やっぱり闘ってる時が1番主人公してる。
放課後、直毅と麗華は学園の魔術練習場に訪れていた。全面白い壁で囲まれた空間は魔力で満たされ、術者の負担を軽減するようになっている。
「昼休みにも言ったけれど、貴方への強化魔術の効果時間は3分間よ。」
「了解。じゃあやってみるか。」
直毅が準備運動をしながら答えると、麗華は目を閉じて右手を彼に向けた。
「Code."Split Price" (術式、強化) 」
彼女が力強く呟くと、直毅の足元に青い魔法陣が現れ身体をスキャンするかの様に上昇していく。やがて魔法陣が頭まで透過すると、彼の身体を淡い光が包み込み溶けていった。
「へぇ、こんな感じなのか。」
直毅は自身の身体をまじまじと見ると、2、3度軽く跳ぶと、壁に向かって走り始める。2メートル程前で跳躍し水泳のターンの様に張り付いて壁を蹴った。
「こいつは、中々キツイな。」
麗華の側まで跳躍してきた直毅は着地するも、勢いを殺しきれず滑りながら止まった。
「身体能力は上がっても、身体への負担は変わらないわ。だから連続して強化は出来ないわよ。」
「…了解だ。」
麗華の言葉に頷きながら、直毅は深く沈み込むと今度は高く跳躍し天井に張り付き地面に向け天井を蹴る。着地の衝撃に少し顔を歪めるも、直毅は麗華に笑みを浮かべた。
「これなら、何とか勝てそうだ。」
「そう?なら期待しておくわよ、直毅。」
「過度な期待はするなよ?じゃあまた明日な。」
麗華の言葉に手を振って答え、直毅は1人部屋を後にした。
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「魔法石を?いいけど何に使うのよ直毅。」
工房で煙草を吸いながら魔術書を読んでいた凛は、自宅に帰って来た直毅に尋ねた。
「明日、学園で魔術師同士の決闘に俺も参加することになったんですよ。」
「へぇ〜。自分の力を試したくなった?」
分厚い本を閉じ咥え煙草のまま聞く彼女に、直毅は首を横に振って答える。
「出来ることなら、魔術に頼らないで勝ちたい。だけどくだらない意地で負けるわけにもいかないんですよ。」
「なるほどね。何本あればいいの?」
「そうですね…10本あれば十分です。」
直毅の言葉を聞いた凛は道具棚から魔法石を取り出し彼に手渡した。
「あんまり痛めつけちゃ駄目よ?雄治と同じで怒ると手がつけられなくなるからね、直毅は。」
「肝に銘じておきますよ。ありがとうございます、風瀬さん。」
凛の言葉に直毅は苦笑しながら工房を後にし、自分の部屋に戻る。ベッドに腰掛けていたユキは彼の姿を見るなり駆け寄った。
「先にベッドに入っててくれないか?ユキ。少しやることがあるから。」
直毅の言葉にユキは素直に頷きベッドに入り、直毅はベッドの下から銃のしまってある箱を取り出し机の上に置いて椅子に座る。
銃を手に取りシリンダーを回し、箱に入っていた弾丸を1発ずつ、ゆっくりと感覚を確かめる様に装填していく。
「…直毅…?」
ベッドに入っていたユキは、直毅の別人の様な横顔に少し不安を抱いて彼の名を呼ぶ。
「ん?どうした、ユキ。」
彼がユキの方を向いて返事をすると、彼女は少し安堵しながらも、まだ不安そうに尋ねた。
「また戦うの?」
「あぁ、心配しなくていい。大丈夫だって。」
「でも…」
「闘って欲しくないんだろう?裕也や茜…俺の幼馴染みもよく言ってた。」
懐かしむように呟く直毅の横顔には、ほんの少しの悲しみが見えた。
「正直に言えば闘いたくない。でもそうしなきゃ、俺は俺じゃなくなっていくんだ…脆いんだよ、俺は。脆さを隠しているように見せかけてるだけで、実際それをさらけ出してるんだからな。」
弾丸を込め終え銃をしまった直毅は箱を元の場所に戻し、ベッドの縁に座る。するとユキはその小さな身体で背中から彼を抱きしめて呟く。
「安心して。私が直毅を支えるから。」
「そうか…ありがとな、ユキ。」
彼女の手に自分の手を重ねながら、静かに直毅は答えた。
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翌日、決闘の日。
文音や新聞部、J組のクラスメートらの尽力と、お祭り騒ぎに敏感な学園生徒らの風潮も相まって、学園内は決闘の話で持ちきりとなっていた。
「しっかしよく1日で広められたな。正直半信半疑だったんだが。」
「特ダネだからね〜。徹夜で宣伝記事を仕上げたわよ。」
直毅の言葉に文音は机の上にぐんにゃりとへばり付きながらもVサインをして答える。
「そういえば直毅の提案した賭けの件だけど、要望通り直毅が柊 誠を倒すのが自然と大穴になりそうね。10:1位で。」
「そいつは願ったりかなったりだ。まぁ俺に賭けるのは大博打だからな。賭ける奴はいるのかね?」
「私は直毅に賭けるわよ?特ダネ的には負けてもらいたいんだけど、個人的には勝って欲しいから。」
文音の言葉に直毅が驚いていると、彼の周りに裕也や茜、剣人、拓見らクラスメートが集まってくる。
「俺たちは当然直毅に賭けるぜ。なぁ?皆んな。」
剣人が声を上げると、クラスメート達は皆賛同の声で返す。
「大損しても知らねぇぞお前ら。」
彼らの様子に呆れながらも、直毅は笑みを浮かべて答えた。
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「まさかこんなに人が集まるとはな…」
更衣室に置かれた液晶画面に映る集まった人の数に、直毅は驚愕していた。
数千人規模の学生のいる学園の為、体育館も巨大なドームの様になっており、観客席も完備され大規模なスポーツの試合にも使用されることもある体育館だが、1000席ある2階の観客席は満員、立ち見する生徒が大勢おり、決闘場の1階部分にも人がいる程になっていたのだ。
「全く…何でこんなに人を呼んだのよ…」
直毅のパートナーである麗華が呆れかえって呟くと、直毅は準備運動をしながら答える。
「大勢人が集まれば相手方も不用意に動けなくなると思ってな。それに麗華の宣伝にもなるだろ?」
「そうだったの…と素直に納得はしずらいのだけれど。」
「まぁ、何にしても勝たなきゃな。相手方のターゲットは俺に集中するだろうから援護と妨害は頼んだぜ、麗華。」
「此方も攻撃は任せたわよ、直毅。」
お互いの拳を軽く叩き合わせ意思を固めた2人に、扉の外から裕也の声がかかる。
「そろそろ出番だぜ直毅。」
「あぁ。それじゃあ、行くか!」
直毅は気合を込めて頬を1度叩き、2人は更衣室を後に、薄暗く長い静かな廊下を進んで行く。
廊下の薄暗さと会場の明るさに目を細め、光に目が慣れていくのと同時に、歓声が彼らの耳に届き始めた。
決闘場には先に柊 誠と奏が居り、誠は直毅を睨みつけ、奏は1度直毅を見て俯く。
四方に防護魔術を展開させる柱が置かれ、2人がその内側まで来ると、透明な壁が決闘場を囲んだ。
「よく逃げずに来たものだ、東條 直毅。魔術が使えない貴様が勝てる可能性など、万に1つもありはしないというのにな。」
「売った喧嘩を買われたんだ、逃げちゃ格好がつかないんでね。それに、殴り方もまともに知らないあんたが勝てる可能性も、万に1つもないと思うぜ?」
歓声と怒号の渦巻く会場であったが、お互いの声はよく通り、観客達は今か今かと開始の合図を待ち望んでいる。
やがて決闘の開始を告げるブザーがけたたましく鳴り響くと同時に、直毅と誠はパートナーの名を叫び、その声に呼応するように麗華と奏は術式を唱えた。
「麗華!」
「Code."Split Price"! 」
「奏!」
「Code."Whistle"!(術式、高速化)」
対象の肉体能力を向上させる魔術と、対象の詠唱時間を短縮させる魔術。効果が発揮されるまでの時間はほぼ同時、だが決定的に違っていたのは、誠が先に攻撃出来る点であった。
誠は右手を突き出し、直毅に向け魔弾を放ったのだ。
攻撃型の魔術の中では単純な魔弾だが、単純であるが故に詠唱を必要としない。その使い勝手の良さに加え、術者の実力次第で威力が変わるのだ。
通常の魔術師同時の戦闘においては場を繋ぐ程度のものだが、直毅にとっては十分な脅威である。
サッカーボール程の魔弾が3発直毅に向けて放たれ、彼は強化魔術が完了すると間一髪身体を掠めながらも魔弾を避けた。
態勢を整え誠の方を向いた直毅は地面スレスレまで身体を低くし、目にも止まらぬ速さで走り距離を詰め始め、彼に続き麗華は彼の左後方から孤を描いて追従して行く。
誠は両手を上下左右指揮者の様に振り、それに合わせ、火、水、風、地の4大元素の柱が四方八方から現れ直毅の接近を阻み、柱同士の隙間をうめる様に魔弾を放つ。
密度の濃く隙の無い、観客達や麗華、誠達にはそう思わせる攻撃。だが直毅は僅かに空いた隙間を、針の穴を通すが如く抜けていく。
神業の様な動きを見せる中、直毅は背後から追いかけて来る麗華の動きに感心していた。
彼女は誠のサポートに徹する奏と直毅の1直線上、死角になるように誠に向け魔弾を放ちながら彼と共に距離を詰めていく。
(直毅が接近戦に勝機を見出すなら、私も近接戦を挑むしかない!)
彼女の放つ魔弾は皆、奏の障壁魔術により阻まれ攻撃は通らない。だが彼女は魔弾を放ち続けると同時に詠唱を始めていた。
「Burn was Seed, Seed ride the Wind and It send all things. So was born everything, All was burn of The end."I am the Fire" (炎は生命の原種。種は風に乗りて、風は命の息吹を全てに届ける。全ての命がそう生まれるなら、全ては炎に包まれ消える。"我は火種" 全てを燃やし尽くす者。) 」
麗華の右腕が炎に包まれ刺青の様に真紅の線が何本も刻み込まれると、彼女は飛び上がり奏に向け右手を突き出して叫ぶ。
「燃え尽きなさい!」
言葉と共に彼女の掌から紅い魔法陣が展開され巨大な火球が奏に向けて放たれた。
高速で放たれた火球は炎風を巻き起こしながら奏に向かって行く。誠のサポートに徹していた彼女は、突如死角から現れた麗華の攻撃に反応が遅れたのに加えて誠に障壁魔術を展開していた為に、自らに障壁魔術を展開することが出来ず火球は爆炎を上げて着弾した。
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少し時間は巻き戻る。
麗華が詠唱を唱え始めたのとほぼ同じ頃、直毅は腰のベルトに挟まれた魔法石に手をかけていた。
(ここでコイツを使うかどうか…)
誠の攻撃を避けながらその事を考え続ける直毅。その洗練された動きは、最初から誠の攻撃を知っているかの様に映る。観客達に限らずパートナーの麗華、そして誠と奏にもそう見えた。
(何故僕の攻撃が当たらない⁉︎)
始めは手加減をしていた誠にも徐々に余裕が無くなっていき、焦りを感じ始めていた。
(波動魔術に切り替えれば奴も避けようが無い。しかし…)
広範囲に魔力をエネルギーに変えぶつける波動魔術なら直毅も避けるのは困難であり、誠の考える事は正しい。しかし彼はそれを実行に移せないでいた。
(波動魔術に切り替えるには攻撃を一旦止める必要がある。だが気になるのは鳳凰院…攻撃を止めた一瞬に仕掛けてくる気か。)
彼は牽制の魔弾を放ちながら接近してくる麗華を警戒し攻撃を切り替えるのを躊躇っていた。
それと同時に、奏にも攻撃を指示する事も躊躇っていた。その選択が最良と分かっていながらも、プライドがそれを拒否していたのだ。
様々な思惑が交錯する中、スペードの3とジョーカーを誰1人として当てる事は出来なかった。
スペードの3とジョーカーを、同じ者が持っているとは、誰も。
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彼…東條 直毅さんへの告白が失敗した2日前の夜、私は失恋の悲しさに涙を流し続けた。
次の日の朝には、兄の誠は私が失恋した事を風の噂で聞いたのだろう、柄にもなく苛立っていた。
その日の夜、兄はふさぎ込む私の部屋に訪れてこう告げたのだ。
「明日の決闘、僕のパートナーは奏にした。相手は鳳凰院の令嬢と、東條 直毅だ。」
その言葉を聞いた瞬間、私は兄を恨んだ。
今まで兄と比べられて多少の劣等感を感じたことはあった。しかし兄は普通の兄妹の様に私に接してきた。だから恨む事などなかったのだ。
だが、今度は違った。兄は私の失恋を大義名分に彼に怒りをぶつける気だ。兄なりの思いやりだったのかもしれない。その傲慢さの混じる思いやりの気持ちに、私は初めて兄を恨んだ。
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麗華の放った火球は、爆炎を巻き起こしながら奏に直撃した、かに見えた。
爆炎の中から水蒸気を上げ、全身が透き通るほどに青い氷の精霊が現れ逆に無防備になった麗華に向けて突進して行く。
突然現れた精霊に反応が遅れ、麗華は目を背けてしまう。空中にいた彼女に、とっさに攻撃を避けるほどの身体能力は無い。
精霊は容赦なく鋭い蹴りを放ち、鈍い音が響きわたる。麗華は身を震わせたが、訪れるはずの衝撃はない。
彼女が恐る恐る開いた目には、くの字に身体を折り曲げて精霊の蹴りを腹部に喰らう直毅の姿が映っていた。
「ぐっ!」
爆炎の後に現れた精霊の姿を見た直毅は、麗華をかばうように精霊の正面へ飛び上がり身体を盾にしたのだ。
蹴りを喰らった直毅は地面に向け吹き飛ばされるも、なんとか態勢を立て直し滑りながら着地し腹部を押さえる。
(肋骨が何本が逝ったな…)
「直毅!」
麗華は急いで彼の元に駆けつけると、目眩ましの閃光と煙幕、障壁魔術で身を隠し守り彼の身を案じた。
「大丈夫だ、この位ッ…」
強がりの笑みを浮かべて呟いた直毅は口を押さえて咳き込む。その手には血が張り付いていた。
「痩せ我慢は止めて!血が出てるじゃない!」
「俺の身体なんてどうでもいい…そんな事より、頼みがある。」
動揺し取り乱す麗華を制し、直毅は痛みを堪えながら呟く。
「もう1度、強化魔術を使ってくれ。」
「馬鹿言わないで!ただでさえダメージを負ってる身体なのに、術の反動に耐えられないに決まってるわ!」
「だが奴に接近するにはそうするしかない。勝機があるとすれば、後1度だけなんだ…頼む、麗華。」
「でも…!」
躊躇う麗華を他所に、誠が乱雑に放った魔弾が煙幕をかき分け無数に打ち込まれ何発かは障壁に当たり、彼は2人の位置を予測し波動魔術の用意を始める。
「奴も態勢を立て直して一気に仕掛けてくる筈…そうなりゃ勝ち目はねぇ。やってくれ!」
直毅の力強い声と眼差しに麗華は静かに頷き、彼に向けて強化魔術を使う。
「よし、これで…麗華、後もう1つ頼みたい事があるんだ。」
腹部を押さえたまま立ち上がり、苦痛に顔を歪ませながら直毅は作戦を彼女に伝える。
その作戦を麗華は一蹴しようとしたが、彼を信じその作戦を受け入れる。
その作戦とは…
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誠が波動魔術の術式を唱え、2人がいると予測した方向に右手を突き出し煙幕が晴れるのを待つ。
やがて煙幕が晴れ直毅の姿が見えると、誠は笑みに憎悪を込めて術式を発動し、彼の周囲と掌に白い魔法陣が現れ、魔力がエネルギー波となって直毅に向かって放たれた。
巨大な壁の様な白いエネルギー波が直毅に向かって行くと、直毅は背後にいる麗華の名を叫び、その声に彼女は真紅の線が刻み込まれた右腕を彼の背に向けて呟く。
「麗華!」 「…"I am the Fire" …!」
火球が直毅に向け放たれると、彼は麗華の魔術によって凍った両足で火球に張り付いたのだ。
相対速度的に高速で誠の放ったエネルギー波に向かって行く直毅。はたから見ればやけくそとも取れるその行動にもかかわらず、彼の表情に諦めは微塵も感じられない。
目の前まで壁の様な波動が近づいてきた所で、直毅は天井に向け火球を蹴った。
直毅は天井直前で態勢を変え足を天井に張り付けると、ベルトから魔法石を2本引き抜き誠に向け天井を蹴る。
火球とエネルギー波はぶつかり合い、力比べの様に押し合っていた。誠は直毅の姿を捉えながらも、波動魔術を中断することが出来ず奏の名を叫ぶ。
「奏!天井にいるアイツを迎撃しろ!」
直毅を傷つけてしまった後悔の念で、半ば放心状態となっていた奏はその声で反射的に精霊を差し向ける。
「くそったれ!」
直毅は向かってきた精霊に悪態を吐き、手にした魔法石を盾に変化させ精霊の蹴りを盾で受け止た。
観客達が歓声を上げる中、直毅をよく知る者達は驚愕していた。(ほんの数日前まで)魔術を使えば死ぬ身体の彼が魔術を使ったのだ、そうなるのも当然である。
そんな彼らの様子など知る由もない当の本人は蹴りの衝撃で砕けた盾を捨て精霊の足を掴むと、誠と反対方向に投げ飛ばしその反動で加速し、もう1本の魔法石を剣に変え誠に向け投げつけ、剣は誠の足元に刺さる。
魔法石を7本、右手に1本左手に6本器用に指の間に挟むと、彼は右手の魔法石をリボルバーに、左手の魔法石を銃弾に変え素早く装填し奏に当たらない様に威嚇射撃をする。
自分の身を守るために障壁魔術を展開してしまった奏は誠を支援出来ず、突き刺さった剣にたじろぎ波動魔術を解除してしまった誠は、自ら障壁魔術を展開し火球を防いだ。
爆炎が上がり直毅からも誠からもお互の姿が隠れる。直毅は最後の魔法石を引き抜き、誠は足元に刺さった剣を見て笑みを浮かべ剣を引き抜く。
最後の1本を盾に変えるつもりの直毅だったが、投げ飛ばした精霊が接近してくる気配を感じとり、もう1度悪態を吐き魔法石を銃弾に変え装填する。
「しつこいんだよテメェは!」
ほとんどノーモーションで振り返った彼は精霊に照準を合わせ銃爪を引き着弾を確認することなくまた誠の方を向く。
弾丸は精霊の脳天を撃ち抜き、精霊は氷の破片を骨と血の様に飛び散らせ動きを止めた。
爆炎が晴れ、お互いの姿を視認した2人。
「貴様の負けだ、東條 直毅!」
誠は直毅の身体の中心に向け剣を突き出し、勝利を確信する。だが直毅は顔色1つ変える事なく、左手を剣に向け突き出し掌に貫通させながらその軌道をずらすと、拳をきつく握りしめて答える。
「あぁ、彼女の勝ちだ!」
剣が貫通した左手が誠の右手を掴み、彼の魔術回路と繋がった直毅は右手に魔力を乗せ全力のストレートを彼の顔面に叩き込んだ。
吹き飛ばされた誠は防護壁に叩きつけられて崩れ落ち、着地する気力すら失った直毅も地面に叩きつけられ、両者ダブルノックダウンの形となり、観客から歓声と悲鳴、怒号が巻き起こった。
奏が麗華より先に、倒れたパートナーの元に駆けつけることが出来る距離であり、彼女が誠を回復させれば勝負はまだ分からない。
だが彼女が誠の元に辿り着くより早く、直毅は立ち上がって掌に突き刺さった剣を引き抜き、彼女の前に立ち塞がって剣先を突きつけた。
「降参してくれ。でなきゃ君も傷つけなきゃならない。」
直毅は肩で荒い息をしながら呟き、左手からは血が滴り落ちていく。
奏の目からは闘う意志は感じられない。むしろ彼女には初めから、闘う意志も覚悟も無かったと言っていい。
彼女が降参の意を伝えるため、頷こうとした瞬間、直毅の背後から放たれた魔弾が彼の右肩を掠め奏に直撃した。
観客から悲鳴が上がり、剣を落とした直毅が振り返ると、誠が壁に寄りかかりながら立ち上がり右腕を突き出していた。
「僕は…まだ、負けてない!」
直毅は吹き飛ばされた奏の元に向かい彼女の無事を確認すると、彼の元に辿り着いた麗華の名を静かに読んだ。
「麗華、この子を救護室まで連れて行ってくれないか?」
彼の声に怒りの感情を感じ取った彼女は、何も言えないままただ頷き救護の係りを呼びに一旦決闘場を離れ、直ぐに担架が運び込まれて、麗華と共に奏も決闘場を後にした。
彼女達が決闘場を離れ、姿が見えなくなるまで直毅は2人を見ていた。
そして2人が見えなくなると、彼は痛む左手など無視して拳を握り閉め、ナイフの様に鋭い目で誠の両目を射抜く。
その視線に恐怖し、誠が右手をまた突き出すと、直毅はまるで別人の様な低い声で呟いた。
「Go ahead,Make my day. (やれよ、楽しませてくれ。)」
その声は静まり返った会場にいる観客全てに響く。大半の観客はただ直毅の変わり様に驚くだけだったが、裕也と茜だけがその意味を知り彼を止めるため2階から決闘場へ急いで向かった。
誠がもう1度右手を突き出し魔弾を放とうとした瞬間、直毅は血の滴る左手を横一文字に振りかざし誠の目を血で潰す。
誠が目に入った血を拭う一瞬の間に、直毅は神速とも言える速さで距離を詰め彼の右手を左手で掴み誠の身体がくの字に曲がるほど強烈な右のボディーブローを放つ。
横隔膜がずれ呼吸出来なくなった誠は、掠れた息を吐く事しか出来なかった。
まるでサンドバッグの様に誠を殴り続ける直毅の姿に、観客達は初め歓声を上げていたが、彼のただならぬ形相に悲鳴も混じり始め、目を背ける者も現れる。
「もう…止めてくれ…頼む…」
苦痛に顔を歪ませた誠が掠れ掠れ悲痛な声を上げると、直毅の手が止まり、それと同時に観客も静まり返る。
「降参だ…僕の…負けだ。」
敗北の宣言に歓喜の声を上げようとした観客達だったが、その声が響くことはなく、変わりに直毅の低い声だけが響いた。
「You takin' to me…? You takin' to me ? YOU TAKIN' TO ME !? (俺に言ってるのか?なぁ、俺に言ってるのか? 俺に言ってるのかって聞いてんだよ‼︎)」
怒りを露わにした直毅の表情と声に震え、何も言えなくなった誠のことなど知らず、直毅は拳を握り締め彼を殴ろうとする。
裕也と茜が直毅を制止させる声より速く別の声が響き渡り、直毅は寸前で拳を止めた。
「もう止めて!直毅!」
救護室まで奏に連れ添った麗華が、モニターに映る直毅の様子を見て駆けつけたのだ。
息を切らしながら叫んだ麗華の姿を見た直毅の表情は未だ別人のようで、麗華は一瞬息が詰まる様な恐怖を覚えたが、ゆっくりと直毅に近づいていきながら言葉を続ける。
「もう決闘は終わったわ。私達が勝ったのよ。だからもう止めて。」
「終わった…?勝ったのか?麗華、俺たちは。」
「えぇ、終わったわ。終わったのよ。」
麗華の言葉と共に、直毅の表情は戻っていき、麗華が彼の元に辿り着く頃には完全に戻りきり、ボロボロになった誠を離した。
ようやく決闘の終わりを告げるブザーが鳴ると、歓声と共に、直毅の元にクラスメート達が駆けつけて彼を祝福する。
手荒い祝福に顔を歪めながらも、直毅は笑みを浮かべた。
「さぁ、祝杯を挙げに行こう。」
直毅の言葉にクラスメート達が答えると、彼らは会場を後にした。
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「みんなで先に祝杯を挙げててくれ。俺は一旦救護室に行ってくる、手に穴が開いちまったからな」
1度クラスメート達から離れた直毅は、麗華と共に救護室に向かう。
左手の怪我よりも、強化魔術の反動と氷の精霊の一撃のダメージをクラスメート達には隠した彼だったが、救護室に入った途端崩れ落ちた。
「大丈夫⁉︎直毅⁉︎」
「大丈夫。とは言えないな…。」
彼を抱きとめた麗華は朦朧としている直毅に呼びかけ、彼は必死に意識を保って答えるものの、堪らず診察台に倒れこんだ。
「ボールに水を貯めてくれ…消毒液とガーゼ…後テープと包帯を取ってくれないか…あれば止血剤も」
虚ろな目で麗華を見ながら指示する直毅に、麗華は薬ビンが散らかるのも構わず道具を揃えていく。水の貯まったボールに左手を入れ血を洗い流し、消毒液の入ったビンの蓋を乱暴に開け、何のためらいもなく傷口にかけてまんべんなく消毒していく。痛みで意識を飛ばしかけ、また痛みで意識を保つ直毅の姿に、麗華は恐怖を覚えた。
「これでいいか…」
運良くあった止血剤の粉をかけ、ガーゼを当て包帯をキツく巻いていきテープで止める。
左手の応急処置を終えた直毅は再び横になり、大きく息を吐いた。
「ようやくひと息つける…良かったよ、何とか勝てて、正直ギリギリの勝負だった。」
「確かに、無茶苦茶な作戦だったわね。でも勝てるとは確信してたわよ?」
麗華が得意げに答えると、彼は痛みで苦しみながらも笑ってみせた。
「そういえば、どうして貴方魔術が使えたの?」
「あぁ、あれは…」
彼女が思い出したように尋ねると、直毅は暫し思考して都合のいい答えを作る。
「知り合いの魔法使いに使えるようにしてもらったのさ。手に触れたモノの魔力を使わなきゃいけないっていう条件付きでな。」
「魔法使いと知り合いって!一体誰と⁉︎」
直毅の言葉に驚いた麗華の様子に、逆に驚いた彼は落ち着かせるように答える。
「風瀬 凛さんだよ。そんなに有名人なのか?魔法使いってのは。」
「Ms.Windと知り合いだったなんて…」
麗華の驚き様に、直毅は何気なく、火に油を注ぐ言葉を続けた。
「Ms.Windなんてあだ名があるのか、身体を診てもらうついでに聞いてみるかな。」
「診てもらうって、まさか日本に来ているの⁉︎」
「え?今は一緒の家に住んでるけど…」
その言葉を聞いた瞬間、麗華は優雅さとはかけ離れた必死な顔で直毅に迫った。
「会わせて頂戴!Ms.Windに!」
「あ、あぁ。解ったから少し落ち着け。」
彼らのやりとりに気が付いたのか、眠っていた奏がベッドから出て来ると、直毅の姿を見てすまなさそうな顔をして1度頭を下げた。
「すみませんでした。直毅さん、麗華さん。兄の私怨に巻き込んでしまって。」
「謝るのは俺の方だ…もう少しで君の兄さんを台無しにする所だったんだからな…だがどうしても許せなかったんだ、プライドで自分の妹を傷つけた奴がな。」
直毅は必死に身体を起して彼女に謝罪し、まるで自分のことを話す様に呟く姿は、闘いの虚しさを一身に背負っていた。
静けさが部屋を覆い始めた頃、裕也と茜が救護室を訪れその静けさを破った。
「直毅、傷の手当は終わったのか?主役が来なきゃ祝杯が挙げられないって皆んながうるさいんだ。」
「解った。直ぐ行くから先に行って準備しててくれ。」
「早くしてよね直毅。皆んな我慢弱いから。」
苦痛を必死に隠し直毅が裕也と茜に答えると、茜は麗華の方を向いて一礼する。
「ありがとう麗華さん。直毅を止めてくれて。」
「そんな、お礼されることはしていないわ、茜さん。」
茜の生真面目な言葉に、麗華は手を振って答える。その時、茜が麗華を何かを思いながら見ていたことに彼女は気付かず、裕也と茜は部屋を後にした。
「さて、俺たちも行くか…奏さん。兄さんのことを責めないでやってくれ。」
麗華の肩を借りて立ち上がった直毅は、俯く奏の方を向き力無く呟き、奏が静かに頷くのを見ると、直毅と麗華は救護室を後にする。
虚しさだけが残った闘いは、ここでようやく終わりを告げた。
如何でしょうか?
気がついたら10000字超えてました。
次回はクールダウン、主人公君にはひと時の安らぎを。
それではまた。