しかも灰色デーモン多すぎ…
オーガが神殿に接近しているとの情報を得た俺達はアリサの遠見の術で偵察を行っていた。
遠見の術とは水をお盆など平らな器に入れ魔法で水の水面に遠くの映像を写すのだ。
集中力を使うらしく長時間の使用や連発はできないらしい。 それを抜いてもかなり使い勝手の良い術だ。
「いました!!」
盆に向かって術をかけていたアリサが反応する。 水面に写し出されたのは紫色の体をした巨大なオーガだった。 全長は三メートルは下らないだろう。森の木々を強引に薙ぎ倒しながらゆっくりと、だが確実にこちらに近付いて来た。
「正面からやりあうのは無理そうですね。」
戦術教官のケイティが言うのだ。間違いはないだろう。 そこで、新しく仲間になったキャリーが提案してきた。
「では私が背後から奇襲をかけてオーガの機動力を奪いましょう。 この子の機動力を持ってすれば一撃を当てて離脱する事ぐらい訳ありません!」
「そういう方法も有るか… 仲間が一人増えるだけで作戦に幅が出るな。」
なら更に召喚すればいいと思うはずだ。 ところが世の中そんなに甘くない。一度召喚に使った神聖結晶は力を失い壊れてしまう。 用は使いきりなのだ。
「オーガが脅威なのはあの腕力だと思います。 キャリーさんがオーガの機動力を奪った後、私と王子でオーガの腕の腱を狙いましょう。その後に皆の一斉攻撃で仕留めます。」
まもなく戦いの火蓋は落とされる。
全員が配置に付き数分後ようやくオーガが現れた。手にはどこで引き抜いたのか、大木を棍棒代わりに持っている。 あれの打撃を食らえば間違いなく行動不能、下手をすれば一撃で死ぬ。 そうならないためにも一撃で奴の腱を落とす必要がある。
息を殺して森の木の裏に隠れる。汗が額を流れ落ち、オーガが近付いてくる。
「あ、あれ…」
さっきまで何とも無かったはずなのに体が急に震え始めた。 息が浅くなり、視界もぐらぐらする。 怖い。初めて死ぬかもしれないという考えが脳裏に浮かんでしまった。 怖い怖い怖い怖い。
王国を取り戻すとか平和を取り戻すとか言いながらオーガ一匹を相手にしただけでこの様だ。
どんどんとネガティブな方向に思考が行ってしまう。
「はあっ…はあっ…はあっ…はあっ…」
過呼吸気味になり始め、恐怖のせいで立っているのも辛くなり始めた。
そのとき、
「大丈夫ですよ王子。 皆がついています。」
誰かに抱きしめられた。 その優しい声の主は、
「け、ケイティ…」
他でもないケイティだった。
「確かにオーガは恐ろしい相手です。 でも我々は一人ではありません。頼もしい仲間がいるのですよ。」
ケイティは抱きしめながら頭を撫でてくれる。
それから2、3分後。
「ごめんケイティ。 ありがとう。」
「いえ、良いんですよ。」
笑いながらケイティが答える。 ケイティもここまでしてくれたんだ。 男の俺も覚悟を見せないとな。
丁度そのタイミングだった。 ヒュロロロローとかん高い音が辺りに響いた。 これは陽動と合図を兼ねたソーマちゃんの鳴鏑矢!!
「はっ!!」
その直後オーガの背後からキャリーが一騎駆けを始めた。
「貰いました!!」
すれ違い様にオーガの足を手にした槍で抉る。
「グォォォォォオ!!」
悲鳴を上げながらオーガが倒れた、今だ!!
「行こうケイティ!!」
オレは右に、ケイティは左に走る。チャンスはこの一瞬、次はない。
「いっけぇぇぇぇぇー!!」
叫びながら大上段から一気に振り切る。
斬!!
「グォォォォォオ!!」
再びオーガの叫び声が響き、同時に辺りに赤い雨が降り注ぐ。 今の一撃は腱どころか腕の半分を斬ることに成功したのだ。
その場を離脱しつつ、ケイティの方を見る。彼女はレイピアから砦にあった直剣に持ち替えており、あちらも無事腱を切りオーガの無力化に成功したらしい。
その直後、再び鳴鏑矢がなる。 音を聞くと、付近に隠れていたセシリーとキュテリ。 先程一騎駆けをしたキャリーも走ってくる。
「行くぞ!!」
キュテリとセシリーはオーガの首へ切りかかり、俺とキャリーとケイティは心臓を狙い突き刺す。
「……!!」
声にならない悲鳴をあげた後オーガは二度と動くことは無かった。
「勝ったのか?」
今一実感の湧かない俺にケイティが声をかけてくる。
「やりましたね王子。」
やったんだ。俺達はオーガを倒したんだ。 そのことであまりに嬉しくなり隣にいたケイティに抱きついてしまう。
「え、お、お、王子!?」
顔を真っ赤にしながらあたふたしているが気にしない。 さっきのお返しだ。
そこへキュテリやセシリー、アンナも抱きついてくる。
例えオーガ一匹とはいえ大型の魔物を退治できたのだから今くらいははしゃいでもいいだろう。
そんなテンションもあり倒したオーガの持っていた袋から青く光る石が落ちたことに気がついたのは、暫く後だった。