綺麗な人達ばかりですねぇ………。はい、写真お返しします。」
ロベリアに説明する大神に、エリカが見とれた様子で写真を返す。
その表情は、輝いている先輩に憧れる後輩のそれだ。
しかしそんなエリカとは対照的に、グリシーヌやロベリアは帝国華撃団にいい印象を持っていないようだった。
「ふん、こんな貧弱な奴らが帝都を守れるとは思えんな。特にこの紫の服、下品の極みだ。」
「確かに。まだアタシらの方が秘密部隊らしくないか?」
「二人共、口が過ぎるぞ?仮にも君達の先輩なんだから。」
いつになく辛口な二人を、大神が窘めた。
第一印象だけで人の区別をつけるものではないし、彼女達は仮にも大神の仲間である。
共に帝都の未来を命懸けで勝ち取った仲間をけなされるのは、流石の大神も腹が立った。
その時、ロビーの方から何かが割れる音が聞こえて来た。
「な、何だ!?」
「さては、カルマールの襲撃か!?」
前回の敗北を根に持っているらしく、グリシーヌは斧を手に秘書室を飛び出した。
慌てて後を追う大神達。
すると、ロビーの窓ガラスが割れ、近くに一輪の薔薇が落ちていた。
「何だ?紙が巻き付けてあるぞ?」
大神は紙を広げて見る。
すると、紙には日本語でこう書かれていた。
「花の都に桜舞う」
「………一体、どういう意味なんでしょう。」
おそらく簡単な答えな気はするのだが、イマイチ思い当たる節がない。
怪人達の罠としても、わざわざ日本語で書かないだろう。
大神達が考え込んでいると、騒ぎを聞き付けたグラン・マがやって来た。
「ムッシュ、窓ガラスが割れたって?」
「あちゃー………、しまった………。」
巴里の裏通り。
そこで加山は、やってしまったという顔で身を潜めていた。
何の事はない。
自分が大神に向けた友情のメッセージが、あろう事か巴里華撃団の調査対象にされてしまったからだ。
既に巴里の街中を、グリシーヌを筆頭に各隊員達が探し回っている。
もし今見つかれば、あの加山曰く個性的なメンバーの揃った巴里華撃団の事、何をされるか分かったものではない。
「………こうなったら、あの三人が先に大神に会う事を祈るしかない。」
加山はそう呟き、その三人の到着を祈っていた。
「………で、何で僕まで付き合わされる訳?」
テルトル広場にて、エリカの後ろに続くダイゴが、疲れた様子で尋ねる。
すると、エリカはしたり顔で答えた。
「だって、人手が多い方が早く見つけられるじゃないですか!」
その答えに、ダイゴはため息をついた。
何の事はない。
エリカからいきなり投げ文の犯人を探すという事で、無理矢理連れて来られたのである。
それにダイゴには、他に予定があった。
「(せっかくチラシを貰って来たのに………。)」
ダイゴの手には、『世界の花の博覧会』というチラシが握られている。
様々な国の花が一度に見られる夢のようなイベント。
それを今度こそエリカと楽しもうと考えていたのに………。
「別に僕らが探さなくても、大神さんが見つけるでしょ?」
「何言ってるんですか!大神さんは前の戦いで疲れてるんですから、私達が頑張らなくちゃ!」
ダイゴを余所に一人意気込むエリカ。
すると、エリカはその拍子にまた看板に頭をぶつけた。
「いった~い!」
「エ、エリカさん大丈夫!?」
頭を押さえてうずくまるエリカに駆け寄るダイゴ。
すると、広場の奥の方から話題の人物が走って来た。
「おーいエリカくん!大丈夫かい?」
「へ?大神さん?」
「………。」
流石にこのタイミングで大神が現れるとは思わず、エリカもダイゴも驚いた様子で大神を見た。
「あ、そうだ。手紙の謎は解けました?」
「手紙?確か投げ文の………?」
手紙に書かれていた言葉。
よく考えれば答えが出そうなのだが、大神は分かっていないようだ。
「それがサッパリなんだ。犯人も見つからないし………。」
大神はそう言って肩を竦めて見せた。
あれから調査を開始して小一時間になるが、一向に手がかりはない。
すると、ここでエリカがある事に気付いた。
「そういえばダイゴさん。その手に持ってるチラシ何ですか?」
「え?あ、ちょっと………!!」
ダイゴの返事を聞く前に、エリカがチラシを引ったくる。
そして、エリカが何かに閃いた。
「あ~、分かった!大神さん!桜舞うってこれの事ですよ!」
エリカが大神にチラシを見せた。
そこには、端の方だが桜の絵が写っている。
「なるほど………、桜舞うとは、博覧会の事だったのか!」
大神も納得したように叫ぶ。
確かに『花の都』は巴里を連想させるし、巴里に桜が舞う様子が見られるのはここしかない。
「ありがとうダイゴ。よしエリカくん、行くぞ!」
「はい!大神さん!!」
そう言って、博覧会の会場へ急ぐ二人。
広場には、完全に放置されたダイゴだけが残った。
「………何でこうなるの!?」
そう叫びながら、ダイゴは二人の後を追いかけた。
世界の花の博覧会。
その名前の通り、世界の様々な花が飾られた会場は、言葉では言い表せない程の美しさを放っている。
その一番奥に、桜の木があった。
「へぇ………、これが桜の木か………。」
「何だか、吸い込まれそうですね………。」
初めて見る桜の美しさに目を奪われるダイゴとエリカ。
すると、大神が感慨深げに口を開いた。
「この桜の木にはね、大切な思い出があるんだよ。帝都のみんなとの………。」
あれは今から3年前。
初めて帝国華撃団に着任した日。
あの日の上野公園でさくらや紅蘭、そして花組のみんなと出会った。
その始まりの思い出が、今でも色鮮やかに蘇る。
まるで、彼女達が今でも側にいるような………。
そんな思いにふける大神の耳に、懐かしい声が聞こえた。
「………お久しぶりです、大神さん………。」
「………え?」
まさか………。
大神はハッとして桜の木を見た。
すると、そこに一人の人影が見えた。
「お元気そうで何よりです。」
自分が見ているのは幻なのか………。
大神は、目の前の出来事が信じられなかった。
見間違いか。
いや、そんなはずはない。
あの桜色の着物を、どうして見間違う事があろうか。
あの優しい声を、どうして聞き違えようか。
そう、桜の木の影から現れたのは………。
「………さくらくん………?さくらくんなのか!?」
紛れも無く、帝国華撃団花組、真宮寺さくらその人だったのだ。
しかしこの後、大神は更に驚く事になる。
「ボンジュール!アイリスもいるよ!」
「アイリス!君も………!?」
3年前と変わらない可愛らしい声でさくらの横に現れたのは、花組最年少のアイリスだった。
その腕には、友達のぬいぐるみ、『ジャンポール』の姿もある。
「あら中尉、驚くのは少し早過ぎてよ?」
「そ、その声はまさか………!!」
「その通り!帝劇のトップスター、神崎すみれのお出ましですわ!!」
紫の着物を纏った姿とスターのオーラは、3年前から全く色褪せていない。
そこにいたのは間違いなく帝劇のトップスター、神崎すみれだった。
「これは………、夢を見ているのか?………どうしてみんなが………。」
信じられない様子で、大神が呟いた。
遥か東の帝都にいるはずのさくら達が、何故ここにいるのか。
もしかしてまた夢を見ているのか。
そう思って頬を引っ張ると、やっぱり痛い。
「夢なんかじゃないよ。アイリス、お兄ちゃんに会いたくて巴里に来たんだもん。」
「そうですわ。夢のような出来事に、違いはありませんけど。」
「確かに、夢の中にいるみたいです。花の都で、大神さんに会えるなんて………。」
実に半年ぶりの再会に心を踊らせる大神とさくら達。
しかし、ここで場違いに興奮する人物がいた。
エリカである。
「きゃ~~~!!東京の花組の皆さぁ~ん!!」
「エリカさん、落ち着いて!!」
憧れの先輩に生で会えた興奮から、飛び掛かりそうな程喜ぶエリカを、ダイゴが何とか抑える。
すると、しばし呆気に取られていたさくらが尋ねた。
「あの、大神さん。こちらの方は………?」
「あ、ああ。彼女はエリカくんといって、巴里華撃団の隊員なんだ。」
「エリカ・フォンティーヌです!憧れの先輩達に会えるなんて、エリカ大感激です!!」
「僕はダイゴ・モロボシ。隊員じゃないけど、一応関係者なんだ。」
大神の仲立ちで自己紹介をする五人。
すると、エリカが大神に提案した。
「そうだ大神さん。これからシャノワールで、さくらさん達の歓迎会やりませんか?」
「え?でも急には無理じゃないかな………。」
エリカの提案に難色を示すダイゴ。
最も彼としては、もう少しエリカと二人でいたかっただけなのだが。
「いや、楽屋を使えばすぐに準備できるさ。せっかく帝都から来てくれたんだ。おおいに盛り上がろう!!」
しかし、大神はあっさり了承してしまった。
それが失敗と後悔するのは、もう少し後の事になる。
「了解しました!ダイゴさん、行きますよ!!」
「ええっ!?ち、ちょっとエリカさぁ~ん!!」
意気揚々とシャノワールに疾走するエリカと、問答無用で引きずられていくダイゴ。
その様子にしばし呆然としながら、さくらが大神に尋ねた。
「大神さん………、エリカさんって………。」
「いつもああなんですの?」
「ああ、いつもああなんだよ。」
あの加山ですら驚く程の個性の持ち主であるエリカ。
初対面のさくら達が驚かない訳がなかった。
「お兄ちゃんも、大変だね………。」
優しいアイリスの言葉に、大神は僅かに心が癒された気がした。
遥か東の帝都からさくら達がやって来たというニュースは、シャノワールを大いに驚かせた。
すぐさまエリカとダイゴを中心に準備が進められ、歓迎会が催された。
「みんな、紹介するよ。帝国華撃団・花組の三人だ。」
「真宮寺さくらです。大神さんがお世話になってます。」
「帝劇のトップスター、神崎すみれと申します。よろしくして差し上げますわ。」
「ヤッホー、アイリスで~す!この子はクマのジャンポール!よろしくね!」
三者三様の挨拶に和む一同。
その様子を、大神は微笑ましく見ていた。
前回の敗北から立ち直れていないのは自分だけではない。
隊員達もまた、しかりなのである。
そんな状況でさくら達が来てくれたのは、実にタイムリーだった。
最も、本当はそう仕組んだ人物がいるのだが………。
「(帝国華撃団と巴里華撃団が一堂に会するなんて、本当に夢みたいだ………。)」
喜びを噛み締めながら、メルとシーの手伝いをする大神。
しかしこの後、歓迎会はとんでもない事態を招く事となってしまう。
それは、大神が厨房でショコラケーキを作るシーの手伝いをしていた時だった。
「大神さん、大変です!」
その始まりは、厨房に飛び込んで来たエリカだった。
その様子から、何か急な事態と分かる。
「どうした、エリカくん?」
「実は、グリシーヌさんがすみれさんと喧嘩を始めちゃって………!」
「な、何だって!?」
大神は目を丸くして驚いた。
ついさっきまであんなに仲よさ気に話していたのに、一体どうしたというのか。
「二人は今何処だ!?」
「ロビーです。花火さんが止めてるらしいんですけど………。」
エリカの返事が終わらない内に、大神は厨房を飛び出した。
ロビーでは、既に二人が睨み合っていた。
その目からは、バチバチと火花が散っているようにも見える。
「………グリシーヌさんとやら。もう一度おっしゃっていただけません事?」
「民を守るのは我々貴族の責務だ。高が東洋の成金風情が、この私に意見するな!」
「あら、ご立派な考えです事。そのカチコチの石頭が、フランスの貴族ですのね?」
「貴様!高が東洋の成金の分際で、私を愚弄するつもりか!?」
「貴女こそ何様のおつもり?先輩に対する礼儀も知らないなんて、名門貴族が聞いて呆れますわね?」
「黙れ!!それ以上ブルーメールを侮辱するならば、この場で成敗してくれる!!」
「民も守れない貴女に、一体何が成敗できて?自惚れ甚だしいですわ。」
その言葉に、遂にグリシーヌは爆発した。
「貴様………、生かしてはおかん!覚悟しろ!!」
愛用の斧を手に取るグリシーヌ。
しかし幾多の死線をくぐり抜けたすみれは、眼前に迫る刃にも全く動じなかった。
「………やっぱり。この程度の力では怪人とやらに負けるのも分かりますわ。」
「ぐっ、おのれ………!?」
相変わらずのすみれの口撃に言い返せないグリシーヌ。
その怒りようはロベリアの時と比べものにならない。
「………大神さん、どうしましょう………。」
二人を交互に見遣る花火が、オロオロして尋ねた。
どちらかが引き下がればいい話ではあるのだが、当事者が当事者だけにそれは絶望的だ。
「やはりここは命をかけてお止めするしか………!」
「いや、花火くん………。別に命を懸ける事じゃないよ、これは。」
何を考えたか弓を構える花火を大神が宥める。
確かに喧嘩程度でいちいち命を張っていては体がもたない。
すると、そこへ血相を変えたさくらが走って来た。
「大変です大神さん!アイリスが………!!」
「な、何ぃ!?」
帝劇でもよくカンナと喧嘩していたすみれならまだしも、アイリスまでどうしたというのか。
さくらに連れられて楽屋に戻った大神を、ロベリアが待っていた。
「やっと来たのか。見なよ、面白いもんがあってるぜ?」
言われるままに楽屋に入る大神。
そこでは、アイリスとコクリコが互いに睨み合っていた。
「お兄ちゃんの事、呼び捨てなんかにしないでよ!」
「嫌だよ!イチローはイチローなんだよ!」
「また言ったなぁ!!お兄ちゃんの事、馬鹿にしてるんでしょ!?」
「馬鹿になんかしてないよ!アイリスこそお兄ちゃんなんて、まるで子供じゃないか!」
「アイリス子供じゃないもん!コクリコの方が年下じゃない!!」
要するに大神を『イチロー』と呼ぶか『お兄ちゃん』と呼ぶかで言い争っているのだ。
大神としては別にどっちでもいいのだが、二人は自分の呼び方を譲ろうとしない。
「どうするのさ。これじゃあ収拾がつかないよ?」
「そ、そうは言っても………。」
ダイゴに言われるが、一度に騒がれると中々上手い解決方法が見つからない。
「大神さん、グリシーヌさん達を早く!」
「大神さん、アイリス達を何とかして下さい!」
「そんな、一辺には無理だよ!」
さくらとエリカの両方から言われ、正論を述べる大神。
すると、エリカが頷いた。
「そうですね。じゃあさくらさん、先にどうぞ。でもすぐ返して下さいね。大神さんは私達のですから。」
「あ、ありがとうエリカさん。………誤解のないように言っておきますけど、大神さんはあたし達帝国華撃団の隊長ですから………。」
『私達の』という部分を不自然に強調するエリカに僅かに顔を引き攣らせ、さくらが言う。
すると、エリカは笑顔でとんでもない事を口にした。
「それは違いますよ、さくらさん。大神さんはあの夜、私に約束してくれました。いつまでも君の側にいると………。」
「なっ!?ななな何を言い出すんだ、エリカくん!!」
突拍子もない事を言い出したエリカに、大神は慌てた。
そんな事は身に覚えがないし、そんな目でエリカに近づいた事はない。
しかし、それを聞いたさくらとダイゴは表情を一辺させた。
「大神さん………!それ、本当なんですか!?」
「あんた………、やっぱりエリカさんとそんな事を………!!」
「そ、そんな、デタラメだよ!さくらくんなら信じてくれるだろ?」
謂れのない怒りのオーラを放つ二人に、必死に弁解する大神。
しかし、今度はエリカが表情を悲しいものに変えた。
「ひどい!大神さん、あの言葉は嘘だったんですね………!?」
「エリカさん泣いてるじゃないですか………。大神さん、本当に違うんですね!?」
エリカの様子が演技に見えず、さくらが大神に問い詰める。
一方、ダイゴもエリカに尋ねた。
「エリカさん!本当にこいつに寝かされたの!?」
しかしエリカから返って来た答えに、事態は一気に終息を迎える事になる。
何故なら………、
「はい、確かに一緒でした………。夢で。」
「ゆ、夢………?」
途端に肩がずり落ちるさくらとダイゴ。
確かに夢ならば、大神本人ではないので何を言われても不思議ではない。
「それはないよ、エリカくん………。」
何ともたちの悪い夢に、大神はため息と共に疲労感を吐き出すしかなかった。
「ねぇ、ピエール………。」
その日の夜、ダイゴは部屋に戻ろうとするピエールを呼び止めた。
「何?」
「何で人は、夢を見るのかな………。」
躊躇いがちに尋ねるダイゴ。
すると、ピエールは微笑んだまま、僅かに目を見開いた。
「そうだな………。やっぱり欲があるからかな?心に思い描いている事が、夢になって現れるものだから。」
「欲………それじゃあ………。」
夢は、誰もが見る泡沫の世界。
心に描き、されど叶わぬ願いを見せてくれる幸福の世界。
ならば、あの夢は何を意味するのだろうか。
エリカが見たという、大神が甘く囁く夢は。
「でも、何でそんな事聞くんだい?」
「え?い、いや………、何でもないよ………。」
ピエールの質問をはぐらかし、ダイゴは暗い表情で俯いた。
「(そんなにあの人が好きなのか………。夢見るくらい………。)」
大神に抱かれる夢を語る時、エリカは今まで自分に見せた事のない、幸せな顔をしていた。
それを文字通り、エリカが夢見ていたとしたら………。
「ダイゴ………?」
怪訝な顔で見つめてくるピエールに、ダイゴは言葉を返す事が出来なかった。
脳裏に浮かぶ、エリカの幸せな笑顔。
その笑顔は、自分ではなく大神のものなのだろうか。
自分はそれを、受け入れるしかないのだろうか。
ならばいっそ………。
「………。」
ダイゴの胸中に渦巻く黒い感情。
それを抱きながらその場を立ち去るダイゴの後ろ姿を、ピエールは黙って見つめていた。
「何だか夢みたいだな。さくらくんにまた会えるなんて………。」
シャノワールから程近い運河の橋で、大神はさくらと並んで星空を眺めていた。
歓迎会は散々なものになってしまったが、それでもさくらは笑顔を見せてくれた。
「あたしもです。まだ半年くらいしか経っていないのに、とても懐かしい感じがします。」
半年前と変わらぬさくらの笑顔。
大神もまた、さくらの笑顔に沢山の思い出を蘇らせた。
「あれから、帝劇はどうだい?」
「少し寂しいですけど、平和です。すみれさんとカンナさんは相変わらずですけど。」
その答えに、大神は思わず吹き出した。
すみれとカンナは帝国華撃団結成時から犬猿の仲でとおっていた。
大神が来てからはかなり喧嘩は減ったが、それでも0ではない。
最も、喧嘩する程仲がいい間柄だから仕方ないが。
「………済まない、寂しい思いをさせてしまったな。」
「いいえ。みんな笑顔で頑張ってます。それに………。」
そう言って、さくらはふと夜空を見上げた。
空には幾つもの星が、光り輝いている。
「ほら、大神さん。巴里の空からも見えますよ?」
「………ウルトラの星………。」
大神は、さくらが指差す一つの星の名を口にした。
M78、ウルトラの星。
かつて帝都を魔の存在から守り抜いた、光の巨人が住まう星。
そして、さくらと永久の愛を誓った勇者の星。
遠く離れた巴里の空にあっても、その光は自分達を包むように温かかった。
「あたし、思うんです………。ウルトラの星とあたし達の地球は遠く離れているのに、少しも遠く感じない。だったら、帝都も巴里も遠くなんかないって………。」
「そうだね。俺達は同じ星にいる以上、離れてはいないんだ。」
さくらの言葉に頷く大神。
同じ地球という星にいる以上、離れてなどいない。
それは、人の心にも言える事だった。
同じ地球に住まう者。
増してや同じ華撃団の仲間なら尚の事、分かり合う事ができるはずだ。
そう信じる大神に応えるように、ウルトラの星が僅かに輝きを増した。
そこに、よく知る声が聞こえて来た。
「よう大神!久しぶりの再会はどうだ?」
「加山!まだフランスにいたのか。」
てっきりもうスイスに行ったものと思っていた大神が、驚きの声を上げる。
すると、さくらが笑って言った。
「大神さん、ご存知ないんですか?あたし達が巴里に来るよう手配してくれたの、加山さんなんですよ?」
「何だって?じゃああの手紙は………。」
「ああ。さっきグラン・マにガラス代を請求された。まあお前を助けるためなら、安いものさ。」
相変わらずの策士に、大神はやれやれと笑った。
あの手紙は、演出好きの加山による花組来仏の予告だったのだ。
「あ、そうだ。大神、歓迎会が荒れたそうだな。」
「ああ………。どちらも機嫌を直してくれなくてね………。」
やや陰りのある笑顔で応える大神。
あれから両方に声をかけたのだが、四人共『自分は悪くない』の一点張りで、全く話を聞いてくれなかった。
すると、加山はポケットから一枚のチラシを取り出して見せた。
「そこでだ大神!皆さんの仲直りに最適な方法を見つけて来た。」
「………ダンスコンテスト?」
加山の見せたチラシのタイトルを読み上げる大神。
それは、巴里で毎年開催されているダンスの祭典だった。
巴里にいる人間なら国や年齢、人数を問わず参加自由で、真にダンスを愛する者達が己の腕を競い合うというものだ。
「このダンスコンテストをきっかけに、皆さんに仲良くなってもらう。どうだ大神?名案だろう?」
「なるほど………。」
加山の提案に、大神は頷いた。
人が仲良くなる一番の秘訣は、共通点を探す事だ。
帝国華撃団も巴里華撃団も、普段は人前でダンスや芝居を見せている。
その共演という形でコンテストに参加すれば、互いに技量を認め合う事になろう。
そうなれば、互いに仲が深まるという訳だ。
そのきっかけとして、このダンスコンテストは正に絶好の口実だった。
「大神さん。これなら上手くいくかも知れませんね!」
「ああ。ありがとう加山!助かるよ。」
「礼には及ばん。お前を影で支えるのが、俺の役目だ。」
そう言って笑う加山。
大神はその頼もしさに、改めて帝国華撃団の熱い絆を感じた。
闇に覆われた地下神殿。
巴里のカタコンベに直結するこの場所に集うのは、闇を住処とする者達。
その一番奥の椅子に、カルマールの姿があった。
「ヌハハハハ、集まったな。余に従う下僕達よ。」
満足げに笑うカルマール。
すると、目の前にひざまずく五つの影が答えた。
「私レオン以下、常に控えております。」
「このナーデルをお呼びになるとは、何をなさるおつもりで?」
「シゾーも聞きたいピョンねぇ………。ラビッと斬るのがいいピョン。」
「偉大なるカルマール公爵。第二幕の栄光は、このコルボーに与えては頂けませぬか?」
「さて、カルマール様。ピトンに何なりと命じて下さいな。」
余程暴れたいのか、我先と名乗りを上げる怪人達。
すると、カルマールはその様子に笑って答えた。
「よし、シゾー、ピトン。我が配下が奴らの隠れ家を探している。その間に巴里華撃団とウルトラマンティガを誘い出し、時を見て抹殺しろ。」
「ウーッサッサッサ!今度こそあの裏切り者を、始末してやるピョン!」
「イーッヒッヒッヒ!ウルトラマンティガ。今度こそそのクリスタルを頂くよ!」
カルマールの命令を受け、二人は地下神殿を後にする。
そして入れ違いに、一つの影がカルマールの前に現れた。
「カルマール様………。」
「おお、来たか。我が右腕、イーヴィルよ。」
それは、ナーデルと同じくらいの背丈の怪人だった。
怪人達の中では人間に近く、人混みでは見分けがつかないだろう。
「して、見つかったか?」
期待を込めてカルマールが尋ねる。
すると、イーヴィルは畏まって答えた。
「奴らの隠れ家は見当をつけました………。後は時期を見て攻め込むべきかと………。」
「よし。その情報を確実なものにしてくるのだ。」
「はっ。」
カルマールの命令に即答し、イーヴィルは転移魔術でその場を後にした。
ダンスコンテスト当日。
会場となったエッフェル塔は、沢山の人々で賑わっていた。
エントリーは総勢15組。
持ち時間は3分で、種類は問わない。
その中で巴里華撃団が選んだのは、フランスで一般的なフレンチカンカンだった。
その名の通りカンカンと靴が鳴るくらいの早いテンポが特徴的なダンスで、複数で揃えるにはかなりの技量が必要なのだが、元々ダンス慣れしている巴里華撃団にはにわか仕込みで十分だった。
「成金女。本場のフレンチカンカンに腰を抜かすが良い!」
「謝ってたって、許してやらないからね!」
「ふん!アイリスだって負けないもん!」
「その自信、楽しみですわね。」
早くも勝利宣言をするグリシーヌとコクリコに、すみれとアイリスが負けじと言い返す。
みんなで一つにまとまるはずだった大神の考えに反し、巴里華撃団と帝国華撃団はダンスで白黒をつける事になったのである。
「はぁ………、先が思いやられるな………。」
仲直りどころか火に油を注いでしまい、大神はため息をつく。
その間に、先手の巴里華撃団のダンスが始まった。
横一列に並び、華麗に足並みを揃えている。
「こ、これが本場のフレンチカンカンなんですね………!!」
唯一仲たがいをしていないさくらが、素直に感想を述べる。
確かに足の長さの違いをものともせずに踊る様子は、華麗にして優雅。
花の都を象徴するダンスが、そこにはあった。
「どうだい?巴里華撃団のダンスは。」
返事を返さない二人に、大神が尋ねる。
すると、じっとダンスを観察していたアイリスが答えた。
「カッコイイんだけど………。」
「アンサンブルがまるでなってませんわね。」
口ごもるアイリスに代わって、すみれが鋭い評価を示した。
ダンスだろうと芝居だろうと、役者の一人だけがどんなに良い動きをしたとしても、作品は良いものにはならない。
芝居なら脇役が主役より存在感を出してはならないし、ダンスは均等に踊ってムラを出してはならない。
こと巴里華撃団は、それに気づいてすらいないだろう。
ダンス自体はシャノワールで稼ぐだけあって見応えはある。
しかし、それだけで喜ぶのはダンスを知らない三流の人間だけ。
本場のフレンチカンカンを語るには、巴里華撃団のダンスはレベルが低すぎる。
まず五人で横一列に並ぶなら、客に見やすい左右対称が基本だ。
従ってこの場合、身長が際立って低いコクリコを中心に置いたり、逆に端に置いて階段上に並ぶのが理想的だ。
しかし巴里華撃団は、それを全く考慮していない。
端のロベリアが無意味に目立ち、コクリコがエリカとグリシーヌに隠れてしまっている。
これでは一人一人が上手くても、全体として良い印象は与えられない。
「チームワークに欠ける………か。」
大神が呟いた時、ダンスを終えた巴里華撃団が、拍手に包まれて戻って来た。
「どうだ!我々のフレンチカンカン、見とれて声も出まい!」
勝利を確信したように胸を張るグリシーヌ。
すみれの指摘した通り、彼女達は自分達のレベルの低さに気づいていない。
この時点で、もう勝負は決まっていた。
「その大口、私達のダンスを見た後も叩けまして?」
それを予告するようにすみれが軽く言い返し、三人はステージに上がった。
さくら達が選んだダンスは、巴里華撃団と同じフレンチカンカンだった。
こちらも僅か数日のにわか仕込みだが、芝居のキャリアの長さも手伝って、観客のどよめきは巴里華撃団以上のものがあった。
「どうだい?さくらくん達のダンスは。」
「スッゴイです!エリカ感動しちゃいました!!」
大神が尋ねると、エリカが即答した。
憧れの先輩が目の前で華麗なダンスを踊っているのだ。
後輩として、生で見られるのが嬉しくてたまらなかった。
一方、先程すみれに堂々と勝利宣言をしたグリシーヌは難しい顔で三人を見ていた。
「分からぬ………。ダンス自体は我々と同じだというのに、何かが決定的に違う。」
すると、隣にいた花火が口を開いた。
「立ち位置じゃないかしら?ほら、アイリスさんを真ん中に置いて………。」
花火の言葉が一部当たっていた。
さくら達は三人。
よって、一人を二人が挟む形になる。
そこでさくらとすみれの身長がほぼ同じ事を活かし、アイリスを中心にして見事に左右対称を作ったのである。
更にさくらもすみれも、ダンスの型に合わせてアイリスから同時に距離を詰めたり離したりして変化をつけ、観客に飽きがこないよう工夫をしている。
そのタイミングの良さにも、観客は目を奪われた。
しかしその時、アクシデントが発生した。
真ん中で踊っていたアイリスのシューズの踵が折れたのだ。
「(すみれさん!)」
「(お任せあれ!)」
その瞬間、さくらとすみれは一瞬互いにウインクを交わし、距離を詰めてアイリスを隠した。
「(さくら、すみれ、ありがとう!)」
その一瞬、アイリスは素早くシューズを脱ぎ捨て、何事もなかったように列に戻る。
「なるほどねぇ………、そういうアクシデントも考えて横一列に並んだのか。」
感心したように、ロベリアが呟いた。
今のアクシデントは間違いなくアドリブだが、三人共計ったかのようにタイミングがズレない。
巴里華撃団は、そこに自分達にない何かを見つけた。
「み、見事だ………。我らの完敗だ………。」
流石のグリシーヌも、それを認めざるを得なかった。
確かに個人のレベルは同じだろう。
しかし、自分中心の考えでは絶対に成長はない。
他人の身になり、考えられる事で、初めて真のチームワークを得られるのである。
「あれが、さくらくん達にあって君達にないものだ。本当のチームワークは、自分でなく相手の気持ちになる事なんだ。」
「………。」
大神の言葉に、返事を返せる者は誰もいなかった。
大トリのさくら達のダンスが終わり、いよいよ審査発表が始まった。
とは言っても、トロフィーが貰えるのは優勝チームのみ。
それだけに緊張も高まる。
「………。」
その緊張の中、発表を客席で待つ人物がいた。
ダイゴとピエールである。
エリカからダンスコンテストの話を聞いた二人は、彼女達を応援するべく会場に駆け付けたのだ。
「エリカさん、優勝するかな………?」
自分が踊った訳でもないのに、興奮に震えるダイゴ。
反対に、ピエールは疲れた表情でため息をついた。
「ダイゴ………。君が僕にその質問をするのはもう54回目だよ?少しは落ち着きなよ。」
よくも正確に数えきれたものである。
すると、ようやくドラムロールが終わり、優勝チームが発表される。
「それでは発表します。優勝チームは………。」
名前を読み上げようとする司会者。
しかしそこに突如、別の声が割って入って来た。
「シゾー様に決まりだピョン!」
「シ、シゾー!!また現れたのか!」
突然の怪人の奇襲に驚く大神。
シゾーの横にはピトンの姿もある。
会場は一瞬にして、悲鳴に包まれた。
「イーッヒッヒッヒ!アタシ達が来たからには、コンテストもおしまいだよ!!」
「ウーッサッサッサ!ここにいる人間共、皆殺しにしてやるピョン!!」
逃げ惑う人々に牙を剥く怪人達。
そこに、さくら達が立ちはだかった。
「大神さん!ここはあたし達に任せて、シャノワールへ!」
「お客さん達はアイリス達が安全な所に避難させるから、安心して!」
「中尉、急いで下さいまし!一刻を争いますわ!」
さくら達の言葉に頷き、大神は素早く指示を出した。
「分かった!みんな、シャノワールに戻るぞ!」
「了解!!」
大神達が会場を後にした直後、ダイゴは避難する人の波を掻き分けて奥へと進んだ。
怪人の狙いは自分。
ならば、目の前に姿を現せば標的をこちらに変えるかも知れない。
そう考えたのである。
「シゾー!ピトン!これ以上の悪事は僕が許さないぞ!!」
ステージに立つ怪人の前に現れ、ダイゴが叫ぶ。
すると、二人は目の前の裏切り者の存在に気付いた。
「ウサッ!現れたピョンね!」
「ちょうど良い………!巴里華撃団の先に始末してやるよ!」
言うや、怪人達は同時に襲い掛かって来た。
「くっ!」
素早く後ろに避け、エッフェル塔を目指して走り出す。
「ムム、逃がさないピョン!!」
「このアタシから逃げられると思うんじゃないよ!」
エッフェル塔を舞台に、壮絶な鬼ごっこが始まった。
その頃、シャノワールの作戦司令室もいつになく緊張感が漂っていた。
怪人達が本格的に動き出した事もそうだが、それ以上に驚くべき連絡が、さくら達から寄せられたのだ。
『ダイゴが怪人に追われてエッフェル塔内を逃げ回っている』
この連絡に、作戦司令室は驚きに包まれた。
「な、何でよりによってダイゴが会場にいたの!?」
訳が分からない様子でコクリコが叫ぶ。
しかも怪人に追われるとは、一体どうしたというのか。
「こりゃ急いだ方がいいね。ムッシュ、出撃命令を頼むよ!」
エッフェル塔内にいる以上、捕まるのは時間の問題。
最早一刻の猶予もなかった。
「巴里華撃団・花組、出撃!!ダイゴを救出し、怪人を撃破するぞ!!」
「了解!!」
「くっそ~、何処に隠れたピョン!」
エッフェル塔第一展望台。
そこでダイゴの姿を見失ったシゾーが、悔しげにハサミを鳴らした。
当初は逃げ場のないエッフェル塔内に入った時点で追い詰めたものと思っていたが、一向に見つからない。
しかもその間に、会場にいた人間は全員避難してしまった。
「どうする?このままじゃ埒があかないよ?」
やれやれと言った表情でピトンがため息をつく。
すると、シゾーが何かに閃いた。
「そうだピョン!このエッフェル塔毎ぶっ壊すピョン!」
見つからないならエッフェル塔そのものを破壊し、押し潰してしまえばいい。
シゾーはそう考えたのだ。
「イーッヒッヒッヒ!アンタも中々頭良いじゃないか。」
「ウーッサッサッサ!裏切り者め、今に見てるピョン!」
ピトンに褒められた事もあってか、乗り気で柱をハサミで切り付けるシゾー。
そこに、鋭い声が響き渡った。
「そこまでだ!」
見ると、怪人達の前に復活した6機の光武Fが現れた。
「巴里華撃団、参上!!」
前回のシャンゼリゼの敗北から実に一週間。
一度は敗退した光が、再び戦場に舞い戻って来たのだ。
「あらら、負け犬共がやって来たピョン。」
「どうやら、自分達の立場が分かってないようだねぇ。」
シャンゼリゼの圧勝からか、余裕を見せる二人の怪人。
すると、グリシーヌが余裕で言い返した。
「どうかな?我々とて以前のままではないぞ?」
「だったら試してやるピョン。ポーン共、行くピョン!」
シゾーの命令で、周囲にポーン達が姿を現した。
やはりシャンゼリゼの時と同じく、強化されたタイプである。
「よし、敵を撃破してダイゴを救出する。みんな、行くぞ!」
「「了解!」」
迫り来るポーンの軍勢に、巴里華撃団は一斉に攻撃を仕掛けた。
「………もう始まってるみたいだな。」
下から聞こえて来る激しい戦闘の音に、ダイゴは息を殺した。
ここはエッフェル塔の第二展望台。
シゾーとピトンの追跡を撒くべく、ダイゴは階段を上ってここに身を潜めていたのだ。
「………ん?」
ふと、ダイゴの耳に微かなシグナル音が聞こえて来た。
規則的に音をならす、まるでタイマーのような………。
「まさか………!」
ダイゴはハッとして、その音の方へ近寄る。
すると、黒い箱に覆われた何かがシグナル音を発していた。
如何にもそれらしい、時限爆弾である。
「マズイ………!早く知らせないと!」
最早隠れている場合ではなかった。
一刻も早く爆弾の存在を知らせるべく、ダイゴは走り出した。
「イーッヒッヒッヒ!どうした巴里華撃団?威勢の割に弱いじゃないか。」
「ウーッサッサッサ!いい気味だピョン!」
戦闘開始から数分。
巴里華撃団は強化されたポーンの前に、苦戦を強いられていた。
前回と違い、ある程度の数は倒しているものの、それでもポーン達は手強い相手である事に変わりなかった。
「くそ………!やはり機体の性能は覆せないか………!!」
悔しげに毒をつく大神。
以前と違って多少は戦えているが、機体の性能自体は意識だけでどうにかなるものではない。
おまけに敵は次々と展望台にポーンを送り込み、倒しても倒してもキリがない。
このままではじり貧になり、前回の二の舞になってしまう。
しかし、そんな大神に救いの手を差し延べる、希望の光が現れた。
「そこまでよ!!」
その声と共に、桜色の光武が太刀を手に現れた。
風に舞う桜のごとき華麗な動きで、次々とポーンを切り伏せるその正体を、大神は知っていた。
「さくらくん!」
まさか光武まで持って来ていたとは思わず、大神は驚きの声を上げる。
しかし、助けに来たのはさくらだけではなかった。
「イリス・グラン・ジャンポール!!」
展望台の吹き抜けにテレポートしたアイリスの金色の光武が光を放つ。
すると六体のジャンポールが現れ、ポーンの猛攻に傷付いた巴里華撃団を回復させた。
更に続けざま、下の方から声が聞こえて来た。
「神崎風塵流、不死鳥の舞!!」
すみれの紫色の光武が炎を纏った薙刀を振るう。
炎はたちまちエッフェル塔の下を焼き、控えていたポーンを焼き付くした。
遥か東の戦乙女。
頼もしき仲間達だった。
「帝国華撃団、参上!!」
「帝劇のトップスター、神崎すみれ。巴里の街にも華麗にデビューですわ!」
「加山さんの話を聞いて、光武を輸送してもらったんです。」
「あれがお兄ちゃんの敵?ウサギだ、ウサギだ~!!」
高笑いを上げるすみれと、跳びはねてシゾーを笑うアイリス。
すると、シゾーがアイリスの言葉に敏感に反応した。
「ウサギと言うなピョン!お前ら、覚悟するピョン!」
言うや、シゾーが蒸気獣『プレリュード』を召喚する。
隣のピトンも、既に『ベルスーズ』を召喚していた。
「イーッヒッヒッヒ!帝国華撃団、ここを死に場所にしてやるよ!」
「望む所ですわ!皆さん、参りますわよ!」
「はい!」
「お兄ちゃん、ウサギはお願いね!」
下に飛び降りるベルスーズを追い、展望台から飛び降りる帝国華撃団。
すると、シゾーがニヤリと笑った。
「ウーッサッサッサ!ちょうど良いピョン。奴らを纏めて始末してやるピョン!」
「馬鹿が。そんなのアタシらが許すとでも思ってんのか?」
爪を光らせ、ロベリアが凄む。
「ウーッサッサッサ!こいつを見るピョン!」
しかし、シゾーはそのロベリアに嘲笑を返した。
見ると、プレリュードの手に何かが握られている。
赤い大きなボタンが一つあるだけの小さなスイッチ。
何か仕掛けでもあるのだろうか。
大神がそう考えた時、後ろから声がした。
「大神さん!奴にスイッチを押させないで!!」
「ダイゴ!無事だったのか!」
それは、第二展望台にいたダイゴだった。
余程急いで走って来たのか、若干息使いが荒い。
「どういう事だ?あのスイッチには何かあるのか?」
「爆弾だ。奴はこのエッフェル塔に、爆弾を仕掛けていたんだ!」
「な、何だって!?」
ダイゴの報告に驚く巴里華撃団。
一体いつの間にそんなものを仕掛けたというのか。
だとすればシゾーの余裕にも納得がいく。
「ウーッサッサッサ!もう遅いピョン。エッフェル塔諸とも、地獄に堕ちるピョン!」
勝ち誇った様子でシゾーが笑う。
しかし、ここで一つの影が動いた。
ロベリアである。
「させるかよ!」
一直線にプレリュード目掛けて突進するロベリア。
その光武F目掛けて、ポーン達が銃を発射する。
しかし、それがロベリアを妨害する事はできなかった。
何故なら、青い光武Fが盾で銃弾を弾いたからだ。
更に、そこにエリカがマシンガンの連射を浴びせた。
「今だ、ロベリア!」
「任せときな!!」
グリシーヌに返事を返し、ロベリアは血に飢えた爪でプレリュードに襲い掛かった。
「ウサッ!?」
その拍子に、プレリュードの手からスイッチが離れた。
その宙に舞うスイッチを狙い撃つべく、花火がボウガンを構える。
「くっ………。」
遠く離れた小さなスイッチを正確に狙うのは、どんなに実力のある人物でも困難。
しかし、これだけは外す訳にはいかない。
全神経を集中させる花火。
すると、その後ろに生き残りのポーンが迫った。
「えいっ!!」
それに気付いたコクリコが、横からドロップキックを叩き込む。
「そこですっ!!」
それと同時に、花火のボウガンから矢が放たれる。
矢は、寸分狂わず爆弾のスイッチを射抜き、粉々にした。
「す、凄い………!みんな、チームワークを完全にものにしているじゃないか!!」
一連の出来事を目の当たりにし、大神が驚きの声を上げた。
そこにいるのは以前の我が儘な彼女達ではない。
先達の姿に真のチームワークを学び、進化した巴里華撃団の姿だった。
これが、彼女達の真の力なのだ。
勝てる。
彼女達の姿に、大神はそう確信した。
「ウサッ!巴里華撃団、絶対許してやらないピョン!」
計画をくじかれ、地団駄を踏むシゾー。
既に周りのポーンは全滅し、自身も巴里華撃団に包囲されている。
しかし、シゾーにはまだ切り札が残っていた。
「覚悟するピョン!来い、超古代怪獣メルバⅡ!」
するとその直後、展望台が巨大な影に覆われた。
まさか………。
そう思い空を見上げ、巴里華撃団は戦慄した。
「ガアアアアッ!!」
それと同時に響く咆哮。
かつて凱旋門で耳にしたものと全く同じだ。
そして、超古代怪獣メルバⅡはその姿をエッフェル塔前に現した。
「ガアアアアッ!!」
翼が二枚から四枚に増え、顔はより醜悪なものへと変わっている。
おそらくポーンと同様、カルマールによって強化されたのだろう。
メルバⅡからは、以前の比ではない圧倒的なエネルギーが感じられた。
「あ、あれが大神さんの言っていた怪獣………!?」
メルバⅡの出現に、巴里華撃団のみならず、下で戦っていたさくら達も驚いた。
怪獣に相対するのは、実に3年振りの事だ。
すると、対峙していたピトンが怪しく笑った。
「イーッヒッヒッヒ。じゃあこっちも、そろそろ本番といこうかねぇ!」
「何ですって!?」
その言葉に、すみれが反応した。
まさか、シゾーのみならずピトンまでも怪獣を有しているというのか。
果たして、すみれの予想は的中した。
「見せてあげるよ。おいで、地中鮫ゲオザーグⅡ!!」
ピトンが叫んだ直後、今度は大地を揺るがす震動が襲った。
「こ、これは………!?」
「地面の中から、凄い力が近づいてるよ!?」
すると、程なくして地面が真っ二つに割れ、中から巨大な鮫が現れた。
ピトンの使役する地中鮫、ゲオザーグⅡである。
「グオオオオッ!!」
その存在を知らしめるかの如く、地の鮫は咆哮を上げた。
やはりその身体はカルマールによって強化されたようだ。
前より太くなった背鰭に、三列に連なる牙。
そして何より、太陽に照らされて平然としている。
かつて巴里を震撼させた二大怪獣が、今またエッフェル塔に蘇ったのである。
「ウーッサッサッサ!これでお前達もおしまいだピョン!」
「可愛いしもべ達。奴らを食い殺しておしまい!!」
二大怪獣は、一斉に動き始めた。
二大怪獣の復活に、巴里華撃団と帝国華撃団は絶体絶命の窮地に立たされた。
展望台をメルバⅡの光線が襲い、地面をゲオザーグⅡが突き進むのだ。
更にそちらに気を取られれば、シゾーとピトンが激しい攻撃を加えてくる。
「くそっ!次から次へと………!!」
そんな中、ダイゴは展望台から下に降りていた。
ここなら誰にも気付かれる事なく、変身する事が出来る。
「エリカさんは、僕が守るんだ………!」
そう呟き、スパークレンスを取り出す。
二大怪獣を相手に勝てる自信はない。
しかし、この危機を脱する事が出来るのは自分しかいないのだ。
ダイゴは勇気を振り絞り、スパークレンスを空に掲げた。
「ティガーーーーーッ!!」
「ひ、光の巨人!」
突如現れたティガに、さくらが思わず驚きの声を上げた。
姿形は自分の知る巨人と全く違う。
しかし、ティガからもあの勇者と同じ光の意志が感じられた。
「もしかして、あれが中尉のおっしゃっていた巴里の守護神………。」
「カッコイイ~!あれがウルトラマンティガなんだ~!!」
その神々しさに目を奪われるすみれとアイリス。
そして、ティガは目の前にいるゲオザーグⅡに対峙した。
「グオオオオッ!」
「チャッ!」
標的をこちらに変えて突進して来るゲオザーグⅡを捕まえ、腹に重いキックを叩き込む。
すると、その勢いでゲオザーグⅡは仰向けに倒れた。
「チャッ!」
すかさず馬乗りになり、激しいラッシュを加えるティガ。
だがその時、背後からメルバⅡが強襲した。
「ガアアアアッ!!」
「ジュワッ!?」
背中を光線で狙い撃たれ、前のめりに倒れるティガ。
すると、ゲオザーグⅡはその隙に地面に潜った。
「ハッ!」
メルバⅡの光線をかわし、ティガはハンドスラッシュを発射する。
「ガアッ!?」
青白い光弾は、メルバⅡの右の翼を直撃した。
たちまち飛行能力を失い、地面に墜落するメルバⅡ。
しかし、追い撃ちをかけようとしたティガは、背後から何かにのしかかられた。
「ジュワッ!?」
「グオオオオッ!」
それは、地面に潜ったゲオザーグⅡだった。
ゲオザーグⅡは地面に潜り、ティガの背後に回っていたのである。
空のメルバⅡと地のゲオザーグⅡ。
この二大怪獣にティガもまた、かつてない苦戦を強いられた。
「ンゥゥゥ………、ハッ!!」
ティガは額のクリスタルを発光させ、パワータイプにチェンジした。
そして、のしかかっているゲオザーグⅡを跳ね退ける。
「チャッ!!」
「グオッ!?」
地面を転がるゲオザーグⅡを捕まえ、ティガは再度攻撃を試みる。
しかし、またしてもメルバⅡが妨害してきた。
「ガアアアアッ!!」
マッハ6のスピードによる体当たり。
ゲオザーグⅡに気を取られていたティガに、それを避ける余裕はなかった。
「ジュワッ!?」
およそ7万トンの重さを誇るパワータイプのティガが、高々と宙に舞い上がる。
そして、地面にたたき付けられたティガをゲオザーグⅡが追撃した。
「グオオオオッ!」
「チャッ!」
しかし、今度はティガも身構えていた。
後ろから来たゲオザーグⅡの口を掴み、持ち上げようとする。
だが次の瞬間、ゲオザーグⅡはとんでもない方法で反撃して来た。
「グオオオオッ!」
何と、口から巨大な火球を吐き出したのである。
超高温の火の玉が、至近距離からティガにぶつけられた。
「ジュワッ!?」
たまらず手を離したティガを跳ね飛ばすゲオザーグⅡ。
そして、起き上がるティガを今度はメルバⅡが突き飛ばす。
まるで玩具のような扱いに、ティガは大ピンチに陥った。
「ウーッサッサッサ!これでウルトラマンティガもおしまいだピョン!」
勝ち誇った様子でシゾーが笑った。
その奥では、二大怪獣に翻弄されるティガの姿がある。
既にエネルギーが尽きかけているのか、カラータイマーが赤く点滅を始めていた。
「どうしましょう大神さん、このままじゃティガが………!」
「くっ………!」
エリカの声に、大神は焦りの表情を浮かべた。
すると、下から声が聞こえて来た。
「負けないで、ティガ!!」
「さ、さくらくん!?」
それは、下でピトンと戦っているさくらだった。
さくらは、ピトンの攻撃をかわしながら必死にティガに訴えかけた。
「あたしには分かるわ!貴方にはあの人と同じ、誰にも侵すことのできない、光の意思がある事を!お願い、立って!!」
「チャッ………。」
さくらの言葉に胸を打たれたか、ティガはよろけながらも立ち上がった。
そして、再び額のクリスタルを発光させる。
「ンゥゥゥ………、ハッ!!」
そして、パワータイプからスピードのスカイタイプにチェンジし、空へと飛び上がった。
「ガアアアアッ!」
待ち受けていたメルバⅡが、目から光線を発射する。
しかし、スピードに勝るスカイタイプのティガは難無くそれをかわし、超高速のティガスカイキックを叩き込んだ。
「ガアアアアッ!」
大きく後ろに蹴り飛ばされるメルバⅡ。
ティガは間髪入れず、地面にいるゲオザーグⅡに視線を移した。
「グオオオオッ!!」
ゲオザーグⅡは大きく首を擡げ、ティガ目掛けて火の玉を吐き出して来た。
「ハッ!」
ティガはそれを回転してかわし、そのまま急降下で勢いをつけたティガスカイキックをゲオザーグⅡに炸裂させた。
「グオッ!?」
仰向けに倒れるゲオザーグⅡ。
ティガはカラータイマーに右手を当て、凍てつくティガフリーザーを放った。
たちまちの内に全身が凍りつくゲオザーグⅡ。
しかし、そこに蹴り飛ばされたメルバⅡが戻って来た。
「ガアアアアッ!!」
ティガ目掛けて急降下するメルバⅡ。
それを見て、ティガは三度額のクリスタルを発光させた。
「ンゥゥゥ………、ハッ!!」
スカイタイプからマルチタイプにチェンジし、ティガは胸のティガブレスターに両手を添えた。
ティガスライサー………、ブレスターの形を模した青白いカッター状の光線を生み出し、敵は断ち切るマルチタイプの切断技だ。
「ハッ!」
ハンドスラッシュに似た青白い光線が、メルバⅡ目掛けて発射された。
メルバⅡはそれに気づくが、自身のスピードが早過ぎて間に合わない。
「ガアッ!?」
スライサーはメルバⅡの左側の二枚の翼を切り裂いていた。
完全に飛行能力を失ったメルバⅡは、失速して落下する。
その真下には、氷漬けになったゲオザーグⅡがいる。
メルバⅡは、そのままゲオザーグⅡを押し潰す形で地面に激突した。
氷漬けのゲオザーグⅡは、その衝撃に耐え切れず粉々に砕け散った。
「ガアッ!?」
またしてもやってしまったという表情を見せるメルバⅡ。
それを一点に見据え、ティガは胸の前で両手を合わせ、左右に広げた。
すると、その軌道に沿って光の筋が現れ、エネルギーが集約される。
「ハッ!!」
L字に組まれた腕から、必殺のゼペリオン光線が発射された。
まばゆい光線は、一直線にメルバⅡに炸裂する。
「ガアアアア………!!」
全身を光に包まれたメルバⅡは、最期の咆哮と共に仰向けに倒れ、そのまま大爆発した。
「そ、そんな馬鹿な!?アタシの可愛いゲオザーグⅡが、またやられたって言うのかい!?」
ペットの最期を目の当たりにし、ピトンが狼狽した。
カルマールによって、その力を以前の数倍にまで高められたはずのゲオザーグⅡが、またしてもティガに破れるとは。
「それが、光の力よ!」
凜と響く声がした。
ハッとして振り返るピトンの眼前には、桜色の光武が太刀を振りかぶる姿があった。
「破邪剣征………、百花繚乱!!」
刹那、桜の花びらを巻き上げながら、一閃の鎌鼬が襲い掛かった。
それと時を同じくして、シゾーもまた驚きを見せた。
「ウサッ!?ありえないピョン!オイラのメルバⅡが負けるなんて………!!」
「我等を甘く見た結果だ。シゾー、貴様の命運もここまでだな!」
斧を構え、グリシーヌが叫ぶ。
ティガによって怪獣が倒された今、ポーンを全滅させられて孤立したシゾーの命は風前の灯だった。
「ええい、五月蝿い!五月蝿いピョン!」
その現実を認めたくないのか、シゾーは喚きながらハサミを突き出した。
「こうなったらお前達纏めて片付けるピョン!」
そう叫んで襲い掛かるシゾーだが、冷静さを失った状態では無謀な突撃にしかならない。
「狼虎滅却………、刀光剣影!!」
稲妻を帯びた大神の二刀が、すれ違いざまにプレリュードを×の字に切り裂いた。
「クワッ………!せっかく復活したのに、またやられるなんて………!」
「納得できないピョ~ン!!」
エッフェル塔を恐怖のどん底に陥れた二人の怪人は、無念の叫びと共に大爆発した。
「みんな、大丈夫だったか?」
戻って来たさくら達に、大神が尋ねた。
僅か三人でピトンを相手にしたのだ。
苦戦しなかったはずがない。
しかし、三人は爽やかな笑顔を見せた。
「うん!アイリス全然平気だよ?」
「アハハ、凄いやアイリス。さっきは助けてくれてありがとう。」
胸を張るアイリスに笑いながら礼を述べるコクリコ。
すると、隣に立つすみれが言った。
「この私達にかかれば、朝飯前ですわ。」
「流石だ。これからも後輩として、学ばせてもらうぞ。」
いつもの調子のすみれに、笑顔を返すグリシーヌ。
以前なら憎まれ口の一つでも叩いた彼女を考えれば、意外な発言だ。
「それでは皆さん、いつものやりませんか?」
「いつもの?………ふふっ、大神さん巴里でもやってるんですか?」
意外そうに笑うさくら。
すると、大神は笑顔で答えた。
「ああ、そうさ。みんな、行くぞ?せーの………!」
「勝利のポーズ、決め!」
「みんな、揃ってくれたみたいだね。」
楽屋に集まった顔を見渡し、大神が言った。
今日はさくら達の来仏最終日。
昼には巴里を発つという三人を含め、大神は八人をシャノワールに集めたのである。
「大神さん、話って何ですか?」
「実は今朝、コンテストのトロフィーが届いたんだ。」
さくらが尋ねると、大神が背中に隠し持っていたトロフィーを見せた。
金色のエッフェル塔を象ったトロフィーは、中々に威厳が漂う。
昨日の騒ぎで表彰式がお流れになったため、主催者が輸送してくれたのだ。
「それで大神さん、優勝は?」
今度は花火が緊張した面持ちで尋ねる。
すると、大神はにこやかに答えた。
「それが、帝国華撃団と巴里華撃団のダブル優勝だそうだ。おめでとう!」
そう言って、テーブルに優勝トロフィーを置く大神。
見ると確かに、優勝チームの欄に両方の名前が彫ってある。
「何だかいい加減だな。まあ、悪い気はしないけどね。」
口調と裏腹に笑うロベリア。
すると、それに釣られてその場にいる全員が笑った。
帝国華撃団との間に結んだ絆。
その強さを物語るように、九つの笑顔はどれも等しく輝いていた。
「………。」
その頃、シャノワールの前に佇む一つの影があった。
「………ようやく見つけたよ………ティガ………。」
影はニヤリと笑い、そのまま雑踏の中に姿を消した。
<続く>
《次回予告》
私って本当にドジ………。
みんなの足は引っ張るし、ダイゴさんにも嫌われちゃうし………。
私なんて………。
次回、サクラ大戦3!
《裏切りの果てに》
愛の御旗のもとに………
僕に………、笑顔をくれた人だから………