「さて、まずは敵を知るところから始めるか。」
凛のものとは違いキチンと整理された麗華の工房の中、直毅は年代物の椅子に座り手を叩く。
放課後、直毅は作戦会議の為鳳凰院家の屋敷に訪れていたのだ。
「相手の柊ってのは、一体どういう奴なんだ?」
「魔術師として、という意味でかしら?なら欠点の付け所のない優等生よ。弱点という弱点は思い当たらないわ。」
直毅の問いに、麗華は深々と溜息を吐いて答える。
「じゃあ、1対1で麗華がアイツとやった時、どの位やれる?」
「五分五分、と言いたいとこだけれど、正直言ってこっちが不利ね。」
「そうか…なら次に、アイツがパートナーにする奴の目星はついてるのか?」
「えぇ。サポート専門で柊 誠の妹の柊 奏か、単独行動型の黒坂 信のどちらかだと思うわ。」
直毅は暫し思案してから答えた。
「パートナーは妹の方だな。」
「どうして分かるの?」
「奴が俺の思う通りのプライドが高い男なら、1人で俺達2人を相手にする筈だ。自分の優位性を見せつけたがるからな。それに…」
直毅は1度言葉を切ると、不敵な笑みを浮かべた。
「奴は必ず、俺1人を狙ってくる。目の仇にしてな。」
訳が分からないといった表情の麗華を見ると、直毅は前屈みになって答える。
「察する限り、相手方もコッチの事を調べて上げてから戦う。つまり俺が魔術が使えない事も知る筈。なら何の苦労も無く捻り潰せると考えるか、何か裏があると考えるかの2つに1つだ。冷静かつ傲慢さが無いなら後者の考えに行き着くだろうが、頭に血がのぼっている状態なら前者の考えになるさ。おそらく今の奴は前者の状態だな。」
「一体何をしたのよ貴方…」
「別に、直接奴に関係する事じゃあない。それにあくまで俺の予測だからな、冷静さを失わない可能性だってある。でもそういう所も加味して俺を選んだんだろ?」
「そう、ジョーカーとしてね。」
「ジョーカー?ジョーカーは相手、俺はスペードの3さ。何者にも勝てない弱者が、何者にも勝てる強者に唯一勝てるってのが、世の常さ。」
「何にしても、貴方が私にとっての切り札よ」
「随分な期待だな。まぁ切り札らしく何とかしてみせるさ。けど俺も麗華を当てにしてるからな。」
「お互い様ね。期待してるわよ、直毅。」
「あぁ。それじゃあ、細かい作戦はまた明日話そう。じゃあな。」
部屋を後にしようと、椅子から立ち上がり扉の前まで向かった直毅は振り返って麗華に尋ねた。
「…所で、決闘で銃は使えるのか?」
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自宅に帰ってきた直毅は夕食もそこそこにベランダへ向かっていた。
深く思考に耽る際は必ず外でする癖がある彼にとって、景色の良いこの場所はうってつけである。
白い椅子に深く腰掛けると、直毅は腕を組んで考え始めた。
(チャンスは2回ある筈、問題はその2回でどうやって確実に倒すかだ)
「…毅、直毅?どうしたの?」
「ん?あぁユキか、考え事をしてたんだよ。」
辺りが暗くなっていることに気がつかないほど考えていた直毅の意識は、ユキの言葉で呼び戻された。
彼女はもう風呂に入ったらしく、袖を余らせた薄いピンク色の寝間着になっている。
「もう寝るか?ユキ。」
「少しの間、直毅と風に当たっていたい。」
「そうか、確かに風が気持ちいいからな。」
風が優しく髪を撫で、月明りだけが2人を照らす。
ユキは直毅の膝の上に座り身体を預けた。
時間にすれば5分程、直毅はユキの髪を優しく撫で、彼女は嬉しいそうに目を細める。
「さて、部屋に戻って寝るか。」
直毅がそう言うと、ユキは首に手を回して無言のまま彼の目を見つめた。
その表情から意思をくみ取った直毅はユキを抱き抱えて自室に向かう。
ベッドの前までたどり着くと、ユキが先にベッドに入り直毅はベッドの縁に背を向け床に座りこもうとするが、彼女に服の裾を捕まれまた見つめられる。
軽く溜息を吐いた彼は、ベッドに入り左腕を彼女の腕枕にしながら肩を抱き頭を撫でながら尋ねた。
「俺といるとそんなに落ち着くのか?」
「直毅と一緒にいると暖かいの。心も、体も。」
「そうか、なら良いんだ。」
直毅の言葉にユキは不思議そうに彼を見るも、彼は優しく微笑んで頭を撫で続ける。
その心地良さに浸りながら、ユキはゆっくりと眠りにつく。寝息を立てるユキを見ながら、直毅は静かに闘志を燃やしていた。
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翌日、昼休み。
直毅と麗華はJ組で作戦を練っていた。
「…基本的な戦術はこれでいいわね。それと昨日の質問だけれど、著しく対戦相手の生命を脅かさない限り、魔術を使用した武器の行使は許可されてるそうよ。」
「殆どルールは無いってことか。闘い易くなったな。」
溜息を吐き、昼食のスティックパンを食べる直毅に、麗華は不安そうに尋ねた。
「正直なところ、勝算はあるの?」
「勝算?俺からしてみたら相手は化け物だぜ?頭脳的かつ野生的に立ち回らなきゃならないんだ、運が良くて2割ってとこかな。」
彼が身体を伸ばしながら答えると、剣人が息を切らしながら教室に入り直毅を探し声を上げる。
「直毅!柊 誠が取り巻き引き連れて血相変えてここに向かってるってよ!」
「おぉ、予想通りだ。ありがとよ、剣人。」
緊張感のかけらもない直毅の様子に剣人は呆れ返った。
パンを食べ終え、首を鳴らした彼は席を立って扉に向かう。
直毅と共に出ようとするクラスメートの男子達に、彼は立ち止まることなく答える。
「俺たちも出るか?」
「止めとけ、お前らじゃ怪我するだけだ。」
廊下に出た直毅はポケットに両手を入れ、既に3つ前のクラスまで来ていた誠を待つ。
「これはこれは優等生様。こんな所に何のご様子ですか?まさか、妹君の件で?」
「…分かっているのなら話が早い。妹の件、謝罪して撤回して貰おうか、東條 直毅。」
怒りをにじませた声で言う誠を、直毅は鼻で笑って答える。
「どうして謝って告白を受け入れなきゃならないんです?こっちはそちらの身分を思って身を引いたのに。それに…」
1度言葉を切ると、彼は邪悪な笑みを浮かべて続けた。
「傷1つない生娘のまま返してやったんだ、感謝して欲しい位だがね。」
直毅が言葉を言い終えると同時に、誠は拳を握りしめ彼の頬に叩きつけた。
魔術で強化された拳で直毅は2メートル程吹き飛び突き当たりの壁に叩きつけられ、誠は倒れた彼を睨みつける。
「明日の決闘、覚悟しておけ。」
そう吐き捨てると、誠は取り巻きと共に立ち去っていった。
「大丈夫か直毅!」
「どうってことねぇよ、わざと殴られただけさ。」
裕也を始め、茜、剣人、拓見やクラスメートがかけつけると、直毅は切れた唇を拭って立ち上がる。
何ともないとアピールする直毅に一同は安堵する中、麗華だけは驚愕していた。
(彼の言った通り、柊は冷静さを欠いていた…)
驚きと共に、彼女の中には希望が生まれていた。
劣等生と優等生、勝者と敗者を決める負けられない決闘は、もうすぐ始まろうとしていた。
如何でしょうか?
次回は戦闘回です。新生主人公君の本領発揮。
それではまた。