闘うのに大した理由は要らないよね。
3人が教室に戻ってくると、茶髪の男子が直毅に向かって行く。
「聞いたぞ直毅!お前また告白されてまたフったらしいじゃねぇか!」
「うるせぇなぁ剣人。別段騒ぐことでもないだろうが。」
直毅は面倒臭さそうに、突っかかってきたクラスメートであり珍しい友人の小岩 剣人をあしらう。
色恋沙汰に敏感な、典型的なチャラい見た目の男なのに清楚な子ばかり狙うという、何とも無謀な男ではあるが、直毅と付き合える辺り気持ちのいい男でもある。
「うるせぇ!今度の子は俺も狙ってたんだよ!それなのに、それなのに、お前は一体何なんだよ!ロリコンか⁉︎熟女マニアか⁉︎はっ、まさかお前ホグェ⁉︎」
「馬鹿も休み休み言え。」
直毅はボディブローで剣人をノックダウンし、窓際の後ろから2番目の自分の席に座る。
背もたれに体重をかけて椅子を斜めにすると、後ろの席で本を読んでいる、黒髪で眼鏡をかけた童顔の男子と目が合う。
「…確かに、騒ぎ立てることでもないよ。直毅が誰かと付き合えば騒ぐだろうけど。」
「流石、やっぱり拓見は話が分かるな。剣人もこれくらい話が分かれば楽なんだが。」
眼鏡の位置を直しながら答える一之瀬 拓見もまた、直毅の友人である。
所謂優等生である彼だが、誰にでも分け隔てなく接する姿勢で、基本的に落ちこぼれが集まるJ組でも上手く立ち回っている。
「今度は何を読んでるんだ?拓見。」
「テリー・ホワイトの『真夜中の相棒』を。」
「あぁ、それ読んだ事があるな。拓見はジョニーに似てる気もするな。」
「…なら直毅はマックだね。」
男同士の同性愛の内容を含んだ話をしている間、拓見は微かに頬を朱に染めていた。
そんな彼に気付く事なく、直毅は拓見の額をこずく。
目を逸らした拓見の頬は、先ほどより朱に染めている。その中性的な容姿も相まって、その姿は酷く絵になっていた。
「なんだ、やっぱりお前らホガッ⁉︎」
「冗談は程々にしなよ、剣人。」
直毅のボディブローから回復した剣人は、拓見は脳天に割と硬い本を叩き込まれた。
「そう。もう直ぐ嫌でもブン屋が飛んで来るんだ、静かにしてな。」
直毅は溜息を吐くと同時に、教室に声が響いた。
「東條 直毅はいるかしら?」
「そら来た…?ブン屋じゃないなこの声。」
直毅が不審に思いながら扉の方を向くと、鳳凰院 麗華が彼を探していたのだ。
「俺なら此処に居るぜ。何か用か?お嬢さん。」
意外な来客に直毅が驚いていると、麗華は周囲の視線を気にすることなく彼のもとへ近づいて行く。
彼のもとに辿り着いた彼女は、決意を秘め深呼吸してから口を開いた。
「この学園の規則にある、決闘について知っているかしら?」
「決闘?あぁ、能力向上を目的にした模擬戦のことか。まぁ見たことはないが。」
直毅の言う通り、この学園には決闘という規則がある。
能力向上を目的とした模擬戦。と言えば聞こえは良いが、実際は私怨を孕んだ喧嘩や名家同士の地位争いに使われることの方が多い。
特に名家同士の決闘は、その家を継ぐ者同士の実力を図る場として機能してしまっている。
「単刀直入に言うわ、東條 直毅。私の、決闘のパートナーになって下さらない?」
「パートナー?一体どういう風の吹き回しだ?こんな一劣等生とタッグを組もうってか?キツいジョークだな。」
「いいえ。私は貴方がただの劣等生じゃないことを知ってるわ。この学園で1番良いパートナーは貴方なの。」
「過大評価もいいとこだ。あのご自慢の付き人を使えばいい。それが出来ないにしても、他に幾らでも俺より優秀なやつはいる。」
突き放そうとする直毅に麗華が反論しようとした時、また教室に声が響く。
「おや?こんな所に鳳凰院の御令嬢が居るとは思わなかったな。」
直毅が扉の方を見ると、いかにも優等生といった感の眼鏡をかけた細身で長身の男子が3人程取り巻きを従えていた。
その声を聞いた麗華は苦い顔をして男の方を向いた。
「そちらこそ、柊家の次期当主がお出でになるとは思いませんでしたわ。」
「いやいや、決闘の件で君に話があってね。もうパートナーは決まったのかな?」
(あれ?柊ってどっかで聞いたような?)
その言葉に何も言えなくなっていた麗華を他所に、直毅は頭を捻りながら側に居た裕也に小声で尋ねる。
(裕也。柊って苗字、最近聞かなかったか?)
(聞いたも何も、さっき直毅がフった子と同じだよ。)
(あぁ。まさか、兄貴か?)
頭を摩りながら剣人も2人の間に割って入った。
(そう、柊 誠。柊 奏の兄貴で学園でも1、2を争う優等生だぜ。)
(へぇ、そうか…)
直毅は何かを思いつくと、少し含み笑いを浮かべ、誠に向けあげた。
「あぁ、貴方からも言ってくれませんか。自分みたいな劣等生をパートナーにするのは止めろって。」
「ほぅ。まさか君が鳳凰院のパートナー候補だと?まったく、御令嬢は冗談が下手だ。」
直毅の言葉に誠は侮辱の意を込めた笑い声をあげる。
その笑いに、直毅は少し眉をひそめ皮肉たっぷりに答えた。
「えぇ、まったくもって冗談が下手ですよ。このお嬢さんは、俺みたいな劣等生と組んでもアンタらに勝てる自信があるようで。いや、これは俺の意見ですがね。」
直毅の挑発とも取れる言葉に誠の取り巻きが声をあげようとするも、 誠はそれを片手で制する。
「流石、優等生様は人が出来てる。」
「ふん。良いパートナーを見つけたものですね、鳳凰嬢?決闘の日を楽しみにしてますよ。」
直毅が薄ら笑いを浮かべながら言うと、誠は鼻で笑って教室を後にした。
「おい、いいのかよ直毅。あんな喧嘩売るような真似して。」
彼らが教室を後にした後、剣人を筆頭にクラスメートが彼のもとに集まる。
「良くはねぇなぁ。これで嫌でもお嬢さんのパートナーになるしかなくなっちまった。」
「それはつまり、了承してもらえたということでいいのかしら?」
「あぁ、いいだろう。だけど期待はするなよ、自信は無いからな。」
「でもどうしていきなりパートナーになるのを了承したんだ?」
裕也の疑問に、直毅は身体を伸ばしながら答える。
「別段理由があった訳じゃないさ。ただ、皆んなが馬鹿にされたのが気に食わなかっただけかもしれないな。」
彼の言葉に裕也と茜は呆れ顏を、他のクラスメートは思い思いの顏をしてみせる。
「しかし、ただの決闘じゃあつまらないな…」
直毅は暫し思案すると、廊下に出て声を響かせた。
「おーいブン屋!特ダネがあるぜ!」
その声が響いてからきっかり2秒後、新聞部の部長である吉永 文音が飛翔魔術を使い、黒髪のツインテールをなびかせ文字通り飛んで来た。
「特ダネ⁉︎東條 直毅完全試合達成ならずとか⁈」
「相変わらず騒々しいな…」
「そんなことはどうでもいいから特ダネ!」
「あぁ分かった分かった。お嬢さん、決闘は何時なんだ?」
「別に、双方が了承した日になるわ。」
直毅の後に着いて来た麗華が答えると、彼は少し考えてから文音に尋ねる。
「特ダネって言うほどでもないかもしれないが、学園1の劣等生の東條 直毅と、学園1、2を争う優等生の柊 誠が決闘するってのは、多少のネタになるか?」
「多少どころか魅力的なネタね。でもそれだけじゃね〜」
「そこで提案だ。その決闘を大々的にやりたいんだが、広報を頼みたい。お祭り騒ぎが好きな連中ばっかりいる学園だからな。賭けでも入場券でも好きにやっていい。それと、賭けをするなら俺が優等生を負かすのを大穴にしといてくれないか?」
直毅の提案に、クラスメート達はざわつき始め、文音も真剣な表情で悩む。
「もう1つ押しの一手は無い?」
「欲張りだな。なら、俺が負けたら完全試合達成ならずの記事を独占インタビュー付きで書かせてやるよ。これでどうだ?」
その言葉に皆驚いた表情を浮かべた。いや、裕也と茜、麗華以外は驚いていた。
「乗ったわその話。1日あればその決闘を学園全員が知ってるようにして、お祭り騒ぎにしてあげる。」
「よし。決闘は明後日の放課後だ。それでいいよな?麗華。」
急に名前で呼ばれた麗華は慌てて答える。
「え、えぇ。それでいいわよ、東條 直毅。」
「おいおい、パートナーだろ?そんな堅苦しい呼び方は無しだ。直毅でいい。」
「そ、それなら。よろしく、直毅。」
「あぁ。よろしくな、麗華。」
直毅が手を差し出すと、麗華は戸惑いながらも握手を交わす。
こうして、学園1の劣等生と、鳳凰院の令嬢による奇妙なタッグチームが結成された。
如何でしょうか?
次回はまだ戦闘には入らないと思います。
それではまた。