※この作品はR-18です。

超古代の星   作:サマエル

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裏切りの果てに

その日、ダイゴは朝早くから教会に来ていた。

 

「おはよう、神父様。」

 

「ああダイゴさん。………おはようございます。」

 

いつものように交わす挨拶。

しかし、いつになくレノ神父の顔色が優れない様子に、ダイゴは気付いた。

 

「神父様、どうしたの?なんか元気ないみたいだけど………。」

 

すると、レノ神父はため息をついて答えた。

 

「はい………、最近エリカさんが妙に張り切っていると………。」

 

「………ああ。」

 

ダイゴは、納得したように呟いた。

エリカは張り切っている時に限って失敗をやらかすというジンクスがある。

そのエリカが張り切っている事は、ダイゴやレノ神父にとって何とも不安な事だった。

 

「一体何があったんでしょうか?エリカさんが張り切るなんて………。」

 

首を傾げるレノ神父。

しかしダイゴには、簡単に答えが分かった。

 

「大神さんだよ。エリカさん、大神さんがいるとすごく元気になるんだ。」

 

「なるほど………、大神さん。確かにエリカさんは、大神さんと仲がよろしいですからね。」

 

納得したように頷くレノ神父。

しかし、ダイゴは納得できない表情で俯いていた。

 

「(そうだ………。エリカさんは僕よりあいつがいいんだ………。)」

 

エリカの輝いた表情。

あれは今まで自分が見る事のできなかった表情だ。

それを見せるという事は、それだけ大神が大切な存在であるという事。

そして、あのデート騒ぎの時のように、自分は彼女を傷つけてしまう事を。

それを分かっていながら、ダイゴはエリカとの関わりを断ち切れずにいた。

 

「(エリカさん………。僕は、どうしたらいいんだろうね………。)」

 

自嘲するように、ダイゴは笑った。

すると、レノ神父が声をかけた。

 

「ダイゴさん。辛そうな様子ですが、どうかされましたか?」

 

「え?いや、何でもないよ………。」

 

「そうですか。………それでは、エリカさんの事をお願いできますか?」

 

適当にはぐらかすダイゴを気にしつつも、レノ神父はダイゴにエリカのフォローを依頼した。

特に理由はない。

今までがそうだったからだ。

 

「うん。それじゃ、行ってきます。」

 

そしてダイゴも、いつものように教会を後にした。

 

「ダイゴさん………、まだ本当の事を話されてないのですね………。」

 

ダイゴの姿がなくなった後、レノ神父はふと呟いた。

今は亡きダイゴの父が残した秘密。

それを継いで光になった事を、ダイゴはまだ自分以外の誰にも話していない。

 

「心に嘘を抱えているのは、辛いでしょうに………。」

 

そうため息をついた時だった。

ふと教会の入口から返事が返って来たのだ。

 

「それは、あなたも同じでしょう?神父様。」

 

「おや、ピエールさん。」

 

そこにいたのは、ダイゴの親友となったピエールだった。

いつものような笑顔で、ピエールはレノ神父に近づいて来る。

 

「聞きましたよ?エリカさんの事。早く伝えてあげないと。」

 

「た、確かにそうなのですが………、ハイ。」

 

ピエールに言われ、レノ神父は言葉を失った。

人の事は言えない。

実はレノ神父も、エリカの事で秘密にしている事があったのだ。

 

「ちゃんと伝えてあげないと、悲しむのはエリカさんなんですから。」

 

「そう………ですね。やはり、伝えた方が良いのかも知れませんね、ハイ。」

 

今まで黙っていた分、中々言いづらい事になってしまったが、後になればなる程悲しみは大きくなる。

そんな事を考えていたレノ神父は、後ろで笑うピエールの様子がいつもと若干違う事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここか。」

 

その頃、大神の姿はシャノワールから程近いテルトル広場にあった。

グラン・マの話によれば、ここが特別コーチとの待ち合わせ場所だった。

あれから敵の強大さと帝国華撃団の強さを痛感した巴里華撃団は特訓を行う事を満場一致で決定し、そのための特別コーチをグラン・マに呼んでもらったのである。

そして、大神が出迎えに来た訳なのだが………。

 

「そろそろ時間だな………。」

 

腕時計を見て呟く大神。

すると、大神の耳に聞き慣れた声が聞こえて来た。

 

「誰か~、メロンを止めてぇ~」

 

「………メロン?」

 

すると、坂の方からメロンが転がって来た。

 

「エ、エリカくん?」

 

まさかと思い上を見ると、予想通りの光景が広がっていた。

 

「私も止めてぇ~!!」

 

そこには、メロンに混じって坂を猛ダッシュで駆け降りて来るエリカの姿があった。

大神は驚きつつも、エリカを助けるために飛び出した。

 

「エリカくん!俺が受け止めるぞ!」

 

「大神さん!任せましたぁ~!!」

 

言うや、エリカはそのままのスピードで大神に飛び込んで来た。

その勢いで、大神はエリカに押し倒される形で広場に倒れる。

 

「あたたたた………、今日のエリカくんは、いつにも増して凄かったな。」

 

「ご………、ごめんなさい、大神さん………。」

 

やはりこの体勢が恥ずかしいのか、エリカも顔を赤くして大神から離れる。

すると、大神の目によく知る人物で、かつ今一番会いたくない人物が写った。

 

「ダイゴ!?」

 

「え!?ダイゴさん?」

 

そこには、引いた目で二人を交互に見るダイゴの姿があった。

何か誤解しているらしく、表情はショックで引き攣っている。

 

「………そっか。道端でやるくらいになったのか。」

 

「い、いや違う!これは違うぞダイゴ!」

 

必死に弁解を試みる大神。

その時だった。

巴里の街に不釣り合いな、尺八の音色が聞こえて来たのだ。

見ると、大神達の前に大きな虚無僧の姿があった。

 

「こ、虚無僧?何でこんな所に?」

 

こんな時代に、しかも虚無僧など巴里にいるはずがない。

不思議に思う大神の耳にまたしても聞き慣れた声が聞こえて来たのは、その時だった。

 

「………隊長、お久しぶりです。」

 

「そ、その声はまさか!?」

 

えらく畏まった言葉遣いと、特徴的なハスキーボイス。

聞き違うはずがない。

そして、虚無僧が深編笠を取り、その後ろから二人の人物が顔を出した。

 

「よ、大神はん!久しぶりにおもろい事してるやないか。」

 

「だらしねぇな、隊長。ちゃんと飯食ってるのか?」

 

「マリア・タチバナ、桐島カンナ、李紅蘭、ただいま着任しました。」

 

それは、帝国華撃団の最古参メンバー、マリア、カンナ、紅蘭だった。

 

「みんな、来てくれたのか。」

 

つい先日さくら達が来たばかりなのに、また帝都時代の仲間に会えるとは夢にも思わず、大神は喜びの表情を見せた。

 

「………でも、何で虚無僧なんだ?」

 

ふと、大神が虚無僧の格好をしていたカンナに尋ねる。

すると、カンナは昔らしく笑って答えた。

 

「ああ。あたいら、特別コーチとして来たからな。特訓の前に下調べをしとこうと思ってよ。」

 

「巴里華撃団のメンバーと、それぞれの特徴は、十分に分かりました。」

 

「それに、大神はんの様子も分かったみたいやしな。」

 

先程のエリカとのやり取りがやはり不服なのか、大神を肘で突く紅蘭。

すると、ここで再び不自然に興奮する人物がいた。

誰あろう、エリカである。

 

「きゃあ~~~!!東京の花組の皆さぁ~ん!」

 

「エリカさん!エリカさんってば!落ち着いてってば!!」

 

先日のさくら達の時と同様、今にも飛びつこうとするエリカを必死に止めるダイゴ。

そのエリカの様子に、花組メンバーはまたもドン引きした。

 

「な、なんだこのイキナリな奴は!?」

 

「………エリカくんだ。みんなにコーチしてもらう、巴里華撃団の隊員なんだよ。」

 

「そ、そうなんか。………なんや、難儀そうやなあ。」

 

ため息をつきながら説明する大神を気遣い、紅蘭が目を丸くする。

 

「でも、何で皆さんが東京に?巴里観光ですか?」

 

「で、ですから………、あなた達の特別コーチとして………。」

 

またもぶっ飛んだ事を言い出すエリカに、律儀に答えるマリア。

しかし、少なくとも今のエリカに常識は通用しなかった。

 

「特別コーチ!?つまり皆さんが、私達に特別コーチして下さる訳ですね!?」

 

「そのまんまやないか………。」

 

呆れた様子でため息をつく紅蘭。

すると、マリアが大神にぼやいた。

 

「隊長………、手強そうですね………。」

 

「頼むよ………、マリア達だけが頼りだ………。」

 

マリアの言葉に、大神はそう返事を返すしかなかった。

巴里華撃団の特訓は、難航しそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間が過ぎ、特別コーチ三人と大神は支配人室にいた。

今日は特訓の最終日。

大神立ち会いのもと、特訓の成果を確認する簡易テストが行われた。

 

「………で、どうなんだい?あの娘達の成果は。」

 

グラン・マが尋ねると、マリアが成績表を見せた。

 

「はい。巴里華撃団全体としては、予想を上回りました。ですが………、」

 

歯切れの悪い返事を返しつつ、マリアは続けた。

 

「エリカ・フォンティーヌだけは、全ての訓練において合格ラインに到達していません。」

 

今回の特訓は三項目。

状況判断、実戦、光武F操縦だ。

テストはそれぞれ形式を変えており、状況判断は論述式のペーパーテスト。

実戦はペイント弾によるサバイバルテスト。

光武F操縦は紅蘭オリジナルのシュミレーターを使用した一連の操縦テストだ。

概ね結果は良好なのだが、エリカだけはひどい結果であった。

まず、ペーパーテストは『神に祈ります!』という一文で終わっているし、サバイバルテストは2秒で規定の三回ペイント弾を喰らって失格になっているし、シュミレーターテストに至っては、発進すらできなかった程である。

確かにこの成績で、合格を言い渡す事はできなかった。

 

「確かに、これはひどいな………。」

 

流石の大神も、エリカの成績にフォローができない。

すると、ここで紅蘭が助け船を出してくれた。

 

「せやけど大神はん、エリカはんを責めんといてな。花組の強さは、霊力だけちゃうやろ?」

 

「そうだぜ、隊長。アイツが何かすると、その場が明るくなるんだ。それって、成績より断然すげぇ才能だぜ?」

 

紅蘭の言葉を付け加えるように、カンナが笑った。

確かに失敗だが、そのおかげで場の空気が和んだのも事実。

それが他のメンバーの好成績に結び付いているならば、エリカも十分活躍したと言えるはずだった。

それは、大神も同じだった。

 

「もちろんさ。エリカくんには彼女にしかない素晴らしさがある。俺もよく知っているよ。」

 

エリカは自分より先に巴里華撃団にいた。

今まで誰よりも長くこの組織に属した人物だ。

そして、誰よりも人助けに燃える優しさを持った人物だ。

そんな彼女が、大切な仲間でないと何故言えようか。

 

「エリカの事は、隊長に任せるしかねぇな。あのドジは手強そうだが。」

 

「加えて言えば、内に秘めた霊力も………ですが。」

 

「どういう事だい?」

 

マリアの口にした意味深な一言に、グラン・マが反応した。

すると、マリアが真顔に戻って説明を始める。

 

「あくまでも私の直感ですが、エリカの霊力は、まだ完全に目覚めていないと思います。」

 

「本当かい?」

 

「はい。奥の深さを感じるのです。全てを包み込むような、大きな優しさに満ちた力を。」

 

マリアの言葉に、大神はハッとした。

エリカの治癒能力。

その力は、生身の状態でもかなりのものがある。

帝国華撃団に当て嵌めるなら、アイリスが近い。

確かアイリスも、幼さが手伝って花組一の霊力を誇っていた。

ともすれば、エリカも同様に高い霊力が眠っているかも分からない。

大神とはまた違った目線で人を見る事の出来る、マリアだからこその見解だった。

大神は改めて、彼女達に心の中で感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、ダイゴはシャノワールに来ていた。

夜になっても戻らないエリカを、レノ神父が心配したためだ。

エリカが特訓で遅くなっている事を知っているダイゴはそうでもないのだが、最近やたらと張り切っている事もあり、様子を見に行く事にしたのである。

 

「………にしても、シャノワールの地下ってこうなっていたんだ。」

 

始めて地下に通じるエレベーターに乗り、ダイゴが呟いた。

エリカはマシンガンを使うので、地下で特訓していると考えたのである。

 

「あ、着いた。ここかな………?」

 

とりあえず一番下の階で降りるダイゴ。

しかし、残念ながらそこは格納庫だった。

 

「あら、どちら様かいな?」

 

ふと、入口にいたチャイナドレスの女性が声をかけて来た。

 

「あれ………、確か紅蘭さん………だよね?」

 

先週広場で出会った時の事を思い出し、ダイゴが尋ねる。

すると、紅蘭もダイゴに気付いた。

 

「何やダイゴはんやないか。こないな所までどないしたん?」

 

「うん。実はエリカさんを探してて………。」

 

すると、紅蘭は何かを読み取ったように頷いて答えた。

 

「エリカはんな………、確か大神はんと二人で特訓や言うてたで?」

 

すると、ダイゴは紅蘭の口にした『二人』という言葉に反応した。

 

「二人で………?」

 

「そうや。………もしかしてダイゴはん、大神はんに嫉妬してるんちゃう?」

 

刹那、ダイゴの肩がビクッと震えた。

確かに紅蘭の言う通り、ダイゴは大神とエリカのそれらしい関係にある事に嫉妬し、ヤキモチを焼いていた。

そのせいで、エリカを傷つけた事もある。

すると、紅蘭は優しい笑みを浮かべてダイゴに語りかけた。

 

「ダイゴはん、ホンマにエリカはんが好きなんやね。」

 

「え!?あ、いや、まあ………。」

 

ズバリ言い当てられて驚きはするものの、否定はしないダイゴ。

否定した所で、どうせこの人はすぐ見抜く。

そう思ったからだ。

 

「せやけどダイゴはん………。そんな心配はないで?」

 

「え?」

 

ふと、紅蘭が意外な事を口にした。

心配ないとは、どういう事なのだろうか。

 

「簡単や。大神はんは、エリカはんに色目やら使っとらん。多分始めからな。」

 

「な、何でそんな事分かるの?」

 

ダイゴが当然とも取れる質問を投げかけた。

すると、紅蘭は小さく笑った。

 

「見た方が早いで。ほれ。」

 

そう言って、紅蘭が左手をダイゴに近付ける。

見ると、薬指に一つ、指輪が嵌めてあった。

 

「こ、これってもしかして………!!」

 

「そうや。ウチと大神はんの、婚約指輪や。」

 

その言葉に、ダイゴは仰天した。

まさか大神に将来を約束した人がいたとは、夢にも思わなかったからだ。

 

「じ、じゃあエリカさんとよく一緒にいるのは………?」

 

「何や、大神はん巴里でも相変わらずなんやなぁ~………。」

 

ダイゴの言葉に、紅蘭はやれやれと肩を竦めて見せた。

 

「ダイゴはん。大神はんはな、正義感が強くて優しいお人や。せやけど、たった一つだけ大神はんにも弱点があるんや。」

 

完璧な人間などこの世には存在しない。

人間である以上、必ず一つは欠点が存在するはずである。

それは、大神でも同じだった。

 

「大神はんはな、人一倍女性の涙っちゅうもんを見たがらないお人なんや。女性が傷付くんに、耐えられんお人なんや。」

 

良く言えばフェミニスト。

悪く言えば優柔不断。

それが、紅蘭の挙げる大神の唯一にして最大の欠点だった。

 

「加えて大神はんは恋愛に鈍感やからな。あんなんで、本人はウチ一筋や思っとるんやで?」

 

驚きの連続で、ダイゴは声も出なかった。

つまり自分は、大神とエリカがいい関係にあると勝手に思い込み、勝手に嫉妬していた事になる。

そう思うと、今まで大神に接して来た自分の態度が恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「僕………、大神さんに謝らなきゃ………。」

 

「ええってそんなん。誤解させる大神はんが悪いんや。」

 

紅蘭は笑顔を崩す事なく、ダイゴの肩に手を置いた。

 

「せやからダイゴはん、まだ諦めたらアカン。大神はんの事はウチが保障するさかい、エリカはんをモノにしてみ。」

 

「うん!ありがとう、紅蘭さん!」

 

大神は単に優しいだけ。

紅蘭が教えてくれた真相に、ダイゴは胸の中に渦巻く黒い感情が消えていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、大神はエリカとの特訓を終え、カンナがいるという厨房へ向かった。

そこには、コクリコから大量の果物を貰い、ガツガツと食べるカンナの姿があった。

 

「カンナ、相変わらずよく食べるね………。」

 

「ああ、コクリコの奴が、色々くれるんでな。」

 

りんごを頬張りつつ、カンナが答えた。

カンナは姐御肌な性格から、帝劇時代から子供に絶大な人気があり、アイリスも懐いていた。

どうやらコクリコも、同じようにカンナに懐いたらしい。

 

「カンナって何でも美味しそうに食べるよね。友達のクレオパトラにそっくりだよ。」

 

懐かしむようにコクリコが呟く。

すると、カンナが瞳を輝かせた。

 

「クレオパトラ!?絶世の美女じゃねぇか!あたいも捨てたもんじゃないね!」

 

「クレオパトラって、サーカスの団員さんかい?」

 

大神が尋ねると、コクリコは首を振った。

 

「ううん、違うよ。クレオはボクと一緒にマジックをした動物なんだ。」

 

「でもよ、名前がクレオパトラなら綺麗な動物だよな?」

 

中々人に美人と言われる事がないためか、カンナが期待を込めた眼差しでコクリコを見る。

すると、コクリコは満面の笑みで答えた。

 

「うん!クレオは美人のゴリラなんだよ!食べてるとこなんか、もう本当カンナそっくりなんだから。」

 

コクリコ自身は褒めてるつもりなのだろう。

しかし、カンナにゴリラという言葉は禁句だった。

 

「ゴ、ゴリラ!?あたいがか!?」

 

大神の予想通り顔を凍りつかせるカンナ。

それもそのはず。

何故ならカンナは、すみれに毎日のようにゴリラ女と呼ばれて喧嘩していたのだ。

このコクリコの一言、殴られてもおかしくはなかった。

 

「す、済まないカンナ。コクリコに悪気はないんだ。」

 

「分かってるさ。すみれと違ってあんな顔されてちゃ、怒る気にもなれねぇよ。」

 

空気を読んで謝る大神に、カンナは苦笑いを返した。

すみれは完全に馬鹿にして言ってくるが、コクリコは違う。

本当にクレオが好きで、カンナも同じくらい好きと言っているのだ。

そんな少女に、どうして怒る事ができようか。

すると、カンナは帝劇では絶対やらないであろう姿を見せた。

 

「ウッホッホ、ウッホッホってか?コクリコ、お前本当にクレオが好きだったんだな。」

 

何と、コクリコの前でゴリラの真似をして見せたのである。

内心似てると思った大神だが、報復が怖いので口には出さない。

すると、後ろで皿が割れる音がした。

 

「ん?花火くん。どうしたんだい?」

 

見ると、驚いた表情で固まった花火が厨房の入口に立ち尽くしていた。

足元に割れた皿の破片がある事から、花火が皿を落としたと分かる。

 

「あ、あの………、カンナさんも日本人ですよね?」

 

怖ず怖ずと確認するように花火が尋ねた。

 

「ああ、日本人だよ?」

 

「では、やはりカンナさんも大和撫子なんですか?」

 

その言葉に、大神はようやく花火が驚いた理由が分かった。

大和撫子とは、奥ゆかしくもの静かで上品な、日本の女性を表す言葉だ。

しかし日本を知らない花火には、日本人が全て大和撫子に当て嵌まる先入観がある。

その先入観からして、どう見ても大和撫子と言うより豪放磊落と言う言葉が似合うカンナが先入観と矛盾したのである。

確かにカンナは大和撫子とは言えないと思う大神だが、報復が怖いのでやはり口には出さない。

 

「あたいはあたいさ。日本人がどいつもこいつも大和撫子って訳じゃないんだぜ?」

 

「そうなのですか?日本には行った事がありませんでしたから………。」

 

「じゃあ、日本の事教えてやるよ。こっち来な。」

 

「は、はい………。」

 

カンナに手招きされるまま、話に加わる花火。

その一方で、大神はステージに向かったマリアが気になった。

確かロベリアがダンスを見てもらうと言っていたが………。

 

「(マリアとロベリアか………、何か嫌な予感がするな………。)」

 

共に裏の世界を生きて来た二人。

何となく胸騒ぎがした大神は、急ぎめにステージへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待ってたよ、マリア先輩。………いや、クワッサリーと呼ぶべきか?」

 

ステージに来たマリアに放ったロベリアの一言は、それだった。

その一言に、マリアは驚きもせずに目を細める。

 

「やはり、私の名前を知っていたのね。流石は巴里の悪魔かしら?」

 

ロベリアの名前が出た時点で、ある程度の予測は出来ていた。

『火喰い鳥のマリア』と、『炎使いのロベリア』………。

裏で有名な者同士で何をするかは分からない。

ただ一つ確かなのは、目的は明らかにダンスではないという事だ。

 

「最近ピリピリした空気が恋しくてね。ちょっとばかり相手をして貰おうか。」

 

「それはそれは。随分な命知らずね。」

 

ロベリアの焼き尽くす視線に、マリアの凍てつく視線が向けられる。

すると、ロベリアは楽しげに笑った。

 

「何、霊力を使う事じゃねぇよ。アンタとアタシ………、どっちが殺しのプロか知りたいだけさ。」

 

「………正気の沙汰とは思えない言葉ね?」

 

和気あいあいとしたシャノワールの空気は一転し、冷たい空気がステージを支配する。

大神がやって来たのは、その時だった。

 

「二人共、どうしたんだ?やけに殺気立っているが………。」

 

何かは分からないが、少なくともダンスをやる空気でない事は確かだ。

すると、ロベリアが怪しく笑ったまま言った。

 

「アンタは黙ってな。これはゲームなんだからさ。」

 

「ゲーム?私には殺し合いにしか聞こえないわ。」

 

いつになく低い声で、マリアが言った。

 

「どういう事なんだ、マリア?」

 

「私の銃と彼女のナイフ、どちらが上か試してみたいというのです。」

 

「ルールは簡単。相手を動けなくさせれば勝ちだ。」

 

マリアの説明に付け加えるようにロベリアが言った。

その顔は、今から始まる狂気のゲームが楽しくて仕方ないといった様子だ。

 

「そんな事は認めないぞ!怪我をしたらどうする!」

 

至極当然の反応を示す大神。

仲間同士が殺し合うなど、絶対にあってはならない。

しかし、そこに現れた人物は反対の意見を述べた。

 

「話は分かった。私が立会人をやろう。」

 

それは、何とグリシーヌだった。

やはり決闘というものが、彼女の中のバイキングの魂を揺るがすのだろうか。

 

「ルールを変えよう。隊長の頭の上にりんごを乗せ、それを撃ち抜く。………良いな?」

 

「ち、ちょっと待て!何で俺なんだ!?」

 

慌てて反論する大神だが、ロベリアは笑って了承した。

 

「何慌ててんだ?アンタなら運が味方についてるだろ?」

 

「………説得も無理のようね。」

 

それまで無言で事の成り行きを見守っていたマリアが、低い声で言った。

 

「隊長、隊長は私が守ります。」

 

「た、頼むぞ、マリア………!」

 

頭にりんごを乗せられ、固まる大神。

その様子に頷き、グリシーヌは一枚のコインを取り出した。

 

「コインが地面に着くのが合図だ。………行くぞ!!」

 

グリシーヌがコインを弾き、宙を舞う。

その一瞬、マリアはロベリアの手にあるナイフを見た。

 

「(複数投げる気ね………。)」

 

おそらくトランプのテクニックを応用したのだろう。

ロベリアの手の中には、見えているナイフの他に三本のナイフが隠れている。

 

「今だ!」

 

「そこっ!」

 

ナイフと銃弾が打ち出されたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「うわあっ………!!」

 

 

眼前に迫るナイフと銃弾に、思わず目を閉じる大神。

しかし、目を開けば心配そうに見つめるマリアの顔が見えた。

 

「大丈夫でしたか、隊長?」

 

「あ、ああ。助かったよ。」

 

冷や汗を拭いつつ、マリアに礼を述べる大神。

すると、ロベリアが口を開いた。

 

「………で、りんごを撃ち抜いたのは?」

 

「ロベリアだ。………だがこの勝負、マリアの勝ちとさせてもらう。」

 

「どういう事だ?」

 

グリシーヌの判定に、俄かに表情を不機嫌なものに変えるロベリア。

すると、グリシーヌはロベリアの眼前にナイフを突き付けた。

 

「このナイフを見ろ。マリアは隊長に当たるはずのナイフを撃ち落としている。」

 

「そんなルールだったかよ? ……まあ、異論はねぇがな」

 

納得した様子でロベリアが鼻を鳴らした。

おそらくマリアの事、最初から勝負するつもりなどなかったのだろう。

 

「………にしても隊長、アンタ何でナイフを避けなかったんだ?」

 

「簡単さ。マリアは絶対にナイフを撃ち落とす。そう信じていたからな。」

 

ロベリアの問いに、大神は即答した。

確かに避けるのが一番早いさ確実だ。

しかし大神は、それをマリアを裏切る行為と考えていた。

まあこの状況では、大神の方が命知らずな訳だが。

 

「チッ、面白くない………!」

 

「私も失礼する!」

 

大神の答えが不満だったのか、二人は足早にステージを後にした。

 

「二人とも、一体どうしたんだ?」

 

二人の様子に首を傾げる大神。

すると、マリアが尋ねた。

 

「隊長………、分かりませんか?」

 

「え?何の事だい?」

 

「なら、いいです。」

 

相変わらず鈍感な大神にため息をつき、マリアもステージから消えた。

残った大神は、二人の行動にひたすら首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャノワールの屋根裏部屋。

何もない殺風景なその部屋に、エリカの姿があった。

その表情は、いつになく暗く沈んでいる。

 

「私………、やっぱりみんなの迷惑なのかな………。」

 

誰もいない空間で、エリカは一人呟いた。

みんなで強くなると誓った特訓。

しかし、みんながメキメキと力を伸ばす中、自分だけは散々な結果になってしまった。

 

「あ~あ、嫌だな。どうすればいいんだろう………。」

 

一人呟くエリカに、答える者は、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリア達が巴里を後にしてから3日が経った。

巴里の街には雨が降り続け、憂鬱な時間が流れる。

 

「大神さん、夜に申し訳ありません。」

 

レノ神父がシャノワールを訪れたのは、そんな雨の降る夜の事だった。

隣には道案内か、エリカの姿もある。

 

「大神さん、折り入って話があるのです。」

 

客席に案内されたレノ神父は、いつになく神妙な面持ちで話し始めた。

 

「実は、エリカさんは半年も前に、修道院をクビになっているんです。」

 

「クビ?どういう事ですか?」

 

初めて耳にする話に、大神は聞き返した。

レノ神父もクビにした事に負い目を感じているのか、俯いて大神を見ようとしない。

 

「エリカさんは優しい心をお持ちで、シスターの鑑です。しかし、彼女はどうしても失敗が目に余るのです、ハイ。」

 

それから、レノ神父は大神にこれまでのエリカの話を聞かせた。

掃除をすれば女神像を壊し、草むしりをすれば花まで抜き、炊き出しを手伝えば不幸な人が更に不幸になり………。

 

「ですから大神さん。エリカさんに、もう修道院に来ないよう伝えていただきたいのです、ハイ。」

 

「そんな!エリカくんに非はないじゃないですか!」

 

大神はすかさず反論した。

確かにエリカのドジは目に余る。

だがしかし、彼女の行いが完全にマイナスになった事は一度もない。

寧ろ彼女の様子は、見ていて微笑ましいものだ。

しかしその時、真後ろから物音が聞こえて来た。

 

「エ、エリカくん!?」

 

大神は仰天した。

何とそこには、玄関で待っているはずのエリカの姿があったのだ。

おそらく話を聞いていたのだろう。

エリカの顔にはショックがありありと窺えた。

 

「エリカくん、待つんだ!!」

 

大神が必死に叫ぶ。

しかし、エリカは大神に背を向け、シャノワールを飛び出した。

 

「エリカくん、戻って来い!エリカくん!」

 

雨の中、外に飛び出したエリカを名前を呼ぶ大神。

すると、その声に他の隊員達が集まって来た。

 

「どうした、隊長。エリカが来ていたのか?」

 

「ああ………、実は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………遅いね、エリカさん。」

 

窓の外に流れる空の涙を眺めつつ、ダイゴが呟いた。

既にエリカとレノ神父がシャノワールに向かって小一時間。

いくら何でも遅い。

 

「大丈夫さ。向こうにはムッシュ大神がいるんだから。きっと話で盛り上がってるよ。」

 

ダイゴとは対称的に、寛いだ様子で答えるピエール。

しかし、ダイゴは妙な胸騒ぎがしてならなかった。

まるでエリカが、本当に手の届かない所へ消えてしまうような気が。

 

「何処行くの?」

 

ふとその場を離れるダイゴにピエールが尋ねる。

 

「うん………、ちょっとね。」

 

そう曖昧な返事を残し、外に出るダイゴ。

ピエールはしばらく開け放された扉を眺めた後、低い声で呟いた。

 

「………仕方ないな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外は、一段と激しい雨が降りしきっていた。

その勢いは、雨というより水の散弾銃である。

 

「おかしい………。エリカさん、いくら何でも遅すぎる………。」

 

今思えば、最近のエリカは際立って様子が変だった。

マリア達がいた頃は張り切っていたのに、いなくなった途端に元気を無くしていた。

特にこの3日間は、シャノワールにすら顔を出さなかった程だ。

そのためにエリカに話し掛けられず、自分もまたエリカと距離がある事を、ダイゴは危惧していた。

 

「ダイゴさん!何故外に?」

 

「レノ神父様!!」

 

レノ神父の声が聞こえて来たのは、その時だった。

無事に帰って来たと安堵の表情を見せるダイゴだが、次の瞬間にはその表情が消えた。

何故ならそこにはレノ神父しかおらず、肝心のエリカの姿がなかったからである。

 

「し、神父様?エリカさんは………?」

 

恐る恐る尋ねるダイゴ。

すると、レノ神父は落胆の表情を浮かべた。

 

「では………、やはりエリカさんは教会に戻ってはないのですね………。」

 

教会に戻ってない。

レノ神父の言葉に、ダイゴは目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。

まさか………。

 

「エリカさん………、どうしたの………?」

 

まさかと思い尋ねるダイゴ。

すると、レノ神父の口から予想通りの答えが返ってきた。

 

「実は、エリカさんがシャノワールを飛び出してしまいまして………。」

 

「そんな………、エリカさんが………?」

 

驚くダイゴに、レノ神父は事情を手短に話した。

すると、ダイゴは怒りを露にレノ神父に詰め寄った。

 

「一体どういうつもりなんだ!エリカさんが………、エリカさんが何をしたって言うんだ!!」

 

「………私も後悔しているのです、ハイ。奨められたとはいえ………。」

 

「なっ………?」

 

レノ神父の言葉に、ダイゴはまたしても引っ掛かるものを感じた。

奨められた?一体誰に?

それを尋ねると、レノ神父は驚くべき人物の名前を口にした。

 

「はい。ピエールさんです。」

 

「ピ、ピエールだって!?」

 

ダイゴは驚きな余り目を見開いた。

あの気の良い友人がエリカを追い出すように言うとは考えもしなかったからだ。

 

「ハイ。ピエールさんに、エリカさんをこれ以上悲しませないようにと………、ハイ。」

 

「ピエールが………。くっ!」

 

ダイゴはキッと教会の中を睨み、中に戻る。

その顔には、怒りに満ちていた。

 

「ピエール!!」

 

普段発しない大声と共に、乱暴に扉を開け放つ。

たとえ友人であっても、エリカを傷つけるように仕組んだ事を許す訳にはいかない。

しかし、物申そうと部屋に乗り込んだダイゴの表情は、またも驚きに変わった。

 

「なっ………!」

 

先程までいたはずのピエールが、姿を消していた。

奥の窓が乱暴に割られ、そこから雨が降り込んでいる。

 

「ダイゴさん?………こ、これは!!」

 

慌てて後を追って来たレノ神父も、変わり果てた部屋の様子を見て同様に驚く。

 

「………二人を探して来る。レノ神父はここでエリカさんを待ってて。」

 

「は、はい。ダイゴさん、どうかお気をつけて………。」

 

レノ神父に告げ、ダイゴは教会を再び飛び出した。

 

「神よ………。私の過ちをお許し下さい。そして、迷える子羊達をお救い下さい………。」

 

降りしきる雨に、レノ神父はただそう祈る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ロベリア、ここにいたのか。」

 

シャノワールから程近い裏通りのバーに、ロベリアの姿があった。

既に何杯か呑んでいるらしく、空になったグラスがいくつも置かれている。

 

「よう、隊長。雨の中ご苦労な事だな。」

 

「こんな所で何をしているんだ!エリカくんが出て行ってしまったんだぞ!?」

 

呑気に言うロベリアを、大神が睨む。

しかし、ロベリアはその姿勢を崩さなかった。

 

「………で、アタシにも探せってか?」

 

「ロベリア!俺達は仲間だろう!!」

 

カウンターを乱暴に叩き、大神が訴える。

すると、ロベリアは5本目のグラスを空にして言い返した。

 

「仲間だからこそだ。嫌だというエリカを無理矢理連れ戻す方が、仲間にあるまじきじゃないのか?」

 

「………。」

 

その言葉に、大神を言い返せなかった。

確かにロベリアの言い分も正論だった。

今のエリカは、心が不安定な状態になっている。

そんな彼女を無理矢理連れ戻す事は、彼女の意志を無視した行為と言われても文句は言えない。

するとその時、バーのマスターがカウンターに顔を出した。

 

「おいロベリア、赤い服の女が東に走って行くのを見た奴がいるぜ?エリカって娘じゃねぇのか?」

 

「バ、バカ!大声で言うんじゃない!!」

 

慌ててロベリアが叫んだ。

何の事はない。

なんだかんだ言って、やはりロベリアもエリカが心配だったのだ。

 

「ロベリア………。」

 

「………聞いたろ?東だってよ。」

 

罰が悪そうに背を向け、ロベリアが言った。

赤い服の女。

間違いなくエリカである。

ロベリアはマスターを仲介に情報屋に協力してもらい、エリカの居場所を探していたのだ。

 

「早くいきな。また何処か行っちまうぜ?」

 

「分かった。ありがとう、ロベリア。」

 

笑顔で礼を述べ、大神はバーを後にする。

その背中を見つめ、ロベリアは小さく悪態をついた。

 

「チッ、柄にもねぇ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ダイゴはエリカを探して公園に来ていた。

既にシャノワール周辺は探し尽くした。

もうこの辺りしか残っていない。

 

「………、エリカさん!?」

 

木の奥に人影を見つけ、ダイゴが叫んだ。

しかし、そこにいたのはエリカではなかった。

 

「やあ、ダイゴじゃないか………。」

 

「!!」

 

そこにいたのは、ピエールだった。

 

「まだエリカを探してるの?いい加減諦めればいいのに。」

 

いつもと何ら変わらない微笑みをたたえるピエール。

しかしダイゴには、その微笑みが今までとは全く別のものに見えた。

 

「ピエール………、何故だ?」

 

低い声でダイゴが尋ねた。

 

「何の事かな?」

 

「エリカさんの事だ!」

 

スカした態度のピエールに怒りを募らせながら、ダイゴが言った。

しかし、ピエールはダイゴの神経を逆なでするように笑った。

 

「アハハ、そうか。レノ神父言っちゃったんだ。」

 

「質問に答えろ!!何でエリカさんを追い出そうとした!?」

 

たまり兼ねたダイゴが怒鳴った。

今まで見せた事のない表情で、ピエールを睨みつける。

しかし、ピエールはダイゴを前にして冷然と言い放った。

 

「簡単さ。君を助けてやるためだよ。」

 

「何………?」

 

言葉の意味が分からず怪訝な顔を浮かべるダイゴ。

すると、ピエールは笑ったまま答えた。

 

「そうだよ、ダイゴ。君はエリカに何とも思われていない。だから僕が遠ざけてあげたんだよ。」

 

「ふざけるな!!そのせいでエリカさんは………!!」

 

「何で君が怒るのさ。寧ろ僕に喜んでくれよ。」

 

ピエールが蔑んだ目でダイゴを見た。

まるでダイゴが怒りに震える様を、楽しんでいるようにも見える。

 

「………未練がましいね、ダイゴ。あの女は君じゃなくあの男を選んだのは明白な事実なのに。僕はあの愚かな堕天使を追っ払ったんだよ?感謝どころか怒られるなんて心外だなぁ。だから………。」

 

「ピエール!!」

 

その言葉に、遂にダイゴが爆発した。

鬼のような形相で詰め寄り、友人の胸倉を荒々しく掴む。

 

 

 

だが次の瞬間、ダイゴの動きが止まった。

 

 

 

「うぐっ………!?」

 

右の脇腹に、焼け付くような激痛が走った。

胸から熱い何かが込み上げてくる。

ハッとして下を見ると、街灯に照らされた芝生に赤黒い染みができていた。

 

「ねぇ、ダイゴ。僕はこんなに君のために尽くしたんだよ?だから………。」

 

激痛の余り意識が遠退き始めるダイゴに、ピエールが笑って言った。

その表情は、氷のように暗く冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んでくれよ……僕のために」

 

 

 

 

 

 

 

刹那、ピエールの身体がダイゴから離れると同時に、何かが音を立ててダイゴの脇腹から引き抜かれた。

 

「ピ………、ピエ………!?」

 

その拍子に更なる激痛がダイゴを襲った。

足に力が無くなり、雨に濡れた芝生に倒れる。

その瞬間、ダイゴは左手を真っ赤に染め、冷たく笑うピエールの顔を見た。

 

「あ~あ……壊れちゃった。」

 

消え行く意識の中ダイゴが最期に聞いたのは、冷たいピエールの笑い声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカくん、熱はおさまったかい?」

 

「はい、まだ寒気がしますけど………。」

 

優しく尋ねる大神に、エリカが赤い表情で答えた。

あれからロベリアの情報をもとに捜索を続けていた大神は、橋の上に佇むエリカを見つけた。

おそらく長時間雨に打たれたためだろう。

エリカは熱を出して倒れてしまったのだ。

大神はエリカを自分のアパルトメントに連れていき、保護したのである。

幸い熱いシャワーを浴びて熱も多少おさまったらしく、エリカは陰りがあるが笑顔を取り戻した。

 

「じゃあ、早くお休み。俺は床で寝るから………。」

 

「はい………。」

 

小さく頷き、ベットに潜るエリカ。

それを確認して、大神は明かりを落とした。

 

「エリカくん………、もう寝ちゃったかい?」

 

少しして、大神が尋ねた。

すると、ややあって返事が返ってきた。

 

「いいえ………、何だか眠れなくて………。」

 

元気のない声だった。

あれだけの事があったのだから、無理もないが。

 

「ねぇ、大神さん………。私、みんなに嫌われちゃいましたよね………?」

 

「何でそう思うんだい?」

 

「私がドジだからです………。ダイゴさんも神父様も、私が迷惑だったみたいだし………。特訓でも、足を引っ張ってばかりだったし………。」

 

やはり、と大神は思った。

エリカの失敗は確かに凄まじい。

特にダイゴが毎度被る被害には、同情すら感じた事もある。

 

だが、それがエリカを嫌う理由には、決してならなかった。

 

「そんな事ないよ。みんな雨の中エリカくんを探していた。みんな、君が好きだからだよ。」

 

「でも私は………、ドジな自分が嫌いです。」

 

普段なら「そうですか」と笑うはずのエリカが、暗い声のまま答えた。

 

「だから………、みんなに嫌われたくなくて、失敗した時は笑って明るく振る舞うんです。」

 

「そうだったのか………。」

 

エリカ自身、自分のドジが分からない訳ではなかった。

誰かの役に立ちたい。

誰かを助けたい。

そう思って行動に移しても、いつも失敗して周りに迷惑をかけてしまう。

それならば、せめて自分は笑顔でその場を明るくしよう。

その人が少しでも元気になるように。

エリカはそう考え、自分を責めながら笑顔を見せたのだ。

エリカはそうやって、一人で堪え続けていたのである。

 

「でも、今度はいろいろ重なって………、笑うのが辛いです………。」

 

「エリカくん………。」

 

初めて本音を口にしたエリカに、大神は優しく語りかけた。

 

「大丈夫だよ。みんな君を迷惑なんて思っていない。」

 

「本当ですか………?」

 

「ああ。俺だって、ダイゴだって、エリカくんが大好きだよ。」

 

「大神さん………、ありがとうございます………。」

 

その言葉に、ようやくエリカは笑った。

作り笑いではなく、本心で笑ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「………ん?光………?」

 

突然明るくなった部屋に、大神は目を覚ました。

明かりもつけていないのに、一体どうしたというのか。

 

「こ、これは!」

 

ハッとして後ろを振り返り、大神は驚いた。

何と、エリカの身体から強い霊力が溢れ出して、全身が光っているのだ。

この霊力の強さは、アイリスにもひけをとらない。

 

「そういえば、マリアもエリカくんの霊力は完全に目覚めてないと言っていたな。」

 

普段のエリカと比べて、今感じる霊力は凄まじいものがある。

マリアの直感は、的中していたのだ。

 

「自分の霊力に気付けば、エリカくんも自分の事を好きになってくれるかな………。」

 

これだけ高い霊力があれば、戦闘でも足手まといにはなるはずがない。

もしかしたらエリカのドジも、霊力が開花していない事が原因かもしれない。

底知れぬエリカの力に、大神はただ驚愕するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、地下神殿に居座るカルマールは、いつにも増して機嫌が良かった。

何故なら己の右腕が、遂に敵の居場所を突き止めたからである。

 

「してイーヴィルよ。間違いないのだな?」

 

念を押すカルマールに、イーヴィルは畏まった様子で太鼓判を押した。

 

「はい。『テアトル・シャノワール』………、そこに間違いございません。」

 

「なるほど、劇場に身を隠していた訳か………。」

 

イーヴィルの報告に、納得したようにレオンが呟く。

すると、カルマールは笑って命令を出した。

 

「よし、ナーデルよ。お前のその爪で、華撃団を引き裂いて来るが良い。」

 

「お任せあれ、公爵様。必ずや、奴らを芸術に変えて差し上げますわ!」

 

指名を受けた事が嬉しいのか、ナーデルは爪をギラリと光らせて笑い、その場を後にする。

 

「………コルボーよ、お前にも役を与えよう。」

 

「芸術の神・ミューズの如く、期待に添えた役を演じて見せましょうぞ!」

 

ナーデル同様に歓喜の言葉を口にするコルボー。

すると、カルマールはニヤリと笑って続けた。

 

「お前はナーデルの死に様を見て、イーヴィルと共に奴らを抹殺しろ。」

 

「なるほど、カルマール公のお役に立てるとは、幸せ者ですな。」

 

「かの女に相応しい醜い死に様、コルボーが見届けて差し上げましょう。」

 

「流石はカルマール様。これで我々の手を阻む者はないでしょう。」

 

仲間を見殺しにする事に異を唱えるどころか、平気で笑う四人。

たとえ同胞といえど、仲間意識などというものは彼らの中にはなかった。

 

「………してイーヴィルよ。先の言葉の意味を言え。」

 

ひとしきり笑い、カルマールが尋ねた。

イーヴィルは、敵がいなくなると言った。

巴里華撃団は倒せるとしてももう一人、あの裏切り者が残っている。

すると、イーヴィルは冷たい微笑みと共に答えた。

 

「こちらをご覧下さい。」

 

そう言って、血まみれの左手を開いて見せる。

すると、カルマールは納得したように笑った。

 

「ヌハハハハ!よくやったぞイーヴィル。これで小僧共もおしまいだ!」

 

凶悪な笑い声が、地下神殿に轟いた。

 

 

 

 

✿

 

 

 

 

「ご、ごちそうさま………。」

 

翌朝、大神は先に起きたエリカの作ったという朝食を食べていた。

エリカ曰くかなりの自信作であったが、どうも常識が通用しないらしい味に大神はレノ神父の言葉が本当だと理解した。

 

「うふふ、私の料理全部食べてくれたの、大神さんが初めてですよ。」

 

「だ、だろうね………。」

 

何だか舌が変な感覚になってしまったが、エリカが作ってくれたため我慢する大神。

すると、大神の携帯キネマトロンに緊急連絡が入った。

 

「ん?緊急連絡………?こ、これは!!」

 

それを見るや、大神の表情は一変した。

何と、シャノワールが怪人に襲撃されたというのだ。

 

「………!」

 

「エリカくん!」

 

急に暗い表情に戻って部屋を飛び出すエリカ。

大神はエリカを慌てて追いかける。

しかし、アパルトメントの入り口に来た所で、不意にエリカの足が止まった。

何故なら………、

 

「み、みんな………。」

 

入り口には、グリシーヌを始め四人の隊員が顔を揃えていた。

あのロベリアもである。

 

「どうしたんだ、みんな。シャノワールが襲撃されたと連絡が来たが。」

 

大神が四人に尋ねた。

シャノワールが襲われているなら、一刻も早く出撃しなければならないのに、四人共何をしているのか。

すると、コクリコが答えた。

 

「あれはね、嘘なんだ。」

 

「まともに会いに来ても、エリカはまた逃げてしまうだろう?」

 

コクリコに続くように、グリシーヌが言った。

おそらくエリカの事、直接訪ねても顔を会わせてくれない。

ならば、こうしてエリカがアパルトメントから出て来る状況を作り、自分達は入り口で待ち構えている計画だったのである。

 

「エリカ、シャノワールに戻って来い。お前は、大切な仲間だ。」

 

「私からもお願いです。帰ってきて下さい。」

 

「エリカがいないと、シャノワールが寂しいよ。」

 

「その………、あれだ。ほら、アタシの仕事も増えるだろ?だからさ、戻って来いよ。」

 

口々に言う仲間達。

その暖かい言葉に、エリカは胸に熱いものを感じたが、またこれまでの事が脳裏を過ぎった。

 

「でも、私は必要のない人間ですから………。」

 

「そんな事はないさ。エリカくん、俺達には君が必要だ。」

 

そう言ったのは、後ろにいる大神だった。

 

「明るくて、不器用で、優しくて、みんなの大好きなエリカくん。それでいいじゃないか。」

 

「大神さん………、みんな………、ありがとう………。」

 

エリカは、目に浮かぶ涙を隠す事もせずに礼を言った。

その時、再び大神の携帯キネマトロンが鳴り響いた。

 

「さっきと同じ内容?………まさか、本当にシャノワールが襲撃されたのか!?」

 

携帯キネマトロンに、リピート機能はない。

更に発信源は作戦司令室からだ。

グラン・マが嘘をつくとは思えない。

つまり………、

 

「シャノワールに敵が現れた。すぐに戻るぞ!!」

 

「「了解!」」

 

エリカを含め、全員が隊員の顔になって返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、ムッシュ。エライ事になったね。」

 

開口一番、グラン・マがため息をついた。

既に最終防衛ラインを突破したポーン達が、シャノワールの眼前に迫っているのだ。

これまでにないピンチである。

 

「オーナー、通信回線がジャックされました!」

 

メルがいつになく慌てた口調で報告する。

するとその直後、モニターに見覚えのある顔が写った。

 

「うふふ、巴里華撃団の皆さん。お揃いね。」

 

それは、復活した怪人の一人、ナーデルだった。

以前にも増して、鋭い笑みを見せる。

 

「5分だけ待ってあげるわ。アタシに切り刻まれるか、建物ごと潰されるか、死に方を考えなさい。」

 

得意げに睨みを聞かせ、ナーデルの通信が途切れた。

 

「ふざけおって………、隊長、出撃命令を頼む!」

 

怒りを露にしてグリシーヌが言う。

すると、ここでロベリアが待ったの声をかけた。

 

「おいおい忘れたか?アタシらの光武Fは、性能で負けてるんだぞ?」

 

「でも………、戦うしかないじゃないか!」

 

恐怖を押し殺しながら、コクリコが言った。

確かに勝てる確率は低い。

だが、ここで諦めれば確実に自分達はやられるだろう。

出撃を迷う隊員達。

すると、グラン・マが安心させるように言った。

 

「そうでもないよ?帝都の紅蘭から土産があるんだ。」

 

「紅蘭から?………、ま、まさか!!」

 

帝都のメカ担当にして自分のフィアンセの名前に、大神はピンと閃いた。

 

「フフフ、見せてあげるよ。アンタ達の新星、『光武F2』をね。」

 

大神の反応に満足そうな笑みを見せ、グラン・マは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたぜ隊長さん。見てくれ、光武F2だ。」

 

格納庫で花組を待ち兼ねていたジャンが、ズラリと並ぶ機体を見せた。

 

「こ、これが光武F2!」

 

大神は驚きの表情で傑作を見た。

天使の羽を想起させる翼を得たエリカ機。

身の丈はある巨大なバトルアクスを装備したグリシーヌ機。

スプリングを強化してジャンプ力を飛躍させたコクリコ機。

両腕に鋭利な鈎爪をつけ、死神のような姿になったロベリア機。

ボウガンから巨大な弓を装備した花火機。

そして、両肩のブースターで低空飛行を可能にした大神機。

帝国華撃団の紅蘭の設計のもと、ジャン班長以下数十名の整備班による最高傑作。

それが光武F2だった。

 

「紅蘭の奴、いい腕してるぜ。」

 

「カンナのおかげで、反射神経や体力もついたよ。」

 

「マリアさんに、状況判断の基本も教授していただきました。」

 

「さくら達からはチームワークを教えられた。………そうだな、エリカ。」

 

「はい!!」

 

グリシーヌの言葉に、力強く答えるエリカ。

巴里華撃団が、真に一つになった瞬間だった。

 

「よし、巴里華撃団、出撃!シャノワールを防衛せよ!!」

 

「強くなったボクの力、見せてあげる!」

 

「グリシーヌ・ブルーメールと巴里華撃団に、二度の敗北はない!」

 

「私達には、守るべき方達がいますから!」

 

「このアタシに刃向かう奴はどうなるか、教えてやるよ!」

 

「エリカ、エンジン全開です!!」

 

新たなる決意と共に、巴里華撃団は一斉に光武F2に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出て来るかと思ったけど、このまま死にたいらしいわね。」

 

定刻になり、ナーデルが意外そうな表情で呟いた。

おそらくは玉砕覚悟で出て来ると思っていたが、未だにシャノワールは沈黙を保っている。

ロベリア辺りは一人でも出て来ると思ったが。

 

「………まあいいわ。いずれにしろ、このナーデルが芸術に変えてあげる。」

 

その時、待ち侘びた声がナーデルの耳に聞こえて来た。

 

 

「そこまでです!!」

 

 

「巴里華撃団、参上!!」

 

その直後、シャノワールを守るように六つの光武F2が姿を現した。

 

「やっぱり出て来たわね。それでこそ芸術のしがいがあるというものだわ。」

 

獲物を見つけたという目で巴里華撃団を睨むナーデル。

すると、ロベリアがわざと聞こえるように言った。

 

「弱い犬程よく吠えるってな、エリカ。」

 

「ハイ!って、何がですか?」

 

突然ロベリアに言われ、返事を返しつつも尋ねるエリカ。

すると、案の定ナーデルはキレた。

 

「キーッ!!バカにしないでよ!今度こそアンタ達の最期なんだから!!」

 

先程までの余裕の表情から一転して地団駄を踏むナーデル。

すると、すかさずコクリコが言い返した。

 

「こっちだって負けないよ!光武F2のパワーを見せてあげる!」

 

「フン、アタシのノクテュルヌとしもべ達だって、強化されているのよ?アンタ達なんか瞬殺だわ。」

 

言うやナーデルはノクテュルヌに乗り込み、己の忠実なしもべの名を叫んだ。

 

「出てらっしゃい!蠍怪獣アンタレスⅡ!!」

 

すると奥の方の地面が割れ、見覚えのある長い尻尾の怪獣、アンタレスⅡが現れた。

 

「さあ、かかってらっしゃい!巴里華撃団!!」

 

ナーデルの命令と同時にこちらに迫るポーンの軍勢。

大神はナーデルに負けじと指示を飛ばした。

 

「よし、みんな行くぞ!生まれ変わった巴里華撃団の力、とくと見せてやれ!」

 

「「了解!!」」

 

六機の光武F2は、一斉に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャノワールは、人通りの多い通りが連なった場所に位置している。

言うなれば、シャノワールを中心に放射状に道があるという事だ。

大神はその片方ずつの延長線上にノクテュルヌとアンタレスⅡがいる事をいい事に、部隊を二つに分けて戦う事にした。

遠距離攻撃が得意な花火とエリカが、グリシーヌにカバーしてもらいながらアンタレスⅡを牽制し、その間に大神、ロベリア、コクリコの三人が一気にノクテュルヌを撃破するという作戦だ。

強力なポーンに対して部隊を分けるのは些か危険が伴うが、光武F2はその不安を払拭するに余りある力を見せ付けた。

「てやあっ!」

 

大神の気合いの一閃がポーンに炸裂した。

刹那、ポーンの身体はバターの如く真っ二つになった。

 

「こ、この力………、勝てる。これなら勝てるぞ!」

 

その想像を超える力に、大神までもが驚いた。

今まで隊員総出でかかって一体倒すのが精一杯だったが、この光武F2は違う。

ポーンを容易く、それもたった一撃で仕留めたのだ。

その力、以前の光武Fの比ではなかった。

 

「よう隊長、いい暴れっ振りじゃないか。」

 

隣でポーンを屠ったロベリアが声をかける。

彼女もまた、大神同様に大活躍していた。

 

「それにしてもロベリア、君の光武F2はやっぱりそんなデザインなんだね………。」

 

ふと、大神がロベリアに言った。

ロベリアの光武F2は緑をベースにしたものだが、その他は完全にロベリア好みのデザインにされていた。

カメラの下には鮫のように鋭い目と牙が描かれ、右腕の小手には赤い文字で何かが書いてあった。

 

「何だ?センス悪いってか?」

 

「い、いや………。何だか君のデザインは化け物みたいだなと………。」

 

正義を守る秘密部隊にはちょっとそぐわない感じのデザインに、正直な感想を述べる大神。

すると、ロベリアは得意げに笑った。

 

「まあね。アタシは化け物の方が性にあってるんだよ。」

 

確かに、と大神は思った。

元々ロベリアは正義の使者というイメージはないし、本人もそういうのは嫌いである。

おそらく彼女としては、相手も恐怖で腰を抜かす化け物をイメージしているのだろう。

今となっては、それもロベリアらしいと納得できてしまう。

 

「ほら隊長、グズグズしてるとあのチビに先越されちまうぞ?」

 

そんな事を考えている大神に、ロベリアが言った。

見ると、コクリコが屋根に登って上からポーン達を攻撃していた。

 

「なるほど………、コクリコに合わせた設計にしてあるのか。」

 

巴里華撃団は、結成から半年もない組織だ。

当然今のようなメンバー構成になる事など、誰も想像しなかっただろう。

そのため、光武Fは最終目標の六人という数こそ決まっていたが、それ以上の事は全くの白紙だった。

つまり当初から配属されていたエリカ、グリシーヌ、大神以外の三人の光武Fは、各々の武器を装備させただけの間に合わせだったのである。

しかし、今回の光武F2にリニューアルしたおかげで、コクリコは持ち前のアクロバティックな動きを最大限に発揮出来る。

その力、8階立てのマンションに軽くジャンプした程だ。

 

「よし、行くぞロベリア!」

 

「いちいち叫ぶなってのに………。」

 

意気揚々と進撃する大神の背中を、ロベリアはぼやきながら追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、グリシーヌ率いる別動隊はアンタレスⅡの前にそびえるロングソードなる迎撃兵器を破壊していた。

 

「グリシーヌさん、光武F2の調子は如何ですか?」

 

その内の一つを叩き潰したグリシーヌに、エリカが尋ねた。

 

「うむ、斧の振り応えが抜群に良い。これならポーンと言えども敵ではないな。」

 

慣れた手つきでバトルアクスを遊ばせ、グリシーヌが応えた。

以前は片手が盾を持っていたために右手一本で斧を使わざるを得ない状況にあったグリシーヌだったが、今回のリニューアルで更なる飛躍を遂げた。

盾を持つタイプではなく、左手に嵌めるタイプに変えたのだ。

これによって両腕で大きな斧が扱えるようになり、持ち前の攻撃力に磨きがかかった。

 

「しかし、エリカはどうした?何やら調子が悪そうだが………。」

 

ふと、グリシーヌが聞き返した。

花組が次々とポーンを沈黙させる中、エリカだけは際立って動きが鈍かった。

攻撃以前に、動く事しら難しいようにも見える。

 

「バ、バッチリですよ!私もエンジン全開です!」

 

「そうか………。だが、あまり無理をするなよ?」

 

平気と答えるエリカに、グリシーヌはそれ以上聞かなかったが、元気づけるように言った。

 

「エリカ、私とお前は最も古い仲間だ。こういう時にこそ、助け合っていこうではないか。」

 

「グリシーヌさん………。」

 

グリシーヌの言葉が意外だったのか、驚きの表情を見せるエリカ。

グリシーヌもまた、大神のような事を口にしたと思っていた。

しかし今は戦闘中だ。

あまり他の事に気を取られる訳にはいかなかった。

 

「花火、そちらはどうだ?」

 

「ええ、私は大丈夫よ。」

 

即答しつつ、花火は引き絞った矢を放つ。

矢は寸分狂わず奥にあるロングソードを射抜き、沈黙させた。

 

「あの距離を正確に狙うとは、流石だな。」

 

「いいえ、光武F2のおかげよ。集中力が増すように、防音効果があるみたい。」

 

花火の扱う弓は、他の武器と違って集中力を要する。

飛び道具である矢を使うため、必然的に遠い所にある標的を狙う事が多くなるからだ。

特に弓は、僅かでも狙いがズレるとまず標的には当たらない。

離れれば離れる程難しいのだ。

花火の光武F2におけるリニューアルはその点で、必要な集中力を雑音や他の事で邪魔されないよう防音効果のある素材や設備を充実させてある。

これにより、ただでさえ高い命中率がより確実なものになったのである。

 

「………さて、いよいよ本番という訳か。」

 

バトルアクスを手に、グリシーヌが仁王立ちになった。

その後ろでは、エリカと花火が武器を手に控えている。

 

「ガアアアアッ!」

 

アンタレスⅡが雄叫びを上げた。

それと同時に、長く尖った尻尾をグリシーヌ達目掛けて突き出してくる。

 

「いかん、避けるぞ!」

 

グリシーヌの声と共に、素早く尻尾を交わす光武F2。

しかし、エリカの機体だけがやけにもたついた。

 

「エリカっ!!」

 

それに気付いたグリシーヌが、エリカを庇うように立った。

同時にアンタレスⅡの巨大な尻尾が襲い掛かる。

 

「くっ………!」

 

何とかバトルアクスで尻尾を弾くグリシーヌ。

そこに、花火がすかさずフォローに回った。

 

「そこです!」

 

十二分に引き絞った弓から手を離す。

すると、矢は寸分違わずアンタレスⅡの左目に深々と突き刺さった。

 

「ガアアッ!?」

 

突然の反撃に怯み、アンタレスⅡが後ずさる。

そこに、グリシーヌが反撃に出た。

 

「てぇぇぇ………!!」

 

バトルアクスを両腕で大きく振りかぶり、勢い良く真下にたたき付ける。

すると、アンタレスⅡの尻尾の先が切り落とされた。

 

「エリカ、大丈夫か?」

 

油断なく身構えながら、グリシーヌが尋ねた。

すると、エリカは覚束ない様子で答えた。

 

「は、はい。思うように動いてくれなくて………。」

 

ここでようやく、エリカは正直に話した。

やはりグリシーヌの読み通り、エリカだけは光武F2を完全に使いこなせていなかったのである。

 

「仕方あるまい。ここは隊長が先にナーデルを倒す事を信じて………!」

 

そこまで言いかけ、グリシーヌが片足をついた。

 

「グリシーヌ!?」

 

慌てて駆け寄る花火。

すると、グリシーヌはバトルアクスを杖代わりに立ち上がった、

 

「平気だ。少し気合いを入れすぎたのかもしれん。」

 

「待ってて下さいグリシーヌさん。今回復しますから………。」

 

自分を庇ってグリシーヌは負傷したのだ。

せめて自分の手で返さなくては………。

しかし、光武F2はエリカの思いに応えてくれなかった。

 

「え………?」

 

何と、グリシーヌの機体が回復できない。

いくら霊力を集中しても、全く回復させる事ができないのである。

 

「ど、どうして………!?」

 

信じられない表情のエリカ。

だがその時、アンタレスⅡが再び迫って来た。

 

「ガアアアアッ!」

 

「くっ!エリカ、回復は後だ。私の後ろに下がれ。」

 

グリシーヌがエリカを庇うようにアンタレスⅡの前に立ちはだかった。

 

「グリシーヌさん!で、でも………!」

 

「安心しろ。そうやすやすとやられる私ではない。」

 

エリカを元気づけ、グリシーヌはバトルアクスを手に構えた。

 

「来い、怪獣!ここから先は進ません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、既にノクテュルヌと戦闘を開始していた大神達も、別動隊のピンチを察していた。

 

「コクリコ、グリシーヌ達を支援してくれ!」

 

「分かった!イチロー、気をつけて!」

 

大神の指示を受け、コクリコは屋根伝いにグリシーヌ達の方向へ走り出す。

すると、それに気付いたナーデルが妨害を仕掛けた。

 

「逃がさないわよ!!」

 

コクリコ目掛けて尻尾から電撃を発射させる。

しかし、それは不意に目の前に現れた緑色の光武F2によって阻止された。

 

「このアタシを差し置いて、好き勝手はさせないぜ?ナーデルちゃん。」

 

「ロベリア………!それならアンタから始末してやるわ!」

 

言うや、ナーデルは尻尾の電撃をロベリアに向けて発射した。

たちまちにしてロベリアの光武F2が電撃に包まれる。

 

「さあ、覚悟なさい!」

 

動けないものと思ってハサミを構えるナーデル。

しかし、不思議な事が起こった。

 

「なっ………!?」

 

何と、動けないはずのロベリアが、いとも容易くノクテュルヌの攻撃を防いで見せたのである。

 

「馬鹿が。言ったろ?パワーアップしたってよ。」

 

ロベリアがニヤついた表情でナーデルに言った。

光武F2のリニューアルは、攻撃面だけではない。

敵の攻撃に対する防御面も、またしかりなのである。

以前ナーデルやピトンの攻撃で光武Fが動きにくくなった事を受け、光武F2では霊子水晶を守る装甲盤を装備。

これにより、生半可な攻撃では光武F2の動きを封じる事は出来ないのである。

 

「そ、そんな………!聞いてないわよ!?」

 

「ついてないね、お前も。恨むんならあのイカの情報不足を恨みな。」

 

「馬鹿な………、公爵様が………。」

 

ナーデルは思わず狼狽した。

あのイーヴィルまで使ったのに、情報不足など有り得ない。

にも関わらず、ここまで追い詰められた状況。

という事は………。

 

「なら捨てゴマか?やっとお前らも怪人らしくなって来たじゃねぇか。」

 

嘲るようなロベリアの言葉が、全てを物語っていた。

カルマールの事、奴らの光武F2の完成を知っていたはず。

そして、その力を調べようというのだ。

自分をエサにして。

 

「嘘よ………、そんなの嘘よ!!」

 

ナーデルは必死にかぶりを振って否定した。

自分はカルマールに巴里華撃団全滅の刺客として送り込まれたのだ。

自分がモルモットなど決して有り得ない。

そう信じてノクテュルヌは再びロベリアに攻撃を仕掛ける。

だが、冷静さを欠いた隙だらけの攻撃が当たる程、ロベリアも甘くなかった。

 

「フン、だから馬鹿だってんだ。」

 

ハサミの一撃を難無く受け止め、もう一方の腕でノクテュルヌの身体を切り付ける。

 

「くっ………!」

 

「やれ、隊長!!」

 

ロベリアが叫んだ。

それを合図に、大神が稲妻を帯びた二刀を構える。

 

「狼虎滅却………、紫電一閃!!」

 

青く光る稲妻が、ロベリアの切り付けた跡に沿ってノクテュルヌを両断した。

 

「そ、そんな………、公爵様………。」

 

モルモットとなった自分の立場に信じられないまま、ナーデルはノクテュルヌ諸とも爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アンタレスⅡと戦っていたグリシーヌ達も徐々に戦況を覆しつつあった。

理由は簡単。

屋根伝いで救援に来た、コクリコのおかげだ。

 

「ネコネコ子ネコ、この子に決まり!マジーク・プティ・シャ!!」

 

火の輪に変えたバトンから、一斉に子ネコが現れた。

子ネコ達はアンタレスⅡを取り巻き、四方八方から引っ掻き回す。

そこに、再び花火が矢を放った。

 

「そこです!」

 

今度は右目を射抜いた。

完全に視界を奪われたアンタレスⅡは、凄まじい勢いで暴れ始める。

しかし、それこそグリシーヌ達の狙いだった。

 

「偉大なる海の守護者よ。今こそ、目を覚ませ!フュリー・ネプチューン!!」

 

真横に振るわれたバトルアクスから津波が現れ、アンタレスⅡを押し流す。

 

「ガアアッ!?」

 

更に、そこへ津波が集まって具現化した海の王、ネプチューンが姿を見せる。

ネプチューンは一点に怪獣を見据えると、銛を手に突進した。

 

「ガアアッ………!!」

 

心臓を一突きにされ、アンタレスⅡは断末魔の叫びと共に大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナーデルとアンタレスⅡを撃破し、巴里華撃団はシャノワール前に戻って来た。

 

「流石に凄い力だ。光武F2、伊達ではないな。」

 

「それだけではありませんわ。私達自身の力も、確実に強くなっています。」

 

新たに手にした力に拳を握るグリシーヌに、花火が答えた。

チームワークを契機として、巴里華撃団の力は飛躍的に上昇した。

その証拠に、今回は怪人やポーンだけでなく、アンタレスⅡまでも撃破している。

初めてティガの助けを借りずに怪獣を倒せた事に、巴里華撃団は確固たる自信をつけた。

 

「皆さん、凄いです。私なんか、動かすだけで手一杯だったのに………。」

 

唯一活躍出来なかったエリカが、大神達に賞賛を送った。

確かに役には立てなかったが、勝てただけでも結果オーライというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、カルマールの巴里華撃団壊滅のシナリオは、まだ終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、作戦司令室からの通信が始まりだった。

 

「待って下さい、大神さん!」

 

「すぐ近くに物凄い反応がありますぅ!」

 

「何!?」

 

メルとシーの連絡に警戒を強める大神。

すると、ノクテュルヌとアンタレスⅡを倒した辺りの空間が歪み、何かの形を作った。

その姿に、大神は見覚えがあった。

 

「あ、あれは………うわっ!!」

 

その名を口にしようとした時、凄まじい電撃にも似たショックが大神達を襲った。

 

「な、何だ!?光武F2が………!」

 

バトルアクスを構えようとしたグリシーヌが、驚きの声をあげた。

何故なら、ノクテュルヌの電撃にも堪えるはずの光武F2が動きを止めてしまったからだ。

 

「如何かな?我がしもべガゾートⅡによる、数倍に高められた電撃ショックの味は。」

 

「その声は!」

 

首を必死に動かし、声がした上空を見る。

そこには、太陽を遮る漆黒の翼が羽ばたいていた。

 

「マスク・ド・コルボー!」

 

「また会ったな、愚かなる者共よ。」

 

シルクハットに隠れたコルボーの目が、ギラリと光った。

 

「今の戦いで、その機体の調査は済んだ。………ささやかな犠牲を伴ってな。」

 

ささやかな犠牲。

おそらくはナーデルの事だろう。

コルボーは数分前から、上空で大神達の戦いの様子を観察していたのである。

 

「巴里華撃団の諸君、我が舞台を汚した罪、今こそ償ってもらおう。」

 

「グワーッ!!」

 

コルボーの言葉に呼応するように、ガゾートⅡが咆哮をあげた。

その瞬間、ガゾートⅡの身体からシャノワールを包むように夥しい電磁波が放射される。

 

「くそっ、あれか………!」

 

大神の読み通りだった。

光武F2が動かなくなってしまったのは、ガゾートⅡが放射する電磁波の影響だったのだ。

 

「フハハハハ、どうだ巴里華撃団。指一本動かす事も叶うまい。」

 

「くっ………!」

 

完全に敵の術中に嵌まり、大神は悔しげに歯を噛む。

すると、コルボーは意外な事を口にした。

 

「しかし、我は手出しをせん。貴様達を地獄に送る、素晴らしい役者がいるのでな。」

 

「何!?」

 

何と、コルボーは自身の手を汚さない事を口にしたのである。

よく見ると、周りにはポーンすら連れていない。

ならば一体、どうやってこちらを攻撃しようというのか。

そう疑問に思う大神達に声が聞こえて来たのは、その時だった。

 

 

 

「ボンジュール、ムッシュ大神。」

 

 

 

その人物に、大神達は驚きの余り言葉を失った。

何故なら、そこに立っていたのは余りによく知るあの人物だったからである。

 

「ピ、ピエール………!?」

 

そこにいたのは、教会でボランティアをしていたダイゴの親友、ピエール・タバルニエその人だった。

いつものように微笑んで見せるが、その笑顔は今までにないくらい冷たい。

大神達は、揃って状況が掴めずにいた。

何故ピエールがここにいるのか、何故避難しようともしないのか。

そして、何よりも何故左手が血で真っ赤に染まっているのか。

 

「………!ピエール、ここは危険だ。早く安全な所へ………!」

 

「………、フフフ………。」

 

我に還った大神が避難を促した時、ピエールが不意に笑った。

その笑い声に、大神は今までにない悍ましさを感じる。

まさか………。

大神の脳裏に一つの答えが浮かんだ時、ピエールがようやく口を開いた。

 

「安全な所?それなら僕が連れてってあげるよ。………アイツの待つ地獄にね。」

 

「何………!?」

 

いつもと違い低く怖い声でピエールが言った。

その声に、大神は想像した答えを確信する。

 

「フハハハハ!紹介しよう、巴里華撃団の諸君。我等が同胞にしてカルマール様一のしもべ、イーヴィル・タバルニエだ!」

 

それを口にしたのはコルボーだった。

ピエールは、カルマールの放った巴里殲滅のための刺客。

イーヴィル・タバルニエだったのである。

 

「どうだいコルボー。こういう演出も中々だろう?」

 

ピエール………、イーヴィルは真後ろにいる同胞に尋ねた。

 

「実に素晴らしい。長い間共に日々を送り、夢を語り、心を分けた友に裏切られて死んで行く………。これもまた傑作の悲劇だ。イーヴィル、君には演出の才能がある。」

 

「冗談じゃねぇ。ピエール、てめぇアタシらを騙してたのかよ!?」

 

ヌケヌケと言うイーヴィルとコルボーに、ロベリアが吠えた。

本当なら今すぐにでも爪の餌食にしたい所だが、動けないこの状況では睨みつける事しか出来ない。

 

「ピエール!君はきっとコルボーに操られているんだ。目を覚ませ!!」

 

一方の大神は、あくまでイーヴィルを信じて説得を試みる。

しかし、それが無駄である事は誰の目から見ても明らかだった。

 

「フフフ………、さあ、血まみれのパーティーの始まりだ。」

 

これから始まる狂乱の宴を心待ちにするかの如く楽しげに呟き、イーヴィルは真っ赤な左手を前に翳した。

すると、左手の中にある何かが反応して光を放つ。

その形に、エリカは見覚えがあった。

 

「あれ………、確かダイゴさんがお守りにしてた………。」

 

イーヴィルが血まみれの左手に掴んでいたもの。

それは、ダイゴがいつも肌身離さず持ち歩いていたスパークレンスだったのだ。

 

「あれ?知ってたんだ。そうだよ、これはスパークレンス。僕の友達の大事な大事な宝物さ。」

 

「スパークレンス………。」

 

初めて見る超古代の彫刻に、目を奪われる大神。

一方、ロベリアは何かに気付き、ドスの効いた声で尋ねた。

 

「おい。………てめぇダイゴをどうした?」

 

あの血まみれの腕に握られたスパークレンスが気になり、ある予想が脳裏を掠める。

すると、イーヴィルは軽い口調であっさりと言った。

 

「ああ、ダイゴ?どうだろうね?今頃セーヌ河で魚のエサにでもなってるんじゃない?」

 

「なっ、何だと!?」

 

「貴様、ダイゴに何をした!?」

 

グリシーヌが憤怒の形相で怒鳴った。

今この男はどれだけ恐ろしい事を口にしているか分かっているのか。

しかし、イーヴィルは丁寧に説明した。

 

「何、簡単な事だよ。ダイゴから無理矢理スパークレンスを貰ったのさ。………、腹の肉と一緒にね。」

 

凶悪な顔でイーヴィルが笑った。

 

「それで動かなくなっちゃったからね。セーヌ河に捨ててあげたんだ。心配しなくても、どうせ今頃魚のエサに………。」

 

「黙れっ!!」

 

グリシーヌが怒鳴り声を上げた。

その顔は、今までにない程の怒りを秘めている。

 

「無慈悲な人殺しめ………!!許してはおかんぞ!!」

 

気の弱い者なら逃げて行きそうな迫力でイーヴィルを睨むグリシーヌ。

しかし、イーヴィルはそれすら嘲笑で返した。

 

「アハハハハ………!!動けないくせに凄まれても、何も怖くないよ。」

 

「くっ………!!」

 

グリシーヌのみならず、巴里華撃団の誰もがイーヴィルを睨んだ。

もし動けたなら、真っ先に襲い掛かるだろう。

しかし、ガゾートⅡの電磁波の中では、それも叶わなかった。

 

「それに、僕は君達をダイゴの所に連れてってあげるんだよ?」

 

「何だと!?」

 

ダイゴの所に連れていく。

すなわち、殺すという事だ。

だが生身の身体でどうするというのか。

すると、イーヴィルはニヤリと笑ってスパークレンスを大きく反時計回りに回転させた。

刹那、コルボーを超える闇の力がイーヴィルに集まる。

 

「本物の地獄を見るがいい………、巴里華撃団!!」

 

高らかに叫ぶイーヴィルの身体を闇と同化し、スパークレンスが石床に転がる。

そして次の瞬間、巴里華撃団は信じられない光景を目の当たりにする事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中から、不気味な笑い声が聞こえて来た。

何事かと警戒する巴里華撃団。

そして闇が消え去り、不気味な笑い声の正体が、その姿を現した。

 

「な………!」

 

「ば、馬鹿な………!!」

 

「悪い冗談だぜ………。」

 

大神も、グリシーヌも、あのロベリアすら、俄かに信じる事が出来なかった。

青い目、野太い声、全身を包む黒いライン。

相違点はいくつか見受けられるが、その姿は見間違いでは決してなかった。

 

「………ティ………、ティガ………?」

 

誰かが呟いた。

巴里華撃団の前に現れたのは、ウルトラマンティガそっくりの黒い光の巨人………。

言わば、闇の巨人が立っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうして?」

 

突然の声に驚き、周りを見る。

しかし、周りは緑色の何かに覆われて何も見えない。

 

「どうしてそうまでして、君は光を求めるの?」

 

また声がした。

一体自分に何を語りかけているのか。

いや、それよりもここは一体何処なのだろうか。

 

「じゃあ君は、何のために戦うの?」

 

すると、突然景色がまばゆい光に包まれた。

 

「君の意志………、今一度示してごらん。」

 

光に包まれる中、声は確かにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「う………。」

 

次の瞬間、景色は全く別のものに変わっていた。

やたらと金が目立つ壁の模様。

一人分にしてはやたらとでかいベット。

その光景に、見覚えがあった。

確か………。

 

「………気がついたざますね?」

 

ああ、グリシーヌの屋敷だ。

そう確信できたのは、忘れもしないあのメイド長の声を聞いたからだ。

見ると、そこにはタレブーの姿があった。

 

「タレブーさん………。ここは?」

 

「お嬢様のお部屋ざます。傷は簡単ではあるざますが、治療はしてあるざます。」

 

タレブーに言われて、右の脇腹を見る。

そこには綺麗に包帯が巻かれ、応急処置が成されていた。

そしてその脇腹に、昨夜の出来事を思い出した。

 

「………、そうだ、エリカさんが………!」

 

すると、タレブーは無言で外を指差した。

その方向を見ると、黒い煙を上げる巴里の街が見えた。

いや、その様子には気付かなかったかもしれない。

何故なら、その街の真ん中に、醜悪な闇の波動を漂わせる闇の巨人がいたからである。

 

「そんな馬鹿な………!!何で………!!」

 

そう呟いて、ハッとして壁にかけられた服を見た。

黒い服の、ポケットの辺りに大きな穴があき、赤い血がこびりついている。

 

「やはり、貴方だったざますね………。」

 

ふと、タレブーが神妙な面持ちで口を開いた。

 

「以前屋敷に来た時から、貴方には何かを感じたざます。貴方が、お嬢様と共に巴里を守ってくれたざますね。」

 

「タレブーさん、知っていたの?」

 

すると、タレブーは重々しく頷いた。

 

「もちろんざます。メイドは仕える方の事を、何でも知っているものざます。」

 

そう言って、タレブーは窓を開けた。

途端に巴里を襲う激しい轟音が響いてくる。

 

「お嬢様の事、よろしくお願いするざます。」

 

その言葉で十分だった。

窓から外に降り立ち、仲間の下へと急ぐ。

その背中が見えなくなると、タレブーはじっとその先を見つめて言った。

 

「ここまで彼を運んでくれた事、感謝するざます。」

 

すると、彼女の背後で声がした。

 

「大した事ではありません。それに………。」

 

そう言って、タレブーの横に並んで窓の外の景色を見る。

 

「巴里の守護神の戦い振り、是非一度拝見したかったものですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の巨人と化したイーヴィルの激しい攻撃に、巴里華撃団は絶体絶命の状況にあった。

動けない自分達目掛けて光弾の雨が振ってくる。

大神達は、その攻撃を成す術のないまま耐え忍んでいた。

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

ボロボロの状態になりながらも大神が隊員達に声をかける。

すると、各々の空元気な返事が聞こえて来る中、エリカだけ反応がない事に大神は気がついた。

 

「エリカくん、どうした!?」

 

「………。」

 

呼べど叫べど返事はない。

すると、その様子を見下ろしていたコルボーが冷たく笑った。

 

「フハハハハ!哀れなる姫君よ、大事なものの命が消えて声も出せぬか。」

 

「………。」

 

エリカは沈黙したまま答えなかった。

ダイゴは死んだ。

それは、あの血まみれのスパークレンスが物語っている。

 

「………ダイゴさん………。」

 

今までダイゴと過ごした思い出が頭に掠め、気が付けば、エリカは泣いていた。

 

「フフフ………、そんなに奴が恋しいか?その男と夜を共にしておいて随分強欲だな。」

 

なじるようにイーヴィルが笑うが、エリカの耳には届いていない。

 

「可哀相にねぇ………。君から最初に殺してあげるよ。」

 

言うや、イーヴィルは胸のカラータイマーに手を当て、漆黒のエネルギーを具現化した槍を生み出した。

ダークレイランス………

ティガのハンドスラッシュと対を成す、イーヴィルの技だ。

 

「エリカくん!!」

 

大神が叫んだ。

しかし、誰も動けないこの状況では助けに行く事も出来ない。

いや、もし動けたとしても、エリカに避ける気力はなかっただろう。

 

「フフフ………、二人仲良く地獄に行くんだね。」

 

天使のごとき翼を持つ光武F2目掛け、イーヴィルが邪悪の槍を高々と振り上げる。

だが次の瞬間、それに新たな声が割って入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが………、君の正義なのか………?………ピエール………。」

 

 

 

 

 

 

 

「何………?」

 

「!?」

 

「え………?」

 

その声に、その場にいる全ての人物が驚愕した。

声がした真後ろの通りから、こちらに歩いて来る人影。

自分達の幻聴や虚栄でないのなら、それは信じられない人物だった。

 

「………ダイゴ………さん………。」

 

エリカがその名を口にした。

すると、ダイゴはそれに答えた。

 

「何とか、間に合ったみたいだね………。」

 

幻ではない。

先程イーヴィルが殺したと豪語したダイゴは、生きていたのである。

 

「ダイゴ………本当に………?」

 

「生きて………いたのか。」

 

嬉しさよりも、驚きに近い反応と共にダイゴを見る巴里華撃団。

すると、ややあってイーヴィルが冷たい笑みでダイゴを見下ろした。

 

「何だ。まだ生きてたのか、死に損ない。」

 

「………。」

 

ダイゴは、無言で変わり果てた親友を見上げた。

スパークレンスを使い、まがまがしき闇に転じたその姿に、ダイゴは穏やかな眼差しを向ける。

 

「ダイゴ。君は何故そうまでしてこいつらを庇う?愚かなる人間共を、何故守ろうとする?」

 

理解出来ないという表情で、イーヴィルは裏切り者を見下ろした。

すると、ダイゴは静かな口調で答えた。

 

「僕は………、光を継ぐ者だからだ。」

 

「フフフ、君らしい答えだな。そんなにそいつらがいいのか?この僕よりも。」

 

ふてぶてしい態度を崩さないイーヴィルに、ダイゴは沈黙を返す。

すると、イーヴィルはさらに醜悪な笑いをダイゴに突き付けた。

 

「その女はお前を捨てたんだぞ?僕はそれを教えてあげたって言うのに。ダイゴ、そこまで堕ちたのかい?」

 

「堕ちたのは君だ、ピエール。」

 

ダイゴの表情が、僅かに哀れみに変わった。

 

「君が何と言おうと、僕はエリカさんを守る。」

 

「馬鹿な。何故そうまでしてその女を守る?」

 

イーヴィルが尋ねた。

すると、ダイゴは目を閉じて答えた。

 

「僕に………、笑顔をくれた人だから………。」

 

「………ダイゴさん………。」

 

初めて会ったあの日、エリカは初対面の自分に、まばゆい光のような笑顔を見せてくれた。

そして、孤独という闇の中から自分を救ってくれた。

自分は一人じゃない。

そう自覚できた時の喜びは、今でもハッキリと覚えている。

 

「だから、エリカさんが大神さんと二人で楽しそうにしてると、苦しかった。自分がまた一人になるんじゃないかって、怖かった。」

 

今まで心に押し止めていた思いを、切々と語るダイゴ。

その俯いた顔に、何かが光った。

 

「捨てられたかもしれない。元々僕にそんな意識なかったかもしれない。でもね、ピエール………。」

 

ふと、ダイゴは顔を上げた。

その瞳には、涙が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも僕は………、エリカさんが………、好きなんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

「………、ダイゴさん………!!」

 

その言葉に驚いたのは、エリカだった。

まさかダイゴが、自分にそんな感情を抱いていたとは思いも寄らない事だった。

しかし今思い出せば、これまでのダイゴの行動の数々はそれにピタリと当て嵌まる。

大神に冷たい態度を取っていたのは、ヤキモチを焼いていたから。

そう考えれば、あの日途中でサッカーを抜けた事も納得がいく。

 

「我慢しようともした。わざと距離を置いて、忘れようともした。でも、それでも好きなんだ………。」

 

ダイゴは、エリカに聞かれる事を承知で打ち明けた。

エリカが自分ではなく、大神に惹かれている事は分かっている。

しかし、この想いを抑える事だけは、どうしても出来なかった。

 

「………だから、僕は戦うんだ。大切なものを守るために………。」

 

ダイゴはそう告げて、石床に転がっている光の証、スパークレンスを手に取った。

刹那、イーヴィルと互角の強い光がダイゴの下に集まる。

その暖かいような光に、大神達は見覚えがあった。

 

「ダイゴ………、まさか君は………。」

 

ハッとした表情で呟く大神。

その視線を感じながら、ダイゴはスパークレンスを大きく時計回りに回転させ、空に高々と掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティガーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

魂の叫びと共に、巨大な光の柱がダイゴの身体を包み込んだ。

そして、大神達の前に信じられない光景が飛び込んで来た。

 

「こ、これは………!!」

 

大神だけではない。

グリシーヌも、花火も、コクリコも、ロベリアも、コルボーやイーヴィルも、そしてエリカも………。

そこにいる全ての者が、その姿に目を離せなかった。

太陽の光を受け、鮮やかに光るブレスターと額のクリスタル。

赤・紫・銀の体色と胸に輝く空色のカラータイマー。

その光を具現化したかのような姿を、知らない者など巴里にはいない。

 

「ウルトラマン………ティガ………。」

 

大神がその名を呟いた。

そこに立っているのは、今まで幾度となく自分達の窮地を救ってくれた巴里の守護神。

ウルトラマンティガだったのだ。

 

「そんな………、ダイゴさんが………。」

 

驚愕の事実に、エリカは目を見張ると同時に、前にダイゴと二人で地下のカタコンベに潜入した時の事を思い出した。

あの時、地下に眠っていた巨人の石像。

それこそティガであり、それを受け継いだダイゴこそ、今まで自分達を守り続けていたウルトラマンティガだったのである。

 

「チャッ!」

 

今までと変わらぬ姿でイーヴィルと対峙するティガ。

すると、イーヴィルは凄絶な笑みでティガを見返した。

 

「フフフ、そうか………。ダイゴ、あくまでも僕と戦うというんだね?親友の僕と………。」

 

「大切なものを守るために戦うと言ったはずだ。そのためなら、僕は戦う。たとえピエール、君が相手でも!!」

 

初めてティガが言葉を発した。

その幼さの残る口調は、間違いなくダイゴそのものだ。

 

「フフフ………、いいだろう。ダイゴ!まずは君から殺してやるよ!!」

 

言うや、イーヴィルがティガ目掛けて襲い掛かって来た。

ティガもイーヴィルを見据えて飛び出す。

 

「ジアッ!」

 

「チャッ!」

 

二つの拳が激しくぶつかる。

シャノワールを舞台に、死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イーヴィルティガ。

その邪悪な野心故に闇に転じたもう一人の巨人。

巨人同士の戦いは、これまでにない激しいものとなった。

対極に位置する光と闇。

互角の力は何度もぶつかり合い、火花が散り、轟音が轟く。

その余りの激しさに、大神達はただ見ている事しか出来なかった。

パワー、スピード共に互角。

しかし、程なくして僅かにティガの方が圧され始めた。

昨夜イーヴィルに受けた右脇腹のハンデと、かつての親友を相手にした事による躊躇いがあったからである。

 

「ジアッ!」

 

イーヴィルが顔面目掛けてパンチを打ち込んで来た。

ティガはそれを片腕で止め、反対の腕でパンチを放つ。

しかし、イーヴィルはそれを難無く掴み、ティガの脇腹を蹴りつけた。

 

「ジュワッ!?」

 

激しい痛みに苦悶し、ティガの動きが一瞬止まる。

すると、イーヴィルはティガの首を掴み、勢い良く投げ飛ばした。

 

「ウリャアッ!!」

 

更に追い撃ちをかけるかの如く、イーヴィルは先程蹴りつけたティガの脇腹を容赦なく踏みにじった。

 

「ジュワッ………!?」

 

「ハハハハハ………!!」

 

脇腹を押さえて痛みに耐えるティガ。

イーヴィルはその様子を野太い声で嘲笑いながら、更にティガの首を両手で掴み、物凄い力で締め上げて来た。

その弱みにつけ込んだ陰惨な戦い方は、彼の本来の残虐さを十二分に表している。

しかし、ティガもその程度ではやられなかった。

 

「ハッ!」

 

イーヴィルが油断した一瞬を突き、巴投げで後ろに蹴飛ばす。

そしてイーヴィルの手が離れるや、素早く起き上がって間合いを取った。

 

「フフフ………、その身体でやるじゃないか。君も最早化け物だね。」

 

不敵な笑いと共に、イーヴィルは両手を真横に水平に伸ばした。

すると、その腕に沿って闇のエネルギーが黒い筋を生み出す。

 

「ハッ!」

 

それを見たティガも、両手を胸の前で合わせた。

そして、イーヴィルが両手をゆっくり狭めると同時に、両手を水平に伸ばして光の筋を生み出し、エネルギーを集約する。

その様子は、まるで相手の動きを逆再生しているかのようだ。

 

「ジアッ!」

 

「ハッ!」

 

そして、同時に腕をL字と逆L字に組み、双方から光線が発射された。

 

「ヌゥゥゥ………!!」

 

「ハァァァ………!!」」

 

ぶつかり合う光と闇。

それはしばらく均衡し、やがて相殺されて消え失せた。

 

「オォッ!?」

 

「ジュワッ!?」

 

その衝撃で、二人の巨人は真後ろに倒れる。

最強の必殺技、ゼペリオン光線の撃ち合いの衝撃は、それ程凄まじいものだった。

 

「フフフ………!」

 

エネルギー消耗をものともせず立ち上がるイーヴィル。

しかしその時、その胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。

 

「オォッ!?」

 

イーヴィルは驚いた様子でカラータイマーを見た。

一方、起き上がったティガのカラータイマーも同じだった。

 

「チャッ………。」

 

同じタイミングで点滅を始めたカラータイマー。

先程の撃ち合いは、それ程までにエネルギー消耗が激しいものだったのである。

 

「ヌォォォッ!!」

 

それを認めないとばかりに、イーヴィルが吠えた。

ティガもそれに気付き、構え直す。

 

「チャッ!」

 

「ヌゥッ!!」

 

イーヴィルはティガを一点に見据え、大地を蹴って跳び上がった。

それを見て、ティガも地面を跳躍する。

そして、蹴りの姿勢で突っ込んでくるイーヴィルに、猛然とチョップで迎え撃った。

 

「ジアァッ!!」

 

「チャーッ!!」

 

二つの影が交わり、空気の擦れる音がした。

そして、二人の巨人は同時に大地に足をつく。

 

「………。」

 

「………。」

 

まるで西部の決闘のような沈黙の中、一陣の風が戦場を吹き抜ける。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュワッ………!」

 

その片方が、地に膝をついた。

それは、ティガだった。

 

「ダイゴさん!!」

 

「フフフ………!!」

 

エリカが叫ぶ中、勝ち誇った様子で笑うイーヴィル。

しかし次の瞬間、ティガにトドメを刺そうとした彼の動きが止まった。

 

「オ………、オォッ!?」

 

苦しむと言うより、驚いた声で倒れるイーヴィル。

すると、それに気付いたティガが徐に立ち上がった。

あの一瞬、攻撃をキメたのはティガだった。

膝をついたのは、攻撃のショックで脇腹の痛みが走ったからである。

 

「ば、馬鹿な………!ティガの力を以ってしても………!!」

 

イーヴィルは目の前の状況が信じられず、再びゼペリオン光線を発射しようと両手を伸ばす。

しかし、エネルギーが底をついた今の状態では、再びゼペリオン光線を撃つ事など出来なかった。

 

「チャッ!」

 

そのイーヴィルを倒すべく、両手を胸の前で合わせるティガ。

 

だがその寸前、イーヴィルの背後に何かの影が現れた。

 

「ヌゥ………!?」

 

目の前に伸びる不自然な影に、イーヴィルが恐る恐る振り返る。

そこには、凶悪な面構えのガゾートⅡが、イーヴィルをジロリと見下ろしていた。

そして………、

 

「グワーッ!!」

 

咆哮と共に口を大きく開け、ガゾートⅡはイーヴィルに頭から噛み付いて来た。

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「ひ、酷い………!!」

 

瞬く間に頭から食らい尽くされるイーヴィル。

その余りに残酷な光景に、ティガと大神達は絶句した。

その中、一人高らかに笑う者がいた。

誰よりも悲劇を愛する者、マスク・ド・コルボーである。

 

「素晴らしき我が同胞よ。楽しい舞台を見せてくれた事、礼をいう。後はこのマスク・ド・コルボーに任せてくれたまえ。」

 

既に足だけになった同胞に、コルボーは芝居かかった口調で言った。

 

「実に美しい悲劇だ………。かりそめの光から友を救い出そうと迷走し、その友の手によって死んでいく哀れな勇者。」

 

ティガを悪人の如くまくし立て、コルボーは高らかに宣言した。

 

「我等が勇者に捧げよう!無慈悲なる裏切り者の首を!友を惑わしたる愚か者達の最期を!!」

 

その言葉に、ティガは怒りの余り拳を震わせた。

 

「ンゥゥゥ………、チャッ!!」

 

「哀れなる裏切り者よ。貴様に安らかな床は似合わない。この血と鋼に満ちた狂乱の地に果てるがいい。」

 

ティガの神経を逆なでするように言って、コルボーは己の忠実な部下に命令を下した。

 

「行け、変形怪獣ガゾートⅡ!かの裏切り者を喰らい尽くすがいい!!」

 

「グワーッ!!」

 

ガゾートⅡは凄まじい咆哮を上げ、ティガ目掛けて突進して来た。

 

「チャッ!」

 

ティガも傷が癒えぬまま、怪獣に応戦する。

しかしいくらティガと言えども、力をほぼ使い果たした今の状態では、まともな戦いにならなかった。

 

「ジュワッ!?」

 

ガゾートⅡのタックルを受け、ティガは真後ろの建物を巻き込んで倒れる。

 

フハハハハ!ぶざまだな、ウルトラマンティガ。そうして地面にはいつくばる姿が、裏切り者には相応しい。」

 

傷付いたティガの様子に、満足げに笑うコルボー。

そして、更に冷酷な命令をガゾートⅡに与えた。

 

「よし、ガゾートⅡよ。あの哀れな裏切り者に、かの仲間の死に様を存分に見せてやれ。」

 

「グワーッ!!」

 

命令を受け、ガゾートⅡは標的をティガから未だ動く事の叶わない巴里華撃団に変え、にじり寄った。

動きの鈍ったティガの眼前で巴里華撃団を全滅させようというのである。

 

「く、くそ………!!」

 

逃げようにも応戦しようにも、身動きが取れなければどうする事も出来ない。

その間にも、ガゾートⅡは殺意の孕んだ目で大神達を見下ろす。

 

「フハハハハ!ガゾートⅡ、まずは裏切り者の心を惑わす、あの哀れな姫君を狙え!!」

 

「チャッ………!!」

 

ティガは直感した。

コルボーの示した姫君。

それが、エリカである事に。

 

「グワーッ!!」

 

最初の標的をエリカに決め、ガゾートⅡは全身の電気をスパークさせる。

 

「エリカくん!」

 

大神が助けに行こうとするが、光武F2は沈黙したまま動かない。

 

「(エリカさん………!!)」

 

ティガは一縷の望みをかけ、傷付いた身体に鞭を打ち立ち上がった。

そして………、

 

「グワーッ!!」

 

「チャーッ!!」

 

ガゾートⅡ目掛けて飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼前に迫った抜き身の殺意に、エリカは思わず瞳を閉じた。

だが、その身に衝撃波は走らない。

恐怖を押し殺し、ゆっくりと瞼を開く。

 

「……!!」

 

モニターの光景に、絶句した。

ガゾートⅡが牙を剥く一瞬、ティガはエリカを守ったのだ。

己の背を代償に。

 

「ダ、ダイゴさん!!」

 

思わず叫ぶ。

だが己が分身は、黙したまま動かない。

今のエリカに光武F2は、最早友の死を突きつける牢獄だった。

 

「いや……、やめて……。もうやめてよぉ!!」

 

衝撃が断続的なものに変わった。

怪獣が巨人を引きはがそうと食らいついているのだろう。

ボロボロに傷つく幼馴染は、それでも手を離さない。

その姿が、涙で滲んだ。

 

「フハハハハ!素晴らしい幕だ!裏切り者は醜く死に、隠れ家諸とも炎に包まれる。さあ、最期の命の煌めきを見せておくれ!!」

 

二人を嘲るように、コルボーが笑った。

怪獣は咆哮と共に殺意の鎌を振り上げる。

最早立つ事すらままならない状況の中、エリカの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 

「神様、お願いです………。私は、今までみんなに迷惑ばかりかけて来ました。でも、今だけ………、一つだけお願いを聞いて下さい!」

 

「ジュワッ……!」

 

「ダイゴさんを………、ダイゴさんを助けて………!! ダイゴさあああぁぁぁんっ!!」

 

エリカの涙が慟哭に変わる。

その時、またも信じられない事が起こった。

エリカの光武F2から、凄まじい閃光がほとばしったのである。

その眩しさと神々しさは、ティガすら上回る程である。

 

「な、何事………!!」

 

今度はコルボーが驚く番だった。

何とティガを含め、大神達の傷が癒された。

それだけではない。

光に弱いガゾートⅡにダメージを与え、電磁波を消し去ったのである。

 

「グワァッ!?」

 

閃光に思わずたじろぐガゾートⅡ。

その奥に、翼を羽ばたかせる天使の姿を彼らは見た。

 

「エ、エリカさん………?」

 

ティガが恐る恐る尋ねる。

すると、厳かな返事が返って来た。

 

「さあ、お立ちなさい。光の使者、貴方には成すべき事があるはず………。」

 

「エリカ………、何か雰囲気が違うね………。」

 

コクリコが率直な意見を口にした。

おそらく眠っていた霊力を覚醒させたためだろう。

いつもの陽気なエリカではなく、神をも想起させる美しき天使がそこにいた。

 

「小癪な真似を………!いでよポーン共!裏切り者諸とも皆殺しにしてしまえ!」

 

またも舞台を邪魔されたからか、コルボーが吠えた。

すると、コルボーやガゾートⅡの周りにおよそ十数体のポーンが姿を現した。

 

「大神さん、ガゾートⅡは僕に任せてコルボーを………!!」

 

エリカの霊力を受け、立ち上がったティガが叫ぶ。

胸のカラータイマーは赤いままだが、戦えなくはない。

 

「よし、みんな行くぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

完全復活した大神が二刀を構えて叫ぶ。

隊員達は、溢れる気迫を以って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

コルボーとガゾートⅡ、更に召喚されたポーンの軍勢を相手に、シャノワール前一帯は再び戦場と化した。

覚醒したエリカと復活したティガを交えた戦闘は、ナーデルとの戦闘時以上に激しいものとなった。

そんな中、コルボーは蒸気獣セレナードを駆り、上空から襲い掛かって来た。

 

「愚かなる者共よ!早々に我の前に屍を曝せ!」

 

漆黒の翼を羽ばたかせ、身を切り裂く旋風を巻き起こすコルボー。

そこに、ある人物が立ちはだかった。

花火である。

 

「コルボーさん………、ナーデルさんもイーヴィルさんも、仲間だったのでしょう?何故あのような………。」

 

弓に矢を番えながら、花火が問う。

すると、コルボーは平然と言ってのけた。

 

「これはいつかのマドモアゼル。貴女も我の価値観というものが、分かっていただけませんかな?」

 

「はい………、残念ながら。」

 

律儀にそう答え、花火は矢を放った。

瞬速とも思える速さで矢はコルボーに殺到するが、コルボーは難無く横に避けてそれをかわす。

 

「マドモアゼル………、貴女は我が舞台に幕を降ろすには優し過ぎる。」

 

言うや、コルボーは己の魔力を最大限に集中させた。

すると、花火とコルボーを中心に、一部分が闇に包まれる。

 

「それともマドモアゼル………、この我を貴女が殺すというのか?」

 

暗闇に溶け込み、花火を挑発するコルボー。

それは闇を反響し、光武F2を包む。

コルボーはこれを利用し、自分の声を闇の中で反響させ、花火の集中力を低下させようと企んだのである。

しかし、これがコルボーの敗因だった。

 

「北大路花火、二の舞………、御覚悟!」

 

花火は目を閉じ、静かに弓を引き絞る。

そして、カッと目を見開き、霊力を込めた矢を放った。

 

「落花啼鳥!!」

 

刹那、矢の軌道に沿って霊力が巨大な鳥となって現れた。

鳥は大きな翼を羽ばたかせ、羽根を四方八方に飛ばす。

すると、羽根は闇を照らす光となってセレナードを包み込んだ。

 

「な、何………!?」

 

全身を閃光に貫かれ、セレナードは全身から煙をあげる。

直後、コルボーは目の前でこちらに矢を十二分に引き絞る花火の姿が見えた。

 

「ごきげんよう………。」

 

その一言と共に、花火が矢を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ガゾートⅡとティガの戦いも、終盤を迎えようとしていた。

 

「グワーッ!!」

 

「ハッ!」

 

鋭い鈎爪となった両腕をかわし、腹部に強烈なパンチを叩き込む。

 

「グワッ!?」

 

その一撃に怯み、ガゾートⅡは数歩後ろへ後退した。

本来ガゾートⅡは、コルボーの闇の力を素にして生まれた怪獣だ。

その身体は完全なものではなく、攻撃される瞬間に相手の部位を吸収する事も出来る。

しかし、今度ばかりはそうもいかなかった。

モルモットとなったノクテュルヌに加えてイーヴィルティガを吸収したために身体が飽和状態となり、身体が実体により近くなってしまったのである。

 

「ハァァァ………、チャッ!!」

 

その一瞬の隙を突き、ティガは胸のカラータイマーに光を圧縮し、タイマーフラッシュスペシャルを放った。

目が眩まんばかりの閃光が、カラータイマーから放射される。

 

「グワァーッ!!」

 

しかし、ティガの予想に反し、ガゾートⅡは光に苦しんでこそいるものの、完全な決定打にはならなかった。

既にエネルギーはほぼ無くなっている。

次で決められなければ、それはティガの敗北を意味していた。

 

「(負けるもんか………!エリカさんは、僕が守るんだ………!!)」

 

決意の闘志を燃え上がらせ、ティガは残り少ないエネルギーで、ゼペリオン光線を発射した。

 

「ハッ!!」

 

渾身の力を込めた一撃が、ガゾートⅡの胸倉を直撃した。

タイマーフラッシュスペシャルの直後だった事もあり、ガゾートⅡは更に激しく苦しむ。

 

「チャァァァッ!!」

 

ティガは更に、体内に残る全てのエネルギーをゼペリオン光線に注ぎ込んだ。

その一瞬、白いゼペリオン光線が鮮やかな金色に変わる。

 

「グワァァァッ………!!」

 

金色のまばゆい光線に包まれたその瞬間、ガゾートⅡは悍ましい断末魔と共に仰向けに倒れ、大爆発した。

 

「チャッ………。」

 

そして、ティガもまた地面に膝をつき、静かに消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダイゴさん、気がつきましたか?」

 

目を覚ましたダイゴの視界に最初に飛び込んで来たのは、心配そうに自分を見つめるエリカの顔だった。

 

「エリカさん………。」

 

見ると、周りには同様に心配そうな表情でダイゴを覗き込む大神達の姿もある。

 

「ごめんなさい………。私、ダイゴさんの思いに気付いてあげられなくて………。」

 

あの時、ダイゴの想いの全てをエリカは知った。

大神に夢中になる余り、ダイゴを茅の外に置いていた自分を、エリカは恥じた。

 

「思いもしませんでした………。ダイゴさんが私の事………、そんな風に思ってくれていたなんて………。」

 

「エリカさん………、謝るのは僕の方だよ。」

 

辛い表情を見せるエリカに、ダイゴは言った。自分が勝手に彼女を好きになったのだ。

エリカは何も悪くない。

自分の事で彼女が謝る事などないと、ダイゴは思っていた。

 

「僕の方こそ、勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して………、エリカさんや大神さんを傷つけた………。謝るのは、僕の方だ………。」

 

「ダイゴさん………。」

 

どう言葉をかけていいか分からず、エリカは口ごもる。

しかし、何かを決心したように再び口を開いた。

 

「ダイゴさん………。私、驚きました。」

 

「え?」

 

「だって、目の前で好きだなんて言われたら………。本当にビックリしたんですよ?」

 

その時のダイゴの様子を思い出したのか、エリカは顔を赤くした。

それを見て、ダイゴの顔も赤く染まる。

 

「………でも、嬉しかったです。私を一人の女性として好きと言ってくれて………。」

 

「エリカさん………。」

 

「それで、その………、ま、まだダイゴさんの事、一人の男性として見た事がないので………。」

 

恥ずかしがっているのか、いつになく緊張した様子のエリカ。

しかし、目を閉じ、気持ちを落ち着かせた様子で続けた。

 

「で、ですから………、私、今すぐは答えを出せません。なので、それまで待っててもらえませんか………?必ず……答えを出しますから……だから……。」

 

その言葉に、ダイゴは一瞬時が止まったような感覚を覚えた。

エリカは答えを出した訳ではない。

しかし、自分の気持ちを知った上で、自分を一人の男性として好きになりたいと言ったのだ。

半ば諦めかけていたダイゴにとって、それがどんなに嬉しい事か。

 

「エリカさん………、その言葉だけで十分だよ………!」

 

ダイゴは、胸に込み上げる熱いものを隠そうともせずに答えた。

今すぐ答えを出す必要なんかない。

これから自分達は、長い時間一緒になるのだから………。

ダイゴは、長い間自分の心の奥底に巣くっていた闇が、瞬く間に消えていくのを自覚した。

それは、やはり目の前の天使の見せる、輝かしい笑顔のおかげだったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうだい、ジャン班長。」

 

大神達がシャノワール前の戦闘に勝利した頃、作戦司令室はいつになく緊張した空気に包まれていた。

グラン・マの隣では、メルとシーに手伝ってもらいながら、ジャンが何やら大掛かりな機械を操作している。

 

「よし、準備完了だ。始めるぜ。」

 

ジャンが機械のスイッチを作動させた。

すると、作戦司令室のメインモニターに巴里のとある場所が写る。

 

「なるほど………、ノートルダム寺院か。」

 

その場所を見て、グラン・マが納得した表情で呟いた。

あれからグラン・マ達は、紅蘭が光武F2と共にプレゼントしてくれた高性能蒸気レーダーで、カルマールの隠れ場所を探していたのである。

カルマールは他の怪人より飛び抜けて魔力が高い。

こちらはそれを逆手にとって、魔力の反応で怪人の本拠地を探しだそうと考えたのである。

そして、浮上したのがノートルダム寺院だった。

四方を水に囲まれたセーヌ河に浮かぶシテ島にあるそれは、正しく天然の要塞。

隠れて何かを企むには絶好のポイントだった。

 

「………いよいよ、決戦だね。」

 

神妙な面持ちでグラン・マが呟いた。

巴里華撃団と謎の怪人達との戦い。

その最後の戦いが、始まろうとしていた。

 

<続く>




《次回予告》

避難命令が発令され、決戦の時が近づいて来た。

敵はノートルダムにあり!

ムッシュ、ダイゴ、覚悟を決めな!

次回、サクラ大戦3!

《拝啓ウルトラマン様》

愛の御旗のもとに………

貴方ですね?我が光を受け継ぐ者は………
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